説明

保護フィルム、および保護フィルム付き成形体

【課題】微細凹凸構造が表面に形成された成形体に貼着しやすく、かつ粘着剤が微細凹凸構造の内部に残留しにくい保護フィルム、およびこれを備えた保護フィルム付き成形体を提供する。
【解決手段】多官能(メタ)アクリレートと光重合開始剤とを含む光重合性組成物の硬化物からなる粘着剤層12と基材フィルム11とを備えた保護フィルム10の粘着剤層12が、微細凹凸構造が表面に形成された成形体20の該表面に貼着していることを特徴とする保護フィルム付き成形体1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に微細凹凸構造を有する光学フィルムなどの成形体の表面を保護するのに好適な保護フィルム、および保護フィルム付き成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種ディスプレー、レンズ、ショーウィンドーなどの空気と接する界面(表面)では、太陽光や照明等が表面で反射することによる視認性の低下が問題点となっていた。
反射を減らすために、例えば反射防止フィルムを対象物の表面に貼着することがある。従って、反射防止フィルムには、反射率や反射率の波長依存性が低いことが求められる。
【0003】
反射防止フィルムとしては、フィルム表面での反射光と、フィルムと対象物の界面での反射光とが干渉によって打ち消し合うように、屈折率の異なる数層のフィルムが積層した構造のものが知られている。通常、フィルムの積層数を増やすと、反射率や反射率の波長依存性が低くなる傾向にある。
これらのフィルムは、通常、スパッタリング、蒸着、コーティング等の方法で製造される。しかし、このような方法では、フィルムの積層数を増やしても反射率及び反射率の波長依存性の低下には限界があった。また、製造コスト削減を目的としてフィルムの積層数を減らすためには、より低屈折率の材料が求められていた。
【0004】
材料の屈折率を下げるためには、何らかの方法で材料中に空気を導入することが有効であるが、その一つとして、例えばフィルムの表面に微細凹凸構造を形成する方法が知られている。特に、可視光の波長以下の周期の微細凹凸構造、いわゆるMoth−Eye構造と呼ばれる微細凹凸構造は、空気の屈折率から材料の屈折率に連続的に増大していくことで有効な反射防止の手段となる。
【0005】
材料表面に微細凹凸構造を形成する方法としては、材料の表面を直接加工する方法、微細凹凸構造に対応した反転構造を有する鋳型を用いて、この構造を転写する転写法などがあり、生産性、経済性の点から、後者の方法が優れている。鋳型に反転構造を形成する方法としては、電子線描画法、レーザー光干渉法等が知られているが、近年、より簡便に製造できる鋳型として、陽極酸化により形成された微細凹凸構造を有するアルミナが注目されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、細孔周期が50〜300nmの微細凹凸構造が表面に形成された陽極酸化ポーラスアルミナを鋳型として用いて製造した反射防止膜が開示されている。
【0006】
通常、表面に微細凹凸構造が形成されたフィルムなどの成形体には、表面に汚れ等が付着するのを防いだり、微細凹凸構造の形状を維持(保護)したりすることを目的として、使用されるまでの間、微細凹凸構造が形成された表面に保護フィルムが貼着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−156695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のように、陽極酸化ポーラスアルミナの表面に形成された可視光の波長以下の周期の微細凹凸構造を転写して、表面にMoth−Eye構造の微細凹凸構造を形成した成形体では、通常の微細凹凸構造に比べて凸部間の間隔(周期)が狭く、成形体と保護フィルムとの貼着面積が小さい。そのため、保護フィルムを貼着するのが困難であった。従って、保護フィルムを貼着するには、通常よりも粘着力の強い粘着剤等を含有した粘着剤層を備えた保護フィルム(強粘着保護フィルム)を用いる必要がある。
【0009】
また、特にMoth−Eye構造の微細凹凸構造の表面に保護フィルムを貼着すると、強度が経時的に増加し、次第に保護フィルムが剥離しにくくなる挙動が明らかになった。これは、時間が経過するにつれて保護フィルムの粘着剤が微細凹凸構造の内部に侵入していくことが原因である。
さらに、保護フィルムを剥離した後も、微細凹凸構造の内部に粘着剤が残留し(糊残り)、その結果、微細凹凸構造が持つ光学性能が低下するといった問題があった。
このような糊残りの現象は、保護フィルムの粘着剤の粘着力が強いほど、また保護フィルムを成形体に貼着している時間が長くなるほど顕著であった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、微細凹凸構造が表面に形成された成形体に貼着しやすく、かつ粘着剤が微細凹凸構造の内部に残留しにくい保護フィルム、およびこれを備えた保護フィルム付き成形体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の保護フィルムは、微細凹凸構造が表面に形成された成形体の該表面を保護する、基材フィルムと粘着剤層とを備えた保護フィルムであって、前記粘着剤層が、多官能(メタ)アクリレートと光重合開始剤とを含む光重合性組成物の硬化物からなることを特徴とする。
また、前記、多官能(メタ)アクリレートが、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーであることが好ましい。
さらに、前記光重合性組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)が、25℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましい。
また、本発明の積層体は、前記保護フィルムの粘着剤層が、前記成形体の微細凹凸構造側の表面に貼着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、微細凹凸構造が表面に形成された成形体に貼着しやすく、かつ粘着剤が微細凹凸構造の内部に残留しにくい保護フィルム、およびこれを備えた保護フィルム付き成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の保護フィルム付き成形体の一例を示す縦断面図である。
【図2】本発明の保護フィルムを貼着する成形体の一例を示す縦断面図である。
【図3】表面に陽極酸化アルミナを有するスタンパの製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の保護フィルム10が成形体20の表面に貼着した保護フィルム付き成形体1の一例を示す縦断面図である。
なお、図2において、図1と同じ構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する場合がある。また、図1〜3においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせてある。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートを意味する。
【0015】
[保護フィルム]
本発明の保護フィルムは、図1に示すように微細凹凸構造が表面に形成された成形体20の該表面を保護するものであり、この例の保護フィルム10は、基材フィルム11と、該基材フィルム11の一方の面に形成された粘着剤層12と、他方の面に形成された離型処理層13とを備える。
【0016】
<基材フィルム>
基材フィルム11としては、プラスチックフィルムが適宜用いられる。
プラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスチレンフィルムなどが挙げられる。また、これらのフィルムを単独または2種以上を混合したプラスチックフィルムも含まれる。さらには、上記フィルムを複数積層したフィルムをプラスチックフィルムとして用いてもよい。
【0017】
基材フィルム11の厚さは、特に制限されないが、加工性の点から通常10〜200μmとすることが好ましく、15〜100μmとすることがより好ましく、20〜70μmとすることが特に好ましい。基材フィルム11の厚さが10μm未満であると、保護フィルム付き成形体1から保護フィルム10を剥離する際の強度や、保護フィルム10の表面保護機能が不十分となる傾向がある。一方、基材フィルム11の厚さが200μmを超えると、取り扱い性やコスト面で不利になる傾向がある。
【0018】
また、基材フィルム11は、片面もしくは両面が粗面化されていてもよい。
基材フィルム11の表面の粗面化は、例えば基材フィルム11を構成する原料中に、天然ゼオライト、合成ゼオライト、天然シリカ、合成シリカ、架橋PMMA、超高分子量PEなどのアンチブロッキング剤、ブロックポリエチレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ランダムPP、ゴム成分とリアクターブレンドされたPP、エチレン・αオレフィン共重合体、プロピレン・αオレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・αオレフィン共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、6−ナイロン、12−ナイロンなどを配合することで行うことができる。
【0019】
また、基材フィルム11は、劣化防止等を目的に、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤、帯電防止剤を含んでいてもよい。さらに、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン等の充填剤、顔料、目ヤニ防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、発泡剤、ポリエチレンイミン等の添加剤を含んでいてもよい。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
さらに、基材フィルム11の表面には、粘着剤層12や離型処理層13との密着性を考慮して、例えばコロナ放電処理、紫外線照射処理、火炎処理、プラズマ処理や、スパッタエッチング処理等の粘着性の制御あるいは貼付作業性等を目的とした表面処理、易接着処理、下塗り処理を必要に応じて施すこともできる。
【0021】
<粘着剤層>
粘着剤層12は、光重合性組成物の硬化物からなる。
以下に、光重合性組成物について説明する。
本発明に用いる光重合性組成物は、重合性成分として多官能(メタ)アクリレートと、光重合開始剤とを含む。
ここで、「多官能(メタ)アクリレート」とは、(メタ)アクリロイル基を2つ以上有するものをいう。
【0022】
ここではまず、光重合性組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)について説明する。
本発明の保護フィルム10が機能するためには、粘着剤層12が、被着体である成形体20の表面構造、例えばMoth−Eye構造などの微細凹凸構造に対して、ある程度密着する必要がある。
本発明においては、粘着剤層12が後述する多官能(メタ)アクリレートを含む光重合性組成物の硬化物からなる。よって、粘着剤層12は成形体20の表面構造に対して適度な密着性を発現するが、粘着剤層12が成形体20により効果的に密着するには、粘着剤層12の表面形状が成形体20の表面構造(微細凹凸構造)に追従することや、粘着剤層12の表面と成形体20の表面が相互作用によって離れにくくなることが重要である。
【0023】
粘着剤層12の表面形状を成形体20の表面構造に追従させるには、使用環境下において、光重合性組成物の硬化物のTgよりも、粘着剤層12が温度の高い状態にあることが好ましい。粘着剤層12が光重合性組成物の硬化物のTgよりも温度の高い状態にあることで、粘着剤層12の分子にある程度の運動性が発現する。従って、成形体20のMoth−Eye構造などの微細凹凸構造に対して密着するのに十分な形状追従性を粘着剤層12に付与できる。
【0024】
保護フィルム10の使用環境下において、粘着剤層12が光重合性組成物の硬化物のTgよりも温度の高い状態を維持するには、硬化物となったときのTgが25℃以下である光重合性組成物を用いて粘着剤層12を形成するのが好ましく、より好ましくは0℃以下である。光重合性組成物の硬化物のTgが25℃以下、特に0℃以下であれば、十分な形状追従性を有する粘着剤層12を形成できる。
なお、光重合性組成物の硬化物のTgは、ポリマーハンドブック[Polymer HandBook(J.Brandrup、Interscience、1989)]等に記載されている値を用いてFOXの式から算出できる。
【0025】
一方、粘着剤層12の表面と成形体20の表面の相互作用によって密着性を発現させるためには、粘着剤層12の表面自由エネルギーを大きくすればよく、例えば極性の大きい部位を粘着剤層12に持たせることが好ましい。具体的には、ウレタン結合や、水酸基、ポリアルキレングリコール鎖、カルボン酸基、アミン等の極性の大きい部位を有する多官能(メタ)アクリレートを用いることで、成形体20に対する粘着剤層12の密着力を向上させることが可能である。
【0026】
以下、光重合性組成物の各成分について詳細に説明する。
(重合性成分)
多官能(メタ)アクリレート;
光重合性組成物は、重合性成分として多官能(メタ)アクリレートを含む。光重合性組成物が多官能(メタ)アクリレートを含むことで、成形体20の表面構造に対する適度な密着性を粘着剤層12に付与できると共に、形成される粘着剤層12に未反応モノマーが残留するのを抑制できる。未反応モノマーの残留を抑制することで、保護フィルム10として使用した際の成形体20への糊残りを防ぐことが可能になる。
【0027】
多官能(メタ)アクリレートとしては、ウレタン結合や、水酸基、ポリアルキレングリコール鎖、カルボン酸基等の極性の大きい部位を有するものが好ましい。このような多官能(メタ)アクリレートを用いることで、粘着剤層12の、成形体20に対する密着力をさらに向上させることが可能である。
【0028】
ウレタン結合を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(ウレタン(メタ)アクリレート)としては、例えば新中村化学工業株式会社製の「NKオリゴ U−200PA」、「NKオリゴ UA−4200」、ダイセル・サイテック株式会社製の「EBECRYL 230」、「EBECRYL 270」、「EBECRYL 8201」、「EBECRYL 8402」、「EBECRYL 9270」、「KRM 8296」、第一工業製薬株式会社製の「ニューフロンティア R−1220」、日本化薬株式会社製の「KAYARAD UXシリーズ」などが挙げられる。
【0029】
水酸基を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(エポキシ(メタ)アクリレート)としては、例えばダイセル・サイテック株式会社製の「EBECRYL 3105」、「EBECRYL 3420」、「EBECRYL 3701」、「EBECRYL 3708」、ナガセケムテックス株式会社製の「DA−141」、「DA−314」、「DA−911M」などが挙げられる。
【0030】
ポリアルキレングリコール鎖を有する多官能(メタ)アクリレート(ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート)しては、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルコキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アルコキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルコキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、アルコキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、アルコキシ化ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0031】
カルボン酸基を有する多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば東亞合成株式会社製の「アロニックス M510」、「アロニックス M520」などが挙げられる。
これら多官能(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
多官能(メタ)アクリレートの含有量は、重合性成分100質量%中、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。多官能(メタ)アクリレートの含有量が70質量%以上であれば、糊残りしにくい保護フィルム10が得られやすくなる。特に、保護フィルム10を成形体20に長時間、貼着しても、糊残りが起こりにくい。
【0033】
単官能(メタ)アクリレート、および他の重合性成分;
光重合性組成物は、重合性成分として、単官能(メタ)アクリレートや、該単官能(メタ)アクリレートおよび多官能(メタ)アクリレート以外の重合性成分(他の重合性成分)を含有してもよい。
【0034】
単官能(メタ)アクリレート、および他の重合性成分としては、共有結合によって粘着剤層12の中に固定化されるものであれば特に制限されないが、例えばアルキル(メタ)アクリレート(メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等)、ベンジル(メタ)アクリレート、脂環構造を有する(メタ)アクリレート(イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等)、アミノ基を有する(メタ)アクリレート(ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等)、水酸基を有する(メタ)アクリレート(ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等)、(メタ)アクリルアミド誘導体((メタ)アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等)、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、酢酸ビニルなどが挙げられる。
これら単官能(メタ)アクリレート、および他の重合性成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
単官能(メタ)アクリレート、および他の重合性成分の含有量は、重合性成分100質量%中、30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。これらの含有量が30質量%以下であれば、未反応のまま粘着剤層12に残留するのを抑制でき、糊残りしにくい保護フィルム10が得られる。特に、保護フィルム10を成形体20に長時間、貼着しても、糊残りが起こりにくい。
【0036】
(光重合開始剤)
光重合開始剤とは、活性エネルギー線を照射することで開裂し、重合反応を開始させるラジカルを発生する化合物である。活性エネルギー線としては、装置コストや生産性の点から、紫外線が好ましい。
【0037】
紫外線によってラジカルを発生する光重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、チオキサントン類(2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等)、アセトフェノン類(ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等)、ベンゾインエーテル類(ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等)、アシルホスフィンオキシド類(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド等)、メチルベンゾイルホルメート、1,7−ビスアクリジニルヘプタン、9−フェニルアクリジンなどが挙げられる。
【0038】
これら光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。併用する場合は、吸収波長の異なる2種以上を併用することが好ましい。
また、必要に応じて、過硫酸塩(過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等)、過酸化物(ベンゾイルパーオキシド等)、アゾ系開始剤等の熱重合開始剤を併用してもよい。
【0039】
光重合開始剤の含有量は、前記重合性成分100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましく、0.2〜3質量部がさらに好ましい。光重合開始剤の含有量が0.01質量部未満では、光重合性組成物の硬化が完結せず、未反応モノマーが成形体20の微細凹凸構造に移行して糊残りの原因になる場合がある。光重合開始剤の含有量が10質量部を超えると、硬化物内に未反応の光重合開始剤が残り、光重合開始剤自体が成形体20の微細凹凸構造に移行して糊残りの原因となる場合もある。また、着色の原因となる場合もある。
【0040】
(添加剤)
光重合性組成物は、公知の添加剤を含有していてもよく、例えば粘着付与剤、架橋剤・加硫剤、シランカップリング剤、着色剤、顔料等の粉体、染料、界面活性剤、可塑剤、表面潤滑剤、レベリング剤、軟化剤、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、無機または有機の充填剤、金属粉、粒子状、箔状物などを、使用する用途に応じて適宜添加することができる。また、制御できる範囲内で、還元剤を加えてのレドックス系を採用してもよい。
【0041】
粘着付与剤としては、例えば石油系樹脂、フエノール系樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂などが適宜使用できる。
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
架橋剤および加硫剤としては、例えばイソシアネート系架橋剤、チウラム系加硫剤、キノイド系加硫剤、キノンジオキシム加硫剤、マレイミド系加硫剤などを適宜使用することができる。
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
粘着剤層12の厚さは、2〜10μmであることが好ましく、2〜9μmであることがより好ましい。粘着剤層12の厚さ10μmを超えると、粘着力が高くなり過ぎ、保護フィルム付き成形体1から保護フィルム10剥離する際の作業性を低下させる場合がある。
【0044】
なお、粘着剤層12の表面には、必要に応じてコロナ処理、プラズマ処理などの易接着処理が施されていてもよい。
【0045】
<離型処理層>
離型処理層13は離型処理剤より形成される。
離型処理剤としては、例えばシリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、長鎖アルキル(炭素数12〜22のもの)系樹脂もしくは脂肪酸アミド系樹脂、またはこれらの変性体などが挙げられる。中でも、得られる特性およびコストの面などから、シリコーン系樹脂が好ましい。
これら離型処理剤は1種単独で用いもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
<保護フィルムの製造方法>
以下、本発明の保護フィルムの製造方法の一例について説明する。
本発明の保護フィルムは、粘着剤層の原料である光重合性組成物を基材フィルムに塗工して硬化させる方法が一般的であるが、必要に応じて各工程に既知の方法で改良を加えることが可能である。
【0047】
また、光重合性組成物の粘度が高い場合は、希釈剤で希釈することができ、希釈剤が溶剤である場合は希釈剤を乾燥する乾燥工程が必要となる。この乾燥工程は、基材フィルム上に塗工した光重合性組成物に活性エネルギー線を照射する前でもよいし、後でもよい。
希釈剤として用いることができる溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド、プロピレングリコールモノメチルエステル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルアセトアミド等の溶剤が挙げられる。
これら希釈剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
光重合性組成物を基材フィルムに塗工する方法としては、例えばバーコーター、スリットダイコーター、グラビアコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ナイフコーターなどを用いた方法が挙げられる。
【0049】
粘着剤層は、例えば基材フィルム上の光重合性組成物に活性エネルギー線を照射し、光重合反応を生じさせ、光重合性組成物を硬化させることで形成される。
活性エネルギー線は、前記光重合開始剤が有するラジカルを発生させるために必要な吸収波長の光を発生するものであれば特に限定されないが、例えば可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、熱線(赤外線等)等が挙げられる。中でも、装置コストや生産性の点から、使用する光源は主に紫外線を発生するものが好ましい。
【0050】
また、活性エネルギー線が紫外線の中でも比較的短波長側である場合は、表面硬化性が良い反面、深部硬化性が劣る傾向にある。逆に、紫外線の中でも長波長側の波長を利用する場合は深部硬化性が良い傾向になる。
光源の選択は、粘着剤層の厚みと重合開始剤の処方のバランスを考慮して選択する必要があり、必要に応じて数種類の光源を組み合わせることも可能である。
【0051】
光重合性組成物を硬化させるために用いることができる光源としては、例えば水銀UVランプ、UV−LEDランプ、メタルハライドランプ、希ガス蛍光ランプ、誘電体バリア放電エキシマランプ、キセノンランプなどが挙げられる。
【0052】
光重合性組成物を活性エネルギー線によって硬化させる場合、その照射量は光重合開始剤の添加量によって最適な範囲に設定されることが好ましい。照射量が少ないと未反応のモノマー成分が粘着剤層の中に残り、成形体20の微細凹凸構造への糊残りの原因となる場合がある。逆に、照射量が多すぎると、活性エネルギー線が基材フィルムや粘着剤層にダメージを与える場合がある。
【0053】
また、光重合性組成物を硬化させる際に、光重合性組成物が空気との界面を有する場合は、空気を不活性ガスで置換することが望ましい。これは、光重合性組成物が硬化時に酸素による硬化阻害を受けにくくするためである。粘着剤層の表面が酸素の影響で硬化不良を生じると、未反応のモノマー成分が粘着剤層の中に残り、成形体20の微細凹凸構造への糊残りの原因となる場合がある。
光重合性組成物を硬化させる際に使用することができる不活性ガスとしては、例えば窒素、アルゴン、二酸化炭素などが挙げられる。
また、不活性ガスを封入した際の硬化雰囲気の酸素濃度は、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0054】
なお、粘着剤層が露出する場合には、保護フィルムが実用に供されるまで剥離処理した剥離シートや剥離フィルム等のセパレーターで粘着剤層を保護してもよい。
セパレーターの構成材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルフィルムなどのプラスチックフィルム、紙、布、不織布等の多孔質材料、ネット、発泡シート、金属箔、およびこれらのラミネート体等の適宜な薄葉体などを挙げることができる。中でも、表面平滑性に優れる点からプラスチックフィルムが好適に用いられる。
【0055】
プラスチックフィルムとしては、粘着剤層を保護できるフィルムであれば特に限定されず、例えばポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルムなどが挙げられる。
【0056】
セパレーターの厚さは、通常5〜200μmであり、好ましくは5〜100μm程度である。
また、セパレーターには、必要に応じて、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、長鎖アルキル(炭素数12〜22のもの)系樹脂もしくは脂肪酸アミド系樹脂、またはこれらの変性体の離型剤、シリカ粉などによる剥離処理および防汚処理や、塗布型、練り込み型、蒸着型などの帯電防止処理を施してもよい。特に、セパレーターの表面にシリコーン処理、長鎖アルキル処理、フッ素処理などの剥離処理を適宜施すことにより、粘着剤層からの剥離性をより高めることができる。また、剥離処理したシートは、そのまま保護フィルムなどのセパレーターとして用いることができ、工程面における簡略化ができる。
【0057】
粘着剤層をセパレーターで保護する場合は、基材フィルム上に粘着剤層を形成した後に、該粘着剤層上にセパレーターを積層してもよいし、基材フィルムとセパレーターの間に未硬化の光重合性組成物を挟み込み、活性エネルギー線を照射して光重合性組成物を硬化して、基材フィルムとセパレーターの間に粘着剤層を形成してもよい。
【0058】
なお、図1に示すように、基材フィルム11の他方の面に離型処理層13が形成された保護フィルム10を製造する場合は、塗布や転写など、公知の離型処理層の形成手法を適宜用いることができる。
【0059】
以上説明したように、本発明の保護フィルムは、多官能(メタ)アクリレートを含む光重合性組成物の硬化物からなる粘着剤層を備えるので、微細凹凸構造が表面に形成された成形体の表面に貼着しやすく、かつ、剥離したときに粘着剤が微細凹凸構造の内部に残留しにくい。
特に、特定量の多官能(メタ)アクリレートを含む光重合性組成物の硬化物からなる粘着剤層を備えた保護フィルムであれば、成形体に長時間、貼着しても、粘着剤が微細凹凸構造の内部に残留しにくい。
本発明の保護フィルムは、Moth−Eye構造と呼ばれる微細凹凸構造が表面に形成された成形体の表面を保護するのに、特に好適である。
【0060】
[保護フィルム付き成形体]
本発明の保護フィルム付き成形体は、図1に示すように、本発明の保護フィルム10の粘着剤層12が、微細凹凸構造が表面に形成された成形体の、微細凹凸構造側の表面に貼着している。
【0061】
<成形体>
図1に示す成形体20は、基材21と、該基材21の一方の面(表面)に形成された、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物22とを有する。
基材21に用いられる材料としては、光を透過するものであれば特に限定されない。例えばメチルメタクリレート(共)重合体、ポリカーボネート、スチレン(共)重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、ガラスなどが挙げられる。
基材21は射出成形、押し出し成形、キャスト成形のいずれの方法によって作製してもよい。
【0062】
基材21の形状には特に制限はなく、製造する成形体20に応じて適宜選択できるが、例えば成形体20が反射防止フィルムなどである場合には、シート状またはフィルム状が好ましい。
また、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物との密着性や、帯電防止性、耐擦傷性、耐候性等の改良のために、基材21の表面には、例えば各種コーティングやコロナ放電処理が施されていてもよい。
【0063】
成形体20は、表面に微細凹凸構造を有する。成形体20は、表面全体に微細凹凸構造が形成されていてもよく、表面の一部に微細凹凸構造が形成されていてもよい。
なお、本明細書において、成形体20の面のうち微細凹凸構造が形成されている側の面を「成形体の表面」とし、これに対向した面を「成形体の裏面」とする。
【0064】
硬化物22の微細凹凸構造は、後述する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる複数の凸部を有するもので、例えば陽極酸化アルミナの表面の微細凹凸構造を転写して形成される。
微細凹凸構造としては、略円錐形状、角錐形状等の突起(凸部)が複数並んだ、いわゆるMoth−Eye構造が好ましい。表面に微細凹凸構造を有することで、防汚性に優れた成形体20が得られる。特に、凸部間の間隔が可視光の波長以下であるMoth−Eye構造は、空気の屈折率から材料の屈折率に連続的に屈折率が増大していくことで有効な反射防止の手段となる。
【0065】
ここで、「可視光の波長」とは400〜830nmの波長を意味する。また、「周期」とは、図2に示すように、微細凹凸構造の凸部23の中心からこれに隣接する凸部23の中心までの距離Wのことであり、本発明においては電子顕微鏡観察によって距離Wを10点測定し、これらの値を平均したものとする。
【0066】
微細凹凸構造の周期は、可視光の波長以下、すなわち400nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましい。微細凹凸構造の周期が可視光の波長以下であれば、反射率が低く、かつ反射率の波長依存性が少ない成形体20が得られる。
微細凹凸構造の周期は、凸部の形成のしやすさの点から、25nm以上が好ましく、80nm以上がより好ましい。
【0067】
凸部の高さは、100〜400nmが好ましく、150〜300nmがより好ましい。凸部の高さが100nm以上であれば、反射率が十分に低くなり、かつ反射率の波長依存性が少なくなると共に、防汚性にも優れるようになる。凸部の高さが400nm以下であれば、凸部の耐擦傷性が良好となる。
凸部の高さは、電子顕微鏡観察によって10個の凸部の高さ(図2中、凸部23の先端から、この凸部23に隣接する凹部24の底部までの垂直距離d)を測定し、これらの値を平均したものである。
【0068】
凸部のアスペクト比(凸部の高さ/凸部の底面の長さ)は、1.0〜5.0が好ましく、1.2〜4.0がより好ましく、1.5〜3.0が特に好ましい。凸部のアスペクト比が1.0以上であれば、反射率が十分に低くなるだけでなく、防汚性にも優れるようになる。凸部のアスペクト比が5.0以下であれば、凸部の耐擦傷性が良好となる。
なお、「凸部の底面の長さ」とは、図2中、凸部23の頂点から高さ方向に凸部23を切断したときの断面における底部の長さdのことである。
【0069】
凸部の形状は、高さ方向と直交する方向の凸部断面積が最表面から深さ方向に連続的に増加する形状、すなわち、凸部の高さ方向の断面形状が、三角形、台形、釣鐘型等の形状が好ましい。
【0070】
成形体20は、表面に微細凹凸構造を有するので、光学用途成形体、特に反射防止フィルムや立体形状の反射防止体などの反射防止物品として好適である。
成形体20が反射防止フィルムである場合には、例えば、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、陰極管表示装置のような画像表示装置、レンズ、ショーウィンドー、計器窓、採光部材、眼鏡レンズ、1/2波長板、ローパスフィルター等の対象物の表面に貼り付けて使用される。
成形体20が立体形状の反射防止体である場合には、あらかじめ用途に応じた形状の透明基材を用いて反射防止体を製造しておき、これを上記対象物の表面を構成する部材として使用することもできる。
また、対象物が画像表示装置である場合には、その表面に限らず、その前面板に対して反射防止フィルムを貼り付けてもよいし、前面板そのものを本発明の成形体から構成することもできる。
【0071】
その他にも、このような成形体20の用途としては、光導波路、レリーフホログラム、偏光分離素子、水晶デバイスなどの光学用途成形体や、細胞培養シート、超撥水性フィルム、超親水性フィルムなどが挙げられる。
【0072】
<保護フィルム付き成形体の製造方法>
本発明の保護フィルム付き成形体は、例えば微細凹凸構造が表面に形成されたスタンパと基材との間に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を充填し、基材側から活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させて、スタンパの表面構造が転写された硬化物が基材フィルム上に形成された成形体を製造した後、成形体の表面に保護フィルムを貼着することで製造できる。
【0073】
(スタンパ)
スタンパは、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に微細凹凸構造を転写させる型である。
スタンパの形状については特に制限されず、平板状でもよいし、ロール状でもよい。
スタンパとしては、表面に陽極酸化アルミナを有するものが好ましい。表面に陽極酸化アルミナを有するスタンパは、大面積化が可能である。
陽極酸化アルミナは、アルミニウムの多孔質の酸化皮膜(アルマイト)であり、表面に複数の細孔(凹部)を有する。
【0074】
表面に陽極酸化アルミナを有するスタンパは、例えば、下記(a)〜(f)工程を経て製造できる。
(a)アルミニウムを電解液中、定電圧下で陽極酸化して酸化皮膜を形成する工程。
(b)酸化皮膜を除去し、陽極酸化の細孔発生点を形成する工程。
(c)アルミニウムを電解液中、再度陽極酸化し、細孔発生点に細孔を有する酸化皮膜を形成する工程。
(d)細孔の径を拡大させる工程。
(e)アルミニウムを電解液中で再度陽極酸化する工程。
(f)前記(d)工程と(e)工程を繰り返し行う工程。
【0075】
(a)工程:
図3に示すように、アルミニウム30を陽極酸化すると、細孔31を有する酸化皮膜32が形成される。
アルミニウムの純度は、99%以上が好ましく、99.5%以上がより好ましく、99.8%以上が特に好ましい。アルミニウムの純度が低いと、陽極酸化した時に、不純物の偏析により可視光を散乱する大きさの凹凸構造が形成されたり、陽極酸化で得られる細孔の規則性が低下したりすることがある。
電解液としては、硫酸、シュウ酸、リン酸等が挙げられる。
【0076】
シュウ酸を電解液として用いる場合:
シュウ酸の濃度は、0.7M以下が好ましい。シュウ酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて酸化皮膜の表面が粗くなることがある。
化成電圧が30〜60Vの時、周期が100nmの規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向にある。
電解液の温度は、60℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましい。電解液の温度が60℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0077】
硫酸を電解液として用いる場合:
硫酸の濃度は0.7M以下が好ましい。硫酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて定電圧を維持できなくなることがある。
化成電圧が25〜30Vの時、周期が63nmの規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向がある。
電解液の温度は、30℃以下が好ましく、20℃以下がよりに好ましい。電解液の温度が30℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0078】
(b)工程:
図3に示すように、酸化皮膜32を一旦除去し、これを陽極酸化の細孔発生点33にすることで細孔の規則性を向上できる。
【0079】
(c)工程:
図3に示すように、酸化皮膜を除去したアルミニウム30を再度、陽極酸化すると、円柱状の細孔31を有する酸化皮膜32が形成される。
陽極酸化は、(a)工程と同様な条件で行えばよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
【0080】
(d)工程:
図3に示すように、細孔31の径を拡大させる処理(以下、細孔径拡大処理と記す。)を行う。細孔径拡大処理は、酸化皮膜を溶解する溶液に浸漬して陽極酸化で得られた細孔の径を拡大させる処理である。このような溶液としては、例えば、5質量%程度のリン酸水溶液等が挙げられる。
細孔径拡大処理の時間を長くするほど、細孔径は大きくなる。
【0081】
(e)工程:
図3に示すように、再度陽極酸化すると、円柱状の細孔31の底部から下に延びる、直径の小さい円柱状の細孔31がさらに形成される。
陽極酸化は、工程(a)と同様な条件で行えばよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
【0082】
(f)工程:
図3に示すように、工程(d)の細孔径拡大処理と、工程(e)の陽極酸化を繰り返すと、直径が開口部から深さ方向に連続的に減少する形状の細孔31を有する陽極酸化アルミナが形成され、表面に陽極酸化アルミナを有するスタンパ34が得られる。
繰り返し回数は、合計で3回以上が好ましく、5回以上がより好ましい。繰り返し回数が2回以下では、非連続的に細孔の直径が減少するため、このような細孔を有する陽極酸化アルミナを用いて製造された硬化物の反射率低減効果は不十分である。
【0083】
陽極酸化アルミナの表面は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物との分離が容易になるように、離型剤で処理されていてもよい。処理方法としては、例えば、シリコーン樹脂またはフッ素含有ポリマーをコーティングする方法、フッ素含有化合物を蒸着する方法、フッ素含有シランカップリング剤またはフッ素含有シリコーン系シランカップリング剤をコーティングする方法等が挙げられる。
【0084】
細孔31の形状としては、略円錐形状、角錐形状、円柱形状等が挙げられ、円錐形状、角錐形状等のように、深さ方向と直交する方向の細孔断面積が最表面から深さ方向に連続的に減少する形状が好ましい。
【0085】
細孔31間の平均間隔は、400nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましい。
細孔31の深さは、100〜400nmが好ましく、150〜300nmがより好ましい。
細孔31のアスペクト比(細孔の高さ/細孔の開口部の長さ)は、1〜5が好ましく、1.2〜4がより好ましく、1.5〜3が特に好ましい。
なお、細孔の開口部の長さとは、細孔の最深部から深さ方向に細孔を切断したときの切断面における開口の長さのことである。
【0086】
(活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、分子中にラジカル重合性結合および/またはカチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、反応性ポリマーを適宜含有するものであり、非反応性のポリマーを含有するものでもよい。
ラジカル重合性結合を有するモノマーとしては、特に限定されることなく使用できる。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート誘導体、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン誘導体、(メタ)アクリルアミド、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド誘導体等の単官能モノマー、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,2−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、1,4−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ブタン、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド等の二官能性モノマー、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド変性トリアクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、等の三官能モノマー、コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸の縮合反応混合物、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート等の多官能のモノマー、二官能以上のウレタンアクリレート、二官能以上のポリエステルアクリレートなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
カチオン重合性結合を有するモノマーとしては特に限定はないが、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基、ビニルオキシ基などを有するモノマーが挙げられ、これらの中でも特にエポキシ基を有するモノマーが好ましい。
オリゴマーおよび反応性ポリマーの例としては、不飽和ジカルボン酸と多価アルコールの縮合物などの不飽和ポリエステル類、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、カチオン重合型エポキシ化合物、側鎖にラジカル重合性結合を有する上述のモノマーの単独または共重合ポリマー等が挙げられる。
【0088】
本発明におけるカチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、反応性ポリマーは、カチオン重合性の官能基を有する化合物(カチオン重合性化合物)であれば特に限定されず、モノマー、オリゴマー、プレポリマーのいずれであってもよい。
カチオン重合性の官能基は、多くの種類が知られているが、中でも実用性の高い官能基として、エポキシ基やオキセタニル基などの環状エーテル基;ビニルエーテル基;カーボネート基(O−CO−O基)等が例示できる。
代表的なカチオン重合性化合物としては、エポキシ化合物やオキセタン化合物などの環状エーテル化合物;ビニルエーテル化合物;環状カーボネート化合物、ジチオカーボネート化合物などのカーボネート系化合物等が挙げられる。
【0089】
非反応性のポリマーとしては、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0090】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、通常、硬化のための重合開始剤を含有する。重合開始剤としては特に限定されず、公知のものが使用できる。
【0091】
光反応を利用する場合、光重合開始剤としてはラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤が挙げられる。
ラジカル重合開始剤としては、公知の活性エネルギー線を照射して酸を発生するものであれば特に制限なく利用でき、具体的にはアセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤などが挙げられる。
【0092】
アセトフェノン系光重合開始剤としては、アセトフェノン、p−(tert−ブチル)−1’,1’,1’−トリクロロアセトフェノン、クロロアセトフェノン、2’,2’−ジエトキシアセトフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2’−フェニルアセトフェノン、2−アミノアセトフェノン、ジアルキルアミノアセトフェノン等が挙げられる。
ベンゾイン系光重合開始剤としては、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。
ベンゾフェノン系光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、メチル−o−ベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキシプロピルベンゾフェノン、アクリルベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられる。
チオキサントン系光重合開始剤としては、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ジメチルチオキサントン等が挙げられる。
アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド、ビス2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0093】
また、その他のラジカル重合開始剤としては、α−アシルオキシムエステル、ベンジル−(o−エトキシカルボニル)−α−モノオキシム、グリオキシエステル、3−ケトクマリン、2−エチルアンスラキノン、カンファーキノン、テトラメチルチウラムスルフィド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシピバレート等が挙げられる。
これらラジカル重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
カチオン重合開始剤としては、公知の活性エネルギー線を照射して酸を発生するものであれば特に制限なく利用できるが、例えば、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩等を挙げることができる。
【0095】
スルホニウム塩としては、例えば、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(4−(ジフェニルスルホニオ)−フェニル)スルフィド−ビス(ヘキサフルオロホスフェート)、ビス(4−(ジフェニルスルホニオ)−フェニル)スルフィド−ビス(ヘキサフルオロアンチモネート)、4−ジ(p−トルイル)スルホニオ−4′−tert−ブチルフェニルカルボニル−ジフェニルスルフィドヘキサフルオロアンチモネート、7−ジ(p−トルイル)スルホニオ−2−イソプロピルチオキサントンヘキサフルオロホスフェート、7−ジ(p−トルイル)スルホニオ−2−イソプロピルチオキサントンヘキサフルオロアンチモネート等を挙げることができる。
ヨードニウム塩としては、例えば、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等を挙げることができる。
ホスホニウム塩としては、例えば、テトラフルオロホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート等を挙げることができる。
【0096】
熱反応を利用する場合、熱重合開始剤の具体例としては、例えばメチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物;前記有機過酸化物にN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン等のアミンを組み合わせたレドックス重合開始剤等が挙げられる。
【0097】
重合開始剤の添加量は活性エネルギー線硬化性樹脂組成物100質量部に対して0.1〜10質量部である。0.1質量部以上であると、重合が進行しやすく、10質量部以下であると、得られる硬化物が着色したり、機械強度が低下したりすることがない。
【0098】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物には、上述したもの以外に、帯電防止剤、離型剤、防汚性を向上させるためのフッ素化合物などの添加剤、微粒子、少量の溶剤などが添加されていてもよい。
【0099】
以上説明したように、本発明の保護フィルム付き成形体は、本発明の保護フィルムが成形体に貼着しているので、保護フィルムを剥離したときに粘着剤が微細凹凸構造の内部に残留しにくい。
【実施例】
【0100】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0101】
[実施例1]
<成形体の製造>
(スタンパの作製)
純度99.99%のアルミニウム板を、羽布研磨および過塩素酸/エタノール混合溶液(1/4体積比)中で電解研磨し、鏡面化した。
【0102】
工程(a):
該アルミニウム板について、0.3Mシュウ酸水溶液中で、直流40V、温度16℃の条件で30分間陽極酸化を行った。
工程(b):
酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、6質量%リン酸/1.8質量%クロム酸混合水溶液に6時間浸漬して、酸化皮膜を除去した。
工程(c):
該アルミニウム板について、0.3Mシュウ酸水溶液中、直流40V、温度16℃の条件で30秒陽極酸化を行った。
工程(d):
酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、32℃の5質量%リン酸に8分間浸漬して、細孔径拡大処理を行った。
工程(e):
該アルミニウム板について、0.3Mシュウ酸水溶液中、直流40V、温度16℃の条件で30秒陽極酸化を行った。
工程(f):
工程(d)および工程(e)を合計で4回繰り返し、最後に工程(d)を行い、平均間隔:100nm、深さ:180nmの略円錐形状の細孔を有する陽極酸化アルミナが表面に形成されたスタンパを得た。
【0103】
ついで、得られたスタンパを脱イオン水で洗浄した後、表面の水分をエアーブローで除去し、離形剤(ダイキン工業株式会社製、「オプツールDSX」)を固形分0.1質量%になるように、希釈剤(株式会社ハーベス製、「HD−ZV」)で希釈した溶液に10分間浸漬し、溶液から引き上げて20時間風乾して離型剤で処理されたスタンパを得た。
【0104】
(成形体の製造)
基材として、易接着層付PETフィルム(三菱樹脂株式会社製、「W32A」)を用いた。
先に得られたスタンパと基材との間に、下記の組成の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を挟み込み、フュージョンUVランプ(Dバルブ)(フュージョンUVシステムズ・ジャパン株式会社製)で、照射量がおよそ1000mJ/cmになるように活性エネルギー線を照射した後、スタンパを剥離し、スタンパの表面構造が転写された、Moth−Eye構造を表面に有する硬化物と、易接着PETフィルムとが一体化した成形体を得た。
【0105】
(活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)
トリメチロールエタンアクリル酸・無水コハク酸縮合エステル:45質量部、
ヘキサンジオールジアクリレート:45質量部、
信越化学工業株式会社製、「x−22−1602」:10質量部、
BASFジャパン株式会社製、「イルガキュア184」:2.7質量部、
BASFジャパン株式会社製、「イルガキュア819」:0.18質量部。
【0106】
<保護フィルムの製造>
基材フィルムとして易接着層付PETフィルム(三菱樹脂株式会社製、「W32A」)を用いた。
下記の組成の光重合性組成物100質量部に対して、希釈剤としてメチルエチルケトンを20質量部加えた後、基材フィルム上にバーコーター(テスター産業株式会社製、「ROD No.20」)で塗工し、希釈剤が完全に揮発するまで乾燥させた。
ついで、酸素濃度を1000ppm以下に制御した窒素雰囲気下、フュージョンUVランプ(Dバルブ)(フュージョンUVシステムズ・ジャパン社製)で、照射量がおよそ1000mJ/cmになるように活性エネルギー線を照射して、光重合性組成物の硬化物からなる粘着剤層が基材フィルム上に形成された保護フィルムを得た。
【0107】
(光重合性組成物)
第一工業製薬株式会社製、「ニューフロンティア R−1220」:80質量部、
ダイセル・サイテック株式会社製、「EBECRYL 3701」:20質量部、
BASFジャパン株式会社製、「イルガキュア 184」:3.0質量部。
【0108】
ここで、第一工業製薬株式会社製の「ニューフロンティア R−1220」は、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)がカタログ値で−11℃である2官能のウレタンアクリレート、ダイセル・サイテック株式会社製の「EBECRYL 3701」は、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)がカタログ値で52℃である2官能のエポキシアクリレートである。
よって、Foxの式から算出される光重合性組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)は−0.4℃である。
【0109】
<保護フィルム付き成形体の製造および評価>
先に得られた成形体と保護フィルムを5cmの幅で短冊状に切り、保護フィルムの粘着剤層が成形体の微細凹凸構造側の表面に貼着するように、重量2kgのゴムローラーを使用して貼り付け、保護フィルム付き成形体を得た。
このときの保護フィルムの成形体に対する密着性が良好である場合を「○」、密着性が不十分である場合を「×」として、保護フィルムの密着性を評価した。
また、保護フィルム付き成形体から保護フィルムを容易に剥離できた場合を「○」、剥離しにくかった場合を「×」として、保護フィルムの剥離性を評価した。
さらに、保護フィルム付き成形体の製造直後に保護フィルムを剥離して成形体を電子顕微鏡にて観察し、成形体のMoth−Eye構造内部に糊残りがない場合を「○」、糊残りが発生した場合を「×」として、初期の糊残りを評価した。
また、成形体に保護フィルムを貼り付けた状態で24時間経過後に保護フィルムを剥離して成形体を電子顕微鏡にて観察し、成形体のMoth−Eye構造内部に糊残りがない場合を「○」、糊残りが発生した場合を「×」として、24時間後の糊残りを評価した。
これら結果を表1に示す。
【0110】
[実施例2]
粘着剤層を構成する光重合性組成物を下記の組成に変更した以外は、実施例1と同様にして保護フィルムを製造し、該保護フィルムを用いて保護フィルム付き成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0111】
(光重合性組成物)
ダイセル・サイテック株式会社製、「EBECRYL 8402」:80質量部、
ダイセル・サイテック株式会社製、「EBECRYL 3701」:20質量部、
BASFジャパン株式会社製、「イルガキュア 184」:3.0質量部。
【0112】
ここで、ダイセル・サイテック株式会社製の「EBECRYL 8402」は、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)がカタログ値で14℃の2官能のウレタンアクリレート、ダイセル・サイテック株式会社製の「EBECRYL 3701」は、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)がカタログ値で52℃である2官能のエポキシアクリレートである。
よって、Foxの式から算出される光重合性組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)は20.9℃である。
【0113】
[実施例3]
粘着剤層を構成する光重合性組成物を下記の組成に変更した以外は、実施例1と同様にして保護フィルムを製造し、該保護フィルムを用いて保護フィルム付き成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0114】
(光重合性組成物)
ダイセル・サイテック株式会社製、「EBECRYL 8402」:80質量部、
第一工業製薬株式会社製、「ニューフロンティア ME−4S」:20質量部、
BASFジャパン株式会社製、「イルガキュア 184」:3.0質量部。
【0115】
ここで、ダイセル・サイテック株式会社製の「EBECRYL 8402」はホモポリマーのガラス転移温度(Tg)がカタログ値で14℃の2官能のウレタンアクリレート、第一工業製薬株式会社製の「ニューフロンティア ME−4S」はホモポリマーのガラス転移温度(Tg)がカタログ値で−68℃である単官能のメトキシポリエチレングリコールアクリレートである。
よって、Foxの式から算出される光重合性組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)は−7.3℃である。
【0116】
[比較例1]
保護フィルムとして、多官能(メタ)アクリレートを含む光重合性組成物の硬化物から構成されていない粘着剤層を備えた、市販の光学用保護フィルム(リンテック株式会社製、「KPF−1」)を用いた以外は、実施例1と同様にして保護フィルム付き成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
表1から明らかなように、実施例1〜3で得られた保護フィルムは、成形体表面に対して適した密着性を有し、かつ容易に剥離可能で、外観に変化がなかった。また、保護フィルムを剥離しても、Moth−Eye構造内部に糊残りがないことを確認した。
特に実施例1、2の場合、保護フィルムを貼り付けた状態で24時間経過後に保護フィルムを剥がしたところ、初期と同様に容易に剥離可能で、外観に変化がなく、Moth−Eye構造内部に糊残りがないことを確認した。
なお、実施例3の場合、保護フィルムを貼り付けた状態で24時間経過後に保護フィルムを剥がしたところ、外観で反射率の上昇が認められ、Moth−Eye構造内部に糊残りが発生していた。これは、単官能アクリレートである第一工業製薬株式会社製の「ニューフロンティア ME−4S」の割合が多かったため、未反応モノマー成分が粘着剤層に残ってしまい、時間の経過と共に成形体の微細凹凸構造内部に移行して糊残りの原因となったと考えられる。
【0119】
一方、比較例1の場合、保護フィルムは成形体表面に対して適した密着性を有していたが、保護フィルムを貼り付けた直後に剥離したところ、外観で反射率の上昇が確認され、Moth−Eye構造の有する反射防止性能が著しく低下したことを確認した。これは、保護フィルムの粘着剤がMoth−Eye構造内部に移行し、糊残りが発生したことによるものと考えられる。
なお、比較例1においては、初期の段階で糊残りが発生したため、24時間後の糊残りの評価は行わなかった。
【0120】
以上の結果より、本発明の保護フィルムは、従来の一般的な光学用保護フィルムに対して優位性があることが示された。また、保護フィルムの粘着剤層に多官能(メタ)アクリレートを用いることで、成形体への糊残りを防止できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の保護フィルムは、Moth−Eye構造等の微細凹凸構造を有する成形体に対して糊残りがなく、優れた性能を発揮する。
従って、本発明の保護フィルムは、テレビ、携帯電話、携帯ゲ−ム機等の液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイや、有機エレクトロルミネッセンス(EL)などを構成する光学フィルムのMoth−Eye構造等の微細凹凸構造を保護する保護フィルムとして好適であり、工業的に極めて有用である。
【符号の説明】
【0122】
1 保護フィルム付き成形体
10 保護フィルム
11 基材フィルム
12 粘着剤層
13 離型処理層
20 成形体
21 基材
22 硬化物
23 凸部
24 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細凹凸構造が表面に形成された成形体の該表面を保護する、基材フィルムと粘着剤層とを備えた保護フィルムであって、
前記粘着剤層が、多官能(メタ)アクリレートと光重合開始剤とを含む光重合性組成物の硬化物からなることを特徴とする保護フィルム。
【請求項2】
前記、多官能(メタ)アクリレートが、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーであることを特徴とする請求項1に記載の保護フィルム。
【請求項3】
前記光重合性組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)が、25℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の保護フィルム。
【請求項4】
前記光重合性組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)が、0℃以下であることを特徴とする請求項3に記載の保護フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の保護フィルムの粘着剤層が、前記成形体の微細凹凸構造側の表面に貼着していることを特徴とする保護フィルム付き成形体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−143936(P2012−143936A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3040(P2011−3040)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】