説明

作業車両のサスペンション装置

【課題】 従来、サスペンション手段が中心部に1つ装備されており、左右両側の車輪から別々に伝達される振動、衝撃を別々に吸収、緩和することができず、更に、構成が複雑で大型の機構になる課題があった。
【解決手段】 揺動アーム1,1・2,2をパンタグラフ状に枢着連結して構成したサスペンション機構3を備えた作業車両4で、フロントアクスルブラケット5は、中心部に挿通されたピボット軸6を回動自由に支持し、その左右両側に対称に延長した支持ブラケット7,7を形成した。該両支持ブラケット7,7と、前記サスペンション機構3の揺動アーム1,1との間にダンパー8,8を介装したことを特徴とする作業車両のサスペンション装置としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、農作業、建築、運搬作業等に用いる作業車両のサスペンション装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からこの種の作業車両のサスペンション装置は、例えば、特開2000−118218号公報で公開されているように、パンタグラフ状運動リンク機構を形成するように、左右2対の腕を関節接続してサブフレームを構成し、該サブフレームを、トラクタの荷重を走行車輪に支持する位置に設けて、揺動可能に構成してサスペンション機能が発揮できるものとなっている。
【特許文献1】特開2000−118218号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した公報で示されるように、従来のサスペンションシステムは、左右2対の腕からなり、互いに対向した第1の端部と第2の端部とを関節接続して実質的なパンタグラフ状の運動リンク機構を形成して、これ(公報では「サブフレーム」と称している)と、サスペンション手段として、単一の複動液圧ジャッキが組み込まれた構成となっている。そして、上記ジャッキ、即ち、サスペンション手段は、リジッドアクスルとキャリッジとの間に挿入して設けられ、弾性及び緩衝効果を発揮するようにガスアキュームレータ方式に構成されている。
【0004】
しかしながら、上述した従来の装置は、上記説明と併せて、前記公報の図3及び図4に示されるように、サスペンション手段が中心部に1つ装備されており、上下の衝撃に対しては効果を奏するものの、左右両側の車輪から別々に伝達される振動、衝撃を別々に吸収、緩和することができ難いという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
まず、請求項1に記載した発明は、揺動アーム1,1・2,2をパンタグラフ状に枢着連結して構成したサスペンション機構3を備えた作業車両4であって、フロントアクスルブラケット5は、中心部に挿通されたピボット軸6を回動自由に支持し、その左右両側に対称に延長した支持ブラケット7,7を形成して設け、該両支持ブラケット7,7と、前記サスペンション機構3の左右揺動アーム1,1との間にダンパー8,8を介装したことを特徴とする作業車両のサスペンション装置であって、構成を簡潔にまとめたコンパクトな小型設計としており、左右の揺動アームと支持ブラケットとの間に設けた左右のダンパーによってそれぞれ衝撃が吸収、緩和されるものである。
【0006】
また、請求項2に記載した発明は、前記アクスルブラケット5の上方位置に振動センサ9を設け、該振動センサ9の検出に基づいて、前記ダンパー8,8のばね定数を変更調整することを特徴とする請求項1記載の作業車両のサスペンション装置であって、検出した振動値の程度に応じてダンパーのばね定数が変更調整されるから、常に、適確な衝撃の吸収、緩和が図られるものとなっている。そして、振動センサは、アクスルブラケットの上方位置に装備するものであるから、左右両側から伝播される振動の平均値に近い振動値を検出できる利点があり、更に、防泥も容易となる。
【発明の効果】
【0007】
まず、請求項1に記載した発明は、左右の揺動アームと左右支持ブラケットとの間にそれぞれ左右のダンパー8,8を介装することによって、左右の車輪から別々に伝播してくる衝撃を、適確に吸収、緩和できる優れた特徴がある。
【0008】
また請求項2に記載した発明は、振動センサ9の検出値に基づいてダンパーのばね定数が自動的に変更調整されるから、車輪側から伝わる衝撃が振動値に応じて適確に吸収、緩和が図られる特徴がある。そして、振動センサ9は、中心のアクスルブラケット5の上方位置に装備しているから、左右両側から伝播される振動の平均値に近い振動値を検出できる利点があり、更に、防泥も容易となる実用的効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明は、上部の車体側のフロントアクスルブラケット5の中心部に、左右に揺動する車輪側の支軸、すなわち、ピボット軸6を挿通して回動自由に支持し、ブラケット5の左右両側を延長して対称に支持ブラケット7、7を形成している。そして、該両方の支持ブラケット7、7と、サスペンション機構3を構成する左右の揺動アーム1,1との間にダンパー8,8を介装して構成したサスペンション装置である。
【0010】
そして、この発明は、上記の構成によって、左右の揺動アーム1,1・2,2と左右の支持ブラケット7,7との間にそれぞれ左右のダンパー8,8を介装することによって、左右の車輪11,11から別々に伝播してくる衝撃を、適確に吸収、緩和できる装置を作り出さんとするものである。そして、この発明の実施例は、全体の構成を簡潔にまとめたコンパクト設計を図るものであって、小型トラクタに適したコンパクトなサスペンション装置3を提供せんとするものである。
【0011】
以下、この発明を搭載した農業用トラクタについて図面に基づいて具体的に説明する。
【0012】
最初にトラクタ4全体の構成ついて説明する。
【0013】
トラクタ4は、図3に示すように、左右前輪11,11と左右後輪12,12とを有する車体フレーム13上に、キャビン14を搭載して構成している。そして、エンジン15は、キャビン14の前方側のボンネットカバー16で覆われたエンジンルーム17内に装備し、この出力回転を車体の走行系伝動機構を介して前記前後輪11,12へ伝達し駆動する構成としている。
【0014】
また前記エンジン15は、前記エンジンルーム16後部に内装したメイン燃料タンク21またはミッションケースの左右側方に支持したサブ燃料タンク13,13内の燃料をポンプを介して取り入れる構成となっている。
【0015】
また前記トラクタ4では、操縦座席19の下側やフロアマット20の下側、及び前記エンジン15の上側に搭載したメイン燃料タンク21の周囲を断熱部材22で覆い熱の伝播を遮断する構成としている。
【0016】
前記ボンネットカバー16は、金属素材で構成されている為、熱伝導度が高く直射日光の下では高温になって、すぐに内側の上記燃料タンク21を高温にしてしまう場合が多い。このように、メイン燃料タンク21は、伝導熱を受けて熱せられて高温になると、内部に充填している燃料も順次温度が高くなり、これをそのままエンジン15に供給すると、エンジン出力が大幅に低下する原因になる。
【0017】
そこで、前記のように、断熱部材22を、ボンネットカバー16の下側に配置して、更に、燃料タンク21の外側全周囲をカバーし、熱を遮断する構成としている。
【0018】
また前記断熱部材22は、図5に示すように、プラスチックや金属ラミネートフィルム等の外袋23の内側にシリカ粉末やグラスウール等の材料24で内部の真空状態を保つ構成にしている。そして、フロアマット20の下面には、図4に示すように、数箇所のリブ25を設けて空気層26を上側に形成し、その下側に断熱部材22を設けた構成としている。従って、前記フロアマット20は、床上面のクッション性を高めてオペレータの乗り心地を良くしながら、遮熱効果を高めることができる特徴がある。また上記空気層26は、外気に連通する空気孔を調節可能に形成しておくと、クッション効果を孔の大きさ調節でフィーリングの調整ができる利点もある。
【0019】
また前記断熱部材22は、図6に示すように、繋ぎ用シート28に接着状態に取り付けて列状に配置し、連なった状態にして取り付け時の便を図ったり、単体で1個づつ自由に取り付け位置に配置できるようにしている。
【0020】
次に、この発明のフロントサスペンション装置3について説明する。
【0021】
まず、エンジンベース30は、図7に示すように、前後に延長して上部にエンジン15を搭載している。そして、フロントアクスルブラケット5は、上記エンジンベース30の前下方に位置し、車体側に一体に固定された支持部材を構成している。そして、フロントアクスルブラケット5は、図1に示すように、中心部に横向きに配置している前輪伝動ケース31の左右中心位置から前方側に延長したピボット軸6を挿通して左右揺動自由に軸受け支持した構成としている。
【0022】
この実施例の場合、ピボット軸6、即ち、フロントアクスルブラケット5の左右ローリング中心部は、後述する前輪ドライブシャフト32、及び前輪のデフ機構33の中心と左右方向において一致させた構成としている。そして、上記前輪伝動ケース31は、後方から延長された前記前輪ドライブシャフト32の前端部に、ユニバーサルジョイント機構34を介して伝動可能に前輪のデフ機構33に入力した構成としている。そして、前記前輪伝動ケース31は、図1から解るように、前記デフ機構33から左右両側に前車軸35,35を延長して軸受け支持した構成としている。
【0023】
そして、上記左右車軸35,35は、端部の傘歯車36から、上下両端に上傘歯車37と下傘歯車38とを軸着した縦軸39を軸受け支持した縦型の操舵伝動ケース40,40を介して左右両側の前輪11,11に走行動力を伝動する構成としている。
【0024】
そして、前記左右の前輪11,11は、キャビン14内のステアリングハンドル41から図示しないパワーステアリング装置を介してプッシュプルワイヤー、タイロット、ナックルアーム等を経由した操舵力が伝達され、前記操舵伝動ケース40,40の左右の縦軸39、39を回動支点にして左右に操舵される構成となっている。
【0025】
また、左右前輪11,11のサスペンション機構は、図1と図2に示すように、上部の揺動アーム1,1と下部の揺動アーム2,2とを左右対称に枢着連結して、下部の揺動アーム2,2の下端部を前記前輪伝動ケース31側に枢着支持し、上部の揺動アーム1,1の上端を接続してパンタグラフ状にリンクを組んだ構成としている。この場合、リンク機構は、正面視前記ピボット軸6と前述した前輪ドライブシャフト32を中心として左右対称に形成している。
【0026】
また前記パンタグラフ状に組んだリンク機構は、図1と図7に示すように、上部の揺動リンク1,1の上部を接続した上部連結ピン45と、揺動リンク2,2の下部を前輪伝動ケース31側に枢着した下部連結ピン46とを前後に貫通して構成している。そして中間ピン47にて、揺動リンク1と、揺動リンク2とを回動屈折自由に枢着した構成としている。
【0027】
また前記フロントアクスルブラケット5は、左右対称形状に両外側に延長し、それぞれ後述するダンパー8,8の取付座48,48を形成している。そして、左右のダンパー8,8は、下部を上記支持ブラケット7,7の取付座48,48にそれぞれ取り付け、上部を上側に配置している前記揺動アーム1,1に取り付けて両者を緩衝状態に連結して構成している。
【0028】
尚、前記ダンパー8,8は、図1に示すようにエアダンパーにて構成しても良いし、図9に示すように、コントローラCにより弾性係数を制御されるエアダンパ8’にて構成しても良いし、また図10に示すように、スプリング8’’にて構成しても良い。
【0029】
以上のように構成したトラクタのフロントサスペンション装置は、走行に伴って地面から前輪11,11を経由して伝播される振動が前輪伝動ケース31からパンタグラフ状に組んだリンク機構を経由して揺動リンク2,2・揺動リンク1,1に達し、フロントアクスルブラケット5に支持したピボット軸6を軸心にして左右ローリング作用が行われ、左右のダンパー8,8によって振動衝撃が緩和されながら車体側に伝わることになる。
【0030】
またこのとき、左右の揺動アーム1,1・2,2と左右支持ブラケット7,7との間にそれぞれ左右のダンパー8,8を介装することによって、左右の車輪11,11から別々に伝播してくる衝撃を、適確に吸収、緩和することができる。
【0031】
また前記揺動アーム1,1の下面には、図1に示すように、左右両側にストッパー50,50を設けて前記ピボット軸6を中心とする左右のローリングを規制する構成としている。即ち、上記ストッパー50,50は、左右ローリング作動が一定揺動角度以上に達すると、機枠側に当って揺動が規制され、それ以上のローリングは、ストッパー50,50に規制される。
【0032】
また前記ダンパー8,8を、図9に示すように、コントローラCにより弾性係数を制御できるエアダンパー8’に構成した場合、車速が高速に成る程リジットに、乃至はエアダンパーの弾性定数を高く切替制御できるように構成すれば、走行速度に対応した衝撃緩和を図ることができる利点がある。
【0033】
また図9に示す形態では、振動センサ9をフロントアクスルブラケット5の上部位置、詳しくは、ピボット軸6のすぐ上側で左右の前輪11,11からほぼ等間隔の部位に装備して左右前輪11,11から伝わる走行に伴う振動を検出する構成としている。
【0034】
従って、上記図9に示すトラクタのサスペンション装置3は、左右両側から伝播される振動の平均値に近い振動値を検出できる利点があり、更に、センサ設置位置がフロントアクスルブラケット5の上方位置で地面に対し下方を遮られているから、圃場の泥土の飛散も少なく、防泥も容易にできる特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】前輪伝動ケースを一部を上下断面した正面図。
【図2】前輪伝動ケースを上下断面した正面図。
【図3】トラクタの全体側面図。
【図4】フロアマット下の断熱部材を示す図。
【図5】断熱部材の上下断面したときの正面図。
【図6】燃料タンク周囲に備える断熱部材の平面図及び正面図。
【図7】エンジン周囲の側面図。
【図8】前輪デフ機構部の平面図。
【図9】請求項2に係るサスペンション機構を示す正面図。
【図10】別形態のサスペンションを示す正面図。
【符号の説明】
【0036】
1 揺動アーム
2 揺動アーム
3 サスペンション機構
4 トラクタ
5 フロントアクスルブラケット
6 ピボット軸
7 支持ブラケット
8 ダンパー
9 振動センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動アーム1,1・2,2をパンタグラフ状に枢着連結して構成したサスペンション機構3を備えた作業車両4であって、フロントアクスルブラケット5は、中心部に挿通されたピボット軸6を回動自由に支持し、その左右両側に対称に延長した支持ブラケット7,7を形成して設け、該両支持ブラケット7,7と、前記サスペンション機構3の揺動アーム1,1との間にダンパー8,8を介装したことを特徴とする作業車両のサスペンション装置。
【請求項2】
前記アクスルブラケット5の上方位置に振動センサ9を設け、該振動センサ9の検出に基づいて、前記ダンパー8,8のばね定数を変更調整することを特徴とする請求項1記載の作業車両のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−7872(P2006−7872A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185218(P2004−185218)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】