説明

作業機械のエンジンフード開放保持構造

【課題】作業機械のエンジンフードを開放位置に保持するための、エンジン室との間に設置されるステーが、エンジンフードを閉めた状態において、エンジン室内の高温、またエンジンの放射熱などによって高温に熱せられないようにする。
【解決手段】エンジンフード(18)を「開放位置」に解除を自在に保持するステー(22)が、一端をエンジンフード18に回動自在に、他端をエンジン室(12)から隔壁(13)によって仕切られた隣室(16)に備えた案内溝(26)に移動自在に、それぞれ連結され、エンジンフード(18)「閉鎖位置」におけるステー(22)を隣室(16)内に位置付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械のエンジン室を開閉自在に閉じるエンジンフードの開放保持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械、例えば油圧ショベルは、エンジン室の上面を開閉自在に閉じる回動自在に取り付けられたエンジンフードを備えている。代表的なエンジンフードは、エンジン室の上面の一側にヒンジによって取り付けられこのヒンジを中心に他側が上方に持ち上げられ開放される。エンジンフードの開放位置は、エンジン室の上面との間に差し渡された棒状のステーによって保持される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
周知のステーは、一端がエンジン室の上面にピンによって回動自在に連結され、他端がエンジンフードに形成された案内溝にスライド移動を自在に取り付けられている。開放位置は、案内溝に備えた切込み部にステーの他端を係合させることにより保持される。
【0004】
エンジンフードを閉じる場合、作業者は手操作によりステーと案内溝の切込み部との係合を解除し、エンジンフードを閉じ方向に自在に動けるようにする。このときステーの他端は案内溝の中を自在にスライドし移動する。閉鎖位置におけるステーは、エンジンフードの閉じられたエンジン室内に位置付けられる。
【特許文献1】特開平8−254299号公報(第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したとおりの形態の作業機械のエンジンフード開放保持構造には、次のとおりの解決すべき課題がある。
【0006】
すなわち、作業機械のエンジン室内は、作業の負荷が大きく発熱が大きいエンジンによって高温になる。また、作業機械のエンジン室は、周囲騒音の規制などによって、エンジン騒音の放出を抑えるために密閉度が向上された構造になっている。さらに、エンジン室には排気マフラーなどの発熱源が一緒に配設されている。したがって、作業機械のエンジン室の中はかなりの高温状態になる。
【0007】
一方、エンジンフードを開放位置に保持するステーは、エンジンフードを閉めた状態でエンジン室内に位置しているので高温にさらされる。また、ステーは鋼管、鋼棒のような材料によって形成されるので熱せられやすい。このような状態において、エンジンフードを開放する場合、ステーは作業者が素手で触れるのが難しいほどに熱くなっているので、エンジンフードの開放と同時にステーを操作し所定の位置にするのは困難である。また、エンジンフードを開放した時に、熱くなったステーが無意識の作業者に触れ作業者を驚かせてしまうことがある。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、作業機械のエンジンフードを開放位置に保持するためのエンジン室との間に設置されるステーが、エンジンフードを閉めた状態において、エンジン室内の高温、またエンジンの放射熱などによって高温に熱せられないようにし、エンジンフードの開放と同時に作業者がステーを操作しエンジンフードを開放位置に保持できるようにした、作業機械のエンジンフード開放保持構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記技術的課題を解決する作業機械のエンジンフード開放保持構造として、作業機械のエンジン室を開閉自在に閉じる回動自在に取り付けられたエンジンフードを、「開放位置」に解除を自在に保持するステーを備え、このステーが、一端をエンジンフードに回動自在に、他端をエンジン室から隔壁によって仕切られた隣室に備えた案内溝に移動自在に、それぞれ連結され、エンジンフード「閉鎖位置」においてステーがこの隣室内に位置付けられている、ことを特徴とする作業機械のエンジンフード開放保持構造が提供される。
【0010】
好適には、エンジンフードは、ステーの一端との連結部をエンジンフード「閉鎖位置」において隣室内に位置付けるエンジンフードに突設したブラケットを備えている。また、案内溝は、平板部材に長穴状に形成され、ステーの他端は、案内溝に摺動自在に嵌合する一体に突設された軸と、この軸の先端部に一体に取り付けられステーとの間に平板部材を位置付けるワッシャとを備え、平板部材は、案内溝に連通しこのワッシャの挿脱を可能にした挿通穴を備えている。
【0011】
さらに、隣室はエンジンフードの開閉に応じてステーが出入りする開口部を備えている。そして、隣室は、エンジン室のエンジンにより駆動される油圧ポンプを収容したポンプ室である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従って構成された作業機械のエンジンフード開放保持構造は、エンジン室を開閉自在に閉じるエンジンフードを「開放位置」に解除を自在に保持するステーが、一端をエンジンフードに回動自在に、他端をエンジン室から隔壁によって仕切られた隣室に備えた案内溝に移動自在に、それぞれ連結されており、エンジンフード「閉鎖位置」においてステーはこの隣室内に位置付けられる。したがって、エンジンフード「閉鎖位置」においてステーは、エンジン室の高温、エンジンの放射熱などによって熱せられないので、エンジンフード開放と同時に作業者はステーを操作しエンジンフードを開放位置に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に従って構成された作業機械のエンジンフード開放保持構造について、代表的な作業機械である油圧ショベルにおける好適実施形態を図示している添付図面を参照して、さらに詳細に説明する。
【0014】
図7を参照して油圧ショベルについて説明する。全体を番号2で示す油圧ショベルは、下部走行体4と、下部走行体4上に旋回自在に取り付けられた上部旋回体6を備えている。上部旋回体6には、バケット9を装備した多関節の作業装置8、運転室10、および動力源のエンジンを収容したエンジン室12などが備えられている。
【0015】
図6を参照してエンジン室12について説明する。上部旋回体6に備えたエンジン室12内には、エンジン本体12a、ラジエータ12b、排気マフラー12c、ターボチャージャ12d、エアクリーナ12eなどの機器類が収容されている。エンジン本体12aの動力取出部(図6の左側部)には、油圧動力源である油圧ポンプ14が直結されている。油圧ポンプ14は、エンジン室12から隔壁13によって仕切られた隣室であるポンプ室16内に位置付けられている。隔壁13は、ポンプ室16とエンジン室12を隔離して油漏れによる万一の出火を予防する防火壁の機能を備えた周知のものである。
【0016】
エンジン室12の上面は、収容した機器類の着脱また保守点検のために開口されており、この開口は開閉自在な、開放位置に保持可能なエンジンフード18によって閉じられている。
【0017】
図1および図2を参照して、エンジンフード18を開放位置に解除自在に保持する開放保持構造について説明する。エンジンフード開放保持構造20は、エンジンフード18を「開放位置」(図1および図2に実線で示す位置)に解除を自在に保持するステー22を備えている。ステー22は、一端をエンジンフード18に備えたブラケット18aに回動自在に、他端をエンジン室12から隔壁13によって仕切られたポンプ室16内に備えた平板部材24に形成された案内溝26にスライド移動を自在にそれぞれ連結されている。ステー22は、エンジンフード「閉鎖位置」(図2に二点鎖線で示す位置)においては、ポンプ室16内に位置している。
【0018】
エンジンフード18は、エンジン室22の上面の開口を閉じる外方に凸の矩形凹蓋状に形成され、一側がエンジン室12の上面に一対のヒンジ18bによって回動自在に取り付けられ、ヒンジ18bを中心に他側が上下に移動され開閉される。このエンジンフード18のヒンジ18bの他側には開閉のときに作業者が手をかける一対のハンドル18cが備えられている。エンジンフード18の周縁には、合成ゴムによって形成されたエッジシール18dが取り付けられている。
【0019】
エンジンフード18のブラケット18aは、エンジンフード18の矩形の縁部の内側に、ポンプ室16に向けて突出して備えられ、エンジンフード18「閉鎖位置」においてステー22との連結部をポンプ室16内に位置付けている(図2に二点鎖線で示す)。
【0020】
図3を参照してステー22について説明する。ステー22は、真直な鋼管の両端を平坦に潰した端部28a、28bを有するステー本体22aと、ステー本体22aの一側の端部28aに一体的に接合した、外側に突設した軸22bおよびこの軸22bに所定の間隔Tを備えて取り付けた一対の直径dのワッシャ22c、22cと、ステー本体22aの両端部28a、28bを除く略全長にわたって被せたゴム管22dを備えている。平坦な端部28a、28bは、ステー本体22aの直径方向において反対側にして平行に位置付けられている。他方の端部28bにはピン孔28cが形成されている。ステー22の長さ、すなわちピン孔28cと軸22bの間の長さは、エンジンフード18の開閉の動きに合わせて決定されている。ゴム管22dは、耐熱性、耐候性、耐薬品性などを有した比較的薄手の合成ゴムによって形成されている。
【0021】
案内溝26について図2とともに図4、主として図4を参照して説明する。案内溝26は厚さtの平板部材24にエンジンフード18の回動中心のヒンジ18bの側から隔壁13に沿って徐々に下方に傾斜する幅Wの長穴状に形成されている。案内溝26のヒンジ18b側の端(図4の左端)には長穴を鉤状に下方に曲げた切込み部26aを備えている。案内溝26の他端(図4の右端)は上方に形成した、ステー22の直径dのワッシャ22c(図3)が挿脱可能な挿通穴26bにつながっている。平板部材24は、厚さtの帯状の平板の長手方向両端の折り曲げ部が隔壁13に固定されている。
【0022】
図1〜図4とともに図5を参照して、ステー22の取り付け、すなわちエンジンフード18のブラケット18aと、ポンプ室16の平板部材24の案内溝26への連結について説明する。
【0023】
図5(a)を参照して説明すると、エンジンフード18のブラケット18aとステー22の端部28bは、端部28bの両側にワッシャ30、30を介在させてピン32を通し、コッターピン34によって抜け止めして、連結されている。
【0024】
図5(b)を参照して説明すると、ステー22の端部28aは、一体になった軸22b先端のワッシャ22cが挿通穴26b(図4)を通され、間隔Tの一対のワッシャ22c、22cが厚さtの平板部材24を跨ぎ、案内溝26に連結されている。前述の間隔Tはその間に厚さtの平板が摺動自在になる大きさに規定されている。
【0025】
かくして、ステー22の端部28bは、エンジンフード18の開閉の動き(図2に矢印Yで示す)に応じて案内溝26をスライド移動(図2に矢印Zで示す)する。
【0026】
エンジンフード18の開閉とステー22の動作について主として図2および図4を参照して説明する。エンジンフード18をそのハンドル18cを持ってヒンジ18bを中心に上方に回動させ「開放位置」にしたときには、案内溝26をスライド移動するステー22の端部28aの軸22bを案内溝26の切り込み部26aに係合させることにより、エンジンフード18はステー22によって「開放位置」に保持される。
【0027】
エンジンフード18を閉じるには、この係合を、エンジンフード18をさらに開放方向に動かして解除し、エンジンフード18を下方に回動させ「閉鎖位置」にする。このときステー22は、エンジンフード18のブラケット18aとの連結部がポンプ室16内に位置付けられ、端部28aは案内溝26をスライド移動して案内溝26の他端側に位置付けられ、ポンプ室16内に完全に収容される(図2に二点鎖線で示す)。
【0028】
図1、図2および図5(b)を参照して説明すると、ポンプ室16は、その上面にエンジンフード18の開閉に応じてステー22が出入りする矩形の開口部36を備えている。この開口部36は、ステー22の移動を許容する最小限の大きさに形成され、ポンプ室16がエンジン室12から隔離されるようにする。隔離をさらに十分にするために、開口部36の内側にステー22の移動を可能にするスリットを有したゴムなどによる弾性シート38(図5(b))を取り付けてもよい。
【0029】
上述したとおりの作業機械のエンジンフード開放保持構造20の作用効果について説明する。
【0030】
エンジンフード開放保持構造20は、エンジン室12を開閉自在に閉じるエンジンフード18を「開放位置」に解除を自在に保持するステー22が、一端をエンジンフード18に回動自在に、他端をエンジン室12から隔壁13によって仕切られた隣室16に備えた案内溝26に移動自在にそれぞれ連結されており、エンジンフード18の「閉鎖位置」においてステー22はこの隣室16内に位置付けられる。したがって、エンジンフード18の「閉鎖位置」においてステー22は、エンジン室12の高温、エンジンの放射熱などによって熱せられないので、エンジンフード18開放と同時に作業者はステー22を操作してエンジンフード18を開放位置に保持することができる。
【0031】
エンジンフード18は、ステー22の一端との連結部をエンジンフード18「閉鎖位置」において隣室16内に位置付けるエンジンフード18に突設したブラケット18aを備えている。したがって、エンジンフード18「閉鎖位置」においてステー22を確実に隣室16内に位置付けることができる。また、隣室16に突入するブラケット18aを備えることにより、ステー22は真直でよく、製作が容易であり、製作コストも安くできる。
【0032】
案内溝26は、平板部材24に長穴状に形成されている。ステー22の端部28aは、案内溝26に摺動自在に嵌合する一体に突設された軸22bと、その先端部に一体に取り付けられステー22との間に平板部材24を位置付けるワッシャ22cを備えている。また平板部材24は、案内溝26に連通しこのワッシャ22cの挿脱を可能にした挿通穴26bを備えている。したがって、ステー22を案内溝26に容易に組み込み確実に連結することができる。
【0033】
隣室16は、上面にエンジンフード18の開閉に応じてステー18が出入りする開口部36を備えている。したがって、ポンプ室16は、エンジン室12から熱影響を受けないように十分に隔離される。
【0034】
また、隣室16は、エンジン室12のエンジンにより駆動される油圧ポンプ14を収容したポンプ室である。したがって、この種のポンプ室を備える周知の作業機械である油圧ショベルなどに、特別に改造を加えることなく、このエンジンフード開放保持構造20を低コストで容易に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に従って構成された作業機械のエンジンフード開放保持構造の部分を、エンジンフード「開放位置」で示した斜視図で、図7の矢印D方向の紙面の手前側から見た図。
【図2】図1のエンジンフード開放保持構造の要部を、図1の側方から見て示した図。
【図3】ステーの(a)正面図および(b)側面図。
【図4】案内溝が形成された平板部材の側面図。
【図5】(a)図2のA−A矢印方向に見た、エンジンフードとステーの連結部の拡大図。(b)図2のB−B矢印方向に見た、隣室の案内溝とステーの連結部の拡大図。
【図6】図7のC−C矢印方向に見たエンジン室部分の断面図。
【図7】作業機械としての油圧ショベルの側面図。
【符号の説明】
【0036】
2:油圧ショベル(作業機械)
12:エンジン室
13:隔壁
14:油圧ポンプ
16:ポンプ室(隣室)
18:エンジンフード
18a:ブラケット
20:エンジンフード開放保持構造
22:ステー
22b:軸
22c:ワッシャ
24:平板部材
26:案内溝
26b:挿通穴
36:開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械のエンジン室を開閉自在に閉じる回動自在に取り付けられたエンジンフードを、「開放位置」に解除を自在に保持するステーを備え、
このステーが、一端をエンジンフードに回動自在に、他端をエンジン室から隔壁によって仕切られた隣室に備えた案内溝に移動自在に、それぞれ連結され、
エンジンフード「閉鎖位置」においてステーがこの隣室内に位置付けられている、
ことを特徴とする作業機械のエンジンフード開放保持構造。
【請求項2】
エンジンフードが、
ステーの一端との連結部をエンジンフード「閉鎖位置」において隣室内に位置付けるエンジンフードに突設したブラケットを備えている、
ことを特徴とする請求項1記載の作業機械のエンジンフード開放保持構造。
【請求項3】
案内溝が、平板部材に長穴状に形成され、
ステーの他端が、
案内溝に摺動自在に嵌合する一体に突設された軸と、この軸の先端部に一体に取り付けられステーとの間に平板部材を位置付けるワッシャとを備え、
平板部材が、
案内溝に連通しこのワッシャの挿脱を可能にした挿通穴を備えている、
ことを特徴とする請求項1または2記載のエンジンフード開放保持構造。
【請求項4】
隣室が、エンジンフードの開閉に応じてステーが出入りする開口部を備えている、
ことを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載のエンジンフード開放保持構造。
【請求項5】
隣室が、エンジン室のエンジンにより駆動される油圧ポンプを収容したポンプ室である、
ことを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載のエンジンフード開放保持構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−112369(P2007−112369A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−307997(P2005−307997)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000190297)新キャタピラー三菱株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】