説明

保温積層体

【課題】人体とのフィット性を向上させ、人体の空間(隙間)を少なく留め体位変化(寝返りなど)による空間空気の移動量を少なくし保温性を高め、両面リバーシブル構造とし一年中使用可能な掛け布団、膝掛けなどの寝具用途等に好適な保温積層体を提供すること。
【解決手段】親水性繊維を含む紡績糸からなる高密度織物A、疎水性合成繊維マルチフィラメント糸からなる高密度織物B、親水性繊維を含む紡績糸を用いてなる立毛布帛Cを積層し、高密度織物Aと高密度織物Bの間に中綿が充填されてなり、高密度織物Aと立毛布帛Cが表皮層をなす積層体であって、積層体嵩比重が35000g/m3以上60000g/m3以下、立毛布帛Cを肌側とした際のASTM法による保温性が80%以上、Clo値(真のClo値)が4.5Clo以上である保温積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保温積層体に関し、特に一般寝具等に用いられ、更に詳しくには掛け布団、膝掛けなど人体に掛けて使用する寝具等に用いられる保温積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
寝具やクッション積層体、座布団など生活資材向けに多数の商品が上市、提案されている。とりわけクッションや敷き布団、座布団等の用途には体圧分散性を良くし圧迫による血行不良を防止すべく低反撥性ポリウレタンフォームや硬綿クッション材を用いた商品がある。しかしながらこれらは良好な体圧分散性能を有するが肉厚であり収納し難いという欠点があった。この欠点を改善する為に例えばダブルラッセル経編地を組み合わせた積層体による薄厚クッションが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−209679号公報
【0003】
敷き布団などの用途においては上記のように体圧分散性や吸湿・吸汗性、速乾性等を考慮し多数の商品が提案されている。掛け布団や膝掛けなど人体に掛けて使用する寝具等においては軽量感、嵩高性、吸湿・吸汗性、生地表面の触感、中綿羽毛の吹出抑制等が従来から重要視されているが、敷き布団のように身体へのフィット性を考慮した商品は殆どない現状にある。また保温性を確保する為に、軽くて嵩高な羽毛布団が広く使用されている。しかしこれらの羽毛布団は収納性に欠ける他、高価なものであり一般消費者には購入し難いものである。また鳥インフルエンザの影響を受け、日本国内に輸入される羽毛量自体が激減し、価格高騰を招く結果となっており、益々商品価格が高くなってきている現状にある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は従来の掛け布団や膝掛け等の寝具等では殆ど考慮されてこなかった人体へのフィット性に着眼し、特に冬季使用時には人体へのフィット性を向上させて布団と人体との空間(隙間)を少なくし体位の変化(寝返りなど)による空間空気の移動量を少なくすることにより保温性を向上させること、中綿充填量を少なくしても充分な保温性を保持すること、よりコンパクトに収納が可能になること、及び季節に応じて使用面を変更することにより何れの季節であっても適度な保温性、吸湿性を実現させる保温積層体の提供を課題とし、ひいては高級羽毛布団に劣らない保温特性を安価に実現し得る掛け布団などに好適な保温積層体の提供をその課題とするものである。また羽毛の使用量を極力抑えつつ、高級羽毛布団とほぼ同等の保温性、睡眠快適性を与えることをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は以下の構成よりなる。
1.親水性繊維を含む紡績糸からなる高密度織物A、疎水性合成繊維マルチフィラメント糸からなる高密度織物B、親水性繊維を含む紡績糸を用いてなる立毛布帛Cを積層し、高密度織物Aと高密度織物Bの間に中綿が充填されてなり、高密度織物Aと立毛布帛Cが表皮層をなす積層体であって、積層体嵩比重が35000g/m3以上60000g/m3以下、立毛布帛Cを肌側とした際のASTM法による保温性が80%以上、Clo値(真のClo値)が4.5Clo以上である保温積層体。
2.疎水性合成繊維の単繊維繊度が0.1デシテックス以上2.5デシテックス以下であり、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン繊維から選択される少なくとも1種類の素材からなり、高密度織物Bの通気度が1.5cm3/(cm2・秒)以下であることを特徴とする上記第1記載の保温積層体。
3.親水性繊維がセルロース系繊維であり、親水性繊維を含む紡績糸からなる高密度織物Aの通気度が2.5cm3/(cm2・秒)以下であることを特徴とする上記第1又は第2記載の保温積層体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば季節に応じて使用面を変更することにより長期にわたって使用することが出来、人体へのフィット性を向上させて布団と人体との空間(隙間)を少なくし、体位の変化(寝返りなど)による空間空気の移動量を少なくすることにより保温性を向上させ、尚且つコンパクト収納が可能になるなどの効果を有する積層体が得られる。また嵩が小さいにも係わらず、市販の高価な羽毛布団とほぼ同等の保温性、睡眠快適性を得ることが可能であり、掛け布団など一般寝具用として好適なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の保温積層体は立毛布帛C、疎水性合成繊維マルチフィラメント糸よりなる高密度織物B、中綿、親水性繊維を含む紡績糸よりなる高密度織物Aを積層し、縫製されてなるものであり必要に応じてステッチを入れたり(キルティング)、マチを入れたりして得られるものである。詰め綿(中綿)としては羽毛、合繊ワタ、綿ワタ、羊毛ワタ、シルクワタ等が挙げられ、特に限定を加えるものではなく公知の素材を使用することが出来る。また一種類のみでなく各種素材を組合せたワタ、例えばポリエステルワタの周囲を綿ワタで巻いた巻きワタや、ポリエステルワタのウェッブと綿ワタのウェッブを多層積層したワタ、単純に異なる種類のワタを混合したワタなど用途目的に応じて適宜選定することが可能である
【0008】
疎水性合成繊維マルチフィラメント糸よりなる高密度織物Bに用いる疎水性合成繊維マルチフィラメント糸はポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維から選択される少なくとも一種類の素材からなるものが好ましい。特にポリエステルフィラメント糸が強度面で好ましい。織組織についても特に限定されるものではなく平織、綾織、朱子織又はこれら三原組織を組み合わせてなる変化組織など公知の織組織を採用することが出来るが、平織が通気度の観点から好ましく使用される。またプラストカレンダーやシュライナーカレンダーなど各種カレンダー装置による通気度低減方法が好ましく採用される。更に必要に応じて各種カレンダー装置に加え、サンフォライズやカムフィット等による織物の高密度化(コンパクト化)や各種樹脂加工も好適に実施することが出来る。
【0009】
また親水性繊維を含む紡績糸から構成される高密度織物Aについては低通気度とする為にプラストカレンダーや各種樹脂加工等を施すことが好ましい。織組織についても公知の織組織(朱子織、綾織、平織、及びこれら三原組織を基本組織とする変化組織)を採用することが出来る。使用する紡績糸の製法についても通常のリング紡績の他、各種革新紡績技術を用いた紡績法を採用することも出来る。紡績糸に含まれる親水性繊維としては絹、羊毛、綿、レーヨン、キュプラ、セルロースアセテート等が例示されるが、綿、レーヨン、キュプラ等のセルロース系繊維が好ましい。該紡績糸に用いる繊維は単一組成である必要はなく該親水性繊維を複数種混合使用したものやポリエステルなど疎水性繊維と混合使用したものであってもよい。該高密度織物Aの通気度は2.5cm3/(cm2・秒)以下、より好ましくは1.5cm3/(cm2・秒)、更に好ましくは0.8cm3/(cm2・秒)以下である。該通気度が2.5cm3/(cm2・秒)を超過する範囲でば、中綿の吹出しによる品位低下や吹出し飛散した中綿材がアレルゲンとなるダニなどを仲介する可能性も否めない。2.5cm3/(cm2・秒)以下とすることにより、中綿の吹出しを防止し、アレルゲンとなるダニなどの通過を抑制することが出来る。
【0010】
また立毛布帛Cはベルベット、コーデュロイ、シール織、シールフライス、シンカーベロア等のパイル織編物が好ましく、カットパイル(切毛)、ループパイル(輪奈毛)の何れであってもよい。立毛布帛とすることによって空間を稼ぐと共に、接触温感や軽量感を付与することが可能となるのである。パイル糸については特に限定されるものではないが、絹や綿、レーヨン、キュプラ、セルロースアセテートや改質アクリレート系繊維(東洋紡績株式会社製エクス(登録商標)、モイスケア(登録商標)等の親水性繊維を使用した方が吸湿性、吸汗性の観点から有効であり好ましい。また立毛(パイル)密度は特に限定するものではないが、該密度は高い方が毛倒れし難く、毛倒れによる含気量の減少が少ない為、保温性や接触温感及び耐圧効果の観点からも有効である。立毛布帛の地組織は特に高密度である必要はない。上記疎水性合成繊維よりなる高密度織物を介して中綿と接触している為に中綿吹出しの問題が回避されるのである。
【0011】
図2及び図3は立毛布帛Cが織物である場合の好ましい織組織の例を示している。黒に着色した部分、×を記入した部分はいずれも経糸が浮いていることを示しています。この内、黒に着色した部分は地組織を構成する経糸が浮いている部分である。この組織図の例においては、周期的に配される毛緯と記入した緯糸が浮いている部分が主に起毛されて立毛布帛となるもので、×を記入した部分は起毛された緯糸をおさえるための経糸が浮いていることを示したものである。図2はファーストパイルと呼ばれる立毛布帛であり、図3はルーズパイルと呼ばれる立毛布帛である。
【0012】
本発明の保温積層体の嵩比重は35000g/m3以上60000g/m3以下が好ましく、より好ましくは40000g/m3以上55000g/m3以下である。該嵩比重が35000g/m3未満では中綿充填量が少なくなり過ぎてしまい、収納性には優れるが保温性に乏しいものとなりやすいのであまり好ましくない。また60000g/m3を著しく超過する範囲では適度な保温性を有するものの嵩高くなり収納性が損なわれやすくあまり好ましくない。また保温積層体の積層体厚さは10mm以上30mm以下であることが好ましく、より好ましくは15mm以上20mm以下である。積層体厚さが10mm未満であると適度な保温性を保持し難いのであまり好ましくなく、30mmを著しく超過する範囲では本発明の意図するコンパクトな収納性を保持しにくくなるのであまり好ましくない。
【0013】
また保温積層体の立毛布帛Cを肌側とした際の、ASTM法による保温性は80%以上が好ましく、より好ましくは85%以上である。該保温性が80%未満では、特に冬季について保温性が不充分なものとなりやすくあまり好ましくない。保温性が80%以上となることによって、寝床内と外気との遮温効果が充分なものとなり快適な寝心地が得られやすく好ましい。保温性は高いほどよく100%が最も良いが、通常95%以下で十分な保温性である。また立毛布帛Cを肌側とした際の、Clo値(真のClo値)は4.5Clo以上であることが好ましく、より好ましくは5.0Clo以上である。Clo値はASHRAE(American Society of Heating Refrigerating and Airconditioning Engineers)で提唱している快適性評価方法である。市販されている高級羽毛布団のClo値(真のClo値)は大略4.5Clo〜6.5Clo程度であり、4.5Clo以上であれば高価な羽毛布団にも劣らない保温快適性を有するものと考えられ、6.5Clo以下で構わない。
【0014】
本発明の保温積層体は上述の如く積層体としての各要件を満足するものである。ステッチやその他の部位の縫製については公知の方法による。審美性を考慮すると積層体端部はチュービングとすることが好ましいが勿論、これに限定されるものではない。また本発明の寝具を構成する立毛布帛、疎水性合成繊維よりなる高密度織物、親水性繊維を含む紡績糸からなる高密度織物は無地染のみならず、各種プリント、糸染めによるものの何れであってもよく、染色方法も公知の技術を用いて実施することが出来る。また必要に応じて寝具を構成する生地に防黴加工や帯電防止加工、黒ずみ防止加工、撥水・撥油加工、吸汗加工その他機能加工を施すことも可能である。
【0015】
本発明の保温積層体に供する上記部材、即ち疎水性合成繊維よりなる高密度織物、親水性繊維を含む紡績糸から構成される高密度織物、立毛布帛はその必要に応じ公知の捺染、浸染方法によって染色することが出来る。また必要に応じ各種機能加工を施すことも可能であるが揮発性有機溶媒やホルマリンを用いた機能加工は残留薬剤による皮膚刺激や呼吸器刺激が懸念される為、水系エマルションの状態とし機能剤をパッドドライ法、パッドスチーム法等の方法で付着させるか、染料同時吸尽法により機能剤を吸尽させる方法が好ましく採用される。
【0016】
使用する疎水性合成繊維の単繊維繊度は0.1デシテックス以上2.5デシテックス以下であることが好ましく、より好ましくは0.3デシテックス以上2.0デシテックス以下であり、高密度織物には好ましい領域である。これら疎水性合成繊維は通常、公知の溶融紡糸法で生産することが出来る。0.1デシテックス未満の超細繊度繊維は商用的には複合紡糸方法で生産されているが極細化するには揮発性有機溶媒等を用いる必要があり廃液負荷や労働環境悪化、更には商品に残留して人の健康を害する可能性もあり好ましくない。また、布帛の引裂強度が実用強度を保持しづらくなる点からもあまり好ましくない。また、単繊維繊度2.5デシテックスを超過すれば高密度織物としても通気度が高いままに留まりがちで、ワタの吹出しの恐れが生じやすくあまり好ましくない。
【0017】
疎水性合成繊維マルチフィラメント糸の断面形状については特に限定を加えるものでなく丸断面、三角断面、偏平断面、多葉断面、また中実断面のみならず中空断面であってもよい。またフラットヤーンのみならず公知の仮撚加工や空気交絡加工、高圧流体攪乱加工等を施した各種加工糸も含まれる。また必要に応じて二酸化チタンや硫酸バリウム、カオリナイト、二酸化珪素、カーボンブラック、顔料等々を混練分散して用いてもよい。
【0018】
疎水性合成繊維マルチフィラメント糸からなる高密度織物Bの通気度は1.5cm3/(cm2・秒)以下であることが好ましく、より好ましくは1.0cm3/(cm2・秒)以下、更に好ましくは0.5cm3/(cm2・秒)以下である。該通気度が1.5cm3/(cm2・秒)を超過する範囲では特に中綿として羽毛を使用した場合において羽毛が吹出す恐れが生じ、品位的にも好ましくない他、吹出した羽毛が飛散することによる発塵の恐れが生じ好ましくない。通気度を1.5cm3/(cm2・秒)以下とすることによって中綿の吹出しの恐れがなく、しかもアレルゲンとなるダニなどの通過を抑制しアレルギー防止にも効果が期待出来る。疎水性合成繊維マルチフィラメント糸は表面に毛羽が無い為、羽毛が引掛り難く紡績糸織物対比で中綿が吹出しやすい。その為、通気度は親水性繊維を含む紡績糸からなる高密度織物A対比で低く抑えておくことが好ましい。
【0019】
高密度織物A及び高密度織物Bはその通気度が小さいことが好ましく、厳密に織密度を限定するものではないが、好ましくはカバーファクター(CF)が1800〜3200であることが好ましく、より好ましくは2300〜3000である。カバーファクター(CF)とは、経糸密度をT(本/2.54cm)、緯糸密度をW(本/2.54cm)、経糸の繊度をDT(デシテックス)、緯糸の繊度をDW(デシテックス)とするとき下記式により表される指標である。
CF=T×(DT)1/2+W×(DW)1/2
【0020】
本発明の保温積層体は図1のように立毛面と親水性繊維を含む紡績糸からなる高密度織物の両面リバーシブルの構成となっている。立毛布帛の内側は疎水性合成繊維よりなる高密度織物が配置されており立毛布帛ではカバーしきれない中綿の吹出しを抑制している。夏季など高温高湿環境においては親水性繊維を含む紡績糸からなる高密度織物を肌側面として使用し吸汗・吸湿、接触冷感効果を利用し、冬季など低温環境においては立毛側を肌側面として使用し立毛による空気層による保温性向上、接触温感効果を利用し積層体と人体の空間環境(寝床内気候、衣服内気候)を適正化することが出来る。
【0021】
また冬季に目付の大きい立毛面を肌側に用いることにより人体へのフィット性が向上し寝返りなど体位変化においても寝具/人体間の空間空気の移動が少なく保温性を損ねることがない。また立毛の効果によるソフトな触感と肌面への接触面積が大きくなることによる吸湿性向上効果で蒸れ感、冷感を感じることなく快適な睡眠が可能となる。逆に夏季には親水性繊維を含む紡績糸からなる高密度織物面を肌面に使用することにより、高密度織物の特徴である、比較的曲げ難い効果で寝具/人体間の空間空気層も大きくなり寝返りなど体位変化による換気が行なわれ、蒸れ感も抑制することが出来る。高密度織物は熱しやすく冷めやすく(熱伝導性が高い、接触冷感がある)、立毛布帛は高密度織物対比で熱しにくく冷めにくい(熱伝導性が低い、接触温感がある)為、これらの相乗効果も相俟って快適な寝心地を消費者に提供することが可能である。
【実施例】
【0022】
以下実施例に従い、本発明を更に詳細に説明する。尚、本文中及び実施例中の特性値は下記評価方法によるものである。また言うまでもないが本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0023】
(寝床内温湿度)
特開平10−332683号公報に記載された衣服内気候シミュレーション装置により計測した。尚、衣服内気候シミュレーション装置の概要及び計測条件は以下の通りである。発汗孔を有する基体及び産熱体からなる産熱発汗機構、発汗孔に水を供給するための送水機構、産熱体の温度を制御する産熱制御機構、温湿度センサーから構成される。基体は黄銅製で面積120cm2、発汗孔が6個付与されており、面状ヒーターからなる産熱体によって一定温度に制御される。送水機構にはチューブポンプを用いて一定水量を基体の発汗孔に送り出す。基体表面に厚み0.1〜0.6mmのポリエステルフィラメント織物からなる模擬皮膚を張り付けることによって発汗孔から吐出された水が基体表面全体に広がり、発汗状態を作り出す。本基体の周囲には高さ1cmの外枠が設けられている。温湿度センサーは基体と試料の間の空間に設置され、基体が発汗状態の時の「基体と試料と外枠で囲まれた空間」の温湿度を測定し寝床内温湿度とした。測定条件は10℃、環境湿度50%RH、基体温度37℃、発汗量80g/(m2・時)で発汗時間40分とした。測定用試料は測定環境下で24時間の調温湿を実施した後、測定に供した。
【0024】
(積層体厚さ)
ノギスを用いて積層体の端の4つの辺の中央部の厚さ(mm)を目視の厚さをなるべく変化させないようにそれぞれ3回ずつ測定した。総測定回数12回の算術平均値を積層体厚さ(mm)とした。
(積層体目付)
積層体の全重量(g)を計量し、積層体のサイズ(タテ×ヨコ)を計測して面積(m2)を算出し、全重量(g)を面積(m2)で除して目付(g/m2)を求めた。
(積層体嵩比重)
上記積層体厚さ(mm単位をm単位に換算)と上記積層体目付(g/m2)から積層体嵩比重(g/m3)を算出した。
【0025】
(保温性)
JIS L1096記載の方法に準じて保温率を評価した。使用した装置は大栄科学精器製作所製ASTM−100型保温性試験機であり、発熱体表面温度36℃、環境温湿度20℃×65%RHの各条件において、保温率とClo値(真のClo値)を算出した。
【0026】
(通気性)
JIS L1096 A法(フラジール形法)記載の方法に準じ通気性(cm3/cm2・秒)を評価した。環境温湿度は20℃×65%RHである。
【0027】
(実施例1)
綿コーマ紡績糸60/1(英式綿番手60番単糸、98デシテックス相当)を織物の経糸、緯糸双方に用いエアージェットルームで経糸密度150本/2.54cm、緯糸密度84本/2.54cmに平組織を製織し、得られた平織織物生機を両面ガス毛焼き、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による精練漂白を実施した後、ヒートセッターによるプレセットを実施し、拡布及び布目矯正を行なった。得られた晒生地を用い反応染料による公知の捺染加工を実施した後、裏面にシレーカレンダー加工を施して仕上げた。(以下、綿100%平織生地Aと称する)得られた綿100%平織生地Aの通気度は1.2cm3/(cm2・秒)である。
【0028】
ポリエステルマルチフィラメントの仮撚加工糸78デシテックス216フィラメントを織物の経糸、緯糸双方に用いウォータージェットルームで経糸密度150本/2.54cm、緯糸密度93本/2.54cmに製織して得られたタフタ織物生機(平織タフタ)を水酸化ナトリウム水溶液による連続精練を実施した後、ヒートセッターによるプレセット、拡布及び布目矯正を実施した後、裏面プラストカレンダー処理をして仕上げた。(以下、ポリエステルタフタ生地Bと称する)得られたポリエステルタフタ生地Bの通気度は0.6cm3/(cm2・秒)である。
【0029】
立毛カットパイル糸(パイル経糸)が改質アクリレート系吸放湿繊維(日本エクスラン工業社製 商品名エクス)とアクリル繊維からなる混紡紡績糸、地糸が綿カード糸で構成された両面シール織物を立毛布帛Cとし、綿平織生地A、ポリエステルタフタ生地B、立毛布帛Cをそれぞれ積層してキルト縫製し、AとBからなる空間層にダウン85重量%、フェザー15重量%からなる羽毛を吹込み中綿充填材とした。得られた積層体は片面から綿平織生地A/羽毛/ポリエステルタフタ生地B/立毛布帛Cの順に積層構成されてなるものであり、積層体厚さは20mm、積層体の嵩比重は55000g/m3、立毛布帛Cを肌面とした際のASTM法による保温性は85.5%、真のClo値は5.1Cloであり、充分な保温性を示すものとなった。
【0030】
積層体は通常市販の羽毛布団対比、中綿羽毛充填量が少ない為にコンパクトに収納可能なものとなり両面リバーシブル(立毛布帛側、高密度織物(平滑)側)に仕様となっており気候に応じて肌面に使用する側を適宜選択して使用することが可能である。また積層体自体非常に曲げ易いものであり人体に沿って変形し易く、立毛面を肌側に用いた場合は人体/積層体間の空間空気量を少なく留められるものとなった。また高密度織物面を肌側に用いた場合は人体/積層体間に空隙が生じ易く、体位変化による換気効果を期待出来るものであった(寝床内温湿度変化図4、図5参照)。
【0031】
(実施例2)
綿コーマ紡績糸80/1(英式綿番手80番単糸、74デシテックス相当)を織物の経糸として、綿コーマ紡績糸60/1(英式綿番手60番単糸、98デシテックス相当)を織物の緯糸として用い、エアージェットルームで経糸密度190本/2.54cm、緯糸密度120本/2.54cmに製織して得られた五枚経朱子(4/1(3飛び)サテン)織物生機を両面ガス毛焼き、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による精練漂白を実施した後、ヒートセッターによるプレセットを実施し、拡布及び布目矯正を行なった。得られた晒生地を用い反応染料による公知の捺染加工を実施した後、裏面にシレーカレンダー加工を施して仕上げた。(以下、綿100%サテン生地Aと称する)得られた綿100%サテン生地Aの通気度は2.1cm3/(cm2・秒)である。
【0032】
ポリエステルマルチフィラメントの仮撚加工糸78デシテックス216フィラメントを織物の経糸、緯糸双方に用いウォータージェットルームで経糸密度150本/2.54cm、緯糸密度93本/2.54cmに製織して得られたタフタ織物生機(平織タフタ)を水酸化ナトリウム水溶液による連続精練を実施した後、ヒートセッターによるプレセット、拡布及び布目矯正を実施した後、裏面プラストカレンダー処理をして仕上げた。(以下、ポリエステルタフタ生地Bと称する)得られたポリエステルタフタ生地Bの通気度は0.6cm3/(cm2・秒)である。
【0033】
立毛カットパイル糸(パイル経糸)がアクリレート系吸放湿繊維(日本エクスラン工業社製 商品名エクス)とアクリル繊維からなる混紡紡績糸、地糸が綿コーマ糸で構成された両面シール織物を立毛布帛Cとし、綿サテン生地A、ポリエステルタフタ生地B、立毛布帛Cをそれぞれ積層してキルト縫製し、AとBからなる空間層にダウン85重量%、フェザー15重量%からなる羽毛を吹込み中綿充填材とした。得られた積層体は片面から綿平織生地A/羽毛/ポリエステルタフタ生地B/立毛布帛Cの順に積層構成されてなるものであり、積層体厚さは20mm、積層体の嵩比重は48500g/m3、立毛布帛Cを肌面とした際のASTM法による保温性は83.5%、真のClo値は5.0Cloであり、充分な保温性を示すものとなった。
【0034】
積層体は実施例1同様、通常市販の羽毛布団対比で中綿羽毛充填量が少ない為にコンパクトに収納可能なものとなり両面リバーシブル(立毛布帛側、高密度織物(平滑)側)に仕様となっており気候に応じて肌面に使用する側を適宜選択して使用することが可能である。また積層体自体非常に曲げ易いものであり人体に沿って変形し易く、立毛面を肌側に用いた場合は人体/積層体間の空間空気量を少なく留められるものとなった。また高密度織物面を肌側に用いた場合は人体/積層体間に空隙が生じ易く、体位変化による換気効果を期待出来るものであった(寝床内温湿度変化図4、図5参照)。
【0035】
(比較例1)
実施例1及び実施例2で用いた綿平織生地(綿コーマ紡績糸60/1使い)、綿サテン生地(経・綿コーマ紡績糸80/1、緯・綿コーマ紡績糸60/1使い)を用いてキルト縫製し、綿平織生地と綿サテン生地からなる空間層にダウン85重量%、フェザー15重量%からなる羽毛を吹込み中綿充填材とした。得られた積層体の厚さは65mm、積層体の嵩比重は27000g/m3、綿平織生地を肌面とした際のASTM法による保温性は87.0%、真のClo値は5.7Cloであり充分な保温性を示すものであったが、嵩高く収納性に乏しいものであった。また使用した生地重量は実施例1、2対比で非常に小さく留まるが、充分な保温性、嵩高性を確保する為に中綿充填材である羽毛の使用量を多くした為、価格的にも高価なものとなった。
【0036】
積層体は中綿羽毛充填量が多いため嵩高く、押入れなどに収納の際は非常にスペースを取るものであった。積層体自体は中綿充填材が多く厚みが大きいため、曲げ難く人体に沿って変形し難難い故に人体/積層体間の空間空気量が多くなり、寝返りなどの体位変化による空間空気の移動が生じやすく、冬季使用時には冷え感を感じやすいものとなった。また寝床内温湿度の観点では、寝床内温度は実施例1、2同様の挙動を示すが、寝床内湿度は実施例1、2対比で高くなり、蒸れ感を生じさせるものとなった(寝床内温湿度変化図4、図5参照)。
【0037】
(比較例2)
中綿充填材(羽毛)充填量を増加させた他は実施例1と同様の方法で積層体を得た。得られた積層体の厚さは25mm、嵩比重は89000g/m3、立毛布帛Cを肌面とした際のASTM法による保温性は87.7%、真のClo値は6.0Cloと充分な保温特性を示すものであったが、比較例1同様、中綿充填材(羽毛)の量を多くした為に価格的に高価なものとなる他、曲げ難く人体に沿って変形し難いものであった。また嵩高いため、押入れなどへの収納性に乏しい他、積層体自体の重量が大であり、寝心地を損ねるものであった。
【0038】
(比較例3)
中綿充填材(羽毛)充填量を増加させた他は実施例1と同様の方法で積層体を得た。得られた積層体の厚さは10mm、嵩比重は34000g/m3、立毛布帛Cを肌面とした際のASTM法による保温性は76.5%、真のClo値は4.0Cloと中綿充填材(羽毛)の量を少なく留めた為、積層体の重量自体が非常に軽量であり、収納性も良いものであったが保温性能に乏しく、特に冬季使用時においては冷え感を感じやすいものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば季節に応じて使用面を変更することにより長期にわたって使用することが出来、人体へのフィット性を向上させて布団と人体との空間(隙間)を少なくし、体位の変化(寝返りなど)による空間空気の移動量を少なくすることにより保温性を向上させ、尚且つコンパクト収納が可能になるなどの効果を有する保温積層体が得られる。また嵩が小さいにも係わらず、市販の高価な羽毛布団とほぼ同等の保温性、睡眠快適性を得ることが可能であり、掛け布団など一般寝具用として好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の積層体の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の積層体に用いる立毛布帛(織物)の組織図の一例(ファーストパイル)を示す。
【図3】本発明の積層体に用いる立毛布帛(織物)の組織図の他の一例(ルーズパイル)を示す。
【図4】実施例1、2及び比較例1の10℃×50%RH環境(冬季使用を考慮)における寝床内温度曲線である。尚、実施例1、2は立毛布帛Cを肌側に、比較例1は綿平織生地綿を肌側として設定した。
【図5】実施例1、2及び比較例1の10℃×50%RH環境(冬季使用を考慮)における寝床内湿度曲線である。尚、実施例1、2は立毛布帛Cを肌側に、比較例1は綿平織生地綿を肌側として設定した。
【符号の説明】
【0041】
1:親水性繊維を含む紡績糸からなる高密度織物
2:中綿充填材
3:疎水性合成繊維マルチヂラメント糸からなる高密度織物
4:立毛布帛

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性繊維を含む紡績糸からなる高密度織物A、疎水性合成繊維マルチフィラメント糸からなる高密度織物B、親水性繊維を含む紡績糸を用いてなる立毛布帛Cを積層し、高密度織物Aと高密度織物Bの間に中綿が充填されてなり、高密度織物Aと立毛布帛Cが表皮層をなす積層体であって、積層体嵩比重が35000g/m3以上60000g/m3以下、立毛布帛Cを肌側とした際のASTM法による保温性が80%以上、Clo値(真のClo値)が4.5Clo以上であることを特徴とする保温積層体。
【請求項2】
疎水性合成繊維の単繊維繊度が0.1デシテックス以上2.5デシテックス以下であり、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン繊維から選択される少なくとも1種類の素材からなり、高密度織物Bの通気度が1.5cm3/(cm2・秒)以下であることを特徴とする請求項1記載の保温積層体。
【請求項3】
親水性繊維がセルロース系繊維であり、親水性繊維を含む紡績糸からなる高密度織物Aの通気度が2.5cm3/(cm2・秒)以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の保温積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−89858(P2007−89858A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283881(P2005−283881)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】