説明

便器用手摺

【課題】旋回途中で手摺部材にもたれかかっても、手摺部材が前後に大きく旋回することがない便器用手摺を提供する。
【解決手段】便所の床に固定設置された便器Aの床固定部aの両側部に設置される左右一対のベース部材10と、このベース部材10を相互に連結する連結部材20と、各ベース部材10にそれぞれ立設された起立部材30と、各起立部材30の上端部に、跳ね上げ可能かつ内側に旋回可能に、それぞれ支持された手摺部材40と、各ベース部材10に取り付けられた固定部材50とから構成されている。起立部材30は、ベース部材10に固着された金属製の角パイプからなる下部支柱31と、この下部支柱31にその上端側から差し込まれて、下部支柱31内を上下にスライドする金属製の角パイプからなる上部支柱32とから構成されており、上部支柱32は、手摺部材40を、その旋回途中の中間位置で位置決めする位置決め手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既設の洋風便器(以下、便器という。)に取り付けることで、足腰の弱い老人の用便動作を助けることのできる便器用手摺に関する。
【背景技術】
【0002】
既設の便器に取り付ける便器用手摺としては、例えば、図13に示すようなものがある。この便器用手摺60は、同図に示すように、床に設置された便器Aの左右両側に配設される一対のベースフレーム61、61と、それぞれのベースフレーム61、61の後方側に立設された起立部材62、62と、この起立部材62、62の上端部にそれぞれ支持された手摺部材63、63と、一対の起立部材62、62を、相互に連結する連結部材64と、便器Aの両側部を挟み込む一対の挟持部材65、65とを備えており、手摺部材63、63は、同図に二点鎖線で示すように、後方側に跳ね上げることができるようになっていると共に、同図に一点鎖線で示すように、内側に旋回することができるようになっている。
【0003】
従って、車椅子に座った足腰の弱い老人等が用便を行う際は、便器Aの片側に車椅子を移動し、車椅子に近いほうの手摺部材63を跳ね上げて移動空間を確保した状態で、車椅子から便器Aに乗り移った後、跳ね上げた手摺部材63を下ろして、双方の手摺部材63、63を内側に旋回させた状態で用便を行うことになる。
【0004】
【特許文献1】特開平10−201672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような便器用手摺60では、手摺部材63、63が旋回前の平行な状態でロックされるようになっており、このロックを解除して手摺部材63、63を旋回させるが、旋回させた状態では、ロックすることができないようになっているので、旋回させた状態で、手摺部材63にもたれかかるように無理な力が加わると、手摺部材63が元の状態に旋回して、不測の事態が発生するおそれがある。
【0006】
また、仮に、手摺部材63を旋回させた状態でロックすることができたとしても、用便者が手摺部材63をロック位置まで旋回させずに手摺部材63にもたれかかることが考えられ、その場合は、同様の問題が発生するおそれがある。
【0007】
そこで、この発明の課題は、旋回途中で手摺部材にもたれかかっても、手摺部材が前後に大きく旋回することがない便器用手摺を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1にかかる発明は、洋風便器の左右両側に起立する一対の起立部材を有する本体部と、先端部を後方側に跳ね上げ可能、かつ、先端部を内側に旋回可能に、前記起立部材の上端部に取り付けられた手摺部材と、前記本体部に取り付けられ、前記本体部を前記洋風便器に固定する固定部材とを備えた便器用手摺において、前記手摺部材を、その旋回途中の一または複数の位置で位置決めする位置決め手段を備えていることを特徴とする便器用手摺を提供するものである。なお、ここにいう「旋回途中の一または複数の位置」とは、旋回範囲の両端位置を除く、中間位置における一または複数の位置という意味である。
【0009】
また、請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の便器用手摺において、前記手摺部材を上方側に付勢する付勢手段を設け、前記付勢手段の付勢力に抗して、前記手摺部材を押し下げると、前記位置決め手段による前記手摺部材の位置決めが行われるようにしたのである。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、請求項1に係る発明の便器用手摺は、手摺部材を、その旋回途中の一または複数の位置で位置決めする位置決め手段を備えているので、手摺部材を旋回させた状態で、手摺部材にもたれかかっても、その位置に最も近い位置で位置決めされ、旋回前の元の位置まで大きく動くことがないので、不測の事態が発生し難い。
【0011】
また、請求項2に係る発明の便器用手摺は、手摺部材を上方側に付勢する付勢手段を備えており、付勢手段の付勢力に抗して、手摺部材を押し下げると、位置決め手段による手摺部材の位置決めが行われるようになっているので、手摺部材を円滑に旋回させることができると共に、手摺部材を旋回させた状態で、手摺部材にもたれかかる場合は、通常、手摺部材を押し下げる方向に力が加わるので、その位置に最も近い位置で手摺部材が確実に位置決めされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。図1〜図4に示すように、この便器用手摺1は、便所の床に固定設置された便器Aの床固定部aの両側部に設置される左右一対のベース部材10と、左右一対のベース部材10を相互に連結する連結部材20と、各ベース部材10にそれぞれ立設された左右一対の起立部材30と、各起立部材30の上端部にそれぞれ支持された左右一対の手摺部材40と、各ベース部材10に取り付けられた左右一対の固定部材50とから構成されている。
【0013】
前記ベース部材10は、便所の床に固定設置された便器Aの床固定部aの側部に沿うように配設された、前端側が内側に屈曲した金属製の角パイプからなる内フレーム11と、この内フレーム11の外側に一定間隔を開けた状態で配設された、便器Aの前後方向に延びる短い金属製の角パイプからなる外フレーム12と、内フレーム11と外フレーム12とを相互に連結する金属製の角パイプからなる連結フレーム13とから構成されており、内フレーム11は、便器Aの床固定部aの前端部まで延びだしているが、外フレーム12は、その前端部が便器Aの前後方向の中央部付近に位置している。
【0014】
前記連結部材20は、便器Aにおける床固定部aの前端上部を取り囲むように、略U字状に屈曲させた金属製の角パイプによって形成されており、便器Aにおける床固定部aの側面に沿うように、双方の内フレーム11の後部側から、前方に向かって斜め上方に立ち上がっている。
【0015】
前記起立部材30は、上端側が僅かに内側(便器A側)に傾斜した状態でベース部材10の外フレーム12に固着された金属製の角パイプからなる下部支柱31と、この下部支柱31にその上端側から差し込まれて、下部支柱31内を上下にスライドする金属製の角パイプからなる上部支柱32とから構成されており、この上部支柱32の上端部に手摺部材40が支持されている。
【0016】
また、下部支柱31の前面には複数のボルト挿通孔31aが上下に形成されており、いずれかのボルト挿通孔31aに通したノブボルト30Aを、上部支柱32の下部前面に形成されたねじ孔(図示せず)にねじ込んで締め付けることにより、上部支柱32を所定の高さに段階的に固定することができるようになっている。
【0017】
前記上部支柱32は、図5及び図6に示すように、下部支柱31に固定される固定部33と、この固定部33に対して回転可能に連結される可動部36と、可動部36を固定部33に固定するためのノブボルト32Aとから構成されており、可動部36に手摺部材40が取り付けられるようになっている。
【0018】
前記固定部33は、角パイプによって形成された本体部34と、この本体部34の上端に連設された第1円筒部35とから構成されており、前記可動部36は、固定部33の第1円筒部35に回転可能に外嵌される第2円筒部37と、この第2円筒部37に連設された、手摺部材40を回動可能に取り付ける取付部38とから構成されている。
【0019】
また、可動部36の第2円筒部37には、周方向に延びる長孔37aが形成されており、この長孔37aに通したノブボルト32Aを、固定部33の第1円筒部35に形成されたねじ孔35aにねじ込んで締め付けることにより、長孔37aの範囲内で可動部36を任意の角度に固定することができると共に、ノブボルト32Aを緩めることにより、長孔37aの範囲で、可動部36を回転させることができ、これによって、可動部36に取り付けた手摺部材40を、図8に示すように、平行な状態から内側に所定の角度(45度)まで旋回させることができるようになっている。
【0020】
また、第2円筒部37に形成された長孔37aには、図9に示すように、上縁の両端部及び中間部の3箇所にそれぞれ山形状に切り欠かれた係止部EPが形成されており、手摺部材40が取り付けられた可動部36は、自重で下方側に移動するので、いずれかの係止部EPがノブボルト32Aの軸部32Aaに係止することで、可動部36が位置決めされ、図8に、二点鎖線、一点鎖線及び実線で示すように、手摺部材40が旋回角度0度、22.5度、45度のいずれかの位置に位置決めされるようになっている。従って、手摺部材40を旋回させる場合は、手摺部材40を若干持ち上げて、係止部EPに対するノブボルト32Aの軸部32Aaの係止を解除する必要がある。
【0021】
前記手摺部材40は、後端部が起立部材30の上部支柱32の取付部38に回動可能に支持された金属製の手摺本体に樹脂製のカバーを被せたものであり、図10に示すように、水平状態から跳ね上げて、略垂直状態まで回動させることができるようになっている。
【0022】
前記固定部材50は、図7に示すように、ベース部材10の連結フレーム13の外端部から内側に向かって斜め上方に立ち上がる一対の固定アーム51と、それぞれの固定アーム51にその上端から差し込まれて、上下方向にスライドする可動アーム52と、可動アーム52の先端に取り付けられ、便器Aの湾曲した上部外表面bに当接して押圧する押圧部54とから構成されており、前記固定アーム51及び可動アーム52は、金属製の角パイプによって形成されている。
【0023】
また、固定アーム51の外側面には上下方向に延びる長孔51aが形成されており、この長孔51aに通したノブボルト53を、可動アーム52の下端部に形成されたねじ孔(図示せず)にねじ込んで締め付けることにより、長孔51aの長さの範囲内で可動アーム52を任意の位置に固定することができるようになっている。
【0024】
前記押圧部54は、同図に示すように、可動アーム52の上端に取り付けられたアジャスタ55と、このアジャスタ55に取り付けられた自在アタッチメント56とから構成されている。
【0025】
前記アジャスタ55は、可動アーム52の上端に形成されたネジ孔(図示せず)にねじ込まれる全ネジボルト55aと、この全ネジボルト55aに固定された、全ネジボルト55aを回転させるための回転操作部55bとから構成されており、回転操作部55bを回転させることで、全ネジボルト55aが回転しながら進退し、自在アタッチメント56が、固定アーム51の延びだし方向に進退するようになっている。
【0026】
前記自在アタッチメント56は、自在継手を介してアジャスタ55に取り付けられており、図7に二点鎖線で示すように、便器Aの上部外表面bの湾曲状態に応じて、ある程度の自由度を持ってその接触角度を調整できるようになっている。
【0027】
また、ベース部材10の内フレーム11及び外フレーム12の前後端には、それぞれの下面側に、高さ調整を行うためのアジャスタ11a、12aが取り付けられており、排水等を考慮して便所の床に傾斜が設けられている場合でも、それぞれのアジャスタ11a、12aによって部分的に高さ調整を行うことができるので、設置される便器用手摺1のがたつきをなくすことができる。
【0028】
以上のように、この便器用手摺1は、手摺部材40が旋回角度0度、22.5度、45度のいずれかの位置に位置決めされるようになっているので、便座に着座した足腰の弱い老人が手摺部材40を内側に旋回させた状態で、ロックせずに手摺部材40にもたれかかっても、その位置に最も近い位置で位置決めされ、旋回前の元の位置(旋回角度が0度の位置)まで大きく動くことがないので、足腰の弱い老人に不測の事態が発生し難いという効果が得られる。
【0029】
なお、上述した実施形態では、手摺部材40を旋回させる場合、手摺部材40を若干持ち上げて、係止部EPに対するノブボルト32Aの軸部32Aaの係止を解除する必要があるが、例えば、図11(a)、(b)に示すように、上部支柱32における固定部33の第1円筒部35を有底にしておき、この第1円筒部35内に、可動部36の第2円筒部37を持ち上げて、長孔37aの係止部EPに対するノブボルト32Aaの係止を解除するコイルばね39を収容しておくと、手摺部材40を自由に旋回させることができると共に、便器に着座している老人が手摺部材40にひじをついた状態では、コイルばね39の付勢力に抗して、手摺部材40が押し下げられるので、上述した便器用手摺1と同様に、いずれかの係止部EPがノブボルト32Aの軸部32Aaに係止することで可動部36が位置決めされ、手摺部材40が旋回角度0度、22.5度、45度のいずれかの位置に位置決めされるので、上述した便器用手摺1と同様の安全性を確保しつつ、手摺部材40の旋回操作性を向上させることができる。
【0030】
また、上述した実施形態では、上部支柱32における固定部33の第1円筒部35に可動部36の第2円筒部37を外嵌めするようにしているが、これに限定されるものではなく、例えば、図12に示すように、固定部33の第1円筒部35に可動部36の第2円筒部37を内嵌めするようにしてもよい。ただし、その場合は、固定部33の第1円筒部35に長孔35bを、可動部36の第2円筒部37にねじ孔37bをそれぞれ形成しておく必要があり、しかも、ノブボルト32Aの軸部32Aaが係止する係止部EPを長孔35bの下縁に形成しておく必要がある。
【0031】
また、上述した実施形態では、旋回範囲の両端位置と、1箇所の中間位置で手摺部材40を位置決めしているが、これに限定されるものではなく、旋回範囲の両端位置と、2箇所以上の中間位置で手摺部材40を位置決めするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明にかかる便器用手摺の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】同上の便器用手摺の設置状態を示す斜視図である。
【図3】同上の便器用手摺の設置状態を示す正面図である。
【図4】同上の便器用手摺の設置状態を示す側面図である。
【図5】同上の便器用手摺の上部支柱を示す部分拡大側面図である。
【図6】同上の上部支柱を示す分解斜視図である。
【図7】同上の便器用手摺の固定部材を示す詳細図である。
【図8】同上の便器用手摺の手摺部材を旋回させた状態を示す平面図である。
【図9】同上の上部支柱の第2円筒部に形成された長孔を示す拡大図である。
【図10】(a)は同上の便器用手摺の手摺部材を跳ね上げた状態を示す側面図、(b)は同上の便器用手摺の手摺部材を跳ね上げた状態を示す平面図である。
【図11】(a)は他の実施形態である便器用手摺の上部支柱を示す部分拡大側面図、(b)は同上の上部支柱を示す部分断面図である。
【図12】他の実施形態である便器用手摺の上部支柱を示す部分拡大側面図である。
【図13】従来の便器用手摺の設置状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
1 便器用手摺
10 ベース部材
11 内フレーム
11a アジャスタ
12 外フレーム
12a アジャスタ
13 連結フレーム
20 連結部材
30 起立部材
30A ノブボルト
31 下部支柱
31a ボルト挿通孔
32 上部支柱
32A ノブボルト
32Aa 軸部(位置決め手段)
33 固定部
34 本体部
35 第1円筒部
35a、37b ねじ孔
36 可動部
37 第2円筒部
37a、35b 長孔
38 取付部
EP 係止部(位置決め手段)
39 コイルばね
40 手摺部材
50 固定部材
51 固定アーム
51a 長孔
52 可動アーム
53 ノブボルト
54 押圧部
55 アジャスタ
55a 全ネジボルト
55b 回転操作部
56 自在アタッチメント
A 便器
a 床固定部
b 上部外表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋風便器の左右両側に起立する一対の起立部材を有する本体部と、
先端部を後方側に跳ね上げ可能、かつ、先端部を内側に旋回可能に、前記起立部材の上端部に取り付けられた手摺部材と、
前記本体部に取り付けられ、前記本体部を前記洋風便器に固定する固定部材と
を備えた便器用手摺において、
前記手摺部材を、その旋回途中の一または複数の位置で位置決めする位置決め手段を備えていることを特徴とする便器用手摺。
【請求項2】
前記手摺部材を上方側に付勢する付勢手段を備え、
前記付勢手段の付勢力に抗して、前記手摺部材を押し下げると、前記位置決め手段による前記手摺部材の位置決めが行われるようになっている請求項1に記載の便器用手摺。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−297465(P2009−297465A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158549(P2008−158549)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(597015232)協立工業株式会社 (6)
【出願人】(597015243)池島工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】