説明

保持治具

【課題】粘着保持された薄板状物を容易に取り外すことのできる保持治具の提供。
【解決手段】粘着部14を含む粘着領域11、及び、粘着領域11を囲繞する周縁粘着不能部12を有する粘着性シート5と、粘着性シート5を載置すると共に粘着部14が没入する空隙部23を有する基体6とを備え、粘着領域11及び周縁粘着不能部12の上に配置された薄板状物9と空隙部23に没入した粘着部14とで形成される創成空間25が開放空間になることを特徴とする保持治具1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、保持治具に関し、さらに詳しくは、粘着保持された薄板状物を容易に取り外すことのできる保持治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンウェハ、フレキシブルプリント基板、大画面表示装置用のガラス板等の薄板状物等は、特に大判であると、また、より一層薄肉化されていると、破損しやすいので、一般に、これらの薄板状物等を保持治具等に固定して、例えば、研磨工程、パターン形成工程、ダイシング工程、表面に各種の機能性物品を実装する実装工程、薄板状物同士の貼り合わせ工程等の製造工程、製造工程間の搬送及び保存等が行われている。
【0003】
そして、薄板状物等は、製造工程中、製造工程間の搬送中、及び/又は、保存中等には保持治具に保持される一方で、製造工程終了後、搬送後、及び/又は、保存後等には保持治具から取り外される。したがって、保持治具には、薄板状物等を確実に保持する特性と、必要時には薄板状物等を容易に取り外すことができる特性とが要求される。
【0004】
このような保持治具として、例えば、特許文献1には、「物品(14)を保持するための保持用治具であって、治具ベース基板(12)と、この治具ベース基板の片面に設けられ、前記物品が着脱自在に粘着される粘着剤層(13)とを具備し、前記治具ベース基板の前記粘着剤層が設けられた面である粘着剤設置面(12a)の複数箇所には、前記治具ベース基板に形成された貫通孔(12c)の開口部(12d)が開口され、前記粘着剤層は、前記治具ベース基板の粘着剤設置面に沿って延在し、前記治具ベース基板の前記粘着剤設置面における前記貫通孔の前記開口部を覆うシート状に形成され、前記治具ベース基板の前記貫通孔が、前記粘着剤層における前記治具ベース基板の前記貫通孔の前記開口部を覆う部分を変形させるための通気路部として機能することを特徴とする保持用治具(11)」が記載されている。特許文献1において、「治具ベース基板12は平坦な粘着剤設置面12aを有し、粘着剤層13は平坦な物品粘着面13aを有」しており(0023、図1等)、「粘着剤層に付着されている物品と粘着剤層との接着面積を縮小して、治具からの物品の剥離に要する力を低下させる」こと(0006欄等)によって、保持用治具から物品を取り外すことができると、記載されている。
【0005】
特許文献1の保持用治具は、特許文献1の全記載を考慮すると、粘着剤層13は平坦でかつ全面が物品粘着面13aである粘着剤層13を備えていると理解されるから、「粘着剤層に付着されている物品と粘着剤層との接着面積を縮小」しても、物品を破損させることなく容易に取り外すことができない場合がある。この問題点は、物品が大判化され、又は、より一層薄肉化されているときに特に顕著に発生する。
【0006】
別の保持治具として、例えば、特許文献2には、「上面に少なくとも一つの凸状体を有するベース部と、前記凸状体と隔ててその外側を囲う周壁部と、前記凸状体の頂部及び前記周壁部の頂部と下面で密着固定し、かつ上面に粘着部を有する粘着シート部材と、該粘着シート部材と前記ベース部及び前記周壁部によって形成される空隙部に連通する通気孔を備えた部品保持具であって、前記凸状体の頂部と対応させた前記粘着シート部材の上面部位には、前記粘着部よりも弱い粘着力を有する弱粘着部又は非粘着部を形成されており、前記空隙部内の気体を前記通気孔を介して外部から吸引することで、前記粘着シート部材の前記空隙部に対応する部位が前記ベース部の下面側に弾性変形するようにしたことを特徴とする部品保持具」が記載されている。
【0007】
この部品保持具は、粘着部と弱粘着部又は非粘着部とを有する粘着シート部材を用いて、前記粘着シート部材の前記空隙部に対応する部位を前記ベース部の下面側に弾性変形させることで部品を取り外すことができるので、特許文献1の保持用治具に比べれば、大判化され、又は、より一層薄肉化された部品であっても部品を損傷させることなく容易に取り外すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−105226号公報
【特許文献2】特開2005−327758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これまで、薄板状物の製造工程、製造工程間の搬送及び保存等において、薄板状物の損傷等を防止するため、薄板状物は自身の寸法よりも大きな寸法を有する粘着性シートすなわち保持治具で保持されることが一般的であった。
【0010】
ところが、近年、薄板状物とほぼ同寸又は薄板状物よりも小さな寸法の粘着性シートすなわち保持治具で薄板状物を保持する場合がある。このような薄板状物の保持は、例えば、取扱性を向上させるために保持治具が小型軽量化されるとき、また、薄板状物、特により一層薄肉化された薄板状物を例えば周壁部で支持してより一層安定な保持状態を確保するとき、さらに、製造効率等を改善するために薄板状物が大判化されるとき等に、採用される。
【0011】
このように、小型の保持治具で薄板状物を保持すると、保持した薄板状物を容易に取り外せないことがあった。特に、特許文献1の保持用治具では薄板状物を破損させることなく取り外すことができない場合がある。なお、特許文献2の部品保持具であっても、薄板状物が破損しない程度ではあるがある程度の力を薄板状物に作用させないと、粘着シート部材を容易に取り外せないことがあり、より一層容易に薄板状物を保持治具から取り外すことが望まれていた。
【0012】
この発明は、粘着保持された薄板状物を容易に取り外すことのできる保持治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の発明者は、粘着部を有する粘着性シートと粘着部が没入する空隙部を有する基体とを備え、粘着部を空隙部に没入させることで粘着性シートに粘着保持された薄板状物を取り外す保持治具において、特に、粘着保持する薄板状物が粘着性シートすなわち保持治具とほぼ同寸又は大きな寸法を有している場合において、粘着部を空隙部に没入させて薄板状物から引き離しているにもかかわらず薄板状物が粘着性シートに保持されて、薄板状物を容易に取り外せないという課題があることを、新たに見出した。
【0014】
この発明の発明者は、このような新たな課題について種々検討したところ、粘着部を空隙部に没入させたときに薄板状物と没入した粘着部との間に周辺圧力よりも低圧の空間が新たに創成されることに前記課題の原因があるのではないかと推測し、この推測に基づいて、薄板状物と没入した粘着部との間に形成される空間を開放空間にすることで前記新たな課題を解決できることを、見出した。
【0015】
すなわち、前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、粘着部を含む粘着領域及び前記粘着領域を囲繞する周縁粘着不能部を有する粘着性シートと、前記粘着性シートを載置すると共に前記粘着部が没入する空隙部を有する基体とを備え、前記粘着領域及び前記周縁粘着不能部の上に薄板状物が載置されたときに前記薄板状物と前記空隙部に没入した前記粘着部とで形成される創成空間が開放空間になることを特徴とする保持治具であり、
請求項2は、前記粘着領域は内部粘着不能部を含むことを特徴とする請求項1に記載の保持治具であり、
請求項3は、前記粘着領域は互いに離間して配置された複数の内部粘着不能部と、前記内部粘着不能部の間に配置された前記粘着部とを含んでいることを特徴とする請求項2に記載の保持治具であり、
請求項4は、前記基体は前記内部粘着不能部を支持する支持体を有していることを特徴とする請求項2又は3に記載の保持治具であり、
請求項5は、前記基体は前記支持体を囲繞すると共に前記周縁粘着不能部を支持する囲繞部を有していることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の保持治具であり、
請求項6は、前記支持体の少なくとも1つは前記囲繞部の高さよりも高く形成されていることを特徴とする請求項5に記載の保持治具であり、
請求項7は、前記囲繞部の高さよりも高く形成されている前記支持体は複数の前記内部粘着不能部のうち前記周縁粘着不能部側に配置された前記内部粘着不能部を支持する支持体を含むことを特徴とする請求項6に記載の保持治具であり、
請求項8は、前記囲繞部の高さよりも高く形成されている前記支持体は前記内部粘着不能部を支持するすべての支持体であることを特徴とする請求項6又は7に記載の保持治具であり、
請求項9は、前記囲繞部よりも高く形成されている前記支持体は前記囲繞部の高さとの差が2mm以下であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の保持治具であり、
請求項10は、前記基体は前記空隙部に連通する通気孔を有していることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の保持治具である。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係る保持治具は、粘着部を含む粘着領域及びこの粘着領域を囲繞する周縁粘着不能部を有する粘着性シートと前記粘着部が没入する空隙部を有する基体とを備え、粘着性シート上に載置されたときの薄板状物と空隙部に没入した粘着部とで形成される創成空間が開放空間になるように形成されているから、薄板状物を取り外すときに、薄板状物は開放された創成空間によって粘着性シートに吸引されることなく単に粘着性シート上に載置された状態になっている。したがって、この発明によれば、粘着保持された薄板状物を容易に取り外すことのできる保持治具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、この発明に係る保持治具の一例である保持治具における粘着性シートを示す平面図である。
【図2】図2は、この発明に係る保持治具の一例である保持治具における基体を示す平面図である。
【図3】図3は、この発明に係る保持治具の一例である保持治具に薄板状物を粘着保持した状態の縦断面を示す概略断面図であり、図3(a)はこの発明に係る保持治具の一例である保持治具に薄板状物を粘着保持した状態を示す縦断面図であり、図3(b)はこの発明に係る保持治具の一例である保持治具において粘着部を没入させた状態を示す縦断面図であり、図3(c)はこの発明に係る保持治具の一例である保持治具において粘着部を没入させた状態を示す一部拡大縦断面図である。
【図4】図4は、この発明に係る保持治具の別の一例である保持治具を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明に係る保持治具について説明する。この発明に係る保持治具は、粘着性シートの表面に被粘着物を粘着保持して、被粘着物を製造し、搬送し、及び/又は、保存する際等に使用される。保持治具に保持される被粘着物は、薄板状物等の破損又は損傷しやすいもの等であるのが有利である。薄板状物としては、例えば、シリコンウェハ、フレキシブルプリント基板、大画面表示装置用のガラス板等が挙げられる。なお、この発明において、被粘着物には半完成品及び完成品等も含まれる。
【0019】
この発明に係る保持治具は、粘着保持する薄板状物が粘着性シートすなわち保持治具とほぼ同寸又は大きな寸法を有している場合であっても、換言すると、薄板状物が粘着性シートの少なくとも粘着領域全面、特に粘着性シートの周縁部近傍までの領域を覆うほどの寸法を有していても、粘着保持された薄板状物を容易に取り外すことができるから、この発明において、被粘着物は、粘着性シートの粘着領域よりも大きな寸法を有しているのがよく、さらに粘着性シートすなわち保持治具とほぼ同寸であってもよく粘着性シートの寸法よりも大きな寸法を有していてもよい。このように、この発明によれば、従来取り外しにくかった、保持治具と同寸以上の薄板状物を好適に用いることができる。したがって、被粘着物は1つの保持治具で粘着保持されることもできるし、複数の保持治具で粘着保持されることもできる。
【0020】
この発明に係る保持治具は、粘着性シートと基体とを備え、粘着領域及び周縁粘着不能部上に薄板状物が載置されたときにこの薄板状物と空隙部に没入した粘着部とで形成される創成空間が開放空間になるように構成されている。
【0021】
粘着性シートは、粘着部を含む粘着領域と、この粘着領域を囲繞する周縁粘着不能部とを有している。
【0022】
粘着領域は、少なくとも表面が粘着性である粘着部(以下、内部粘着部と称することがある。)を含んでおり、内部粘着部は薄板状物の質量及び粘着部の粘着力等を考慮して後述する基体すなわち支持体及び空隙部に適合するように配置すなわち形成される。通常、内部粘着部は基体の空隙部と同一の配置態様となるように配置される。
【0023】
この発明おいて、粘着領域は、内部粘着部に加えて、少なくとも表面が実質的に非粘着性である内部粘着不能部を好ましくは含んでいる。このとき、内部粘着部及び内部粘着不能部は薄板状物の質量及び粘着部の粘着力等を考慮して基体すなわち支持体及び空隙部に適合するように配置すなわち形成される。すなわち、この粘着領域における内部粘着部及び内部粘着不能部は基体の空隙部及び支持体と同一の配置態様となるように配置される。
【0024】
この発明において、粘着性シート、例えば粘着領域及び周縁粘着不能部上に配置された薄板状物と後述する基体の空隙部に没入した内部粘着部とで形成される創成空間が開放空間になるためには、粘着性シートは、粘着領域の輪郭線の少なくとも1つに内部粘着部が接しているすなわち一致しているのが好ましく、換言すると、粘着領域の輪郭線全体に内部粘着不能部が接していないのが好ましい。このように粘着性シートが形成されていると、粘着領域の輪郭線に接する内部粘着層が没入して創成空間の開口が粘着領域の輪郭線近傍に形成される。この発明において、薄板状物を早期にかつ容易に取り外すことができる点で、粘着領域の複数の輪郭線に内部粘着部が接しているのがより一層好ましく、粘着領域のすべての輪郭線に内部粘着部が接しているのが特に好ましい。
【0025】
このような粘着性シートにおける粘着領域は、好ましくは、例えば、互いに離間して所定のパターンで配置された複数の内部粘着不能部と、隣接配置された内部粘着不能部の間に配置された内部粘着部とを含んでいる。このような内部粘着部及び内部粘着不能部の配置は、内部粘着部を海とし、海の中に独立に散在する複数の内部粘着不能部を島とする海島構造の配列パターンと称することができる。複数の内部粘着不能部が内部粘着部に配置される好ましいパターンとして、例えば、複数の内部粘着不能部が縦横に配列された格子状又は碁盤目状パターン、複数の内部粘着不能部が放射状又は同心円状に配列されたパターン、複数の内部粘着不能部が略並行に線状に配置された並行線状パターン等が挙げられる。
【0026】
この粘着性シートにおいて、内部粘着部は、隣接配置された内部粘着不能部の間に配置されており、複数の内部粘着不能部を互いに独立に分離させる。内部粘着部は、粘着領域に複数が独立して配置されていてもよいが、通常、内部粘着不能部の間に一体的に配置される。隣接配置された内部粘着不能部の距離すなわち内部粘着部の幅は粘着保持する薄板状物の質量等に応じて適宜に設定される。この粘着性シートにおいて、内部粘着不能部の輪郭は基体における支持体の頂面と略同一形状に形成されるのが好ましく、その輪郭形状は、例えば、正方形、長方形、五角形、六角形、十字形等の多角形、円形、リング状、楕円、不定形、又は、これらを組み合わせた形状等が挙げられる。
【0027】
この発明において、周縁粘着不能部は、後述する基体の囲繞部に適合するように、配置すなわち形成される。具体的には、周縁粘着不能部は、粘着領域に連続して、又は、粘着領域から離れて、粘着領域を囲繞するように配置される。この周縁粘着不能部の輪郭は基体における囲繞部の頂面と略同一形状に形成されるのが好ましい。
【0028】
周縁粘着不能部が粘着領域から離れて配置される場合には、粘着領域と周縁粘着不能部との間は少なくとも表面が粘着性である粘着部(以下、中間粘着部と称することがある。)であっても、少なくとも表面が実質的に非粘着性である中間粘着不能部であってもよい。周縁粘着不能部と粘着領域との間に配置される中間粘着部は、粘着領域の内部粘着部が前記したように粘着領域の輪郭線の少なくとも1つに接しているから、粘着領域の少なくとも1つの輪郭線で内部粘着部と接している。換言すると、中間粘着部は粘着領域の外側に配置された内部粘着部に接した状態に粘着領域を囲繞するように配置されている。
【0029】
内部粘着部及び中間粘着部における粘着性は、被粘着物を粘着保持するのに十分な粘着力を有していればよく、粘着性シートに粘着保持される被粘着物の自重等に応じて適宜に決定されるが、例えば、1〜60(g/mm)の粘着力であるのが好ましく、2〜40(g/mm)の粘着力であるのがさらに好ましく、4〜20(g/mm)の粘着力であるのが特に好ましい。粘着不能部は、内部粘着部及び中間粘着部よりも弱い粘着力を有していればよく、好ましくは被粘着物を粘着できない程度の粘着性を有し、又は、粘着性を実質的に有していない。例えば、粘着不能部は、好ましくは0(g/mm)を超え1(g/mm)未満の弱粘着力を有し、又は、0(g/mm)の非粘着力を有している。前記粘着力は次のようにして求める。まず、粘着性シートを水平に固定する吸着固定装置(例えば、商品名:電磁チャック、KET−1530B、カネテック(株)製)又は真空吸引チャックプレート等と、測定部先端に、直径10mmの円柱をなしたステンレス鋼(SUS304)製の接触子を取り付けたデジタルフォースゲージ(商品名:ZP−50N、(株)イマダ製)とを備えた荷重測定装置を用意する。この試験台上に粘着性シートを固定し、測定環境を21±1℃、湿度50±5%に設定する。次いで、20mm/minの速度で粘着性シート、内部粘着部、中間粘着部又は粘着保持不能部の被測定部位に接触するまで前記荷重測定装置に取り付けられた前記接触子を下降させ、次いで、この接触子を被測定部位に所定の荷重で被測定部位に対して垂直に3秒間押圧する。ここで、前記所定の荷重を25g/mmに設定する。次いで、180mm/minの速度で前記接触子を被測定部位から引き離し、このときに前記デジタルフォースゲージにより測定される引き離し荷重を読み取る。この操作を、被測定部位の複数箇所で行い、得られる複数の引き離し荷重を算術平均し、得られる平均値を内部粘着部、中間粘着部又は粘着保持不能部の粘着力とする。なお、この測定方法は、手動で行ってもよいが、例えば、テストスタンド(例えば、商品名:VERTICAl MODEL MOTORIZED STAND シリーズ、(株)イマダ製)等の機器を用いて、自動で行ってもよい。
【0030】
この発明に係る保持治具の基体は、その上に粘着性シートが載置されると共に、載置された粘着性シートの少なくとも内部粘着部、所望により中間粘着部が没入する空隙部を有している。基体における空隙部は、粘着性シートの少なくとも内部粘着部、粘着性シートが中間粘着部を有する場合には内部粘着部及び中間粘着部に適合するように形成されており、空隙部の形成パターンは少なくとも内部粘着部の配置パターン、粘着性シートが中間粘着部を有する場合には内部粘着部及び中間粘着部の配置パターンと同様である。
【0031】
この発明において、基体は、空隙部に加えて、粘着性シートの周縁粘着不能部を載置して支持する囲繞部を有しているのが好ましい。この囲繞部は周縁粘着不能部に適合するように形成され、空隙部を囲繞している。このように基体が囲繞部を有していると、周縁粘着不能部を支持して粘着性シートを強固に基体に接着又は密着した状態に載置でき、薄板状物の粘着保持及び脱離をより一層安定して実施できる。さらに、前記したように通常薄板状物を取り外しにくくなりやすい囲繞部を基体に設けても創成空間が開放空間となるこの発明によれば薄板状物を容易に取り外すことができる。この囲繞部は通常空隙部を囲繞する枠状の壁状体とされ、その頂面は粘着性シートを載置できるように平面であるのが好ましい。
【0032】
この発明において、基体は、囲繞部で囲繞される領域内であって空隙部の間に粘着性シートの内部粘着不能部を支持する支持体を有しているのが好ましい。すなわち、好ましい基体は、粘着性シートの内部粘着不能部を支持する支持体と、支持体から間隔をあけて支持体を囲繞すると共に粘着性シートの周縁粘着不能部を支持する囲繞部と、支持体同士の間及び支持体と囲繞部との間に形成された空隙部とを有している。この支持体は内部粘着不能部への損傷を小さくできる点で平坦な頂面を有しているのが好ましく、その形状は特に限定されない。
【0033】
この発明において、粘着領域及び周縁粘着不能部上に配置された薄板状物と基体の空隙部に没入した内部粘着部とで形成される創成空間が開放空間になるように、例えば、基体は支持体の少なくとも1つが囲繞部の高さよりも高く形成されている。このように基体が形成されていると創成空間の開口が高く形成された支持体に隣接する空隙部近傍に形成される。この発明において、薄板状物を早期にかつ容易に取り外すことができる点で、囲繞部の高さよりも高く形成されている支持体は、複数の内部粘着不能部のうち周縁粘着不能部側に配置された内部粘着不能部を支持する支持体を含んでいるのが好ましく、換言すると複数の支持体のうち囲繞部に最も近接して配置された支持体を含んでいるのが好ましく、内部粘着不能部を支持するすべての支持体であるのが特に好ましい。
【0034】
囲繞部の高さよりも高く形成された支持体を有する基体において、囲繞部の高さよりも高く形成されている支持体の高さは、特に限定されず、粘着性シートが囲繞部と支持体との高さの差を吸収して薄板状物の平坦に粘着保持できると共に創成空間に十分な大きさの開口が形成できる高さであればよく、粘着性シートの弾性力及び厚さ、薄板状物の厚さ及び粘着性シートへの押付圧等を考慮して、適宜に決定される。例えば、囲繞部の高さよりも高く形成されている支持体の高さは、囲繞部の高さとの差が2mm以下であるのが好ましく、0.05〜1mmであるのがより一層好ましく、0.1〜0.5mmであるのが特に好ましい。
【0035】
特に、支持体が囲繞部の高さに対してより一層好ましくは0.05〜1mm、特に好ましくは0.1〜0.5mm高く形成されていると、保持治具とほぼ同寸の薄板状物を用いたときに、薄板状物を粘着性シートに押圧すると例えば図3(a)に示されるように粘着性シート特に内部粘着不能部の変形によって前記高さの差を吸収して粘着性シートの全面で薄板状物を粘着保持できるうえ、例えば粘着部を没入させる等して押圧力が解放されると図3(b)に示されるように粘着性シート特に内部粘着不能部の変形が復元して周縁粘着不能部と内部粘着不能部との厚さがほぼ一定になり、その結果、前記高さの差に起因して周縁粘着不能部が薄板状物から離間して創成空間が開放空間になると共に内部粘着不能部で薄板状物を保持するから、保持治具とほぼ同寸の薄板状物を用いた場合であってもこの薄板状物を容易に取り外すことができる。
【0036】
このように、この発明に係る保持治具は、前記粘着性シートと前記基体とを備えており、この基体を平面視すると囲繞部、支持体及び空隙部の配置が粘着シートの周辺粘着不能部、内部粘着不能部、並びに、内部粘着部、粘着性シートが中間粘着部を有する場合には内部粘着部及び中間粘着部の配置と一致している。そして、この発明に係る保持治具は、粘着性シートの粘着領域及び周縁粘着不能部上に配置された薄板状物と空隙部に没入した粘着部とで形成される創成空間が開放空間になる。したがって、この発明に係る保持治具は粘着保持した薄板状物を容易に脱離させる。なお、この発明において、粘着性シートの粘着領域及び周縁粘着不能部上に配置された薄板状物は、粘着性シートの内部粘着部、所望により中間粘着部が空隙部に没入したときに、少なくともその一部が粘着性シートの周縁粘着不能部上に間隙を空けて位置しており、好ましくはその端縁全体が周縁粘着不能部上に間隙を空けて位置している。このように粘着性シートの一部が周縁粘着不能部上に間隙を空けて位置するには、粘着性シートの厚さ及び弾性力、基体の囲繞部と支持体との高さ比、薄板状物の厚さ及び可撓性等が考慮され、特に、前記高さの差を前記範囲に設定するのがよい。
【0037】
この発明に係る保持治具の一例である保持治具1を、図1〜図3を参照して、説明する。保持治具1は、図3に示されるように、粘着性シート5と基体6とを備えている。
【0038】
粘着性シート5は、図1に示されるように、正方形のシート状に形成され、内部粘着部14及び内部粘着不能部15を含む粘着領域11と、粘着領域11を囲繞する周縁粘着不能部12と、粘着領域11及び周縁粘着不能部12の間に形成された中間粘着部13とを有している。なお、理解を容易にするために、粘着性シート5における粘着領域11、周縁粘着不能部12、中間粘着部13、内部粘着部14及び内部粘着不能部15の境界を図1において破線で示した。
【0039】
この粘着性シート5の粘着領域11は、図1に示されるように、互いに離間して縦横方向に格子状又は碁盤目状に配置された4つの正方形の内部粘着不能部15と、縦横方向に隣接配置された内部粘着不能部15の間に十字形状に配置された1つの内部粘着部14とを含んで、形成されている。したがって、粘着領域11の4つ輪郭線すべてに内部粘着部14が接している。換言すると、内部粘着部14の輪郭線が粘着領域11の輪郭線と一致しており、さらにいうと、粘着領域11は、その四隅に内部粘着不能部15が配置されると共に、粘着領域11の縦横両方向の略中央に十字形状の内部粘着部15が配置されて、略正方形の領域を形成している。このように、4つの内部粘着不能部15は内部粘着部14でそれぞれ独立にすなわち互いに接することなく配置されている。
【0040】
中間粘着部13は、粘着領域11を一巡する枠状をなしており、粘着領域11に連続して粘着領域11を囲繞している。また、周縁粘着不能部12は、中間粘着部13を一巡する枠状をなしており、中間粘着部13を挟んで粘着領域11から離れて粘着領域11を囲繞している。
【0041】
この粘着性シート5における粘着領域11、周縁粘着不能部12及び中間粘着部13は、後述する基体6と適合するように、配置されている。
【0042】
粘着性シート5において、内部粘着部14及び中間粘着部13は、前記測定方法における粘着力が1〜50g/mmの範囲にあり、周縁粘着不能部12及び内部粘着不能部15は前記測定方法における粘着力が0g/mmになっている。
【0043】
粘着性シート5は、適宜の厚さに調整されるが、例えば、0.1〜2mmの厚さを有しているのが好ましい。粘着性シート5の厚さが、0.1mm未満であると機械的強度が低下して粘着性シート5の耐久性が劣ることがあり、また、後述する囲繞部と支持体との高さの差を効果的に吸収できないことがある。一方、粘着性シート5の厚さが、2mmを越えると、粘着性シート5が弾性変形しにくくなり、被粘着物を容易に取り外せなくなることがある。この粘着性シート5は、その表面が平滑であるのが好ましく、具体的には、0.8μm以下の中心線平均粗さRa(JIS B 0601−1982)を有しているのが好ましい。
【0044】
粘着性シート5は、粘着性材料、例えば、シリコーンゴム、フッ素系ゴム、ウレタン系エラストマー、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合エラストマー等の各種エラストマーによって形成することができ、強度、耐候性に優れたシリコーンゴム、フッ素系ゴムが好ましい。これらの内でも、ゴム硬度(JIS K6253[デュロメータE])が5〜60であるのがとくに好ましい。粘着性シート5のゴム硬度が前記範囲内にあると、後述する囲繞部と支持体との高さの差を効果的に吸収できて粘着性シート5の表面が平坦になることがあり、さらに、薄板状物を所望のように粘着保持できるにかかわらず粘着保持した薄板状物を容易に取り外すことができる。
【0045】
粘着性シート5は、例えば、粘着性材料を用いて公知の方法によってシート状に形成される。粘着性シート5の表面に周縁粘着不能部12及び内部粘着不能部15を形成するには、例えば、粘着性材料をシート状に成形した後に、その表面に周縁粘着不能部12及び内部粘着不能部15に対応する穴部を有するマスキング用部材を載置して、マスキング用部材上から紫外線を照射すればよい。このようにして、紫外線を照射すると、その照射量によって所望の粘着力に調整された周縁粘着不能部12及び内部粘着不能部15が形成される。
【0046】
また、紫外線照射方法以外に、(1)周縁粘着不能部12及び内部粘着不能部15を形成する部分に粘着性の弱い粘着材(例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂等)又は粘着性のない非粘着材をコーティングする方法、(2)周縁粘着不能部12及び内部粘着不能部15の表面粗さを大きくする方法、(3)粘着性シート5の代わりに全体を弱粘着性シート又は非粘着性シートとし、その表面に粘着材をコーティングして、中間粘着部13及び内部粘着部14を形成する方法等が挙げられる。
【0047】
基体6は、粘着性シート5の内部粘着部14が没入する空隙部23を有すると共に、前記したように囲繞部22の高さよりも高く形成された支持体21を有する基体である。この基体6は、図2に示されるように、一方が開口した開口凹部を有する、正方形の底面を持つ扁平な長方体に形成され、その寸法は薄板状物の寸法と同じ、又は小さくなっている。基体6は、図3に示されるように粘着性シート5が載置されたときに、粘着性シート5の内部粘着不能部15及び周縁粘着不能部12に対応するように、支持体21及び囲繞部22を有している。
【0048】
具体的には、基体6は、図2及び図3に示されるように、内部粘着不能部15を支持する支持体21と、支持体21を囲繞すると共に周縁粘着不能部12を支持する囲繞部22と、内部粘着部14及び中間粘着部13が没入する空隙部23と、空隙部23に連通する通気孔24とを有している。換言すると、基体6は、底面の各端縁から略垂直に突出する枠状の囲繞部22と、囲繞部22で囲繞された空間すなわち前記開口凹部に、前記底面から略垂直に互いに縦横方向に離間して突出する筒状体の支持体21とで形成され、囲繞部22及び支持体21の間隙に空隙部23が画成され、空隙部23に開口する通気孔24が基体6の底部に形成されている。
【0049】
支持体21は、略正方形の平坦な頂面を有し、囲繞部22は枠状の平坦な頂面を有している。そして、基体6において、支持体21及び囲繞部22は粘着性シート5の内部粘着不能部15及び周縁粘着不能部12に対応するように、その寸法、形状及び形成位置が調整されている。したがって、基体6は、その上に粘着性シート5が載置されたときに、支持体21及び囲繞部22の頂面が粘着性シート5の内部粘着不能部15及び周縁粘着不能部12をそれぞれ支持する。保持治具1において、粘着性シート5は、その裏面が支持体21及び囲繞部22の頂面に接着固定又は密着固定されている。
【0050】
囲繞部22は、その内側寸法が粘着保持する薄板状物の寸法よりも小さく、かつ、粘着性シート5と共に前記開口凹部すなわち空隙部23を気密に閉塞できるように形成されている。保持治具1において囲繞部22は薄板状物の寸法よりも小さな内側寸法と一定の高さとを有する枠体として形成されている。
【0051】
支持体21は、図3に示されるように、そのすべてが囲繞部22に最も近接して配置されており、これら支持体21、すなわち、すべての支持体21が囲繞部22の高さよりも高い同一の高さになっている。このときの支持体21の高さは前記範囲内にある。この支持体21は、突出方向に垂直な断面が正方形である扁平な直方体に形成されている。支持体21の断面の寸法は粘着性シート5の粘着力等を考慮して薄板状物を粘着保持できる範囲で適宜に設定される。
【0052】
空隙部23は前記開口凹部のうち支持体21を除く空間である。通気孔24は、その一方が空隙部23に開口し、他方が囲繞部22の側壁に開口し、外部に設置された吸引装置例えば真空ポンプ等(図示しない。)に接続される。通気孔24の孔径、配置位置、開口部形状等は適宜に設定されればよい。通気孔24は、図3(b)及び図3(c)に示されるように、前記吸引装置によって空隙部23内に存在する気体を吸引して空隙部23を減圧状態又は真空状態にし、空隙部23の上部に位置する粘着性シート5の内部粘着部14及び中間粘着部13を弾性変形させて空隙部23内に没入させる。
【0053】
基体6は、減圧下又は真空下においても変形等しない程度の強度を有する材料で形成されており、このような材料として、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、ニッケル合金等の金属、多孔質セラミック等の多孔性物質、樹脂、ガラス又はこれらの複合体等が挙げられる。基体6は、加工性、操作性の観点から、ステンレス鋼又はアルミニウム合金で形成されている。基体6は、これらの材料で、例えば、真空成形、射出成形、金型成形、切削加工、放電加工等により形成される。基体6の厚さ(支持体21及び囲繞部22を除く。)は、用途により適宜決定すればよく、例えば、50μm以上数cm以下に設定される。
【0054】
保持治具1は、基体6と粘着性シート5とを備え、基体6の囲繞部22及び支持体21の上に粘着性シート5が支持され、接着固定又は密着固定される。この保持治具1は、基体6に載置された粘着性シート5の表面、特に粘着領域11及び中間粘着部13で薄板状物を粘着保持すると共に、空隙部23内の気体を排気して空隙部23上に位置する中間粘着部13及び内部粘着部14を空隙部23に没入させて薄板状物9から引き離すことで薄板状物9を取り外せるようになっている。
【0055】
保持治具1の作用について説明する。保持治具1の初期状態として、図3(a)に示されるように、基体6の上に粘着性シート5が接着又は固定され、空隙部23が閉塞されている。この粘着性シート5の表面に薄板状物9が置かれる。この薄板状物9は、粘着性シート5の粘着領域11よりも大きな寸法を有する略正方形の枚葉体であり、図3(a)に示されるように、その端部近傍が囲繞部22上に配置された周縁粘着不能部12にまで及んでいる。そうすると、粘着領域11は薄板状物9の底面9aに接するから、薄板状物9は粘着性シート5に、具体的には粘着領域11に接し、場合によっては中間粘着部13に接し、周縁粘着不能部12に接し又は非接触となって、粘着保持される。このとき、薄板状物9をより強固に粘着保持させるために粘着性シートに圧接すなわち押圧すると、図3(a)に示されるように、粘着性シートの内部粘着不能部15が変形すなわち圧縮して薄板状物9の底面9aの全面が粘着性シートに接して粘着保持される。
【0056】
このようにして粘着性シート5に粘着保持された薄板状物9は、図3(a)に示されるように、空隙部23の全体を覆うように配置されており、別言すると、空隙部23はその全体が粘着性シート5を挟んで薄板状物9で覆われている。このようにして薄板状物9は保持治具1に粘着保持される。なお、薄板状物9を粘着性シート5に粘着保持させるには薄板状物9を粘着性シート5の表面に載置するだけでもよく、より強固に薄板状物9を粘着性シート5に粘着保持させるには粘着性シート5の表面に載置した薄板状物9を粘着性シート5に押圧することもできる。
【0057】
薄板状物9を粘着性シート5上に載置するには通常粘着性シート5の表面に略平行に配置した薄板状物9を粘着性シート5に近接させるから、薄板状物9を粘着性シート5に載置する直前まで両者の間に空気が存在する。ところが、保持治具1は、前記のように支持体21が囲繞部22よりも高く形成されているから、薄板状物9の近接によって両者の間に存在する空気が高さの低い囲繞部23近傍から排出される。したがって、薄板状物9を粘着性シート5上に載置する際に薄板状物9が空気によって横滑りしにくくなり、薄板状物9を粘着性シート5の所定の位置に載置して粘着保持できる。したがって、保持治具1によれば薄板状物9を所定の位置に正確に粘着保持できるという目的を達成できる。
【0058】
粘着保持された薄板状物9を保持治具1から取り外す場合には、保持治具1の外部に設置された吸引装置等(図示しない。)を通気孔24に接続し、空隙部23内の気体を吸引する。そうすると、空隙部23内は減圧又は真空になり、図3(b)及び図3(c)に示されるように、弾性を有する粘着性シート5が弾性変形して空隙部23内に没入又は陥没する。この吸引状態において、粘着性シート5の中間粘着部13及び内部粘着部14は薄板状物9の底面9aから引き離されているから薄板状物9の底面9aは内部粘着不能部15に接しており、また、内部粘着不能部15の変形が復元して周縁粘着不能部と内部粘着不能部との厚さがほぼ一定となるから薄板状物9の底面9aの少なくとも一部は周縁粘着不能部12に非接触となる。この吸引状態において、それまで薄板状物9の底面9aに接していた中間粘着部13及び内部粘着部14が空隙部23に没入すると、図3(b)及び図3(c)に示されるように、粘着領域11及び周縁粘着不能部12上に配置されている薄板状物9の底面9aと空隙部23に没入した中間粘着部13及び内部粘着部14とで薄板状物9の底面9aと中間粘着部13及び内部粘着部14との間に新たな創成空間25が形成される。この創成空間25は中間粘着部13及び内部粘着部14が薄板状物9の底面9aから引き離されて形成されるので離脱空間と称することもできる。この創成空間25は中間粘着部13及び内部粘着部14が強制的に空隙部23に没入されることで形成されるので、薄板状物9が前記のように粘着性シート5に粘着保持されている場合には、通常、空隙部23の圧力ほどではないが保持治具1の周辺圧力よりも圧力が小さく低圧になって創成空間25が薄板状物9を吸引保持する。ここで、保持治具1においては、前記したように支持体21が囲繞部22よりも高く形成されているから、図3(b)及び図3(c)に示されるように、粘着領域11の輪郭線近傍に創成空間25が開口し、また、中間粘着部13が空隙部23に没入して粘着領域11を囲繞する環状の間隙が生じ、さらに、前記したように囲繞部22上に位置する周縁粘着不能部12の表面と薄板状物9の底面9aとの間に僅かな間隙が生じる。そして、これらの、創成空間25の開口、環状の間隙及び僅かな間隙は図3(b)及び図3(c)に示されるようにそれぞれ連通しており、保持治具1及び薄板状物9の外部に創成空間25が連通すなわち開口する。
【0059】
このように、保持治具1において空隙部23の気体を排気すると、新たに一体的に形成される創成空間25が開放空間になっており、創成空間25内の圧力が保持治具1の周辺圧力とほぼ同等となる。したがって、粘着保持されている薄板状物9は、創成空間25によって薄板状物9が吸引保持されず、内部粘着不能部15に接しているに過ぎないから、わずかな力で、又は、保持治具1を傾けるだけで、薄板状物9を保持治具1すなわち粘着性シート5から容易に取り外すことができる。
【0060】
このように前記初期状態及び前記吸引状態を繰り返すことによって薄板状物9の粘着保持及び取り外しが容易に行われる。したがって、保持治具1は、粘着保持する薄板状物9が粘着性シート5すなわち保持治具1とほぼ同寸又は大きな寸法を有していても、薄板状物9を十分な粘着保持力で粘着保持できるにもかかわらず、粘着保持された薄板状物9を容易に取り外すことができる。
【0061】
すなわち、保持治具1に薄板状物9を粘着保持させるには、粘着性シート5の少なくとも粘着領域11に、好ましくは粘着領域11全面と周縁非粘着部12との上に薄板状物9を配置して粘着領域11に接触又は押圧する。そして、このようにして粘着領域11及び周縁粘着不能部12上に配置された薄板状物9を保持治具1から取り外すには、粘着性シート5の内部粘着部14を基体6内すなわち空隙部23内に没入させ、新たに形成された創成空間25を開放すなわち保持治具1及び薄板状物9の外部に開口させる。このようにして保持治具1に粘着保持された、保持治具1とほぼ同寸又は大きな寸法を有する薄板状物9を損傷させることなく容易に取り外せる。
【0062】
この発明に係る保持治具の別の一例である保持治具2を、図4を参照して、説明する。保持治具2は、図4に示されるように、粘着性シート5’と基体6’とを備えている。保持治具2は、粘着性シート5’の粘着領域31及び周縁粘着不能部32の形状、寸法及び配置、並びに、基体6’の支持体41の形状、寸法及び配置が異なること以外は保持治具1と基本的に同様である。
【0063】
粘着性シート5’は、図4に示されるように、正方形のシート状に形成され、内部粘着部34及び内部粘着不能部35を含む粘着領域31と、粘着領域31を囲繞する周縁粘着不能部32とを有している。
【0064】
この粘着性シート5’の粘着領域31は、図4に示されるように、3つの線状の内部粘着不能部35が略並行に配置された並行線状パターンになり、残部が内部粘着部34になっている正方形の領域である。そして、内部粘着不能部35それぞれはその延在方向の一方の端部が、延在方向の延長上に位置する一方の周縁粘着不能部32に互いに交互に接している。したがって、粘着領域31の4つ輪郭線すべてに内部粘着部34が接している。周縁粘着不能部32は粘着領域31に接して粘着領域11を囲繞する枠状に形成されている。
【0065】
基体6’は、図4に明確に図示されていないが、粘着性シート5’が載置されたときに、粘着性シート5’の内部粘着不能部35及び周縁粘着不能部32に対応するように、3つの壁状の支持体41及び囲繞部42を有している。具体的には、基体6’は、内部粘着不能部35を支持する支持体41と、支持体41を囲繞すると共に周縁粘着不能部32を支持する囲繞部42と、内部粘着部34が没入する空隙部43と、空隙部43に連通する通気孔44とを有している。支持体41は、そのすべてが囲繞部42に接して配置されており、これらすべての支持体41が囲繞部42の高さよりも高い同一の高さになっている。このときの支持体21の高さは前記範囲内にある。このように、保持治具2は、粘着性シート5’の粘着領域31及び周縁粘着不能部32に適合するように、支持体41、囲繞部42、空隙部43が形成されている。
【0066】
保持治具2は、基体6’と粘着性シート5’とを備え、基体6’の囲繞部42及び支持体41の上に粘着性シート5’が支持され、接着固定又は密着固定される。この保持治具2は、基体6’に載置された粘着性シート5’の表面特に粘着領域31で薄板状物を粘着保持すると共に、空隙部43内の気体を排気して空隙部43上に位置する内部粘着部34を空隙部43に没入させて薄板状物から引き離すことで薄板状物を取り外せるようになっている。
【0067】
保持治具2に薄板状物を粘着保持させる際の方法並びに作用及び機能は保持治具1と基本的に同様である。
【0068】
薄板状物を保持治具1から取り外す場合も保持治具1と基本的に同様である。すなわち、通気孔44から空隙部43内の気体を吸引して、内部粘着部34を空隙部43内に没入させる。このとき、粘着領域31及び周縁粘着不能部32上に配置されている薄板状物の底面と空隙部43に没入した内部粘着部34とで創成空間が新たに形成される。ここで、保持治具2においては、前記したように支持体41が囲繞部42よりも高く形成されているから、粘着領域31の輪郭線近傍すなわち周縁粘着不能部32の内側近傍に創成空間の開口が生じて創成空間が開放空間になる。したがって、粘着保持されている薄板状物は、わずかな力で、又は、保持治具2を傾けるだけで、保持治具2すなわち粘着性シート5’から容易に取り外すことができる。
【0069】
このように保持治具2は、粘着保持する薄板状物が粘着性シート5’すなわち保持治具2とほぼ同寸又は大きな寸法を有していても、薄板状物を十分な粘着保持力で粘着保持できるにもかかわらず、粘着保持された薄板状物を容易に取り外すことができる。
【0070】
この発明に係る保持治具は、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【0071】
例えば、保持治具1は4つの支持体が形成され、保持治具2は3つの支持体が形成されているが、この発明において、支持体は粘着性シートの粘着領域に含まれる内部粘着不能部に対応するように形成されていればよく、例えば、1つ又は2つが形成されてもよく、また、5つ以上すなわち多数が形成されてもよい。
【0072】
前記薄板状物9は、図3に示されるように、その端部が周辺粘着不能部12の幅方向略中央に到達する程度の寸法を有しているが、この発明の効果を有効に奏するためには、薄板状物は、例えば、図3(a)に破線で示されるように、その端部が周辺粘着不能部12の端縁まで到達する程度の寸法を有していてもよく、また、その端部が周辺粘着不能部12を超える寸法を有していてもよい。このような薄板状物として、例えば、大型のシリコンウェハ、大画面表示装置用のガラス板等が挙げられる。
【0073】
保持治具1及び2において、薄板状物9は1つの保持治具で粘着保持されているが、この発明の効果を有効に奏するためには、薄板状物は保持治具の粘着領域及び周縁粘着不能部上に配置されていればよく、例えば、1つ以上の保持治具で粘着保持されてもよい。
【0074】
保持治具1及び2はいずれも平面視略正方形に形成されているが、この発明において、保持治具は、被粘着物の形状、製造工程、作業性等に応じて任意の形状に形成されてもよい。例えば、平面視、長方形、五角形、六角形等の多角形、円形、楕円形、不定形、又は、これらを組み合わせた形状等が挙げられる。
【0075】
保持治具1おいて、粘着性シート5は中間粘着部13を有し、基体6は支持体21を囲繞する空隙部23を有しているが、この発明において、粘着性シートは中間粘着部を有していなくてもよく、この場合には周辺非粘着部は粘着領域の少なくとも1つの輪郭線で内部粘着部に接するように周辺非粘着部及び粘着領域が配置され、基体は内部粘着部に対応する空隙部が形成される。
【0076】
基体6及び6’はいずれもステンレス鋼又はアルミニウム合金で形成されているが、この発明において、基体は多孔質セラミック等の多孔性物質等で形成されてもよい。この場合には、通気孔を特段形成する必要はないが、空隙部が気密になるように基体の側面及び底面を密閉する必要がある。
【符号の説明】
【0077】
1、2 保持治具
5、5’ 粘着性シート
6、6’ 基体
9 薄板状物
9a 底面
11、31 粘着領域
12、32 周縁粘着不能部
13 中間粘着部
14、34 粘着部(内部粘着部)
15、35 内部粘着不能部
21、41 支持体
22、42 囲繞部
23、43 空隙部
24、44 通気孔
25 創成空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着部を含む粘着領域、及び、前記粘着領域を囲繞する周縁粘着不能部を有する粘着性シートと、前記粘着性シートを載置すると共に前記粘着部が没入する空隙部を有する基体とを備え、
前記粘着領域及び前記周縁粘着不能部の上に薄板状物が載置されたときに前記薄板状物と前記空隙部に没入した前記粘着部とで形成される創成空間が開放空間になることを特徴とする保持治具。
【請求項2】
前記粘着領域は、内部粘着不能部を含むことを特徴とする請求項1に記載の保持治具。
【請求項3】
前記粘着領域は、互いに離間して配置された複数の内部粘着不能部と、前記内部粘着不能部の間に配置された前記粘着部とを含んでいることを特徴とする請求項2に記載の保持治具。
【請求項4】
前記基体は、前記内部粘着不能部を支持する支持体を有していることを特徴とする請求項2又は3に記載の保持治具。
【請求項5】
前記基体は、前記支持体を囲繞すると共に前記周縁粘着不能部を支持する囲繞部を有していることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の保持治具。
【請求項6】
前記支持体の少なくとも1つは、前記囲繞部の高さよりも高く形成されていることを特徴とする請求項5に記載の保持治具。
【請求項7】
前記囲繞部の高さよりも高く形成されている前記支持体は、複数の前記内部粘着不能部のうち前記周縁粘着不能部側に配置された前記内部粘着不能部を支持する支持体を含むことを特徴とする請求項6に記載の保持治具。
【請求項8】
前記囲繞部の高さよりも高く形成されている前記支持体は、前記内部粘着不能部を支持するすべての支持体であることを特徴とする請求項6又は7に記載の保持治具。
【請求項9】
前記囲繞部よりも高く形成されている前記支持体は、前記囲繞部の高さとの差が2mm以下であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の保持治具。
【請求項10】
前記基体は、前記空隙部に連通する通気孔を有していることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の保持治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−169405(P2012−169405A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28356(P2011−28356)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】