説明

作業車輌の原動部構造

【課題】濾過体の目詰まりを防いでラジエータおよびエンジンの冷却効率の低下を防止し、作業車輌の作業能率を高める。
【解決手段】ラジエータ(24)の内側に冷却ファン(22)を備え、該ラジエータ(24)の外側には冷却ファン(22)で吸入される外気を濾過する濾過体(29)を備え、ラジエータ(24)と濾過体(29)との間に、ラジエータ(24)側へ吸入される外気を遮蔽可能な遮風板(30)を設け、該遮風板(30)の一部には通風可能な通風部(31)を形成し、該通風部(31)を介して遮風板(30)の外側方へ送風するファン(41)を設け、外気の吸入方向における遮風板(30)とラジエータ(24)との重合量を変更する方向へ該遮風板(30)を移動自在な構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、作業車輌の原動部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンバイン等の作業車輌の原動部は、ラジエータの内側に冷却ファンを備え、該ラジエータの外側には前記冷却ファンの吸引作用によって吸入される外気を濾過する防塵網を備えた構成である。
しかしながら、作業中に発生する藁屑等の塵埃が、この防塵網の外側面に吸着されてこの濾過孔を塞ぎ、外気の吸入が阻害されてエンジンがオーバーヒートする問題があった。
そこで、下記特許文献1に開示されているように、ラジエータと防塵網との間に多孔板を配置し、この多孔板の外側面に、外気の吸入を許容する通気状態と、外気の吸入を阻止する遮蔽状態とに切り替えるシャッター板を重合させて配置する技術が試みられた。即ち、冷却ファンによる外気の吸入を一時的に阻止することで、防塵網および多孔板の外側面での吸着力をなくし、吸着されていた塵埃を脱落させようとするものである。
また、更に積極的に塵埃を除去するために、下記特許文献2に開示されているように、冷却ファンの翼角度を反転させる技術が試みられている。即ち、回転方向を同一方向としたまま翼角度を反転させることで、防塵網の内側から外側方へ塵埃除去用の風を吹き出させ、防塵網の外側面に吸着されていた塵埃を吹き飛ばそうとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−9863号公報
【特許文献2】特開2006−37748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献2に開示された技術では、冷却ファンの翼角度を反転させるための機構が複雑であるうえに、冷却ファンの翼角度を反転させて外側方へ風を吹き出している状態では、ラジエータ冷却用の外気が吸入されなくなり、エンジンがオーバーヒートしやすくなる問題がある。
また、上述の特許文献1に開示された技術でも、シャッター板によって遮蔽状態に切り替えた状態では、ラジエータ冷却用の外気が吸入されなくなり、エンジンがオーバーヒートしやすくなる問題がある。しかも、このように冷却ファンによる外気の吸入を一時的に阻止することで、防塵網および多孔板の外側面での吸着力をなくすだけでは、吸着されていた塵埃を積極的に除去することはできず、エンジンがオーバーヒートする問題を解消することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決するために、以下の技術的手段を講じる。
請求項1記載の発明は、ラジエータ(24)の内側に冷却ファン(22)を備え、該ラジエータ(24)の外側には前記冷却ファン(22)の吸引作用によって吸入される外気を濾過する濾過体(29)を備えた作業車輌の原動部構造であって、前記ラジエータ(24)と濾過体(29)との間に、冷却ファン(22)の吸引作用によって濾過体(29)を通過してラジエータ(24)側へ吸入される外気を遮蔽可能な遮風板(30)を設け、該遮風板(30)の一部には通風可能な通風部(31)を形成し、該通風部(31)を介して遮風板(30)の外側方へ送風するファン(41)を設け、前記冷却ファン(22)による外気の吸入方向における遮風板(30)とラジエータ(24)との重合量を変更する方向へ該遮風板(30)を移動自在な構成としたことを特徴とする作業車輌の原動部構造としたものである。
請求項2記載の発明は、前記ファン(41)をエンジン(14)及びラジエータ(24)を覆う原動部カバー(15)の外側の固定位置に設け、前記遮風板(30)がラジエータ(24)との重合量を増加させる方向へ移動した場合に、該遮風板(30)の通風部(31)とファン(41)の送風部(38)とが連通する構成としたことを特徴とする請求項1記載の作業車輌の原動部構造としたものである。
請求項3記載の発明は、前記遮風板(30)がラジエータ(24)との重合量を減少させる方向へ移動した場合に、ファン(41)からの送風が遮風板(30)の内側面で案内されてラジエータ(24)側へ吸入される構成としたことを特徴とする請求項2記載の作業車輌の原動部構造としたものである。
請求項4記載の発明は、前記ファン(41)をエンジン(14)及びラジエータ(24)を覆う原動部カバー(15)の外側の固定位置に設け、前記通風部(31)に、ファン(41)からの送風を遮風板(30)に対向する濾過体(29)の内側面へ向けて斜めに案内するように傾斜した送風ダクト(32)を設け、前記遮風板(30)がラジエータ(24)との重合量を増加させる方向へ移動した場合に、送風ダクト(32)とファン(41)の送風部(38)とが連通し、遮風板(30)がラジエータ(24)との重合量を減少させる方向へ移動した場合には、送風ダクト(32)とファン(41)の送風部(38)との連通が断たれ、ファン(41)からの送風が送風ダクト(32)下部の傾斜面(S)と遮風板(30)の内側面で案内されてラジエータ(24)側へ吸入される構成としたことを特徴とする請求項1記載の作業車輌の原動部構造としたものである。
請求項5記載の発明は、前記遮風板(30)とラジエータ(24)との重合量を減少させる方向へ遮風板(30)をその移動端部まで移動させても、該遮風板(30)の端部とラジエータ(24)の一部との重合状態が維持される構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2または請求項3または請求項4記載の作業車輌の原動部構造としたものである。
請求項6記載の発明は、前記濾過体(29)を外側面に備えると共に遮風板(30)を内蔵する第1吸気ダクト(28)を前記原動部カバー(15)の外側部に設け、該原動部カバー(15)の前側に設けた吸気口(42)から前記第1吸気ダクト(28)における遮風板(30)よりも内側の部位へ連通する第2吸気ダクト(43)を設けたことを特徴とする請求項2または請求項3または請求項4記載の作業車輌の原動部構造としたものである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明によると、通常作業時には、遮風板(30)とラジエータ(24)との重合量を減少させる方向へ該遮風板(30)を移動させることで、冷却ファン(22)によって吸入される外気の量を増大させて、ラジエータ(24)およびエンジンの冷却効率を高めることができる。また、遮風板(30)とラジエータ(24)との重合量を増加させる方向へ該遮風板(30)を移動させれば、この遮風板(30)の外側に対向する濾過体(29)の部位から吸入される外気の流速が低下し、この濾過体(29)の外側面に塵埃が吸着されにくくなる。更に、この遮風板(30)に形成した通風部(31)からファン(41)によって送られる風が濾過体(29)の内側から外側へ吹き出すように作用し、濾過体(29)の外側面に吸着されていた塵埃が吹き飛ばされる。これによって、濾過体(29)が目詰まりしにくくなり、ラジエータ(24)およびエンジンの冷却効率の低下を防止して作業車輌の作業能率を高めることができる。
請求項2記載の発明によると、上記請求項1記載の発明の効果を奏するうえで、遮風板(30)がラジエータ(24)との重合量を増加させる方向へ移動した場合に、該遮風板(30)の通風部(31)とファン(41)の送風部とが連通する構成としたので、遮風板(30)を移動させる構造を利用してファン(41)からの送風が外側方へ吹き出す状態に切り替えることができ、構造の簡素化によって故障の発生が少なくなり、耐久性および品質信頼性を高めることができる。
請求項3記載の発明によると、上記請求項2記載の発明の効果を奏するうえに、遮風板(30)がラジエータ(24)との重合量を減少させる方向へ移動した場合には、ファン(41)からの送風が遮風板(30)の内側面で案内されてラジエータ(24)側へ吸入されるので、冷却ファン(22)による吸入風にファン(41)による送風が加わり、ラジエータ(24)へ送られる冷却風量が増大することで、通常作業時における冷却風量を適正に維持してエンジンのオーバーヒートを防止することができる。
請求項4記載の発明によると、上記請求項1記載の発明の効果を奏するうえに、遮風板(30)がラジエータ(24)との重合量を増加させる方向へ移動した場合に、送風ダクト(32)とファン(41)の送風部とが連通し、ファン(41)からの送風が送風ダクト(32)から濾過体(29)へ向けて斜めに吹き出し、濾過体(29)の外側面に吸着されていた塵埃が吹き飛ばされる。これによって、濾過体(29)の目詰まりが少なくなり、ラジエータ(24)およびエンジン(14)の冷却効率の低下を防止して作業車輌の作業能率を高めることができる。また、遮風板(30)がラジエータ(24)との重合量を減少させる方向へ移動した場合には、ファン(41)からの送風が送風ダクト(32)下部の傾斜面(S)と遮風板(30)の内側面で案内されてラジエータ(24)側へ吸入されるので、冷却ファン(22)による吸入風にファン(41)による送風が加わり、ラジエータ(24)へ送られる冷却風量が増大することで、通常作業時における冷却風量を適正に維持してエンジン(14)のオーバーヒートを防止することができる。
請求項5記載の発明によると、請求項1または請求項2または請求項3または請求項4記載の発明の効果を奏するうえに、遮風板(30)とラジエータ(24)との重合量を減少させる方向へ遮風板(30)をその移動端部まで移動させても、該遮風板(30)の端部とラジエータ(24)の一部との重合状態が維持されるので、ファン(41)からの送風が遮風板(30)の内側面で案内されてラジエータ(24)側へ吸入され、冷却ファン(22)による吸入風にファン(41)による送風が加わり、ラジエータ(24)へ送られる冷却風量が確保されることで、通常作業時における冷却風量を適正に維持してエンジン(14)のオーバーヒートを防止することができる。
請求項6記載の発明によると、請求項2または請求項3または請求項4記載の発明の効果を奏するうえに、濾過体(29)の外側面に吸着された塵埃を除去するべく遮風板(30)とラジエータ(24)との重合量を増加させる方向へ遮風板(30)を移動させても、原動部カバー(15)の前側に設けた吸気口(42)から迂回して吸入される外気によってラジエータ(24)側に吸入される冷却風量の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】コンバインの右側面図である。
【図2】通常作業状態における原動部の説明用正面図である。
【図3】通常作業状態における原動部の説明用側面図である。
【図4】塵埃除去状態における原動部の説明用正面図である。
【図5】塵埃除去状態における原動部の説明用側面図である。
【図6】原動部の説明用概略平面図である。
【図7】原動部の説明用正面図である。
【図8】原動部の説明用側面図である。
【図9】原動部の要部の拡大正面図である。
【図10】原動部の要部の拡大側面図である。
【図11】参考例における要部の正面図である。
【図12】参考例における要部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
この発明を実施するコンバインの構成について説明する。尚、以下の記述における「左側」および「右側」とは、コンバインの前進方向に沿う方向を基準とするものであり、操縦部に搭乗した操縦者の視線に沿う表現としている。
【0009】
図1に示すように、コンバインの機体は、走行装置1を備えた機台2の左側の部位に脱穀装置3を搭載し、機台2の右側の部位には穀粒貯留装置4を搭載し、この穀粒貯留装置4の前側に操縦部5を設け、この操縦部5と脱穀装置3の前側に刈取装置6を設けて構成する。
【0010】
前記走行装置1は、機台2の前部に取り付けたミッションケース7から駆動される左右の駆動輪8,8と、左右の転輪フレーム9に軸受された多数の転輪10にわたってクローラ11,11を巻き掛けて構成する。
【0011】
前記機台2は、角パイプを平面視で矩形状に枠組みして構成する。
【0012】
前記脱穀装置3は、扱胴や処理胴を備えた上側の扱室と、揺動選別棚と唐箕と1番移送螺旋と2番移送螺旋を備えた下側の選別室とから構成する。前記扱室の左外側には、刈取装置6側の引継搬送装置の終端部から刈取穀稈を引き継いで搬送するフィードチェンを備える。尚、この脱穀装置の後部には、脱穀後の排藁を細かく切断して排出する排藁カッター(図示省略)を設ける。
【0013】
前記穀粒貯留装置4は、底部に排出螺旋を備えた容器である。前記脱穀装置3の1番移送螺旋によって回収された穀粒を、1番揚穀筒(図示省略)を介して該穀粒貯留装置4に投入して貯留する。また、この穀粒貯留装置4の後側には、縦軸中心に旋回自在の揚穀筒12を設け、この揚穀筒12の上端部に排出筒13の基部を上下回動自在に接続する。尚、上記1番揚穀筒と揚穀筒12と排出筒13には、移送用の螺旋を夫々内装している。
【0014】
前記操縦部5は、機台2の右側前部に搭載したエンジン14を覆う原動部カバー15の上部に、操縦者が着座する操縦席16を取り付け、この操縦席16の前方に前部操作台17を設け、操縦席16の左側には側部操作台18を設けて構成する。前記操縦席16と前部操作台17の前後間隔部の右側から、操縦者が乗り降りする構成としている。尚、前記前部操作台17の上部には、操舵レバー19と、モニターを備えたメータパネルと、ハンドル20を設ける。また、前記側部操作台18の上部には、前側から後側へ向かって、副変速レバーと、主変速レバー21と、刈取クラッチレバーと、脱穀クラッチレバーを設ける。(副変速レバーと刈取クラッチレバーと脱穀クラッチレバーは図示省略している。)前記操舵レバー19は、左右方向へ倒すことで左右の駆動輪8,8の回転速度に差を生じさせて機体を旋回させるように連繋している。また、操舵レバー19を前後方向へ倒すことで、油圧シリンダ(図示省略)を伸縮させて刈取装置6を昇降させるように連繋している。
しかして、図2、図3に示すように、エンジン14を、その出力軸が左右左右方向を向く姿勢で、前記機台2の右側前部に防振マウント(図示省略)を介して搭載する。これによって、エンジン14に備えた冷却ファン22が機体外側(エンジン14の右側)に配置され、エンジン14の出力軸に備えたフライホール23が機体内側(エンジン14の左側)に配置される。
そして、前記冷却ファン22の機体外側(右側)の部位には、エンジン14冷却用のラジエータ24を、その長辺部を機体前後方向に沿わせて縦姿勢で搭載する。該ラジエータ24は、機台2および該機台2に固定したフレームによって支持され、その注水口を上部に備え、冷却水の出入り口を上部および下部に備えている。
前記原動部カバー15は、エンジン14およびラジエータ24の前側を覆う前側壁体25と、エンジン14およびラジエータ24の上側を覆う上側壁体26と、エンジン14およびラジエータ24の後側を覆う後側壁体27と、ラジエータ24の外側方を覆うラジエータカバー(第1吸気ダクト)28とを一体に備えて構成する。
前記上側壁体26の上面には操縦席16を取り付ける。
前記ラジエータカバー28は、鉄板または合成樹脂によって風洞状に構成し、図3に示すように、その上部側ほど前後方向幅が狭くなるように上部を傾斜させて形成する。そして、該ラジエータカバー28の外側面には、その上下方向中間部から上端部にかけて、目抜き板(多孔板)状の濾過体(防塵網)29を設ける。該濾過体29の上部も、ラジエータカバー28の形状に沿って、その上部側ほど前後方向幅が狭くなるように上部を傾斜させて形成する。濾過体29とラジエータ24と冷却ファン22とエンジン14とを、機体側面視で重合するように配置する。該ラジエータカバー28は、前記前側壁体25、上側壁体26、後側壁体27とは独立して、機体外側方(右側方)へ傾倒するように開放可能に、機体前後方向の軸心Q周りに回動自在に取り付ける。
前記ラジエータカバー28の内部には、冷却ファン22の吸引作用によって濾過体29を通過してラジエータ24側へ吸入される外気を遮蔽可能な遮風板30を設ける。該遮風板30は矩形状の無孔の鉄板であり、その上端部に矩形の孔を形成し、この孔を通風可能な通風部31として備える。
また、この通風部31には、内側上方へ向けて傾斜した断面矩形の筒状の送風ダクト32を一体に形成する。該送風ダクト32の内側端は蓋板32aによって閉塞し、該蓋板32aには、円形の孔である吹き込み口32bを形成する。
そして、図9、図10に示すように、該遮風板30の前後両縁部には、上下方向のラック部33,33を設け、ラジエータカバー28内に設けた電動モータ34によって駆動される機体前後方向の駆動軸35の前後2箇所にはギヤ36,36を取り付け、該ギヤ36,36を前記ラック33,33に夫々噛み合わせる。尚、図示省略しているが、遮風板30を上下移動自在に案内するレールを、該遮風板30の前後両側部に備えている。以上の構成により、電動モータ34を正転させると、遮風板30が上方へ移動して移動ストロークの上端部でリミットスイッチ(図示省略)の作動により停止し、電動モータ34を逆転させると、遮風板30が下方へ移動して移動ストロークの下端部でリミットスイッチ(図示省略)の作動により停止する。尚、前記電動モータ34の正転と逆転は、エンジン14の稼動中、コントローラによって一定時間ごとに交互に繰り返す構成としている。
また、前記ラジエータカバー28の上部を上側壁体26よりも上方へ突出させ、この突出部の内側壁37に円形の孔である送風部38を形成し、この送風部38の周囲には、左右方向に所定の幅を有する円筒状のファンケーシング39の右側端部を固定する。該ファンケーシング39内には、電動モータ40で駆動されるファン41を設け、電動モータ40の駆動によって該ファン41が回転し、外気を送風部38からラジエータカバー28の内部へ吹き込む構成とする。尚、前記電動モータ40は、エンジン14の稼動中、常時同方向へ回転させる構成としている。
しかして、図2、図3に示すように、前記電動モータ34を正転させ、遮風板30が上方へ移動して移動ストロークの上端部でリミットスイッチの作動により停止した状態(冷却ファン22による外気の吸入方向における遮風板30とラジエータ24との重合量を減少させる方向へ該遮風板30を移動させた状態)では、遮蔽板30の下端部がラジエータ24の上端部のみを覆う位置まで上昇すると共に、前記送風ダクト32の内側端部に形成した吹き込み口32bがファン41の送風部38よりも高い位置まで上昇することで、該吹き込み口32bと送風部38とが連通しない状態となる。これによって、ファン41による送風部38からの送風が送風ダクト32下部の傾斜面Sとこの下端に続く遮風板30の内側面で案内されてラジエータ24側へ吸入されるので、冷却ファン22による吸入風にファン41よる送風が加わり、ラジエータ24へ送られる冷却風量が増大することで、通常作業時における冷却風量を適正に維持してエンジン14のオーバーヒートを防止することができる。
一方、図4、図5に示すように、前記電動モータ34を逆転させ、遮風板30が下方へ移動して移動ストロークの下端部でリミットスイッチの作動により停止した状態(冷却ファン22による外気の吸入方向における遮風板30とラジエータ24との重合量を増加させる方向へ該遮風板30を移動させた状態)では、遮風板30の下端部がラジエータ24の上下方向中央部までを覆う位置まで下降する。これによって、この遮風板30の外側に対向する濾過体29の部位から吸入される外気の流速が低下し、この濾過体29の外側面に塵埃が吸着されにくくなる。これと共に、送風ダクト32の内側端部に形成した吹き込み口32bがファン41の送風部38と一致することで、該吹き込み口32bと送風部38とが連通する。これによって、ファン41からの送風が送風ダクト32から濾過体29へ向けて斜めに吹き出し、濾過体29の外側面に吸着されていた塵埃が吹き飛ばされる。これによって、濾過体29の目詰まりが少なくなり、ラジエータ24およびエンジン14の冷却効率の低下を防止して作業車輌の作業能率を高めることができる。尚、遮風板30の下降途中において、送風ダクト32の吹き込み口32bとファン41の送風部38とが完全に一致せず、例えばその断面積の一部だけ連通する状態も生じる。このような状態では、ファン41からの送風が、送風ダクト32から濾過体29へ向けて斜めに吹き出す風と、送風ダクト32下部の傾斜面とこの下端に続く遮風板30の内側面で案内されてラジエータ24側へ吸入される風とに分かれ、夫々の送風量の比率が変化することとなる。即ち、遮風板30が下降するほど、送風ダクト32の吹き込み口32bとファン41の送風部38とが連通する風路の断面積が大きくなり、送風ダクト32から濾過体29へ向けて斜めに吹き出す風量が増大する。
また、図4、図5、図6に示すように、原動部カバー15の前側壁体25には矩形の吸気口42を設け、該吸気口42から前記ラジエータカバー(第1吸気ダクト)28における遮風板30よりも内側の部位へ連通する第2吸気ダクト43を設ける。これによって、濾過体29の外側面に吸着された塵埃を除去するために遮風板30を下降させても、吸気口42から迂回して吸入される外気によって、ラジエータ24側に吸入される冷却風量の低下を防止することができる。
また、図7、図8、図9、図10に示すように、前記ファン41部を閉塞する状態に囲うボックス44を、ラジエータカバー28の上部の内側壁37に取り付けてもよい。これにより、遮風板30が上方へ移動して移動ストロークの上端位置で停止した状態では、ファン41の吸引力によって濾過体29の上部から外気が吸入され、この外気が通風部31および送風ダクト32内を逆流してボックス44内に流れ込み、このボックス44内を迂回してファン1に吸い込まれ、ファン41による送風部38からの送風が送風ダクト32下部の傾斜面とこの下端に続く遮風板30の内側面で案内されてラジエータ24側へ吸入される。これにより、冷却ファン22による吸入風にファン41よる送風が加わり、ラジエータ24へ送られる冷却風量が増大することで、通常作業時における冷却風量を適正に維持してエンジン14のオーバーヒートを防止することができる。
また、図3、図5、図8、図10に示すように、いずれの実施例においても、ファン41は操縦席16の後側に配置する。これによって、操縦席16とファン41部とを機体正面視でオーバーラップさせて配置でき、コンパクトにレイアウトすることができる。
尚、前記ファン41とその駆動用の電動モータ40を送風ダクト32側に一体に取り付け、遮風板30と共に上下移動する構成としてもよい。
また、前記遮風板30の移動方向は上下方向に限らず、前後方向、斜め上下方向とするもよい。
また、前記冷却ファン22を電動モータで駆動する構成とするもよく、ファン41をエンジン14の駆動力で駆動する構成としてもよい。
次に、図11、図12に示す参考例について説明する。
エンジン14の冷却ファン駆動軸に円筒状の回転筒45を取り付け、該回転筒45の周面に等間隔で6つの孔を穿ち、該6つの孔に、内周面に雌螺子を形成したボス46を夫々嵌め込んで取り付ける。この6つのボス46に対して、外側端部に翼板48を備えた雄螺子軸47をボス46の外側から挿し込むように螺合させて取り付け、該雄螺子軸47の内側端部にウエイト49を取り付け、該ウエイト49とボス46との間の雄螺子軸47上の部位にバランススプリング50を装着する。
この構成により、エンジン14が高速回転している状態では、ウエイト49に掛かる遠心力でバランススプリング50の弾発力に抗して該ウエイト49と雄螺子軸47が放射方向に押され、該雄螺子軸47とボス46の雌螺子との螺合関係によって雄螺子軸47が自転する。これによって、雄螺子軸47と一体の翼板48の角度が変化し、この6つの翼板48によって機体外側から内側へ外気が吸入され、ラジエータ24およびエンジン14側へ冷却風が送られる状態となる。一方、エンジン14の回転速度が低下すると、ウエイト49に掛かる遠心力が減少し、バランススプリング50の弾発力によって雄螺子軸47が引き戻され、該雄螺子軸47とボス46の雌螺子との螺合関係によって雄螺子軸47が上記と逆の方向へ自転する。これによって、雄螺子軸47と一体の翼板48の角度が逆向きに変化し、エンジン14の冷却ファン駆動軸が同一方向に回転しているにもかかわらず、6つの翼板48によって機体内側から外側方へ風が吹き出し、濾過体の外側面に吸着されていた塵埃を吹き飛ばすことができる。
尚、上述のエンジン14の高速回転状態とは、コンバインによる刈取脱穀作業に適した毎分約2600回転の定格回転状態を指し、上述のエンジン14の低速回転状態とは、エンジン14をアイドリング状態とした毎分約1500回転を指す。これにより、刈取脱穀作業中は、6つの翼板48によって機体外側から内側へ外気を吸入してラジエータ24およびエンジン14を冷却し、刈取脱穀作業を行わない待機時に、6つの翼板48によって機体内側から外側方へ風を吹き出して濾過体の外側面に吸着されていた塵埃を吹き飛ばすことができる。
また、脱穀クラッチや穀粒排出クラッチを接続操作した場合に、エンジン14の回転速度をアイドリング回転速度から定格回転速度まで自動的に上昇させる制御装置を備えたコンバインでは、この脱穀クラッチや穀粒排出クラッチを遮断操作することでエンジン14の回転速度がアイドリング回転速度まで自動的に低下する途中で、翼板48の角度が逆向きに変化した回転速度を数秒間だけ保持し、その後、アイドリング回転速度まで低下させるように制御してもよい。これによって、機体内側から外側方へ吹き出す風の風量を大きくでき、濾過体の外側面に吸着されていた塵埃の除去効果が高まる。
【符号の説明】
【0015】
14 エンジン
15 原動部カバー
22 冷却ファン
24 ラジエータ
28 ラジエータカバー(第1吸気ダクト)
29 濾過体
30 遮風板
31 通風部
32 送風ダクト
38 送風部
41 ファン
42 吸気口
43 第2吸気ダクト
S 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジエータ(24)の内側に冷却ファン(22)を備え、該ラジエータ(24)の外側には前記冷却ファン(22)の吸引作用によって吸入される外気を濾過する濾過体(29)を備えた作業車輌の原動部構造であって、前記ラジエータ(24)と濾過体(29)との間に、冷却ファン(22)の吸引作用によって濾過体(29)を通過してラジエータ(24)側へ吸入される外気を遮蔽可能な遮風板(30)を設け、該遮風板(30)の一部には通風可能な通風部(31)を形成し、該通風部(31)を介して遮風板(30)の外側方へ送風するファン(41)を設け、前記冷却ファン(22)による外気の吸入方向における遮風板(30)とラジエータ(24)との重合量を変更する方向へ該遮風板(30)を移動自在な構成としたことを特徴とする作業車輌の原動部構造。
【請求項2】
前記ファン(41)をエンジン(14)及びラジエータ(24)を覆う原動部カバー(15)の外側の固定位置に設け、前記遮風板(30)がラジエータ(24)との重合量を増加させる方向へ移動した場合に、該遮風板(30)の通風部(31)とファン(41)の送風部(38)とが連通する構成としたことを特徴とする請求項1記載の作業車輌の原動部構造。
【請求項3】
前記遮風板(30)がラジエータ(24)との重合量を減少させる方向へ移動した場合に、ファン(41)からの送風が遮風板(30)の内側面で案内されてラジエータ(24)側へ吸入される構成としたことを特徴とする請求項2記載の作業車輌の原動部構造。
【請求項4】
前記ファン(41)をエンジン(14)及びラジエータ(24)を覆う原動部カバー(15)の外側の固定位置に設け、前記通風部(31)に、ファン(41)からの送風を遮風板(30)に対向する濾過体(29)の内側面へ向けて斜めに案内するように傾斜した送風ダクト(32)を設け、前記遮風板(30)がラジエータ(24)との重合量を増加させる方向へ移動した場合に、送風ダクト(32)とファン(41)の送風部(38)とが連通し、遮風板(30)がラジエータ(24)との重合量を減少させる方向へ移動した場合には、送風ダクト(32)とファン(41)の送風部(38)との連通が断たれ、ファン(41)からの送風が送風ダクト(32)下部の傾斜面(S)と遮風板(30)の内側面で案内されてラジエータ(24)側へ吸入される構成としたことを特徴とする請求項1記載の作業車輌の原動部構造。
【請求項5】
前記遮風板(30)とラジエータ(24)との重合量を減少させる方向へ遮風板(30)をその移動端部まで移動させても、該遮風板(30)の端部とラジエータ(24)の一部との重合状態が維持される構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2または請求項3または請求項4記載の作業車輌の原動部構造。
【請求項6】
前記濾過体(29)を外側面に備えると共に遮風板(30)を内蔵する第1吸気ダクト(28)を前記原動部カバー(15)の外側部に設け、該原動部カバー(15)の前側に設けた吸気口(42)から前記第1吸気ダクト(28)における遮風板(30)よりも内側の部位へ連通する第2吸気ダクト(43)を設けたことを特徴とする請求項2または請求項3または請求項4記載の作業車輌の原動部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−235663(P2011−235663A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106040(P2010−106040)
【出願日】平成22年5月2日(2010.5.2)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】