説明

作業車の潤滑油供給構造

【課題】ミッションケース内の伝動機構に対する潤滑油の供給を安定化させる。
【解決手段】作業装置を駆動昇降操作自在な昇降用油圧装置、及び、作業装置の左右傾斜姿勢を変更操作自在な姿勢変更用油圧装置から排出された作動油がミッションケース内の伝動機構に対して潤滑油として供給され、昇降用油圧装置から排出された作動油を回収する第1回収部42と、第1回収部42にて回収された作動油をミッションケース内の伝動機構Dに潤滑油として供給する第1供給路43と、姿勢変更用油圧装置から排出された作動油を回収する第2回収部44と、第2回収部44にて回収された作動油をミッションケース内の伝動機構に潤滑油として供給する第2供給路45とが備えられ、第1回収部42と第2回収部44とが、同じ又は略同じ高さになる状態で設けられるとともに連通路46を介して連通接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミッションケース内部の伝動機構に対して潤滑油を供給するための作業車の潤滑油供給構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記作業車の一例としての農用トラクタにおいて、従来では、例えば特許文献1に示されるように、機体に昇降自在に連結される作業装置を昇降操作するための昇降用油圧装置として、油圧シリンダとその油圧シリンダに対する作動油給排用のコントロールバルブとが備えられ、コントロールバルブから排出される作動油を油出口の下方側に設けられた給油管にて受止めて、その給油管に形成された複数の滴下孔からミッションケース内の複数の伝動機構としての伝動ギアに対して作動油を滴下させる状態で潤滑油として供給するように構成したものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭61−47747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来構成では、昇降用油圧装置から排出される作動油をミッションケースの各部に潤滑油として供給する構成となっているが、昇降用油圧装置が昇降操作を実行しているときは、作動油がこの昇降用油圧装置にて使用されるので潤滑油として供給することができないものとなる。
特に、昇降用油圧装置が頻繁に昇降操作を実行するような作業状況であれば、昇降用油圧装置に対して供給される作動油がその昇降用油圧装置にて使用される頻度が高くなり、ミッションケース内の複数の伝動機構に対して潤滑油が安定的に供給できないおそれがあり、この点で改善の余地があった。
【0005】
本発明の目的は、ミッションケース内の伝動機構に対する潤滑油の供給を安定化させる点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る作業車の潤滑油供給構造の第1特徴構成は、走行機体の後部に連結された作業装置を駆動昇降操作自在な昇降用油圧装置と、前記作業装置の左右傾斜姿勢を変更操作自在な姿勢変更用油圧装置とが備えられ、前記走行機体に備えられるミッションケースの内部に貯留される潤滑油が作動油として前記昇降用油圧装置及び前記姿勢変更用油圧装置に供給されるとともに、前記昇降用油圧装置及び前記姿勢変更用油圧装置から排出された作動油が前記ミッションケース内の伝動機構に対して潤滑油として供給されるように構成され、前記昇降用油圧装置から排出された作動油を回収する第1回収部と、前記第1回収部にて回収された作動油を前記ミッションケース内の伝動機構に潤滑油として供給する第1供給路と、前記姿勢変更用油圧装置から排出された作動油を回収する第2回収部と、前記第2回収部にて回収された作動油を前記ミッションケース内の伝動機構に潤滑油として供給する第2供給路とが備えられ、前記第1回収部と前記第2回収部とが、同じ又は略同じ高さになる状態で設けられるとともに、連通路を介して連通接続されている点にある。
【0007】
第1特徴構成によれば、昇降用油圧装置にて作動油が使用されていないときは、昇降用油圧装置から排出された作動油は第1回収部にて回収されて第1供給路を通してミッションケース内の伝動機構に潤滑油として供給される。一方、姿勢変更用油圧装置にて作動油が使用されていないときは、姿勢変更用油圧装置から排出された作動油は第2回収部にて回収されて第2供給路を通してミッションケース内の伝動機構に潤滑油として供給される。つまり、昇降用油圧装置と姿勢変更用油圧装置とが夫々作動油が使用されていければ、ミッションケース内の伝動機構に適切に潤滑油が供給されることになる。
【0008】
そして、第1回収部と第2回収部とが、同じ又は略同じ高さになる状態で設けられるとともに、連通路を介して連通接続されているから、ミッションケース内の伝動機構に安定的に潤滑油を供給することが可能となる。
【0009】
すなわち、昇降用油圧装置において作動油が使用されているときは、昇降用油圧装置からは作動油が排出されないが、姿勢変更用油圧装置から排出されて第2回収部にて回収された作動油が、第2回収部から連通路を介して第1回収部にも供給されることになり、第1回収部からミッションケース内の伝動機構に潤滑油が供給される。又、姿勢変更用油圧装置において作動油が使用されているときは、姿勢変更用油圧装置から作動油は排出されないが、昇降用油圧装置から排出されて第1回収部にて回収された作動油が、第1回収部から連通路を介して第2回収部にも供給されることになり、第2回収部からミッションケース内の伝動機構に潤滑油が供給される。
そして、昇降用油圧装置と姿勢変更用油圧装置とが同時に操作されることは少なく、第1回収部及び第2回収部のうちの少なくともいずれか一方においては作動油が回収される状態となる。
【0010】
従って、第1特徴構成によれば、ミッションケース内の伝動機構に対する潤滑油の供給を安定化させることが可能となった。
【0011】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成に加えて、前記第1回収部と前記昇降用油圧装置とが密閉状態で連通接続され、且つ、前記第2回収部と前記姿勢変更用油圧装置とが密閉状態で連通接続されている点にある。
【0012】
第2特徴構成によれば、第1回収部と昇降用油圧装置とが密閉状態で連通接続されるので、昇降用油圧装置から排出されて第1回収部にて回収された作動油の全量又は略全量がミッションケース内の伝動機構に対して潤滑油として供給される。
【0013】
又、第2回収部と姿勢変更用油圧装置とが密閉状態で連通接続されるので、姿勢変更用油圧装置から排出されて第2回収部にて回収された作動油の全量又は略全量がミッションケース内の伝動機構に対して潤滑油として供給される。
【0014】
従って、昇降用油圧装置及び姿勢変更用油圧装置から排出される作動油の全量又は略全量を無駄なく潤滑油として有効に利用することができる。
【0015】
本発明の第3特徴構成は、第1特徴構成又は第2特徴構成に加えて、前記第1供給路が、前記第1回収部から機体前部側に向けて延設されるとともに、前記潤滑油を前記ミッションケースの機体後部側から機体前部側に亘る複数箇所に上方側から滴下状態で供給するように構成され、前記第2供給路が、前記潤滑油を前記第2回収部から前記ミッションケースの機体後部側の複数箇所に上方側から滴下状態で供給するように構成されている点にある。
【0016】
第3特徴構成によれば、昇降用油圧装置から排出されて第1回収部にて回収された作動油は、第1回収部から機体前部側に向けて延設される第1供給路を通して供給され、ミッションケースの機体後部側から機体前部側に亘る複数箇所にて潤滑油として上方側から滴下状態で供給される。一方、姿勢変更用油圧装置から排出されて第2回収部にて回収された作動油は、第2回収部から第2供給路を通してミッションケースの機体後部側の複数箇所に上方側から滴下状態で供給される。
【0017】
昇降用油圧装置は姿勢変更用油圧装置に比べて必要とされる作動油流量が多く、それだけ排出される作動油も姿勢変更用油圧装置に比べて多くなるが、このような昇降用油圧装置から排出される多量の作動油を利用して、ミッションケースの機体後部側から機体前部側に亘る複数箇所にて潤滑油として供給することができ、姿勢変更用油圧装置からの少量の作動油はミッションケースの機体後部側の複数箇所に供給するようにしている。
【0018】
このようにミッションケース内の複数箇所にて上方側から滴下状態で潤滑油が供給されるので、例えば、ミッションケースの底部に多量の潤滑油を貯留させなくても、ミッションケース内の伝動機構、特に、ミッションケースの上部に位置する伝動機構に対して的確に潤滑油を供給することができる。
【0019】
本発明の第4特徴構成は、第3特徴構成に加えて、前記第1供給路に、前記第1回収部から遠いほど大径になるように径を異ならせる形態で、適宜間隔をあけて複数の潤滑油滴下用の油排出孔が形成されている点にある。
【0020】
第4特徴構成によれば、第1供給路に適宜間隔をあけて形成された複数の潤滑油滴下用の油排出孔から潤滑油が滴下状態で供給されるが、複数の油排出孔は第1回収部から遠いほど大径になるように径が異なっているので、複数の油排出孔にて極力均等に潤滑油を排出させ易いものとなる。
【0021】
第1供給路が潤滑油で常に満たされるほど多量の潤滑油が供給される場合であれば、複数の油排出孔が同一径であっても夫々の油排出孔から略均等に排出させることができるが、第1回収部にて回収される作動油がそれほど多くない場合であれば、複数の油排出孔が同一径であれば、第1回収部に近い油排出孔で排出され易く第1回収部から離れていくほど排出し難いものとなる。
【0022】
そこで、第1回収部に近い油排出孔は小径にすることで、第1回収部に近い箇所では油が排出され難くして第1回収部から遠い箇所に向けて第1供給路を通して供給され易いようにし、且つ、第1回収部から遠い油排出孔は大径にして排出され易いようにすることで、排出を円滑にすることで、複数の油排出孔にて極力均等に潤滑油を排出させ易いものとなるのである。
【0023】
本発明の第5特徴構成は、第3特徴構成又は第4特徴構成に加えて、前記第1供給路から前記ミッションケース内の伝動機構に滴下供給されてその伝動機構の回転に伴う遠心力により外方に飛散される潤滑油を受止めて前記伝動機構に案内する受止め案内体が設けられている点にある。
【0024】
第5特徴構成によれば、第1供給路からミッションケース内の伝動機構に潤滑油が滴下供給されると、伝動機構は高速で回転駆動されるものであるから、滴下供給される潤滑油が伝動機構の遠心力によって外方に飛散されるが、その外方に飛散される潤滑油を受止め案内体によって受止めて伝動機構に案内するようにしている。
【0025】
伝動機構の遠心力によって外方に飛散される潤滑油がそのまま放置されると、ミッションケースの側壁等を伝って底部に落下することになり、伝動機構に対する潤滑油の供給が行えないものとなるが、外方に飛散される潤滑油を受止め案内体にて受止めて伝動機構に案内することにより、伝動機構に的確に潤滑油を供給することができる。
【0026】
本発明の第6特徴構成は、第5特徴構成に加えて、前記第1供給路を構成するパイプ部材に前記受止め案内体が取り付けられている点にある。
【0027】
第6特徴構成によれば、第1供給路がパイプ部材にて構成され、この第1供給路は、第1回収部から機体前部側に向けて長く延設されるものであるから、ミッションケース内部の適宜箇所に支持させる状態で設けられることになる。そして、第1供給路を構成するパイプ部材に受止め案内体が取り付けられるので、パイプ部材を受止め案内体の支持具に兼用することができ、受止め案内体を支持するための支持構造を簡素にできる。
【0028】
本発明の第7特徴構成は、第1特徴構成〜第6特徴構成のいずれかに加えて、前記ミッションケース内部に、原動部からの動力を走行装置に伝達するための走行駆動用伝動機構と、前記原動部からの動力を前記作業装置に伝達するための動力取り出し用伝動機構とが備えられ、前記昇降用油圧装置及び前記姿勢変更用油圧装置から排出された前記作動油が、前記走行駆動用伝動機構及び前記動力取り出し用伝動機構に潤滑油として供給されるように構成されている点にある。
【0029】
第7特徴構成によれば、走行装置に対して走行駆動用伝動機構により動力が供給されて走行機体を走行させ、且つ、作業装置に対して動力取り出し用伝動機構により動力が供給されることにより、走行機体を走行させながら作業装置を駆動させて作業を行うことができる。
【0030】
そして、昇降用油圧装置及び姿勢変更用油圧装置から排出された作動油が、走行駆動用伝動機構及び動力取り出し用伝動機構に夫々潤滑油として供給されることになるので、走行機体を走行させながら作業装置を駆動させて作業を行う場合であっても、ミッションケース内において伝動に寄与する伝動機構に対して潤滑油を適正に供給することができる。
【0031】
本発明の第8特徴構成は、第1特徴構成〜第7特徴構成のいずれかに加えて、前記ミッションケースの底部に下方に凹入する状態で潤滑油を貯留する油溜まり部が形成され、この油溜まり部に貯留される潤滑油が作動油として前記昇降用油圧装置及び前記姿勢変更用油圧装置に供給されるように構成されている点にある。
【0032】
第8特徴構成によれば、ミッションケースの底部に下方に凹入する油溜まり部が形成されるので、貯留される潤滑油の量が少ない場合であっても、ミッションケースの底部全域に貯留する場合に比べて潤滑油の貯留深さを大にすることができ、作動油として昇降用油圧装置及び姿勢変更用油圧装置に対する供給が行われる場合に、ポンプによる潤滑油の吸引が行い易いものとなる。又、ミッションケース内部の油溜まり部以外の領域では潤滑油の油量が少ないので、伝動ギアによる潤滑油の攪拌抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】トラクタの全体側面図である。
【図2】伝動構造を示す図である。
【図3】ミッションケースの縦断側面図である。
【図4】油圧回路図である。
【図5】潤滑油の供給状態を示す系統図である。
【図6】図3のVI−VI線断面図である。
【図7】図3のVII−VII線断面図である。
【図8】動力取り出し用変速部の縦断側面図である。
【図9】前輪増速部の縦断側面図である。
【図10】ミッションケースの後部の上方を開放した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面に基づいて、本発明に係る作業車の潤滑油供給構造を作業車の一例としてのトラクタに適用した場合について説明する。
【0035】
図1に示すように、走行装置としての左右一対の前車輪1と左右一対の後車輪2とを備えた走行機体Aの前部のエンジンボンネット3の内部にエンジン4を備え、このエンジン4の後面側にジェネレータモータMと主クラッチ機構C(図2参照)とを収容する伝動ハウジング5を備え、この伝動ハウジング5の後面にミッションケース6が連結されており、ミッションケース6の上部には搭乗運転部7が備えられている。
【0036】
このトラクタは、図2に示すように、エンジン4とジェネレータモータMとで駆動力を得ることができるハイブリッド形式に構成されている。つまり、このトラクタでは、エンジン4とジェネレータモータMとが原動部を構成する。
つまり、ジェネレータモータMが、エンジン4の駆動力により発電を行う発電機の機能と、外部から供給される電力により回転作動する走行用モータの機能とを併せ持つものが使用されている。また、ジェネレータモータMで発電された電力をバッテリー(図示せず)で蓄電するようにしてあり、走行伝動系に作用する負荷が小さい場合には、ジェネレータモータMからの発電電力をバッテリーに充電し、走行伝動系に作用する負荷が閾値を超えた場合には、バッテリーからの電力をジェネレータモータMに供給するように構成され、ジェネレータモータMの駆動力を走行伝動系に伝えることによりエンジン回転をアシストして駆動力不足やエンジンストップを招くことのない走行を実現できるように構成されている。
【0037】
図1に示すように、走行機体Aの後部に、トップリンク8と左右一対のロアーリンク9からなる3点リンク機構10を介して例えばロータリ耕耘装置等の作業装置Bが昇降自在に連結されている。つまり、ミッションケース6の後部に備えられた油圧式の昇降シリンダ11の作動により上下に揺動する左右一対のリフトアーム12が備えられ、リフトアーム12と左右のロアーリンク9とが左右のリフトロッド13にて枢支連結され、左右のリフトロッド13のうちのいずれか一方がリフトロッドシリンダ14により伸縮自在に構成されている。
【0038】
そして、昇降シリンダ11を駆動してリフトアーム12を揺動操作することで作業装置Bを昇降自在に構成され、且つ、リフトロッドシリンダ14を伸縮操作することで作業装置Bの左右傾斜姿勢を変更自在に構成されている。
【0039】
図4に示すように、ポンプ用電動モータ15によって駆動される油圧ポンプ16が設けられ、この油圧ポンプ16によりミッションケース6内に貯留される潤滑油をオイルフィルター17を通して吸引して作動油として昇降シリンダ11及びリフトロッドシリンダ14に供給するように油圧回路が構成されている。
【0040】
昇降シリンダ11は、単動型に構成され、油室18に作動油が供給されることで伸長して作業装置Bを上昇させ、油室18から作動油を排出することで縮退して作業装置Bを下降させるように構成されている。この昇降シリンダ11に対する作動油供給路19には、昇降制御用の3位置切換弁20、逆流防止用のチェック弁21、手動操作により流量を変更調節自在な可変流量絞り弁22が備えられている。
【0041】
昇降制御用の3位置切換弁20が中立位置Nに切り換えられると、油圧ポンプ16からの作動油は短絡状態でミッションケース6に排出され、昇降シリンダ11は作動せず作業装置Bは昇降位置をそのまま維持する。昇降制御用の3位置切換弁20が上昇位置Uに切り換えられると、油圧ポンプ16からの作動油は昇降シリンダ11の油室18に供給され、昇降シリンダ11が伸長してリフトアーム12が上昇揺動して作業装置Bが上昇する。又、昇降制御用の3位置切換弁20が下降位置Dに切り換えられると、油圧ポンプ16からの作動油はミッションケース6に排出されるとともに、昇降シリンダ11の油室18から油が排出されて昇降シリンダ11が縮退してリフトアーム12が下降揺動して作業装置Bが下降する。その下降時には、昇降シリンダ11の油室18から排出される油はチェック弁21の作用により可変流量絞り弁22を通過することになるので、可変流量絞り弁22にて流量を調節することで作業装置Bの下降速度を調節できる。
【0042】
従って、昇降シリンダ11、昇降制御用の3位置切換弁20、チェック弁21、流量絞り弁22等により、作業装置Bを駆動昇降操作自在な昇降用油圧装置V1が構成されている。
【0043】
リフトロッドシリンダ14は、複動型に構成され、第1油室23に作動油が供給されることで伸長して作業装置Bを左右いずれか一方(例えば右方向)に傾斜させ、第2油室24に作動油が供給されることで縮退して作業装置Bを左右いずれか他方(例えば左方向)に傾斜させるように構成され、リフトロッドシリンダ14に対する作動油供給路25には、姿勢変更操作用の3位置切換弁26と、リフトロッドシリンダ14に対して一定流量の作動油を供給し、昇降用油圧装置V1に余剰流の作動油を供給する絞り弁27とが備えられている。
【0044】
姿勢変更操作用の3位置切換弁26が中立位置Nに切り換えられると、油圧ポンプ16からの作動油は短絡状態でミッションケース6に排出され、リフトロッドシリンダ14は作動せず作業装置Bは傾斜姿勢をそのまま維持する。姿勢変更操作用の3位置切換弁26が右傾斜位置Rに切り換えられると、油圧ポンプ16からの作動油は第1油室23に供給されるとともに第2油室24の作動油は排出されて、作業装置Bは左右傾斜方向のいずれか一方(例えば右下がり傾斜方向)に傾斜する。姿勢変更操作用の3位置切換弁26が左傾斜位置Lに切り換えられると、油圧ポンプ16からの作動油が第2油室24に供給されるとともに第1油室23の作動油は排出されて、作業装置Bは左右傾斜方向のいずれか他方(例えば左下がり傾斜方向)に傾斜する。
【0045】
従って、リフトロッドシリンダ14、姿勢変更操作用の3位置切換弁26、絞り弁27等により、作業装置Bの左右傾斜姿勢を変更操作自在な姿勢変更用油圧装置V2が構成されている。
【0046】
詳述はしないが、作業装置Bの昇降操作は、昇降操作レバー28の操作に基づいて行われる場合と、作業装置Bの昇降位置を目標位置に維持するように図示しない制御装置によって自動で昇降操作される場合とがある。又、作業装置Bの左右姿勢変更操作は、予め設定された左右傾斜姿勢に維持されるように図示しない制御装置によって自動的に行われる構成となっている。
【0047】
図1及び図3に示すように、昇降制御用の3位置切換弁20、チェック弁21、可変流量絞り弁22を備えた昇降用の油圧ブロック29と、姿勢変更操作用の3位置切換弁26と絞り弁27とを備えた姿勢変更用の油圧ブロック30とが、ミッションケース6の後部側の上面に支持される状態で備えられている。
【0048】
又、ミッションケース6の後端には駆動力の外部への取り出しを可能にする動力取り出し軸31が備えられ、作業装置Bに対して動力取り出し軸31からの駆動力を伝えることができるように構成されている。
【0049】
ミッションケース6には、図3及び図5に示すように、ミッションケース6内に備えられる伝動機構Dとしての、主変速部33、前後進切換部34、副変速部35、前輪増速部36、後車輪用伝動機構37、動力取り出し用変速部38等が備えられている。
【0050】
詳述はしないが、主変速部33は、エンジン4からの動力を断続する油圧式の変速クラッチ39、複数の伝動ギヤ40等を備えて構成され、前後進切換部34、副変速部35、前輪増速部36も同様に複数の伝動ギヤが備えられ、後車輪用伝動機構37は、後輪用デファレンシャル機構37A、左右両側の後車軸用のブレーキ37B、左右両側の後車軸用の減速ギア機構37C等が備えられている。
そして、これら主変速部33、前後進切換部34、副変速部35、前輪増速部36、後車輪用伝動機構37が、エンジン4やジェネレータモータMの動力を前車輪1及び後車輪2に伝達するための走行駆動用伝動機構D1に相当する。又、動力取り出し用変速部38が、エンジン4やジェネレータモータMの動力を作業装置Bに伝達するための動力取り出し用伝動機構D2に相当する。
【0051】
このトラクタでは、昇降用油圧装置V1及び姿勢変更用油圧装置V2から排出された作動油がミッションケース6内の複数の伝動機構Dに対して潤滑油として供給されるように構成されている。
そして、図5に示すように、昇降用油圧装置V1から排出された作動油を回収する第1回収部42と、第1回収部42にて回収された作動油をミッションケース6内の伝動機構Dに潤滑油として供給する第1供給路43と、姿勢変更用油圧装置V2から排出された作動油を回収する第2回収部44と、第2回収部44にて回収された作動油をミッションケース6内の伝動機構Dに潤滑油として供給する第2供給路45とが備えられている。又、第1回収部42と第2回収部44とが、同じ又は略同じ高さになる状態で設けられるとともに、連通路46を介して連通接続されている。
【0052】
説明を加えると、昇降シリンダ11に対する作動油の給排を行うための昇降用の油圧ブロック29が機体前部側に位置し、且つ、リフトロッドシリンダ14に対する作動油の給排を行うための姿勢変更用の油圧ブロック30が機体後部側に位置する状態で、昇降用の油圧ブロック29と姿勢変更用の油圧ブロック30とが、ミッションケース6の後部側の上部に備えられている。
【0053】
図3に示すように、ミッションケース6の上部において、昇降用の油圧ブロック29の下面に第1回収部42が下側からボルト連結にて接続されるとともに、姿勢変更用の油圧ブロック30の下面に第2回収部44が下側からボルト連結にて接続されている。昇降用の油圧ブロック29及び姿勢変更用の油圧ブロック30は、夫々、ミッションケース6の上壁部6Aに支持されており、夫々の下面側には、第1回収部42及び第2回収部44に対してフランジ接続される接続面(図示せず)が形成されている。
【0054】
図3に示すように、昇降用の油圧ブロック29と姿勢変更用の油圧ブロック30との間の下方側箇所には、後輪用デファレンシャル機構37Aをデフロック状態にしたりデフロック状態を解除したりするためのデフロック操作軸83が機体横幅方向に延びる状態で設けられており、このデフロック操作軸83との干渉を回避しながら、昇降用の油圧ブロック29と姿勢変更用の油圧ブロック30から排出される作動油を回収するために、第1回収部42と第2回収部44とを設ける構成となっている。
【0055】
図10に示すように、第1回収部42には、その周囲を囲う状態で縦壁部42Aが備えられ、その縦壁部42Aの上面に昇降用の油圧ブロック29の下面が接続される接続面42Bが形成されている。又、縦壁部42Aで囲われる状態で作動油を回収するための貯留用空間を形成する凹部42Cが形成されている。接続面42Bの機体前端側箇所及び左右両端側箇所に夫々、ボルトBoにより接続されるフランジ接続部42Dが形成され、昇降用の油圧ブロック29の下面に接続される構成となっている。
【0056】
図10に示すように、凹部42Cは、機体前部側が横幅方向に幅狭に形成され、後部側が幅広に形成されて、平面視で略L字形に設けられている。そして、幅広の後部側箇所には上下向き開口42Eが形成されている。又、図3に示すように、その上下向き開口42Eから下部の接続具42Fを介して第1供給路43を構成する前部側供給管47(パイプ部材の一例)に作動油を排出することができるように構成されている。そして、前部側供給管47は第1回収部42から機体前部側に向けて延設される状態で設けられている。
【0057】
図10に示すように、第2回収部44は、第1回収部42と同様に、その周囲を囲う状態で縦壁部44Aが備えられ、縦壁部44Aの上面に、姿勢変更用の油圧ブロック30の下面が接続される接続面44Bが形成されている。又、縦壁部44Aで囲われる状態で作動油を回収するための貯留用空間を形成する平面視で略四角状又は菱形状の凹部44Cが形成されている。接続面44Bの機体前端側箇所及び機体後端側箇所に夫々、ボルトBoにより接続されるフランジ接続部44Dが形成され、姿勢変更用の油圧ブロック30の下面に接続される構成となっている。又、この第2回収部44は、前記縦壁部44Aにおける横幅方向両側箇所並びに機体後部側箇所に夫々、後述する後部側供給管55が接続されており、後述するように作動油を各部に排出させる構成となっている。
【0058】
次に、前部側供給管47を通る機体前部側の油排出構造について説明する。
図3に示すように、前部側供給管は、ミッションケース6の上部壁の屈曲状態に沿うように屈曲する状態で機体前部側に向けて延設され、適宜箇所をミッションケース6内部に設けられた支持部48にて支持される状態でミッションケース6の内部の上部側箇所に配備されている。
【0059】
この前部側供給管47には、長手方向(前後方向)に沿って適宜間隔をあけて複数の潤滑油滴下用の油排出孔49が形成され、ミッションケース6の機体後部側から機体前部側端部に亘る複数箇所に形成された油排出孔49の夫々から潤滑油を上方側から滴下状態で供給するようになっており、潤滑油をミッションケース6内の主変速部33、前後進切換部34、副変速部35等に供給することができるように構成されている。
【0060】
又、複数の油排出孔49は、第1回収部42から遠いほど大径になるように径を異ならせる形態で形成されている。つまり、第1回収部42に近い領域では小径とし、第1回収部42から遠い領域では近い領域の径よりも大径となる状態で油排出孔49が形成されている。
【0061】
図3及び図5に示すように、前部側供給管47を支持する支持部48の内部に形成された内部油路(図示せず)等を通して前部側供給管47から分岐する前部側分岐供給管50が備えられ、この前部側分岐供給管50は、動力取り出し用変速部38に対して潤滑油を供給する構成となっている。
そして、図8に示すように、動力取り出し用変速部38における各伝動ギアや多板式の動力取り出し用の摩擦クラッチ52等に対する潤滑油の供給は、前部側分岐供給管50から動力取り出し用伝動軸65を回動自在に支持するための軸支部84の内部に形成された内部油路85及び動力取り出し用伝動軸65の軸内に軸芯方向に沿って形成された軸内油路54A、並びに、変速従動側の伝動軸53の軸内に軸芯方向に沿って形成された軸内油路54Aを介して行われるように構成されている。
【0062】
又、図5に示すように、主変速部33における変速従動側の伝動軸61(図6参照)や副変速部35における変速従動側の伝動軸(図示せず)についても、動力取り出し用変速部38と同様に、前部側供給管47からミッションケース6に備えた支持部48の内部に形成された内部油路(図示せず)を通して、前記各伝動軸61の軸内に形成された軸内油路54B,54Cを通して潤滑油が供給されるように構成されている。つまり、軸内油路54A,54B,54Cは第1供給路43に相当することになる。
【0063】
又、図3に示すように、主変速部33の後部並びに前後進切換部34の前部の上方側に相当する箇所は、ミッションケース6の上部側に取り外し下方な蓋体fを設けてあり、蓋体fを開放することで、例えば、油排出孔49の目詰まりの点検等のメンテナンス作業が行えるようにしている。
【0064】
次に、後部側供給管55を通る機体後部側の油排出構造について説明する。
図3に示すように、第2供給路45を構成する後部側供給管55は、第2回収部44からミッションケース6の機体後部側の複数箇所に上方側から滴下状態で供給するように構成されている。つまり、後部側供給管55は、後部デファレンシャル機構37Aに上方側から滴下状態で供給する第1分岐供給管55Aと、左右両側のブレーキ37B、左右両側の減速ギア機構37C等に対して夫々上方側から滴下状態で供給する第2分岐供給管55Bとに分岐しており、異なる箇所に潤滑油を供給する構成となっている。
【0065】
又、第2分岐供給管55Bから滴下状態で供給される潤滑油が下方の受止め部55dにて受止めたのち、ブレーキ37B及び減速ギア機構37Cに潤滑油を供給するように構成されている。
【0066】
図3に示すように、ミッションケース6の略前後方向の中央部における底部箇所に、潤滑油を貯留するために下方に凹入する状態で油溜まり部57が形成され、図4に示すように、この油溜まり部57から潤滑油が吸引されて、作動油として昇降用油圧装置V1及び姿勢変更用油圧装置V2に供給されるように構成されている。
但し、ミッションケース6内に貯留される潤滑油は、油溜まり部57だけに貯留されるのではなく、例えば、図6,7,9に示すように、主変速部33、副変速部34等の伝動ギアの下部側の一部が浸漬する程度の油面レベルOLとなる状態で貯留されることになる。
【0067】
図3に示すように、ミッションケース6の上面と昇降用油圧装置V1を構成する昇降用の油圧ブロック29の下面とは密閉状態で接続される構成となっており、昇降用の油圧ブロック29の油排出用の油路部分と第1回収部42とは外部と遮断された気密状態となっており、昇降用油圧装置V1から排出される作動油が外部に漏れ出ることがなく、排出される作動油の全量又はほぼ全量を効率よく潤滑油として利用することができるように構成されている。
【0068】
ミッションケース6の上面と姿勢変更用油圧装置V2を構成する姿勢変更用の油圧ブロック30の下面も同様に、密閉状態で接続される構成となっており、姿勢変更用油圧装置V2から排出される作動油の全量又は略全量を効率よく潤滑油として利用することができるように構成されている。
【0069】
そして、図3及び図10に示すように、第1回収部42における縦壁部42Aの機体後部側箇所と第2回収部44における縦壁部44Aの機体前部側箇所とに亘って平面視で略U字状の連通用パイプ58によって連通接続されており、この連通用パイプ58の内部油路にて水平方向に沿って延びる連通路46が形成され、第1回収部42と第2回収部44との間で互いに作動油が流動することが可能に構成されている。
このことにより、昇降シリンダ11に対して作動油が供給されて第1回収部42にて作動油が回収できないときには、第2回収部44からの作動油が連通路46を通して第1回収部42に供給され、又、リフトロッドシリンダ14に対して作動油が供給されて第2回収部44にて作動油が回収できないときには、第1回収部42からの作動油が連通路46を通して第2回収部44に供給されるので、ミッションケース6の各部に対して安定的に潤滑油を供給することが可能となる。
【0070】
又、図3に示すように、減速ギア機構37Cを収納する後車輪用伝動ケース77の下部とミッションケース6の下部とにわたって内部を連通する連通用パイプ78が設けられ、潤滑油を互いに供給することができるようにしている。
【0071】
上述したように前部側供給管47は複数の油排出孔49から潤滑油をミッションケース6内の各種の伝動機構Dに対して上方側から滴下状態で供給するようになっているが、回転駆動される伝動機構Dに対して上方から潤滑油を滴下させると、潤滑油が回転する伝動機構Dにおける回転体(ギアやクラッチ等)の遠心力や打撃によって外方に跳ね飛ばされて伝動機構Dを潤滑する機能が低下するおそれがある。
【0072】
そこで、図6及び図7に示すように、前部側供給管47からミッションケース6内の伝動機構Dに滴下供給されてその伝動機構Dにおける回転体の回転に伴う遠心力により外方に飛散される潤滑油を受止めて伝動機構に案内する受止め案内体59が設けられている。
【0073】
図6は、主変速部33に備えられた受止め案内体59を示している。前部側供給管47が主変速部33の上方に位置する状態で備えられ、油排出孔49から主変速部33における入力軸60に備えられた伝動ギアや変速出力軸61に備えられた伝動ギア等に潤滑油を滴下状態で供給するようになっている。そして、前部側供給管47から左右両側に延びる状態で且つ前部側供給管47に一体的に固定される状態で板状の受止め案内体59が取り付けられている。図6における前部側供給管47の左側(前方方向視で機体右側)では、受止め案内される潤滑油を伝動ギアに戻すように、受止め案内体59の左側端部に下方に向かうように略L字形に屈曲する下向き案内部59aが形成されている。
【0074】
図6に示すように、主変速部33の下方側には、主変速部33に備えられている伝動ギアが回転することにより、ミッションケース6の内部に貯留されている潤滑油が泡立ち状態となることを防止するための泡立ち防止板80が設けられている。
【0075】
図7は、前後進切換部34に備えられた受止め案内体59を示している。前部側供給管47が前後進切換部34の上方に位置する状態で備えられ、油排出孔49から前後進切換部34における、入力軸62、変速出力軸63、及び、逆転用中継軸64等に備えられた伝動ギア等に潤滑油を滴下状態で供給するようになっている。
【0076】
そして、図7における前部側供給管47の左側(機体前方方向視では機体右側)は、ミッションケース6の上部壁が近接しているので、前部側供給管47から斜め上方に延びる状態で且つ前部側供給管47に一体的に固定される状態で板状の受止め案内体59が取り付けられている。
【0077】
図7における前部側供給管47の右側(機体前方方向視では機体左側)は、動力取り出し用伝動軸65が長く前後方向に延設されるだけであり、ミッションケース6の内部が大きく開放されているので、受止め案内体59は、この開放されている空間に潤滑油が飛散しないように、前後進切換部34を囲うように機体前後方向視で略コ字形に屈曲させた屈曲部59bが形成されており、前部側供給管47から滴下供給される潤滑油が無駄なく前後進切換部34に供給されるようにしている。
【0078】
図7に示すように、前後進切換部34の下方側には、主変速部33と同様に、前後進切換部34に備えられている伝動ギアが回転することにより、ミッションケース6の内部に貯留されている潤滑油が泡立ち状態となることを防止するための泡立ち防止板81が設けられている。
【0079】
図9に示すように、前輪増速部36は、ミッションケース6の機体後部側における下方側箇所に位置する状態で設けられており、前車輪1の駆動速度を2段階に切り換えるための4個の伝動ギヤ66〜69と多板式の摩擦クラッチ70とを備えており、この摩擦クラッチ70を入切することにより前輪伝動軸71(前車輪1)の駆動速度を後車輪2と等速での駆動状態と、前車輪1の駆動速度を後車輪2よりも高速にする前輪増速状態とに切り換え自在な構成となっている。
【0080】
つまり、前車輪1が直進状態であれば、スライド操作体73に形成された従動ギア74が大径の標準ギア68に形成された内歯ギア75に咬み合う標準状態となり、前車輪1が設定角度以上に操向揺動すると、それに伴って図示しない連係機構によってスライド操作体73が図9の左方向にスライド操作されて、従動ギア74と内歯ギア75との咬み合いが解除されて摩擦クラッチ70が入り状態となり、スライド操作体73が小径の増速ギア69と一体的に回転する前輪増速状態に切り換わるように構成されている。
【0081】
図9に示すように、前輪伝動軸71に軸芯方向に沿って軸内油路72が形成されており、前輪伝動軸71の軸端が臨む箇所に、後部デファレンシャル機構37Aに滴下供給された潤滑油が貯留される油溜まり部76が形成されている。つまり、前輪伝動軸71がこの油溜まり部76に貯留されている潤滑油に浸る状態となっており、前輪伝動軸71が回転するに伴って摩擦クラッチ70の遠心力によって軸内油路72を通して潤滑油を吸引して摩擦クラッチ70に対する潤滑が行われるように構成されている。
【0082】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、受止め案内体59が設けられる構成としたが、このような受止め案内体を設けない構成としてもよい。
【0083】
(2)上記実施形態では、第1回収部42から遠いほど大径になるように径を異ならせる形態で油排出孔49を形成するようにしたが、複数の油排出孔49を同一径に形成するものでもよい。
【0084】
(3)上記実施形態では、昇降用油圧装置V1及び姿勢変更用油圧装置V2から排出された作動油が、走行駆動用伝動機構D1及び動力取り出し用伝動機構D2に潤滑油として供給されるようにしたが、このような構成に限らず、前記作動油を、走行駆動用伝動機構D1にのみ供給するようにしたり、動力取り出し用伝動機構D2にのみ供給するものでもよく、他の伝動機構に供給するものでもよい。
【0085】
(4)上記実施形態では、ミッションケース6の底部に下方に凹入する状態で潤滑油を貯留する油溜まり部57が形成される構成としたが、凹入する油溜まり部57を設けずにミッションケース6の底部が平坦面に形成されるものでもよい。
【0086】
(5)上記実施形態では、第1回収部42と昇降用油圧装置V1とが密閉状態で連通接続され、且つ、第2回収部44と姿勢変更用油圧装置V2とが密閉状態で連通接続される構成としたが、第1回収部42と昇降用油圧装置V1とが開放される状態で接続される構成としたり、第2回収部44と姿勢変更用油圧装置V2とが開放される状態で接続される構成としてもよい。
【0087】
(6)上記実施形態では、潤滑油を供給するための油圧ポンプ16を電動モータ15にて駆動するようにしたが、油圧ポンプ16をエンジン4で駆動する形式の作業車でもよい。
【0088】
(7)上記実施形態では、作業車としてエンジン4とジェネレータモータMとで走行駆動力を得ることができるハイブリッド形式に構成されたトラクタを示したが、このような構成に限らず、エンジンの動力だけで走行駆動力を得る構成の作業車でもよく、又、走行用電動モータの動力だけで走行駆動力を得る構成の作業車でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、ミッションケース内の伝動機構に対して潤滑油を供給するように構成された作業車に適用できる。
【符号の説明】
【0090】
1,2 走行装置
4,M 原動部
6 ミッションケース
42 第1回収部
43 第1供給路
44 第2回収部
45 第2供給路
46 連通路
47 パイプ部材
49 油排出孔
57 油溜まり部
59 受止め案内体
A 走行機体
B 作業装置
D 伝動機構
D1 走行駆動用伝動機構
D2 動力取り出し用伝動機構
V1 昇降用油圧装置
V2 姿勢変更用油圧装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の後部に連結された作業装置を駆動昇降操作自在な昇降用油圧装置と、前記作業装置の左右傾斜姿勢を変更操作自在な姿勢変更用油圧装置とが備えられ、
前記走行機体に備えられるミッションケースの内部に貯留される潤滑油が作動油として前記昇降用油圧装置及び前記姿勢変更用油圧装置に供給されるとともに、前記昇降用油圧装置及び前記姿勢変更用油圧装置から排出された作動油が前記ミッションケース内の伝動機構に対して潤滑油として供給されるように構成され、
前記昇降用油圧装置から排出された作動油を回収する第1回収部と、前記第1回収部にて回収された作動油を前記ミッションケース内の伝動機構に潤滑油として供給する第1供給路と、前記姿勢変更用油圧装置から排出された作動油を回収する第2回収部と、前記第2回収部にて回収された作動油を前記ミッションケース内の伝動機構に潤滑油として供給する第2供給路とが備えられ、
前記第1回収部と前記第2回収部とが、同じ又は略同じ高さになる状態で設けられるとともに、連通路を介して連通接続されている作業車の潤滑油供給構造。
【請求項2】
前記第1回収部と前記昇降用油圧装置とが密閉状態で連通接続され、且つ、前記第2回収部と前記姿勢変更用油圧装置とが密閉状態で連通接続されている請求項1記載の作業車の潤滑油供給構造。
【請求項3】
前記第1供給路が、前記第1回収部から機体前部側に向けて延設されるとともに、前記潤滑油を前記ミッションケースの機体後部側から機体前部側に亘る複数箇所に上方側から滴下状態で供給するように構成され、
前記第2供給路が、前記潤滑油を前記第2回収部から前記ミッションケースの機体後部側の複数箇所に上方側から滴下状態で供給するように構成されている請求項1又は2記載の作業車の潤滑油供給構造。
【請求項4】
前記第1供給路に、前記第1回収部から遠いほど大径になるように径を異ならせる形態で、適宜間隔をあけて複数の潤滑油滴下用の油排出孔が形成されている請求項3記載の作業車の潤滑油供給構造。
【請求項5】
前記第1供給路から前記ミッションケース内の伝動機構に滴下供給されてその伝動機構の回転に伴う遠心力により外方に飛散される潤滑油を受止めて前記伝動機構に案内する受止め案内体が設けられている請求項3又は4記載の作業車の潤滑油供給構造。
【請求項6】
前記第1供給路を構成するパイプ部材に前記受止め案内体が取り付けられている請求項5記載の作業車の潤滑油供給構造。
【請求項7】
前記ミッションケース内部に、原動部からの動力を走行装置に伝達するための走行駆動用伝動機構と、前記原動部からの動力を前記作業装置に伝達するための動力取り出し用伝動機構とが備えられ、
前記昇降用油圧装置及び前記姿勢変更用油圧装置から排出された前記作動油が、前記走行駆動用伝動機構及び前記動力取り出し用伝動機構に潤滑油として供給されるように構成されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の作業車の潤滑油供給構造。
【請求項8】
前記ミッションケースの底部に下方に凹入する状態で潤滑油を貯留する油溜まり部が形成され、この油溜まり部に貯留される潤滑油が作動油として前記昇降用油圧装置及び前記姿勢変更用油圧装置に供給されるように構成されている請求項1〜7のいずれか1項に記載の作業車の潤滑油供給構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−233543(P2012−233543A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103663(P2011−103663)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】