説明

作業車両の走行装置

【課題】 従来の走行動力伝達系、外部動力取出系に何らの構成上の変更を加えることなく、通常の最低走行速度よりも低い速度で作業車両を微速走行できるようにして、作業車両の信頼性を高める。
【解決手段】 作業機器15を搭載した作業車両Vにおいて、エンジン1によりフライホイールPTO12を介して駆動される微速走行用油圧ポンプ14により、微速走行用モータ20を駆動し、その油圧モータ20によりトランスミッション4を介して作業車両Vを微速走行できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機器を搭載した作業車両の走行装置、特に、必要に応じてその車両の本来の最低走行速度を下回る低い速度で微速走行できるようにした、作業車両の走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、走行用エンジンに連なる動力取出系から、PTO(動力取出装置)を介して動力を取り出し、この動力で車台上に搭載される作業機器を駆動するようにした、作業車両では、その作業機器を前記エンジンにより高速で駆動する反面、車両本来の最低走行速度を下回る走行速度で微速走行させながら前記作業機器で種々の作業をする場合があり、たとえば、作業機器として、牛などの家畜の給餌装置を搭載した作業車両の場合、その給餌装置を駆動するために高いエンジン回転を必要とする反面、車両を走行させながら給餌作業に継続して行なうべく作業車両を本来の最低走行速度よりも低い速度で微速走行させることが行なわれる。
【0003】
ところで、かかる作業車両として、従来から、図3に示すのものが知られている。このものでは、走行用エンジンよりクラッチおよびトランスミッションを介して左右駆動輪(左右後輪)に動力を伝達するプロペラシャフトを、駆動側と従動側とに前後に分割し、それらの間に切替式の微速用減速機を介在させ、駆動側プロペラシャフトの動力を微速用減速機を介して従動側プロペラシャフトに伝達して、作業車両を微速走行させるようにし、またエンジンよりフライホイールPTOを介して作業機器駆動用の油圧ポンプを駆動できるようにされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記従来の作業車両では、
(1) 車両本来の走行動力伝達系に大きな改造を加えることになるため、車両の信頼性が低下する。
【0005】
(2) 微速用減速機による過減速により、プロペラシャフト、デファレンシャルギヤ、後車軸などの動力伝達系の許容付加トルクを超えることがある。
【0006】
(3) 微速用減速機を取り付けるためのスペースをプロペラシャフトの近傍に確保する必要があるため、車種が限定される。
【0007】
(4) 作業車両に大型トラックを採用したときに、高出力エンジン用の微速用減速機は高い強度が要求されるため、その減速機の大型化、重量増を招く。
【0008】
(5) 微速用減速機は、市販されていないため、独自に製作する必要があり、大幅なコスト増になる。
【0009】
などの種々の問題がある。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたもので、前記問題を解決できるようにした、新規な作業車両の走行装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、走行用エンジンの出力軸を、クラッチおよびトランスミッションを介してプロペラシャフトに連結し、このプロペラシャフトの出力側をデファレンシャルギヤ、後車軸を介して左右駆動輪に連動、連結してなる作業車両の走行装置において、
前記エンジンの出力軸に、フライホイールPTOを介して作業用油圧ポンプおよび微速走行用油圧ポンプを連結し、また、トランスミッションにトランスミッションサイドPTOを介して微速走行用油圧モータを連結し、前記作業用油圧ポンプにより作業車両に搭載される作業機器を駆動する一方、前記微速走行用油圧ポンプにより、前記微速走行用モータを駆動し、その微速走行用油圧モータによりトランスミッションを介して作業車両を微速走行できるようにしたことを第1の特徴としている。
【0012】
また、前記目的を達成するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1記載のものにおいて、前記作業車両の微速走行速度は、前記微速走行用油圧モータの油圧制御と、前記トランスミッションの変速ギヤ選択により変更可能であることを第2の特徴としている。
【0013】
さらに、前記目的を達成するため、請求項3記載の発明は、前記請求項1または2記載のものにおいて、前記作業車両は、前記微速走行用油圧モータの逆転制御もしくはトランスミッションのリバース操作により後進可能であることを第3の特徴としている。
【0014】
さらに、前記目的を達成するため、請求項4記載の発明は、前記請求項1、2または3記載のものにおいて、前記微速走行用油圧ポンプからの作動油の作動圧制御により、プロペラシャフト、デファレンシャルギヤおよび後車軸などの動力伝達系に許容付加トルクを超える動力が加わらないようにしたことを第4の特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項各項記載の発明によれば、従来の走行動力伝達系、外部動力取出系その他の構造を一切改造することなく、作業車両を本来の最低走行速度よりも低速の微速走行を可能としており、高い信頼性を確保でき、その上、その走行装置を廉価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】作業車両の、通常走行時の走行装置の平面図
【図2】作業車両の、微速走行時の走行装置の平面図
【図3】従来の作業車両の走行装置の平面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を、添付図面に例示した本発明の実施例に基づいて以下に具体的に説明する。
【0018】
図1,2において、作業車両Vの前部には、この車両Vの走行用エンジン1が搭載され、このエンジン1の動力は、通常の走行動力伝達系PDを介して左右駆動輪(左右後輪)10,10に伝達される。この走行動力伝達系PDは、エンジン1の出力軸(クランク軸)2の後端に接続されてエンジン1の動力をオン・オフするクラッチ3と、このクラッチ3の出力端に接続されてエンジン1の回転速度を変速するトランスミッション4と、このトランスミッション4の変速出力軸5に接続されるプロペラシャフト6と、このプロペラシャフト6の後端に接続されるデファレンシャルギヤ7よりなり、このデファレンシャルギヤ7の左右の出力端に、左右駆動輪10,10の左右車軸8,8が連結される。
【0019】
エンジン1の出力軸(クランク軸)2の後端に直結されるフライホイール11には、フライホイールPTO12を介して作業用油圧ポンプ13および微速走行用油圧ポンプ14が連結され、エンジン1の運転によれば、クラッチ3のオン・オフに関係なく、それらのポンプ13,14の駆動が可能である。作業用油圧ポンプ13の出力ポートに接続される作動油路16は、作業車両Vに搭載される作業機器15の駆動用油圧モータ17の入力ポートに接続されている。
【0020】
また、トランスミッション4には、トランスミッションサイドPTO19を介して微速走行用油圧モータ20が接続されており、この微速走行用油圧モータ20の入力ポートは、作動油路21を介して前記微速走行用油圧ポンプ14の出力ポートに接続されており、該油圧ポンプ14からの作動油圧は、作動油路21を介して微速走行用油圧モータ20に供給されるようにされ、図2に示すように、クラッチ3のオフ時に、微速走行用油圧モータ20からの動力は、トランスミッションサイドPTO19からトランスミッション4に伝達され、その変速出力軸5からプロペラシャフト6、デファレンシャルギヤ7および後車軸8,8を経て左右駆動輪(左右後車輪)10,10に伝達され、作業車両Vを微速走行させることができる。この場合、微速走行用油圧ポンプ14からの作動油の作動圧制御により、プロペラシャフト6、デファレンシャルギヤ7および後車軸8などの動力伝達系に許容付加トルクを超える動力が加わらないようにする。
【0021】
つぎに、この実施例の作用について説明する。
【0022】
図1に示すように、作業車両Vの通常の走行時には、エンジン1の動力は、クラッチ3のオン操作により、前記走行動力伝達系PDを介して左右駆動論10,10に伝達され、トランスミッション4の変速操作により通常の変速制御がなされる。そして、作業車両Vの通常の走行時には、クラッチのオン・オフに関係なく、エンジン1の動力は、フライホイールPTO12を介して作業用油圧ポンプ13および微速走行用ポンプ14に伝達されるので、作業車両Vは走行しながら、そこに搭載される作業機器15を駆動することがき、また、エンジン1の速度制御および油圧モータ17の油圧制御により、作業機器15の駆動速度が変更可能である。また、微速走行用の油圧ポンプ14は駆動状態とされるが、微速走行用油圧モータ20への作動油の供給はしない。
【0023】
つぎに、作業車両Vを微速走行するには、図2に示すように、クラッチ3をオフ操作したのち、微速走行用油圧ポンプ14の操作により、そこから吐出する高圧作動油を、作動油路21を通して微速走行用モータ20に供給して該モータ20を駆動する。油圧モータ20の動力は、トランスミッションサイドPTO19を介してトランスミッション4に伝達され、そこからの変速出力は、プロペラシャフト6に伝達され、デファレンシャルギヤ7を介して左右後車軸8,8に伝達され、左右駆動輪10,10を回転駆動する。
【0024】
しかして、左右駆動輪10,10の回転速度は、通常走行時のトランスミッション4の変速制御による最低回転速度よりも低速であって、作業車両Vは、通常の最低速走行よりも低い速度で微速走行が可能である。一方、作業用油圧ポンプ13は、クラッチ3のオン・オフ操作に関係なく常時駆動されて、そこからの作動油圧により作業機器15が駆動される。
【0025】
したがって、作業車両Vは微速走行しながら、作業機器15による作業を行なうことができる。
【0026】
そして、作業車両Vの微速走行速度は、微速走行用油圧モータ20の油圧流量の調整とトランスミッション4のギヤ選択により自在に変更することができる。
【0027】
また、作業車両Vの後進は、微速走行用油圧モータ20の逆転制御、あるいはトランスミッション4のリバース操作により行なうことができる。
【0028】
さらに、微速走行用油圧ポンプからの作動油の作動圧制御により、プロペラシャフト、デファレンシャルギヤおよび後車軸などの動力伝達系に許容付加トルクを超える動力が加わらないようにする。
【0029】
以上のように、この実施例によれば、従来の走行動力伝達系、外部動力取出系に何らの構成上の変更を加えることなく、通常の最低走行速度よりも低い速度で微速走行できるので、作業車両Vの信頼性を高めることができると共にその作業車両の走行装置の大幅なコストダウンを図ることができる。
【0030】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、その実施例に限定されることなく、本発明の請求の範囲内で種々の実施例が可能である。
【符号の説明】
【0031】
1・・・・・・・・・エンジン
2・・・・・・・・・出力軸(クランク軸)
3・・・・・・・・・クラッチ
4・・・・・・・・・トランスミッション
6・・・・・・・・・プロペラシャフト
7・・・・・・・・・デファレンシャルギヤ
8・・・・・・・・・後車軸
10・・・・・・・・・駆動輪(後輪)
12・・・・・・・・・フライホイールPTO
13・・・・・・・・・作業用油圧ポンプ
14・・・・・・・・・微速走行用油圧ポンプ
15・・・・・・・・・作業機器
19・・・・・・・・・トランスミッションサイドPTO
20・・・・・・・・・微速走行用油圧モータ
V・・・・・・・・・作業車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用エンジン(1)の出力軸(2)を、クラッチ(3)およびトランスミッション(4)を介してプロペラシャフト(6)に連結し、このプロペラシャフト(6)の出力側をデファレンシャルギヤ(7)、後車軸(8)を介して左右駆動輪(10,10)に連動、連結してなる作業車両の走行装置において、
前記エンジン(1)の出力軸(2)に、フライホイールPTO(12)を介して作業用油圧ポンプ(13)および微速走行用油圧ポンプ(14)を連結し、また、トランスミッション(4)にトランスミッションサイドPTO(19)を介して微速走行用油圧モータ(20)を連結し、前記作業用油圧ポンプ(13)により作業車両(V)に搭載される作業機器(15)を駆動する一方、前記微速走行用油圧ポンプ(14)により、前記微速走行用モータ(20)を駆動し、その微速走行用油圧モータ(20)によりトランスミッション(4)を介して作業車両(V)を微速走行できるようにしたことを特徴とする、作業車両の走行装置。
【請求項2】
前記作業車両(V)の微速走行速度は、前記微速走行用油圧モータ(20)の油圧制御と、前記トランスミッション(4)の変速ギヤ選択により変更可能であることを特徴とする、前記請求項1記載の作業車両の走行装置。
【請求項3】
前記作業車両(V)は、前記微速走行用油圧モータ(20)の逆転制御もしくはトランスミッション(4)のリバース操作により後進可能であることを特徴とする、前記請求項1または2記載の作業車両の走行装置。
【請求項4】
前記微速走行用油圧ポンプ(14)からの作動油の作動圧制御により、プロペラシャフト(6)、デファレンシャルギヤ(7)および後車軸(8)などの動力伝達系に許容付加トルクを超える動力が加わらないようにしたことを特徴とする、前記請求項1、2または3記載の作業車両の走行装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−121460(P2011−121460A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280321(P2009−280321)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(597018819)東北海道いすゞ自動車株式会社 (1)
【Fターム(参考)】