説明

保存剤

【課題】水系組成物に優れた保存性を付与することができ、人体(眼)に対する傷害性が極めて低く、コンタクトレンズに悪影響を及ぼすことのない保存剤を提供する。
【解決手段】(A)チオ硫酸塩、(B)エデト酸及び/又はその塩及び(C)ホウ酸及び/又はその塩を有効成分とする、保存剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系組成物における細菌の増殖を抑制し、該水系組成物の品質を保持し得る、人体にも安全な保存剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の水性組成物等には、微生物汚染等による製品の腐敗を防止する目的で、通常、防腐剤が配合されている。特に点眼薬等の眼科用組成物は、その多くが開封後に何度も使用されることが前提とされており、一旦開封した点眼薬は、空気中や接触した皮膚等からの微生物汚染が起こりやすい。従って、点眼薬には防腐剤が配合されるのが一般的である。例外的に、防腐剤が配合されてない点眼薬も存在するが、それらは、開封後一回で使い切るタイプ(ユニットドーズ)の点眼薬に限られている。
【0003】
防腐剤として汎用されている塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロブタノール、パラベン類等は、角膜細胞等に対する傷害性が指摘されているほか、コンタクトレンズ装用中に点眼すると、コンタクトレンズに吸着してコンタクトレンズを変質させる恐れがある。また、変質したコンタクトレンズを装着することによる眼への悪影響も指摘されている。従って、コンタクトレンズ装用中は、塩化ベンザルコニウム等の防腐剤を含む点眼薬を使用することは、通常禁止されている。
【0004】
コンタクトレンズに吸着せず、安定性も高い防腐剤としては、ソルビン酸類が汎用されているが、防腐効果が弱く、分解しやすいといった難点がある。
【0005】
また、上述の毒性の高い防腐剤の代替成分として、トロメタモール(例えば、特許文献1を参照)、ケトフェチン(例えば、特許文献2を参照)、アルコール誘導体(例えば、特許文献3を参照)、過酸化水素(例えば、特許文献4を参照)、塩基性アミノ酸ポリマー(例えば、特許文献5を参照)等を用いる方法が報告されている。しかしながら、充分な防腐効力を有し、人体とコンタクトレンズに対して安全な組成物は、まだ得られていなかった。
【特許文献1】特開2004−43516
【特許文献2】特開2004−203867
【特許文献3】特開2005−187354
【特許文献4】特開平2−96531
【特許文献5】特開2002−20320
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、医薬品等の水系組成物における微生物汚染等を防止し得る、安全な保存剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、(A)チオ硫酸塩、(B)エデト酸及び/又はその塩、ならびに(C)ホウ酸及び/又はその塩を配合することによって、水系組成物において優れた保存安定性を発揮することを見出した。チオ硫酸塩は、不安定な成分の安定性を向上させる目的で抗酸化剤等として広く使用されるほか、ヨウ素の脱色等にも使用される安全性の高い成分の1つであるが、チオ硫酸塩を防腐作用を目的として用いることは今まで知られていなかった。本発明は、このような知見に基づき、さらに研究を重ねることによって完成されたものである。
【0008】
本発明は、以下の保存剤、眼科用組成物及び細菌増殖抑制方法を提供する。
項1.(A)チオ硫酸塩、(B)エデト酸及び/又はその塩、ならびに(C)ホウ酸及び/又はその塩を含有する、保存剤。
項2.チオ硫酸塩が、チオ硫酸ナトリウムである、項1に記載の保存剤。
項3.エデト酸塩が、エデト酸のナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の保存剤。
項4.エデト酸塩が、エデト酸二ナトリウム又はエデト酸カルシウムである、項1に記載の保存剤。
項5.ホウ酸塩が、ホウ酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩及び亜鉛塩からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の保存剤。
項6.ホウ酸塩が、ホウ酸ナトリウムである項1に記載の保存剤。
項7.チオ硫酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム及びホウ酸を含有する保存剤。
項8.項1〜7のいずれかに記載の保存剤を含有する、水系組成物。
項9.項1〜7のいずれかに記載の保存剤を含有する、眼科用組成物。
項10.(A)チオ硫酸ナトリウム、(B)エデト酸及び/又はその塩、ならびに(C)ホウ酸及び/又はその塩を水系組成物に配合することを特徴とする、細菌増殖抑制方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の保存剤は、微生物汚染等を防止することによって水系組成物に優れた保存性を付与し得るものであり、且つ、人体(特に眼)に対する傷害性がない、安全なものである。
【0010】
また、本発明の保存剤によれば、防腐効果は高くても種々の問題があった塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等の従来の化合物を配合することなく、組成物の品質を保つことが可能である。従って、この様な本発明の保存剤を配合した眼科用組成物は、微生物汚染等による組成物の腐敗が抑制され、且つ、人体(眼)に対して安全性が高く、コンタクトレンズに対する吸着といった不都合を生じさせない。
【0011】
さらに、本発明における有効成分(A)〜(C)を配合することにより、様々な組成物の保存安定性を高めることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の『保存剤』は、水系組成物における細菌の増殖を抑制し、該水系組成物の品質を保持することができる。本発明において水系組成物とは、微生物の増殖に必須である水を含む組成物であって、溶液、懸濁液、ペースト状、半ペースト状の医薬品、医薬部外品、食品等を指す。好ましくは、医薬品であり、特に眼科用組成物を指す。以下、本発明において使用される各成分について説明する。
【0013】
(1)保存剤
本発明の保存剤は、(A)チオ硫酸塩、(B)エデト酸及び/又はその塩、ならびに(C)ホウ酸及び/又はその塩を有効成分とする。
(A)チオ硫酸塩
本発明において使用されるチオ硫酸塩としては、薬学的に許容される塩であれば特に限定されないが、例えば、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム等が挙げられる。本発明において使用されるチオ硫酸塩は、無水塩の形態であってもよく、また、例えば五水和物といった水和物の形態で用いてもよい。これらの塩を1種単独で使用することもでき、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明においては、チオ硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0014】
本発明の保存剤には、上記チオ硫酸塩を、総量として0.4〜98重量%程度、好ましくは1.5〜94重量%、より好ましくは1.5〜90重量%程度、さらに好ましくは5〜66重量%程度配合することが望ましい。
【0015】
(B)エデト酸及び/又はその塩
本発明においては、エデト酸(エチレンジアミン四酢酸)を有効成分の1つとして使用する。エデト酸は、塩の状態であってもよく、エデト酸とエデト酸塩の混合物であってもよい。また、エデト酸塩は、無水物の形態でもよく、水和物の形態であってもよい。エデト酸塩としては、薬学的に許容される塩であれば特に限定されず、例えば、エデト酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等を使用することができる。このような塩としては、例えば、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸カルシウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸二カリウム、エデト酸三カリウム、これらの水和物等が挙げられる。これらの塩を1種単独で使用することもでき、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明においては、エデト酸のナトリウム塩(より好ましくはエデト酸二ナトリウム)、エデト酸カルシウムであることが好ましい。
【0016】
本発明の保存剤には、上記エデト酸及び/又はその塩を、総量として0.01〜80重量%程度、好ましくは0.08〜55重量%程度、より好ましくは0.3〜15重量%程度配合することが望ましい。
【0017】
(C)ホウ酸及び/又はその塩
本発明においては、ホウ酸を有効成分の1つとして使用する。ホウ酸は、塩の状態であってもよく、ホウ酸とホウ酸塩の混合物でもよい。また、ホウ酸塩は、無水物の形態でもよく、水和物の形態であってもよい。本発明において使用されるホウ酸塩としては、薬学的に許容される塩であれば特に限定されず、例えば、ホウ酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩等を使用することができる。このような塩としては、例えば、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸亜鉛、これらの水和物等が挙げられる。これらの塩を1種単独で使用することもでき、2種以上を組み合わせてもよい。本発明においては、ホウ酸、ホウ砂(ホウ酸ナトリウム)であることが好ましい。
【0018】
本発明には、上記ホウ酸及び/又はその塩を、総量として1.8〜99.5重量%程度、好ましくは6〜98重量%程度、より好ましくは30〜95重量%程度配合することが望ましい。
【0019】
上記有効成分(A)〜(C)の本発明における好ましい組み合わせは、例えば、(A)チオ硫酸ナトリウム、(B)エデト酸のナトリウム塩(より好ましくはエデト酸二ナトリウム)及び(C)ホウ酸である。
【0020】
本発明の保存剤において、(A)成分を1重量部とした場合に、(B)成分を0.0002〜25重量部程度、好ましくは0.0017〜10重量部程度、より好ましくは0.005〜2重量部;(C)成分を0.01〜200重量部程度、好ましくは0.05〜60重量部程度、より好ましくは0.1〜20重量部、さらに好ましくは0.1〜15重量部になるように上記成分(A)〜(C)を配合することが望ましい。
【0021】
本発明の保存剤は、pH5〜8程度、好ましくは6〜7程度のもとで有効に作用し得るものである。
【0022】
本発明の保存剤を、水系組成物に対して、0.1重量%程度以上、好ましくは0.2重量%程度以上配合することにより、水系組成物における細菌の増殖を抑制することができる。
【0023】
また、本発明の保存剤には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記有効成分(A)〜(C)の他に、従来公知の活性成分、等張化剤、無機塩類、緩衝剤、増粘剤、糖類、界面活性剤、可溶化剤、洗浄成分、キレート剤、抗酸化剤、清涼化剤、香料、局所麻酔剤、防腐剤、pH調整剤等を添加してもよい。
【0024】
他の活性成分としては、例えば、エピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸テトラヒドロゾリン、硝酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硝酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、dl−塩酸メチルエフェドリン等の充血除去剤;メチル硫酸ネオスチグミン、ε−アミノカプロン酸、アラントイン、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、塩化リゾチーム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸アンモニウム、グリチルレチン酸、サリチル酸メチル、トラネキサム酸、アズレンスルホン酸ナトリウム、クロモグリク酸ナトリウム等の消炎・収斂剤;塩酸イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン、塩酸イソチペンジル、マレイン酸クロルフェニラミン等の抗ヒスタミン剤;フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、塩酸ピリドキシン、シアノコバラミン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム等の水溶性ビタミン類;ビタミンA類(例えば酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール)、ビタミンE類(酢酸トコフェロール(例えば、酢酸d−α−トコフェロール)等の脂溶性ビタミン類;L−アスパラギン酸カリウム、L−アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム等のアミノ酸類;スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、スルフイソキサゾール、スルフイソミジンナトリウム、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオール等のサルファ剤;塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、乾燥炭酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等の無機塩類等が挙げられる。
【0025】
上記の活性成分は、その1種を単独で併用してもよく、2種以上を組み合わせて併用してもよい。
【0026】
等張化剤として、グリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコール、糖類(ブトウ糖,ソルビトールなど)等が挙げられる。
【0027】
無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、チオ硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0028】
緩衝剤として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤等が挙げられる。
【0029】
増粘剤として、アラビアゴム、カラヤガム、キサンタンガム、カゼイン、寒天、アルギン酸、α−シクロデキストリン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ゼラチン、コラーゲン、ペクチン、デンプン、キチン及びその誘導体、キトサン及びその誘導体、エラスチン、ヘパリン、ヘパリノイド、ヘパリン硫酸、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の多糖類又はその誘導体、セラミド、マクロゴール、グリセリン、ポピドン、ポリビニルメタアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0030】
糖類として、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、リボース、リブロース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボース、マルトース、トレハロース、スクロース、セロビオース、ラクトース、プルラン、ラクツロース、ラフィノース、マルチトール等及びこれらの薬学的に許容される塩類が挙げられる。
【0031】
界面活性剤として、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の高級脂肪酸エステル、ポリソルベート80やポリオキシエチレンソルビンモノオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーなどの非イオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0032】
キレート剤として、エデト酸(エチレンジアミン四酢酸,EDTA)、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)酒石酸、リン酸類(ポリリン酸、ヘキサメタリン酸、メタリン酸)、コハク酸などが挙げられる。
【0033】
抗酸化剤として、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、酢酸トコフェロール、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩等が挙げられる。
【0034】
香料(清涼化剤)としては、メントール、カンフル、ボルネオール、ユーカリ油、ペパーミント油、ベルガモット油、ゲラニオール等が挙げられる。
【0035】
局所麻酔剤としては、クロロブタノール等が挙げられる。
【0036】
防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、アクリノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニド、アルキルポリアミノエチルグリシン、グルコン酸クロルヘキシジン、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、クロロブタノール、イソプロパノール、エタノール、チメロサール、リゾチーム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、過酸化水素、塩化ポリドロニウム、塩酸ヘキサニド等が挙げられる。
【0037】
pH調整剤としては、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸など)、有機酸(乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、プロピオン酸、酢酸、アスパラギン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、グルタミン酸、アミノエチルスルホン酸など)、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム、無機塩基(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなど)等が挙げられる。
【0038】
本発明の保存剤によれば、前記防腐剤を配合しなくても水系組成物の腐敗を防止することができるが、従来から汎用されている防腐剤と組み合わせて本発明の保存剤を使用する態様を妨げるものではない。本発明の保存剤を従来汎用されてきた防腐剤と組み合わせて使用することにより、防腐剤の配合量を減少させることができ、角膜への傷害性、コンタクトレンズへの吸着といった問題点が解消又は低減されやすくなると期待される。従来汎用されてきた防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸ポリヘキサニド、塩化ポリドロニウム、クロロブタノール、パラベン類等が挙げられる。本発明の保存剤に防腐剤を配合する場合の防腐剤の配合量は、0〜0.05重量%程度、好ましくは0〜0.01重量%程度、より好ましくは0〜0.005重量%程度である。
【0039】
(2)眼科用組成物
上記(1)に記載する本発明の保存剤を眼科用組成物に配合することにより、該眼科用組成物の使用過程における微生物汚染等による腐敗を防止することができる。さらに、本発明の保存剤は、コンタクトレンズに吸着することがなく、コンタクトレンズの変質を引き起こすこともないため、コンタクトレンズ用の眼科用組成物にも適用することができる。ここで、コンタクトレンズ用の眼科用組成物とは、コンタクトレンズ装着時に使用される点眼剤を含み、後述のコンタクトレンズ用剤等も含むものである。
【0040】
従って、本発明は、前述の保存剤を含む眼科用組成物をも提供するものである。本発明の眼科用組成物における保存剤の配合量は、本発明の効果を奏する範囲において適宜調整され得るが、例えば、0.1〜6重量%程度、好ましくは0.1〜4重量%程度、より好ましくは0.2〜3重量%程度以である。前記範囲内であれば、保存安定性に優れ、且つ浸透圧が高くなりすぎず、眼科用組成物等に適用した場合でも眼刺激を引き起こすことがないため好ましい。
【0041】
本発明の眼科用組成物のpHは、5〜8程度、好ましくは6〜7程度に設定することが望ましく、浸透圧比は、1付近に設定することが望ましい。
【0042】
本発明の眼科用組成物としては、水性点眼剤、非水性点眼剤、懸濁性点眼剤、乳濁性点眼剤、ソフトコンタクトレンズ、ハードコンタクトレンズ等を装用した状態でも点眼が可能な点眼剤等の点眼剤;眼軟膏剤;洗眼剤;コンタクトレンズ装着液、洗浄液、保存液、殺菌液等のコンタクトレンズ用剤等が挙げられる。
【0043】
(3)細菌増殖抑制方法
上記成分(A)、(B)及び(C)を前述の水系組成物に配合することによって、該水系組成物の保存性を高めることができる。成分(A)〜(C)の配合量及び配合比率は、上記(1)に記載される範囲に従って、適宜調整され得る。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を挙げてより詳細に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(1)試験例1:保存効力試験
下記表1の処方に従い、各成分を精製水に溶解させて全量を100mLとして試験液を調製し、これを滅菌濾過した。これらの試験液について、第14改正日本薬局方の保存効力試験方法を参考に、保存効力を評価した。具体的には、Escherichia coli(表中E.C.)及びPseudomonas aeruginosa(表中P.A.)の菌液をそれぞれ調製し、各菌液を、10〜10CFU/mLになるように試験液に接種し、25℃で保管した。その後、7、14、21及び28日目に寒天平板混釈法によって生菌数を測定し、細菌増殖抑制効果の有無を判定した。結果を表1の判定の欄に示す。
判定基準は以下の通りである。
<判定基準>
○:14日までに生菌数が接種した菌数の0.1%以下になった
×:14日までの生菌数が接種した菌数の0.1%より多い
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示されるように、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム及びホウ酸を組み合わせることによって、優れた細菌増殖抑制効果が示された。
【0047】
(2)試験例2:チオ硫酸ナトリウムの配合量の検証
下記表2の処方に従って、試験例1と同様の方法により試験液を調製した後、保存効力を評価した。ただし、菌液はEscherichia coliのみを用いた。結果を表2の判定の欄に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2より、チオ硫酸ナトリウムを0.05重量%以上配合し、ホウ酸、エデト酸ナトリウムを組み合わせることによって、より高い細菌増殖抑制効果が得られることが示された。
【0050】
(3)試験例3:pHの検証
眼科用組成物の一般的なpH範囲(pH5〜8)における保存効力を評価した。下記表3の処方に従って、試験例1と同様の方法に従って試験液を調製した後、保存効力を評価した。ただし、菌液はEscherichia coliのみを用いた。結果を表3の判定の欄に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
表3に示されるように、眼科用組成物として一般的なpHの範囲において有効な保存効力が確認された。
【0053】
(4)試験例4:他の成分との効果の比較
本発明の保存剤と、防腐剤として配合されることが公知の化合物について保存効力を評価した。下記表4の処方に従って、試験例1と同様の方法に従って試験液を調製した後、保存効力を評価した。ただし、菌液として、Escherichia coli(表中EC)及びPseudomonas aeruginosa(表中PA)の他に、試験例1に示される方法で調製されたAspergillus niger(表中AN)を用いた。結果を表4の判定の欄に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
表4に示されるように、防腐剤として配合されることが公知の化合物に比べ、本発明の保存剤は、3種全ての菌に対して優れた保存効力を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)チオ硫酸塩、(B)エデト酸及び/又はその塩、ならびに(C)ホウ酸及び/又はその塩を含有する、保存剤。
【請求項2】
チオ硫酸塩が、チオ硫酸ナトリウムである、請求項1に記載の保存剤。
【請求項3】
エデト酸塩が、エデト酸のナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の保存剤。
【請求項4】
ホウ酸塩が、ホウ酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩及び亜鉛塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の保存剤。
【請求項5】
チオ硫酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム及びホウ酸を含有する保存剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の保存剤を含有する、眼科用組成物。
【請求項7】
(A)チオ硫酸ナトリウム、(B)エデト酸及び/又はその塩、ならびに(C)ホウ酸及び/又はその塩を水系組成物に配合することを特徴とする、細菌増殖抑制方法。

【公開番号】特開2007−269673(P2007−269673A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96132(P2006−96132)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】