説明

修正手術用ポリメチルメタクリレート骨用セメント

【課題】2つ以上の抗生物質が装備されており、移植後にセメント中に含有されている全ての抗生物質の高い初期放出量を保証する修正手術用PMMA骨用セメントを開発する。
【解決手段】粉末状成分および液状成分を有する前記の修正手術用PMMA骨用セメントの場合に、粉末成分中に2つ以上の顆粒状の抗生物質が含有されており、この場合前記の抗生物質は、それぞれ個々の抗生物質の主要な篩画分が同一の粒度範囲内にあるという点で粒度分布が一致している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、修正手術用ポリメチルメタクリレート骨用セメント(修正手術用PMMA骨用セメント)である。
【背景技術】
【0002】
関節内人工機能補完装具は、現在の処、数年間の可使時間、例えばセメントで固定された腰関節用人工機能補完装具の場合に平均で10〜15年間の可使時間を有する。しかし、通常の可使時間の達成前に発生する、関節内人工機能補完装具の望ましくない弛緩が存在する。この場合、敗血性弛緩と無菌性弛緩とは、区別される。無菌性弛緩の場合には、病原菌は検出されない。無菌性弛緩の原因は、多岐に亘りうる。しばしば、無菌性弛緩は、関節内人工機能補完装具の潤滑面に対する摩擦に帰因しうる。敗血性弛緩の場合には、弛緩プロセスは、病原菌によって引き起こされる。この場合、時間的な発生に依存して、早期感染と後期感染とは区別される。敗血性弛緩は、患者にとって付加的に極めて高い費用と関係する、極めて深刻な疾病である。無菌性弛緩の場合ならびに敗血性弛緩の場合には、通常、修正手術が行なわれる。この場合、1回目の修正手術と2回目の修正手術とは、区別される。敗血性弛緩の場合には、セメント不含の修正手術用人工機能補完装具と共に、セメントで固定された修正手術用人工機能補完装具は、PMMA骨用セメントと一緒に1回目の修正手術の場合ならびに2回目の修正手術の場合に使用されてもよい。この場合、このPMMA骨用セメントには、問題になっている病原菌の検出後および耐性記録の完成後に適当な抗生物質が装備される。この場合には、通常、一定の微生物に対してできるだけ異なる作用機構を有する、2つまたは3つの異なる抗生物質の組合せが使用される。この抗生物質は、病院で外科医または薬剤師によって常用のPMMA骨用セメントに十分な無菌性条件下で混合される(Septische Knochenchirurgie. R. Schnettler, H.-U. Steinau編, Georg Thieme Verlag Stuttgart New York, 2004中のH. Breithaupt: Lokale Antibiotikatherapie.参照)。この場合、PMMA骨用セメントからの抗生物質のできるだけ高い初期放出量が移植後に骨用セメント/骨の境界面で達成されることは、望ましい。
【0003】
抗生物質で変性されたPMMA骨用セメント(ポリメチルメタクリレート骨用セメント)は、20世紀の1960年代以来からH. W. Buchholzの論文およびKulzer社の業績に基づいて公知である(Bone Cement and Cementing Technique Eds G. H. I. M. Walenkamp, D. W. Murray, Spring Verlag Heidelberg, 2001刊中のW. Ege, K. -D. Kuehn: Industrial development of bone cement-25 years of experience; H. W. Buchholz, E. Engelbrecht: Ueber die Depotwirkung einige Antibiotika beim Vermischen mit dem Kunstharz Pala-cos. Chirurg 41 (1970) 511-515)。このPMMA骨用セメントは、幅広く受け入れられており、大規模に体内人工機能補完装具(Endoprothese)を固定するために使用されている(K. -D. Kuehn: Knochenzemente fuer die Endoprothetik: ein aktueller Vergleich der physikalischen und chemischen Eigenschaften handelsueblicher PMMA-Zemente. Springer-Verlag Berlin-Heidelberg New York, 2001参照)。通常のPMMA骨用セメント中に組み込まれる抗生物質は、移植後に多少とも急速に骨用セメント/骨の境界面で局部的に放出され、そこで細菌の生息を阻止する。できるだけ高い初期放出量を達成しようと努力する場合には、使用される抗生物質の最小の抑制濃度(MHK)は、臨床学的に該当する病原菌に対して骨用セメント/骨の境界面で確実に達成および超過される。それによって、骨とPMMA骨用セメントとの間の境界面は、細菌の生息に対して数日間の期間に亘って移植後に保護されうる。
【0004】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第102004049121号明細書(A1)には、粉末成分中に63〜900μmの範囲内の粒径を有する、水中で可溶性のガラス状の単数の抗生物質/複数の抗生物質顆粒0.1〜5.0質量%が含有されており、この場合この顆粒は、1〜70μmの範囲内の粒径を有する、互いに結合された、ガス状の単数の抗生物質/複数の抗生物質一次粒子から形成されていることによって特徴付けられているPMMA骨用セメントが提案されている。
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第102004049121号明細書(A1)
【非特許文献1】Septische Knochenchirurgie. R. Schnettler, H.-U. Steinau編, Georg Thieme Verlag Stuttgart New York, 2004中のH. Breithaupt: Lokale Antibiotikatherapie.
【非特許文献2】Bone Cement and Cementing Technique Eds G. H. I. M. Walenkamp, D. W. Murray, Spring Verlag Heidelberg, 2001刊中のW. Ege, K. -D. Kuehn: Industrial development of bone cement-25 years of experience; H. W. Buchholz, E. Engelbrecht: Ueber die Depotwirkung einige Antibiotika beim Vermischen mit dem Kunstharz Pala-cos. Chirurg 41 (1970) 511-515
【非特許文献3】K. -D. Kuehn: Knochenzemente fuer die Endoprothetik: ein aktueller Vergleich der physikalischen und chemischen Eigenschaften handelsueblicher PMMA-Zemente. Springer-Verlag Berlin-Heidelberg New York, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、2つ以上の抗生物質が装備されており、移植後にセメント中に含有されている全ての抗生物質の高い初期放出量を保証する修正手術用PMMA骨用セメントを開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、使用される複数の抗生物質の粒度分布がほぼ等しい場合に2つ以上の顆粒状の抗生物質を含有するPMMA骨用セメントが高い初期抗生物質放出量を示すという驚異的な所見に基づくものである。顆粒状の抗生物質の概念とは、以下、規則的または不規則に形成されている、室温で固体の凝集体状態で存在する抗生物質粒子である。抗生物質粒子は、結晶性であってもよいし、無定形であってもよい。抗生物質粒子は、部分結晶であることも可能である。
【0007】
前記の課題は、修正手術用PMMA骨用セメントの開発によって解決された。粉末状成分および液状成分を有する前記の修正手術用PMMA骨用セメントにおいては、粉末成分中に2つ以上の顆粒状の抗生物質が含有されており、この場合前記の抗生物質は、それぞれ個々の抗生物質の主要な篩画分が同一の粒度範囲内にあるという点で粒度分布が一致している。
【0008】
特に、複数の抗生物質のそれぞれの主要な篩画分は、それぞれ当該抗生物質の少なくとも50質量%を含む。
【0009】
個々の抗生物質の主要な篩画分の粒度範囲は、殊に100〜250μmまたは150〜250μmである。
【0010】
粒度分布は、個々の抗生物質の篩画分がほぼ等しい場合に一致している。しかし、複数の抗生物質の主要な篩画分が等しい粒度を有することで十分である。主要な篩画分は、殊に全ての抗生物質のそれぞれ少なくとも50質量%の篩画分である。
【0011】
PMMA骨用セメントの粉末成分は、少なくとも1つの粉末状ポリメチルメタクリレートまたはメチルメタクリレートとメチルアクリレートとから形成されているコポリマーと粉末状X線不透明化剤、例えば二酸化ジルコニウムおよび/または硫酸バリウムとラジカル開始剤、例えば過酸化ジベンゾイルとからなる混合物である。場合によっては、粉末成分は、製薬学的に認容性の着色剤で着色されている。粉末成分は、ラジカル活性剤、例えばN,N−ジメチル−p−トルイジンが溶解されているメチルメタクリレート(MMA)から形成されている液状成分との混合後に可塑的に変形可能な混練物を生じ、この混練物は、数分後に自力でメチルメタクリレートのラジカル重合の開始によって硬化する。
【0012】
本発明により製造されるPMMA骨用セメントは、試験管内条件下で37℃で極めて高い抗生物質放出量を示した。
【0013】
顆粒状の抗生物質は、例えばアミノグリコシド抗生物質、リンコサミド(Lincosamid)抗生物質、フルオロキノロン(Fluorchinolon)抗生物質、グリコペプチド抗生物質およびニトロイミダゾールの群からの少なくとも1つの代表例からなる。ニトロイミダゾールの群からの抗菌作用を有する化学療法剤は、簡単に抗生物質としても理解される。この化学療法剤は、主に嫌気性病原菌およびプロトゾエアに対して殺菌作用を有する。
【0014】
本発明の範囲内で、顆粒状の抗生物質がゲンタマイシンスルフェート、ゲンタマイシン塩酸塩、アミカシンスルフェート、アミカシン塩酸塩、トブラマイシンスルフェート、トブラマイシン塩酸塩、クリンダマイシン塩酸塩、リンコサミン塩酸塩、モキシフロキサシン(Moxifloxacin)、シプロフロキサシン(Ciprofloxacin)、テイコプラニン(Teicoplanin)、バンコマイシン、ラモプラニン(Ramoplanin)、ダルババンシン(Dalbavancin)、ダプトマイシン(Daptomycin)、チゲシグリン(Tigecyglin)、メトロニダゾール(Metronidazol)、チニダゾールおよびオミダゾール(Omidazol)からなることは、好ましい。前記の水中で可溶性の抗生物質塩および抗生物質と共に、水中で僅かに可溶性の抗生物質の塩形、例えばフラボンホスフェート、パルミテート、ミリステートおよびラウレートは、使用されてもよいし、付加的に含有されていてもよい。更に、オキサゾリドンの群からの抗生物質、例えばリネゾリド(Linezolid)を使用または添加することも可能である。
【0015】
更に、顆粒状の抗生物質が場合によっては助剤として付加的にポリビニルピロリドンおよび/またはポリエチレングリコールおよび/またはポリエチレンオキシドおよび/またはマルトースおよび/またはソルビトールおよび/またはマンニトールを含有することができることは、好ましい。同様に、本発明の範囲内で、顆粒状の抗生物質が別の毒物学的に認容性のポリマー、例えばゼラチン、コラーゲンおよびデキストランによって安定化されていることは、好ましい。更に、本発明の範囲内で、ドイツ連邦共和国特許出願公開第102004049121号明細書A1の記載と同様に、接着性助剤で63〜900μmの範囲内の粒度を有する抗生物質顆粒に接着されているかまたはパテで密封されている顆粒状の抗生物質が含有されていてもよい。
【0016】
本発明を次の実施例によって詳説するが、しかし、本発明はこれに制限されるものではない。部および百分率の記載は、別記しない限り、残りの明細書中の記載と同様に質量に関連するものである。
【実施例】
【0017】
実施例1:
本発明によるPMMA骨用セメントを試験するために、試験体について放出試験を実施した。試験体を、最初にそれぞれ骨用セメントPalacos Rの粉末成分40.0gを
変法a)ゲンタマイシンスルフェート0.80g(ゲンタマイシン基剤0.50gに相当;篩画分:63μm未満2%;63〜100μm3%;100〜250μm93%;250μm超2%)+バンコマイシン塩酸塩2.17g(バンコマイシン基剤2.00gに相当;63μm未満43%;63〜100μm62%;100〜250μm5%;250μm超0%)、
変法b)ゲンタマイシンスルフェート0.80g(ゲンタマイシン基剤0.50gに相当;篩画分:63μm未満2%;63〜100μm3%;100〜250μm93%;250μm超2%)+バンコマイシン塩酸塩2.17g(バンコマイシン基剤2.00gに相当;63μm未満3%;63〜100μm25%;100〜250μm55%;250μm超19%)と混合するようにして調製した。
【0018】
その後に、この変性された粉末成分をそれぞれモノマー成分20.0gと混合した。生の混練物を形成させ、この混練物を中空型内に塗布し、そこで数分後に硬化させた。生じた円筒形の試験体は、1cmの高さおよび2.5cmの直径を有していた。1つのセメントの変法につきそれぞれ5個の試験体を製造した。試験体を別々にそれぞれ蒸留水20ml中に37℃で貯蔵した。毎日、放出媒体を完全に取り出し、その中で放出されたゲンタマイシン量を測定した。次に、試験体を再びそれぞれ新しい蒸留水20ml中に37℃で貯蔵した。放出されたゲンタマイシンおよび放出されたバンコマイシンをAbott社のTDX分析装置で測定した。試験体1g当たりのゲンタマイシン基剤およびバンコマイシン基剤のそれぞれ放出された質量を、次表中に放出媒体中での試験体の貯蔵時間に依存して記載した。
【0019】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末成分および液状成分を有する修正手術用PMMA骨用セメントにおいて、粉末成分中に2つ以上の顆粒状の抗生物質が含有されており、この場合前記の抗生物質は、それぞれ個々の抗生物質の主要な篩画分が同一の粒度範囲内にあるという点で粒度分布が一致していることを特徴とする、粉末成分および液状成分を有する修正手術用PMMA骨用セメント。
【請求項2】
抗生物質の主要な篩画分がそれぞれ全ての抗生物質の少なくとも50質量%を含む、請求項1記載の修正手術用PMMA骨用セメント。
【請求項3】
個々の抗生物質の主要な篩画分の粒度範囲が100〜250μmまたは150〜250μmである、請求項1または2記載の修正手術用PMMA骨用セメント。
【請求項4】
顆粒状の抗生物質がゲンタマイシンスルフェート、ゲンタマイシン塩酸塩、アミカシンスルフェート、アミカシン塩酸塩、トブラマイシンスルフェート、トブラマイシン塩酸塩、クリンダマイシン塩酸塩、リンコサミン塩酸塩、モキシフロキサシン、シプロフロキサシン、テイコプラニン、バンコマイシン、ラモプラニン、ダルババンシン、ダプトマイシン、チゲシグリン、メトロニダゾール、チニダゾールおよびオミダゾールの群の1つ以上の成分からなる、請求項1から3までのいずれか1項に記載の修正手術用PMMA骨用セメント。
【請求項5】
顆粒状の抗生物質として、抗生物質フラボンホスフェート、抗生物質パルミテート、抗生物質ミリステートおよび抗生物質ラウレートの群からの水中で僅かに可溶性の抗生物質の塩形が使用されている、請求項1から4までのいずれか1項に記載の修正手術用PMMA骨用セメント。
【請求項6】
顆粒状の抗生物質として、オキサゾリドンの群からの抗生物質が使用されている、請求項1から5までのいずれか1項に記載の修正手術用PMMA骨用セメント。
【請求項7】
顆粒状の抗生物質が付加的にポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、マルトース、ソルビトールおよびマンニトールの群からの少なくとも1つの助剤を含有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の修正手術用PMMA骨用セメント。
【請求項8】
顆粒状の抗生物質が付加的に毒物学的に認容性のポリマー、ゼラチン、コラーゲンおよびデキストランの群からの少なくとも1つの助剤を含有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の修正手術用PMMA骨用セメント。
【請求項9】
顆粒状の抗生物質の少なくとも一部分が接着性助剤で63〜900μmの範囲内の粒度を有する抗生物質顆粒に接着されているかまたはパテで密封されている、請求項1から8までのいずれか1項に記載の修正手術用PMMA骨用セメント。

【公開番号】特開2008−183404(P2008−183404A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16522(P2008−16522)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(399011900)ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (56)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Kulzer GmbH 
【住所又は居所原語表記】Gruener Weg 11, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】