説明

個人認証装置、個人認証装置の制御方法、個人認証システム、個人認証装置制御プログラム、ならびにそれを記録した記録媒体

【課題】従来の生体認証が抱える問題点を生じることなく、プライバシーを容易に、かつ堅固に保護することができる個人認証装置を実現する。
【解決手段】個人認証装置10は、利用者の顎関節運動による顎関節振動を検出する検出部1と、利用者の生体情報として、上記顎関節振動から上記利用者の頭蓋骨の共振周波数および該共振周波数の振動振幅を解析する解析部2と、解析部2から与えられた上記共振周波数および上記振動振幅を、登録装置4に予め登録されている上記利用者の生体情報と比較照合し、認証を行う認証部3とを備えている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体、特に顎関節振動による頭蓋骨の共振周波数を利用して個人を認証する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の生体個人の認証技術は、指紋認証に代表される。しかし、犯罪捜査において、犯行現場で指紋の採取が行われるように、他人による個人の指紋の入手は容易であり、偽造も可能であるという問題が存在する。このため、近年、指紋認証以外の個人認証技術が発達してきている。
【0003】
例えば、指の血管パターンを利用した個人認証技術(例えば、特開平7−21373号公報参照)、または手の甲の静脈パターンを利用した個人認証技術(例えば、特開平10−295674号公報参照)が知られている。これらの技術は、指または手の甲に光を照射し、照射した光の反射光ないし透過光を撮像して、撮像された画像の血管パターンを予め登録しておき、この予め登録しておいた血管パターンと、その後認証を行うために撮像された血管パターンとのマッチングをとることにより個人認証を行っている。
【0004】
その他の個人認証技術としては、眼の虹彩もしくは声紋などを利用した個人認証技術が知られている。これらの技術においても、予め登録しておいたパターンと、その後認証を行うために撮像または計測されたパターンとのマッチングをとることにより個人認証を行っている。
【非特許文献1】インターネット<http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/NC/NEWS/20050701/163801>
【非特許文献2】インターネット<http://www.ecom.jp/qecom/about_wg/wg06/intro/summary2.htm>
【非特許文献3】インターネット<http://www3.alpha-net.ne.jp/users/japaco/MV.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような個人認証技術では、以下に示すような様々な問題がある。
【0006】
まず、生体情報の偽造が可能であることである。上述の指紋だけでなく、静脈、眼の虹彩においても偽造が可能であることが実証されている(非特許文献1参照)。また、生体認証における究極的技術と考えられる、遺伝子のDNAパターンも、例えば毛髪を1本手に入れれば偽造が可能である。さらに、究極的とも言える悪意、例えば殺人行為により生体認証部位を切断して行われる偽造に対しては対抗策がない。
【0007】
次に、生体情報の再現性(個人が繰り返し同じ生体情報を再現できるか)および誤認識の問題である。偽造を回避するために、声紋、筆圧、および筆跡による個人認証が提案されているが、再現性およびこれに起因する誤認識という問題がある。例えば、声紋認証の場合、発声という行為は随意的な要素があるため、必ずしも再現性があるとは言えず、登録時と認証時との差を小さくする、すなわち誤認識を防ぐような配慮が必要であることが、非特許文献2に開示されている。
【0008】
次に、生体情報取得時の抵抗感および不快感である。例えば、指紋認証の場合、指がセンサに直接触れる必要があるため、指紋採取に対する抵抗感(特に前歴者に多い)等の問題がある。また、虹彩認証の場合、虹彩取得の際に眼に直接光が入射されるため、恐怖感があるという問題がある。
【0009】
最後に、膨大な処理時間、システムの複雑さである。例えば、指紋認証、静脈認証の場合、画像によりマッチングを行うため、画像の回転、明瞭度、フォーカス、およびエッジ検出等の複雑な処理が必要であり、そのため膨大な処理時間を要したり、システムの複雑化を招いてしまう。
【0010】
本発明の目的は、上述のような、従来の生体認証において生じていた問題を生じることなく、プライバシーを容易、かつ堅固に保護することができる個人認証装置、個人認証装置の制御方法、個人認証システム、個人認証装置制御プログラム、ならびにそれを記録した記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る個人認証装置は、人体の生物学的特徴に基づいて個人を認証する個人認証装置であって、上記課題を解決するために、利用者の顎関節運動による顎関節振動を検出する検出部と、利用者の生体情報として、上記顎関節振動から上記利用者の頭蓋骨の共振周波数および該共振周波数の振動振幅のうち少なくとも1つを解析する解析部と、上記解析部から与えられた上記共振周波数および上記振動振幅のうち少なくとも1つを、登録装置に予め登録されている上記利用者の生体情報と比較照合し、認証を行う認証部とを備えていることを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る個人認証装置の制御方法は、人体の生物学的特徴に基づいて個人を認証する個人認証装置の制御方法であって、上記課題を解決するために、利用者の顎関節運動による顎関節振動を検出する工程と、利用者の生体情報として、上記顎関節振動から上記利用者の頭蓋骨の共振周波数および該共振周波数の振動振幅のうち少なくとも1つを解析する工程と、解析した上記利用者の生体情報を登録装置に登録する工程と、上記共振周波数および上記振動振幅のうち少なくとも1つを、上記登録装置に予め登録されている上記利用者の生体情報と比較照合し、認証を行う工程とを有することを特徴としている。
【0013】
上記の構成によれば、本発明に係る個人認証装置は、利用者の頭蓋骨の共振周波数および該共振周波数の振動振幅のうち少なくとも1つを利用して個人を認証するものであり、上記頭蓋骨の共振周波数および振動振幅は、利用者の顎関節運動という極めて容易な運動により検出している。なお、顎関節運動とは、利用者が自身の上顎および下顎をそれぞれ上下に動かし、歯をカチカチとならす行為に相当し、これにより生じる顎関節の振動が顎関節振動である。
【0014】
ところで、本発明において、生体情報を偽造するためには、頭部を完全に複製せねばならず、このような複製は不可能である。具体的に説明すると、頭蓋骨の密度および形状を完全に複製することだけでも困難であるが、たとえ、頭蓋骨の密度および形状を完全に複製できたとしても、頭蓋骨は頭皮および顔皮などに覆われており、この皮膚に含まれる水分等を考慮して複製することは不可能である。
【0015】
また、複製以外の手段としては、音響機器に利用者の顎関節運動により生じた顎関節運動音(上述の歯がカチカチとなる音)を録音することが挙げられるが、この場合、マイクレコーダまたは再生スピーカ等の共振周波数が同時に録音されてしまうため、偽造は不可能である。つまり、本発明において、生体情報の偽造は極めて困難である。
【0016】
また、頭蓋骨の共振状態(共鳴現象)は、無意識の状態、例えば、眼のまばたきと同様に起こる。さらに、顎関節振動による頭蓋骨の共振状態は、上記信号を感度良く検出するための動的動作に過ぎず、個人が意図的に頭蓋骨の共振状態を変化させることはできない。つまり、本発明において、生体情報の再現性は極めて高い。
【0017】
また、生体情報の再現性が極めて高いことに加え、従来の周波数検出技術、具体的に周波数カウントは、現在の計測技術において最も感度が良い、とされている。例えば、電圧および電流などは有効数字3桁であるが、周波数検出の有効数字は5桁である。従って、本発明において、生体情報の誤認識の可能性は極めて低い。
【0018】
また、顎関節運動は、食事時および会話時などに自然に行われるため、顎関節を動かすことに抵抗感および不快感を示す人は、身障者を除けば、存在しない。従って、本発明において、生体情報取得時の抵抗感および不快感が生じない。
【0019】
また、利用者がその生命を維持していなければ、顎関節を振動させることはできない。そのため、生体情報は存命時のみ適用することができる。従って、本発明において、究極的な悪意を防止することができる。
【0020】
また、詳細は後述するが、上記個人認証装置では、検出された頭蓋骨の共振周波数および振動振幅という単純な数値量を用いて利用者の登録および認証等を行う。従って、本発明において、装置の小型化、処理時間の短縮が可能となる。
【0021】
以上のことから、従来の生体認証において生じていた問題を生じることなく、プライバシーを容易、かつ堅固に保護することができる個人認証装置、およびその制御方法を実現することができるという効果を奏する。
【0022】
本発明に係る個人認証装置は、上記構成に加えて、上記検出部は、利用者に非接触の状態で、利用者の顎関節振動を検出することが好ましい。
【0023】
例えば、従来の生体認証における指紋認証の場合、上記従来技術で述べたように、指がセンサに直接触れる必要がある。そして、このセンサは、不特定多数の人の間で共用されるのが一般的である。そのため、多くの人が触れるセンサに触る抵抗感という問題がある(特に女性に多い)。
【0024】
そこで、上記の構成によれば、上記検出部は、利用者に非接触の状態で、利用者の顎関節振動を検出することができる。これにより、上述のような抵抗感という問題を生じることがなく、使い勝手の良い個人認証装置を実現することができるという効果を奏する。
【0025】
本発明に係る個人認証装置は、上記構成に加えて、上記検出部には、雑音が検出されることを防ぐための防音手段が設けられていることが好ましい。
【0026】
上記の構成により、上記検出部で雑音が検出されることを防ぐことができるため、より認証精度の高い個人認証装置を実現することができるという効果を奏する。
【0027】
本発明に係る個人認証装置は、上記登録装置に利用者の生体情報を登録するとき、生体情報を暗号化して登録することが好ましい。
【0028】
上記の構成によれば、上記個人認証装置は、上記登録装置に利用者の生体情報を登録するとき、生体情報を暗号化して登録する。これにより、重要な生体情報が他人に漏洩してしまうことを防ぐことができるという効果を奏する。
【0029】
本発明に係る個人認証装置は、上記構成に加えて、指紋認証、静脈認証、虹彩認証、筆跡認証、筆圧認証、声紋認証、および遺伝子認証を併用することが好ましい。
【0030】
上記の構成によれば、上記個人認証装置は、指紋認証、静脈認証、虹彩認証、筆跡認証、筆圧認証、声紋認証、遺伝子認証、印鑑による認証、対人対面によるサイン認証、および写真による認証等の従来の生体認証を併用することができる。これにより、より確実にプライバシーを保護することが可能な個人認証装置を実現できるという効果を奏する。
【0031】
本発明に係る個人認証システムは、上記個人認証装置と、上記個人認証装置に接続され、上記個人認証装置の出力信号により制御される電子機器とを有することを特徴としている。
【0032】
上記個人認証システムは、上記個人認証装置を有しているため、従来の生体認証において生じていた問題を生じることなく、プライバシーを容易、かつ堅固に保護することができる個人認証システムを実現することができるという効果を奏する。なお、上記個人認証システムの一例としては、電子機器が、例えば建物等の扉の開閉を制御する機器であり、上記個人認証装置とは有線、無線を問わずに接続されており、上記個人認証装置の出力信号である上記個人認証装置の認証部の認証結果により上記扉が開閉されるシステムが挙げられる。
【0033】
本発明に係る個人認証システムは、上記の構成に加えて、利用者の顎関節運動により生じた顎関節運動音の回数を計測する計測装置と、該計測装置の計測結果に基づいて上記電子機器のスイッチング操作を制御する制御装置とをさらに有することが好ましい。
【0034】
上記構成によれば、上記個人認証システムは、利用者の顎関節運動により生じた顎関節運動音の回数を計測する計測装置と、該計測装置の計測結果に基づいて上記電子機器のスイッチング操作を制御する制御装置とをさらに有しているため、上記電子機器のスイッチング操作の制御が可能である。
【0035】
具体例としては、上記電子機器がテレビジョンであり、上記計測装置によって利用者の顎関節運動音が、例えば2回計測されると、この計測結果が上記制御装置に送られ、上記制御装置が、例えば、上記テレビジョンに電源をオンさせるような、もしくは、現在放映している番組を変更させるような制御信号を与え、上記テレビジョンのスイッチング操作を制御するシステムが挙げられる。
【0036】
なお、上記電子機器としては、上記テレビジョン以外に空調機器、照明器具等が挙げられ、そのスイッチング操作としては、電源のオン・オフ、風量または照度の制御等が可能である。このようなシステムは、老人や障害者等の身体が不自由な人にとって、極めて有効なシステムとなることは言うまでもない。
【0037】
なお、上記個人認証装置における上記解析部および上記認証部を、個人認証装置制御プログラムによりコンピュータ上で実行させることができる。さらに、上記個人認証装置制御プログラムをコンピュータ読取り可能な記録媒体に記録させることにより、任意のコンピュータ上で上記個人認証装置制御プログラムを実行させることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る個人認証装置は、利用者の顎関節運動による顎関節振動を検出する検出部と、上記利用者の生体情報として、上記顎関節振動から上記利用者の頭蓋骨の共振周波数および該共振周波数の振動振幅のうち少なくとも1つを解析する解析部と、上記解析部から与えられた上記共振周波数および上記振動振幅のうち少なくとも1つを、登録装置に予め登録されている上記利用者の生体情報と比較照合し、認証を行う認証部とを備えていることを特徴としている。
【0039】
これにより、従来の生体認証において生じていた問題を生じることなく、プライバシーを容易、かつ堅固に保護することができる個人認証装置を実現できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明に係る実施形態について、図1〜図8に基づいて説明すると以下の通りである。
【0041】
人体の頭蓋骨は、形状および密度により規定される共振周波数(固有振動周波数)を有している(非特許文献3参照)。そして、この頭蓋骨の共振周波数は複数存在し、それら各共振周波数の振動振幅の比率を検証したところ、個人に強く依存することが本発明者により実証されている。本実施形態に係る個人認証装置10は、この頭蓋骨の共振周波数およびその振動振幅を個人認証に利用した装置である。
【0042】
ところで、個人認証装置10では、頭蓋骨の共振周波数および振動振幅を利用者(個人認証装置10の利用者)の顎関節運動による顎関節振動により検出している。本実施形態を説明するにあたって、まず、利用者の顎関節振動により頭蓋骨の共振周波数および振動振幅を検出している点について説明する。なお、顎関節運動は、利用者が自身の上顎および下顎をそれぞれ上下に動かし、歯をカチカチとならす行為に相当し、これにより生じる顎関節の振動が顎関節振動である。
【0043】
図5は、簡単な構造共振モデルである片持梁25を示している。図示のように、片持梁25は、一端(面a)のみが、直方体20と接着され固定されている。この片持梁25の共振周波数は、以下の式(1)により求められる。
【0044】
fr=0.162×t/l×(Ey/ρ)(1/2) (1)
ここで、
fr:片持梁25の共振周波数
t:片持梁25のz部分の長さ(厚み)
l:片持梁25のx部分の長さ
Ey:片持梁25の材質のヤング率
ρ:片持梁25の材質の密度
である。
このように、材質、長さ、および厚みが規定されれば、共振周波数を求めることができる。
【0045】
また、高次の共振周波数も以下の式(2)により求められる。
【0046】
fr2=6.3×fr1 (2)
ここで、
fr1:片持梁25の第1次共振周波数
fr2:片持梁25の第2次共振周波数
である。
【0047】
図6は、熱振動状態における片持梁25の共振周波数の一例を示しており、図7は、加振動状態における片持梁25の共振周波数の一例を示している。図8は、図6に示した共振周波数(破線にて示す)と図7に示した共振周波数(実線にて示す)とを比較した図である。なお、図6において、横軸は周波数(kHz)、縦軸は振動振幅(μV)であり、図7および図8において、横軸は周波数(kHz)、縦軸は振動振幅(mV)である。また、熱振動の場合は、直方体20を何らかの手段により熱することにより片持梁25を振動させ、加振動の場合は、直方体20に振動素子を配置することにより片持梁25を振動させる。
【0048】
各図から、熱振動状態と加振動状態とで、片持梁25の共振周波数が変化しないこと、また、熱振動状態に比べ、加振動状態の方が、共振周波数の振動振幅が増加していることがわかる。つまり、頭蓋骨を加振動状態とすることにより、頭蓋骨の共振周波数を変化させることなく、電気信号として検出することを容易にすることができる。
【0049】
ところで、人体において、顎関節振動には、食物の摂取等のために、十分なエネルギーが費やされる。この費やされるエネルギーは、人体の保温機能などに費やされるエネルギーに次いで大きい。また、人体の組織の中で一番堅いのが「歯」であり、この歯は、頭蓋骨がむき出しになっている唯一のポイントでもある。以上のことから、頭蓋骨を加振動状態とさせる方法として、顎関節振動が最も有効な方法であると言える。なお、頭蓋骨に共鳴する倍音を拾うには、奥歯を振動させることが有用である。
【0050】
以上のことから、個人認証装置10では、利用者の顎関節運動による顎関節振動により頭蓋骨の共振周波数および振動振幅を検出し、この検出した頭蓋骨の共振周波数および振動振幅を利用して個人認証を行っている。これにより、個人認証装置10では、上記従来技術で示したような、従来の生体認証において生じていた様々な問題を生じない。以下、具体的に説明する。
【0051】
まず、個人認証装置10において、生体情報(頭蓋骨の共振周波数および振動振幅)を偽造するためには、頭部を完全に複製せねばならず、このような複製は不可能である。具体的に説明すると、頭蓋骨の密度および形状を完全に複製することだけでも困難であるが、たとえ、頭蓋骨の密度および形状を完全に複製できたとしても、頭蓋骨は頭皮および顔皮などに覆われており、この皮膚に含まれる水分等を考慮して複製することは不可能である。
【0052】
また、複製以外の手段としては、音響機器に利用者の顎関節運動により生じた顎関節運動音(歯がカチカチとなる音)を録音することが挙げられるが、この場合、マイクレコーダまたは再生スピーカ等の共振周波数が同時に録音されてしまうため、偽造は不可能である。つまり、個人認証装置10において、生体情報の偽造は極めて困難である。
【0053】
また、頭蓋骨の共振状態(共鳴現象)は、無意識の状態、例えば、眼のまばたきと同様に起こる。さらに、顎関節振動による頭蓋骨の共振状態は、頭蓋骨の共振周波数および振動振幅を感度良く検出するための動的動作に過ぎず、個人が意図的に頭蓋骨の共振状態を変化させることはできない。つまり、個人認証装置10において、生体情報の再現性は極めて高い。
【0054】
また、生体情報の再現性が極めて高いことに加え、従来の周波数検出技術、具体的に周波数カウントは、現在の計測技術において最も感度が良い、とされている。例えば、電圧および電流などは有効数字3桁であるが、周波数検出の有効数字は5桁である。従って、個人認証装置10において、生体情報の誤認識の可能性は極めて低い。
【0055】
また、顎関節運動は、食事時および会話時などに自然に行われるため、顎関節を動かすことに抵抗感および不快感を示す人は、身障者を除けば、存在しない。さらに、詳細は後述するが、利用者の顎関節振動を検出する検出部は、必ずしも利用者に接触させる必要がない。従って、個人認証装置10において、生体情報取得時の抵抗感および不快感が生じない。
【0056】
また、利用者がその生命を維持していなければ、顎関節を振動させることはできないため、生体情報は存命時のみ適用することができる。従って、個人認証装置10において、究極的な悪意を防止することができる。
【0057】
次に、個人認証装置10について、具体的に説明する。図1は、個人認証装置10の構成例、および個人認証装置10と電子機器11との個人認証システム15の構成例を示している。個人認証装置10は、図示のように、検出部1、解析部2、および認証部3を備えている。そして、認証部3は、利用者の生体情報を登録する登録装置4に接続されている。
【0058】
検出部1は、利用者の顎関節振動を検出し、この検出した顎関節振動を電気信号(以下、顎関節振動信号とする)に変換し増幅して解析部2へ出力する。検出部1には、時間応答性が良く利用しやすいことを鑑みて、圧電体センサを用いればよい。なお、圧電体は、無機材料(高感度、低コスト)、有機材料(フレキシブル、軽量、生体との音響インピーダンス特性が優れている)など材料の特質には依存しない。
【0059】
また、検出部1に、雑音が検出されることを防ぐための防音手段を設けても良い。これにより、検出部1で雑音が検出されることを防ぐことができるため、認証精度をより高くすることができる。上記防音手段としては、例えば、防音シャッター(吸音、防振、遮音材の組合せ方が重要)が好適である。さらに、検出部1は、利用者と接触状態であっても、非接触状態であっても良い。検出部1が利用者と接触状態の場合、検出する顎関節振動信号の振動振幅が大きくなるため、誤動作の可能性が少なくなり、認証精度の高い個人認証装置となる。
【0060】
図2は、利用者に非接触の状態で顎関節振動を検出するための検出部1の構成例を示している。利用者に非接触の状態で顎関節振動を検出するためには、検出部1を図示のようなパラボラ形状(パラボラ形状検出部1a)にすることが望ましい。また、必要な周波数成分のみを検出するために、バンドパスフィルタ(不図示)を設けることが望ましい。このように、検出部1を利用者に非接触とすることで、例えば、指紋認証において生じていた、不特定多数の人の間で共有されるセンサに触れる抵抗感(特に女性に多い)等の心理的な問題をなくすことができ、使い勝手のよい個人認証装置となる。
【0061】
解析部2は、検出部1より得られた顎関節振動信号の共振周波数成分および振動振幅成分を測定し、利用者の頭蓋骨の共振周波数および振動振幅を認証部3へ出力する。
【0062】
図3は、解析部2の処理を具体的に示している。図中に示されているグラフは、解析部2において、検出部1より得られた顎関節振動信号の共振周波数成分および振動振幅成分を測定(図中のピーク位置・振動振幅の算出に相当)している様子を示している。また、図中に示されている表は、解析部2における上記測定の結果を示しており、頭蓋骨の複数の共振周波数と、その複数の共振周波数の振動振幅とを、それぞれ対応づけて示している。なお、上記グラフの横軸は周波数(kHz)であり、縦軸は振動振幅(mV)である。
【0063】
上記表のようにして、解析部2の測定結果が認証部3へ出力される。なお、上述のように、検出部1が利用者に非接触の場合、解析部2は、高次の共振周波数を検出するためにより高い周波数を計測できる構成であることが望ましい。
【0064】
認証部3は、解析部2より得られた頭蓋骨の共振周波数および振動振幅に基づいて、利用者の登録、認証、および登録装置4に既に登録されている生体情報の削除等の処理を行う。認証部3の処理は、従来の個人認証システムにおける登録、認証等の処理方法を流用できる。
【0065】
次に、個人認証装置10の処理動作を説明する。
【0066】
まず、利用者の登録時である場合、利用者は、検出部1に向かって顎関節運動を行い、検出部1は、利用者の顎関節運動による顎関節振動を検出し、顎関節振動信号を生成する。解析部2では、検出部1より得られた顎関節振動信号から、利用者の頭蓋骨の共振周波数成分および振動振幅成分を測定し、上記表に示すような測定結果を認証部3へ出力する。認証部3では、上記測定結果を登録装置4へ登録する。
【0067】
次に、利用者の認証時である場合、上述の利用者の登録時と同様に、検出部1において、利用者の顎関節運動による顎関節振動信号が生成され、解析部2より利用者の頭蓋骨の共振周波数成分および振動振幅成分が測定され、この測定結果が認証部3へ出力される。認証部3では、登録装置4に既に登録されている生体情報を読み出し、上記測定結果と比較照合し、認証を行う。
【0068】
なお、上述の登録時、認証時、生体情報の削除時等の判断は、例えば、個人認証装置10に表示部(不図示)をさらに設け、この表示部に、「利用者の登録」、「利用者の認証」、「生体情報の削除」等のメニューを表示し、利用者がいずれかのメニューを選択することによって、上述のような動作を行うような構成とすればよい。
【0069】
以上のように、個人認証装置10では、認証部3が、検出された頭蓋骨の共振周波数および振動振幅という単純な数値量を用いて利用者の登録および認証等を行う。よって、装置の小型化、処理時間の短縮が可能となる。
【0070】
なお、本実施形態では、頭蓋骨の共振周波数および振動振幅の両方を用いて個人認証を行う場合を例として説明したが、頭蓋骨の共振周波数および振動振幅のうち、いずれか1つの信号のみを用いて個人認証を行ってもよい。その場合の処理方法は、上述の頭蓋骨の共振周波数および振動振幅の両方を用いて個人認証を行う場合と同様である。
【0071】
また、登録装置4に生体情報を登録するときには、生体情報を暗号化して登録することが望ましい。この場合、重要な生体情報が他人に漏洩してしまうことを防ぐことができる。また、登録装置4は、個人認証装置10内に備えられていてもよい。また、登録装置4は、記録媒体によって代用できる。この記録媒体としては、例えば、CD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0072】
また、個人認証装置10は、上述のような構成に限られるわけではない。例えば、サーバを設け、このサーバに解析部、認証部を備え、個人認証装置10に検出部1、上記サーバに検出部1の検出結果である顎関節振動信号を送信するための送信部、上記サーバからの(上記サーバにおける認証部からの)認証結果を受信する受信部等を備える構成としてもよい。
【0073】
また、個人認証装置10は、静脈認証、虹彩認証、筆跡認証、筆圧認証、声紋認証、遺伝子認証、印鑑による認証、対人対面によるサイン認証、および写真による認証等の従来の生体認証を併用することができる。この場合、より確実にプライバシーを保護することができる。
【0074】
個人認証システム15としては、例えば、電子機器11が建物等の扉の開閉を制御する機器であり、認証部3の認証結果により上記扉が開閉されるシステム等が挙げられる。なお、個人認証装置10と電子機器11との接続は、有線、無線を問わない。
【0075】
また、個人認証システム15は、電子機器11のスイッチング操作を行うシステム(個人認証システム15a)への応用が可能である。図4は、個人認証システム15aの構成例を示している。図示のように、個人認証システム15aは、個人認証システム15に、利用者の顎関節運動により生じた顎関節運動音の回数を計測する計測装置13と、該計測装置13の計測結果に基づいて電子機器11のスイッチング操作を制御する制御装置14とを備えた構成である。
【0076】
個人認証システム15aの具体例としては、電子機器11がテレビジョン(以下、TVとする)であり、計測装置13によって利用者の顎関節運動音が、例えば2回計測されると、この計測結果が制御装置14に送られ、制御装置14が、例えば、TVに電源をオンさせるような、もしくは、現在放映している番組を変更させるような制御信号を与え、TVのスイッチング操作を行うシステムが挙げられる。
【0077】
なお、個人認証システム15aにおける電子機器11としては、TV以外に空調機器、照明器具等が挙げられ、そのスイッチング操作としては、電源のオン・オフ、風量または照度の制御等が可能である。このようなシステムは、老人や障害者等の身体が不自由な人にとって、極めて有効なシステムとなることは言うまでもない。
【0078】
以上のように、個人認証装置10では、利用者の頭蓋骨の共振周波数およびその振動振幅を利用して個人を認証し、この頭蓋骨の共振周波数および振動振幅は、利用者の顎関節運動という極めて容易な運動により検出している。従って、信頼性、安全性が高く、使い勝手の良い個人認証装置を実現することができる。また、心理的抵抗感、不快感がなく、偽造が極めて困難で、認証精度の高い個人認証を実現することができるため、本発明の社会的意義は極めて大きいと言える。
【0079】
なお、本発明者は、個人認証装置10を、圧電センサ(検出部1)、スペクトラムアナライザ(解析部2)、およびパーソナルコンピュータ(認証部3)により試作している。
【0080】
最後に、個人認証装置10の各ブロック、特に解析部2および認証部3は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0081】
すなわち、個人認証装置10は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである個人認証装置10の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、個人認証装置10に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0082】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0083】
また、個人認証装置10を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【0084】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
金融ネットワーク、インターネット(例えばオンライン売買)等の個人認証が必要な全ての分野に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本実施形態を示すものであり、個人認証装置および個人認証システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】上記個人認証装置における検出部の構成例を示す図である。
【図3】上記個人認証装置における解析部の処理を具体的に示した図である。
【図4】上記個人認証システムの他の構成例を示すブロック図である。
【図5】片持梁による構造共振モデルを示した斜視図である。
【図6】熱振動状態の片持梁の共振周波数を示すグラフである。
【図7】加振動状態の片持梁の共振周波数を示すグラフである。
【図8】図6および図7に示した片持梁の共振周波数を比較したグラフである。
【符号の説明】
【0087】
1 検出部
2 解析部
3 認証部
4 登録装置
10 個人認証装置
11 電子機器
13 計測装置
14 制御装置
15、15a 個人認証システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の生物学的特徴に基づいて個人を認証する個人認証装置であって、
利用者の顎関節運動による顎関節振動を検出する検出部と、
利用者の生体情報として、上記顎関節振動から上記利用者の頭蓋骨の共振周波数および該共振周波数の振動振幅のうち少なくとも1つを解析する解析部と、
上記解析部から与えられた上記共振周波数および上記振動振幅のうち少なくとも1つを、登録装置に予め登録されている上記利用者の生体情報と比較照合し、認証を行う認証部とを備えていることを特徴とする個人認証装置。
【請求項2】
上記検出部は、利用者に非接触の状態で、利用者の顎関節振動を検出することを特徴とする請求項1記載の個人認証装置。
【請求項3】
上記検出部には、雑音が検出されることを防ぐための防音手段が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の個人認証装置。
【請求項4】
上記個人認証装置は、上記登録装置に利用者の生体情報を登録するとき、生体情報を暗号化して登録することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の個人認証装置。
【請求項5】
指紋認証、静脈認証、虹彩認証、筆跡認証、筆圧認証、声紋認証、遺伝子認証、印鑑による認証、対人対面によるサイン認証、および写真による認証を併用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の個人認証装置。
【請求項6】
上記請求項1〜5のいずれか1項に記載の個人認証装置と、上記個人認証装置に接続され、上記個人認証装置の出力信号により制御される電子機器とを有する個人認証システム。
【請求項7】
上記個人認証システムは、利用者の顎関節運動により生じた顎関節運動音の回数を計測する計測装置と、該計測装置の計測結果に基づいて上記電子機器のスイッチング操作を制御する制御装置とをさらに有することを特徴とする請求項6記載の個人認証システム。
【請求項8】
人体の生物学的特徴に基づいて個人を認証する個人認証装置の制御方法であって、
利用者の顎関節運動による顎関節振動を検出する工程と、
利用者の生体情報として、上記顎関節振動から上記利用者の頭蓋骨の共振周波数および該共振周波数の振動振幅のうち少なくとも1つを解析する工程と、
解析した上記利用者の生体情報を登録装置に登録する工程と、
上記共振周波数および上記振動振幅のうち少なくとも1つを、上記登録装置に予め登録されている上記利用者の生体情報と比較照合し、認証を行う工程とを有することを特徴とする個人認証装置の制御方法。
【請求項9】
上記請求項1〜5のいずれか1項に記載の個人認証装置を動作させる個人認証装置制御プログラムであって、コンピュータを上記解析部および上記認証部として機能させるための個人認証装置制御プログラム。
【請求項10】
上記請求項9に記載の個人認証装置制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−307301(P2007−307301A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141840(P2006−141840)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年11月23日 京都大学主催の「関西テクノアイディアコンテスト’05」において文書をもって発表
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】