説明

作業車両

【課題】低コストで低周波数域の振動を低減させて、キャビンを防振支持できる、生産性および作業環境を向上させた作業車両を提供する。
【解決手段】シャーシ21に、防振部材20を介して防振支持した、操縦部を内設するキャビン9を、機体上部に備え、防振部材20は、シャーシ21前部の左右側部から側方に向けて突設した前部ブラケット22上に設けた、弾性部24からなる前部防振部材25と、シャーシ21後部の左右側部に設けたブラケット23上に備える、弾性部材26を併用した減衰部材27からなる後部防振部材28とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミッションケースもしくはこのミッションケースに接続するシャーシに、防振部材を介して防振支持した、操縦部を内設するキャビンを、機体上部に備える作業車両に関し、より詳細には、防振部材が、シャーシ前部の左右側部から側方に突設した前部ステー上に設けた、弾性部からなる前部防振部材と、シャーシの左右後端に突設した後部ステー上に設けた、弾性部材を併用した減衰部材からなる後部防振部材とからなり、振動を低減し、キャビン内の作業環境を向上させる作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタなど作業車両には、運転席を備えるキャビンの左右前方下部の下部フレームと、クラッチハウジングまたはミッションケースなどで構成される機体フレームより外側方に突設した前部支持ステーとの間であって、前側2点および後側2点に防振支持部材としての防振ゴムを介装させて、キャビンを支持するとともにトラクタ本体とキャビンとを連結し、この防振ゴムにより地面から受ける振動やエンジンの振動などからキャビンを防振支持することで、運転作業者への振動伝播を低減するもの(例えば、特許文献1〜3など)がある。また、上述した防振ゴムの他に、油圧ダンパやバネなどからなる防振部材でキャビンを防振支持させるもの(例えば、特許文献4)もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−237621号公報
【特許文献2】特開平9−39832号公報
【特許文献3】特開平6−263061号公報
【特許文献4】特開平10−250619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これら特許文献1〜3のような作業車両におけるキャビンの防振ゴムでは、人体が感じ易いとされる低周波数域(10Hz未満)の振動を低減させることができず、キャビンを確実に防振することができないという問題があった。そこで、特許文献4のような油圧ダンパやバネなどからなる防振支持部材を用いることが考えられ、このような方法により上述したような低周波数域の振動を低減させることは可能となるが、その際、この防振支持部材を、重量を有するキャビンの支持部材として安定的にキャビンを支持させるため、キャビン底部に4点(例えば、前側2点および後側2点など)設置することで、コスト高となってしまう問題がある。
そこで、この発明の目的は、低コストで低周波数域の振動を低減させて、キャビンを防振支持できる、生産性および作業環境を向上させた作業車両を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため請求項1に記載の発明は、ミッションケースもしくは前記ミッションケースに接続するシャーシに、防振部材を介して防振支持した、操縦部を内設するキャビンを、機体上部に備える作業車両において、前記防振部材は、前記シャーシ前部の左右側部から側方に向けて突設した前部ブラケット上に設けた、弾性部からなる前部防振部材と、前記シャーシ後部の左右側部に設けたブラケット上に備える、弾性部材を併用した減衰部材からなる後部防振部材とから構成することを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の作業機において、前記キャビンは、該キャビンの前後方向および上下方向であって、前記キャビン前端部に対向するボンネット後端部と、前記キャビン前端底部の左右各部に設置した緩衝部の上面および下面に対向する、前記シャーシ前端部に固設したケースの上部および下部と、前記キャビンの左右後端下部面に対向するキャビン支持フレームとに、弾性体を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1〜2に記載の作業機において、前記弾性体は、設置位置および対向面との隙間間隔を調整可能に備えることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の作業機において、前記前部ブラケットと、前記キャビンとの間には、略水平方向に防振ロッドを備えることを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の作業機において、前記キャビンの後端フレームと、前記シャーシとの間には、複数の弾性体を上下方向に内装したキャスター式の変位抑制部材を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の作業機において、前記左右前方緩衝部には、前記弾性体を取付けたフランジ型弾性部を上下方向から挟装するとともに、前記ケースの上部および下部に、上下位置を調節可能とした前記フランジ型弾性部の支持部材を備え、前記キャビンの防振状態を調節可能とする防振構造切替機構を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の作業機において、前記左右前方緩衝部は、筒型弾性部を内設し、固定部材により前記ケースに固定可能に備えるとともに、上面および下面に対向する前記ケースの上部内側および下部内側には、上下位置を調節可能とした前記弾性体を備え、前記キャビンの防振状態を調節可能とする防振構造切替機構を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、ミッションケースもしくはこのミッションケースに接続するシャーシに、防振部材を介して防振支持した、操縦部を内設するキャビンを、機体上部に備える作業車両において、防振部材は、シャーシ前部の左右側部から側方に向けて突設した前部ブラケット上に設けた、弾性部からなる前部防振部材と、シャーシ後部の左右側部に設けたブラケット上に備える、弾性部材を併用した減衰部材からなる後部防振部材とから構成するので、キャビン前部に配置した防振部材を簡略化するとともに、低周波振動を低減させることができる。従って、コストダウンのほか、生産性や作業環境およびメンテナンス性を向上させた作業車両を提供することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、キャビンは、このキャビンの前後方向および上下方向であって、キャビン前端部に対向するボンネット後端部と、キャビン前端底部の左右各部に設置した緩衝部の上面および下面に対向する、シャーシ前端部に固設したケースの上部および下部と、キャビンの左右後端下部面に対向するキャビン支持フレームとに弾性体を備えるので、これら弾性体により、振動および発進、停止、旋回に伴うキャビンの前後方向および上下方向の変位を、これら弾性体で緩衝させることにより抑制することができる。従って、車体重心位置の大幅な変化を防ぐとともに、シャーシとキャビンの離脱を抑制し、作業環境の安全性を向上させた作業車両を提供することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、弾性体は、設置位置および対向面との隙間間隔を調整可能に備えるので、作業者のキャビン内への乗り降りや体重に伴い、防振部材によるキャビンの支持位置が変化しても、弾性体を、キャビンの変位抑制に適した最適な位置に設置することができる。従って、作業環境を向上させた作業車両を提供することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、前部ブラケットと、キャビンとの間には、略水平方向に防振ロッドを備えるので、振動および発進、停止、旋回に伴うキャビンの全方向の変位を抑制することができ、車体重心位置の大幅な変化を防ぐとともに、シャーシとキャビンの離脱を抑制し、作業環境の安全性を向上させた作業車両を提供することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、キャビンの後端フレームと、シャーシとの間には、複数の弾性体を上下方向に内装したキャスター式の変位抑制部材を備えるので、振動に伴い生じるキャビンとシャーシのヨーイングおよびローリングの相対運動を、変位抑制部材のそれぞれの弾性体で柔軟に抑制することができる。従って、作業環境を向上させた作業車両を提供することができる。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、左右前方緩衝部には、弾性体を取付けたフランジ型弾性部を上下方向から挟装するとともに、ケースの上部および下部に、上下位置を調節可能としたフランジ型弾性部の支持部材を備え、キャビンの防振状態を調節可能とする防振構造切替機構を備えるので、大きな凹凸を有する路面での走行や作業時には、支持部材により前方緩衝部を固定することで、サスペンションをロック状態として、キャビンの揺動を抑制するとともに、平坦な路面を走行する場合などには、支持部材による前方緩衝部の固定を解除(サスペンションのロック状態を解除)して、キャビンに加わる振動を防振部材により低減させることができる。従って、作業環境を向上させた作業車両を提供することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明によれば、左右前方緩衝部は、筒型弾性部を内設し、固定部材によりケースに固定可能に備えるとともに、上面および下面に対向するケースの上部内側および下部内側には、上下位置を調節可能とした弾性体を備え、キャビンの防振状態を調節可能とする防振構造切替機構を備えるので、大きな凹凸を有する路面での走行や作業時には、固定部材により前方緩衝部をケースに固定することで、サスペンションをロック状態として、キャビンの揺動を抑制するとともに、平坦な路面を走行する場合などには、固定部材による前方緩衝部の固定を解除(サスペンションのロック状態を解除)して、キャビンに加わる振動を防振部材により低減させることができる。従って、作業環境を向上させた作業車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例に係る農作業車両としての、ホイール式トラクタの左側面図である。
【図2】キャビンの設置を概略的に示した模式図である。
【図3】キャビンのサスペンション構造の一例を示す、シャーシを後方から見た斜視図である。
【図4】ボンネットに設けた弾性体を示す車両前部を拡大した左側面図である。
【図5】前サイドフレームに取付けた、弾性体を内設する、左右一方のケースの正面図である。
【図6】キャビン後端部における後サイドフレームに設けた左右一方の弾性体の斜視図である。
【図7】防振ロッドの一例を示した平面模式図である。
【図8】キャスター式の変位抑制部材の設置の一例を示すキャビン後端部の背面図である。
【図9】前方緩衝部およびケースに設けた、上下変位抑制用の弾性体およびフランジ型弾性体を組み合わせた防振構造切替機構の正面模式図である。
【図10】前方緩衝部およびケースに設けた、上下変位抑制用の弾性体および筒型弾性体を組み合わせた防振構造切替機構の正面模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。
図1は本発明の一実施例に係る作業車両としてのホイール式トラクタの左側面図である。なお、本実施例では、ホイール式のトラクタに限定せず、例えばクローラ式のトラクタなど、キャビンを備える作業車両であればよい。
【0021】
この例のトラクタ1は、機体フレーム2の前後に前輪3および後輪4を備え、前輪3の上方にボンネット5を形成し、このボンネット5の内側には原動機部としてのエンジン6などが配置されるとともに、エンジン6の後方にはクラッチハウジング7およびミッションケース8が順に配設されており、エンジン6からの動力がそれらを介して前輪3および後輪4に伝達される。そして、ボンネット5の後部に連続して、機体フレーム2上には、キャビン9が設けられる。
【0022】
次いで、キャビン9内には、車両の操縦部として、ステアリングハンドル10やシート11などが設けられる。また、キャビン9の外周はそれぞれフロントガラス12、リヤガラス13、ドア14、屋根15などが取付けられる。
【0023】
そして、エンジン6からの動力は、ミッションケース8から突出した不図示のPTO軸からや、不図示の油圧ケースなどを介して、車両前後に装着された図示しない作業機を駆動させる。
【0024】
次に、本願発明の特徴である、キャビンの防振構造について、その具体的構成を説明する。図2はキャビンの設置を概略的に示した模式図、図3はキャビンのサスペンション構造の一例を示すシャーシを後方から見た斜視図、図4はボンネットに設けた弾性体を示す車両前部を拡大した左側面図、図5は前サイドフレームに取付けた、弾性体を内設する、左右一方のケースの正面図、図6はキャビン後端部における後サイドフレームに設けた弾性体の斜視図、図7は防振ロッドの一例を示した平面模式図、図8はキャスター式の変位抑制部材の設置の一例を示すキャビン後端部の背面図である。
【0025】
まず、図2〜3に示すように、キャビン9は、クラッチハウジング7およびミッションケース8からなる構造体であるシャーシ21上に、防振部材20を介して載置される。なお、図2ではシャーシ21を簡略して示しているが、実際は図3に示す形状とされる。
【0026】
また、シャーシ21前部の左右側部から側方に向けて左右の前部ブラケット22が突設されるとともに、シャーシ21後部の左右側部から後方に向けて、左右の後部ブラケット23が突設される。なお、両ブラケット22,23は、シャーシ21に溶接などで固定される。
【0027】
さらに、前部ブラケット22上には、サスペンションとして、弾性部24であるコイルバネのみからなる前部防振部材25が鉛直方向に設置されるとともに、後部ブラケット23上には、コイルバネなどの弾性部材26にオイルダンパなどの減衰部材27を内設する、弾性部材26に減衰部材27を併用した後部防振部材28が鉛直方向に設置される。
【0028】
なお、減衰部材27は、上述した低摩擦構造のオイルダンパを用いることが好ましいが、エアダンパなどを採用してもよい。また、オイルダンパや、ダンパを併用したコイルバネによる防振構造は周知の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0029】
また、上述した後部防振部材28は、車体に加わる振動に伴うキャビン4後部のローリング(車両前後方向を軸として回転)抑制のために、傾斜設置させてもよい。
【0030】
そして、キャビン9は、上記前部防振部材25および後部防振部材28を介し、適宜固定部材を用いてシャーシ21上に設置される。なお、キャビン9下部の前面左右端部から前方に突設された左右の前方緩衝部29が、シャーシ21の前部に、車両左右方向で取付けられた、シャーシ21の一部である前サイドフレーム21aの貫通穴30に貫設される。
【0031】
従って、キャビン4は、底部を前部および後部それぞれ左右の4点が、防振ゴムなどの防振部材によらず、コイルバネなどの弾性部材26によって支持されるとともに、キャビン後部の左右2点のみオイルダンパなどの減衰部材27が併用される。
【0032】
この結果、人体に生理的および心理的に影響が大きいとされる低周波振動を、上記前部防振部材25および後部防振部材28により緩衝させて効率的に低減することができる。
【0033】
なお、防振部材によるキャビン9の支持数は、上述した4点に限定されず、3点もしくは5点以上にしてもよく、それらの一部をコイルバネなどの弾性部材にオイルダンパなどの減衰部材を併用する構造にすることで、上記効果を得ることができる。
【0034】
次に、本願発明のキャビン9における防振構造では、キャビン9の前後方向および上下方向の揺動による変位を抑制するための、キャビン9の前後方向および上下方向に弾性体からなるストッパが設けられる。
【0035】
このストッパは、まず、図4に示すように、ボンネット5とキャビン9との間であって、キャビン9の前端面に対向するボンネット5の後端部の左右適宜位置に、1個または2個以上複数個の防振ゴムなどの弾性体32aが取付けられる。
【0036】
なお、弾性体32aのボンネット5後端部における設置位置は、図4に示す設置位置に限定されず、適宜変更してもよい。また、弾性体32aや後述する弾性体32b,32cは、合成ゴムとして、例えば、ポリブタジエン系、ブタジエン・アクリロニトリル系、クロロプレン系など周知の材質を用いることができる。
【0037】
次いで、図5に示すように、キャビン9前端の前サイドフレーム21aに貫設された左右各前方突出部29の上方および下方であって、これら前方緩衝部29の前端部における上面および下面に対向する、前サイドフレーム21a前端部の左右各前方緩衝部29周囲に固設したケース33の上部内側および下部内側に、弾性体32bが取付けられる。
【0038】
この弾性体32bは、例えば、ケース33に貫通させた、長さ調節を可能とするボルト34aの先端部に取付けられ、ケース33の外側からナット34bなどにより固定される。
【0039】
従って、作業者が、弾性体32bを回転などさせることにより、ケース33内におけるこの弾性体32bの設置位置(高さ)を上下方向に移動でき、前方緩衝部29と、弾性体32bとの隙間間隔を調節することができる。なお、このような弾性体32bの対向面との隙間間隔の調整構造は、上述した弾性体32aや後述する弾性体32cにも適用してもよい。
【0040】
このような構成にすることで、例えば、作業者のキャビン内への乗り降りや、体重により、防振部材20によるキャビン9の支持位置(高さ)が変化しても、弾性体32bを、キャビン9の変位抑制に適した、弾性体32bの対抗面との隙間間隔を有する最適な位置に設置することができる。
【0041】
なお、弾性体32bと、その対向面との隙間は、例えば1〜5mm程度にすることが好ましい。また、この隙間間隔の調節は、上述した手動による方法の他、図示しないが、例えば、キャビン9などに取付けた変位検出器および、ケース33などに設置し、弾性体32bを備えるボルト34aなどの摺動部材に連結させたリニアモータなどのアクチュエータを用いて自動で行なってもよい。
【0042】
次いで、図6に示すように、キャビン9と、シャーシ21の後部に車両左右方向で取付けられた、シャーシ21の一部であるキャビン支持フレーム21bとの間であって、キャビン9の左右後端下部面9aに対向するキャビン支持フレーム21bに、弾性体32cが取付けられる。
【0043】
このような構成により、上述したキャビン9底部の前部を、減衰部材を用いない弾性部材26のみによる支持のために生じる、振動に伴うキャビン9の過大な変位に対して、弾性体32a,32cが、前後方向に揺動するキャビン9の変位を抑制するとともに、弾性体32bが、キャビン9と一体に上下方向に揺動する前方緩衝部29を支持するため、キャビン9の上下方向の変位を抑制することができる。
【0044】
さらに、本願発明のキャビン9における防振構造では、振動に伴うキャビン9の左右方向に生じる変位についても抑制することができる。この場合、図3に示すように、左右各前部ブラケット22と、キャビン9との間であって、略水平方向に、ラテラルロッドなどの防振ロッド35が、一端部をブラケット22に、他端部をキャビン9に固定して設置される。
【0045】
この防振ロッド35は、例えば特開2000−177347に示されるような周知技術のものであり、図7に示すように、ロッド35aの両端部に備えるブッシュゴム35bなどから構成されており、この防振ロッド35を設置することで、キャビン9の左右方向の変位を抑制することができる。
【0046】
また、本願発明のキャビン9における防振構造では、車体に加わる振動に伴う、キャビン9後部のヨーイング(車両上下方向を軸として回転)およびローリングを抑制することができる。
【0047】
この場合、図8に示すように、キャビン9の後端中央近傍であって、キャビン9の後端フレーム9bと、キャビン支持フレーム21bとの間には、複数の弾性体36bを上下方向に内装したキャスター式の変位抑制部材36が設置される。
【0048】
この変位抑制部材36は、キャビン9の後端フレーム9bに取付けられたステー36aと、このステー36aの上下位置に軸支した、円状の2の弾性体36ba,36bbと、これら弾性体36bを覆設する、下端部をキャビン支持フレーム21b上に固設したケース36cとから構成される。従って、キャビン9の変位により、弾性体36ba,36bbが、ケース36c内を上下方向に摺動する構成とされる。
【0049】
このような構成により、振動に伴いキャビン9の後部に生じる、互いに軸方向の異なる回転であるヨーイングおよびローリングを、弾性体36baと、弾性体36bbとにより緩衝させることで、抑制することができる。
【0050】
発明者は、以上の構成と、全て防振ゴムによりキャビン9を支持させた従来の防振構造とで、キャビン9内における低周波振動の低減状態を比較したところ、本願発明のキャビン9の防振構造の方が、低周波振動を確実に低減させる結果が得られ、特にその差は、車両の走行速度が大きいほど効果が顕著に現れた。
【0051】
次に、本願発明のキャビン9におけるサスペンション構造では、防振部材20の一部(前部防振部材25)をコイルバネのみからなる支持構造としたため、例えば大きな凹凸を有する不整路面上にて走行もしくは作業を行う場合、キャビン9の、特に車両上下方向での変位が大きくなる。
【0052】
しかし、このキャビン9の上下変位を、弾性体32bで、ある程度抑制できるものの、サスペンション構造の前部防振部材が、従来のような防振ゴムとは異なり、低周波振動を低減可能としたコイルバネであるため、キャビン9の上下変位が大きくなり、作業者に不快感を与える可能性がある。
【0053】
そこで、キャビン9前端の前サイドフレーム21aに貫設された左右各前方緩衝部29の周囲に固設したケース33には、左右防振構造切替機構41が設けられる。
【0054】
以下、図9は前方緩衝部およびケースに設けた、上下変位抑制用の弾性体およびフランジ型弾性体を組み合わせた防振構造切替機構の正面模式図、図10は前方緩衝部およびケースに設けた、上下変位抑制用の弾性体および筒型弾性体を組み合わせた防振構造切替機構の正面模式図である。
【0055】
この防振構造切替機構41は、図9(a)および(b)に示すように、例えば、左右各前方緩衝部29の上面および下面には、これら前方緩衝部29の上下方向からフランジ型弾性体42が挟着される。
【0056】
この上下フランジ型弾性体42のそれぞれは、中央の防振ゴムなど弾性体42aを上下方向から金属製のフランジ42b,42cが挟着されたもので、取付部材43を介して前方突出部29の上面および下面に取付けられる。また、前方突出部21aに接する面を有するフランジ(図中の例では42b)は、他方のフランジ42cよりも小径とされる。なお、フランジ型弾性体42は、弾性体42aおよびフランジ42b,42cが円板形からなる丸型を例示しているが、この丸型に限定されず、四角形や多角形などであってもよい。
【0057】
次いで、上下各他方のフランジ42bには、弾性体42a側に凹部を有する、金属からなる正面視略コ字形状の支持部44が取付けられる。なお、上下の支持部44の左右端と、上下に設置された左右各取付部材43との間であって、取付部材43の内側面には、防振ゴムなどの弾性体45を取付けてもよい。
【0058】
また、上下各支持部材44には、防振ゴムである弾性体32b´が取付けられる。なお、弾性体32b´は、弾性体32bと同じ形状や材質であってもよい。
【0059】
次に、ケース33の上部および下部には、金属類からなる周知技術の各上下移動調節ネジ45が貫設される。そして、これら上下移動調節ネジ45には、各弾性体32b´側のそれぞれの端部に、弾性体32b´に当接可能とする、当接部45aが取付けられる。
【0060】
また、各上下移動調節ネジ45の、当接部45a近傍であって、前方緩衝部29とは反対側に、正面視略コ字形状の上下押付部46が取付けられる。そして、上述した上下各支持部材44における上下押付部46側の面には、これら上下押付部46の嵌入部46aを嵌合可能とする凹部44aが設けられる。なお、支持部材44や押付部46の形状は、上述した正面視略コ字に限定されず、一端を開口した円筒形などであってもよい。
【0061】
このような構成により、例えば、車両が大きな凹凸を有する路面や圃場上を低速で走行したり作業を行う際には、作業者が作業前に、左右各前方緩衝部29の各防振構造切替機構41において、上下移動調節ネジ45のネジ部45aを回動させることにより、これら上下移動調節ネジ45が前方緩衝部29側に摺動することで、図9(a)に示すように、上下押付部46の嵌入部46aが上下各支持部材44の凹部44aに嵌合される。
【0062】
この結果、キャビン9が、車両に加わる振動に伴い、前部防振部材25により上下方向に変位しようとしても、上下フランジ型弾性体42を介して上下支持部材44に連係する、キャビン9から延設した左右前方緩衝部29は、各上下移動調節ネジ45による上下押付部46で固定されているため、左右前方緩衝部29が上下方向に変位されず、キャビン9(前部)のサスペンションがロック状態となる。
【0063】
従って、各前方緩衝部29に伝播された振動は、上下各フランジ型弾性体42によって緩衝されてキャビン9の上下変位を抑制するため、作業者は快適な作業環境を得ることができる。
【0064】
一方、車両を、例えば、比較的凹凸の少ない路面上を高速走行させる場合などには、作業者が作業前に、上下移動調節ネジ45のネジ部45aを回動させることにより、これら上下移動調節ネジ45が、前方緩衝部29とは反対側に摺動することで、上下押付部46の嵌入部46aが、上下各支持部材44の凹部44aから貫合を解除されるとともに離間する。
【0065】
従って、振動に伴い、各前方緩衝部29は、弾性体32b´が当接部45aに当接するまでの間で上下変位をさせることより、前部防振部材25が、キャビン9の振動を効果的に低減させることができる。
【0066】
なお、上下移動調節ネジ45を調節して、弾性体32b´と、当接部45aとの間隔を伸縮させ、振動に伴う各前方緩衝部29の上下変位幅を設定することで、キャビン9のサスペンション状態を適宜設定することができる。
【0067】
また、防振構造切替機構は、図10(a)〜(c)のような構成にすることができる。この防振構造切替機構51は、左右各前方緩衝部29内に、筒型の防振ゴムなどの弾性体からなる筒型弾性部52を内設するとともに、各前方緩衝部29の上面および下面に対向するケース33の上部内側および下部内側には、上述したような上下移動調節ネジ45´などにより、上下位置を調節可能とする上下の弾性体32b´´が取付けられる。
【0068】
さらに、左右それぞれの前方緩衝部29は、筒型防振部52外側が、キャビン9側に接続される構造となっており、そのさらに外側に弾性体32b´´と接触する外殻部55を有し、この外殻部55は、筒型防振部52の内筒軸部52aから支持しており、この内筒軸部52aには、上下いずれの弾性体32b´´にも接触しない、ケース33の中央近傍位置などにケース33の外側部から貫通させて固定する、ボルトなどの固定部材53を貫設可能とする貫通部54が備えられる。なお、筒型防振部52外側は、シャーシ21側に接続してもよく、その場合はケース33側をキャビン9に接続する。
【0069】
このような構成により、上述同様に車両が大きな凹凸を有する路面や圃場上を低速で走行したり、作業を行う際には、作業者が作業前に、図10(c)に示すように、固定部材53をケース33の外側部から前方緩衝部29および筒型弾性部52の貫通部54に貫通させて、前方緩衝部29および筒型弾性部52をケース33の中央近傍位置に固定させる。
【0070】
その結果、キャビン9が、車両に加わる振動に伴い、前部防振部材25により上下方向に変位しようとしても、筒型防振部52とともに左右前方緩衝部29は、固定部材53によりケース33内に固定されているため、左右前方緩衝部29が、筒型弾性部52の弾性体による上下方向のわずかな変位しか生じず、キャビン9(前部)のサスペンションがロック状態となる。
【0071】
従って、各前方緩衝部29に伝播される振動は、ケース33を介して筒型防振部52によって緩衝されるとともに、この筒型防振部52の剛性を介してキャビン9の上下変位を抑制するため、作業者は快適な作業環境を得ることができる。
【0072】
一方、上述のように車両を、比較的凹凸の少ない路面上を高速走行させる場合などには、作業者が作業前に、固定部材53を取外して、ケース33内に固定されていた筒型弾性部52および左右前方緩衝部29の固定を解除する。
【0073】
従って、車両の加振に伴い、図10(a)〜(b)に示すように、各前方緩衝部29が、上下弾性体32b´´に当接するまでの間で上下変位をさせることにより、前部防振部材25が、キャビン9の上下変位を効率的に吸収して振動を低減させることができる。
【0074】
なお、防振構造切替機構41の上下移動調節ネジ45や、防振構造切替機構51の固定部材53により、同機構41,51をロックして、キャビン9の上下変位を抑制する方法は、上述したような作業者の手作業に限定されず、車両の作業状況や走行速度、路面状態を元に、例えば、図示しないアクチュエータにより自動で行なう方法や、あるいは、運転席近傍などに、同機構41,51に連係させた図示しないレバーなどの操作部材を、作業者が適宜手動で行なう方法を用いてもよい。
【0075】
以上詳述したように、この例のトラクタ1は、クラッチハウジング7およびミッションケース8で構成するシャーシ21に、防振部材20を介して防振支持した、操縦部を内設するキャビン9を、機体上部に備え、防振部材20は、シャーシ21前部の左右側部から側方に向けて突設した前部ブラケット22上に設けた、弾性部24からなる前部防振部材25と、シャーシ21後部の左右側部に設けたブラケット23上に備える、弾性部材26を併用した減衰部材27からなる後部防振部材28とから構成するものである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
なお、上述の例では、作業機を装着する作業車両の一例としてホイール式トラクタについて説明したが、この発明はこれに限定されるものではなく、クローラ式トラクタや、建設作業車両など、運転席を有する自走式の作業車両であればよい。また、上述では、キャビンの支持方法を対象としたが、扉などを有さない開放型の作業車両におけるフロアーの防振支持方法としても利用できる。
【符号の説明】
【0077】
9 キャビン
20 防振部材
21 シャーシ
24 弾性部
25 前部防振部材
26 弾性部材
27 減衰部材
28 後部防振部材
29 前方緩衝部
32a,32b,32c 弾性体
33 ケース
35 防振ロッド
36 変位抑制部材
41,51 防振構造切替機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミッションケースもしくは前記ミッションケースに接続するシャーシに、防振部材を介して防振支持した、操縦部を内設するキャビンを、機体上部に備える作業車両において、
前記防振部材は、前記シャーシ前部の左右側部から側方に向けて突設した前部ブラケット上に設けた、弾性部からなる前部防振部材と、前記シャーシ後部の左右側部に設けたブラケット上に備える、弾性部材を併用した減衰部材からなる後部防振部材とから構成することを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記キャビンは、該キャビンの前後方向および上下方向であって、前記キャビン前端部に対向するボンネット後端部と、前記キャビン前端底部の左右各部に設置した緩衝部の上面および下面に対向する、前記シャーシ前端部に固設したケースの上部および下部と、前記キャビンの左右後端下部面に対向するキャビン支持フレームとに、弾性体を備えることを特徴とする、請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記弾性体は、設置位置および対向面との隙間間隔を調整可能に備えることを特徴とする、請求項1〜2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記前部ブラケットと、前記キャビンとの間には、略水平方向に防振ロッドを備えることを特徴とする、請求項1に記載の作業車両。
【請求項5】
前記キャビンの後端フレームと、前記シャーシとの間には、複数の弾性体を上下方向に内装したキャスター式の変位抑制部材を備えることを特徴とする、請求項1に記載の作業車両。
【請求項6】
前記左右前方緩衝部には、前記弾性体を取付けたフランジ型弾性部を上下方向から挟装するとともに、前記ケースの上部および下部に、上下位置を調節可能とした前記フランジ型弾性部の支持部材を備え、前記キャビンの防振状態を調節可能とする防振構造切替機構を備えることを特徴とする、請求項1に記載の作業車両。
【請求項7】
前記左右前方緩衝部は、筒型防振部を内設し、固定部材により前記ケースに固定可能に備えるとともに、上面および下面に対向する前記ケースの上部内側および下部内側には、上下位置を調節可能とした前記弾性体を備え、前記キャビンの防振状態を調節可能とする防振構造切替機構を備えることを特徴とする、請求項1に記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−260460(P2010−260460A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113216(P2009−113216)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】