説明

作業用走行車の変速操作具

【課題】親指の負担を小さくして変速操作による疲労を軽減する。
【解決手段】主変速操作具143を副変速レバー140のオペレータ側の側面に前後回動自在に設け、主変速操作具143の前方への回動操作にもとづいて主変速装置20を増速側に変速させ、主変速操作具143の後方への回動操作にもとづいて主変速装置20を減速側に変速させるにあたり、主変速操作具143に、副変速レバー140のグリップ部142を握りながら親指の腹部で前方に押し操作可能で、かつ、該押し操作に応じて主変速操作具143を前方に回動させる前方押し操作部143cと、副変速レバー140のグリップ部142を握りながら親指の腹部で下方に押し操作可能で、かつ、該押し操作に応じて主変速操作具143を後方に回動させる下方押し操作部143dとを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタなどの作業用走行車の変速操作具に関する。
【背景技術】
【0002】
オペレータが握るレバー体のグリップ部に、走行変速装置を変速操作する変速操作具を備える作業用走行車が知られている。例えば、特許文献1、2に示される変速操作具は、副変速レバーのオペレータ側の側面に前後回動自在に設けられており、変速操作具の前方への回動操作にもとづいて走行主変速装置を増速側に変速させ、変速操作具の後方への回動操作にもとづいて走行主変速装置を減速側に変速させることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−162536号公報
【特許文献2】特開2009−18682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に示される変速操作具は、副変速レバーのグリップ部を握りながら親指一本で増速操作と減速操作が可能であるものの、減速操作時は、親指の腹部で後方に引き操作する必要があるので、親指の腹部で前方に押し操作する増速操作時に比べて操作性に劣り、特に、変速操作頻度の高い路上走行においては、減速操作が負担になって親指が疲労しやすいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、オペレータが握るレバー体のグリップ部に、走行変速装置を変速操作する変速操作具を備える作業用走行車において、前記変速操作具をレバー体のオペレータ側の側面に前後回動自在に設け、変速操作具の前方への回動操作にもとづいて走行変速装置を増速側に変速させ、変速操作具の後方への回動操作にもとづいて走行変速装置を減速側に変速させるにあたり、変速操作具に、レバー体のグリップ部を握りながら親指の腹部で前方に押し操作可能で、かつ、該押し操作に応じて変速操作具を前方に回動させる前方押し操作部と、レバー体のグリップ部を握りながら親指の腹部で下方に押し操作可能で、かつ、該押し操作に応じて変速操作具を後方に回動させる下方押し操作部とを設けたことを特徴とする。
また、前記下方押し操作部を、前方押し操作部よりもオペレータ側にオフセットさせたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、走行変速装置の増速操作及び減速操作を親指の押し操作で行うことが可能になるので、減速操作を親指の引き操作で行っていた従来に比べ、減速操作時の操作性を向上させることができ、特に、変速操作頻度の高い路上走行においては、親指の負担を小さくして変速操作による疲労を軽減することができる。
また、請求項2の発明によれば、前方押し操作部を操作した後、親指全体をオフセット方向に動かすだけで、下方押し操作部の操作が可能になるので、親指の第一関節の動きを減らし、親指の負担をさらに軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】トラクタの側面図である。
【図2】トラクタの伝動構成を示す伝動回路図である。
【図3】トラクタの油圧制御構成を示す油圧回路図である。
【図4】トラクタの電気制御構成を示すブロック図である。
【図5】主変速装置の変速パターンを示す説明図である。
【図6】制御装置における変速制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】運転部の内部平面図である。
【図8】副変速レバーのグリップ部を後右上方(ほぼオペレータ視点)から見た斜視図である。
【図9】(A)〜(D)は、副変速レバーのグリップ部を示す背面図、右側面図、正面図及び平面図である。
【図10】グリップ部の内部を示す斜視図である。
【図11】(A)〜(E)は、主変速操作具を示す背面図、右側面図、正面図、平面図及び底面図である。
【図12】主変速操作具の成形工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1はトラクタ(作業用走行車)であって、該トラクタ1は、前輪2及び後輪3で支持された走行機体5を有しており、該走行機体5の前部には、エンジン6を内装するエンジン搭載部7が構成され、その後方には、オペレータが乗車する運転部8が構成されている。また、走行機体5の下部には、該走行機体5に一体に固定されたミッションケース9が配置されている。エンジン6の出力は、ミッションケース9内に設けられた変速装置を介して前輪2及び後輪3に伝動され、トラクタ1を前後方向に所要の速度で走行させる。
【0009】
図2に示すように、エンジン6から出力される動力は、クラッチ11、出力軸12、及び出力軸12に固定された出カギヤ13、該出カギヤ13と噛合する入カギヤ15を介して、該入カギヤ15を固定した入力軸16に伝達される。該入力軸16には、歯数の異なる複数のギヤ16a,16b,16c,16dが一体に固定されている。
【0010】
また、ミッションケース9内には、上記入力軸16と隣接配置された前部主変速装置(走行主変速装置)20Aと、該前部主変速装置20Aから出力され、下流側に伝達される動力を断続する主クラッチ30と、該主クラッチ30の下流側に接続された前後進切換装置40と、該前後進切換装置40の下流側に接続された後部主変速装置(走行主変速装置)20Bと、該後部主変速装置20Bの下流側に配置された副変速装置(走行副変速装置)50等が配置され、走行駆動系を構成している。
【0011】
なお、ミッションケース9内には、入力軸16と隣接配置されたPTO主変速部81と、該PTO主変速部81の下流側にPTO軸83の正逆回転を行わせるPTO回転切換装置82とが配置され、動力がPTO軸83を介して作業機(図示せず)に出力できるように構成されている。
【0012】
前部主変速装置20Aは、ミッションケースに対して回転白在に支持された伝動軸21を備えており、該伝動軸21には、上記ギヤ16a,16b,16c,16dと常時噛合う歯数の異なるギヤ22a,22b,22c,22dが回転白在に支持されている。また、ギヤ22aとギヤ22bとの間には、シンクロメッシュ方式により該ギヤ22a,22bとそれぞれ選択的に係合、離脱可能なシフト部材23が、ギヤ22cとギヤ22dとの間には、シンクロメッシュ方式により該ギヤ22c,22dとそれぞれ選択的に係合、離脱可能なシフト部材25が、それぞれ伝動軸21の軸方向に移動自在に配置されている。
【0013】
主クラッチ30は、前部主変速装置20Aと前後進切換装置40との間に配置された油圧クラッチで構成され、油圧の供給により前部主変速装置20Aの出力を前後進切換装置40に伝達する入り状態となり、油圧の遮断により前部主変速装置20Aの出力を前後進切換装置40に伝達しない切り状態となり、走行駆動系の動力伝達が遮断される。
【0014】
前後進切換装置40は、入力軸41と平行にミッションケースに回転自在に支持された中間軸42と伝動軸45を備えている。該中間軸42には、ギヤ41aと噛合う中間ギヤ42aが一体に固定されている。
【0015】
入力軸41は、主クラッチ30を介して伝動軸21に連結され、該主クラッチ30の入り状態のときに該伝動軸21と共に回転する。入力軸41には、歯数の異なるギヤ41a,41bが一体に固定されている。
【0016】
伝動軸45には、ギヤ41bと噛合う46bと、ギヤ42aと噛合う46aとが回転白在に支持されている。該ギヤ46bとギヤ46aとの間には、シンクロメッシュ方式により該ギヤ46a,46bとそれぞれ選択的に係合、離脱可能なシフト部材47が、伝動軸45の軸方向に移動自在に配置されている。
【0017】
後部主変速装置20Bは、伝動軸45の後半部分と、入力軸41と同一軸心上に位置するようにミッションケース9に回転白在に支持された伝動軸28とを備えている。
【0018】
伝動軸45の後半部分には、歯数の異なるギヤ26a,26bが回転自在に支持されている。また、該ギヤ26aと26bとの間には、シンクロメッシュ方式により該ギヤ26a,26bとそれぞれ選択的に係合、離脱可能なシフト部材27が、伝動軸45の軸方向に移動自在に配置されている。
【0019】
伝動軸28は、ギヤ26aと噛合うギヤ28aと、ギヤ26bと噛合うギヤ28bとが一体に固定されている。また、伝動軸28には、歯数の異なるギヤ28c,28dが一体に固定されている。
【0020】
ギヤ28cは、ギヤ62aと噛合っており、該ギヤ62aは、該ギヤ62aよりも小径のギヤ62bと一体に形成され、伝動軸61に回転自在に支持されている。該伝動軸61は、伝動軸45と同一軸心上に位置するようにミッションケースに対して回転自在に支持されており、該ギヤ62a,62bのほかにも、ギヤ28dと噛合っているギヤ63を回転自在に支持している。また、伝動軸61には、ギヤ64が一体に固定されており、さらに該伝動軸61の軸方向に移動自在に配置され、大径のギヤと小径のギヤが一体に形成されたギヤ66が配置されている。
【0021】
副変速装置50は、伝動軸28及び伝動軸61と平行に、ミッションケースに対して回転白在に支持された出力軸51を備えている。該出力軸51には、ギヤ62bと噛合うギヤ52aと、ギヤ63と噛合うギヤ52bとが回転自在に支持されている。該ギヤ52aとギヤ52bとの間には、シンクロメッシュ方式により該ギヤ52a,52bとそれぞれ選択的に係合、離脱可能なシフト部材53が、出力軸51の軸方向に移動自在に配置されている。また、該出力軸51には、ギヤ66と噛合うギヤ65が一体に固定されている。
【0022】
出力軸51は、ディファレンシャルギヤ71及び駆動車軸72等を介して後輪3に接続され、トラクタ1を走行駆動可能にしている。また、ギヤ66は伝動軸61を介してギヤ64に回転が伝達され、これらギヤ66及びギヤ64の回転がクイックターン装置75に伝達される。該クイックターン装置75では、クラッチの作動により該ギヤ66及びギヤ64のいずれか一方の回転がディファレンシャルギヤ17等を介して前輪2に伝達され、トラクタ1を走行駆動可能にしている。なお、ギヤ66を伝動軸61の軸方向に沿って移動させることにより、前輪2への動力の伝達を遮断することもできる。
【0023】
次に、トラクタ1の作用について説明する。
【0024】
例えば、エンジン6で出力された回転は、クラッチ11、出力軸12、及び該出力軸12に固定された出カギヤ13、該出カギヤ13と噛合する入カギヤ15を介して、該入カギヤ15を固定した入力軸16に伝達される。該入力軸16に伝達された回転は、歯数の異なる複数のギヤ16a,16b,16c,16dを介して前部主変速装置20Aに伝達される。
【0025】
前部主変速装置20Aにおいては、シフト部材23がギヤ22a及びギヤ22bから離脱したニュートラル位置にあるときには、各ギヤ22a,22bは、それぞれ伝動軸21に対して空転している。シフト部材23がギヤ22a(又はギヤ22b)と係合している場合には、該シフト部材23がその係合しているギヤ22a(又はギヤ22b)と共に回転して伝動軸21を回転させる。
【0026】
また、シフト部材25がギヤ22c及びギヤ22dから離脱したニュートラル位置にあるときには、各ギヤ22c,22dは、それぞれ伝動軸21に対して空転している。シフト部材25がギヤ22c(又はギヤ22d)と係合している場合には、該シフト部材25がその係合しているギヤ22c(又はギヤ22d)と共に回転して伝動軸21を回転させる。
【0027】
即ち、前部主変速装置20Aは、ギヤ16a,16b,16c,16dと、これらギヤ16a,16b,16c,16dと常時噛合うギヤ22a,22b,22c,22dと、シフト部材23,25によりシンクロメッシュ方式の同期噛合式歯車変速装置で構成され、ギヤ16aとギヤ22a、ギヤ16bとギヤ22b、ギヤ16cとギヤ22c、ギヤ16dとギヤ22dの各噛合わせにより、伝動比の異なる4段の変速段が設定されている。
【0028】
ここで、例えば主クラッチ30が入り状態となっている場合には、伝動軸21の回転が入力軸41を介して前後進切換装置40に伝達される。
【0029】
前後進切換装置40においては、シフト部材47がギヤ46a及び46bから離脱したニュートラル位置にあるときには、各ギヤ46a,46bは、それぞれ伝動軸45に対して空転している。シフト部材47がギヤ46a(又は46b)と係合している場合には、シフト部材47がその係合しているギヤ46a(又は46b)と共に回転して、伝動軸45を回転させる。
【0030】
このとき、ギヤ46aの回転を伝動軸45に伝達する場合と、ギヤ46bの回転を伝動軸45に伝達する場合では、中間ギヤ42aの作用により伝動軸45に伝達される回転方向が逆になる。即ち、ギヤ46bを介して伝動軸45に伝達される回転を、トラクタ1の前進方向の回転とすれば、ギヤ46aを介して伝動軸45に伝達される回転は、トラクタ1の後進方向の回転となり、該トラクタ1の前後進の切換えを行うことができる。
【0031】
伝動軸45によって回転が伝達される後部主変速装置20Bにおいては、シフト部材27がギヤ26a及びギヤ26bから離脱したニュートラル位置にあるときには、各ギヤ26a,26bは、それぞれ伝動軸45に対して空転している。シフト部材27がギヤ26a(又はギヤ26b)と係合している場合には、該シフト部材27がその係合しているギヤ26a(又はギヤ26b)と共に回転して伝動軸28を回転させる。
【0032】
即ち、後部主変速装置20Bは、ギヤ28a,28bと、これらギヤ28a,28bと常時噛合うギヤ26a,26bと、シフト部材27によりシンクロメッシュ方式の同期噛合式歯車変速装置で構成され、ギヤ28aとギヤ26a、ギヤ28bとギヤ26bの各噛合わせにより、伝動比の異なる2段の変速段が設定されている。これにより、前部主変速装置20A及び後部主変速装置20Bによって構成される主変速装置20では、伝動比の異なる8段の変速段が設定されることになる。
【0033】
伝動軸28に一体に固定されているギヤ28cは、一体に形成されたギヤ62a,62bを介して、また同様にギヤ28は、ギヤ63を介して、それぞれ副変速装置50に伝達される。
【0034】
副変速装置50においては、シフト部材53がギヤ52a及びギヤ52bから離脱したニュートラル位置にあるときには、各ギヤ52a,52bは、それぞれ出力軸51に対して空転している。シフト部材53がギヤ52a(又はギヤ52b)と係合している場合には、該シフト部材53がその係合しているギヤ52a(又はギヤ52b)と共に回転して出力軸51を回転させる。
【0035】
即ち、副変速装置50は、ギヤ52a,52bと、これらギヤ52a,52bと常時噛合うギヤ62b,63と、シフト部材53によりシンクロメッシュ方式の同期噛合式歯車変速装置で構成され、ギヤ52aとギヤ62b、ギヤ52bとギヤ63の各噛合わせにより、伝動比の異なる2段の変速段が設定されている。
【0036】
そして、出力軸51の回転は、ディファレンシャルギヤ71及び駆動車軸72を介して後輪3に伝達される。また、四輪駆動状態の場合には、出力軸51の回転が、ギヤ65、ギヤ66、伝動軸61、ギヤ64、クイックターン装置75、及びディファレンシャルギヤ17等を介して前輪2に伝達される。これにより、トラクタ1は走行駆動される。
【0037】
次に、トラクタ1の主変速装置20及び主クラッチ30に係る油圧制御装置90について説明する。
【0038】
図3に示すように、オイルポンプ91から吐出された圧油は走行操作用として利用され、逆止弁92を介して、主変速装置20及び主クラッチ30を油圧により制御する油圧制御装置90に供給される。
【0039】
油圧制御装置90に流入した圧油は、油温センサ93及び油圧センサ94によりその温度と圧力が検出され、後述する電気的な制御装置100へフィードバックされる。また、フィルタ95,97は逆止弁92と油圧センサ94との間に配置されている。
【0040】
フィルタ95を通った圧油の一部は、比例圧力制御ソレノイドバルブ96へ供給されている。該比例圧力制御ソレノイドバルブ96は、電気信号による作動によって調圧され、該調圧された圧油は、フイルタ101及びシャトル弁102を介して主クラッチ30に送られ、前部主変速装置20Aと前後進切換装置40とが接続される。
【0041】
ソレノイドバルブ111は、後部主変速装置20Bのシフト部材27の位置を変位させるための油圧アクチュエータ112を制御する。該油圧アクチュエータ112のシフトピストン113は、ソレノイドバルブ111から供給される圧油により伸縮し、その停止位置は、ピン115により保持される。チェックバルブ117は、シフトピストン113が移動してピン115がシフトピストン113の切欠き部から軸部へ移動したとき解放され、主クラッチ30に供給される油圧を減圧して、該主クラッチ30の切り操作を行う。
【0042】
ソレノイドバルブ121とソレノイドバルブ122は、前部主変速装置20Aのシフト部材23の位置を変位させるための油圧アクチュエータ123を制御する。該油圧アクチュエータ123のシフトピストン125は、各ソレノイドバルブ121,122から供給される圧油により伸縮し、その停止位置は、ピン126により保持される。チェツクバルブ127は、シフトピストン125が移動してピン126がシフトピストン125の切欠き部から軸部へ移動したとき解放され、主クラッチ30に供給される油圧を減圧して、該主クラッチ30の切り操作を行う。
【0043】
ソレノイドバルブ131とソレノイドバルブ132は、前部主変速装置20Aのシフト部材25の位置を変位させるための油圧アクチュエータ133を制御する。該油圧アクチュエータ133のシフトピストン135は、各ソレノイドバルブ131,132から供給される圧油により伸縮し、その停止位置は、ピン136により保持される。チェックバルブ137は、シフトピストン135が移動してピン136がシフトピストン135の切欠き部から軸部へ移動したとき解放され、主クラッチ30に供給される油圧を減圧して、該主クラッチ30の切り操作を行う。
【0044】
なお、前部主変速装置20Aにおいては、該シフト部材23,25を移動させるシフトピストン125,135の切欠き部のいずれか1箇所に、ピン126又はピン136が係合したときに前部主変速装置20Aでの変速が完了する。また、シフト部材23がギヤ22a又はギヤ22bと、シフト部材25がギヤ22c又はギヤ22dとにそれぞれ同時に係合することができない構成になっている。従って、シフトピストン125,135の切欠き部のいずれか1箇所に、ピン126又はピン136が係合した場合に、主クラッチ30が入り状態となるように、チェックバルブ127,137は、直列に接続されている。また、図3に示される符号141は前後進切換装置40のシフト部材47の位置を変位させるための油圧アクチュエータ142を制御するソレノイドバルブである。
【0045】
次に、上記油圧制御装置90の作用について説明する。
【0046】
後述する主変速操作具143の変速操作に基づいて、ソレノイドバルブ111から油圧アクチュエータ112に圧油が供給されると、シフトピストン113が伸長し、後部主変速装置20Bのシフト部材27を伝動軸45に沿って移動させる。これにより、例えば、油圧アクチュエータ112のシフトピストン113が伸長位置にあるとき、後部主変速装置20Bのシフト部材27をギヤ26aと噛合わせ、シフトピストン113が収締位置にあるときには、シフト部材27をギヤ26bと噛合うように位置決めする。
【0047】
また、主変速操作具143の変速操作に基づいて、ソレノイドバルブ121から油圧アクチュエータ123に圧油が供給されると、シフトピストン125が伸長し、該ソレノイドバルブ122から油圧アクチュエータ123に圧油が供給されると、シフトピストン125が収縮し、前部主変速装置20Aのシフト部材23を伝動軸21に沿って移動させる。これにより、例えば、油圧アクチュエータ123のシフトピストン125が伸長位置にあるとき、前部主変速装置20Aのシフト部材23をギヤ22aと噛合わせ、シフトピストン125が収縮位置にあるときには、シフト部材23をギヤ22bと噛合わせる。また、図3に示すように、シフトピストン125が中間位置にあるときには、該シフト部材23は、ギヤ22a,22bと噛合わないニュートラル位置に位置決めされる。
【0048】
さらに、主変速操作具143の変速操作に基づいて、ソレノイドバルブ131から油圧アクチュエータ133に圧油が供給されると、シフトピストン135が伸長し、該ソレノイドバルブ132から油圧アクチュエータ133に圧油が供給されると、シフトピストン135が収縮し、前部主変速装置20Aのシフト部材25を伝動軸21に沿って移動させる。これにより、例えば、油圧アクチュエータ133のシフトピストン135が伸長位置にあるとき、前部主変速装置20Aのシフト部材25をギヤ22cと噛合わせ、シフトピストン135が収縮位置にあるときには、シフト部材25をギヤ22dと噛合わせる。また、図3に示すように、シフトピストン135が中間位置にあるときには、該シフト部材25は、該ギヤ22c,22dと噛合わないニュートラル位置に位置決めされる。
【0049】
制御装置100は、図4に示すように、出力側に、1速ソレノイドバルブ122、2速ソレノイドバルブ121、3速ソレノイドバルブ132、4速ソレノイドバルブ131、高低変速ソレノイドバルブ111、前後進切換ソレノイドバルブ141及び比例圧力制御ソレノイドバルブ96が接続されている。また、制御装置100の入力側には、ニュートラルスイッチ(段数クリアスイッチ)SW1、シフトアップスイッチ(増速スイッチ)SW2、シフトダウンスイッチ(減速スイッチ)SW3、エンジン回転センサ105、車軸回転センサ106、油圧センサ94、油温センサ93、前後進センサ107及び主クラッチセンサ108が接続されている。
【0050】
そして、制御装置100は、ニュートラルスイッチSW1、シフトアップスイッチSW2、シフトダウンスイッチSW3、エンジン回転センサ105、車軸回転センサ106、油圧センサ94、油温センサ93、前後進センサ107及び主クラッチセンサ108からの信号に基づいて、1速ソレノイドバルブ122,2速ソレノイドバルブ121,3速ソレノイドバルブ132,4速ソレノイドバルブ131、高低変速ソレノイドバルブ111、前後進切換ソレノイドバルブ141及び比例圧力制御ソレノイドバルブ96の作動を制御する。これにより、前部主変速装置20Aのシフト部材23及びシフト部材25、後部主変速装置20Bのシフト部材27、主クラッチ30等の切換え操作が行われ、主変速装置20の変速作動及び主クラッチ30の入り切り作動が行われる。例えば、図5に示すような組み合せで、1速ソレノイドバルブ122,2速ソレノイドバルブ121,3速ソレノイドバルブ132,4速ソレノイドバルブ131及び高低変速ソレノイドバルブ111の作動を制御することにより、8段の主変速操作を行うようになっている。
【0051】
制御装置100による変速制御の具体例を図6に示す。この図に示すように、変速制御では、まず、各スイッチSW1〜SW3の信号を入力した後(S1)、各スイッチSW1〜SW3の入り作動を判断する(S2〜S4)。ここで、シフトアップスイッチSW2が入り作動した場合は、設定段数を一段増加させ(S5)、シフトダウンスイッチSW3が入り作動した場合は、設定段数を一段減少させる(S6)。また、ニュートラルスイッチSW1が入り作動した場合は、設定段数に初期値(例えば、中立段)をセットする(S7)。これらの設定段数変更処理を実行した後は、前述したソレノイドバルブの制御により、主クラッチ30を切ると共に(S8)、設定段数に応じて主変速装置20の各シフタ部材を作動させ(S9)、シフト完了を判断する(S10)。その後、主クラッチ30の入り圧力を昇圧制御し(S11)、一回の変速作動が終わる。
【0052】
次に、副変速装置50を変速操作する副変速レバー140(レバー体)について、図7〜図10を参照して説明する。
【0053】
図7に示すように、運転部8には、オペレータが座る運転席8aが設けられ、その左側方に副変速レバー140が配置されている。副変速レバー140は、図8〜図12に示すように、前後方向及び左右方向に回動自在に支持される軸部141と、軸部141の上端部に設けられるグリップ部142とから構成されており、オペレータは、副変速装置50の変速操作に際し、左手でグリップ部142を握りながら、副変速レバー140を前後方向又は左右方向に操作するようになっている。尚、本実施形態の副変速レバー140は、副変速装置50を操作し得るように機械的に副変速装置50のシフト部材52に連繋されているが、主変速装置20のように電気・油圧制御により副変速装置50を変速操作するものであってもよい。
【0054】
副変速レバー140のグリップ部142には、電気・油圧制御により主変速装置20を変速操作するためのシフトアップスイッチSW2及びシフトダウンスイッチSW3が内装されている。シフトアップスイッチSW2及びシフトダウンスイッチSW3は、いずれも主変速操作具(変速操作具)143の操作に応じて入り作動されるようになっている。
【0055】
主変速操作具143は、グリップ部142のオペレータ側の側面(右側面)に前後回動自在に設けられ、主変速操作具143の前方への回動操作にもとづいて主変速装置20を増速側に変速させ、主変速操作具143の後方への回動操作にもとづいて主変速装置20を減速側に変速させることができる。例えば、本実施形態では、主変速操作具143を、左右方向に沿う支軸143aを支点として前後回動自在に支持すると共に、支軸143aにカムプレート144を一体的に設け、主変速操作具143の前方への回動操作に応じて、カムプレート144がシフトアップスイッチSW2を入り作動させる一方、主変速操作具143の後方への回動操作に応じて、カムプレート144がシフトダウンスイッチSW3を入り作動させるようになっている。
【0056】
尚、本実施形態では、主変速操作具143を中立位置に向けて付勢する中立復帰機構が設けられている。中立復帰機構は、例えば、カムプレート144の上部に設けられる左右一対のピン145と、これらのピン145に上方から当接する回動自在なカムレバー146と、該カムレバー146を下方に付勢するバネ147とを備えて構成される。
【0057】
また、副変速レバー140のグリップ部142には、ニュートラルスイッチSW1が内装されており、このニュートラルスイッチSW1は、主変速操作具143の近傍に配置される押釦操作具148の操作に応じて入り作動されるようになっている。
【0058】
次に、主変速操作具143について、図8〜図12を参照して説明する。
【0059】
主変速操作具143は、支軸143aに対して一体的に取り付けられる円板状の取り付け部143bと、該取り付け部143bに一体的に設けられる前方押し操作部143c及び下方押し操作部143dを備えている。前方押し操作部143cは、副変速レバー140のグリップ部142を握りながら親指の腹部で前方に押し操作可能で、かつ、該押し操作に応じて主変速操作具143を前方に回動させるように形成されている。例えば、本実施形態の前方押し操作部143cは、取り付け部143bの中心部(回動支点部)から上斜め後方(ほぼ上方)に向けて延出するように形成されており、その先端側後面部が親指の腹部で前方に押し操作可能となっている(図11参照)。尚、本実施形態の前方押し操作部143cは、先端側がグリップ部142の上端から所定寸法突出(例えば、8mm)するように長さが設定されている。これにより、前方押し操作部143cを操作面を大きくして親指の掛かりを良くできるだけでなく、操作荷重も軽減することができる。
【0060】
下方押し操作部143dは、副変速レバー140のグリップ部142を握りながら親指の腹部で下方に押し操作可能で、かつ、該押し操作に応じて主変速操作具143を後方に回動させるように形成されている。例えば、本実施形態の下方押し操作部143dは、取り付け部143bの中心部(回動支点部)から後斜め下方(ほぼ後方)に向けて延出するように形成されており、その先端側上面部が親指の腹部で下方に押し操作可能となっている(図11参照)。
【0061】
このような主変速操作具143によれば、主変速装置20の増速操作及び減速操作を親指の押し操作で行うことが可能になるので、減速操作を親指の引き操作で行っていた従来に比べ、減速操作時の操作性を向上させることができ、特に、変速操作頻度の高い路上走行においては、親指の負担を小さくして変速操作による疲労を軽減することができる。
【0062】
また、下方押し操作部143dは、前方押し操作部143cよりもオペレータ側にオフセットさせることが好ましい(図11参照)。このようにすると、前方押し操作部143cを操作した後、親指全体をオフセット方向に動かすだけで、下方押し操作部143dの操作が可能になるので、親指の第一関節の動きを減らし、親指の負担をさらに軽減することができる。
【0063】
また、押し操作部143c、143d自体やその表面部は、滑りにくいゴムやエラストマ(熱可塑性軟質樹脂)で形成することが好ましい。例えば、押し操作部143c、143dの親指接触部分にゴムシートを貼り付けたり、押し操作部143c、143d自体をエラストマで成形する。このようにすると、軍手や手袋をつけた状態や、水で濡れた状態で操作した場合であって、指の滑りを抑制して操作性の向上が図れる。
【0064】
尚、押し操作部143c、143d自体をエラストマで成形する場合は、押し操作部143c、143d自体をエラストマで成形する工程と、エラストマで成形した押し操作部143c、143dを主変速操作具143の成形型にセットした状態で取り付け部143b(例えば、ABS樹脂)を成形する工程を行えばよい。このような製造方法によれば、エラストマからなる押し操作部143c、143dが取り付け部143bに一体化された主変速操作具143を容易に製造することができる。
【0065】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、オペレータが握る副変速レバー140のグリップ部142に、主変速装置20を変速操作する主変速操作具143を備えるトラクタ1において、主変速操作具143を副変速レバー140のオペレータ側の側面に前後回動自在に設け、主変速操作具143の前方への回動操作にもとづいて主変速装置20を増速側に変速させ、主変速操作具143の後方への回動操作にもとづいて主変速装置20を減速側に変速させるにあたり、主変速操作具143に、副変速レバー140のグリップ部142を握りながら親指の腹部で前方に押し操作可能で、かつ、該押し操作に応じて主変速操作具143を前方に回動させる前方押し操作部143cと、副変速レバー140のグリップ部142を握りながら親指の腹部で下方に押し操作可能で、かつ、該押し操作に応じて主変速操作具143を後方に回動させる下方押し操作部143dとを設けたので、主変速装置20の増速操作及び減速操作を親指の押し操作で行うことが可能になる。これにより、減速操作を親指の引き操作で行っていた従来に比べ、減速操作時の操作性を向上させることができ、特に、変速操作頻度の高い路上走行においては、親指の負担を小さくして変速操作による疲労を軽減することができる。
【0066】
また、下方押し操作部143dを、前方押し操作部143cよりもオペレータ側にオフセットさせたので、前方押し操作部143cを操作した後、親指全体をオフセット方向に動かすだけで、下方押し操作部143dの操作が可能になり、その結果、親指の第一関節の動きを減らし、親指の負担をさらに軽減させることができる。
【0067】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されないことは勿論であって、特許請求の範囲内において適宜変更できることは言うまでもない。例えば、本発明の変速操作具が設けられるレバー体は、副変速レバーに限らず、副変速装置以外の変速を行う前後進切換レバーなどの変速レバーや、変速を行わない固定レバーであってもよい。また、変速操作具による操作対象は、主変速装置に限らず、他の変速装置であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 トラクタ
5 走行機体
20 主変速装置
140 副変速レバー
142 グリップ部
143 主変速操作具
143c 前方押し操作部
143d 下方押し操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オペレータが握るレバー体のグリップ部に、走行変速装置を変速操作する変速操作具を備える作業用走行車において、
前記変速操作具をレバー体のオペレータ側の側面に前後回動自在に設け、変速操作具の前方への回動操作にもとづいて走行変速装置を増速側に変速させ、変速操作具の後方への回動操作にもとづいて走行変速装置を減速側に変速させるにあたり、変速操作具に、レバー体のグリップ部を握りながら親指の腹部で前方に押し操作可能で、かつ、該押し操作に応じて変速操作具を前方に回動させる前方押し操作部と、レバー体のグリップ部を握りながら親指の腹部で下方に押し操作可能で、かつ、該押し操作に応じて変速操作具を後方に回動させる下方押し操作部とを設けたことを特徴とする作業用走行車の変速操作具。
【請求項2】
前記下方押し操作部を、前方押し操作部よりもオペレータ側にオフセットさせたことを特徴とする請求項1記載の作業用走行車の変速操作具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−116393(P2012−116393A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269371(P2010−269371)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】