説明

作業機械のキャブ保護構造

【課題】作業機械のキャブ保護構造に関し、機体外側の側方からキャブの重心位置よりも上側の部分に加わる荷重に対して、簡素な構成でキャブを保護することができるようにする。
【解決手段】作業装置4aと作業装置4aの側方に配置されたキャブ10とを備えた作業機械のキャブ保護構造において、キャブ10が作業装置4a側に向かって荷重Fを受けて倒れ込んだ際に、キャブ10の作業装置4a側の支柱11Rが作業装置4aに接触する接触位置Yに、板状の補強プレート20を取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体外側の側方からキャブの上部に対して加わる荷重(横荷重)からキャブを保護する、作業機械のキャブ保護構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4に示すような代表的な作業機械である油圧ショベル1においては、図中に矢印で示すように機体外側の側方から荷重Fがキャブ10の上部に直に加わる事態に備えてキャブ10を補強するキャブ保護構造が種々開発されている。なお、図4中の符号2は下部走行体を示し、符号3は上部旋回体を示し、符号4はブーム4a,アーム4b及びバケット(作業具)4cを有する作業装置を示し、符号5はシャーシフレームを示している。
【0003】
例えば特許文献1には、キャブの上部を側方から支持する保護手段をキャブ外に設置して、キャブに加わる過大な外力によりキャブが変形することを防止する技術が開示されている。
詳細には、特許文献1に開示された保護手段は、角鋼管や丸鋼管で形成された主保護部材と副保護部材とを有して構成されている。主保護部材は、旋回体の底部に機体前後方向に並設された一対のメインフレームのうちの一方のメインフレームに立設され、且つキャブの屋根とほぼ同じ高さに形成されている。副保護部材は1つ又は複数個設けられ、少なくとも1つの副保護部材は、主保護部材の上部と一対のメインフレームのうちの他方のメインフレームとの間に斜めに設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−350948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引用文献1記載の技術によれば、主保護部材はキャブの屋根を支えるべくメインフレームから屋根まで延びるように立設されるために、その構造が過大となるという課題がある。また、メインフレームには各種の装置が設置されており、そこに両メインフレームを跨るように副保護部材が設けられると、各装置のレイアウトが制限されるとともに副保護部材がメンテナンス時に障害になるという課題がある。
【0006】
さらにキャブ10は一般的に、図5に示すように、良好な前方視界を確保するためにフロントピラー11L,11Rがリヤピラー12L,12Rよりも細く形成されている。そのため、キャブ10前側の強度が後側に比べて落ちるので、キャブ10前側の強度を高めることが望まれている。しかしながら、特許文献1記載の保護手段によれば、その設置場所が作業装置4の可動範囲を避けた位置に限定されるため、キャブ10の後端しか補強できないという課題がある。なお、図5中の符号13はドアを取り付けるためのセンタピラーを示している。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みて案出されたもので、機体外側の側方からキャブの重心位置よりも上側の部分に加わる荷重に対して、簡素な構成でキャブを保護することができるようにした、作業機械のキャブ保護構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の作業機械のキャブ保護構造は、作業装置と前記作業装置の側方に配置されたキャブとを備えた作業機械のキャブ保護構造であって、前記キャブが前記作業装置側に向かって荷重を受けて倒れ込んだ際に、前記キャブの前記作業装置側の支柱が前記作業装置に接触する接触位置に、板状の補強プレートが取り付けられていることを特徴としている。ここで、前記荷重は、前記キャブの重心位置よりも上側の部分に受けるものとする。また、前記接触位置は、前記作業装置側から前記キャブを見た側面視で前記支柱と前記作業装置の上面とが重なる位置の近傍が前記接触位置として設定される。
【0009】
なお、前記接触位置は、前記作業装置が最大リーチ姿勢をとっている状態での接触位置であることが好ましい。また、前記支柱は、前記キャブの前記作業装置側且つ前側の支柱であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の作業機械のキャブ保護構造によれば、キャブの作業装置側の支柱に板状の補強プレートを取り付けるという簡素な構成で、機体外側の側方から作業装置側に向かってキャブの重心位置よりも上側の部分に対して加わる荷重を受けて変形しやすい支柱を補強することができ、その結果、そのような荷重からキャブを保護することができる。
また、補強プレートの取付位置はキャブが作業装置側に倒れ込んだ際に前記支柱が作業装置に接触する接触位置に限定されるので、補強プレートの大きさを必要最小限に抑えてより簡素な構成にすることができる。また、支柱上に補強プレートを取り付けるので、オペレータの視界を阻害しないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る作業機械のキャブ保護構造を示す模式的な側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る作業機械のキャブ保護構造を示す模式的な斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る作業機械のキャブ保護構造の補強プレートの取付位置を説明するための模式的な斜視図である。
【図4】一般的な油圧ショベルを模式的に示す斜視図である。
【図5】一般的な油圧ショベルのキャブの支柱と視界範囲との関係を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面により本発明の作業機械のキャブ保護構造の実施の形態について説明する。図面は、従来技術を説明する際に用いた図面も流用しながら説明する。
<構成>
本実施形態の作業機械のキャブ保護構造は、図4に示すような油圧ショベル1のキャブ10に好適に適用されるものである。
【0013】
油圧ショベル1は、下部走行体2と、下部走行体2上に旋回自在に結合された上部旋回体3と、上部旋回体3の前部中央から前方へ延出するように設置されて種々の作業を行なう作業装置4とを備えている。作業装置4は、ブーム4aとアーム4bとバケット等の作業具4cとを有している。
上部旋回体3は架台としてのシャーシフレーム5を有しており、シャーシフレーム5は、機体幅方向中央に位置し且つ機体前後方向に延在する左右一対のメインフレーム5a(図3参照)を有している。
【0014】
各メインフレーム5aの前部には、図3に示すように、ブーム4aの基端部を支持するブームフート部5bが設けられている。シャーシフレーム5の前部左側には、ブームフート部5bに支持されたブーム4aに隣接するように、オペレータ室としてのキャブ10が載置されている。すなわち、キャブ10は作業装置4の側方に設置されている。
キャブ10は、図5に示すように、キャブ前面に互いに離隔して設置される左右一対のフロントピラー(前側の支柱)11L,11Rと、キャブ後面に互いに離隔して設置される左右一対のリヤピラー(後側の支柱)12L,12Rと、レフトフロントピラー11Lとレフトリヤピラー12Lとの間に設置されるセンタピラー(ドア取付用支柱)13とを備えている。
【0015】
また、キャブ10は、図3に示すように、左右一対のフロントピラー11L,11Rの上端部を連結するフロントルーフメンバ14と、左右一対のリヤピラー12L,12Rの上端部を連結するリヤルーフメンバ15と、レフトフロントピラー11L,レフトリヤピラー12L及びセンタピラー13の各上端部を連結するレフトルーフメンバ16と、ライトフロントピラー11R及びライトリヤピラー12Rの各上端部を連結するライトルーフメンバ17とを備えている。なお、図3においては、キャブ10は天井面に設置される天井窓を取り外した状態で描かれている。
【0016】
各ピラー11L,11R,12L,12R,13及び各メンバ14,15,16,17はそれぞれ、鋼板により中空に形成された構造物であり、その断面形状は要求される強度や窓ガラスの取り付け等を考慮して任意に設定される。
レフトフロントピラー11Lとレフトルーフメンバ16とは、図3に示すように一体に形成されていても良いし(つまり、例えば一本の鋼管を角部で湾曲させるようにして形成されていても良いし)、あるいは、別体に形成されて角部においてジョイントで結合されていても良い。同様に、ライトフロントピラー11Rとライトルーフメンバ17とについても、一体に形成されていても良いし、あるいは、別体に形成されて角部においてジョイントで結合されていても良い。
【0017】
図1及び図2に示すように、本実施形態では、ライトフロントピラー11Rの所定の位置Yが、補強プレート20によって補強されるようになっている。補強プレート20は板金で形成された矩形の板状の部材であって、ライトフロントピラー11Rのキャブ外側の表面に、溶接やあるいはボルトやリベット等の固定手段で取り付けられている。
上記所定の位置Yは、図3に示すように、キャブ10の重心位置よりも上側の部分(以下、単に上部ともいう。ここでは、キャブ10のレフトルーフメンバ16付近、つまり機体外側の屋根付近を例示する)に対して機体外側の側方からブーム4a側に向かって荷重(以下、横荷重ともいう)Fが加わり、キャブ10がブーム4a側(機体内側)に倒れ込んだ際に、ライトフロントピラー11Rがブーム4aに接触する可能性のある接触位置Yである。
【0018】
具体的には、接触位置Yは、常態時に油圧ショベル1をその右側方から見た側面視において、つまりキャブ10の変形前の側面視で、ライトフロントピラー11Rとブーム4aの上面とが重なる位置(交差位置)Xの近傍を接触位置として設定することができる。
本発明者らの知見によれば、キャブ10が過大な横荷重Fを受けてブーム4a側に倒れ込むときには、その荷重点の前後位置及びキャブ10の前後強度バランスによりキャブ10の変形挙動が変化し、したがって、ブーム4aとの接触位置も変化する。そして、ライトフロントピラー11Rは真横に変形するとは限らず、むしろ若干後ろ寄りに倒れ込んでブーム4aの低い位置に接触すると考えられる。接触位置Yは、このようなキャブ10の変形挙動の変化を考慮して接触する可能性のある範囲が接触位置として設定される。
【0019】
補強プレート20は、上記の交差位置よりも少し低い位置を含んだ、交差位置近傍の所定の範囲を接触位置Yとして補強するように取り付けられて、キャブ10の変形挙動の変化にも対応し、接触する可能性のある位置をカバーすることが可能となっている。
この接触位置Yは、ブーム4aが最大リーチ姿勢をとっている状態での接触位置Yに限定して設定されていれば好ましい。このとき、補強プレート20の上下方向の長さは、接触位置Yを中心とした適宜の長さで設定される。
【0020】
また、補強プレート20の上下方向の長さは、ブーム4aの上下揺動範囲に応じた長さに設定しても良い。つまり、ブーム4aが最大リーチ姿勢をとっている状態での接触位置Yを下端部として上方の適宜の位置まで延びる長さに設定しても良い。
【0021】
<作用・効果>
本発明の一実施形態に係る作業機械のキャブ保護構造は上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。
図3に示すように、キャブ10の上部に対して機体内側に向かって過大な横荷重Fが作用すると、この横荷重Fを受けてキャブ10はブーム4a側に倒れ込み、ライトフロントピラー11Rがブーム4aに接触する。ライトフロントピラー11Rが断面角形状のブーム4aの角Pと接触すると、ライトフロントピラー11Rには角Pでつまり接触位置Yで局部的に過大な荷重がかかる。ライトフロントピラー11Rに過大な荷重がかかった場合、ライトフロントピラー11Rは接触位置Yで座屈するように変形するおそれがある。
【0022】
本実施形態では、ライトフロントピラー11Rがブーム4aに接触する可能性のある位置Yに補強プレート20を取り付けているので、補強プレート20が荷重を受けてその荷重を分散し軽減することが可能になり、キャブ10が横荷重Fを受けた際にキャブ10が局部的に変形することを抑制してキャブ10を保護することができる。
また、ブーム4aが最大リーチ姿勢をとっている状態での接触位置Yに補強プレート20が設置されていれば、機体の姿勢が最も不安定な状態において効果的にキャブ10を保護することができる。
【0023】
また、ライトフロントピラー11Rに補強プレート20を取り付けるだけなので、簡素な構成でキャブ10を保護することができる。さらに、補強プレート20の取付位置はキャブ10がブーム4a側に倒れ込んだ際にライトフロントピラー11Rがブーム4aに接触する接触位置Yに限定されるので、補強プレート20の大きさを必要最小限に抑えてより簡素な構成にすることができる。
【0024】
また、ライトフロントピラー11Rの表面上に補強プレート20を取り付けるのでオペレータの視界が阻害されないという利点がある。さらに、前方視界を確保するためにライトフロントピラー11Rを細く形成しながら、その強度を上げることができるという利点がある。
【0025】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。
例えば、上記実施形態では、補強プレート20は矩形の板状に形成されているが、その他の形状、例えば楕円形状の板状に形成されていても良い。
【0026】
また、上記実施形態の作業機械のキャブ保護構造は、油圧ショベル1のキャブ10に適用されることに限定されず、作業装置の側方にキャブが存在し、キャブの重心位置よりも上側の部分が作業装置側に向かって過大な荷重を受けて作業装置に接触する場面が想定される作業機械、例えばクレーン等のキャブにも好適に使用することができる。このとき、作業機械の種類に応じて補強プレートを取り付ける支柱は設定され、ライトフロントピラー11R以外の支柱に補強プレートを取り付けても勿論良い。
【符号の説明】
【0027】
1 油圧ショベル
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 作業装置
4a ブーム
4b アーム
4c バケット
5 シャーシフレーム
5a メインフレーム
10 キャブ
11L レフトフロントピラー
11R ライトフロントピラー(支柱)
12L レフトリヤピラー
12R ライトリヤピラー
13 センタピラー
14 フロントルーフメンバ
15 リヤルーフメンバ
16 レフトルーフメンバ
17 ライトルーフメンバ
20 補強プレート
F 荷重
P ブームの角
Y 接触位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業装置と前記作業装置の側方に配置されたキャブとを備えた作業機械のキャブ保護構造であって、
前記キャブが前記作業装置側に向かって荷重を受けて倒れ込んだ際に、前記キャブの前記作業装置側の支柱が前記作業装置に接触する接触位置に、板状の補強プレートが取り付けられている
ことを特徴とする、作業機械のキャブ保護構造。
【請求項2】
前記接触位置は、前記作業装置が最大リーチ姿勢をとっている状態での接触位置である
ことを特徴とする、請求項1記載の作業機械のキャブ保護構造。
【請求項3】
前記支柱は、前記キャブの前記作業装置側且つ前側の支柱である
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の作業機械のキャブ保護構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−202452(P2011−202452A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72439(P2010−72439)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】