説明

作業機械の油圧駆動装置

【課題】排気ガスの温度を粒子状物質の燃焼に必要な温度まで上昇させるためにメインポンプの吐出圧を上昇させた場合に、オペレータの意図しない片ロッド形複動シリンダの挙動を確実に防止できる作業機械の油圧駆動装置を提供すること。
【解決手段】スプール弁61と片ロッド形複動シリンダ51のロッド室の間に介在する切換弁160と、この切換弁160を制御する手段(フィルタ再生時作動弁122、車体コントローラ150等)とを備え、切換制御手段は、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジン21の負荷が増大するようバイパスカット弁110が制御される場合に、切換弁160を作動させることによって、シリンダ51のロッド室からスプール弁61に向かう方向の圧油の流れを切換弁160のポペットにより阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンで生じた排気ガス中の粒子状物質をフィルタで捕集する排気ガス浄化装置を備えた油圧作業機械の油圧駆動装置であって、油圧作業機械の非操作状態においてエンジン出力を上昇させることで粒子状物質の燃焼に必要な熱を排気ガスにもたせ、フィルタを目詰まりさせている粒子状物質を燃焼させてフィルタを再生する作業機械の油圧駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械の一種である油圧ショベルの油圧駆動装置は、エンジンと、このエンジンの動力を伝達されて駆動されるメインポンプ(可変容量形油圧ポンプ)と、このメインポンプの吐出により駆動される片ロッド形複動シリンダと、メインポンプと油圧アクチュエータの間に介在するスプール弁とを備える。片ロッド形複動シリンダは、ピストンのロッド側に形成されるロッド室、および、シリンダチューブのボトム側に形成されるボトム室を有し、これらロッド室およびボトム室にメインポンプの吐出油を選択的に供給されて駆動されるものである。スプール弁は、メインポンプの吐出油を片ロッド形複動シリンダのロッド室に導きボトム室内の作動油を作動油タンクに導く第1作動位置、同吐出油を片ロッド形複動シリンダのボトム室に導きロッド室内の作動油を作動油タンクに導く第2作動位置、同吐出油を片ロッド形複動シリンダには導かずに作動油タンクに導く中立位置とに切換可能なものである。
【0003】
エンジンの排気ガスを作業機械の外部に導く排気管には、エンジンで生じた排気ガス中の粒子状物質をフィルタにより捕集する排気ガス浄化装置が設けられている。フィルタにより捕集された粒子状物質は、排気ガスの熱で燃焼されることによって、そのフィルタから除去される。
【0004】
油圧ショベルの非操作状態において、すなわちスプール弁の弁位置が中立位置に保持された状態において、エンジン出力は、油圧回路の冷却および潤滑に必要な最低吐出圧および最小吐出量の圧油を可変容量形油圧ポンプが吐出するのに必要な大きさまで低下するようになっている。
【0005】
エンジン出力が低くなれば排気ガスの温度も低くなる。これに伴い、排気ガスの熱による粒子状物質の燃焼が行われにくくなって、排気ガス浄化装置のフィルタが目詰まりしやすくなる。このフィルタの目詰まりを防止するために、従来の油圧駆動装置は、フィルタの目詰まりを検知したときに、エンジン出力を上昇させることを目的としてメインポンプの吐出圧を上昇させ、すなわちエンジンに作用する負荷を増加させ、排気ガスの温度を粒子状物質が燃焼するのに必要な温度まで上昇させるようになっている。(例えば特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3073380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
排気ガスの温度を粒子状物質の燃焼に必要な温度まで上昇させるためにメインポンプの吐出圧を上昇させた場合、スプール弁は中立位置に保持された状態なのだが、メインポンプの吐出圧がスプール弁から漏れて、この吐出圧が片ロッド形の複動シリンダに伝達されるおそれがある。
【0008】
片ロッド形複動シリンダにおいては、ピストンの受圧面積は、ピストンのロッド側よりもシリンダチューブのボトム側の方が大きい。したがって、ピストンのロッド側の受圧面とボトム側の受圧面の両方に同じ高さの圧力が作用した場合には、ボトム側からピストンを押圧する力はロッド側からピストンを押圧する力よりも大きくなる。この結果、ピストンはボトム側から押し動かされ、片ロッド形複動シリンダは伸長する。このことから、スプール弁から漏れたメインポンプの吐出圧が片ロッド形複動シリンダのロッド室内およびボトム室内に伝達された場合、スプール弁が中立位置に保持されているのにもかかわらず片ロッド形複動シリンダが伸長してしまうおそれがある。この片ロッド形複動シリンダの伸長は、オペレータの意図しないことであり、好ましくない。
【0009】
本発明は前述の事情を考慮してなされたものであり、その目的は、排気ガスの温度を粒子状物質の燃焼に必要な温度まで上昇させるためにメインポンプの吐出圧を上昇させた場合に、オペレータの意図しない片ロッド形複動シリンダの伸長を防止できる作業機械の油圧駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の目的を達成するために本発明に係る作業機械の油圧駆動装置は次のように構成されている。
【0011】
〔1〕 本発明に係る作業機械の油圧駆動装置は、エンジンと、このエンジンの動力を伝達されて駆動される可変容量形油圧ポンプと、ピストンのロッド側に形成されるロッド室、および、シリンダチューブのボトム側に形成されるボトム室を有し、これらロッド室およびボトム室に前記可変容量形油圧ポンプの吐出油を選択的に供給されて駆動される片ロッド形複動シリンダと、前記吐出油を前記ロッド室に導き前記ボトム室内の作動油を作動油タンクに導く第1作動位置、前記吐出油を前記ボトム室に導き前記ロッド室内の作動油を作動油タンクに導く第2作動位置、前記吐出油を前記片ロッド形複動シリンダには導かずに作動油タンクに導く中立位置とに切換可能なスプール弁と、前記エンジンで生じた排気ガス中の粒子状物質をフィルタにより捕集する排気ガス浄化装置と、前記フィルタの目詰まりを検知する目詰まり検知手段と、前記スプール弁の下流に設けられ、前記スプール弁を通過して前記作動油タンクに排出される前記油圧ポンプの吐出油の流れを絞ることが可能な可変絞りと、この可変絞りを制御する吐出圧制御手段とを備え、前記スプール弁の弁位置が中立位置に保持され、かつ前記目詰まり検知手段が前記フィルタの目詰まりを検知した場合に、前記吐出圧制御手段は、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度に前記エンジンの負荷が増大するよう前記可変絞りを制御して前記可変容量形油圧ポンプの吐出圧を上昇させる油圧作業機械の油圧駆動装置において、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度に前記エンジンの負荷が増大するよう前記吐出圧制御手段によって前記可変絞りが制御されるとき、前記片ロッド形複動シリンダのロッド室から前記スプール弁に向かう方向の圧油の流れを阻止する阻止手段を備えることを特徴とする。
【0012】
この「〔1〕」に記載の作業機械の油圧駆動装置において、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジンの負荷が増大するよう吐出圧制御手段によって可変絞りが制御されるとき、阻止手段は片ロッド形複動シリンダのロッド室からスプール弁に向かう方向の圧油の流れを阻止する。これにより、スプール弁から漏れた油圧ポンプの吐出圧が片ロッド形複動シリンダに伝達されることがあっても、ロッド室からは油圧が排出されない。したがって、片ロッド形複動シリンダは油圧ポンプの吐出圧によって伸長することはない。つまり、「〔1〕」に記載の作業機械の油圧駆動装置によれば、排気ガスの温度を粒子状物質の燃焼に必要な温度まで上昇させるためにメインポンプの吐出圧を上昇させた場合に、オペレータの意図しない片ロッド形複動シリンダの伸長を防止できる。
【0013】
〔2〕 本発明に係る作業機械の油圧駆動装置は「〔1〕」に記載の作業機械の油圧駆動装置において、前記阻止手段は、前記スプール弁と前記片ロッド形複動シリンダのロッド室の間に介在する切換弁と、この切換弁を制御する切換制御手段とを備え、前記切換弁の弁位置として、前記スプール弁と前記片ロッド形複動シリンダのロッド室の間を連通させる開位置と、そのロッド室から前記スプール弁に向かう方向の圧油の流れをポペットにより阻止する阻止位置とが設定され、前記切換制御手段は、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度に前記エンジンの負荷が増大するよう前記吐出圧制御手段によって前記可変絞りが制御される場合に前記切換弁の弁位置を阻止位置に制御し、その場合以外では前記切換弁の弁位置を開位置に制御することを特徴とする。
【0014】
この「〔2〕」に記載の作業機械の油圧駆動装置の阻止手段において、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジンの負荷が増大するよう吐出圧制御手段によって可変絞りが制御される場合に、切換制御手段は切換弁の弁位置を阻止位置に制御する。弁位置が阻止位置となった状態の切換弁は、片ロッド形複動シリンダのロッド室からスプール弁に向かう方向の圧油の流れを、ポペットによって確実に阻止する。この結果、オペレータの意図しない片ロッド形複動シリンダの伸長を確実に防止できる。
【0015】
一方、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジンの負荷が増大するよう吐出圧制御手段によって可変絞りが制御される場合以外では、切換制御手段は切換弁の弁位置を開位置に制御する。弁位置が開位置となった状態の切換弁は、スプール弁と片ロッド形複動シリンダのロッド室の間を連通させる、すなわち、片ロッド形複動シリンダのロッド室内の圧油がスプール弁を通じて作動油タンクに排出されることを許可する。つまり、スプール弁の弁位置が第2作動位置に切り換えられてメインポンプの吐出油がボトム室に供給されると、ロッド室からは圧油が排出されて片ロッド形複動シリンダは伸長することになる。
【0016】
〔3〕 本発明に係る作業機械の油圧駆動装置は、エンジンと、このエンジンの動力を伝達されて駆動される可変容量形油圧ポンプと、ピストンのロッド側に形成されるロッド室、および、シリンダチューブのボトム側に形成されるボトム室を有し、これらロッド室およびボトム室に前記可変容量形油圧ポンプの吐出油を選択的に供給されて駆動される片ロッド形複動シリンダと、前記吐出油を前記ロッド室に導き前記ボトム室内の作動油を作動油タンクに導く第1作動位置、前記吐出油を前記ボトム室に導き前記ロッド室内の作動油を作動油タンクに導く第2作動位置、前記吐出油を前記片ロッド形複動シリンダには導かずに作動油タンクに導く中立位置とに切換可能なスプール弁と、前記エンジンで生じた排気ガス中の粒子状物質をフィルタにより捕集する排気ガス浄化装置と、前記フィルタの目詰まりを検知する目詰まり検知手段と、前記スプール弁の下流に設けられ、前記スプール弁を通過して前記作動油タンクに排出される前記油圧ポンプの吐出油の流れを絞ることが可能な可変絞りと、この可変絞りを制御する吐出圧制御手段とを備え、前記スプール弁の弁位置が中立位置に保持され、かつ前記目詰まり検知手段が前記フィルタの目詰まりを検知した場合に、前記吐出圧制御手段は、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度に前記エンジンの負荷が増大するよう前記可変絞りを制御して前記可変容量形油圧ポンプの吐出圧を上昇させる油圧作業機械の油圧駆動装置において、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度に前記エンジンの負荷が増大するよう前記吐出圧制御手段によって前記可変絞りが制御されるとき、前記片ロッド形複動シリンダのロッド室およびボトム室の両方を、前記作動油タンクに連通させる排圧手段ことを特徴とする。
【0017】
この「〔3〕」に記載の作業機械の油圧駆動装置において、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジンの負荷が増大するよう吐出圧制御手段によって可変絞りが制御されるとき、排圧手段は片ロッド形複動シリンダのロッド室およびボトム室の両方を作動油タンクに連通させる。これにより、スプール弁から漏れた油圧ポンプの吐出圧は片ロッド形複動シリンダに伝達されることなく作動油タンクに排出される。したがって、片ロッド形複動シリンダは油圧ポンプの吐出圧によって伸長することはない。つまり、「〔3〕」に記載の作業機械の油圧駆動装置によれば、排気ガスの温度を粒子状物質の燃焼に必要な温度まで上昇させるために油圧ポンプの吐出圧を上昇させた場合に、オペレータの意図しない片ロッド形複動シリンダの伸長を防止できる。
【0018】
〔4〕 本発明に係る作業機械の油圧駆動装置は「〔3〕」に記載の作業機械の油圧駆動装置において、前記排圧手段は、前記片ロッド形複動シリンダのロッド室と前記作動油タンクの間に介在する第1切換弁と、前記片ロッド形複動シリンダのボトム室と前記作動油タンクの間に介在する第2切換弁と、これら第1,第2切換弁を制御する切換制御手段とを備え、前記第1切換弁の弁位置として、前記ロッド室から前記作動油タンクに向かう方向の圧油の流れを阻止する阻止位置と、前記ロッド室を前記作動油タンクに連通させる開位置とが設定され、前記第2切換弁の弁位置として、前記ボトム室から前記作動油タンクに向かう方向の圧油の流れを阻止する阻止位置と、前記ボトム室を前記作動油タンクに連通させる開位置とが設定され、前記切換制御手段は、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度に前記エンジンの負荷が増大するよう前記吐出圧制御手段によって前記可変絞りが制御される場合に前記第1切換弁の弁位置および第2切換弁の弁位置を両方とも開位置に制御し、その場合以外では前記第1切換弁の弁位置および第2切換弁の弁位置を両方とも阻止位置に制御することを特徴とする。
【0019】
この「〔4〕」に記載の作業機械の油圧駆動装置の排圧手段において、切換制御手段は、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジンの負荷が増大するよう吐出圧制御手段によって可変絞りが制御される場合に、第1切換弁の弁位置および第2切換弁の弁位置を両方とも開位置に制御する。弁位置が開位置となった状態の第1切換弁は片ロッド形複動シリンダのロッド室内の圧力をスプール弁を介さずに作動油タンクに導き、弁位置が開位置となった状態の第2切換弁はボトム室内の圧力をスプール弁を介さずに作動油タンクに導く。これによって、スプール弁から漏れた油圧ポンプの吐出圧を片ロッド形複動シリンダに伝達させることなく作動油タンクに排出することができる。
【0020】
一方、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジンの負荷が増大するよう吐出圧制御手段によって可変絞りが制御される場合以外では、切換制御手段は、第1切換弁の弁位置および第2切換弁の弁位置を両方とも阻止位置に制御する。弁位置が阻止位置となった状態の第1切換弁は、片ロッド形複動シリンダのロッド室内の圧油を作動油タンクに導かない。弁位置が阻止位置となった状態の第2切換弁は片ロッド形複動シリンダのボトム室内の圧油を作動油タンクに導かない。つまり、スプール弁の弁位置が第1作動位置または第2作動位置に切り換わったときに、メインポンプの吐出油はスプール弁を通じて片ロッド形複動シリンダのロッド室内またはボトム室内に供給され、ボトム室内またはロッド室内の圧油は、スプール弁を介して作動油タンクに排出されて、片ロッド形複動シリンダは収縮または伸長することになる。
【発明の効果】
【0021】
「〔1〕」および「〔2〕」に記載の作業機械の油圧駆動装置においては、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジンの負荷が増大するよう吐出圧制御手段によって可変絞りが制御されるとき、阻止手段は片ロッド形複動シリンダのロッド室からスプール弁に向かう方向の圧油の流れを阻止する。これにより、排気ガスの温度を粒子状物質の燃焼に必要な温度まで上昇させるためにメインポンプの吐出圧を上昇させた場合に、オペレータの意図しない片ロッド形複動シリンダの伸長を防止できる。
【0022】
「〔3〕」および「〔4〕」に記載の作業機械の油圧駆動装置においては、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジンの負荷が増大するよう吐出圧制御手段によって可変絞りが制御されるとき、排圧手段は片ロッド形複動シリンダのロッド室およびボトム室の両方を作動油タンクに連通させる。これにより、排気ガスの温度を粒子状物質の燃焼に必要な温度まで上昇させるためにメインポンプの吐出圧を上昇させた場合に、オペレータの意図しない片ロッド形複動シリンダの伸長を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明が適用される作業機械である油圧ショベルの側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る作業機械の油圧駆動装置の主要部を示す油圧回路図である。
【図3】排気ガス浄化装置のフィルタが目詰まりした場合のバイパスカット弁の制御に係るブロック図である。
【図4】排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジンの負荷が増大するよう第1メインポンプの吐出圧を上昇させる際の動作の流れを示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2実施形態に係る作業機械の油圧駆動装置の主要部を示す油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の第1,第2実施形態に係る作業機械の油圧駆動装置について説明する。
【0025】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る作業機械の油圧駆動装置について図1〜図4を用いて説明する。
【0026】
第1実施形態に係る油圧駆動装置が適用される作業機械は、例えば図1に示す油圧ショベル1である。この油圧ショベル1は、履帯を駆動して走行する走行体2と、この走行体2の上部に旋回可能に結合した旋回体3とを備える。
【0027】
旋回体3の左前部には運転室4が設けられ、この運転室4の後方には後述するエンジン21、第1メインポンプ31、第2メインポンプ32、パイロットポンプ33等を格納した機械室5が設けられ、この機械室5の後方には旋回体4の後端を形成しているカウンタウェイト6が設けられている。
【0028】
運転室4の右側方に位置する旋回体3の箇所には、フロント作業装置7が装備されている。フロント作業装置7は、旋回体3に回動可能に結合したブーム8と、このブーム8に回動可能に結合したアーム9と、このアーム9に回動可能に結合したバケット10とを備える。これらブーム8、アーム9およびバケット10はそれぞれ片ロッド形複動シリンダ(油圧シリンダ)であるブームシリンダ51、アームシリンダ52およびバケットシリンダ53のそれぞれにより駆動されるようになっている。
【0029】
バケット10は、破砕機(図示していない)などのアタッチメントと付替え可能になっている。破砕機の駆動には、バケットシリンダ53だけでなく予備シリンダ54(図2に示す)も用いられる。
【0030】
第1実施形態に係る油圧駆動装置20は、バケット10の替わりにブレーカを備えるフロント作業装置を駆動するものであり、エンジンコントローラ21aにより燃料噴射量を電子制御されるエンジン21(ディーゼルエンジン)と、このエンジン21の動力を伝達されて駆動される第1メインポンプ31(可変容量形油圧ポンプ)、第2メインポンプ32(可変容量形油圧ポンプ)と、第1メインポンプ31の吐出油により駆動されるブームシリンダ51と、第1メインポンプ31の吐出油により駆動されるバケットシリンダ53と、第2メインポンプ32の吐出油により駆動されるアームシリンダ52および予備シリンダ54とを備える。
【0031】
油圧駆動装置20はさらに、第1メインポンプ31の吐出流量を制御するコントロールピストン31aに供給されるパイロット圧を、パイロットポンプ33の吐出油から生成する第1吐出流量制御弁41(比例電磁弁)と、第2メインポンプ32の吐出流量を制御するコントロールピストン32aに供給するパイロット圧を、パイロットポンプ33の吐出油から生成する第2吐出流量制御弁42(比例電磁弁)とを備える。
【0032】
油圧駆動装置20はさらに、ブーム用制御弁61、バケット用制御弁63、アーム用制御弁62および予備用制御弁64を備える。これらの制御弁61〜64はスプール弁であり、油圧パイロット式でスプリングセンタ式の3位置弁である。
【0033】
ブーム用制御弁61は、第1メインポンプ31から作動油タンク100に延びた第1センタバイパス71上でブームシリンダ51と第1メインポンプ31の間に介在するものであり、第1メインポンプ31の吐出油をブームシリンダ51のロッド室に導く第1作動位置(図2の右側の弁位置)、同吐出油をブームシリンダ51のボトム室に導く第2作動位置(図2の左側の弁位置)、同吐出油をブームシリンダ51には導かずに第1センタバイパス71を通じて作動油タンク100に導く中立位置(図2の中央の弁位置)とに切換可能になっている。
【0034】
バケット用制御弁63もブーム用制御弁61と同様に、第1センタバイパス71上でバケットシリンダ53と第1メインポンプ31の間に介在するものである。
【0035】
アーム用制御弁62は、第2メインポンプ32から作動油タンク100に延びた第2センタバイパス72上でアームシリンダ52と第2メインポンプ32の間に介在するものであり、第2メインポンプ32の吐出油をアームシリンダ52のロッド室に導く第1作動位置(図2の右側の弁位置)、同吐出油をアームシリンダ52のボトム室に導く第2作動位置(図2の左側の弁位置)、同吐出油をアームシリンダ52には導かずに第2センタバイパス72を通じて作動油タンク100に導く中立位置(図2の中央の弁位置)とに切換可能になっている。
【0036】
予備用制御弁64もアーム用制御弁62と同様に、第2センタバイパス72上で予備シリンダ54と第2メインポンプ32の間に介在するものである。
【0037】
油圧駆動装置20はさらに、エンジン21の出力を伝達されて駆動するパイロットポンプ33(定容量形ポンプ)と、このパイロットポンプ33の吐出油からパイロット圧を生成するブーム用操作レバー装置81、アーム用操作レバー装置82、バケット用操作レバー装置83および予備用操作レバー装置84とを備える。ブーム用操作レバー装置81は、ブーム用制御弁61の弁位置を第1作動位置に切り換えるパイロット圧および第2作動位置に切り換えるパイロット圧を選択的に生成するものである。アーム用操作レバー装置82、バケット用操作レバー装置83および予備用操作レバー装置84のそれぞれはブーム用操作レバー装置81と同様にして、アーム用制御弁62の弁位置、バケット用制御弁63の弁位置、予備用制御弁64の弁位置のそれぞれを切り換えるパイロット圧を生成するものである。
【0038】
ブーム用操作レバー装置81、アーム用操作レバー装置82、バケット用操作レバー装置83および予備用操作レバー装置84のそれぞれに対しては、その操作レバー装置から出力されるパイロット圧を検出するパイロット圧検出手段91〜94のそれぞれが設けられている。パイロット圧検出手段91は、管路内の圧力を検出してその圧力に相応する圧力検出信号(電気信号)と出力するパイロット圧センサ91aと、ブーム用制御弁61の弁位置を第1作動位置に切り換えるパイロット圧および第2作動位置に切り換えるパイロット圧のうち高い方をパイロット圧センサ91aに導く高圧選択弁91b(高圧優先形シャトル弁)とを備える。パイロット圧検出手段92〜94もパイロット圧検出手段と同様に構成されている。
【0039】
なお、油圧駆動装置20は、走行体2を駆動する走行モータ(油圧モータ)および旋回体3を駆動する旋回モータ(油圧モータ)と、第1センタバイパス71上または第2センタバイパス72上に設けられ第1メインポンプ31または第2メインポンプ32からそれらの油圧モータに供給される圧油の流れを制御する走行用制御弁(スプール弁)および旋回用制御弁(スプール弁)と、これらの制御弁を操作するためのパイロット圧を生成する走行用操作レバー装置および旋回用操作レバー装置と、これらの操作レバー装置に対して設けられたパイロット圧検出手段とを備えるが、それらの図示は省略した。
【0040】
油圧駆動装置20はさらに、ブーム用制御弁61およびバケット用制御弁63等を通じて第1センタバイパス71から作動油タンク100に排出される第1メインポンプ31の吐出油の流れを絞ることが可能な可変絞りから成るバイパスカット弁110と、第1メインポンプ31の吐出油を予備用制御弁64に導く合流管路111と、この合流管路111を開閉する油圧パイロット式の合流弁112と、予備用操作レバー装置84により生成されたパイロット圧をバイパスカット弁110に導くカット用パイロット管路113と、このカット用パイロット管路113から分岐してパイロット圧を合流弁112に導く合流用パイロット管路114と、カット用パイロット管路113および合流用パイロット管路114のそれぞれを通じてバイパスカット弁110および合流弁112のそれぞれに与えられるパイロット圧を制御する合流制御弁115(比例電磁弁)とを備える。なお、バイパスカット弁110は、第1センタバイパス71上に設けられたブーム用制御弁61およびバケット用制御弁63等の全てのスプール弁よりも下流、すなわち作動油タンク100に近く設けられている。
【0041】
油圧駆動装置20はさらに、エンジン21で生じた排気ガス中の粒子状物質をフィルタにより捕集する排気ガス浄化装置24を備える。図1に示すように、機械室5の天井からは排気筒22が突出して設けられている。この排気筒22は機械室5内でエンジン21から延びた排気管23に通じていて、この排気管23に内に排気ガス浄化装置24のフィルタが設けられている。
【0042】
油圧駆動装置20はさらに、排気ガス浄化装置24のフィルタの再生時にバイパスカット弁110を作動させるために、バイパスカット弁110にパイロット圧を供給するフィルタ再生用パイロット管路121と、このフィルタ再生用パイロット管路121を通じてバイパスカット弁110に与えられるパイロット圧を制御するフィルタ再生時作動弁122(比例電磁弁)と、カット用パイロット管路113およびフィルタ再生用パイロット管路121に接続され、管路113および管路121によって導かれるパイロット圧のうち、高圧のパイロット圧を選択して、その選択されたパイロット圧をバイパスカット弁110に導く高圧選択弁120(高圧優先形シャトル弁)とを備え、これらによって、合流制御弁115からのパイロット圧とフィルタ再生時作動弁122からのパイロット圧のうち圧力の高い方をバイパスカット弁110に導くようになっている。
【0043】
油圧駆動装置20はさらに、第1メインポンプ31の吐出圧を検出しその吐出圧に相応する圧力検出信号(電気信号)を出力する第1吐出圧センサ131と、第2メインポンプ32の吐出圧を検出しその吐出圧に相応する圧力検出信号(電気信号)を出力する第2吐出圧センサ132とを備える。第1吐出圧センサ131から出力される圧力検出信号、第2吐出圧センサ132から出力される圧力検出信号、前述のパイロット圧検出手段91〜94のそれぞれからの圧力検出信号は、車体コントローラ150に入力されるようになっている。
【0044】
車体コントローラ150は、CPU、ROM、RAMによる演算処理によって、第1吐出流量制御弁41、第2吐出流量制御弁42、合流制御弁115およびフィルタ再生時作動弁122の電子制御を行うもの、すなわちこれらの弁41,42,115,122に与える駆動信号を制御するものである。
【0045】
油圧ショベル1の作業時において、車体コントローラ150は、第1メインポンプ31と第2メインポンプ32の駆動に伴ってエンジン21に与えられる負荷がエンジン21の定格出力を超えないよう、第1吐出圧センサ131および第2吐出圧センサ132のそれぞれからの圧力検出信号に基づいて第1吐出流量制御弁41および第2吐出流量制御弁42を制御するようになっている。
【0046】
破砕機の作動時において、車体コントローラ150は、予備用操作レバー装置84により生成されたパイロット圧によってバイパスカット弁110および合流弁112が作動するよう、すなわち、第1センタバイパス71における圧油の流れが絞られた状態で合流弁112が開いて第1メインポンプ31の吐出油が予備シリンダ54に供給されるよう、合流制御弁115を制御するようになっている。
【0047】
図3に示すように、車体コントローラ150は、パイロット圧検出手段91〜94等の全てのパイロット圧検出手段からの圧力検出信号に基づき、ブーム用制御弁61、バケット用制御弁63、アーム用制御弁62、予備用制御弁64、走行用制御弁および旋回用制御弁が全て中立位置(ノーマル位置)であること、すなわち、油圧ショベル1が非操作状態であるかどうかを判定する非操作状態判定手段151を備える。この非操作状態判定手段151は、制御プログラムにより設定された手段である。パイロット圧検出手段91〜94等の全てのパイロット圧検出手段と非操作状態判定手段151は、非操作状態検知手段を構成している。
【0048】
図2に示すように、油圧駆動装置20はさらに、フィルタの上流側と下流側の差圧を検出しその差圧に相応する差圧検出信号(電気信号)を出力する差圧センサ140を備える。図3に示すように、車体コントローラ150は、差圧センサ140からの差圧検出信号に基づき、フィルタに目詰まりが生じたかどうかを判定する目詰まり判定手段152を備える。この目詰まり判定手段152は、制御プログラムにより設定された手段である。差圧センサ140と目詰まり判定手段152は、排気ガス浄化装置24のフィルタの目詰まりを検知する目詰まり検知手段を構成している。
【0049】
車体コントローラ150はさらに、ブーム用制御弁61、アーム用制御弁62、バケット用制御弁63、予備用制御弁64等の全てのスプール弁の弁位置が中立位置に保持された状態であること、すなわち油圧ショベル1が非操作状態であることが非操作状態検知手段(パイロット圧検出手段91〜94等の全てのパイロット圧検出手段および非操作状態判定手段151)により検知され、かつ、フィルタの目詰まりが目詰まり検知手段(差圧センサ140および目詰まり判定手段152)により検知された場合に、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジンの負荷が増大するようバイパスカット弁110(可変絞り)を制御して第1メインポンプ31の吐出圧を上昇させる吐出圧制御手段153を備える。この吐出圧制御手段153は制御プログラムにより設定された手段である。
【0050】
図2に示すように、油圧駆動装置20はさらに、バケット用制御弁63とバケットシリンダ53のロッド室の間に介在する油圧パイロット式でスプリングリターン式の2位置弁から成る切換弁160と、フィルタ再生用パイロット管路121から分岐して切換弁160にパイロット圧を導く作動阻止用パイロット管路161とを備える。切換弁160の弁位置として、バケット用制御弁63とバケットシリンダ53のロッド室の間を連通させる開位置(図2の左側の弁位置(ノーマル位置))と、そのロッド室からバケット用制御弁63に向かう方向の圧油の流れをポペットにより阻止する阻止位置(図2の右側の弁位置(作動位置))とが設定されている。切換弁160はバイパスカット弁110よりも低いパイロット圧で、開位置から阻止位置に切り換わるよう設定されている。
【0051】
切換弁160、作動阻止用パイロット管路161、フィルタ再生時作動弁122は、吐出圧制御手段153によってフィルタ再生時作動弁122を介してバイパスカット弁110(可変絞り)が制御されるときに、バケットシリンダ53(片ロッド形複動シリンダ)のロッド室からバケット用制御弁63(スプール弁)に向かう方向の圧油の流れを阻止する阻止手段を構成している。作動阻止用パイロット管路161、フィルタ再生時作動弁122、吐出圧制御手段153は、切換弁160を制御する切換制御手段を構成している。この切換制御手段は、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジン21の負荷が増大するよう吐出圧制御手段153によってバイパスカット弁110が制御される場合に切換弁160の弁位置を阻止位置(図2の右側の弁位置)に制御し、その場合以外では切換弁160の弁位置を開位置(図2の左側の弁位置)に制御するよう設定されている。
【0052】
このように構成された第1実施形態に係る油圧駆動装置20の動作のうち、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジン21の負荷が増大するよう第1メインポンプ31の吐出圧を上昇させる際の動作の流れについて、図4に示すフローチャートを用いて説明する。
【0053】
車体コントローラ150の非操作状態判定手段151はパイロット圧検出手段91〜94等の全てのパイロット圧検出手段からの圧力検出信号に基づき、油圧ショベル1が非操作状態かどうかの判定を行う(ステップS1)。この判定の結果、油圧ショベル1が非操作状態であった場合(ステップS1でYES)、車体コントローラ150の目詰まり判定手段152は、差圧センサ140からの差圧検出信号に基づき、排気ガス浄化装置24のフィルタに目詰まりが発生しているかどうかの判定を行う(ステップS2)。この判定の結果、目詰まりが生じていた場合(ステップS2でYES)、車体コントローラ150の吐出圧制御手段153は、フィルタ再生時作動弁122に予め設定された駆動信号を供給してこれを作動させる。これによって、フィルタ再生時作動弁122はパイロットポンプ33の吐出油からパイロット圧を生成し、このパイロット圧はフィルタ再生用パイロット管路121、高圧選択弁120を通じてバイパスカット弁110に与えられ、この結果、バイパスカット弁110が作動する(ステップS3)。これと同時に、フィルタ再生時作動弁122により生成されたパイロット圧は、作動阻止用パイロット管路161を通じて切換弁160に与えられ、これによって、切換弁160の弁位置が阻止位置に切り換わる(ステップS3)。
【0054】
バイパスカット弁110が作動した結果、第1センタバイパス71を通じて作動油タンク100に排出される第1メインポンプ31の吐出油の流れが絞られ、したがって、第1メインポンプ31の吐出圧が上昇する。第1吐出圧センサ131はその吐出圧を検出し、その吐出圧に相応する圧力検出信号を車体コントローラ150に出力する。その圧力検出信号が車体コントローラ150に入力されると、吐出圧制御手段153は、その圧力検出信号に基づき、第1メインポンプ31の吐出圧が適正か、すなわち、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジンの負荷を増大させることを意図して予め設定された適正圧力であるかどうかの判定を行う(ステップS4)。この判定の結果、第1メインポンプ31の吐出圧が適正であれば、ルーチンはステップS1に戻り、油圧ショベル1が非操作状態であってフィルタの目詰まりが解消されるまでの間、「ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4」のルーチンが繰り返される。
【0055】
ステップS4において、第1メインポンプ31の吐出圧が適正でなかった場合(ステップS4でNO)、吐出圧制御手段153はフィルタ再生時作動弁122に供給する駆動信号を調整することによって、すなわち、フィルタ再生時作動弁122からバイパスカット弁110に与えられるパイロット圧を調整することによって、第1センタバイパス71の絞り量を適正圧力が得られる大きさに調整する(ステップS5)。第1メインポンプ31の吐出圧の調整は、その吐出圧が適正圧力になるまで繰り返される(「ステップS5→ステップS4→ステップS5」の繰返し)。そして、第1メインポンプ31の吐出圧が適正圧力になると(ステップS4でYES)、ルーチンはステップS1に戻り、油圧ショベル1が非操作状態であってフィルタの目詰まりが解消されるまでの間、「ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4」のルーチンが繰り返される。
【0056】
バイパスカット弁110の作動によって第1メインポンプ31の吐出圧が上昇した状態に保持されている間、バケット用制御弁63の弁位置は中立位置にあるが、バケット用制御弁63はスプール弁であるため、第1メインポンプ31の吐出圧がバケット用制御弁63からバケットシリンダ53側に漏れるおそれがある。漏れた場合、バケットシリンダ53のロッド室内およびボトム室内に第1メインポンプ31の吐出圧が伝達され、これによってバケットシリンダ53のピストンはボトム側から押圧されることになるが、切換弁160のポペットがバケットシリンダ53のロッド室からバケット用制御弁63に向かう方向の圧油の流れを阻止するため、そのロッド室からは油圧が排出されず、したがってバケットシリンダ53は伸長しない。
【0057】
一方、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジン21の負荷が増大するよう吐出圧制御手段153によってバイパスカット弁110が制御される場合以外では、切換制御手段(作動阻止用パイロット管路161、フィルタ再生時作動弁122、吐出圧制御手段153)は切換弁160の弁位置を開位置(図2の左側の弁位置)に制御する。弁位置が開位置となった状態の切換弁160は、バケット用制御弁63とバケットシリンダ53のロッド室の間を連通させる、すなわち、バケットシリンダ53のロッド室内の圧油がバケット用制御弁63を通じて作動油タンク100に排出されることを許可する。つまり、バケット用制御弁63の弁位置が第2作動位置に切り換えられて第1メインポンプ31の吐出油がボトム室に供給されると、ロッド室からは圧油が排出されてバケットシリンダ53は伸長することになる。
【0058】
第1実施形態に係る油圧駆動装置20によれば次の効果を得られる。
【0059】
第1実施形態に係る油圧駆動装置20において、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジン21の負荷が増大するよう車体コントローラ150の吐出圧制御手段153によってバイパスカット弁110(可変絞り)が制御されるとき、阻止手段(切換弁160、作動阻止用パイロット管路161、フィルタ再生時作動弁122)はバケットシリンダ53(片ロッド形複動シリンダ)のロッド室からバケット用制御弁63(スプール弁)に向かう方向の圧油の流れを阻止する。これにより、バケット用制御弁63から漏れた第1メインポンプ31の吐出圧がバケットシリンダ53のロッド室内およびボトム室内に伝達され、これに伴ってバケットシリンダ53のピストンがボトム側から押圧されても、ロッド室からは油圧が排出されず、バケットシリンダ53は伸長しない。つまり、第1実施形態に係る油圧駆動装置20によれば、排気ガスの温度を粒子状物質の燃焼に必要な温度まで上昇させるために第1メインポンプ31の吐出圧を上昇させた場合に、オペレータの意図しないバケットシリンダ53の伸長を確実に防止できる。
【0060】
第1実施形態に係る油圧駆動装置20において、バイパスカット弁110は、本来予備シリンダ54に第1メインポンプ31の吐出油を供給する際に使用される可変絞りであり、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジン21の負荷が増大するよう第1メインポンプ31の吐出圧を上昇させることを目的として新たに追加された可変絞りではない。つまり、第1実施形態に係る油圧駆動装置20は既設の可変絞りを流用することによって第1メインポンプ31の吐出圧を上昇させることができる。したがって、第1メインポンプ31の吐出圧を上昇させることを目的として新たに追加される部品の点数の増加を抑えることができる。
【0061】
なお、前述の第1実施形態に係る油圧駆動装置20において、切換弁160はバケットシリンダ53に対してのみ設けられていたが、ブームシリンダ51に対して切換弁160が設けられて、ブームシリンダ51の伸長が防止されるようになっていてもよい。また、油圧駆動装置によってはアーム用制御弁が第1センタバイパス上にも設けられる場合があり、この場合には、アームシリンダに対しても切換弁160が設けられてアームシリンダ52の伸長が防止されるようになっていてもよい。また、非操作状態において、フロント作業装置7の各部位(ブーム、アーム、バケットなど)に作用する重力と、第1メインポンプ31の吐出圧を上昇させる程度との関係に基づき、ブームシリンダ51、アームシリンダ52、バケットバケットシリンダ53のいずれか、または全てに、必要に応じて切換弁160が設けられていてもよい。
【0062】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る作業機械の油圧駆動装置について図5を用いて説明する。
【0063】
図5に示す第2実施形態に係る油圧駆動装置200は、第1実施形態に係る油圧駆動装置20における切換弁160の替わりに、バケットシリンダ53(片ロッド形複動シリンダ)のロッド室と作動油タンク100の間に介在する第1切換弁201と、バケットシリンダ53のボトム室と作動油タンク100の間に介在する第2切換弁202と、フィルタ再生用パイロット管路121から分岐し、さらに2股に分かれて第1切換弁201および第2切換弁202にパイロット圧を導く作動阻止用パイロット管路203とを備える。
【0064】
第1切換弁201および第2切換弁202はいずれも油圧パイロット式でスプリングリターン式の2位置弁である。第1切換弁201の弁位置として、バケットシリンダ53のロッド室からバケット用制御弁63を介さずに作動油タンク100に向かう方向の圧油の流れをポペットにより阻止する阻止位置(図5の左側の弁位置(ノーマル位置))と、バケットシリンダ53のロッド室をバケット用制御弁63を介さずに作動油タンク100に連通させる開位置(図5の右側の弁位置(作動位置))とが設定されている。第2切換弁202の弁位置として、バケットシリンダ53のボトム室からバケット用制御弁63を介さずに作動油タンク100に向かう方向の圧油の流れをポペットにより阻止する阻止位置(図5の左側の弁位置(ノーマル位置))と、バケットシリンダ53のボトム室をバケット用制御弁63を介さずに作動油タンク100に連通させる開位置(図5の右側の弁位置(作動位置))とが設定されている。
【0065】
第1切換弁201、第2切換弁202、作動阻止用パイロット管路203、フィルタ再生時作動弁122は、車体コントローラ150の吐出圧制御手段153によってフィルタ再生時作動弁122を介してバイパスカット弁110(可変絞り)が制御されるときに、バケットシリンダ53(片ロッド形複動シリンダ)のロッド室およびボトム室の両方を、作動油タンク100に連通させる排圧手段を構成している。作動阻止用パイロット管路203、フィルタ再生時作動弁122、吐出圧制御手段153は、第1切換弁201および第2切換弁202を制御する切換制御手段を構成している。この切換制御手段は、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジン21の負荷が増大するよう吐出圧制御手段153によってフィルタ再生用作動弁122を介してバイパスカット弁110(可変絞り)が制御される場合に第1切換弁201の弁位置および第2切換弁202の弁位置を両方とも開位置(図5の右側の弁位置(作動位置))に制御し、その場合以外では第1切換弁201の弁位置および第2切換弁202の弁位置を両方とも阻止位置(図5の左側の弁位置(ノーマル位置))に制御するよう設定されている。
【0066】
第2実施形態に係る油圧駆動装置200において、前述の構成以外は第1実施形態に係る油圧駆動装置20の構成と同じである。
【0067】
このように構成された第2実施形態に係る油圧駆動装置200においては、フィルタ再生時作動弁122がパイロットポンプ33の吐出油からパイロット圧を生成すると、このパイロット圧はフィルタ再生用パイロット管路121、高圧選択弁120を通じてバイパスカット弁110に与えられるとともに、作動阻止用パイロット管路203を通じて第1切換弁201および第2切換弁202に与えられる。これにより、バイパスカット弁110の作動と、第1切換弁201の弁位置および第2切換弁202の弁位置が両方とも開位置(図5の右側の弁位置)に切り換わることとが同時に行われる。
【0068】
バイパスカット弁110の作動によって第1メインポンプ31の吐出圧が上昇した状態に保持されている間、第1切換弁201はバケットシリンダ53のロッド室内の圧油をバケット用制御弁63を介さずに作動油タンク100に排出し、第2切換弁202はバケットシリンダ53のボトム室内の圧油をバケット用制御弁63を介さずに作動油タンク100に排出する。このため、第1メインポンプ31の吐出圧がバケット用制御弁63からバケットシリンダ53側に漏れることがあっても、その吐出圧はバケットシリンダ53に伝達されることなく作動油タンク100に排出され、したがってバケットシリンダ53は伸長しない。
【0069】
一方、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジン21の負荷が増大するよう吐出圧制御手段153によってバイパスカット弁110が制御される場合以外では、切換制御手段(作動阻止用パイロット管路203、フィルタ再生時作動弁122、吐出圧制御手段153)は、第1切換弁201の弁位置および第2切換弁202の弁位置を両方とも阻止位置(図5の左側の弁位置)に制御する。弁位置が阻止位置となった状態の第1切換弁201は、バケットシリンダ53のロッド室内の圧油を作動油タンクに導かない。弁位置が阻止位置となった状態の第2切換弁202はバケットシリンダ53のボトム室内の圧油を作動油タンクに導かない。つまり、バケット用制御弁63の弁位置が第1作動位置または第2作動位置に切り換わったときに、第1メインポンプ31の吐出油はバケット用制御弁63を通じてバケットシリンダ53のロッド室内またはボトム室内に供給され、ボトム室内またはロッド室内の圧油は、バケット用制御弁63を通じて作動油タンク100に排出されて、バケットシリンダ53は収縮または伸長することになる。
【0070】
なお、第2実施形態に係る油圧駆動装置200においては、第1切換弁201および第2切換弁202の両方が開位置に切り換わると、バケットシリンダ53に外力が作用したときにバケットシリンダ53内に圧力が立たなくなるため、バケット10の重力によりバケットシリンダ53が収縮または伸長しないようオペレータはフロント作業装置7を接地させる必要がある。
【0071】
第2実施形態に係る油圧駆動装置200によれば次の効果を得られる。
【0072】
第2実施形態に係る油圧駆動装置200において、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度にエンジン21の負荷が増大するよう吐出圧制御手段によってバイパスカット弁110(可変絞り)が制御されるとき、排圧手段(第1切換弁201、第2切換弁202、作動阻止用パイロット管路203、フィルタ再生時作動弁122)はバケットシリンダ53(片ロッド形複動シリンダ)のロッド室およびボトム室の両方を作動油タンク100に連通させる。これにより、バケット用制御弁63(スプール弁)から漏れた第1メインポンプ31の吐出圧はバケットシリンダ53のロッド室内およびボトム室内に伝達されることなく作動油タンク100に排出される。したがって、バケットシリンダ53は第1メインポンプ31の吐出圧によって伸長することはない。つまり、油圧駆動装置200によれば、排気ガスの温度を粒子状物質の燃焼に必要な温度まで上昇させるために第1メインポンプ31の吐出圧を上昇させた場合に、オペレータの意図しないバケットシリンダ53の伸長を確実に防止できる。
【0073】
第2実施形態に係る油圧駆動装置200も第1実施形態に係る油圧駆動装置20と同じく、既設の可変絞りを流用することによって第1メインポンプ31の吐出圧を上昇させることができる。したがって、第1メインポンプ31の吐出圧を上昇させることを目的として新たに追加される部品の点数の増加を抑えることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 油圧ショベル
20 油圧駆動装置
21 エンジン
24 排気ガス浄化装置
31 第1メインポンプ
51 ブームシリンダ
61 ブーム用制御弁
100 作動油タンク
110 バイパスカット弁
121 フィルタ再生用パイロット管路
122 フィルタ再生時作動弁
150 車体コントローラ
151 非操作状態判定手段
152 目詰まり判定手段
153 吐出圧制御手段
160 切換弁
161 作動阻止用パイロット管路

200 油圧駆動装置
201 第1切換弁
202 第2切換弁
203 作動阻止用パイロット管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
このエンジンの動力を伝達されて駆動される可変容量形油圧ポンプと、
ピストンのロッド側に形成されるロッド室、および、シリンダチューブのボトム側に形成されるボトム室を有し、これらロッド室およびボトム室に前記可変容量形油圧ポンプの吐出油を選択的に供給されて駆動される片ロッド形複動シリンダと、
前記吐出油を前記ロッド室に導き前記ボトム室内の作動油を作動油タンクに導く第1作動位置、前記吐出油を前記ボトム室に導き前記ロッド室内の作動油を作動油タンクに導く第2作動位置、前記吐出油を前記片ロッド形複動シリンダには導かずに作動油タンクに導く中立位置とに切換可能なスプール弁と、
前記エンジンで生じた排気ガス中の粒子状物質をフィルタにより捕集する排気ガス浄化装置と、
前記フィルタの目詰まりを検知する目詰まり検知手段と、
前記スプール弁の下流に設けられ、前記スプール弁を通過して前記作動油タンクに排出される前記メインポンプの吐出油の流れを絞ることが可能な可変絞りと、
この可変絞りを制御する吐出圧制御手段とを備え、
前記スプール弁の弁位置がノーマル位置に保持され、かつ前記目詰まり検知手段が前記フィルタの目詰まりを検知した場合に、前記吐出圧制御手段は、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度に前記エンジンの負荷が増大するよう前記可変絞りを制御して前記可変容量形油圧ポンプの吐出圧を上昇させる油圧作業機械の油圧駆動装置において、
排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度に前記エンジンの負荷が増大するよう前記吐出圧制御手段によって前記可変絞りが制御されるとき、前記片ロッド形複動シリンダのロッド室から前記スプール弁に向かう方向の圧油の流れを阻止する阻止手段を備える
ことを特徴とする作業機械の油圧駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械の油圧駆動装置において、
前記阻止手段は、前記スプール弁と前記片ロッド形複動シリンダのロッド室の間に介在する切換弁と、この切換弁を制御する切換制御手段とを備え、
前記切換弁の弁位置として、前記スプール弁と前記片ロッド形複動シリンダのロッド室の間を連通させる開位置と、そのロッド室から前記スプール弁に向かう方向の圧油の流れをポペットにより阻止する阻止位置とが設定され、
前記切換制御手段は、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度に前記エンジンの負荷が増大するよう前記吐出圧制御手段によって前記可変絞りが制御される場合に前記切換弁の弁位置を阻止位置に制御し、その場合以外では前記切換弁の弁位置を開位置に制御する
ことを特徴とする作業機械の油圧駆動装置。
【請求項3】
エンジンと、
このエンジンの動力を伝達されて駆動される可変容量形油圧ポンプと、
ピストンのロッド側に形成されるロッド室、および、シリンダチューブのボトム側に形成されるボトム室を有し、これらロッド室およびボトム室に前記可変容量形油圧ポンプの吐出油を選択的に供給されて駆動される片ロッド形複動シリンダと、
前記吐出油を前記ロッド室に導き前記ボトム室内の作動油を作動油タンクに導く第1作動位置、前記吐出油を前記ボトム室に導き前記ロッド室内の作動油を作動油タンクに導く第2作動位置、前記吐出油を前記片ロッド形複動シリンダには導かずに作動油タンクに導く中立位置とに切換可能なスプール弁と、
前記エンジンで生じた排気ガス中の粒子状物質をフィルタにより捕集する排気ガス浄化装置と、
前記フィルタの目詰まりを検知する目詰まり検知手段と、
前記スプール弁の下流に設けられ、前記スプール弁を通過して前記作動油タンクに排出される前記メインポンプの吐出油の流れを絞ることが可能な可変絞りと、
この可変絞りを制御する吐出圧制御手段とを備え、
前記スプール弁の弁位置がノーマル位置に保持され、かつ前記目詰まり検知手段が前記フィルタの目詰まりを検知した場合に、前記吐出圧制御手段は、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度に前記エンジンの負荷が増大するよう前記可変絞りを制御して前記可変容量形油圧ポンプの吐出圧を上昇させる油圧作業機械の油圧駆動装置において、
排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度に前記エンジンの負荷が増大するよう前記吐出圧制御手段によって前記可変絞りが制御されるとき、前記片ロッド形複動シリンダのロッド室およびボトム室の両方を、前記作動油タンクに連通させる排圧手段を備えることを特徴とする作業機械の油圧駆動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の作業機械の油圧駆動装置において、
前記排圧手段は、前記片ロッド形複動シリンダのロッド室と前記作動油タンクの間に介在する第1切換弁と、前記片ロッド形複動シリンダのボトム室と前記作動油タンクの間に介在する第2切換弁と、これら第1,第2切換弁を制御する切換制御手段とを備え、
前記第1切換弁の弁位置として、前記ロッド室から前記作動油タンクに向かう方向の圧油の流れを阻止する阻止位置と、前記ロッド室を前記作動油タンクに連通させる開位置とが設定され、
前記第2切換弁の弁位置として、前記ボトム室から前記作動油タンクに向かう方向の圧油の流れを阻止する阻止位置と、前記ボトム室を前記作動油タンクに連通させる開位置とが設定され、
前記切換制御手段は、排気ガスの温度が粒子状物質の燃焼に必要な温度に達する程度に前記エンジンの負荷が増大するよう前記吐出圧制御手段によって前記可変絞りが制御される場合に前記第1切換弁の弁位置および第2切換弁の弁位置を両方とも開位置に制御し、その場合以外では前記第1切換弁の弁位置および第2切換弁の弁位置を両方とも阻止位置に制御する
ことを特徴とする作業機械の油圧駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−225391(P2012−225391A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92162(P2011−92162)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】