説明

作業車輌の原動部構造

【課題】ラジエータファンによる外気の吸入効率に優れる手段を提供する。
【解決手段】ラジエータファン(26)と、機体内側に配置したラジエータファン(26)よりも小径な排塵ファン(27)とを備え、ラジエータファン(26)の正転状態と回転停止状態の切換と排塵ファン(27)の逆転状態と回転停止状態との切換を行なう電動モータ(45)を設け、ラジエータファン(26)の回転停止に対応させて排塵ファン(27)を逆転させる構成としたことにより解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジエータの外側に設置された濾過体に付着する藁屑、塵埃を除去し、エンジンのオーバヒートを防止する作業車輌の原動部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンバイン等の作業車輌には水冷式エンジンが使用されている。エンジンにより温度上昇した冷却水は、ラジエータを循環することにより冷却された後、再びエンジンを循環する。
コンバインは、穀稈の刈取、脱穀、選別、排藁処理を行うので、コンバイン前部の刈取装置から藁屑や塵埃が巻き上がったり、また、コンバインの後部から多量の藁屑を排出し、選別後の排塵風によって、排出された藁屑、塵埃等を巻き上げることが多い。この巻き上げられた藁屑等がエンジンカバーやラジエータカバーの濾過体に付着し、これらの濾過体が目詰まった場合、濾過体の外側から内側に十分な外気を吸入することができなくなり、冷却水の冷却効果が低下し、場合によってはエンジンがオーバヒートする恐れがある。
【0003】
上記問題を解決するため、特許文献1には、刈取り作業中のコンバインの後進時に、エンジンの外側に設けた排塵ファンを逆転させ、エンジンカバーの濾過体に付着した藁屑、塵埃等の除去を行なう構成が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ラジエータカバーの濾過体の内側に設けた排塵ファンと、この排塵ファンとラジエータとの間に開閉自在なシャッタを設け、ラジエータカバーの濾過体に付着した藁屑、塵埃等を除去する場合、濾過体の外側から内側への外気の吸入を遮断するためシャッタを閉鎖し、排塵ファンを逆転させ濾過体の内側から外側に送風を行う手段が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008―253212号公報
【特許文献2】特開平9―125960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び2において、ラジエータファンはエンジンを駆動系としているのに対し、排塵ファンはエンジンの駆動系と独立しており、専用の電動モータにより駆動している。したがって、製造原価が嵩むことになる。
【0007】
そこで、本発明の主たる目的は、ラジエータカバーの濾過体に付着した藁屑、塵埃等を排塵ファンにより除去することができるとともに、通常のラジエータファン運転の際に、ラジエータファンによる外気の吸入能力低下を抑制でき、もってエンジンのオーバヒートを防止できる作業車輌の原動部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
請求項1に係る発明は、エンジン(11)の冷却水を冷却するラジエータ(21)を有し、前記ラジエータ(21)の外側に配置したラジエータカバー(22)の外気濾過用の濾過体(24)と、前記ラジエータ(21)よりも機体内側に配置した正転状態と回転停止状態とに切換可能な外気吸入用のラジエータファン(26)と、該ラジエータファン(26)よりも機体内側に配置した逆転状態と回転停止状態とに切換可能な排塵ファン(27)を設け、前記ラジエータファン(26)の有効直径よりも排塵ファン(27)の有効直径を小径として該ラジエータファン(26)と排塵ファン(27)とを同一軸心上に設け、前記ラジエータファン(26)の正転状態と回転停止状態との切換と、排塵ファン(27)の逆転状態と回転停止状態との切換を行なう電動モータ(45)を設け、前記ラジエータファン(26)の回転停止に対応させて排塵ファン(27)を逆転させる構成としたことを特徴とする作業車輌の原動部構造である。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記排塵ファン(27)の筒状回転軸(27A)内を貫通してラジエータファン(26)の回転軸(26A)を設け、排塵ファン(27)及びラジエータファン(26)はエンジン(11)の出力により回転する構成としたことを特徴とする請求項1記載の作業車輌の原動部構造である。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記ラジエータ(21)の内側にラジエータファン(26)の外周を囲う第1シュラウド(81)を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の作業車輌の原動部構造である。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記第1シュラウド(81)の内側に、内径が該第1シュラウド(81)の内径より小さい第2シュラウド(82)を設け、該第2シュラウド(82)によって前記ラジエータファン(26)の内側部分の外周及び排塵ファン(27)の外周を囲う構成としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の作業車輌の原動部構造である。
【0012】
請求項5に係る発明は、作業クラッチ(104,115)が接続された後に前記電動モータ(45)が作動する構成としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の作業車輌の原動部構造である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、ラジエータファン(26)の回転停止に対応させて排塵ファン(27)を逆転させることから、ラジエータカバー(22)の濾過体(24)に付着した藁屑、塵埃等を効率的に除去することができる。また、ラジエータファン(26)の正転状態と回転停止状態との切換えと排塵ファン(27)の逆転状態と回転停止状態との切換えを行なう電動モータ(45)を設けていることから、切換え構造を簡易にでき信頼性も高まる。
しかも、ラジエータファン(26)の有効直径よりも排塵ファン(27)の有効直径を小径としたことから、ラジエータファン(26)の正転状態時に、排塵ファン(27)の存在により外気の取り込み能力を低下させることが少なく、その結果、ラジエータファン(26)による外気の吸入能力低下を抑制でき、エンジン(11)のオーバヒートを効果的に防止して作業能率を高めることができる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、排塵ファン(27)の筒状回転軸(27A)内を貫通してラジエータファン(26)の回転軸(26A)を設け、排塵ファン(27)及びラジエータファン(26)はエンジン(11)の出力により回転することから、従来のように排塵ファン(27)を別の駆動系である駆動モータにより駆動する場合に比較して製造原価を低減できる。さらに、中心部分の構造は、排塵ファン(27)の筒状回転軸(27A)内を貫通してラジエータファン(26)の回転軸(26A)を設けたものであるために、従来のように排塵ファン(27)の中心部に駆動モータを設けた構造に比較して、ラジエータファン(26)による外気の取り込み能力低下を少ないものとすることができ、エンジン(11)のオーバヒートを更に効果的に防止できる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、請求項1または2記載の発明の効果に加えて、ラジエータ(21)の内側にラジエータファン(26)の外周を囲う第1シュラウド(81)を設けたことから、ラジエータファン(26)による外気の吸入効率が高まり、ラジエータ(21)の冷却効率を高めることができる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、第1シュラウド(81)の内側に、内径が第1シュラウド(81)の内径より小さい第2シュラウド(82)を設け、この第2シュラウド(82)によってラジエータファン(26)の内側部分の外周及び排塵ファン(27)の外周を囲う構成としたことから、排塵ファン(27)の逆転時に濾過体(24)の内側から外側に向かい効率的に送風を行なうことができ、ラジエータカバー(22)の濾過体(24)に付着した藁屑、塵埃等の除去効率を更に高めることができる。
【0017】
請求項5記載の発明によれば、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、作業クラッチ(104,115)が接続された後に電動モータ(45)が作動することから、濾過体(24)に多量の藁屑、塵埃等が付着する作業時にのみに、電動モータ(45)が作動するので、この電動モータ(45)の耐久性が向上し、ラジエータファン(26)と排塵ファン(27)との切換時に発生する駆動音も低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態のコンバインの右面図である。
【図2】本実施形態のコンバインの左面図である。
【図3】本実施形態のコンバインの平面図である。
【図4】本実施形態のコンバインの背面図である。
【図5】本実施形態のラジエータカバーの拡大正面図である。
【図6】本実施形態のラジエータ等の要部拡大断面図である。
【図7】本実施形態のラジエータファンの要部拡大平面図である。
【図8】本実施形態のラジエータファンと排塵ファンの動力伝達図である。
【図9】本実施形態のラジエータファンの動作説明図である。
【図10】本実施形態の排塵ファンの動作説明図である。
【図11】本実施形態のコンプレッサの動作説明図である。
【図12】別の実施形態のラジエータ等の要部拡大正面図である。
【図13】別の実施形態のラジエータ等の要部拡大側面図である。
【図14】別の実施形態のラジエータカバーの拡大正面図である。
【図15】別の実施形態のラジエータカバーの拡大側面図である。
【図16】別の実施形態のラジエータ等の要部拡大断面図である。
【図17】別の実施形態のラジエータファンの動作説明図である。
【図18】本実施形態のコントローラのブロック線図である。
【図19】本実施形態のコントローラのフローチャートである。
【図20】本実施形態のコンバインの動力図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の作業車輌の原動部構造の本実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態は、作業車輌としてコンバインを例示してあるがコンバインに限定されるものではなく、トラクター、田植機等の農業用作業車輌にも適用できるものである。
【0020】
以下の説明において、コンバイン1の機体内側を「内側」、機体外側を「外側」といい、キャビン9内の操作席(図示省略)に着座する操作者から見て右手側を「右側」、左手側を「左側」、上方側を「上方」、下方側を「下方」、コンバインの進行方向を「前側」と、後退方向を「後側」という。
【0021】
「正転」とは機体外側から機体内側に向かい外気を吸入するファンの回転方向をいい、「逆転」とは機体内側から機体外側に向かい内気を送風するファンの回転方向をいい、「停止」とはファンが正転および逆転していないファンの休止状態をいうものとする。
【0022】
すなわち、後述するインタークーラ用ファン14における「正転」とは、図13のS1で示すとおり、エンジンカバー15の目抜き鉄板などからなる外気濾過用の濾過体16を介して機体外側からインタークーラ12に向かって外気を吸入し送風するインタークーラ用ファン14の回転方向をいい、「逆転」とは、図13にS2で示すとおり、エンジンカバー15の濾過体16を介して機体内側から機体外側に向かい内気を送風するインタークーラ用ファン14の回転方向をいう。また、インタークーラ用ファン14は、図18に示すコントローラ84により正転、逆転および停止状態の切換が行なわれる。
【0023】
ラジエータファン26における「正転」とは、図6、図13のS3で示すとおり、ラジエータカバー22の目抜き鉄板などからなる濾過体24を介して機体外側からラジエータ21に向かって外気を吸入し送風するラジエータファン26の回転方向をいう。ラジエータファン26は、コントローラ84により正転および停止状態の切換が行なわれる。
【0024】
排塵ファン27,51における「逆転」とは、図6、図13にS4で示すとおり、ラジエータカバー22の濾過体24を介して機体内側から機体外側に向かい内気を送風する排塵ファン27,51の回転方向をいう。また、排塵ファン27,51は、コントローラ84により逆転および停止状態の切換が行なわれる。
【0025】
図1〜図4には、本発明の原動部構造を有するコンバイン1が示されている。コンバイン1の車台2の下方には土壌面を走行するための左右一対のクローラからなる走行装置3が設けられ、車台2の上方左側には脱穀および選別をする為の脱穀装置4が設けられ、脱穀装置4の前側には刈取装置6が設けられ、刈取装置6の前側には穀稈掻込用のリール5が設けられている。
【0026】
リール5で掻き込まれた刈稈は刈取装置6に備えた刈刃(図示省略)で刈り取られ脱穀装置4に送られる。脱穀装置4で脱穀および選別された穀粒は脱穀装置4の右側に設けられたグレンタンク7に貯留され、貯留された穀粒は穀粒排出筒8により外部へ排出される。
【0027】
車台2の上方右側には操作者が搭乗する操作席を備えたキャビン9が設けられ、操作席の下方後側にはエンジンルーム10が設けられている。
図12、図13に示すように、エンジンルーム10の後側にはコンバイン1の駆動源であるエンジン11設けられ、エンジン11の前側にはラジエータ21が設けられている。エンジン11の外側には燃焼用の混合気を冷却するインタークーラ12が設けられ、エンジン11の吸気経路であるマニホールド13に接続されている。
【0028】
エンジン11とインタークーラ12との間には、正逆転状態と回転停止状態とに切換可能な外気吸入用のインタークーラ用ファン14が設けられている。
インタークーラ用ファン14は、インタークーラ用モータ14Aとインタークーラ用羽根14Bとにより構成され、インタークーラ用モータ14Aはモータ支持枠(図示省略)により支持され、エンジンカバー15の内側に取付けられている。
【0029】
エンジン11の駆動時にあっては、エンジン11およびインタークーラ12を冷却するため、インタークーラ用ファン14は正転し、インタークーラ12の外側に設けられたエンジンカバー15の濾過体16を介し、コンバイン1の外側から内側に外気を吸入する。一方、後述する排塵ファン27の逆転時には、エンジンカバー15の濾過体16に付着した藁屑、塵埃等を除去するため、インタークーラ用ファン14は逆転し、コンバイン1の内側から外側に内気を送風する。
【0030】
図5〜図7に示すように、本実施形態は正転状態と回転停止状態とに切換可能な外気吸入用のラジエータファン26の内側に、ラジエータファン26よりも有効直径が小さく逆転状態と回転停止状態とに切換可能な排塵ファン27が配置され、ラジエータファン26および排塵ファン27はエンジン11のクランク軸31Aの回転が伝動され回転する。
なお、ラジエータファン26が取付けられた回転軸26Aと排塵ファン27が取付けられた回転軸(筒状回転軸)27Aは、相互にベアリング61を介し同一軸心上に設けられている。即ち、排塵ファン27の筒状回転軸27A内を貫通してラジエータファン26の回転軸26Aを設けている。
【0031】
ラジエータファン26の外周は、ラジエータ21の内側面に取付けられた第1ケーシング(第1シュラウド)81と、支承部材85を介し車台2に取付けられた第2ケーシング(第2シュラウド)82とにより囲われ、排塵ファン27の外周は第2ケーシング82により囲われている。
【0032】
第1ケーシング81の形状は、ラジエータファン26による外気の吸入によりラジエータ21を効率的に冷却するため、ラジエータ21の形状に合わせ矩形形状に形成されている。但し、この第1ケーシング81は、ラジエータファン26の外周に沿わせて円形状あるいは多角形状に形成してもよい。
また、ラジエータファン26による外気の吸入の抵抗を小さくするため、第1ケーシング81は薄板状の鋼板により成形加工されている。
【0033】
第2ケーシング82の形状は、ラジエータファン26による外気の吸入を効率的に行ない、また、排塵ファン27の内部から外側への送風を効率的に行なうため、ラジエータファン26の形状に近似した八角形状に形成されている。
また、第2ケーシング82も第1ケーシング81と同様に薄板状の鋼板により成形加工されており、八角形状の第2ケーシング82のそれぞれの対角辺の幅W1がラジエータファン26の外径Dに対し約105%に形成されている。
特に、排塵ファン27による内部から外側への送風を効率的に行なうため、排塵ファン27の排塵羽根27Bの外周部位を覆っている。これにより、排塵ファン27の逆転時に、第2ケーシング82により区画された部位に存在する内気に排塵ファン27の逆転力が効率的に作用し区画された部位に存在する内気を効率的に外側に送風することができる。
なお、第2ケーシング82の形状は、八角形状に制限されることはなく六角形状等の多角形状、ラジエータファン26の外周に沿う円形形状にすることもでき、また、第2ケーシング82を排塵ファン27の全幅を覆うように延伸させることもできる。
【0034】
図8〜図11に示すように、エンジン11のクランク軸31Aの回転をラジエータファン26に伝動するため、エンジン11のクランク軸31Aに軸支されクランク軸31Aと一体となって回転するプーリ31と、プーリ31に対向する位置に設けられた中間軸(図示省略)に軸支され中間軸を中心に回転するプーリ33Cと、プーリ33Cに対向する位置に設けられた回転軸26Aに軸支され回転軸26Aと一体となって回転するプーリ62には、それぞれベルト35,72がベルト掛けされている。
【0035】
エンジン11のクランク軸31Aの回転を排塵ファン27に伝動するため、エンジン11のクランク軸31Aに軸支されクランク軸31Aと一体となって回転するプーリ31と、プーリ31に対向する位置に設けられた中間軸(図示省略)に軸支され中間軸を中心に回転するプーリ33Bと、プーリ33Bに対向する位置に設けられた別の中間軸(図示省略)に軸支され別の中間軸を中心に回転する差動プーリ64と、差動プーリ64に対向する位置に設けられた回転軸27Aに軸支され回転軸27Aと一体となって回転するプーリ63には、それぞれベルト35,71,73がベルト掛けされている。
差動プーリ64は、入力側のプーリ64Aのギヤ64Cと出力側のプーリ64Bのギヤ64Dとが噛合い、例えば、入力側のプーリ64Aが時計方向に回転する場合、出力側のプーリ64Bは反時計方向に回転する。
なお、排塵ファン27に換え、反対方向に傾斜した排塵羽根27Bを有する排塵ファン27Aを用いた場合、差動プーリ64を介在させる必要はなく部品点数を削減することができる。
【0036】
ラジエータファン26を正転し、排塵ファン27を停止する場合、回転軸41に軸支され回転軸41を中心に回転するアーム42を時計方向に回転させ、アーム42の先端部に設けられたテンションローラ37をプーリ33Cとプーリ62にベルト掛けされたベルト72に押圧しベルト72のテンションを強め、エンジン11のクランク軸31Aの回転をプーリ62が軸支された回転軸26Aに伝動する。
一方、回転軸41Aに軸支され回転軸41Aを中心に回転するアーム42Aを時計方向に回転させ、アーム42Aの先端部に設けられたテンションローラ37Aをプーリ64Bとプーリ63にベルト掛けされたベルト73から離間させベルト73のテンションを弱め、エンジン11のクランク軸31Aの回転のプーリ63が軸支された回転軸27Aへの伝動を遮断する。
【0037】
ラジエータファン26を停止し、排塵ファン27を正転する場合、回転軸41に軸支され回転軸41を中心に回転するアーム42を反時計方向に回転させ、アーム42の先端部に設けられたテンションローラ37をプーリ33Cとプーリ62にベルト掛けされたベルト72から離間させベルト72のテンションを弱め、エンジン11のクランク軸31Aの回転のプーリ62が軸支された回転軸26Aへの伝動を遮断する。
一方、回転軸41Aに軸支され回転軸41Aを中心に回転するアーム42Aを反時計方向に回転させ、アーム42Aの先端部に設けられたテンションローラ37Aをプーリ64Bとプーリ63にベルト掛けされたベルト73に押圧しベルト73のテンションを強め、エンジン11のクランク軸31Aの回転をプーリ63が軸支された回転軸27Aに伝動する。
【0038】
アーム42は、クラッチ部材38を構成する電動モータ45で回動される円板46により直動される連動リンク74により時計方向または反時計方向に回転され、アーム42Aは、アーム42を回転させる同一の電動モータ45で回動される円板46により直動される連動リンク74Aにより時計方向または反時計方向に回転される。
なお、電動モータ45は後述するコントローラ84により制御されており、脱穀装置4を起動する脱穀クラッチ(作業クラッチ)104または刈取装置6を起動する刈取クラッチ(作業クラッチ)115が入力されていない場合、操作者が誤って電動モータ45を入力しても電動モータ45は作動しない。また、ラジエータファン26の慣性による正転、排塵ファン27の慣性による逆転を強制的に停止するため、アーム42,42Aにそれぞれブレーキ板47を設けることができる。
【0039】
ラジエータファン26の正転/停止状態の切換えをラジエータファン26が軸支された回転軸26Aのプーリ62と中間軸に軸支されたプーリ33Cとに軸架されているベルト77のテンションで行なうことから、ラジエータファン26の正転/停止状態の切換えを短時間で行なうことができる。
排塵ファン27の逆転/停止状態の切換えを排塵ファン27が軸支された回転軸27Aのプーリ63と別の中間軸に軸支された差動プーリ64Bとに軸架されているベルト73のテンションで行なうことから、排塵ファン27の逆転/停止状態の切換えを短時間で行なうことができる。
また、ラジエータファン26の正転/停止状態を切換えるアーム42および排塵ファン27の逆転/停止状態の切換えるアーム42Aが一つの電動モータ45により行なわれていることから、切換え構造を簡易にでき信頼性が高まる。
【0040】
エンジン11のクランク軸31Aの回転をコンプレッサ66に伝動することもでき、エンジン11のクランク軸31Aのプーリ31と、プーリ31に対向する位置に設けられたプーリ33Bと、プーリ33Bに対向する位置に設けられたコンプレッサのプーリ67には、それぞれベルト35,71が軸架されている。
【0041】
次に、本発明の作業車輌の原動部構造の別の実施形態について説明する。なお、本実施形態と同一部材には同一符号を付し重複した説明は省略する。
図12、図13に示すように、エンジンルーム10の後側にはコンバイン1の駆動源であるエンジン11設けられ、エンジン11の前側にはラジエータ21が設けられている。エンジン11の外側にはインタークーラ12が設けられ、エンジン11の吸気経路であるマニホールド13により接続されている。
【0042】
エンジン11とインタークーラ12との間には、インタークーラ用ファン14が設けられている。エンジン11の駆動時にあっては、エンジン11およびインタークーラ12を冷却するため、インタークーラ用ファン14は正転し、インタークーラ12の外側に設けられたエンジンカバー15の濾過体16を介し、コンバイン1の外側から内側に外気を吸入する。一方、後述する排塵ファン51の逆転時には、エンジンカバー15の濾過体16に付着した藁屑、塵埃等を除去するため、インタークーラ用ファン14は逆転し、コンバイン1の内側から外側に内気を送風する。
図16、図17に示すように、ラジエータ21の内側にはラジエータ21に隣接するラジエータファン26が設けられ、ラジエータファン26はラジエータ21の側面に取付けられた第1ケーシング81により覆われている。
【0043】
第1ケーシング81の形状は、ラジエータファン26による外気の吸入によりラジエータ21を効率的に冷却するため、ラジエータ21の形状に合わせ矩形形状に形成され、ラジエータファン26による外気の吸入の抵抗を小さくするため、第1ケーシング81は薄板状の鋼板により成形加工されている。
【0044】
ラジエータファン26は回転軸26Aの片端部に軸支され回転軸26Aと一体に正転する。回転軸26Aはエンジン11のクランク軸31Aにプーリ31,32,33とベルト35,36とを介し接続されており、回転軸26Aにはクランク軸31Aの回転が伝動される。
【0045】
すなわち、エンジン11のクランク軸31Aの回転をラジエータファン26に伝動するため、エンジン11のクランク軸31Aに軸支されクランク軸31Aと一体となって回転するプーリ31と、プーリ31に対向する位置に設けられた中間軸(図示省略)に軸支され中間軸を中心に回転するプーリ33と、プーリ31に対向する位置に設けられた回転軸26Aに軸支され回転軸26Aと一体となって回転するプーリ32には、それぞれベルト35,36がベルト掛けされている。
【0046】
ラジエータファン26を正転する場合、回転軸41に軸支され回転軸41を中心に回転するアーム42を時計方向に回転させ、アーム42の先端部に設けられたテンションローラ37をプーリ33とプーリ32にベルト掛けされたベルト36に押圧しベルト36のテンションを強める。なお、この際、アーム42の後端部に設けられているブレーキ板47は、プーリ32上のベルト36とは離間している。
【0047】
一方、ラジエータファン26を停止する場合、アーム42を反時計方向に回転させベルト36のテンションを弱め、ラジエータファン26の慣性による正転を強制的に停止するためブレーキ板47は、プーリ32上のベルト36に押圧されている。
【0048】
アーム42は、電動モータ45で回動される円板46により直動されるコイルスプリング43、連結板44により時計方向または反時計方向に回転される。
なお、電動モータ45は後述するコントローラ84により制御されており脱穀クラッチ104または刈取クラッチ115が入力されていない場合、操作者が誤って電動モータ45を入力しても電動モータ45は作動することもなく、ラジエータファン26と排塵ファン51との切換時に発生する駆動音も低減することができる。
【0049】
エンジン11の駆動時にあっては、ラジエータ21を冷却するため、ラジエータファン26は正転し、ラジエータ21の右側に設けられたラジエータカバー22の濾過体24を介し、コンバイン1の外側から内側に外気を吸入する。一方、後述する排塵ファン51の逆転時には、ラジエータファン26は停止する。
【0050】
ラジエータファン26の正転/停止状態の切換えをラジエータファン26が軸支された回転軸26Aのプーリ32と中間軸に軸支されたプーリ33とに軸架されているベルト36のテンションで行なうことから、ラジエータファン26の正転/停止状態の切換えを短時間で行なうことができる。
また、ラジエータファン26の停止時にあっては、アーム42のブレーキ板47がプーリ32上のベルト36に押圧するため、ラジエータファン26の慣性による正転を短時間にすることができる。
さらに、電動モータ45によりアーム42の回転を制御しているため、周波数応答を高くすることができる。
【0051】
図14〜図16に示すように、ラジエータ21とラジエータカバー22との間には、ラジエータファン26より小径な逆転状態と回転停止状態とに切換可能な排塵ファン51が設けられている。排塵ファン51は排塵モータ51Aと排塵羽根51Bとにより構成され、排塵モータ51Aはモータ支持枠52により支持され、ラジエータカバー22の内側に取付けられている。
【0052】
排塵ファン51は、ラジエータカバー22に一体的に取付けられた第3ケーシング(第3シュラウド)83により覆われており、濾過体24の全域に付着した藁屑、塵埃等を効率的に除去するため、第3ケーシング83の右側端部とラジエータカバー22の濾過体24との間には一定以上の隙間が設けている。
【0053】
第3ケーシング83も第1ケーシング81と同様に薄板状の鋼板により成形加工されており、八角形状の第3ケーシング83のそれぞれの対角辺の幅W2が排塵ファン51の有効直径Dに対し105%に形成されている。
特に、排塵ファン51による内部から外側への送風を効率的に行なうため、排塵ファン51の排塵羽根27Bの外周部位が第3ケーシング83に取り囲まれている。これにより、排塵ファン51の逆転時に、第3ケーシング83により区画された部位に存在する内気に排塵ファン51の逆転力が効率的に作用し、区画された部位に存在する内気を効率的に外側に送風することができる。
なお、第3ケーシング83の形状は、八角形状に制限されることはなく六角形状等の多角形状、円形形状にすることもでき、また、第3ケーシング83を排塵ファン51の全幅を覆うように延伸させることもできる。
【0054】
エンジン11の温度が上昇する、すなわち、ラジエータカバー22の濾過体24に多くの藁屑、塵埃等が付着し、ラジエータファン26による外気の吸入効率が低下することを防止するために、ラジエータカバー22の濾過体24に付着した藁屑、塵埃等を除去するため排塵ファン51を逆転し、コンバイン1の内側から外側に内気を送風する。また、排塵ファン51の逆転時には、インタークーラ用ファン14を逆転させ、コンバイン1の内側から外側に内気を送風する。
ラジエータファン26の停止時に、インタークーラ用ファン14と排塵ファン51とが共に逆転するため、エンジンカバー15の濾過体16に付着した藁屑、塵埃等とラジエータカバー22の濾過体24に付着した藁屑、塵埃等とを共に除去できるため、エンジンカバー15の濾過体16の目詰まりが防止され、エンジン11のオーバヒートを防止することができる。
また、排塵ファン51が開閉自在なラジエータカバー22の内側に取付けられており、ラジエータカバー22を開放し容易にラジエータ21の保守・点検を行なうことができる。
【0055】
ラジエータ21と排塵ファン51との間には、油圧機器等を冷却するオイルクーラ57が設けることができ、ラジエータ21に取付けられたファンガイド55によりオイルクーラ57の全周は取り囲まれている。
【0056】
次に、本実施形態の伝動系について説明する。
図18、図19に示すように、コントローラ84の入力側には、操作席9の周辺に設けられた操作レバーで切換えられる脱穀クラッチ104の出力端子と、刈取クラッチ115の出力端子と、電動モータ45の出力端子が接続され、コントローラ84の出力側には、排塵ファン27(電動モータ45)の入力端子と、インタークーラ用ファン14(インタークーラ用モータ14A)の入力端子が接続されている。
【0057】
コントローラ84は、脱穀クラッチ104および電動モータ45の出力端子が共に入力状態または脱穀クラッチ104、刈取クラッチ115および電動モータ45の出力端子が共に入力状態になった場合、排塵ファン27およびインタークーラ用ファン14の入力端子をON状態にし、ラジエータファン26が停止し、排塵ファン27およびインタークーラ用ファン14は逆転を開始する。
【0058】
すなわち、脱穀クラッチ104、刈取クラッチ115が接続されていない場合、操作者が電動モータ45の操作レバーの切換えを行なってもラジエータファン26は正転状態を維持し、排塵ファン27及びインタークーラ用ファン14は逆転を開始することはない。
【0059】
次に、本実施形態の動力系について説明する。
図20に示すように、エンジン11の動力はプーリ31,プーリ103を介し脱穀クラッチ104、ギヤボックス105、扱胴106に伝動され扱胴106を回転させる。また、ベルト109を介しコンベア111、オプションであるスプレッタ110またはセカンドモア112に伝動される。なお、スプレッタ110とセカンドモア112とはいずれか一方を選択し使用する。
【0060】
エンジン11の動力はプーリ31,プーリ33を介しラジエータファン26、コンプレッサ66に伝動され、ラジエータファン26、コンプレッサ66を稼働させる。また、プーリ33に伝動された動力は、中間軸107、ベルト108、プーリ101Aを介しランスミッション101、HST102に伝動され、さらに、中間軸107、プーリ113を介しギヤボックス114に伝動される。
【0061】
ギヤボックス114に伝動された動力は、刈取クラッチ115を介しフィーダチェン116、オーガドラム117、刈刃118、リール119に伝動され、オーガドラム117、刈刃118、リール119を回転させる。また、ギヤボックス114に伝動された動力は、ギヤボックス114に軸支された選別駆動別の軸121を介しプレファン122、塵埃ファン123、1番コンベア124、2番コンベア125、セカンドファン126に伝動され、1番コンベア124、2番コンベア125を稼働させる。
【0062】
1番コンベア124に伝動された動力は、パケット下軸131を介しレベリング軸132に伝動され、2番コンベア125に伝動された動力は、2番コンベア軸127を介し2番縦コンベア128、2番上コンベア129に伝動され、2番縦コンベア128、2番上コンベア129を稼働させる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、農業用作業車輌に適用できるものである。
【符号の説明】
【0064】
1 コンバイン
2 車台(機体)
11 エンジン
12 インタークーラ
14 インタークーラ用ファン
16 濾過体
21 ラジエータ
22 ラジエータカバー
24 濾過体
26 ラジエータファン
26A 回転軸
27 排塵ファン
27A 回転軸
31 プーリ
31A クランク軸
32 プーリ
33 プーリ
35 ベルト
36 ベルト
37 テンションローラ
37A テンションローラ
41 回転軸
41A 回転軸
42 アーム
42A アーム
45 電動モータ
51 排塵ファン
61 ベアリング
62 プーリ
63 プーリ
64 プーリ
71 ベルト
72 ベルト
73 ベルト
81 第1ケーシング(第1シュラウド)
82 第2ケーシング(第2シュラウド)
83 第3ケーシング(第3シュラウド)
84 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(11)の冷却水を冷却するラジエータ(21)を有し、
前記ラジエータ(21)の外側に配置したラジエータカバー(22)の外気濾過用の濾過体(24)と、前記ラジエータ(21)よりも機体内側に配置した正転状態と回転停止状態とに切換可能な外気吸入用のラジエータファン(26)と、該ラジエータファン(26)よりも機体内側に配置した逆転状態と回転停止状態とに切換可能な排塵ファン(27)を設け、
前記ラジエータファン(26)の有効直径よりも排塵ファン(27)の有効直径を小径として該ラジエータファン(26)と排塵ファン(27)とを同一軸心上に設け、
前記ラジエータファン(26)の正転状態と回転停止状態との切換と、排塵ファン(27)の逆転状態と回転停止状態との切換を行なう電動モータ(45)を設け、
前記ラジエータファン(26)の回転停止に対応させて排塵ファン(27)を逆転させる構成としたことを特徴とする作業車輌の原動部構造。
【請求項2】
前記排塵ファン(27)の筒状回転軸(27A)内を貫通してラジエータファン(26)の回転軸(26A)を設け、排塵ファン(27)及びラジエータファン(26)はエンジン(11)の出力により回転する構成としたことを特徴とする請求項1記載の作業車輌の原動部構造。
【請求項3】
前記ラジエータ(21)の内側にラジエータファン(26)の外周を囲う第1シュラウド(81)を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の作業車輌の原動部構造。
【請求項4】
前記第1シュラウド(81)の内側に、内径が該第1シュラウド(81)の内径より小さい第2シュラウド(82)を設け、該第2シュラウド(82)によって前記ラジエータファン(26)の内側部分の外周及び排塵ファン(27)の外周を囲う構成としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の作業車輌の原動部構造。
【請求項5】
作業クラッチ(104,115)が接続された後に前記電動モータ(45)が作動する構成としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の作業車輌の原動部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−56448(P2012−56448A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201712(P2010−201712)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】