説明

余剰汚泥の発生抑制方法、有機排水処理方法、及び改質した活性汚泥の製造方法

【課題】余剰汚泥の発生を抑制する方法の提供。
【解決手段】酸素富化ガスの曝気により改質処理した活性汚泥を使用し、かつ、曝気槽内のMLSS濃度を2000mg/L〜30000mg/Lを維持しながら、曝気槽内で微生物を用いて有機排水を活性汚泥処理することを含む余剰汚泥の発生抑制方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、余剰汚泥の発生抑制方法、有機排水処理方法、及び改質した活性汚泥の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多くの下水処理施設においては、活性汚泥法により汚水の浄化が行われている。活性汚泥法は微生物の代謝作用を利用するため処理効率が高く経済的である。
【0003】
活性汚泥法では、先ず、汚水(有機排水)が曝気槽へと連続的に供給される。曝気槽内で汚水は好気性微生物の集団と接触し、有機排水の基質(BOD成分)は該好気性微生物の集団によって酸化分解(生物処理)される。この好気性微生物の集団が「活性汚泥」と呼ばれる。該曝気槽で生物処理された汚水は該好気性微生物の集団とともに沈殿槽に移される。
【0004】
沈殿槽では、該好気性微生物の集団は互いにくっつき合ってフロックを形成して沈降する。一方、上澄み(分離液)は溢流する。沈殿槽に沈殿した該好気性微生物の集団(汚泥)は再び曝気槽に返送され、再び汚水の生物処理に使用される。しかし、微生物は増殖するため、すべての汚泥を返送すると曝気槽で酸素不足となったり、沈殿槽における固液分離が困難になったりする。このため増殖した分の該好気性微生物の集団(汚泥)は「余剰汚泥」として系外に取り出される。余剰汚泥は、一般に脱水、乾燥、焼却などの処理が行われ、最終的には埋め立て処分される。
【0005】
余剰汚泥の発生量は、下水処理施設の増加等の理由により、年々着実に増加している。このため、余剰汚泥の埋め立て用の最終処分地の確保が困難となっている。また、各自治体では余剰汚泥の運搬や処理にかかる費用が増大している。このような状況から、余剰汚泥の削減方法が研究されている。それらのうちの1つの方法として、曝気槽内に空気又は酸素を吹き込むことにより溶存酸素濃度(DO)を5mg/L以上に調整して生物処理を行う方法が開示されている(特許文献1)。その他の方法としては、膜分離により回収した濃縮汚泥を返送汚泥として曝気槽に返送することにより、曝気槽の汚泥濃度を50,000〜100,000mg/Lに維持しながら曝気槽のBOD汚泥負荷を0.05〜0.01(kg−MLSS/日)に調整する方法が開示されている(特許文献2)。
(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−188548号公報
【特許文献2】特開2002−192182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の方法では、余剰汚泥の発生量の抑制が不十分であった。また、分離膜を使用した場合は、目詰まり対策のために膜の定期的な洗浄と交換が必要となるためランニングコストが高くなり、また、装置の大型化が困難である。このため、余剰汚泥の発生を抑制できるさらなる技術が求められている。
【0008】
本発明は、余剰汚泥の発生を抑制する方法、余剰汚泥の発生抑制が可能な有機排水処理方法、及び改質した活性汚泥の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一態様において、余剰汚泥の発生を抑制する方法であって、酸素富化ガスの曝気により改質処理した活性汚泥を使用し、かつ、曝気槽内のMLSS濃度を2000mg/L〜30000mg/Lに維持しながら、曝気槽内で微生物を用いて有機排水を活性汚泥処理することを含む余剰汚泥の発生抑制方法に関する。
【0010】
本発明は、その他の態様において、曝気槽内で微生物を用いて有機排水を活性汚泥処理する活性汚泥処理工程、及び前記生物処理工程で処理された有機排水を沈降分離することにより汚泥を回収する分離工程を含む有機排水処理方法であって、前記分離工程で回収した汚泥に酸素富化ガスの曝気を行うことにより改質処理した活性汚泥を用いて、曝気槽内のMLSS濃度を2000mg/L〜30000mg/Lに維持しながら前記活性汚泥処理工程を行うことを含む余剰汚泥の発生抑制が可能な有機排水処理方法に関する。
【0011】
本発明は、さらにその他の態様において、活性汚泥に酸素富化ガスの曝気を行うことを含む改質した活性汚泥の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有機排水の生物処理において余剰汚泥の発生の抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に用いる装置の構成の一例を示す概略構成図である。
【図2】図2は、本発明に用いる装置の構成のその他の例を示す概略構成図である。
【図3】図3は、実施例1における曝気槽内のMLSS濃度とSVIとの関係の一例を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例2及び比較例における曝気槽内のMLSS濃度とSVIとの関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、酸素富化ガスの曝気により改質処理した活性汚泥を用いて曝気槽内のMLSS濃度を高濃度に維持しながら有機排水を活性汚泥処理することにより、余剰汚泥の発生量を抑制できるという知見に基づく。さらに、本発明は、曝気槽内のMLSS濃度を高濃度に維持しながら有機排水の活性汚泥処理を行う場合、従来は、SVIが高くなり実用的な有機排水処理が困難となると考えていたが、酸素富化ガスの曝気により改質処理した活性汚泥を用いることと、SVIの上昇を抑制でき、実用的な有機排水処理が可能になるという知見に基づく。
【0015】
すなわち、本発明は一態様において、余剰汚泥の発生を抑制する方法であって、酸素富化ガスの曝気により改質処理した活性汚泥を使用し、かつ、曝気槽内のMLSS濃度を2000mg/L〜30000mg/Lを維持しながら、曝気槽内で微生物を用いて有機排水を活性汚泥処理することを含む余剰汚泥の発生抑制方法(以下、「本発明の余剰汚泥の発生抑制方法」ともいう)。本発明によれば、好ましくは、汚泥の凝集性を向上でき、さらには余剰汚泥の発生を抑制できる。また、本発明によれば、好ましくは、膜分離を使用しない場合であっても汚泥を分離することができるため、既設の設備を使用して余剰汚泥の発生を抑制することができ、イニシャルコスト及びランニングコストを低減できる。
【0016】
本発明により余剰汚泥の発生が抑制されるメカニズムは不明であるが、以下のように推定される。汚泥に酸素富化ガスを供給して改質処理を行うことによって、汚泥中に粘質物質を産生する微生物を優占化させることができる。この粘質物質を産生する微生物が優占化した汚泥を用いて有機排水の活性汚泥処理を行うことにより、曝気槽内の汚泥の凝集性が向上され、その結果SVIを低減することができる。一方、MLSS濃度が高濃度の条件下で曝気処理を行うことにより、曝気槽内のBOD−MLSS負荷(kg−BOD/kg−MLSS/日)を低く維持することができる。そしてBOD−MLSS負荷が低い状態で活性汚泥処理を行うことにより、汚泥の自己消化が起こり、その結果余剰汚泥の発生量を抑制できる。この曝気槽内の汚泥の凝集性向上によるSVIの低減と、汚泥の自己消化による余剰汚泥の発生抑制との相乗効果により、本発明の方法によれば効率よく余剰汚泥の量を抑制できると考えられる。但し、本発明はこのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0017】
本明細書において「有機排水」は、有機物(BOD成分)を含む排水をいい、例えば、家庭から出る下水、し尿等の生活排水、食品工場等の工場などから出る有機系産業排水を含む。
【0018】
本明細書において「活性汚泥」とは、有機物を分解する機能を有する好気性微生物の集団のことをいい、例えば、下水や排水に含まれる有機物を分解する微生物を繁殖させて生じる泥状の沈殿物を含み、中でも、食肉加工工場や魚介類加工工場等の食品加工工場から排出される活性汚泥が好ましい。
【0019】
本明細書において「酸素富化ガス」とは、空気よりも高い酸素濃度を有するガスのことをいい、純酸素ガスを含み得る。酸素富化ガスは、例えば、酸素を21体積%以上含むガスであり、好ましくは酸素を22体積%〜99.9体積%含むガス、より好ましくは酸素を30体積%〜93体積%含むガスである。酸素富化ガスとしては、例えば、窒素製造において副生ガスとして分離される酸素富化ガス、窒素製造において副生ガスとして分離される酸素富化ガスから製造された酸素ガスが使用できる。窒素製造において副生ガスとして分離される酸素富化ガスを使用することにより、排ガスを有効利用することができる。
【0020】
[余剰汚泥の発生抑制方法]
本発明の余剰汚泥の発生抑制方法において、活性汚泥処理を行う曝気槽のMLSS濃度は、余剰汚泥の発生を抑制する点から、2000mg/L〜30000mg/Lに調整され、好ましくは4000mg/L〜20000mg/Lであり、より好ましくは8000mg/L〜15000mg/Lである。
【0021】
曝気槽のMLSS濃度は、例えば、改質した汚泥を曝気槽へ導入する量を調整すること、及び返送する汚泥を曝気槽へ返送する量を調整すること等を行うことにより調整することができる。
【0022】
汚泥の改質処理は、余剰汚泥の発生抑制の点から、例えば、粘質物質を産生する微生物を増殖及び/又は活性化することが好ましい。粘質物質を産生する微生物としては、例えば、バクテロイデス門、リゾビウム属、シュードモナス属、及びバークホルデリア属からなる群から選択される少なくとも1つに分類される1種類以上の微生物である。バクテロイデス門の微生物としては、例えば、ハリスコメノバクター属、及びレウィネラ属等が挙げられる。中でも、粘質物質を産生する微生物としては、余剰汚泥の発生抑制の点から、ハリスコメノバクター属、レウィネラ属、リゾビウム属、シュードモナス属、及びバークホルデリア属からなる群から選択される少なくとも1つに分類される1種類以上の微生物であることが好ましく、より好ましくはハリスコメノバクター属及び/又はレウィネラ属の微生物である。これらの微生物を増殖及び/又は活性化させて汚泥を改質し、改質した汚泥を用いて活性汚泥処理を行うことにより、例えば、曝気槽内の汚泥の凝集性を向上させることができる。すなわち、前記活性汚泥の改質処理において、余剰汚泥の発生抑制の点から、ハリスコメノバクター属及び/又はレウィネラ属の微生物を増殖及び/又は活性化させることが好ましい。これらの微生物は、例えば、これらの好気性微生物は、通常の下水処理場などの活性汚泥中に存在しうるが、溶存酸素の低い条件ではその存在量が小さい。一方、溶存酸素濃度(DO)が高い条件、例えば、10mg/L以上、13mg/L以上、15mg/L以上などの条件では、他の微生物よりも生存確率が高くなりその割合も増加する。これらの微生物は、例えば、下水処理場、または工場排水処理場の活性汚泥を高濃度の酸素で曝気することで入手可能である。
【0023】
上述の通り、溶存酸素濃度が高い条件であれば上記の微生物の割合を増加させることができることから、汚泥の改質処理を行う槽内の溶存酸素濃度は、例えば、10mg/L以上に調整されることが好ましく、より好ましくは13mg/L以上、さらに好ましくは15mg/L以上である。汚泥の改質処理を行う槽内の溶存酸素濃度の上限は、ガス導入設備のコスト低減の点から、30mg/L以下が好ましく、より好ましくは25mg/L以下、さらに好ましくは23mg/L以下である。したがって、汚泥の改質処理を行う槽内の溶存酸素濃度は、余剰汚泥の発生抑制及び設備コスト低減の点から、10〜30mg/Lが好ましく、より好ましくは13〜25mg/L、さらに好ましくは15〜23mg/Lである。
【0024】
前記改質処理を行った活性汚泥は、粘質物質を産生する微生物を含むことが好ましく、より好ましくはハリスコメノバクター属、レウィネラ属、リゾビウム属、シュードモナス属、及びバークホルデリア属からなる群から選択される少なくとも1つに分類される1種類以上の微生物を含み、さらに好ましくはハリスコメノバクター属、及び/又はレウィネラ属を含む。改質処理した活性汚泥に含まれる微生物において、ハリスコメノバクター属の微生物とレウィネラ属の微生物との合計の存在比がもっとも多いことが好ましい。改質処理した活性汚泥に存在する微生物におけるハリスコメノバクター属及び/又はレウィネラ属の微生物の存在比[(ハリスコメノバクター属の微生物とレウィネラ属の微生物との合計)/(曝気槽内に存在する微生物)]は、余剰汚泥の発生抑制の点から、20%以上であることが好ましく、より好ましくは25%以上である。
【0025】
汚泥の改質処理を行う槽内の溶存酸素濃度の調整方法は、特に制限されないが、例えば、槽底部に配置された散気管から酸素富化ガスを供給することで行うことができる。いずれの場合も、供給する酸素量を変えることで汚泥の改質処理を行う槽内の溶存酸素濃度を調整できる。溶存酸素濃度を均一にするため、曝気槽にはプロペラ型、タービン型、パドル型、スクリュー型などの撹拌機や、エアリフト用の内筒が備えられることが好ましい。また、より少ない酸素量で高い溶存酸素濃度を維持できる観点からは、汚泥の改質処理を行う槽を密閉型とすることが好ましく、さらに、前記槽に加圧してもよい。なお、溶存酸素濃度は、従来公知の溶存酸素濃度メータ(DOメータ)を使用して測定できる。
【0026】
曝気槽が前記汚泥の改質処理を行う槽を兼ね、曝気槽において汚泥の改質処理及び活性汚泥処理を行っても良いし、活性汚泥処理を行う曝気槽とは異なる槽(例えば、培養槽)で汚泥の改質処理を行ってもよい。中でも、処理効率向上の点から、曝気槽とは異なる槽で汚泥の改質処理を行うことが好ましい。曝気槽とは異なる槽で汚泥の改質処理を行う場合、汚泥の改質処理を行う槽に酸素富化ガスの曝気を行い、一方、曝気槽には空気曝気を行い有機排水の活性汚泥処理を行うことが好ましい。
【0027】
本発明の余剰汚泥の発生抑制方法において、より効率的な余剰汚泥の発生抑制の点からは、前記改質処理した活性汚泥として曝気槽に粘質物質を添加してもよい。粘質物質としては、改質処理を行った槽から得られた粘質物質が挙げられる。また、より効率的な余剰汚泥の発生抑制の点から、使用する活性汚泥(微生物)を予め前述した溶存酸素濃度と同程度の溶存酸素濃度の槽で培養して生物処理工程で使用する活性汚泥を準備する工程を含んでもよい。この工程を含むことにより、前述した微生物を選択的に取り出すことができ、より効率的に余剰汚泥の発生抑制が可能となる。
【0028】
[有機排水処理方法]
本発明は、その他の態様として、曝気槽内で微生物を用いて有機排水を活性汚泥処理する活性汚泥処理工程、及び前記生物処理工程で処理された有機排水を沈降分離することにより汚泥を回収する分離工程、を含む有機排水処理方法であって、前記分離工程で回収した汚泥に酸素富化ガスを曝気することにより改質処理した汚泥を用いて、曝気槽内のMLSS濃度を2000mg/L以上に維持しながら前記活性汚泥処理工程を行うことを含む余剰汚泥の発生抑制が可能な有機排水処理方法に関する。本発明の有機排水処理方法によれば、例えば、余剰汚泥の発生抑制しつつ、効率よく有機排水処理を行うことができる。
【0029】
本発明の有機排水処理方法における活性汚泥の改質及びMLSS濃度の調整については、本発明の余剰汚泥の発生抑制方法と同様である。
【0030】
[活性汚泥の製造方法]
本発明は、さらにその他の態様として、活性汚泥に酸素富化ガスの曝気を行うことを含む改質した活性汚泥の製造方法に関する。本発明の活性汚泥の製造方法によれば、例えば、改質され、余剰汚泥の発生抑制に有用な活性汚泥を製造することができる。
【0031】
本発明の活性汚泥の製造方法における活性汚泥の改質については、本発明の余剰汚泥の発生抑制方法と同様である。
【0032】
改質した活性汚泥は、例えば、下水処理場又は工場排水処理場等の活性汚泥と、生物によって分解され易い既知の有機化合物とを主成分とし、窒素を20〜100mg/L、リンを1〜10mg/Lとなるように栄養塩を添加して調製した液とを用い、溶存酸素(DO)を10mg/L以上で曝気を行うことによって製造することができる。生物によって分解され易い既知の有機化合物としては、例えば、グルコース、ペプトン、及びスキムミルク等が挙げられる。
【0033】
以下、本発明について図面を用いて詳細に説明する。但し、以下の説明は一例に過ぎず、本発明はこれに限定されないことはいうまでもない。
【0034】
(実施の形態1)
実施の形態1として、活性汚泥の改質処理を曝気槽とは異なる槽(以下、「培養槽」という)で行う場合を例にとり説明する。図1は、本発明に使用する処理装置の構成の一例を示す概略図である。本実施の形態1において、処理装置は、曝気槽1、沈殿槽2、及び培養槽3を備える。曝気槽1と沈殿槽2とはパイプP2によって接続し、沈殿槽2と培養槽3とはパイプP3によって接続し、培養槽3と曝気槽1とはパイプP5及びP1によって接続している。
【0035】
曝気槽1は、パイプP1によって流量調整槽(図示せず)と接続し、パイプP1を通じて有機排水を導入可能である。曝気槽1は、槽内に散気管4を備え、散気管4を通じて槽内の有機排水に酸素を含むガスを供給することができる。曝気槽1で活性汚泥処理された処理水は、パイプP2を通じて沈殿槽2に導入される。沈殿槽2内では、処理水の沈降分離を行うことにより汚泥と上澄み(分離液)とを分離する。沈殿槽2で沈澱した汚泥はパイプP3を通じて培養槽3に導入される。一方、上澄み(分離液)は、パイプP4を通じて外部に排出される。
【0036】
パイプP3を通じて培養槽3に導入された汚泥は、培養槽3において酸素富化ガスが供給された状態で培養されることにより、改質処理が行われる。酸素富化ガスは、培養槽3内に配置された散気管5を通じて供給される。培養槽3で改質処理された活性汚泥は、パイプP5及びP1を通じて曝気槽1に返送される。一方、余剰汚泥は、パイプP6を通じて排出される。
【0037】
(実施の形態2)
実施の形態2として、曝気槽が汚泥の改質処理を行う槽を兼ねる場合を例にとり説明する。図2は、本発明に使用する処理装置の構成の一例を示す概略図である。本実施の形態2において、処理装置は、曝気槽11及び沈殿槽12を備える。曝気槽11と沈殿槽12とはパイプP12及びP15,11によって接続している。
【0038】
曝気槽11は、パイプP11によって流量調整槽(図示せず)と接続し、パイプP11を通じて有機排水を導入可能である。曝気槽11は、槽内に散気管14を備え、散気管14を通じて槽内の有機排水に酸素富化ガスを供給することができ、これにより活性汚泥処理と汚泥の改質処理とを同時に行うことができる。曝気槽11で活性汚泥処理された処理水は、パイプP2を通じて沈殿槽12に導入される。沈殿槽12内では、処理水の沈降分離を行うことにより汚泥と上澄み(分離液)とを分離する。沈殿槽12で沈澱した汚泥はパイプP15及び11を通じて曝気槽11に返送され、余剰汚泥はパイプP16を通じて排出される。一方、上澄み(分離液)は、パイプP14を通じて外部に排出される。
【0039】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明はこれに限定して解釈されない。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
図1の概略図に示す装置にて、有機排水の生物処理を行う。該装置は、容積3Lの曝気槽1を備え、容量2Lの分離槽(沈殿槽)2及び容量3Lの培養槽3が付設されている。曝気槽1にはブロワーから散気管4により空気曝気を行い、培養槽3に酸素曝気を行う(酸素:50体積%)。曝気槽1の外側の槽は恒温槽(図示せず)となっており、この恒温槽により曝気槽1内の温度を25〜30℃に設定する。pHは5.0〜7.0、曝気槽1のHRT(水理学的滞留時間:Hydraulic Retention Time)を12hとし、分離槽2のHRTを8hとする。活性汚泥は、下水処理場の活性汚泥を使用する。
【0041】
溶存酸素濃度(DO)の設定
曝気槽1の溶存酸素濃度(DO)は、2mg/Lに設定する。培養槽3の溶存酸素濃度(DO)は、15mg/Lに設定する。
【0042】
生物処理
有機排水を曝気槽1に投入した(投入量は6L/日)。活性汚泥は曝気槽1の容積が3Lになるようにポンプで管P2から引き抜き、分離槽2に送る。分離槽2では固液分離が行われ、沈降分離した活性汚泥はポンプで管P3を通して培養槽3に送る。培養槽3で汚泥改質処理を行い、処理後の汚泥を曝気槽1に返送する。
【0043】
測定項目
溶存酸素濃度測定は、フロー式を採用し、曝気槽からポンプで汚泥を循環させて曝気槽外で溶存酸素濃度を測定する。測定には、市販のDOメーターを使用する。曝気槽内の処理水をサンプリングして、MLSS測定及びSV測定を行う。SVは、1Lのメスシリンダーにサンプリングした処理水を1L入れ、30分静置した後の沈殿汚泥の容積(mL)の割合のことをいう。SVIは、得られたMLSS及びSVを用いて下記式から算出できる。
SVI=SV×10,000/MLSS
【0044】
活性汚泥の微生物の特定
培養槽内の汚泥を採取し、PCR−DGGE法を用いて16SrRNAの解析を行い、微生物同定を行う。
【0045】
(実施例2)
図2の概略図に示す装置にて、有機排水の生物処理を行った。該装置は、容積3Lの曝気槽11を備え、容量2Lの分離槽(沈殿槽)12が付設されている。曝気槽11にはブロワーから散気管14により酸素曝気を行い、実施例1と同様の測定を行った。その結果を図3及び4に示す。曝気槽11の外側の槽は恒温槽(図示せず)となっており、この恒温槽により曝気槽11内の温度を25〜30℃に設定した。pHは5.0〜7.0、曝気槽のHRTは12hとした。有機排水は、スキムミルクを主成分とした模擬廃水を使用した。活性汚泥は、下水処理場の活性汚泥を使用した。
【0046】
溶存酸素濃度(DO)の設定
曝気槽11の溶存酸素濃度(DO)は、15mg/Lに設定した。
【0047】
生物処理
有機排水を曝気槽11に投入した(投入量は6L/日)。活性汚泥は曝気槽11の容積が3Lになるようにポンプで管P2から引き抜き、分離槽12に送った。分離槽12では固液分離が行われ、沈降分離した活性汚泥はポンプで管P15を通して曝気槽11に返送した。
【0048】
(比較例)
曝気槽における曝気を酸素曝気に替えて空気曝気とし、曝気槽の溶存酸素濃度(DO)を2mg/Lとした以外は、実施例2と同様に行った。
【0049】
結果
図3にMLSS濃度とSVIの関係を示す。同図からMLSS濃度が高くなるにつれ、SVIが減少していることがわかる。とりわけ、MLSS濃度が8000mg/Lを超えるとSVIは100以下に下がり、14000mg/Lを超えるとSVIは70以下に下げることができた。このように、高濃度のMLSS濃度で活性汚泥処理を行うにも関わらずSVIを低減させることができた。つまり、培養槽で汚泥の酸素曝気処理を行うことにより、汚泥が凝集性のよい汚泥に改質され、その汚泥を用いて高濃度のMLSS濃度で有機排水処理を行うことにより、余剰汚泥の発生を抑制することができた。
【0050】
DO 15mg/Lにおける微生物を同定したところ、バクテロイデス門に分類される微生物(中でも、ハリスコメノバクター属及びレウィネラ属の微生物)、リゾビウム属、シュードモナス属、及びバークホルデリア属の微生物が同定された。
【0051】
図4に実施例2及び比較例におけるDOとSVIの関係を示す。なお、同図のSVIは、曝気槽におけるMLSS濃度が4000mg/Lである場合の値である。同図から、酸素曝気を行った実施例2は、空気曝気を行った比較例に比べてSVIが減少していることがわかる。つまり、酸素曝気を行うことにより、汚泥の凝集性が向上し、余剰汚泥の発生を抑制することができるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上、説明したとおり、本発明によれば、例えば、余剰汚泥の発生が抑制された有機排水の処理方法を実現できる。
【符号の説明】
【0053】
1,11 曝気槽
2,12 沈殿槽
3, 培養槽
4,5,14 散気管
P1〜P6 パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
余剰汚泥の発生を抑制する方法であって、
酸素富化ガスの曝気により改質処理した活性汚泥を使用し、かつ、曝気槽内のMLSS濃度を2000mg/L〜30000mg/Lに維持しながら、曝気槽内で微生物を用いて有機排水を活性汚泥処理することを含む、余剰汚泥の発生抑制方法。
【請求項2】
前記汚泥の改質処理は、ハリスコメノバクター属、レウィネラ属、リゾビウム属、シュードモナス属、及びバークホルデリア属からなる群から選択される少なくとも1つに分類される1種類以上の微生物を増殖及び/又は活性化することを含む、請求項1記載の余剰汚泥の発生抑制方法。
【請求項3】
前記汚泥の改質処理は、改質処理を行う槽内の溶存酸素濃度を10mg/L以上に維持しながら酸素富化ガスを曝気することを含む、請求項1又は2に記載の余剰汚泥の発生抑制方法。
【請求項4】
前記汚泥の改質処理を前記曝気槽とは異なる槽で行い、改質処理した活性汚泥を前記改質処理を行った槽から活性汚泥処理を行う前記曝気槽に導入することを含む、請求項1から3のいずれかに記載の余剰汚泥の発生抑制方法。
【請求項5】
前記改質処理を行う槽は、酸素富化ガスの曝気を行い、前記曝気槽は、空気曝気を行う、請求項4記載の余剰汚泥の発生抑制方法。
【請求項6】
前記改質処理した活性汚泥として、前記改質処理を行った槽から得られた粘質物質を前記曝気槽に添加することを含む、請求項4又は5に記載の余剰汚泥の発生抑制方法。
【請求項7】
前記曝気槽が前記汚泥の改質処理を行う槽を兼ね、前記曝気槽において前記汚泥の改質処理及び活性汚泥処理を行う、請求項1から3のいずれかに記載の余剰汚泥の発生抑制方法。
【請求項8】
曝気槽内で微生物を用いて有機排水を活性汚泥処理する活性汚泥処理工程、及び
前記生物処理工程で処理された有機排水を沈降分離することにより汚泥を回収する分離工程を含む有機排水処理方法であって、
前記分離工程で回収した汚泥に酸素富化ガスの曝気を行うことにより改質処理した活性汚泥を用いて、曝気槽内のMLSS濃度を2000mg/L〜30000mg/Lに維持しながら前記活性汚泥処理工程を行うことを含む、余剰汚泥の発生抑制が可能な有機排水処理方法。
【請求項9】
活性汚泥に酸素富化ガスの曝気を行うことを含む、改質した活性汚泥の製造方法。
【請求項10】
前記活性汚泥の微生物を増殖及び/又は活性化することを含み、前記微生物は、ハリスコメノバクター属、レウィネラ属、リゾビウム属、シュードモナス属、及びバークホルデリア属からなる群から選択される少なくとも1つに分類される1種類以上の微生物である、請求項9記載の改質した活性汚泥の製造方法。
【請求項11】
溶存酸素濃度を10mg/L以上に維持しながら曝気を行うことを含む、請求項9又は10に記載の改質した活性汚泥の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−143748(P2012−143748A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−278478(P2011−278478)
【出願日】平成23年12月20日(2011.12.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】