説明

保護素子及びバッテリーパック

【課題】 特定の通電経路のみから通電があった場合であっても、確実に全てのヒューズエレメントを溶断した後に発熱抵抗体の発熱を停止させることができる保護素子を提供する。
【解決手段】 保護素子は、複数のヒューズエレメント12a,12bのうち特定のヒューズエレメントが接続されている特定の通電経路から通電があった場合に、他のヒューズエレメントが特定のヒューズエレメントよりも先に溶断するように、これら複数のヒューズエレメント12a,12bの溶断時間が制御可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常時に低融点金属体の溶断によって電流を遮断する保護素子、及び当該保護素子が搭載されるバッテリーパックに関する。
【背景技術】
【0002】
過電流だけでなく過電圧も防止するために使用できる保護素子として、基板上に発熱抵抗体と低融点金属体(ヒューズエレメント)とを積層した保護素子が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2等参照。)。これら特許文献1及び特許文献2に記載された保護素子においては、異常時に発熱抵抗体に通電がなされ、当該発熱抵抗体が発熱することによってヒューズエレメントが溶融する。そして、この保護素子においては、溶融したヒューズエレメントが、当該ヒューズエレメントが載置されている電極表面に対する濡れ性のよさに起因して電極上に引き寄せられる。その結果、保護素子においては、ヒューズエレメントが溶断されて電流が遮断されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2790433号公報
【特許文献2】特許第3067011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、保護素子においては、ヒューズエレメントに対して複数の通電経路(電源入力)がある場合、すなわち、全ての通電経路の遮断を目的とした構成の場合において、特定の通電経路から通電がない場合には、一定の確率でその通電経路が遮断されないことがある。
【0005】
具体的に、図5に示すように、3つのヒューズエレメント用電極101a,101b,101c間に、2つのヒューズエレメント102a,102bが架け渡されるように配設されており、中央のヒューズエレメント用電極101bと発熱抵抗体用電極103との間に発熱抵抗体104が接続されて構成された保護素子を考える。この保護素子においては、両側のヒューズエレメント用電極101a,101cのそれぞれから中央のヒューズエレメント用電極101bへと向かう2つの経路が通電経路とされる。この場合、保護素子においては、図5中1段目に示すように、2つの通電経路の双方から通電がなされ、発熱抵抗体104が発熱した場合には、図5中2段目に示すように、2つのヒューズエレメント102a,102bの双方が溶断することにより、全ての通電経路が遮断し、発熱抵抗体104の発熱が停止することになる。
【0006】
ここで、図6中1段目に示すように、左側のヒューズエレメント用電極101aから中央のヒューズエレメント用電極101bへと向かう一方の通電経路のみから通電がなされ、発熱抵抗体104が発熱した場合を考える。この場合、保護素子においては、図6中2段目左側に示すように、通電がない方のヒューズエレメント102bが先に溶断した場合には、図6中3段目に示すように、通電がなされた方のヒューズエレメント102aも溶断して全ての通電経路が遮断し、発熱抵抗体104の発熱が停止する。しかしながら、保護素子においては、図6中2段目右側に示すように、通電がなされた方のヒューズエレメント102aが先に溶断してしまった場合には、通電がない方のヒューズエレメント102bが溶断することができず、全ての通電経路が遮断されない事態を招来する。保護素子においては、ヒューズエレメントが2個の場合には、このような事態が1/2の確率で発生し、ヒューズエレメントの個数に応じた確率で発生する。
【0007】
このような事態は、例えば図7に示すように、ノートブック型のパーソナルコンピュータ等の電子機器本体に着脱されるバッテリーパックに搭載される保護素子110にみられる。すなわち、このようなバッテリーパックにおいては、通常はセル側と電子機器本体の充電器側との双方からの通電があることが想定されているが、バッテリーパックを電子機器本体から取り外した場合には、保護素子110に充電器が接続されていない状態となる。したがって、このような場合、保護素子110においては、充電器側からの通電がない状態となり、図6中2段目右側に示したような事態を招来することがあった。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、特定の通電経路のみから通電があった場合であっても、確実に全てのヒューズエレメントを溶断した後に発熱抵抗体の発熱を停止させることができる保護素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成する本発明にかかる保護素子は、通電経路の入力となる複数の電極間に複数のヒューズエレメントが配設され、通電された発熱体の発熱による上記ヒューズエレメントの溶断によって電流が遮断される保護素子において、上記複数のヒューズエレメントのうち特定のヒューズエレメントが接続されている特定の通電経路から通電があった場合に、他のヒューズエレメントが上記特定のヒューズエレメントよりも先に溶断するように、上記複数のヒューズエレメントの溶断時間が制御可能に構成されており、上記特定のヒューズエレメントが接続されている上記特定の電極は、上記複数の電極のうち、必ず通電がある通電経路の入力となる電極であり、上記特定のヒューズエレメントの溶断時間が他のヒューズエレメントの溶断時間よりも長くなるように、上記複数のヒューズエレメントのそれぞれから上記発熱体までの距離に差があることを特徴としている。
【0010】
このような本発明にかかる保護素子においては、ヒューズエレメントの溶断時間を制御することができる。換言すれば、本発明にかかる保護素子は、複数のヒューズエレメントのうち、溶断時間が長いヒューズエレメントを特定可能な構成とされる。そのため、本発明にかかる保護素子においては、溶断時間が長い特定のヒューズエレメントが接続されている通電経路から通電があった場合には、その他の全てのヒューズエレメントを先に溶断することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶断時間が長い特定のヒューズエレメントが接続されている通電経路から通電があった場合には、その他の全てのヒューズエレメントを先に溶断することができることから、その他の通電経路からの通電がなかった場合であっても、当該特定のヒューズエレメントが溶断した後、すなわち、全てのヒューズエレメントが確実に溶断した後に、発熱体への通電を遮断して発熱を停止させることができ、安全性を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態として示す保護素子の内部構造を説明する平面図である。
【図2】本発明の実施の形態として示す保護素子の内部構造を説明する断面図である。
【図3】本発明の実施の形態として示す保護素子の回路構成を説明する図である。
【図4】実施例6として作製した保護素子の内部構造を説明する平面図である。
【図5】従来の保護素子の回路構成を説明する図である。
【図6】従来の保護素子の回路構成を説明する図であり、一方の通電経路のみから通電がなされた様子を説明するための図である。
【図7】従来の保護素子が搭載されるバッテリーパックの回路構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
この実施の形態は、異常時に低融点金属体(ヒューズエレメント)の溶断によって電流を遮断する保護素子である。特に、この保護素子は、ベース基板上に形成された通電経路の入力となる複数の電極間に複数のヒューズエレメントが配設された構成とされ、各ヒューズエレメントの溶断時間を制御することにより、特定の通電経路から通電があった場合には、全てのヒューズエレメントを溶断した後に発熱抵抗体の発熱を停止させることができるものである。
【0015】
まず、本発明の具体的な内容の説明に先立って、本発明を適用する保護素子の基本的な構成について説明する。
【0016】
保護素子は、図1に平面図及び図2に断面図を示すように、所定の大きさのベース基板11上に、溶断によって電流を遮断するヒューズエレメント12と、異常時に発熱してヒューズエレメント12を溶融するための発熱抵抗体(ヒーター)13とが近接して配設されている。
【0017】
ベース基板11としては、絶縁性を有する材質のものであればいかなるものであってもよく、例えば、セラミックス基板やガラスエポキシ基板のようなプリント配線基板に用いられる基板の他、ガラス基板、樹脂基板、絶縁処理金属基板等を用いることができる。なお、これらの中で、耐熱性に優れ、熱良伝導性の絶縁基板であるセラミックス基板が好適である。
【0018】
また、ヒューズエレメント12としては、従来からヒューズ材料として使用されている種々の低融点金属体を用いることができ、例えば、特許第3067011号公報の表1に記載の合金等を用いることができる。具体的には、ヒューズエレメント12を形成する低融点金属としては、SnSb合金、BiSnPb合金、BiPbSn合金、BiPb合金、BiSn合金、SnPb合金、SnAg合金、PbIn合金、ZnAl合金、InSn合金、PbAgSn合金等を挙げることができる。また、ヒューズエレメント12の形状は、薄片状であってもよく、棒状であってもよい。
【0019】
さらに、発熱抵抗体13は、例えば、酸化ルテニウムやカーボンブラック等の導電材料と、水ガラス等の無機系バインダや熱硬化性樹脂等の有機系バインダとからなる抵抗ペーストを塗布し、必要に応じて焼成することによって形成される。また、発熱抵抗体13としては、酸化ルテニウムやカーボンブラック等の薄膜を、印刷、メッキ、蒸着、スパッタの工程を経て形成してもよく、これらフィルムの貼付や積層等によって形成してもよい。
【0020】
また、保護素子において、ベース基板11の表面には、ヒューズエレメント12と電気的に接続された3つのヒューズエレメント用電極14a,14b,14cと、発熱抵抗体13と電気的に接続された発熱抵抗体用電極15とが形成されている。これらヒューズエレメント用電極14a,14b,14c及び発熱抵抗体用電極15は、それぞれ、ガラス等の絶縁膜16を介して、発熱抵抗体13と絶縁された状態に配設されている。
【0021】
ヒューズエレメント用電極14a,14b,14cは、それぞれ、溶融したヒューズエレメント12が流れ込むこととなる電極である。これらヒューズエレメント用電極14a,14b,14cの構成材料については特に制限はなく、溶融状態のヒューズエレメント12と濡れ性が良好である金属からなるものを使用することができる。例えば、ヒューズエレメント用電極14a,14b,14cとしては、銅等の金属単体や、少なくとも表面がAg、Ag−Pt、Ag−Pd、Au等から形成されているものを用いることができる。
【0022】
なお、本発明においては、ヒューズエレメント12の溶断時間を制御するために、後述するように、ヒューズエレメント用電極14a,14b,14cの間で、ヒューズエレメント12との濡れ性を変化させることがある。これについては、後に詳述するものとする。
【0023】
一方、発熱抵抗体用電極15は、溶融状態のヒューズエレメント12との濡れ性を考慮する必要はないが、通常はヒューズエレメント用電極14a,14b,14cと一括して形成されるため、これらヒューズエレメント用電極14a,14b,14cと同様の材料から形成される。
【0024】
また、ヒューズエレメント用電極14a,14b,14c及び発熱抵抗体用電極15には、それぞれ、特に図示しないが、外部端子としての役割を果たすリードが接続されている。このリードは、扁平加工線や丸線等の金属製の線材からなり、半田付けや溶接等によってヒューズエレメント用電極14a,14b,14c及び発熱抵抗体用電極15のそれぞれに取り付けることにより、これらと電気的に接続される。保護素子においては、このようなリード付きの形態を採用する場合、リードの位置を左右対称にすることにより、取り付け作業時に取り付け面を意識することなく作業することが可能となる。
【0025】
さらに、ヒューズエレメント12の上には、特に図示しないが、その表面酸化を防止するために、フラックス等からなる封止部材を設けてもよい。フラックスとしては、ロジン系フラックス等、公知のフラックスをいずれも使用することができ、粘度等も任意である。
【0026】
なお、保護素子は、チップ部品として製造する場合には、例えば4,6−ナイロンや液晶ポリマー製等のキャップ部材によって被覆されて提供される。
【0027】
このような保護素子の回路構成は、図3に示すように表現することができる。すなわち、保護素子は、3つのヒューズエレメント用電極14a,14b,14c間に、低融点金属体からなる2つのヒューズエレメント12a,12bが架け渡されるように配設され、中央のヒューズエレメント用電極14bと発熱抵抗体用電極15との間に発熱抵抗体13が接続されて構成される。すなわち、この保護素子は、両側のヒューズエレメント用電極14a,14cのいずれか又は両方から中央のヒューズエレメント用電極14bへと向かう2つの経路が通電経路とされる。
【0028】
したがって、この保護素子においては、2つの通電経路の双方から通電がなされ、発熱抵抗体13が発熱すると、ヒューズエレメント用電極14a,14b間のヒューズエレメント12aと、ヒューズエレメント用電極14b,14c間のヒューズエレメント12bとが溶断し、被保護装置への通電を遮断するとともに、発熱抵抗体13への通電も遮断する。
【0029】
さて、本発明においては、このような保護素子におけるヒューズエレメント12a,12bのそれぞれの溶断時間を制御することにより、2つの通電経路のうち特定の通電経路から通電があった場合には、全てのヒューズエレメント12a,12bを溶断した後に発熱抵抗体13の発熱を停止させる。特に、保護素子は、「必ず最後に溶断するヒューズエレメント」を特定することができる構成とし、少なくともそのヒューズエレメントが接続されている通電経路から通電があった場合には、その他の全てのヒューズエレメントを先に溶断する。
【0030】
ここで、ヒューズエレメント12a,12bのそれぞれの溶断時間は、これらヒューズエレメント12a,12bの特性が互いに異なるように構成したり、ヒューズエレメント12a,12bに作用する発熱抵抗体13の特性を変更したり、ヒューズエレメント12a,12bが溶融した場合に流れ込むこととなるヒューズエレメント用電極14a,14b,14cの特性を変更したりすることにより、制御することができる。具体的には、ヒューズエレメント12a,12bのそれぞれの溶断時間は、主に以下の6つの方法のいずれか又は組み合わせによって制御することができる。
【0031】
まず、第1の方法は、各ヒューズエレメント12a,12bの断面積(幅及び/又は厚み)等、物理的形状に差を設けることである。例えば、保護素子においては、ヒューズエレメント12bの断面積よりもヒューズエレメント12aの断面積を大きくすることにより、ヒューズエレメント12aの溶断時間を、ヒューズエレメント12bの溶断時間よりも長くすることができる。また、保護素子においては、ヒューズエレメント12aとヒューズエレメント12bとの形状そのものを異なるものとすることによっても、これらヒューズエレメント12a,12bのそれぞれの溶断時間を異なるものとすることができる。
【0032】
また、第2の方法は、各ヒューズエレメント12a,12bから発熱抵抗体13までの距離に差を設けることである。例えば、保護素子においては、ヒューズエレメント12bから発熱抵抗体13までの距離よりも、ヒューズエレメント12aから発熱抵抗体13までの距離を長くすることにより、ヒューズエレメント12aの溶断時間を、ヒューズエレメント12bの溶断時間よりも長くすることができる。なお、これらヒューズエレメント12a,12bのそれぞれから発熱抵抗体13までの距離は、平面上での間隔のみを意味するものではなく、発熱抵抗体13を熱源とする伝熱経路となる絶縁膜16の厚み方向の間隔等、3次元的な空間距離を意味する。したがって、保護素子においては、例えば、絶縁膜16の厚みを、ヒューズエレメント用電極14a,14b間とヒューズエレメント用電極14b,14b間とで変化させることにより、ヒューズエレメント12a,12bのそれぞれから発熱抵抗体13までの距離に差を設けてもよく、また、ヒューズエレメント12a,12bのうち一方のヒューズエレメントを、絶縁膜16から浮くような形状にフォーミングする等してヒューズエレメント12a,12bのそれぞれから発熱抵抗体13までの距離に差を設けてもよい。
【0033】
さらに、第3の方法は、各ヒューズエレメント12a,12bと、これらヒューズエレメント12a,12bが溶融した場合に流れ込むこととなるヒューズエレメント用電極14a,14b,14cとの濡れ性に差を設けることである。例えば、保護素子においては、ヒューズエレメント12bと、このヒューズエレメント12bが溶融した場合に流れ込むこととなるヒューズエレメント用電極14b,14cとの濡れ性よりも、ヒューズエレメント12aと、このヒューズエレメント12aが溶融した場合に流れ込むこととなるヒューズエレメント用電極14a,14bとの濡れ性を低下させるようにすることにより、ヒューズエレメント12aの溶断時間を、ヒューズエレメント12bの溶断時間よりも長くすることができる。このような濡れ性は、ヒューズエレメント用電極14a,14b,14cの金属組成を調整することによって変化させることができ、また、ヒューズエレメント12a,12bの金属組成を調整することによっても変化させることができる。
【0034】
さらにまた、第4の方法は、各ヒューズエレメント12a,12b又は発熱抵抗体13に近接する部位の熱容量、熱伝導性や放熱性等、熱的性質に差を設けることである。例えば、保護素子においては、ヒューズエレメント12aに近接する部位の熱容量よりも、ヒューズエレメント12bに近接する部位の熱容量を小さくすることにより、ヒューズエレメント12aの溶断時間を、ヒューズエレメント12bの溶断時間よりも長くすることができる。このような熱的性質は、例えば、ヒューズエレメント12a,12bのうち一方のヒューズエレメント用の電極近傍に銅塊等の他の金属体を接続したり、ベース基板11の一部の内層に金属層を設けたり、ベース基板11の一部にガラス材等を多く混合したりする等の方法によって変化させることができる。
【0035】
また、第5の方法は、各ヒューズエレメント12a,12bの融点に差を設けることである。例えば、保護素子においては、ヒューズエレメント12bの融点よりも、ヒューズエレメント12aの融点を高くするように、低融点金属体を選択することにより、ヒューズエレメント12aの溶断時間を、ヒューズエレメント12bの溶断時間よりも長くすることができる。
【0036】
さらに、第6の方法は、複数の発熱抵抗体を配設し、これら各発熱抵抗体の発熱量に差を設けることである。例えば、保護素子においては、ヒューズエレメント12aに近い位置に配設した発熱抵抗体の発熱量よりも、ヒューズエレメント12bに近い位置に配設した発熱抵抗体の発熱量を大きくするように、発熱抵抗体を選択することにより、ヒューズエレメント12aの溶断時間を、ヒューズエレメント12bの溶断時間よりも長くすることができる。このような発熱抵抗体の発熱量は、発熱抵抗体の抵抗値を調整することによっても変化させることができる。
【0037】
保護素子においては、このような6つの方法のいずれか又は組み合わせにより、ヒューズエレメント12a,12bのそれぞれの溶断時間を制御することができる。換言すれば、保護素子は、2つのヒューズエレメント12a,12bのうち、溶断時間が長いヒューズエレメント、すなわち、「必ず最後に溶断するヒューズエレメント」を特定可能な構成となる。そのため、保護素子においては、少なくとも「必ず最後に溶断するヒューズエレメント」が接続されている通電経路から通電があった場合には、その他の全てのヒューズエレメントを先に溶断することができる。これは、少なくとも「必ず最後に溶断するヒューズエレメント」が接続されている通電経路から通電があった場合には、当該「必ず最後に溶断するヒューズエレメント」が溶断すれば全ての通電経路を遮断することが可能であることを意味している。
【0038】
したがって、保護素子においては、「必ず最後に溶断するヒューズエレメント」を「必ず通電がある側の通電経路」の入力となる特定のヒューズエレメント用電極に接続することにより、その他の通電経路からの通電がなかった場合であっても、当該「必ず最後に溶断するヒューズエレメント」が溶断した後、すなわち、全てのヒューズエレメント12a,12bが確実に溶断した後に、発熱抵抗体13への通電を遮断して発熱を停止させることができ、安全性を大幅に向上させることができる。特に、保護素子においては、上述した6つの方法を単独で適用するのではなく、複数の方法を組み合わせることにより、各ヒューズエレメント12a,12bの溶断時間を柔軟に制御することが可能となることから、その効果は増大し、より安全性を高めることができる。
【0039】
このような保護素子は、例えばノートブック型のパーソナルコンピュータ等の電子機器本体に着脱されるバッテリーパックに搭載して好適である。すなわち、バッテリーパックにおいては、セル側が「必ず通電がある側の通電経路」に相当する。この場合、バッテリーパックにおいては、「必ず最後に溶断するヒューズエレメント」をセル側に接続することにより、当該バッテリーパックを電子機器本体から取り外すことによって充電器側から通電がない状態であったとしても、動作時には全てのヒューズエレメントを確実に溶断することが可能となり、安全性を大幅に向上させることができる。
【0040】
なお、上述した実施の形態では、2つのヒューズエレメント12a,12bがある場合について説明したが、本発明は、3個以上のヒューズエレメントがある場合であっても同様に適用することができる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【0041】
[実施例]
本願発明者は、保護素子を実際に作製し、通電試験を行ってヒューズエレメントの溶断の有無を観察した。保護素子は、先に図1乃至図3に示した構成に準じたものを比較例として作製するとともに、上述した第1の方法乃至第6の方法のそれぞれにしたがって、比較例としての保護素子の構成を変化させたものを実施例1乃至実施例6として作製した。以下では、説明の便宜上、上述した各部材と同一部材については、同一符号を付して説明するものとする。
【0042】
(比較例)
幅3mm×長さ5mm×厚み0.5mmのアルミナセラミックス基板をベース基板11とし、この上に、ヒューズエレメント12a,12b、発熱抵抗体13、ヒューズエレメント用電極14a,14b,14c、発熱抵抗体用電極15、及び絶縁膜16を形成した。
【0043】
ヒューズエレメント12a,12bは、SnSb合金(Sn:Sb=95:5、液相点240℃)からなる幅1mm×長さ4mm×厚み0.1mmの低融点金属箔を用いた。また、発熱抵抗体13は、酸化ルテニウム系の発熱抵抗材ペースト(商品名DP1900;デュポン社製)をベース基板11上に印刷し、850℃で30分焼成することによって形成した。この発熱抵抗体13のパターン抵抗値は5Ωであった。
【0044】
さらに、ヒューズエレメント用電極14a,14b,14cは、Ag−Ptペースト(商品名5164N;デュポン社製)をベース基板11上に印刷し、850℃で30分焼成することによって形成した。さらにまた、発熱抵抗体用電極15は、Ag−Pdペースト(商品名6177T;デュポン社製)をベース基板11上に印刷し、850℃で30分焼成することによって形成した。また、絶縁膜16としては、ガラス系無機ペーストをベース基板11上に印刷することによって形成した。
【0045】
このような保護素子を10個作製し、ヒューズエレメント用電極14a側のみから通電し、ヒューズエレメント12a,12bの溶断の有無を観察した。その結果、10個中5個の保護素子において、ヒューズエレメント用電極14b,14c間のヒューズエレメント12bが溶断する前に、ヒューズエレメント用電極14a,14b間のヒューズエレメント12aが溶断し、ヒューズエレメント12bが未溶断のまま、通電(発熱抵抗体13の発熱)が停止した。すなわち、比較例として作製した保護素子においては、確率50%で、通電がない方のヒューズエレメント12bが未溶断のまま残り、全ての通電経路が遮断されない結果となった。
【0046】
(実施例1)
実施例1は、上述した第1の方法にしたがって、各ヒューズエレメント12a,12bの断面積に差を設けて保護素子を作製した例である。すなわち、この実施例1では、ヒューズエレメント用電極14b,14c間のヒューズエレメント12bの幅を0.7mmに形成する一方で、ヒューズエレメント用電極14a,14b間のヒューズエレメント12aの幅を1mmに形成し、保護素子を作製した。その他の構成は、比較例と同様である。
【0047】
このような保護素子を10個作製し、ヒューズエレメント用電極14a側のみから通電し、ヒューズエレメント12a,12bの溶断の有無を観察した。その結果、評価した10個全ての保護素子において、ヒューズエレメント用電極14b,14c間のヒューズエレメント12bが先に溶断し、その後、ヒューズエレメント用電極14a,14b間のヒューズエレメント12aが溶断して通電が停止した。なお、実施例1の補足として、ヒューズエレメント用電極14b,14c間のヒューズエレメント12bの幅を0.8mmに形成した保護素子を作製し、同様の通電を行ったところ、10個中2個の保護素子において、ヒューズエレメント12bが未溶断となった。すなわち、この実施例1から、各ヒューズエレメント12a,12bの断面積に差を設けることは有効であり、その差が大きいほど効果が大きいことが確認できた。
【0048】
(実施例2)
実施例2は、上述した第2の方法にしたがって、各ヒューズエレメント12a,12bから発熱抵抗体13までの距離に差を設けて保護素子を作製した例である。すなわち、この実施例2では、ヒューズエレメント用電極14a,14b,14cの並び方向の略中央位置に配設されている発熱抵抗体13の位置を、ヒューズエレメント用電極14c側に0.1mmだけシフトし、保護素子を作製した。その他の構成は、比較例と同様である。
【0049】
このような保護素子を10個作製し、ヒューズエレメント用電極14a側のみから通電し、ヒューズエレメント12a,12bの溶断の有無を観察した。その結果、評価した10個全ての保護素子において、ヒューズエレメント用電極14b,14c間のヒューズエレメント12bが先に溶断し、その後、ヒューズエレメント用電極14a,14b間のヒューズエレメント12aが溶断して通電が停止した。なお、実施例2の補足として、発熱抵抗体13のシフト量を0.05mmと小さくした保護素子を作製し、同様の通電を行ったところ、10個中3個の保護素子において、ヒューズエレメント12bが未溶断となった。すなわち、この実施例2から、各ヒューズエレメント12a,12bから発熱抵抗体13までの距離に差を設けることは有効であり、その差が大きいほど効果が大きいことが確認できた。
【0050】
(実施例3)
実施例3は、上述した第3の方法にしたがって、各ヒューズエレメント12a,12bと、ヒューズエレメント用電極14a,14b,14cとの濡れ性に差を設けて保護素子を作製した例である。すなわち、この実施例3では、ヒューズエレメント用電極14cの表面全領域とヒューズエレメント用電極14bのうちヒューズエレメント用電極14c側の表面半分領域とに対して金メッキを施し、保護素子を作製した。その他の構成は、比較例と同様である。
【0051】
このような保護素子を10個作製し、ヒューズエレメント用電極14a側のみから通電し、ヒューズエレメント12a,12bの溶断の有無を観察した。その結果、評価した10個全ての保護素子において、ヒューズエレメント用電極14b,14c間のヒューズエレメント12bが先に溶断し、その後、ヒューズエレメント用電極14a,14b間のヒューズエレメント12aが溶断して通電が停止した。すなわち、この実施例3から、各ヒューズエレメント12a,12bと、ヒューズエレメント用電極14a,14b,14cとの濡れ性に差を設けることは有効であることが確認できた。
【0052】
(実施例4)
実施例4は、上述した第4の方法にしたがって、各ヒューズエレメント12a,12b又は発熱抵抗体13に近接する部位の熱的性質に差を設けて保護素子を作製した例である。すなわち、この実施例4では、ヒューズエレメント用電極14aの近傍に幅0.5mm×長さ0.5mm×厚み0.5mmの銅塊を半田付けして接続し、保護素子を作製した。その他の構成は、比較例と同様である。
【0053】
このような保護素子を10個作製し、ヒューズエレメント用電極14a側のみから通電し、ヒューズエレメント12a,12bの溶断の有無を観察した。その結果、評価した10個全ての保護素子において、ヒューズエレメント用電極14b,14c間のヒューズエレメント12bが先に溶断し、その後、ヒューズエレメント用電極14a,14b間のヒューズエレメント12aが溶断して通電が停止した。すなわち、この実施例4から、各ヒューズエレメント12a,12b又は発熱抵抗体13に近接する部位の熱的性質に差を設けることは有効であることが確認できた。
【0054】
(実施例5)
実施例5は、上述した第5の方法にしたがって、各ヒューズエレメント12a,12bの融点に差を設けて保護素子を作製した例である。すなわち、この実施例5では、ヒューズエレメント用電極14b,14c間のヒューズエレメント12bをSnAg合金(Sn:Ag=96.5:3.5、液相点221℃)に代えて、保護素子を作製した。その他の構成は、比較例と同様である。
【0055】
このような保護素子を10個作製し、ヒューズエレメント用電極14a側のみから通電し、ヒューズエレメント12a,12bの溶断の有無を観察した。その結果、評価した10個全ての保護素子において、ヒューズエレメント用電極14b,14c間のヒューズエレメント12bが先に溶断し、その後、ヒューズエレメント用電極14a,14b間のヒューズエレメント12aが溶断して通電が停止した。すなわち、この実施例5から、各ヒューズエレメント12a,12bの融点に差を設けることは有効であることが確認できた。
【0056】
(実施例6)
実施例6は、上述した第6の方法にしたがって、複数の発熱抵抗体を配設し、これら各発熱抵抗体の発熱量に差を設けて保護素子を作製した例である。すなわち、この実施例6では、図4に示すように、抵抗値が異なる2つの発熱抵抗体13a,13bを直列でヒューズエレメント用電極14a,14b間とヒューズエレメント用電極14b,14c間とに配設し、保護素子を作製した。ヒューズエレメント12aに近い位置に配設されている発熱抵抗体13aの抵抗値は2Ωとし、ヒューズエレメント12bに近い位置に配設されている発熱抵抗体13bの抵抗値は3Ωとした。その他の構成は、比較例と同様である。
【0057】
このような保護素子を10個作製し、1Aの定電流でヒューズエレメント用電極14a側のみから通電し、ヒューズエレメント12a,12bの溶断の有無を観察した。その結果、評価した10個全ての保護素子において、ヒューズエレメント用電極14b,14c間のヒューズエレメント12bが先に溶断し、その後、ヒューズエレメント用電極14a,14b間のヒューズエレメント12aが溶断して通電が停止した。なお、実施例6の補足として、ヒューズエレメント用電極14a,14b間の発熱抵抗体13aの抵抗値を2.5Ωと大きくした保護素子を作製し、同様の通電を行ったところ、10個中1個の保護素子において、ヒューズエレメント12bが未溶断となった。すなわち、この実施例6から、発熱量が異なる複数の発熱抵抗体を配設することは有効であり、発熱量の差が大きいほど効果が大きいことが確認できた。
【符号の説明】
【0058】
11 ベース基板
12,12a,12b ヒューズエレメント
13,13a,13b 発熱抵抗体
14a,14b,14c ヒューズエレメント用電極
15 発熱抵抗体用電極
16 絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電経路の入力となる複数の電極間に複数のヒューズエレメントが配設され、通電された発熱体の発熱による上記ヒューズエレメントの溶断によって電流が遮断される保護素子において、
上記複数のヒューズエレメントのうち特定のヒューズエレメントが接続されている特定の通電経路から通電があった場合に、他のヒューズエレメントが上記特定のヒューズエレメントよりも先に溶断するように、上記複数のヒューズエレメントの溶断時間が制御可能に構成されており、
上記特定のヒューズエレメントが接続されている上記特定の電極は、上記複数の電極のうち、必ず通電がある通電経路の入力となる電極であり、
上記特定のヒューズエレメントの溶断時間が他のヒューズエレメントの溶断時間よりも長くなるように、上記複数のヒューズエレメントのそれぞれから上記発熱体までの距離に差があること
を特徴とする保護素子。
【請求項2】
上記特定のヒューズエレメントから上記発熱体までの距離が、他のヒューズエレメントから上記発熱体までの距離よりも長くなるように、上記特定のヒューズエレメントが配設されていること
を特徴とする請求項1記載の保護素子。
【請求項3】
通電経路の入力となる複数の電極間に複数のヒューズエレメントが配設され、通電された発熱体の発熱による上記ヒューズエレメントの溶断によって電流が遮断される保護素子において、
上記複数のヒューズエレメントのうち特定のヒューズエレメントが接続されている特定の通電経路から通電があった場合に、他のヒューズエレメントが上記特定のヒューズエレメントよりも先に溶断するように、上記複数のヒューズエレメントの溶断時間が制御可能に構成されており、
上記特定のヒューズエレメントが接続されている上記特定の電極は、上記複数の電極のうち、必ず通電がある通電経路の入力となる電極であり、
上記特定のヒューズエレメントの溶断時間が他のヒューズエレメントの溶断時間よりも長くなるように、上記複数のヒューズエレメントのそれぞれと、上記複数の電極のそれぞれとの濡れ性とに差があること
を特徴とする保護素子。
【請求項4】
他のヒューズエレメントと当該他のヒューズエレメントが溶融した場合に流れ込むこととなる他の電極との濡れ性よりも、上記特定のヒューズエレメントと当該特定のヒューズエレメントが溶融した場合に流れ込むこととなる特定の電極との濡れ性を低下させるように、上記複数のヒューズエレメント若しくは上記複数の電極又はこれらの双方の金属組成が調整されていること
を特徴とする請求項3記載の保護素子。
【請求項5】
通電経路の入力となる複数の電極間に複数のヒューズエレメントが配設され、通電された発熱体の発熱による上記ヒューズエレメントの溶断によって電流が遮断される保護素子において、
上記複数のヒューズエレメントのうち特定のヒューズエレメントが接続されている特定の通電経路から通電があった場合に、他のヒューズエレメントが上記特定のヒューズエレメントよりも先に溶断するように、上記複数のヒューズエレメントの溶断時間が制御可能に構成されており、
上記特定のヒューズエレメントが接続されている上記特定の電極は、上記複数の電極のうち、必ず通電がある通電経路の入力となる電極であり、
上記特定のヒューズエレメントの溶断時間が他のヒューズエレメントの溶断時間よりも長くなるように、上記複数のヒューズエレメントのそれぞれ又は上記発熱体に近接する部位の熱的性質に差があること
を特徴とする保護素子。
【請求項6】
上記熱的性質は、上記複数のヒューズエレメントのそれぞれ又は上記発熱体に近接する部位の熱容量、熱伝導性、又は放熱性であること
を特徴とする請求項5記載の保護素子。
【請求項7】
通電経路の入力となる複数の電極間に複数のヒューズエレメントが配設され、通電された発熱体の発熱による上記ヒューズエレメントの溶断によって電流が遮断される保護素子において、
上記複数のヒューズエレメントのうち特定のヒューズエレメントが接続されている特定の通電経路から通電があった場合に、他のヒューズエレメントが上記特定のヒューズエレメントよりも先に溶断するように、上記複数のヒューズエレメントの溶断時間が制御可能に構成されており、
上記特定のヒューズエレメントが接続されている上記特定の電極は、上記複数の電極のうち、必ず通電がある通電経路の入力となる電極であり、
上記特定のヒューズエレメントの溶断時間が他のヒューズエレメントの溶断時間よりも長くなるように、上記複数のヒューズエレメントのそれぞれの融点に差があること
を特徴とする保護素子。
【請求項8】
上記特定のヒューズエレメントの融点は、他のヒューズエレメントの融点よりも高いこと
を特徴とする請求項7記載の保護素子。
【請求項9】
通電経路の入力となる複数の電極間に複数のヒューズエレメントが配設され、通電された発熱体の発熱による上記ヒューズエレメントの溶断によって電流が遮断される保護素子において、
上記複数のヒューズエレメントのうち特定のヒューズエレメントが接続されている特定の通電経路から通電があった場合に、他のヒューズエレメントが上記特定のヒューズエレメントよりも先に溶断するように、上記複数のヒューズエレメントの溶断時間が制御可能に構成されており、
上記特定のヒューズエレメントが接続されている上記特定の電極は、上記複数の電極のうち、必ず通電がある通電経路の入力となる電極であり、
上記発熱体は、複数配設されており、
上記複数の発熱体のそれぞれの発熱量に差があること
を特徴とする保護素子。
【請求項10】
上記特定のヒューズエレメントに近い位置に配設されている特定の発熱抵抗体の抵抗値は、他のヒューズエレメントに近い位置に配設されている他の発熱抵抗体の抵抗値よりも小さいこと
を特徴とする請求項9記載の保護素子。
【請求項11】
電子機器本体に着脱されるものであって、
請求項1乃至10のいずれかに記載の保護素子が搭載され、上記特定のヒューズエレメントが、当該バッテリーパックのセル側に接続されていること
を特徴とするバッテリーパック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−165685(P2010−165685A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47513(P2010−47513)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【分割の表示】特願2007−159773(P2007−159773)の分割
【原出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】