説明

作業車両

【課題】作動油が低温の場合に油圧モータの容量制御においてハンチングが発生することを抑えることができる作業車両を提供する。
【解決手段】 作業車両では、制御部は、駆動油圧検知部によって検知される駆動油圧が所定の目標駆動油圧に近づくようにフィードバック制御によりモータ容量制御部を制御する。また、制御部は、油温検知部によって検知された作動油の温度が所定温度より低い場合には、油圧モータの最大容量を低下させる低温時モータ容量制限制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるHST(ハイドロ・スタティック・トランスミッション)回路を備える作業車両では、エンジンによって油圧ポンプが駆動され、油圧ポンプから吐出された作動油が油圧モータに供給される。そして、油圧モータによって走行輪が駆動されることにより、車両が走行する。
【0003】
従来、上記のような作業車両として、特許文献1に示されるように、油圧モータの容量を電子制御する作業車両が知られている。この作業車両は、油圧モータ、シリンダ、制御弁を備える。シリンダは、シリンダ本体と、シリンダ本体に対して伸縮するピストンロッドとを有し、このピストンロッドが移動することにより、油圧モータの斜軸の角度、すなわち傾転角が変更される。また、ピストンロッドは制御弁に接続されている。制御弁は、制御部によって電子制御される電磁制御弁である。従って、この作業車両では、制御弁を電子制御してシリンダを制御することによって、油圧モータの容量を任意に変えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−144254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、油圧モータの容量が電子制御される場合、制御部は、所定の指令信号を制御弁に出力する。この指令信号は、フィードバック制御により設定される。具体的には、油圧モータを駆動する実際の駆動油圧が検出され、この実際の駆動油圧が、所定の目標駆動油圧に近づくように指令信号が設定される。例えば、図12に示すように、制御部は、車両の走行中に油圧モータの容量が所定値q1となるように、制御弁へ指令信号を出力する(ラインLi1参照)。そして、時点t1において車両を停止させる場合には、油圧モータの容量が最大値qmaxとなるように、制御弁へ指令信号を出力する(ラインLi2参照)。
【0006】
ここで、作動油の温度が低温である場合、作動油の粘度が大きいため、油圧回路における作動油の抵抗が大きくなる。このため、制御弁への指令信号の変化に対して、油圧モータに応答遅れが発生する。すなわち、図12に示すように、制御弁への指令信号に対応する油圧モータの容量(以下、「指令容量」と呼ぶ)の変化(ラインLi1〜Li3参照)に対して、実際の容量の変化(破線Lr参照)が遅れて表れ、時点t1から徐々に増大する。このような状態で、時点t2において車両の発進操作が行われると、破線Li3に示すように、指令容量が徐々に低下するように指令信号が出力されるが、実際の容量は依然として徐々に増加する。このため、時点t2〜時点t3では、目標駆動油圧と実際の駆動油圧との偏差が大きくなり、ハンチングが生じる恐れがある。この場合、車両の加速性能が低下してしまう。
【0007】
本発明の課題は、作動油が低温の場合に油圧モータの容量制御においてハンチングが発生することを抑えることができる作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明に係る作業車両は、エンジンと、油圧ポンプと、油圧モータと、モータ容量制御部と、走行輪と、圧力検知部と、油温検知部と、制御部とを備える。油圧ポンプは、エンジンによって駆動される。油圧モータは、油圧ポンプから吐出された作動油によって駆動される可変容量型の油圧モータである。モータ容量制御部は、油圧モータの容量を制御する。走行輪は、油圧モータによって駆動される。圧力検知部は、油圧モータを駆動する作動油の圧力である駆動油圧を検知する。油温検知部は、作動油の温度を検知する。制御部は、圧力検知部によって検知される駆動油圧が所定の目標駆動油圧に近づくようにフィードバック制御によりモータ容量制御部を制御する。また、制御部は、油温検知部によって検知された作動油の温度が所定温度より低い場合には、油圧モータの最大容量を低下させる低温時モータ容量制限制御を実行する。
【0009】
この作業車両では、作動油の温度が所定温度より低い場合には、油圧モータの最大容量が低下される。このため、油圧モータに応答遅れが生じるとしても、実際の駆動油圧量と目標駆動油圧との偏差が小さくなる。これにより、作動油が低温の場合に油圧モータの容量制御においてハンチングが発生することを抑えることができる。
【0010】
第2発明に係る作業車両は、第1発明の作業車両であって、圧力検知部によって検知される駆動油圧が所定の閾値より大きい場合には、低温時モータ容量制限制御を行わない。
【0011】
この作業車両では、駆動油圧が所定の閾値より大きい場合には、作動油の温度が低い場合であっても、低温時モータ容量制限制御による油圧モータの最大容量の低下が行われない。駆動油圧が大きい場合には、大きな牽引力を必要とする作業が行われている場合が多い。このような場合に、油圧モータの最大容量を低下させないことにより、牽引力の低下を抑えることができる。
【0012】
第3発明に係る作業車両は、第1発明または第2発明の作業車両であって、制御部は、油圧モータの最大容量を変更することによって車両の牽引力を変化させるトラクション制御を実行可能である。そして、制御部は、トラクション制御によって決定される油圧モータの最大容量と、低温時モータ容量制限制御によって決定される油圧モータの最大容量とのうちの小さい方の値を油圧モータの最大容量として設定してモータ容量制御部を制御する。
【0013】
この作業車両では、低温時モータ容量制限制御とトラクション制御とが重複した場合に、小さい方の最大容量が油圧モータの最大容量として設定される。このため、作動油が低温の場合には、トラクション制御に妨げられずにハンチングの発生を抑えることができる。
【0014】
第4発明に係る作業車両は、第1発明から第3発明のいずれかの作業車両であって、制御部は、油圧モータの最小容量を変更することによって車両の最高速度を複数段階に変更する最高速度可変制御を実行可能である。そして、制御部は、最高速度可変制御において最も低速段の最高速度が選択されている場合には、低温時モータ容量制限制御を行わない。
【0015】
この作業車両では、最高速度可変制御において最も低速段の最高速度が選択されている場合には、低温時モータ容量制限制御による油圧モータの最大容量の低下が行われない。また、最高速度可変制御において最も低速段の最高速度が選択されている場合には、油圧モータの最小容量が最も大きな値に変更される。このため、上記のように車両が停止状態から発進したとしても、指令容量が最大容量から大きく離れた値に設定されることがなく、上記のようなハンチングが発生しにくい。
【0016】
第5発明に係る作業車両は、第1発明から第3発明のいずれかの作業車両であって、制御部は、油圧モータの最小容量を変更することによって車両の最高速度を変更する最高速度可変制御を実行可能である。そして、制御部は、最高速度可変制御によって決定される油圧モータの最小容量が、低温時モータ容量制限制御によって決定される油圧モータの最大容量以上である場合には、低温時モータ容量制限制御を行わない。
【0017】
この作業車両では、油圧モータの最大容量が最小容量よりも小さな値に設定されることを防止することができる。また、最高速度可変制御によって決定される油圧モータの最小容量が、低温時モータ容量制限制御によって決定される油圧モータの最大容量以上である場合には、油圧モータの最小容量が大きな値に変更されている。このため、上記のように車両が停止状態から発進したとしても、油圧モータの指令容量が最大容量から大きく離れた値に設定されることがなく、上記のようなハンチングが発生しにくい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る作業車両では、作動油の温度が所定温度より低い場合には、油圧モータの最大容量が低下される。このため、油圧モータに応答遅れが生じるとしても、実際の駆動油圧量と目標駆動油圧との偏差が小さくなる。これにより、作動油が低温の場合にモータ容量の制御においてハンチングが発生することを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】作業車両の側面図。
【図2】作業車両が備える油圧駆動機構の構成を示す図。
【図3】モータ容量−駆動油圧特性の一例を示す図。
【図4】トラクション制御によるモータ容量−駆動油圧特性の一例を示す図。
【図5】トラクション制御および最高速度可変制御による車速−牽引力特性を示す図。
【図6】最高速度可変制御によるモータ容量−駆動油圧特性の一例を示す図。
【図7】制御部の負荷制御に関する機能ブロック図。
【図8】PID制御での補正量を示す表。
【図9】低温時モータ容量制限制御のフローチャート。
【図10】低温時モータ容量制限制御での駆動油温とモータ最大容量制限値との関係を示すマップ。
【図11】本実施形態にかかる作業車両での指令容量と実際のモータ容量の変化を示すグラフ。
【図12】従来の作業車両での指令容量と実際のモータ容量の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<全体構成>
本発明の第1実施形態に係る建設車両1の側面図を図1に示す。この建設車両1は、タイヤ4a,4bにより自走可能であると共に作業機3を用いて所望の作業を行うことができるホイールローダである。この建設車両1は、車体フレーム2、作業機3、タイヤ4a,4b、運転室5を備えている。
【0021】
車体フレーム2は、前側に配置されるフロントフレーム2aと、後側に配置されるリアフレーム2bとを有しており、フロントフレーム2aとリアフレーム2bとは車体フレーム2の中央部において左右方向に揺動可能に連結されている。
【0022】
フロントフレーム2aには作業機3および一対のフロントタイヤ4aが取り付けられている。作業機3は、第2油圧ポンプ14(図2参照)からの作動油によって駆動される装置であり、フロントフレーム2aの前部に装着されたリフトアーム3aと、リフトアーム3aの先端に取り付けられたバケット3bと、リフトアーム3aを駆動するリフトシリンダ(図示せず)と、バケット3bを駆動するチルトシリンダ3cとを有する。一対のフロントタイヤ4aは、フロントフレーム2aの側面に設けられている。
【0023】
リアフレーム2bには、運転室5や一対のリアタイヤ4bなどが設けられている。運転室5は、車体フレーム2の上部に載置されており、ハンドル、アクセルペダル等の操作部、速度等の各種の情報を表示する表示部、座席等が内装されている。一対のリアタイヤ4bは、リアフレーム2bの側面に設けられている。
【0024】
また、車体フレーム2には、走行輪としてのタイヤ4a,4bや、作業機3を駆動するための油圧駆動機構が搭載されている。以下、油圧駆動機構の構成について図2に基づいて説明する。
【0025】
<油圧駆動機構>
油圧駆動機構は、主として、エンジン10、走行用の第1油圧ポンプ11、ポンプ容量制御部30、チャージポンプ13、作業機用の第2油圧ポンプ14、走行用の油圧モータ15、モータ容量制御部16、インチング操作部17、前後進切換操作部18、制御部19などを有している。この油圧駆動機構では、第1油圧ポンプ11と油圧モータ15とによって閉回路のHST回路が構成されている。
【0026】
エンジン10は、ディーゼル式のエンジンであり、エンジン10で発生した出力トルクが、第1油圧ポンプ11、チャージポンプ13、第2油圧ポンプ14等に伝達される。エンジン10には、エンジン10の出力トルクと回転数とを制御する燃料噴射装置21が付設されている。燃料噴射装置21は、アクセルペダル22の操作量(以下、「アクセル操作量」と呼ぶ)に応じてエンジン10の回転数指令値を調整し、燃料の噴射量を調整する。アクセルペダル22は、エンジン10の目標回転数を指示する手段であり、アクセル操作量検知部23が設けられている。アクセル操作量検知部23は、ポテンショメータなどで構成されており、アクセル操作量を検知する。アクセル操作量検知部23は、アクセル操作量を示す開度信号を制御部19へと送り、制御部19から燃料噴射装置21に指令信号が出力される。このため、オペレータはアクセルペダル22の操作量を調整することによってエンジン10の回転数を制御することができる。また、エンジン10には、エンジン10の実回転数を検知する回転センサからなるエンジン回転数検知部25が設けられている。エンジン回転数検知部25からエンジン回転数を示す検知信号が制御部19に入力される。
【0027】
第1油圧ポンプ11は、斜板の傾転角を変更することにより容量を変更することができる可変容量型の油圧ポンプであり、エンジン10によって駆動される。第1油圧ポンプ11から吐出された作動油は、走行回路26,27を通って油圧モータ15へ送られる。走行回路26は、車両を前進させる方向に油圧モータ15を駆動させるように油圧モータ15に作動油を供給する流路(以下「前進走行回路26」と呼ぶ)である。走行回路27は、車両を後進させる方向に油圧モータ15を駆動させるように油圧モータ15に作動油を供給する流路(以下「後進走行回路27」と呼ぶ)である。
【0028】
ポンプ容量制御部30は、第1油圧ポンプ11の斜板の傾転角を変更することにより、第1油圧ポンプ11の容量を制御する。ポンプ容量制御部30は、ポンプ容量制御シリンダ31、電磁方向制御弁32、カットオフ弁33などを有する。
【0029】
ポンプ容量制御シリンダ31は、供給される作動油の圧力に応じて、ピストン34を移動させる。ポンプ容量制御シリンダ31は、第1油室31aと第2油室31bとを有しており、第1油室31a内の油圧と第2油室31b内の油圧とのバランスによってピストン34の位置が変更される。ピストン34は、第1油圧ポンプ11の斜板に連結されており、ピストン34が移動することにより、斜板の傾転角が変更される。
【0030】
電磁方向制御弁32は、制御部19からの指令信号に基づいてポンプ容量制御シリンダ31を制御する電磁制御弁である。電磁方向制御弁32は、制御部19からの指令信号に基づいてポンプ容量制御シリンダ31への作動油の供給方向を制御することができる。従って、制御部19は、電磁方向制御弁32を電気的に制御することにより、第1油圧ポンプ11の作動油の吐出方向を変更することができる。電磁方向制御弁32は、前進状態Fと後進状態Rと中立状態Nとに切り替わる。
【0031】
電磁方向制御弁32は、前進状態Fでは、後述する第1パイロット回路36と主パイロット回路35とを連通させると共に、第2パイロット回路37とドレン回路39とを接続する。ドレン回路39はタンク40に接続されている。第1パイロット回路36はポンプ容量制御シリンダ31の第1油室31aに接続されている。第2パイロット回路37はポンプ容量制御シリンダ31の第2油室31bに接続されている。このため、電磁方向制御弁32が前進状態Fである場合、作動油が主パイロット回路35、第1パイロット回路36を介して第1油室31aに供給されると共に、第2油室31bから作動油が排出される。これにより、第1油圧ポンプ11の傾転角は、前進走行回路26への容量が増大する方向に変更される。
【0032】
また、電磁方向制御弁32は、後進状態Rでは、第2パイロット回路37と主パイロット回路35とを連通させると共に、第1パイロット回路36とドレン回路39とを接続する。このため、電磁方向制御弁32が後進状態Rである場合、作動油が主パイロット回路35、第2パイロット回路37を介して第2油室31bに供給される。これにより、第1油圧ポンプ11の傾転角は、後進走行回路27への容量が増大する方向に変更される。なお、電磁方向制御弁32が中立状態Nである場合には、第1パイロット回路36と第2パイロット回路37とが共に、ドレン回路39に接続される。
【0033】
チャージポンプ13は、エンジン10によって駆動され、作動油を吐出する固定容量ポンプである。チャージポンプ13から吐出された作動油は、チャージ回路42、エンジンセンシング弁43および主パイロット回路35を介して、電磁方向制御弁32に供給される。チャージポンプ13は、電磁方向制御弁32に対してポンプ容量制御シリンダ31を作動させるための作動油を供給する。エンジンセンシング弁43は、チャージポンプ13からの油圧をエンジン回転数に応じた油圧に変換する。従って、エンジンセンシング弁43は、エンジン回転数に応じて主パイロット回路35の圧力を変化させる。具体的には、エンジンセンシング弁43は、エンジン回転数が増大すると、主パイロット回路35の圧力を増大させる。エンジンセンシング弁43によって主パイロット回路35の圧力が変化することによって、上述した第1油圧ポンプ11の容量が増減する。
【0034】
カットオフ弁33は、主パイロット回路35に接続されている。カットオフ弁33の第1パイロットポート33aは、チェック弁45を介して前進走行回路26と接続されており、チェック弁46を介して後進走行回路27と接続されている。カットオフ弁33の第2パイロットポート33bは、後述するカットオフパイロット回路48およびカットオフ圧制御弁51を介してチャージ回路42に接続されている。カットオフ弁33は、走行回路26,27の油圧(以下「駆動油圧」と呼ぶ)に応じて、閉鎖状態と開放状態とに切り替えられる。これにより、カットオフ弁33は、駆動油圧を設定されたカットオフ圧力値を越えないように制限する。具体的には、カットオフ弁33は、駆動油圧が、設定されたカットオフ圧力値以上になった場合に、主パイロット回路35とドレン回路39とを接続して、主パイロット回路35の油圧(以下、「主パイロット回路圧」と呼ぶ)を減圧する。主パイロット回路圧が減圧されると、電磁方向制御弁32を介してポンプ容量制御シリンダ31に供給されるパイロット圧が減圧される。その結果、第1油圧ポンプ11の容量が低減され、駆動油圧が低減される。これにより、ポンプ容量制御部30は、駆動油圧が所定のカットオフ圧力値を超えないように第1油圧ポンプ11の容量を制御する。また、カットオフ弁33は、第2パイロットポート33bに供給されるパイロット圧に応じてカットオフ圧を変更することができる。
【0035】
カットオフ圧制御弁51は、制御部19からの指令信号により電気的に制御される電磁制御弁であり、励磁状態と非励磁状態との2段階に切り換えられる。カットオフ圧制御弁51は、励磁状態では、カットオフパイロット回路48とドレン回路39とを接続する。これにより、カットオフ弁33の第2パイロットポート33bから作動油が排出され、カットオフ弁33のカットオフ圧が所定の低圧値に設定される。カットオフ圧制御弁51は、非励磁状態では、チャージ回路42とカットオフパイロット回路48とを接続する。これにより、カットオフ弁33の第2パイロットポート33bに作動油が供給され、カットオフ弁33のカットオフ圧が所定の高圧値に設定される。このように、カットオフ圧制御弁51は、制御部19から入力される指令信号に応じてカットオフ弁33の第2パイロットポート33bに供給されるパイロット圧を制御することができる。
【0036】
なお、チャージ回路42は第1リリーフ弁52を介してドレン回路39に接続されている。第1リリーフ弁52は、チャージ回路42の油圧が所定のリリーフ圧を越えないように制限する。また、チャージ回路42は、第2リリーフ弁53及びチェック弁54,55を介して走行回路26,27と接続されている。第2リリーフ弁53は、駆動油圧が所定のリリーフ圧に達した場合にチャージ回路42と走行回路26,27とを接続する。これにより、走行回路26,27が所定のリリーフ圧を超えないように制限される。
【0037】
第2油圧ポンプ14は、エンジン10によって駆動される。第2油圧ポンプ14から吐出された作動油は、作業機回路49を介してチルトシリンダ3c等(図1参照)に送られ、チルトシリンダ3c等を駆動する。
【0038】
油圧モータ15は、斜軸の傾転角を変更することにより容量を変更することができる可変容量型の油圧モータ15である。油圧モータ15は、第1油圧ポンプ11から吐出され走行回路26,27を介して供給される作動油によって駆動される。これにより、油圧モータ15は、走行のための駆動力を生じさせる。油圧モータ15は、前進走行回路26を介して作動油を供給されることにより、車両を前進させる方向に駆動される。油圧モータ15は、後進走行回路27を介して作動油を供給されることにより、車両を後進させる方向に駆動される。また、油圧モータ15は、後述するドレン回路41に接続されており、油圧モータ15から排出される作動油の温度を検知する温度センサからなる駆動油温検知部90が設けられている。すなわち、駆動油温検知部90は、油圧モータ15に供給される作動油の温度(以下、「駆動油温」と呼ぶ)を検知する。
【0039】
油圧モータ15の駆動力は、トランスファ56を介して、出力軸57に伝達される。これにより、タイヤ4a,4bが回転して車両が走行する。また、出力軸57には、出力軸57の回転数および回転方向を検知する回転センサからなる出力回転数検知部58が設けられている。出力回転数検知部58が検知した情報は、検知信号として制御部19に送られる。制御部19は、出力回転数検知部58が検知した出力軸57の回転数に基づいて、車両が前進しているのか、後進しているのか、または停止しているかを判定することができる。従って、出力回転数検知部58は、車両が前進しているのか又は後進しているのかを検知する前後進検知部として機能する。
【0040】
モータ容量制御部16は、油圧モータ15の斜軸の傾転角を制御することにより、油圧モータ15の容量(以下、単に「モータ容量」と呼ぶ)を制御する。モータ容量制御部16は、モータ容量制御シリンダ61、モータ容量制御弁62、パイロット圧制御弁63、前後進切換弁64などを有する。
【0041】
モータ容量制御シリンダ61は、供給される作動油の圧力に応じてピストン65を移動させる。モータ容量制御シリンダ61は、第1油室61aと第2油室61bとを有しており、第1油室61a内の油圧と第2油室61b内の油圧とのバランスによってピストン65の位置が変更される。ピストン65は、油圧モータ15の斜軸に連結されており、ピストン65が移動することにより、斜軸の傾転角が変更される。
【0042】
モータ容量制御弁62は、供給されるパイロット圧に基づいてモータ容量制御シリンダ61を制御する。モータ容量制御弁62は、パイロットポート62aに供給されるパイロット圧に基づいて第1状態と第2状態との間で切り換えられる。モータ容量制御弁62は、第1状態では、第1モータシリンダ回路66と第2モータシリンダ回路67とを接続する。第1モータシリンダ回路66は前後進切換弁64とモータ容量制御シリンダ61の第1油室61aとを接続する回路である。第2モータシリンダ回路67はモータ容量制御弁62とモータ容量制御シリンダ61の第2油室61bとを接続する回路である。モータ容量制御弁62が第1状態である場合、モータ容量制御シリンダ61の第2油室61bに作動油が供給される。これにより、モータ容量が低下するように、モータ容量制御シリンダ61のピストン65が移動する。モータ容量制御弁62が第2状態である場合、モータ容量制御弁62は、第2モータシリンダ回路67とドレン回路41とを接続する。ドレン回路41はチェック弁44を介してタンク40に接続されている。このため、モータ容量制御シリンダ61の第2油室61bから作動油が排出される。これにより、モータ容量が増大するように、モータ容量制御シリンダ61のピストン65が移動する。以上のように、モータ容量制御弁62は、パイロットポート62aに供給されるパイロット圧に基づいてモータ容量制御シリンダ61への作動油の供給方向及び供給流量を制御する。これにより、モータ容量制御弁62は、パイロット圧に基づいてモータ容量を制御することができる。
【0043】
パイロット圧制御弁63は、モータ容量制御弁62のパイロットポート62aへの作動油の供給と排出とを制御する。パイロット圧制御弁63は、チャージ回路42の作動油をパイロットポート62aに供給する。また、パイロット圧制御弁63は、パイロットポート62aからタンク40へ作動油を排出する。パイロット圧制御弁63は、制御部19からの指令信号に応じて、モータ容量制御弁62のパイロットポート62aに供給する油圧を任意に制御することができる。従って、制御部19は、パイロット圧制御弁63を電気的に制御することにより、油圧モータ15の作動油の容量を任意に制御することができる。なお、低圧切換弁69は、走行回路26,27のうち低圧側の走行回路をリリーフ弁94を介してタンク40に接続する。
【0044】
前後進切換弁64は、走行回路26,27のうち高圧側の走行回路の作動油をモータ容量制御シリンダ61に供給する。具体的には、電磁方向制御弁32が前進状態Fである場合、第1パイロット回路36に接続された前進パイロット回路71を介して前後進切換弁64の前進パイロットポート64aに作動油が供給される。これにより、前後進切換弁64は前進状態Fとなる。前後進切換弁64は、前進状態Fにおいて、前進走行回路26と第1モータシリンダ回路66とを接続すると共に、前進パイロット回路71と油圧検知回路73とを接続する。これにより、前進走行回路26の作動油がモータ容量制御シリンダ61に供給される。また、油圧検知回路73は油圧センサからなるパイロット回路油圧検知部74に接続されている。従って、パイロット回路油圧検知部74によって前進パイロット回路71の油圧が検知される。また、電磁方向制御弁32が後進状態Rである場合、第2パイロット回路37に接続された後進パイロット回路72を介して前後進切換弁64の後進パイロットポート64bに作動油が供給される。これにより、前後進切換弁64は後進状態Rとなる。前後進切換弁64は、後進状態Rにおいて、後進走行回路27と第1モータシリンダ回路66とを接続すると共に後進パイロット回路72と油圧検知回路73とを接続する。これにより、後進走行回路27の作動油がモータ容量制御シリンダ61に供給される。また、後進パイロット回路72の油圧がパイロット回路油圧検知部74によって検知される。パイロット回路油圧検知部74は、前進パイロット回路71の油圧又は後進パイロット回路72の油圧、すなわち主パイロット回路圧を検知して、検知信号として制御部19に送る。
【0045】
なお、第1モータシリンダ回路66の油圧、すなわち、油圧モータ15を駆動する高圧側の走行回路の駆動油圧は、駆動油圧検知部76によって検知される。駆動油圧検知部76は、検知した駆動油圧を検知信号として制御部19に送る。
【0046】
インチング操作部17は、インチングペダル81とインチング弁82とを有する。インチングペダル81は、運転室5内に設けられており、オペレータによって操作される。インチング弁82は、インチングペダル81が操作されと、主パイロット回路35とドレン回路39とを接続する。これにより、インチング弁82は、インチングペダル81の操作量に応じて主パイロット回路圧を低下させる。インチング操作部17は、例えば、エンジン10の回転数を上昇させたいが走行速度の上昇は抑えたいときなどにおいて使用される。すなわち、アクセルペダル22の踏み込みによってエンジン10の回転数を上昇させると、主パイロット回路圧も上昇する。このとき、インチングペダル81を操作してインチング弁82を開放することにより、主パイロット回路圧の上昇を制御することができる。これにより、第1油圧ポンプ11の容量の増大を抑え、油圧モータ15の回転速度の上昇を抑えることができる。
【0047】
また、インチング弁82には、ブレーキ弁83がバネを介して連結されている。ブレーキ弁83は、油圧ブレーキ装置86への作動油の供給を制御する。インチングペダル81は油圧ブレーキ装置86の操作部材を兼ねている。インチングペダル81の操作量が所定量に達するまではインチング弁82のみが操作される。そして、インチングペダル81の操作量が所定量に達すると、ブレーキ弁83の操作が開始され、これにより油圧ブレーキ装置86において制動力が発生する。インチングペダル81の操作量が所定量以上では、インチングペダル81の操作量に応じて油圧ブレーキ装置86の制動力が制御される。
【0048】
前後進切換操作部18は、前後進切換操作部材としての前後進切換レバー84と、レバー操作検知部85とを有する。前後進切換レバー84は、運転室5内に設けられており、車両の前進と後進との切換を指示するためにオペレータによって操作される。前後進切換レバー84は、前進位置、後進位置、中立位置に切り換えられる。レバー操作検知部85は、前後進切換レバー84が前進位置、後進位置、中立位置のいずれに位置しているのかを検知して、検知結果を検知信号として制御部19に送る。
【0049】
また、運転室5内には、トラクション制御操作部87と、最高速度可変制御操作部88とが設けられている。トラクション制御操作部87は、例えばダイヤル式のトラクション選択部材89と、トラクション選択部材89による選択位置を検知する第1位置検知部91とを有する。第1位置検知部91は、検知した選択位置を検知信号として制御部19に送る。トラクション選択部材89は、後述するトラクション制御による最大牽引力を設定するために操作される。最高速度可変制御操作部88は、例えばダイヤル式の速度段選択部材92と、第2位置検知部93とを有する。速度段選択部材92は、後述する最高速度可変制御による最高速度を設定するために操作される。第2位置検知部93は、速度段選択部材92による選択位置を検知する。第2位置検知部93は、検知した選択位置を検知信号として制御部19へ送る。
【0050】
制御部19は、CPUや各種のメモリなどを有する電子制御部であって、各検知部からの出力信号に基づいて各種の電磁制御弁や燃料噴射装置21を電気的に制御する。これにより、制御部19は、エンジン回転数およびモータ容量などを制御する。例えば、制御部19は、エンジン回転数検知部25および駆動油圧検知部76からの検知信号を処理して、モータ容量の指令信号をパイロット圧制御弁63に出力する。ここでは、制御部19は、後述する負荷制御により、図3に示されるようなモータ容量−駆動油圧特性が得られるように、エンジン回転数と駆動油圧の値とから指令信号を設定してパイロット圧制御弁63に出力する。図3において実線L21は、エンジン回転数がある値の状態における、駆動油圧に対するモータ容量を示すラインである。駆動油圧がある一定の値以下の場合まではモータ容量は最小(Min)であり、その後、駆動油圧の上昇に伴ってモータ容量も次第に大きくなる(実線の傾斜部分L22)。モータ容量が最大(Max)となった後は、油圧が上昇してもモータ容量は最大容量Maxを維持する。上記実線の傾斜部分L22は、エンジン回転数に応じて上下するように設定されている。すなわち、エンジン回転数が低ければ、駆動油圧がより低い状態からモータ容量が大きくなり、駆動油圧がより低い状態で最大容量に達するように制御される(図3における下側の破線の傾斜部分L23参照)。反対にエンジン回転数が高ければ、駆動油圧がより高くなるまで最小容量Minを維持し、駆動油圧がより高い状態で最大容量Maxに達するように制御される(図3における上側の破線の傾斜部分L24参照)。これにより、この建設車両1では、牽引力と車速とが無段階に変化して、車速ゼロから最高速度まで変速操作なく自動的に変速することができる(図5のラインL1参照)。
【0051】
例えば、前後進切換レバー84によって前進が選択されると、チャージポンプ13から吐出された作動油は、チャージ回路42、エンジンセンシング弁43、主パイロット回路35および電磁方向制御弁32を介して第1パイロット回路36に供給される。第1パイロット回路36からの作動油によって、ポンプ容量制御シリンダ31のピストン34が、図2の左方向に移動して第1油圧ポンプ11の斜板角を変更する。このとき、第1油圧ポンプ11の斜板の傾転角は、前進走行回路26への容量が増大する方向に変更される。また、この状態では、第2パイロット回路37は電磁方向制御弁32によってドレン回路39と接続されている。
【0052】
第1パイロット回路36の作動油は、前進パイロット回路71を介して、前後進切換弁64の前進パイロットポート64aに供給される。これにより、前後進切換弁64は前進状態Fとなる。この状態では、前進走行回路26と第1モータシリンダ回路66とが接続され、前進走行回路26の作動油がモータ容量制御シリンダ61に供給される。また、前進走行回路26の油圧が駆動油圧検知部76によって検知され、検知信号として制御部19に送られる。また、前後進切換弁64が前進状態Fでは、前進パイロット回路71と油圧検知回路73とが接続され、前進パイロット回路71の油圧がパイロット回路油圧検知部74によって検知される。パイロット回路油圧検知部74は、検知した前進パイロット回路71の油圧を検知信号として制御部19に送る。上述したように、制御部19は、エンジン回転数と、駆動油圧すなわち前進走行回路26の油圧とに基づいて、指令信号の電流値を算出する(図7参照)。そして、制御部19は、算出した電流値を有する指令信号をパイロット圧制御弁63に送る。パイロット圧制御弁63は、制御部19からの指令信号に基づいて、モータ容量制御弁62のパイロットポート62aに供給する作動油の圧力を制御する。これにより、モータ容量制御弁62が制御され、モータ容量制御シリンダ61のピストン65の位置が調整される。その結果、実際のモータ容量が、指令信号に対応する指令容量となるように斜軸の傾転角が調整される。
【0053】
<トラクション制御および最高速度可変制御>
制御部19は、トラクション選択部材89が操作されることにより、トラクション制御を実行する。トラクション制御は、油圧モータ15の最大容量を変更することによって車両の最大牽引力を複数段階に変化させる制御である。制御部19は、トラクション選択部材89の操作に応じて、油圧モータ15の最大容量を複数段階に低下させる。具体的には、図4に示すように、最大容量をMaxからMa,Mb,Mcのいずれかに変更するように、パイロット圧制御弁63に指令信号を出力する。最大容量がMaに変更されると、車速−牽引力特性は図5のラインLaのように変化する。このように、トラクション制御が行われていない状態の車速−牽引力特性を示すラインL1と比べて最大牽引力が低下する。最大容量がMbに変更されると、車速−牽引力特性はラインLbのように変化して、最大牽引力がさらに低下する。また、最大容量がMcに変更されると、車速−牽引力特性はラインLcのように変化して、さらに最大牽引力が低下する。
【0054】
また、制御部19は、速度段選択部材92が操作されることにより、最高速度可変制御を実行する。最高速度可変制御は、油圧モータ15の最小容量を変更することによって車両の最高速度を複数段階に変更する制御である。制御部19は、速度段選択部材92の操作に応じて、油圧モータ15の最小容量を複数段階に増大させる。例えば、速度段選択部材92が、第1速から第5速までの5段階に選択可能である場合、図6に示すように、最小容量がM1からM5までの5段階に変更される。M1は第1速が選択された場合に設定される最小容量である。最小容量がM1に設定されると、車速−牽引力特性は、図5のラインLv1のように変化する。このように、最高速度可変制御が行われていない状態の車速−牽引力特性を示すラインL1と比べて最高速度が低下する。M2は第2速が選択された場合に設定される最小容量である。最小容量がM2に設定されると、車速−牽引力特性は、図5のラインLv2のように変化する。M3は第3速が選択された場合に設定される最小容量である。最小容量がM3に設定されると、車速−牽引力特性は、図5のラインLv3のように変化する。M4は第4速が選択された場合に設定される最小容量である。最小容量がM4に設定されると、車速−牽引力特性は、図5のラインLv4のように変化する。M5は第5速が選択された場合に設定される最小容量である。最小容量がM5に設定されると、車速−牽引力特性は、図5のラインLv5のように変化する。このように、最高速度は、第1速から第5速の順に増大し、最高速度可変制御が行われていない状態で最大となる。
【0055】
<負荷制御>
次に、制御部19によって上述した指令信号を設定するために行われる負荷制御について説明する。負荷制御は、駆動油圧検知部76によって検知される駆動油圧が所定の目標駆動油圧に近づくようにモータ容量制御部16を制御するフィードバック制御である。
【0056】
制御部19は、図7に示すように、目標駆動油圧算出部77と、PID制御部78と、指令電流算出部79とを有する。目標駆動油圧算出部77は、エンジン回転数検知部25が検知したエンジン回転数から目標駆動油圧を算出する。具体的には、目標駆動油圧算出部77は、図7に示すようなエンジン回転数−目標駆動油圧変換マップを記憶しており、この変換マップから目標駆動油圧を算出する。
【0057】
PID制御部78は、目標駆動油圧算出部77によって算出された目標駆動油圧と、駆動油圧検知部76によって検知された実際の駆動油圧とを入力値としてパイロット圧制御弁63に入力する指令電流を出力値としてPID制御を行う。PID制御部78は、以下の式に基づいて出力値を算出する。
【0058】
(出力値)=(−1)×((P_gain × 偏差)+(I_gain × 積算偏差量)+(D_gain × (今回の偏差−前回の偏差))
ここで、PID制御部78は、P,I,Dの3つのゲイン(P_gain、I_gain、D_gain)として予め定められた定数を用いるが、駆動油温検知部90が検知した駆動油温が低い場合には、これらのゲインから所定の補正量を減算して補正する。例えば、図8に示すように、駆動油温がT0およびT1の場合にはPゲインの補正量としてa1、Iゲインの補正量としてb1が用いられる。駆動油温がT2の場合には、Pゲインの補正量としてa1より小さいa2、Iゲインの補正量としてb1より小さいb2が用いられる。駆動油温がT3以上の場合は補正量はゼロとされる。すなわち、ゲインは補正されない。また、Dゲインの補正は駆動油温に関わらず行われない。なお、図8の表に示される温度以外の温度の補正量については、比例計算により求められる。
【0059】
指令電流算出部79は、図7に示すように、PID制御部78からの出力値を所定の最大値Imaxおよび最小値Iminの間の範囲に制限する。トラクション制御の実行時には、最小値Iminは、トラクション制御によって設定される最大容量に対応した値に設定される。最高速度可変制御の実行時には、最大値Imaxは、最高速度可変制御によって設定される最小容量に対応した値に設定される。なお、指令電流は、モータ容量が大きいほど小さくなる。そして、指令電流算出部79で算出された指令電流を有する指令信号がパイロット圧制御弁63に入力される。これにより、駆動油圧検知部76によって検知される駆動油圧が所定の目標駆動油圧に近づくようにモータ容量制御部16が制御される。
【0060】
<低温時モータ容量制限制御>
次に、制御部19によって行われる低温時モータ容量制限制御について、図9のフローチャートに基づいて説明する。低温時モータ容量制限制御は、駆動油温検知部90によって検知された駆動油温が所定温度より低い場合に油圧モータ15の最大容量を低下させる制御である。
【0061】
まず、ステップS1では、速度段が取得される。ここでは、速度段選択部材92によって選択されている速度段が、第2位置検知部93からの検知信号に基づいて取得される。
【0062】
ステップS2では、ステップ1において取得された速度段が第1速であるか否かが判定される。速度段が第1速ではない場合には、ステップS3に進む。
【0063】
ステップS3では、駆動油圧が取得される。ここでは、駆動油圧検知部76からの検知信号に基づいて、駆動油圧が取得される。
【0064】
ステップS4では、駆動油圧が所定の閾値P0以下であるか否かが判定される。閾値P0は、低温時モータ容量制限制御の有無によって最大牽引力に差が生じるときの駆動油圧の最小値である。駆動油圧が所定の閾値P0以下である場合はステップS5に進む。
【0065】
ステップS5では、駆動油温が取得される。ここでは、駆動油温検知部90からの検知信号に基づいて、駆動油温が取得される。
【0066】
次に、ステップS6では、低温モータ最大容量制限値が算出される。ここでは、図10に示すような、駆動油温−モータ最大容量制限値マップと、ステップS5において取得された駆動油温とから、低温モータ最大容量制限値が算出される。なお、モータ最大容量制限値とは、制限前の値に対して乗ぜられる値であり、100以下の百分率で示される。ここで、駆動油温−モータ最大容量制限値マップでは、駆動油温が温度T3以上では、モータ最大容量制限値は100%で一定である。すなわち、駆動油温が温度T3以上では、最大容量は低下されない。駆動油温が温度T1からT3の間では、駆動油温が低下するほどモータ最大容量制限値が小さな値となる。従って、駆動油温が温度T1からT3の間では、駆動油温が低下するほど、最大容量が小さな値に低下される。そして、駆動油温が温度T0からT1までは、モータ最大容量制限値は値Aで一定である。ここで、モータ最大容量制限値Aは、最大容量が、最高速度可変制御において第1速の速度段が選択されている場合の最小容量(図6のM1参照)以下になるような値である。また、モータ最大容量制限値Aは、最大容量が、最高速度可変制御において第2速の速度段が選択されている場合の最小容量(図6のM2参照)よりも大きくなるような値である。なお、図10の駆動油温T0,T1,T3は、図8の駆動油温T0,T1,T3にそれぞれ一致している。
【0067】
ステップS7では、ステップ6で算出した低温モータ最大容量制限値が、他の制御によるモータ最大容量制限値以下であるか否かが判定される。ここでいう、他の制御によるモータ最大容量制限値とは、トラクション制御によって油圧モータ15の最大容量が低減される際のモータ最大容量制限値である。低温モータ最大容量制限値が、他の制御によるモータ最大容量制限値以下である場合には、ステップS8に進む。
【0068】
ステップS8では、低温モータ最大容量制限値によって最大容量が設定される。すなわち、低温時モータ容量制限制御が行われない場合の最大容量に低温モータ最大容量制限値が乗ぜられた値を最大容量として、モータ容量が制御される。
【0069】
ステップS2において速度段が第1速である場合には、ステップS7には進まずに終了する。すなわち、低温時モータ容量制限制御による最大容量の低下は行われない。また、ステップS4において、駆動油圧が所定の閾値P0より大きい場合にも、低温時モータ容量制限制御による最大容量の低下は行われない。
【0070】
ステップS7において低温モータ最大容量制限値が他の制御によるモータ最大容量制限値より大きい場合には、ステップS9に進む。
【0071】
ステップS9では、他の制御によるモータ最大容量制限値によって最大容量が設定される。すなわち、トラクション制御によって設定される最大容量に基づいてモータ容量が制御される。従って、ステップS7〜S8では、トラクション制御によって決定される油圧モータ15の最大容量と、低温時モータ容量制限制御によって決定される油圧モータ15の最大容量とのうちの小さい方の値を油圧モータ15の最大容量として設定している。
【0072】
<特徴>
この作業車両1では、駆動油温が所定温度より低い場合には、油圧モータ15の最大容量が低下される。例えば、図11に示すように、油圧モータ15の最大容量がqmaxからqmax’に低下される。このため、作動油が低温であるために油圧モータ15に応答遅れが生じていたとしても、指令容量(実線Li1~Li3参照)の変化に対する実際のモータ容量(破線Lr参照)の応答の遅れが小さくなる。従って、目標駆動油圧と実際の駆動油圧との偏差が小さくなる。これにより、作動油が低温の場合にモータ容量の制御においてハンチングが発生することを抑えることができる。
【0073】
この作業車両1では、駆動油圧が所定の閾値より大きい場合には、駆動油温が低い場合であっても、低温時モータ容量制限制御による油圧モータ15の最大容量の低下が行われない。従って、大きな牽引力を必要とする作業が行われているために駆動油圧が大きくなっている場合に、牽引力が低下することを抑えることができる。
【0074】
この作業車両1では、低温時モータ容量制限制御とトラクション制御とが重複した場合に、小さい方の最大容量が油圧モータ15の最大容量として設定される。このため、作動油が低温の場合には、トラクション制御に妨げられずにハンチングの発生を抑えることができる。
【0075】
この作業車両1では、最高速度可変制御において速度段として第1速が選択されている場合には、低温時モータ容量制限制御による油圧モータ15の最大容量の低下が行われない。このため最大容量が最小容量よりも小さな値に設定されることを防止することができる。また、最高速度可変制御において速度段として第1速が選択されている場合には、油圧モータ15の最小容量が最も大きな値に変更される(図6のM1参照)。このため、車両が停止状態から発進したとしても、指令容量が最大容量から大きく低下した値に設定されることがなく、上記のようなハンチングが発生しにくい。
【0076】
<他の実施形態>
(a)上記の実施形態では、ホイールローダに本発明が採用されているが、他の種類の作業車両に採用されてもよい。
【0077】
(b)上記の実施形態では、PID制御が行われているが、他のフィードバック制御が行われてもよい。
【0078】
(c)上記の実施形態では、速度段が第1速であるか否かが判定されているが、低温時モータ容量制限制御と最高速度可変制御との優先順位の決定方法はこれに限られない。例えば、最高速度可変制御によって決定される油圧モータ15の最小容量が、低温時モータ容量制限制御によって決定される油圧モータ15の最大容量以上である場合に、低温時モータ容量制限制御を行わないようにされてもよい。
【0079】
(d)上記の実施形態では、油温検知部として、油圧モータ15から排出される作動油の温度を検知する駆動油温検知部90が用いられているが、他の箇所から作動油の温度を検知してもよい。
【0080】
(e)上記の実施形態では、トラクション選択部材89および速度段選択部材92としてダイヤル式の部材が用いられているが、スライド式のスイッチやレバーなどの他の操作部材が用いられてもよい。また、トラクション制御において選択可能な最大牽引力の段階数は上記のものに限られない。さらに、トラクション選択部材89の操作量に応じて最大牽引力が連続的に変更可能とされてもよい。また、最高速度可変制御での速度段数も上記のものに限られない。さらに、速度段選択部材92の操作量に応じて最高速度可変制御での最高速度が連続的に変更可能とされてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、作動油が低温の場合に油圧モータの容量制御においてハンチングが発生することを抑える効果を有し、作業車両として有用である。
【符号の説明】
【0082】
10 エンジン
11 第1油圧ポンプ
15 油圧モータ
16 モータ容量制御部
4a,4b タイヤ(走行輪)
76 駆動油圧検知部(圧力検知部)
90 駆動油温検知部(油温検知部)
19 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンによって駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出された作動油によって駆動される可変容量型の油圧モータと、
前記油圧モータの容量を制御するモータ容量制御部と、
前記油圧モータによって駆動される走行輪と、
前記油圧モータを駆動する作動油の圧力である駆動油圧を検知する圧力検知部と、
作動油の温度を検知する油温検知部と、
前記圧力検知部によって検知される駆動油圧が所定の目標駆動油圧に近づくようにフィードバック制御により前記モータ容量制御部を制御し、前記油温検知部によって検知された作動油の温度が所定温度より低い場合には前記油圧モータの最大容量を低下させる低温時モータ容量制限制御を実行する制御部と、
作業車両。
【請求項2】
前記圧力検知部によって検知される駆動油圧が所定の閾値より大きい場合には、前記低温時モータ容量制限制御を行わない、
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記制御部は、前記油圧モータの最大容量を変更することによって車両の牽引力を変化させるトラクション制御を実行可能であり、前記トラクション制御によって決定される前記油圧モータの最大容量と、前記低温時モータ容量制限制御によって決定される前記油圧モータの最大容量とのうちの小さい方の値を前記油圧モータの最大容量として設定して前記モータ容量制御部を制御する、
請求項1または2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記制御部は、前記油圧モータの最小容量を変更することによって車両の最高速度を複数段階に変更する最高速度可変制御を実行可能であり、前記最高速度可変制御において最も低速段の最高速度が選択されている場合には、前記低温時モータ容量制限制御を行わない、
請求項1から3のいずれかに記載の作業車両。
【請求項5】
前記制御部は、前記油圧モータの最小容量を変更することによって車両の最高速度を変更する最高速度可変制御を実行可能であり、前記最高速度可変制御によって決定される油圧モータの最小容量が、前記低温時モータ容量制限制御によって決定される前記油圧モータの最大容量以上である場合には、前記低温時モータ容量制限制御を行わない、
請求項1から3のいずれかに記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−52793(P2011−52793A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204036(P2009−204036)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】