説明

体内埋設用インプラント及びその製造方法

【課題】インプラントの所定の強度を要する部位と人骨になじむべき部位とを継ぎ目なしの同一材料により形成することを可能とし、細菌類の付着による汚染を防ぎかつ製造の容易化を図り、コストの低減を図る。
【解決手段】体内埋設用インプラントは、所定形状を有し体内に埋設して用いられるインプラントであって、人骨との親和性を有すべき人骨接合部位(3)と、所定の強度を有すべき強度部位(8)とを備え、人骨接合部位(3)は人骨と同程度の大きさの低ヤング率を有し、強度部位(8)は人骨接合部位の低ヤング率より高い高ヤング率を有し、人骨接合部位(3)と強度部位(3)とは同一の所定材料により一体に形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人体の骨部の補修用として体内に埋め込んで使用するインプラントおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の股関節損傷等の関節補修をはじめ、骨折時の接骨補修、弱化した骨の補強補修など、人体の骨損傷の補修には従来から人工骨を用いてこれらの損傷を補修するようになされている。
【0003】
これら補修用の人工骨は、基本的に人体に対する生体適合性を有する素材により形成される(特許文献1参照)。
【0004】
すなわち体内に埋設して使用されるこの種の人工骨は人骨と略等しい低ヤング率を有する材料であることが望ましいが、低ヤング率合金は強度が低いため、人骨と近似の強度を有する材料を用いる人工骨としての強度に不十分な点が生じることから必然的にインプラントの厚みや幅を大きくして強度を保つよう考慮しなければならないという問題点がある。それ故、対象となる人骨に適合させることが難しい。
【0005】
一方、人工関節やラグスクリューの支持部は強度を要求されるが、上記の素材により支持部を一体に形成するとなると該支持部に所定の強度を与えるためにはその外径や肉厚を大きくしなければならず、益々大型化して体内に埋設するには不適な形態となってしまう。
【0006】
特に人工関節用のインプラントにあっては、支持部の先端部には球部が固着され、支持部に対し旋回自在に関節球が前記球部に取り付けられ、前記関節球の前記支持部に対する旋回角の範囲は前記関節球の下縁部が前記支持部の外周面に接触することによって制限されるために、柱状の支持部の太さが大径になると関節球の支持部に対する旋回角の範囲の範囲が著しく制約され、人工関節としての機能が劣るものとなるという問題を生じる。
【0007】
そこでインプラントの人骨に接する部位(例えば、ステム部)と支持部とをヤング率が異る別素材で各別に形成するようにすれば上記問題点は解消し得るが、このようにすると2部位を接続することが必要であり、そのため接続箇所に細菌類が侵入するおそれが生じ、人体への適用上大きな問題をもたらすことになって実用上好ましくない。加えて製造コストも嵩むことになるなどの新たな問題をもたらす。
【特許文献1】特開2007−259955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、インプラントの所定の強度を要する部位と人骨になじむべき部位とを継ぎ目なしの同一材料により形成することを可能とし、細菌類の付着による汚染を防ぎかつ製造の容易化を図り、コストの低減を果しめることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本願発明に係る体内埋設用インプラントは、所定形状を有し体内に埋設して用いられるインプラントであって、人骨との親和性を有すべき人骨接合部位と、所定の強度を有すべき強度部位とを備え、前記人骨接合部位は人骨と同程度の大きさの低ヤング率を有し、前記強度部位は前記人骨接合部位の前記低ヤング率より高い高ヤング率を有し、前記人骨接合部位と前記強度部位とは同一の所定材料により一体に形成されていることを特徴とする。
【0010】
ここで、「人骨との親和性を有す」とは、人骨が外力を受けた場合に違和感なく人骨と一体的に変形等を行うことができることをいい、「人骨と同程度の大きさの低ヤング率」とは、人骨が外力を受けた場合に人骨と一体的に変形等を行うことができる程に人骨のヤング率に近い値のヤング率であることをいう。また、一般的に、部材においてヤング率と硬度との間には、ヤング率が高いほど硬度が高いという相関関係があり、また、部材において硬度と強度の間には、硬度が高いほど強度が高いという相関関係がある。従って、前記強度部位は、前記人骨接合部位に比べて、より高いヤング率、硬度及び強度を有することになる。ここで、硬度とはHVの単位で測定されたものであり、強度とは外力によって変形しにくく強靱であることをいい、硬度よりも広い概念である。
【0011】
また、前記インプラントは人工関節用のものであって、前記人骨接合部位は人骨に挿着されるステム部であり、前記強度部位は前記ステム部から延設された柱状の支持部であることを特徴とする。
【0012】
また、前記支持部の先端部には球部が固着され、前記支持部に対し旋回自在に関節球が前記球部に取り付けられ、前記関節球の前記支持部に対する旋回角の範囲は前記関節球の下縁部が前記支持部の外周面に接触することによって制限される
ことを特徴とする。
【0013】
また、前記インプラントは折損人骨接続用のものであって、前記人骨接合部位が一方の人骨に挿着される髄内釘であり、前記強度部位が他方の人骨に螺着されるラグスクリューの支持部であることを特徴とする。
【0014】
また、前記インプラントは折損人骨接続用のものであって、前記人骨接合部位が一方の人骨の外側面に添わせてビス止めされるプレートであり、前記強度部位が他方の人骨に螺着されるラグスクリューの支持部であることを特徴とする。
【0015】
また、前記インプラントの前記支持部はラグスクリューを貫通して回転可能に挿通支持する筒状とされていることを特徴とする。
【0016】
また、前記インプラントは人骨補強用のものであって、補強すべき人骨に添わせて固定するための複数のネジ挿通孔が穿設されたプレートからなり、前記人骨接合部位は前記ネジ挿通孔の周囲以外の部分であり、前記強度部位は前記ネジ挿通孔の周囲の部分であることを特徴とする。
【0017】
また、前記インプラントを構成する所定材料はTi−Nb−Sn合金からなっている
ことを特徴とする。
【0018】
また、前記Ti−Nb−Sn合金は、Tiをベースとし、Nbが20〜40w%、Snが1〜13w%を含有する合金であることを特徴とする。
【0019】
また、前記強度部位は、前記人骨接合部位の硬度より高い硬度を有することを特徴とする。
【0020】
本願発明に係るインプラントの製造方法は、所定形状を有し体内に埋設して使用するインプラントの製造方法において、前記インプラントは、人骨との親和性を有すべき人骨接合部位と、所定の強度を有すべき強度部位とを有し、これら人骨接合部位と強度部位とは同一の所定材料により一体に形成されるものであり、Ti−Nb−Sn合金からなる材料を用い、この材料を所定のインプラント形状に成形する一対の金型間に装入して冷間鍛造を行う冷間プレス工程と、前記冷間プレス工程の後に、前記強度部位を所定温度で加熱処理する加熱処理工程とを備えることを特徴とする。
【0021】
また、前記所定温度は、240〜320℃であることを特徴とする。
【0022】
また、前記人骨接合部位は人骨と同程度の大きさの低ヤング率を有し、前記強度部位は前記人骨接合部位に較べ高ヤング率を有することを特徴とする。
【0023】
また、前記加熱処理工程は、前記冷間プレス工程で冷間鍛造されたものを前記金型から取り出した後に、前記強度部位を加熱処理することを特徴とする。
【0024】
また、前記加熱処理工程は、前記冷間プレス工程で冷間鍛造されたものを前記金型に置いた状態で、前記強度部位に相当する前記金型の部位を加熱処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、人体に対し適合性を有する素材により人骨に接して固定する部位(低ヤング率の人骨接合部位)と、強度が要求される部位(高ヤング率の強度部位)とを一体に形成することができるので、これら異る特性を有する2つの部位を接続して構成する必要がなく、その結果細菌類の侵入により汚染されるおそれが全くない極めて安全性の高いインプラントとすることができる。
【0026】
また素材としてTi−Nb−Sn合金を用いれば、元来ヤング率が小さい材料であるから冷間での曲げ加工や成形加工が容易にできながら高い強度が要求される強度部位については、冷間鍛造後に加熱処理することにより部分的に高ヤング率化を達成することができ、同一材料により人骨に対し親和する構成を有するインプラントを容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
[実施形態I]人工関節用インプラント(図1〜図4)
図1は本発明によるインプラントの一例として人工関節用インプラント1Aを示すものであり、人工関節用インプラント1Aは、大腿骨2(図2参照)に挿着される棒状のステム部3とステム部3の先端に延設された支持部8とを有し、ステム部3と支持部8とは、同一材料により一体的に形成されている。ステム部3と支持部8とは角度θ(30°〜50°)をもって屈曲されている。なお、円柱状の支持部8を楕円柱状の支持部8とすることも可能である。
【0028】
支持部8の先端部には、球部6が固着されている。球部6には、関節球5が球部6に対し(従ってステム部3に対し)旋回自在に取り付けられる。図2に示すように、関節球5は骨盤4に埋設される。これによって、関節球5に対しテム部3が旋回可能になり、骨盤4に対し大腿骨2が旋回自在になる。球部6は関節球5に対し十分な耐摩耗性を有する必要があるために、ステム部3及び支持部8とは別部材で作成され、後発的に支持部8に固着される。
【0029】
本実施例では、ステム部3及び支持部8とが同一材料で一体的に形成されていながら、ステム部3を人骨と同程度の大きさの低ヤング率にし、支持部8を高ヤング率にすることに意義がある。一般的に、部材においてヤング率と硬度との間には、ヤング率が高いほど硬度が高いという相関関係があり、また、硬度が高いほど強度が高いという相関関係があるので、支持部8はステム部3に比べて、より高いヤング率、硬度及び強度を有することになる。
【0030】
上記インプラント1Aの構成材料は、Ti(チタン)−Nb(ニオブ)−Sn(錫)の合金が用いられる。Ti−Nb−Sn合金は、Tiをベースとし、Nbが20〜40w%、Snが1〜13w%を含有する合金である。この合金は常温(例えば、20〜30℃)で冷間鍛造が可能であるので後述する工程によるプレス加工によって前記の形状に形成することができる。このような組成のTi−Nb−Sn合金を選択することによって、人骨が有するヤング率に近似した低ヤング率を有するものを冷間鍛造で製造することが容易になる。
【0031】
上記Ti−Nb−Sn合金は、その材質の性状が人骨が有するヤング率に近似した低ヤング率を有するので、前記人骨に接して固定する人骨接合部位であるステム部3は上記合金の性質をそのまま援用して構成され、高い強度を要する強度部位である支持部8は冷間鍛造後に加熱処理して前記ステム部3より高い高ヤング率とされて強化される。ここで、冷間鍛造後に、強度部位として機能すべき特定部位を所定温度範囲で加熱処理することによってその特定部位の高ヤング率化を図ることが可能になるという知見は、本発明者が初めて明らかにするものである。
【0032】
この加熱処理手段としては、冷間鍛造によるプレス加工により所定形状に成形したのち支持部8の範囲を所定の温度(240〜320℃)で加熱するようにする。これによって、加熱処理部分のみを高強度にすることができる。
【0033】
その理由は次の通りである。Ti−Nb−Sn合金においては、加熱前には、極めて微細な変形組織が発達しているが、上記の冷間鍛造によるプレス加工後の加処理により生成したマルテンサイトは逆変態を起こして元の結晶層に戻る。一方、この逆変態温度が150℃前後と比較的に低いためにプレス加工により導入されたひずみ(転移組織)がほとんど回復することなく、しかも微細な析出が始まるために、加熱処理部分が高強度化するのである。加熱処理温度が240℃より低い場合は、図3を参照すれば解るように、支持部8に要請される十分な硬度が得られない。また、加熱処理温度が320℃より高い場合は、実験的に立証されているように、Ti−Nb−Sn合金の内部に組成変化を生じて軟化し支持部8に要請される十分な硬度が得られない。
【0034】
なお、効率的に加熱処理する手段として、冷間鍛造(プレス加工)によりプレス加工成形した後に、金型を開けることなく支持部8の成形範囲の金型のみを加熱して加熱処理部分を高強度化するするようにしてもよい。
【0035】
図3に、Ti−Nb−Sn合金からなる材料9の加熱処理温度とヤング率Ed(GPa)及び硬度(HV)との関係を示す。図3において、Ti−Nb−Sn合金からなる長さ50mmの棒状の材料9の一端9aに例えば300℃の熱源を接触させ、材料9の他端9bの温度を常温22℃にした。材料9における温度分布は、材料9の加熱端である一端9aからの距離dに対し一端9aから他端9bまで300℃から22℃へ単調に温度が減少していると考えることができ、概略的には材料9の温度は距離dに対し線形的に減少していると考えることができる。図3は、このような状況において、距離dの各々の値に対し、材料9のヤング率Ed(GPa)と硬度(HV)とを測定した結果を示すものである。点線Aはヤング率Ed(GPa)を、実線Bは硬度(HV)を示す。図3に示されるように、Ti−Nb−Sn合金からなる材料9は、ヤング率Ed(GPa)と硬度(HV)とは、加熱処理温度を常温から300℃近辺まで高くすると、互いに相関し単調的に増加する特性を有することが認められる。
【0036】
図3において、距離dが約25mmから50mmでは、加熱温度は約220℃から常温(約22℃)であり、この場合、材料9の硬度(HV)は200(HV)でほぼ一定である。支持部8に要請される硬度あるいは強度としては、200(HV)より高い程より好ましい。これに対し、距離dが約20mmのとき、加熱温度は約240℃であり、この場合、材料9の硬度(HV)は235(HV)であり、加熱することにより、硬度が高くなっていることが認められる。235(HV)という硬度(HV)の大きさは、人体の荷重等を考慮したときに、支持部8に要請される十分な硬度である。このように、図3を参照することにより、要請される硬度を得るには、加熱処理温度を約240℃以上に選ぶことができる。
【0037】
また、図3において、他端9b(距離dが50mm)では、加熱温度は常温(約22℃)であり、この場合、材料9のヤング率Ed(GPa)は約40(GPa)であり、人骨のヤング率Edと同程度のヤング率を有することが認められる。
【0038】
このように、冷間鍛造後の加熱処理温度を適正に選択して高ヤング率の強度部位である支持部8のみを加熱処理することにより、ステム部3と支持部8とを一体に形成することが可能となる。
【0039】
具体的には、加熱処理温度を240〜320℃の範囲にすることにより、ステム部3の硬度を高くすることができ、この結果、従来の支持部8の太さが10mm要していたものを7mmに細くしても十分な強度であることが確認された。
【0040】
インプラント1Aにおいて支持部8の太さを細くできることは、次のような効果を奏することができる。関節球5は支持部8に対し旋回自在に球部6に取り付けられている。関節球5の旋回角度範囲は、関節球5の下端が柱状の支持部8の外周面に当たることによって制限されるので、支持部8の太さが小さくなるほど関節球5の旋回角度範囲が大きくなるのである。
【0041】
本実施例では、支持部8の太さが10mmから7mmに細くすることができた結果、支持部8に対する関節球5の旋回角を約120度から約134度とすることができ、約14度と大幅に旋回角の増大を図ることができた。
【0042】
前記プレス加工については、図4(A)〜(E)に例示するように、Ti−Nb−Sn合金からなる丸棒素材10を所定形状の直棒状素材11に加工する予備成形工程12を経てその直棒状素材11を上下の金型13,14間に装入し、図4(C)〜(E)のプレス・曲げ加工15を経て所定のインプラント形状に冷間鍛造して製造することができる。
【0043】
図4(C)〜(E)では各々分割された種々の金型13,14を用い、図4(C)では曲げ成形し、図4(D)では微細成形し、図4(E)では図4(C)または図4(D)に示す直棒状素材11を90度倒した方向から厚さを整える成形をしている。なお、図4(D)に示す過程を省略し、図4(C)から図4(E)へ移ることも可能である。
【0044】
そしてインプラント1Aの屈曲角θが例えば30°〜50°と大きい場合、冷間鍛造による成形加工のみでは対応が難しいときは曲げ加工用の金型間に装入して曲げる工程を付加してもよい。
【0045】
前記丸棒状素材10は、Ti−Nb−Sn合金を水冷銅鋳型を用いた高周波誘導溶解炉または真空アーク再溶解炉により熔解し、熱間鍛造により円柱状に形成したものが用いられる。
【0046】
以上により、本実施形態によれば、ステム部3を人骨と同程度の大きさの低ヤング率にして、人骨との親和性を有するようにでき、人骨が外力を受けた場合に違和感なく人骨と一体的に変形等を行うことができ、また、支持部8を高ヤング率にして必要な強度を確保しながら支持部8の太さを小さくすることができ、支持部8に対する関節球5の旋回角の増大を図ることができた。
【0047】
具体的には、従来支持部8の太さが10mm要していたものを、上記実施形態によれば7mmに細くすることが可能となり、その結果インプラント1Aの旋回角を従来の場合における約120度から約134度とすることができ、約14度と大幅に旋回角の増大を図ることができた。
【0048】
またステム部3と支持部8とのヤング率の異る部位を一体に形成するので、継ぎ目等が発生することがなく、その結果細菌類の侵入もないので極めて衛生的なインプラントとすることができる。
【0049】
[実施形態II]折損人骨接続用インプラント(図5〜図8)
図5は骨折した人骨を接続補修するための折損人骨接続用インプラント1Bとした場合の一例を示す。図6に使用例を示すように、折損した一方の人骨16aに挿着される髄内釘17(人骨接合部位)と、他方の人骨16bに螺挿するラグスクリュー18を挿通支持する支持部19(強度部位)とで構成されている。前記ラグスクリュー18は先端に雄ネジ20を有し、後端には工具により回転させるための工具係合部21が形成されている。22はラグスクリュー18の緩み止め用の止めネジである。
【0050】
上記インプラント1Bの人骨接合部位である髄内釘17は人骨16aに挿着してネジ23,23…により止め付けられるもので、丸棒状に形成されている。なお、本実施形態において、「髄内釘」という用語は図5に示す符号17で示す棒状部位をさし、ラグスクリュー18を挿通支持する支持部19は髄内釘17の上部の部位をさしている。
【0051】
このインプラント1Bにおいても前述の実施形態(人工関節用インプラント1A)と同様の製法により髄内釘17は人骨16aと同等の低ヤング率の人骨接合部位とされ、支持部19はこれより高ヤング率の強度部位とされている。
【0052】
図7,図8は、図5,図6における折損人骨接続用インプラント1Bのプレート27を骨折した一方の人骨16aの外側面に添わせてネジ止めする構成とした場合の実施形態を示すもので、この場合のプレート27は細幅のプレート状に形成され、人骨16aに止めネジ24,24...で固定するための所要数のネジ挿通孔25,25...が穿設されている。
【0053】
図7,図8において、プレート27が人骨接合部位であり、ラグスクリュー18を挿通支持する支持部19が強度部位である。他の構成に関しては、図5,図6と概ね同様であるからこれと対応する符号を付すに留める。
【0054】
本実施形態によれば、髄内釘17(人骨接合部位)を人骨と同程度の大きさの低ヤング率にして、人骨との親和性を有するようにでき、人骨が外力を受けた場合に違和感なく人骨と一体的に変形等を行うことができ、また、支持部19(強度部位)を高ヤング率にして必要な強度を確保することができる。これによって、支持部19の太さを大きくすることを抑制しても、ラグスクリュー18を挿通支持することが可能になる。
【0055】
また、プレート27(人骨接合部位)を人骨と同程度の大きさの低ヤング率にして、人骨との親和性を有するようにでき、人骨が外力を受けた場合に違和感なく人骨と一体的に変形等を行うことができ、また、支持部19(強度部位)を高ヤング率にして必要な強度を確保することができる。これによって、支持部19の太さを大きくすることを抑制しても、ラグスクリュー18を挿通支持することが可能になる。
【0056】
[実施形態III]人骨補強用インプラント(図9)
図9は弱化した人骨を補強するための人骨補強用インプラント1Cとした場合の一例を示すもので、弱化した人骨26の側面に添わせて固定するに適する細長プレート状に形成され、人骨接合部位であるプレート37とされている。
【0057】
このプレート37には人骨26に固定するためのネジ28(丸皿ネジ)を挿通する所要数のネジ挿通孔29,29…が穿設されている。このネジ挿通孔29は、図9(B)に図9(A)のY−Y拡大断面を示すように丸皿ネジ用として座ぐりが施されている。
【0058】
前記プレート37は極力薄いことと幅狭であることが要求されるが、ネジ挿通孔29,29…の周辺は強度を要するので、図9(B)に符号30で示すようにネジ挿通孔29の周囲部分を加熱処理して硬化させ、高ヤング率を有する強度部位とされ、それ以外の部分が人骨と略等しい低ヤング率の人骨接合部位(ステム部)とされている。
【0059】
したがって上記インプラント1Cにより人骨26を補強するには、その弱化した人骨26の側面にプレート37を添わせ、ネジ挿通孔29,29…にネジ28を通して人骨26に螺挿して固定することにより人骨26を補強することができる。
【0060】
この場合、プレート37は人骨26と略同等の低ヤング率とされているので人骨26に無理な負荷を与えることがない。
【0061】
前記図7,図8および図9に示すインプラント1B,1Cのプレート27,37は、人骨の外側面に当接して固定されるため骨の表面に存在する骨膜を過度に圧迫しないよう極力幅を狭くすることが望まれるが、プレート状のステムの場合、人骨に固定するためのネジを通すネジ挿通孔25,29を穿設するスペースが少くなり、ネジ挿通孔とプレート27,37の側端縁との距離が狭小となって強度が不十分とならざるを得ない。
【0062】
この点前記のようにネジ挿通孔25,29の周辺部を硬化させて強度部位とし、他部は人骨と同等のヤング等を有するプレート27,37とすることにより人骨に対する親和性を失なうことなく必要な強度を保有させることができる。
【0063】
上記プレート状のプレート37ステム部を有する人骨補強用インプラント1Cとするとき、図10に例示するようにネジ挿通孔29,29...の間の側縁に凹部31,31...を形成すべく挟って、ネジ挿通孔29と側縁との距離Lが各部で略一定になるようにすることによりプレート37全域に均等に力が作用するよう分散させるようにすることが好ましい。
【0064】
本実施形態によれば、プレート37(人骨接合部位)を人骨と同程度の大きさの低ヤング率にして、人骨との親和性を有するようにでき、人骨が外力を受けた場合に違和感なく人骨と一体的に変形等を行うことができ、また、ネジ挿通孔29の周囲部分(強度部位)を高ヤング率にして必要な強度を確保することができる。これによって、プレート37の厚さを薄くしてもネジ挿通孔29の周囲部分の強度を確保することができ、プレート37の薄化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明による体内埋設用インプラントの一実施形態を示す側面図。
【図2】同、使用状態の一例を示す説明図。
【図3】加熱による使用材料のヤング率の変化を示すブラフ。
【図4】(A)〜(E)は図1のインプラントの製造過程の例示説明図。
【図5】本発明による体内埋設用インプラントの他の実施形態を示す一部を断面とした分解斜視図。
【図6】同、使用状態を示す断面図。
【図7】本発明による体内埋設用インプラントのさらに他の実施形態を示す斜視図。
【図8】同、使用状態の一例を示す断面図。
【図9】本発明による体内埋設用インプラントのさらに他の実施形態を示し、(A)は使用状態の斜視図、(B)は(A)のY−Y拡大断面図。
【図10】図9のインプラントの変形例を示す斜視図。
【符号の説明】
【0066】
1A 人工関節用インプラント
1B 折損人骨接合用インプラント
1C 人骨補強用インプラント
2,16a,16b 人骨
4 骨盤
5 関節球
6 球部
3 ステム部(人骨接合部位)
17 髄内釘(人骨接合部位)
27,37 プレート(人骨接合部位)
8,19,30 支持部(強度部位)
10 インプラントの材料
11 直棒状素材
13,14 金型
18 ラグスクリュー
25,29 ネジ挿通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定形状を有し体内に埋設して用いられるインプラントであって、
人骨との親和性を有すべき人骨接合部位と、所定の強度を有すべき強度部位とを備え、
前記人骨接合部位は人骨と同程度の大きさの低ヤング率を有し、前記強度部位は前記人骨接合部位の前記低ヤング率より高い高ヤング率を有し、前記人骨接合部位と前記強度部位とは同一の所定材料により一体に形成されている
ことを特徴とする体内埋設用インプラント。
【請求項2】
前記インプラントは人工関節用のものであって、前記人骨接合部位は人骨に挿着されるステム部であり、前記強度部位は前記ステム部から延設された柱状の支持部である
ことを特徴とする請求項1記載の体内埋設用インプラント。
【請求項3】
前記支持部の先端部には球部が固着され、前記支持部に対し旋回自在に関節球が前記球部に取り付けられ、前記関節球の前記支持部に対する旋回角の範囲は前記関節球の下縁部が前記支持部の外周面に接触することによって制限される
ことを特徴とする請求項2記載の体内埋設用インプラント。
【請求項4】
前記インプラントは折損人骨接続用のものであって、前記人骨接合部位が一方の人骨に挿着される髄内釘であり、前記強度部位が他方の人骨に螺着されるラグスクリューの支持部である
ことを特徴とする請求項1記載の体内埋設用インプラント。
【請求項5】
前記インプラントは折損人骨接続用のものであって、前記人骨接合部位が一方の人骨の外側面に添わせてビス止めされるプレートであり、前記強度部位が他方の人骨に螺着されるラグスクリューの支持部である
ことを特徴とする請求項1記載の体内埋設用インプラント。
【請求項6】
前記インプラントの前記支持部はラグスクリューを貫通して回転可能に挿通支持する筒状とされている
ことを特徴とする請求項3または4記載の体内埋設用インプラント。
【請求項7】
前記インプラントは人骨補強用のものであって、補強すべき人骨に添わせて固定するための複数のネジ挿通孔が穿設されたプレートからなり、前記人骨接合部位は前記ネジ挿通孔の周囲以外の部分であり、前記強度部位は前記ネジ挿通孔の周囲の部分である
ことを特徴とする請求項1記載の体内埋設用インプラント。
【請求項8】
前記インプラントを構成する所定材料はTi−Nb−Sn合金からなっている
ことを特徴とする請求項1記載の体内埋設用インプラント。
【請求項9】
前記強度部位は、前記人骨接合部位の硬度より高い硬度を有する
ことを特徴とする請求項1記載の体内埋設用インプラント。
【請求項10】
前記Ti−Nb−Sn合金は、Tiをベースとし、Nbが20〜40w%、Snが1〜13w%を含有する合金である
ことを特徴とする請求項8記載の体内埋設用インプラント。
【請求項11】
所定形状を有し体内に埋設して使用するインプラントの製造方法において、
前記インプラントは、人骨との親和性を有すべき人骨接合部位と、所定の強度を有すべき強度部位とを有し、これら人骨接合部位と強度部位とは同一の所定材料により一体に形成されるものであり、
Ti−Nb−Sn合金からなる材料を用い、この材料を所定のインプラント形状に成形する一対の金型間に装入して冷間鍛造を行う冷間プレス工程と、
前記冷間プレス工程の後に、前記強度部位を所定温度で加熱処理する加熱処理工程と
を備える
ことを特徴とする人体埋設用インプラントの製造方法。
【請求項12】
前記所定温度は、240〜320℃である
ことを特徴とする請求項11記載の人体埋設用インプラントの製造方法。
【請求項13】
前記人骨接合部位は人骨と同程度の大きさの低ヤング率を有し、前記強度部位は前記人骨接合部位に較べ高ヤング率を有する
ことを特徴とする請求項11記載の人体埋設用インプラントの製造方法。
【請求項14】
前記加熱処理工程は、前記冷間プレス工程で冷間鍛造されたものを前記金型から取り出した後に、前記強度部位を加熱処理する
ことを特徴とする請求項11記載の人体埋設用インプラントの製造方法。
【請求項15】
前記加熱処理工程は、前記冷間プレス工程で冷間鍛造されたものを前記金型に置いた状態で、前記強度部位に相当する前記金型の部位を加熱処理する
ことを特徴とする請求項11記載の人体埋設用インプラントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−226071(P2009−226071A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76404(P2008−76404)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000193612)瑞穂医科工業株式会社 (53)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】