説明

低誘電材料

【課題】空孔導入を必要としない層間絶縁膜材料として優れた低誘電材料を提供する。
【解決手段】下記式(1)又は式(2)で表される構造を有するポリインダン誘導体からなる低誘電材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電材料に関する。より詳細には、ポリインダン誘導体からなり、電気・電子分野において、半導体装置の層間絶縁膜材料等に用いられる低誘電材料に関する。
【背景技術】
【0002】
低誘電材料は、電気・電子部品における材料として、帯電や抵抗値上昇等の問題点を解消するために広く用いられている。低誘電材料は、部材の誘電率の低下を目的として使用されるほか、発熱を伴う部分に使用したり、薄膜として使用することが多い。このため、低誘電材料には、耐熱性向上、強度向上等も同時に求められている。
【0003】
特に低誘電材料は、半導体の層間絶縁膜材料として有用であり、低誘電率、高耐熱性、高強度、経済性を具備した材料の開発が活発に行われている。
低誘電材料の主な用途である半導体の層間絶縁膜材料としては、現在シロキサン系化合物が中心に用いられている。シロキサン系化合物は、主にケイ素、酸素から構成されている。ところが、分子の双極子モーメントが大きいほど誘電率は高くなるため、非共有電子対を多く有するシロキサン系化合物等は不利である。しかし、今までは低誘電材料の誘電率kの要求値が3〜4程度と比較的高くてもよかったこと、また、強度やシリコンウェハーに対する密着性のバランスの点から、シロキサン系化合物が用いられていた。
【0004】
近年、半導体の高性能化要求から半導体回路幅の微細化が求められており、誘電率をさらに低くすることが必要になってきた。その際には、半導体チップ全体の強度や物理的ストレス等による絶縁破壊の問題も深刻になるため、薄膜としての強度も維持する必要がある。
一方、低誘電率化の観点から、シロキサン系化合物は無機シロキサン系化合物から有機シロキサン系化合物に移行し、さらにコントロールされたナノメートルレベルの空孔の導入へと技術が進展してきた。しかし、さらなる低誘電率化に対応するために空孔の導入量を増やすと、材料強度の低下を招くため、強度低下を伴わず誘電率を低下させるには限界があった。
【0005】
そこで、有機系ポリマー等の新規材料が提案されているが、絶縁性、低誘電率と高強度に加えて、特に、半導体製造時にかかる熱負荷に耐える高耐熱性を具備する材料はなかった。
また、特許文献1に例示されるボラジン−ケイ素系高分子のような有機/無機重合体が提案されている。しかしながら、低誘電率、高強度、高耐熱性を具備するが重合に必要なプラチナ触媒を除去する工程がないため、残留プラチナ原子により生じる絶縁破壊や低安定性の点で問題が残っていた。
【0006】
また、特許文献2には、ポリインダンビスフェノールについて開示されており、低い誘電率を特徴としている。しかし、誘電率kは開示していない。また、この文献には、従来のポリインダンポリマーは脆性であり、機械的特性が望ましくないと記載されている。
また、特許文献3では、低誘電体材料の1例としてポリインダンが例示されている。しかし、この文献における「低誘電体材料」は、二酸化ケイ素の誘電率k(k:約4.0)より低いk値を有する材料であると定義されているのみで、ポリインダン誘導体の具体的な構造やk値については何も開示していない。
【特許文献1】特開2002−359240号公報
【特許文献2】特表2002−504531号公報
【特許文献3】特表2002−510878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、空孔導入しなくとも低い誘電率を有し、層間絶縁膜材料として好適な低誘電材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の低誘電材料等が提供される。
1.下記式(1)又は式(2)で表される構造を有するポリインダン誘導体からなる低誘電材料。
【化2】

(式中、R〜R及びRは、それぞれ水素、置換あるいは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換あるいは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換あるいは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換あるいは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基を表す。
,R及びRは、それぞれ置換あるいは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換あるいは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換あるいは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換あるいは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基を表す。
〜R及びRは同一でも、それぞれ異なっていてよい。
kは0〜3であり、Rが複数ある場合、Rの位置はいずれでもよく、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
l及びmは、それぞれ0〜11の整数であり、l及びmが1〜10である場合、R及びRの位置はいずれでもよい。また、l及びmが2〜11である場合、R及びRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
nは、10〜10,000の整数である。)
2.前記式(1)又は式(2)のRが、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基であって、kが0.01〜3である1に記載の低誘電材料。
3.前記式(1)又は式(2)のRが、置換又は非置換のシクロヘキシル基、アダマンチル基又はビアダマンチル基である2に記載の低誘電材料。
4.上記1〜4のいずれかに記載の低誘電材料からなる半導体用層間絶縁膜材料。
5.上記1〜4のいずれかに記載の低誘電材料を有機溶媒に溶解させた塗料。
6.上記1〜4のいずれかに記載の低誘電材料からなる薄膜。
7.上記6に記載の薄膜を有する半導体装置。
8.上記6に記載の薄膜を有する電子回路装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、空孔導入をしなくとも層間絶縁膜材料として優れた低誘電材料が提供できる。
また、本発明の低誘電材料を用いることにより、ULSI等の半導体装置の性能を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の低誘電材料の1つは、下記式(1)で表される構造を有するポリインダン誘導体である。
【化3】

【0011】
式(1)において、R〜R及びRは、それぞれ水素、置換あるいは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換あるいは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換あるいは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換あるいは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基を表す。尚、Rは水素ではない。R〜R及びRは同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。
【0012】
〜R及びRが示す炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、ヘキシル基、n−ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラヘキサデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基が好ましい。また、R〜Rとしては、水素が好ましい。
尚、炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基に置換基が結合している場合には、置換基としては、フェニル基、トリフルオロメチル基、アダマンチル基が好ましい。
【0013】
〜R及びRが示す炭素数3〜20の分岐状脂肪族基として、イソプロピル基、イソブチル基、2−エチルヘキシル基が好ましい。
尚、炭素数3〜20の分岐状脂肪族基に置換基が結合している場合には、置換基としては、フェニル基、トリフルオロメチル基、アダマンチル基が好ましい。
【0014】
〜R及びRが示す炭素数5〜50の脂環式置換基としては、単環状、複環状又は多環状構造を有する脂環式置換基が挙げられ、具体的には、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、シクロテトラデシル基、ノルボニル基、アダマンチル基、ジアマンチル基が好ましい。
尚、炭素数5〜50の脂環式置換基に置換基が結合している場合には、置換基としては、メチル基、エチル基、n−ブチル基、フェニル基、アダマンチル基が好ましい。
【0015】
〜R及びRが示す炭素数6〜30の芳香族基として、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が好ましい。
尚、炭素数6〜30の芳香族基に置換基が結合している場合には、置換基としては、メチル基、エチル基、n−ブチル基、フェニル基、アダマンチル基が好ましい。
【0016】
〜R及びRが示すフッ素含有脂肪族基として、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基が好ましい。また、R〜R及びRはフッ素含有脂環式基であってもよく、この場合には、パーフルオロアダマンチル基が好ましい。
【0017】
〜R及びRが示すフッ素含有芳香族基として、ペンタフルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、ヘプタフルオロナフチル基、ノナフルオロアントラセニル基が好ましい。
【0018】
また、R〜R及びRは、上記の置換基を組み合わせて形成される置換基でもよい。具体例として、4−トリフルオロメチルフェニル基、3−メチルアダマンチル基、3−トリフルオロメチルアダマンチル基、3−フェニルアダマンチル基、ビアダマンチル基等が挙げられる。
【0019】
nは10〜10,000の整数であり、好ましくは10〜1000である。nが10未満では耐熱性、安定性が低くなる恐れがあり、nが10,000を越えると有機溶媒への溶解度が低下し薄膜等の所望の形態への成型が困難になる恐れがある。
【0020】
kは0〜3であり、Rが複数ある場合、Rの位置はいずれでもよくそれぞれ同一でも異なっていてもよい。ポリインダン誘導体の製造容易性の観点からはkは0が好ましいが、誘電率をより低下するためには、kは0.01〜3であることが好ましい。
尚、本発明のうちRを有する化合物では、置換基(R)によって一部乃至全部置換されたベンゼン環と、置換基(R)によって置換されていないベンゼン環が混在する場合があるため、置換数kが1未満の場合もある。即ち、繰り返し単位内ではなく、式(1)又は式(2)で表される化合物全体で、Rが1つ以上結合していればよい。
【0021】
ポリインダン誘導体の末端基としては、イソプロペニル基、4−イソプロペニルフェニル基、イソプロピル基、4−イソプロピルフェニル基、ヒドロキシイソプロピル基、4−(ヒドロキシイソプロピル)フェニル基、クロロイソプロピル基、4−(クロロイソプロピル)フェニル基等が挙げられる。
【0022】
上記式(1)のR〜R及びRは、水素(Rは除く)、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基又はn−ヘプチル基が特に好ましい。また、R〜R,Rが、n−ヘキシル基、n−デシル基、シクロヘキシル基、ノルボニル基、アダマンチル基、ペンタメチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基又はトリフルオロメチル基である化合物も好ましい。
好ましい式(1)のポリインダン誘導体について、その構造式を以下に示す。
【0023】
【化4】

【0024】
本発明の低誘電材料の他の形態として、下記式(2)で表される構造を有するポリインダン誘導体が挙げられる。
【化5】

【0025】
式(2)において、R〜R,R,k及びnは、式(1)のR〜R,R,k及びnと同じである。ただし、R及びRは水素ではない。末端基も同じである。
式(2)において、l及びmは、それぞれ0〜11の整数であり、l及びmが1〜10である場合、R及びRの位置はいずれでもよい。また、l及びmが2〜11である場合、R及びRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0026】
式(2)で表されるポリインダンの好ましい具体例として、k,l及びmが0である化合物が挙げられる。このような化合物は製造の容易さの点で利点がある。また、R〜R,Rが、n−ヘキシル基、n−デシル基、シクロヘキシル基、ノルボニル基、アダマンチル基、ペンタメチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基又はトリフルオロメチル基である化合物が挙げられる。
好ましい式(2)のポリインダン誘導体について、構造式を以下に示す。
【0027】
【化6】

【0028】
式(1)及び式(2)で表されるポリインダンのなかで、特に、Rとして置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基が結合しているものが好ましい。Rとして、脂環式置換基を導入することにより、特に誘電率の低い化合物が得られる。これは、主鎖構造に脂環式置換基が入る場合と比較して、ペンダントとして入る場合は、薄膜を構成する分子同士の分子間距離が相対的に遠くなり、分子間の空隙が確保できるため、誘電率の上昇につながる電子分極の密度が低下するため、誘電率が低下すると考えられる。また、全ての分子には電子分極が存在するが、脂環式置換基は電子分極が低いため、ペンダントとして導入する際に、誘電率の上昇に寄与し難いためと考えられる。
【0029】
本発明においては、Rである脂環式置換基はベンゼン環に直接結合していることが好ましい。アルキル基等を介して結合すると、介在基の部分で側鎖が曲がってしまうため、分子間距離を充分に離すことが困難となる。また、耐熱性の観点から、加熱時の回転による分子の運動を引き起こすので好ましくない場合がある。
【0030】
Rとしては、上述した置換基のうち、特に、置換又は非置換のシクロヘキシル基、アダマンチル基又は下記式で表されるビアダマンチル基が好ましい。
【0031】
【化7】

(式中、R11は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、ビアダマンチル基の任意の位置に0.1〜17個の範囲で結合している。)
【0032】
炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、へキシル基、オクチル基、デシル基等が好ましい。置換数は0.2〜10であることが好ましく、0.5〜6が特に好ましい。
【0033】
従来の低誘電化の方法である、材料にナノメートルレベルの空孔を導入する手法では、材料の強度を低下せずに誘電率を低下させるのには限界があるため、オングストロームレベルの空孔を導入する必要があった。即ち、原子レベルのサイズの空孔を導入し、分子間自由体積を増加する必要があった。
本発明では、空孔を導入しなくとも誘電率を低下でき、さらに、耐熱性向上、強度向上が可能となる。これは、誘電率を低下させるには、分子のπ電子及び水素原子を減少させることにより、分子の分極率を低下させることが有効であるが、本発明の低誘電材料はインダン構造を主鎖とする、基本骨格が脂環式構造及び芳香環構造のみから構築される高分子化合物であり、分子の分極率が低いためである。
【0034】
本発明の低誘電材料の誘電率kは2.7以下である。好ましくは2.6以下、より好ましくは2.5以下である。誘電率kの下限値は特定する必要はないが、現実的な値として1.5程度である。
誘電率kは、上記式(1)又は式(2)に示されるポリインダンの構造、特に、置換基R〜R及びRの種類、置換基Rの数及び位置により変化する。例えば、脂環式置換基、フッ素含有脂肪族基、フッ素含有芳香族置換基とすれば、比較的誘電率は低くなる。
尚、誘電率kは、水銀プローブ法により求めた値である。
【0035】
式(1)及び式(2)で表されるポリインダンは、例えば、Makromolecular Chemistry,193,3083−3096(1992)やMakromol.Chem.193,487−500(1992)を参照することにより製造できる。具体的に、対応するモノマー(ジイソプロペニルベンゼン誘導体等)から、酸触媒を用いたカチオン重合方法により製造する。この他、対応するモノマーから、ラジカル開始剤を用いたラジカル重合法により製造することが可能である。
【0036】
これらの製造方法に用いられる酸触媒としては、硫酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の一般的な強酸が好適に用いられる。ラジカル開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスメチルプロピオンアミジン等のフリーラジカルを好適に発生する化合物が好適に使用できる。
【0037】
尚、式(1)又は式(2)のRとして、上述した脂環式置換基を導入するには、Rのハロゲン化物(R−X)とRの結合していない出発化合物を、ルイス酸存在下のフリーデル・クラフト反応により反応させることにより得られる。
Rのハロゲン化物(R−X)としては、例えば、3−ブロモ−5,5’−ジブチル−1,1’−ビアダマンタンが好ましい。
ルイス酸は、公知のルイス酸性を有する化合物を用いることが可能である。
具体的には塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、フッ化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素、五フッ化リン、スカンジウムトリフラートの他、チタン、ジルコニウム等の金属のアルコキシド化合物等、公知の化合物が例示される。
好ましくは塩化アルミニウム、臭化アルミニウムである。これらを組み合わせて用いてもよい。
【0038】
ルイス酸の添加量は、使用するハロゲン化脂環式化合物に対して、好ましくは、0.001当量〜10当量である。好ましくは0.01当量〜1当量である。
【0039】
好ましいルイス酸の種類及び添加量は、基体の芳香族化合物とハロゲン化脂環式化合物の組合せや反応条件により異なるが、その反応性、経済性の観点から、塩化アルミニウム及び/又は臭化アルミニウムを0.01当量〜1当量用いる。
【0040】
使用する反応基質や反応条件により、溶媒を用いても用いなくても反応は実施できる。一般的には、溶媒により反応基質及び触媒の濃度が低下することにより反応速度が低下したり、溶媒自身が反応に関与し反応の選択率を低下させたりする可能性があるため、溶媒を用いない方が好ましい例が多い。しかし、基質の形態等に起因して、反応の制限上、又は後処理の制限上、溶媒を使用することが好ましい場合は、ハロゲン化炭化水素溶媒を用いるのが一般的である。ハロゲン化炭化水素として、好ましくは、1,1,2,2−テトラクロロエタンである。
【0041】
フリーデル・クラフツ反応を実施するに際して、アルコール系溶媒やピリジン等の塩基性有機溶媒は、ルイス酸の触媒作用を抑制するため好ましくない。また、芳香族系溶媒は、反応基質であるハロゲン化脂環式化合物と反応し副生成物を与えてしまうため好ましくない。
【0042】
フリーデル・クラフツ反応を実施する際の反応温度は、好ましくは−100℃〜200℃であり、より好ましくは−78℃〜100℃である。−78℃未満では十分な反応速度が得られない場合があり、100℃を超えると副反応が進行し、所望の化合物の収率が低下する恐れがある。
【0043】
式(1)及び式(2)で示されるポリインダン誘導体は、重合した後、洗浄、イオン交換樹脂処理、再沈殿、再結晶、精密ろ過、乾燥等の精製方法により、例えば、Fe3+、Cl、Na、Ca2+等のイオン性不純物、反応溶媒、後処理溶媒、水分等を除去することが好ましい。これにより、誘電率はさらに低下し、耐熱性又は強度が向上する。具体的には、超純水による再沈殿、再結晶、洗浄後の精密ろ過、トルエン、アセトン等の有機溶媒溶液のイオン交換樹脂処理により、上記イオン性不純物の混入量をppmオーダー以下まで除去することができる。また、真空乾燥や熱風乾燥による、精製溶媒や水分等の除去により、さらに誘電率を低下でき、耐熱性又は強度を向上できる。
【0044】
本発明の低誘電材料は、半導体用層間絶縁膜材料として好適に使用できる。例えば、半導体装置の製造におけるULSI多層配線構造の層間絶縁膜材料として用いる場合、耐熱性、強度、基板密着性及び安定性等が要求されるが、各特性の要求値は、低誘電材料を用いる部位によって異なるため、一概には定義できない。しかし、層間絶縁膜材料として使用する場合、一般に誘電率等は低く、耐熱性、強度、基板密着性、安定性等が高いことが望ましい。本発明の低誘電材料はこれらの性質を具備するものである。
【0045】
また、本発明の低誘電材料は、薄膜にした後の高温での重合(熱キュア)が不要であり、また、化学構造も単純であり安価な原料から複雑な工程を経ることなく製造できる。このため、従来の熱硬化性有機系層間絶縁膜材料に対して経済的である。さらに、熱硬化させる触媒や架橋剤を添加する必要がないため、膜中にこれらが残留することがなく、層間絶縁膜材料として好適に使用できる。
【0046】
本発明の低誘電材料の耐熱温度は、層間絶縁膜材料として使用する場合、好ましくは290℃〜600℃の範囲である。耐熱温度は材料となる高分子化合物の主鎖構造、分子量、置換基の種類、置換位置、置換数により変化する。耐熱温度は、分子量を大きくすることにより向上し、また、置換基の分解、解重合の原因となる熱によるラジカルの発生抑制又は安定性向上に効果のある脂環式置換基、芳香族基、フッ素含有芳香族基を上記式(1)の化合物の置換基R〜R及びRに、又は式(2)の化合物の置換基R〜R及びRに導入することにより向上することができる。
【0047】
尚、耐熱性の評価方法は、示差走査熱量計(DSC)、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)等、一般的な熱物性評価により行える。評価サンプルの形状は薄膜の状態でも、その前駆体である粉体やブロック状物であっても、評価方法の際に用いる装置の制限の範囲内で適宜選択できる。本願において耐熱温度とは、熱分解開始温度を意味する。
【0048】
本発明の低誘電材料の薄膜弾性率は、5〜100ギガパスカル(GPa)の範囲であることが好ましい。好適な薄膜弾性率の値は、低誘電材料からなる薄膜を用いる半導体装置又は電子回路装置の種類や構造、用いられる部位、薄膜の厚さ等により一概に規定できないが、一般的に構成される薄膜からなる多層構造の製作過程における破損や多層構造の耐久性等の観点から、上記の範囲が好ましい。
尚、低誘電材料の強度の目安となる薄膜弾性率はナノインデンテーション法によって評価した値を意味する。
【0049】
本発明の低誘電材料からなる薄膜は、シリコン等の基板に対する密着性も従来公知の材料に比べて遜色ない。尚、基板密着性はテープテスト(作成した薄膜に碁盤の目状の傷を付け、それにテープを貼付し剥離することにより剥がれる薄膜の数で評価)により評価できる。
【0050】
また、本発明の低誘電材料では、主鎖構造が芳香族構造、脂環式構造式から構成されるため、化学的な安定性、物理的な安定性が高い。このため、主に半導体装置、電子回路装置を作製する際に実施される加熱操作、エッチング操作、電極配線設置操作等における低誘電材料あるいは薄膜の安定性が高い。
以上より本発明の低誘電材料は、例えば、半導体製造におけるULSI多層配線構造の層間絶縁膜材料として充分な強度、基板密着性、安定性を有する。
【0051】
本発明の低誘電材料は、有機溶媒に溶解させて塗料として使用することができる。
本発明の低誘電材料は、一般的な有機溶媒に溶解させることができる。具体的な有機溶媒として、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、DMF、NMP、DMSO、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、シクロヘキサノントルエン、ベンゼン、アセトン等が挙げられる。
塗料における低誘電材料の配合量は、作製する薄膜の厚さや塗料の粘度等を考慮して適宜調整できるが、一般には、0.01重量%〜50重量%程度である。
【0052】
本発明の低誘電材料は、層間絶縁膜等、薄膜の形態で使用されることが好ましい。本発明の低誘電材料からなる薄膜は、上述した塗料を使用して、スピンコーティング法、スプレーコーティング法等の塗布法や、CVD法等の、一般に公知の方法により製膜できる。厚さが10nm〜10μmの薄膜が形成できる。本発明の低誘電材料からなる薄膜は、半導体装置(集積回路)用や電子回路装置用の層間絶縁膜として好適に利用できる。
【0053】
本発明の低誘電材料は、誘電率が低く、透明性、強度、安定性等に優れているので、本発明の低誘電材料から作製された薄膜は、CPU、DRAM、フラッシュメモリ等の半導体装置、情報処理用小型電子回路装置、高周波通信用電子回路装置等の電子回路装置、画像表示装置、光通信用装置等の部材、表面保護膜、耐熱膜等として使用することができる。
【実施例】
【0054】
実施例1
[ポリインダン誘導体(低誘電材料)の製造]
リフラックスコンデンサーと滴下ロートを備え、攪拌手段としてマグネチックスターラーを備えた200ミリリットルの2つ口フラスコに、50ミリリットルのジクロロメタンに溶解させた1,4−ジイソプロペニルベンゼン(東京化成工業株式会社製)を9.1ミリモル入れ、激しく攪拌した。20ミリリットルのジクロロメタンに溶解させたトリフルオロ酢酸35.1ミリモルを、滴下ロートに入れ、激しく攪拌されているフラスコ中に素早く加えた。トリフルオロ酢酸の添加中に反応混合物の色は暗緑色に変化した。その後、反応混合物を、室温で3時間攪拌した。その後、反応混合物を180ミリリットルの2−プロパノール中に入れ、反応を終了させた。沈殿したポリマーはろ過し、10ミリリットルのジクロロメタンに再溶解し、180ミリリットルの2−プロパノール中に入れて再沈殿させて、ろ過した。得られた固体を70℃で真空乾燥して、下記式(3)に示すポリインダンを1.1g得た。
【化8】

【0055】
実施例2
[ポリインダン誘導体(低誘電材料)の製造]
1,4−ジイソプロペニルベンゼンに代えて、1,3−ジイソプロペニルベンゼン(東京化成工業株式会社製)を9.1ミリモル使用した以外は、実施例1と同様にして、下記式(4)に示すポリインダンを1.0g得た。
【化9】

【0056】
実施例3
[ポリインダン誘導体(低誘電材料)の製造]
1,4−ジイソプロペニルベンゼンに代えて、Makromolecular Chemistry,193,3083−3096(1992)記載の方法で合成した1,4−ジ(1−シクロヘキシルビニル)ベンゼンを9.1ミリモル使用した以外は、実施例1と同様にして、下記式(5)に示すポリインダンを1.5g得た。
【化10】

【0057】
実施例4
実施例1で合成した式(3)で表されるポリインダン誘導体のベンゼン環上にジブチルビアダマンチル基を導入した。
具体的に、窒素雰囲気下、容量100ミリリットルのフラスコ中に、式(3)で表されるポリインダン(重量平均分子量7830、0.16g、単位モノマーとして1ミリモル)と、Tetrahedron Letters,42,8645(2001)に記載の方法に従い合成した3−ブロモ−5,5’−ジブチル−1,1’−ビアダマンタン(0.46g、1ミリモル)を入れた後、1,1,2,2−テトラクロロエタン(15ミリリットル)を添加、攪拌し均一溶液とした。この溶液を氷浴中で攪拌しつつ0℃まで冷却した後、窒素雰囲気下で無水臭化アルミニウム(0.27g、1ミリモル)を添加し、0℃に冷却しつつ3時間攪拌し、反応を実施した。
次いで、冷却攪拌したままメタノール(1ミリリットル)を滴下することにより反応を停止させ、さらにメタノール(50ミリリットル)を添加することにより、生成物を白色固体として析出させ、ろ別、メタノール洗浄することにより、ジブチルビアダマンチル置換ポリインダンを得た(0.27g、収率72%)。
得られたジブチルビアダマンチル置換ポリインダンの構造はH−NMR(図1)により確認した。その結果、式(3)で表されるポリインダンの単位モノマー1モルに対して、ジブチルビアダマンチル基が0.42モル置換されたものであった。
【0058】
[ポリマーの性能評価]
実施例1〜4で得られたポリインダン誘導体について、重量平均分子量、熱分解開始温度、薄膜弾性率及び誘電率を以下の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0059】
1.重量平均分子量
ポリインダンの重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質とするGel Permeation Chromatography(GPC)測定により求めた。
2.熱分解開始温度
熱分解開始温度は、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA装置、PerkinElmer社製)を使用し測定した。窒素気流下における(TG/DTA)による熱分解開始温度を測定した。
【0060】
3.薄膜弾性率
薄膜弾性率は、ポリインダンの薄膜について、ナノインデンテーション法によって評価した。薄膜弾性率は、ナノインデンテーション装置(Triboscope、Hysitron社製)を使用し測定した。
尚、ポリインダンの薄膜は、実施例で得たポリインダンの1,1,2,2−テトラクロロエタン溶液(濃度:10重量パーセント)を用い、スピンコート法によりシリコン基板上に塗布、乾燥することで作製した。膜厚は400〜500nmであった。この薄膜は膜厚が均一であり、本発明の材料が高い製膜性を有することが判明した。
【0061】
4.誘電率k
水銀プローブ法により評価した。測定には、水銀プローバー(Four Dimensions社製)を使用した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1の結果より本発明のポリインダン誘導体は、高耐熱性、高製膜性、高薄膜強度、低誘電率を具備し、電子材料、低誘電材料、半導体用層間絶縁膜材料として好適に用いることができ、かつ、極めて高い性能を示すことを証明できた。
【0064】
比較例1
シグマ・アルドリッチ社製ポリスチレン(重量平均分子量=12,000)を用い、実施例と同一の方法で評価した。結果を表1に示す。
表1の結果よりポリスチレンは、本発明の材料と比べて、耐熱性、薄膜弾性率ともに低く、誘電率が高い。このため、半導体用層間絶縁膜材料として好適ではないことが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の低誘電材料は、半導体装置、電子回路装置等で使用される電子材料、半導体用層間絶縁膜材料、透明材料、高強度材料、耐熱材料等として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例4で得られたジブチルビアダマンチル置換ポリインダン誘導体のH−NMRのチャート図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)又は式(2)で表される構造を有するポリインダン誘導体からなる低誘電材料。
【化1】

(式中、R〜R及びRは、それぞれ水素、置換あるいは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換あるいは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換あるいは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換あるいは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基を表す。
,R及びRは、それぞれ置換あるいは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換あるいは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換あるいは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換あるいは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基を表す。
〜R及びRは同一でも、それぞれ異なっていてよい。
kは0〜3であり、Rが複数ある場合、Rの位置はいずれでもよく、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
l及びmは、それぞれ0〜11の整数であり、l及びmが1〜10である場合、R及びRの位置はいずれでもよい。また、l及びmが2〜11である場合、R及びRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
nは、10〜10,000の整数である。)
【請求項2】
前記式(1)又は式(2)のRが、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基であり、kが0.01〜3である請求項1に記載の低誘電材料。
【請求項3】
前記式(1)又は式(2)のRが、置換又は非置換のシクロヘキシル基、アダマンチル基又はビアダマンチル基である請求項2に記載の低誘電材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の低誘電材料からなる半導体用層間絶縁膜材料。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の低誘電材料を有機溶媒に溶解させた塗料。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の低誘電材料からなる薄膜。
【請求項7】
請求項6に記載の薄膜を有する半導体装置。
【請求項8】
請求項6に記載の薄膜を有する電子回路装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−311732(P2007−311732A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173025(P2006−173025)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】