説明

偏光スイッチング液晶素子、およびこれを備える画像表示装置

【課題】部品コストの上昇を招くことなく、安価で高耐性な液晶を用いて、応答速度の高速化と波長依存性の低減とを実現した偏光スイッチング液晶素子を提供する。
【解決手段】2枚の透明基材2a,2b間に保持した液晶7を有し、液晶7に選択的に電圧を印加して、少なくとも可視光の偏光光を、その偏光透過軸を選択的に90度旋回して透過させる偏光スイッチング液晶素子1であって、液晶7の屈折率異方性をΔn、液晶7の厚さをd、偏光光の波長をλとして、液晶7の位相差uをu=2×Δn×d/λ、入射側および出射側にそれぞれ偏光板を配置して測定される透過率TをT=(1/2)×sin{π(1+u1/2/2}/(1+u)とするとき、透過率Tが0.1以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光スイッチング液晶素子、およびこれを備えるプロジェクタ等の画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、ディスプレイ用途として流通するものが多い。このようなディスプレイ用途の液晶素子は、白表示または黒表示というような2段階の表示ではなく、中間調を表現するものが多く、また、様々な角度から観察されるのに必要な視野角特性の向上を課題として、技術開発がされてきた。
【0003】
一方、ディスプレイ用途以外の液晶素子として、入射光の偏光面を選択的に回転して出射する液晶スイッチング素子も知られている。この液晶スイッチング素子は、ディスプレイで表現すると、黒表示または白表示という2つの状態を切り替える(スイッチング)動作をするための素子であり、一般には透過する直線偏光光の偏光透過軸を90度旋回する或いは旋回しないという2つの作用をなすものが多い。本明細書では、このような2つの状態を切り替える動作をする液晶素子を偏光スイッチング液晶素子と称することとする。
【0004】
偏光スイッチング液晶素子は、スイッチングのために使用するという用途のため、ディスプレイ用途とは異なる特性の液晶材料や液晶構成が検討されている。例えば、スイッチング素子に必要な要件として、スイッチングの速さがあり、そのスイッチング応答速度を速めるために強誘電性液晶を選択するものが知られている。しかし、強誘電性液晶は、耐性が不安定で高価であるため、実用的ではない。
【0005】
また、耐性が安定で安価なものとして、TN(ツイストネマティック)液晶が知られている。しかし、TN液晶は、強誘電性液晶に対して一般に応答速度が遅いため、TN液晶を用いて高速な応答速度を実現するためには、例えば液晶の厚さ(セルギャップ)を薄くする必要がある。しかし、単にセルギャップを薄くすると、偏光を旋回する能力に波長依存性が生じることになる。
【0006】
この波長依存性を解消する方法として、例えば位相差板を組み合わせることが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この場合には、位相差板の追加によって部品コストの上昇を招くことになる。
【0007】
一方、透過型LCD等の空間光変調素子を備える画像表示装置として、画素ずらし素子を用いて空間光変調素子の解像度を高めるウォブリング技術を採用したものが知られている。このウォブリング技術では、偏光を選択的に90度旋回するための偏光スイッチング液晶素子と、偏光方向に応じて光線を選択的にシフトさせる複屈折板とからなる画素ずらし素子を用い、光線シフトによる画素ずらしのタイミングと、光線シフト位置に対応した空間光変調素子の画像とを同期させることで高解像度化を実現している。
【0008】
このような画素ずらし素子に用いる偏光スイッチング液晶素子は、高速応答するものが有利であることから、強誘電性液晶を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、強誘電性液晶は、上述したように、耐性が不安定で高価であるため実用的ではない。
【0009】
また、耐性があり安価なTN液晶を用い、その応答速度を考慮して駆動タイミングを最適化したものも知られている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この方法は、RGBを順次カラー表示する面順次方式の画像表示装置に適用するには限界があることから、TN液晶自体の応答速度の高速化が要望されている。
【0010】
すなわち、面順次型の画像表示装置(例えば、プロジェクタ)は、空間光変調素子の高速応答化に伴って、色面順次型の画像表示装置が実現されてきている。この色面順次型の画像表示装置は、1つの空間光変調素子をRGBの各色で順次照明して、各色情報に対応して変調することでカラー表示を実現するもので、RGBの各色用の空間光変調素子を3枚用いた3板式の画像表示装置に比べて構造が簡便で、安価に実現可能となる。
【0011】
このような色面順次型の画像表示装置は、色を順次照明することによって生じる色割れ(カラーブレーキング)が生じるため、色毎の表示周波数をより高速化することが求められている。したがって、この色面順次型の画像表示装置に対して、ウォブリングによる画素ずらしを実施する場合には、空間光変調素子に対応してTN液晶からなる偏光スイッチング液晶素子に対しても高速性が要求されることになる。
【0012】
この偏光スイッチング液晶素子の高速応答性は、TN液晶の駆動タイミングを最適化することである程度改善できるが、ウォブリング性能をより向上させるためには、より高速応答可能なTN液晶が要望される。
【0013】
ここで、TN液晶の応答性を高速化するために、例えばセルギャップを薄くすると、旋光特性の波長依存性による偽色が生じて、表示画像の画質劣化を招くことになる。なお、この波長依存性による偽色の発生を防止するため、上記特許文献1に開示のように位相差板を設けることも考えられるが、このようにすると上述したと同様に部品コストの上昇を招くことになる。
【0014】
【特許文献1】特開平7−64048号公報
【特許文献2】特開平11−296135号参照
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、上述した事情に鑑みてなされた本発明の第1の目的は、部品コストの上昇を招くことなく、安価で高耐性な液晶を用いて、応答速度の高速化と波長依存性の低減とを実現した偏光スイッチング液晶素子を提供することにある。
【0016】
さらに、本発明の第2の目的は、上記の偏光スイッチング液晶素子を用いて画素ずらしを行うことにより、偽色の発生を防止して画質の良好な画像を高解像度で表示できる画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記第1の目的を達成する請求項1に係る発明は、2枚の透明基材間に保持した液晶を有し、上記液晶に選択的に電圧を印加して、少なくとも可視光の偏光光を、その偏光透過軸を選択的に90度旋回して透過させる偏光スイッチング液晶素子であって、
上記液晶の屈折率異方性をΔn、上記液晶の厚さをd、上記偏光光の波長をλとして、上記液晶の位相差uをu=2×Δn×d/λ、入射側および出射側にそれぞれ偏光板を配置して測定される透過率TをT=(1/2)×sin{π(1+u1/2/2}/(1+u)とするとき、上記透過率Tが0.1以下であることを特徴とするものである。
【0018】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の偏光スイッチング液晶素子において、上記液晶がTN液晶であることを特徴とするものである。
【0019】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の偏光スイッチング液晶素子において、上記dが4μm以下であることを特徴とするものである。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項2または3に記載の偏光スイッチング液晶素子において、上記λが400nm〜700nmであることを特徴とするものである。
【0021】
上記第2の目的を達成する請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の偏光スイッチング液晶素子を備える画像表示装置であって、
少なくとも可視光を発光する可視光源と、
上記可視光源からの可視光を所定の偏光光に変換する偏光変換手段と、
上記偏光変換手段からの偏光光を画像情報に応じて変調する空間光変調手段と、
上記偏光スイッチング液晶素子および複屈折素子を有し、上記偏光スイッチング液晶素子に選択的に電圧を印加して上記空間光変調手段からの変調光を画素ずらしする画素ずらし手段と、
上記画素ずらし手段を経た変調光を表示する表示光学手段と、
を有することを特徴とするものである。
【0022】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の画像表示装置において、上記可視光源は上記空間光変調手段にRGBの各色光を面順次で出射し、
上記空間光変調手段は上記可視光源からの各色光に対応して画像情報を順次変調することを特徴とするものである。
【0023】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の画像表示装置において、上記空間光変調手段は上記可視光源からの各色光に対応して画像情報を全面同時に切り替えることを特徴とするものである。
【0024】
請求項8に係る発明は、請求項5乃至7のいずれか一項に記載の画像表示装置において、上記偏光スイッチング液晶素子を透過する光線の傾斜角度が30度以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明による偏光スイッチング液晶素子によると、液晶の屈折率異方性をΔn、液晶の厚さをd、偏光光の波長をλとして、液晶の位相差uをu=2×Δn×d/λ、入射側および出射側にそれぞれ偏光板を配置して測定される透過率Tを、T=(1/2)×sin{π(1+u1/2/2}/(1+u)とするとき、透過率Tが0.1以下となるように構成したので、部品コストの上昇を招くことなく、安価で高耐性な液晶を用いて、応答速度の高速化と波長依存性の低減とを図ることができる。
【0026】
さらに、本発明による画像表示装置によると、上記の偏光スイッチング液晶素子を用いて画素ずらしを行うようにしたので、偽色の発生を防止して画質の良好な画像を高解像度で表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0028】
図1は本発明に係る偏光スイッチング液晶素子の一実施の形態の概略構成を示す断面図である。
【0029】
この偏光スイッチング液晶素子(液晶セル)1は、例えば低膨張ガラスからなる2枚の透明基材2a,2b上に、例えばITOからなる透明電極3a,3bが設けられ、さらにその上に液晶配向膜4a,4bとして、ポリイミド膜またはダイヤモンドペーストまたはSiO斜方蒸着が形成されている。なお、液晶配向膜4a,4bは、プロジェクタのような紫外に近い可視の光を多く含む大きなパワーの光を通過する用途に用いる場合は、ダイヤモンドペーストまたはSiOのような無機材料を用いるのが好ましい。
【0030】
このような液晶配向膜4a,4bが形成された透明基材2a,2bは、その配向処理方向が平行とならないように構成され(通常は90度であるが、90度に限らない)、目的のギャップに均一になるように、ガラスビーズやガラスファイバからなるスペーサ部材5を間に挟み、液晶注入口(図示せず)を除く周囲を、例えばUV硬化型接着剤からなるシール材6でシールし、その後、液晶注入口からTN液晶材料等の液晶材料7を注入後、液晶注入口をエポキシ系接着剤等の接着剤で硬化封止している。
【0031】
ここで、液晶層の厚さすなわちセルギャップdは、できるだけ均一な厚みとなるように構成する。また、液晶材料7の物性値として、屈折率異方性(複屈折率差)をΔnとする。なお、セルギャップdを決めているスペーサ部材5は、図示のように光学的有効領域内にあってもよいが、液晶材料7とスペーサ部材5との光学的特性の違いの影響によって、光学的な特性が変化する場合は、シール材6に混入するように構成してもよい。
【0032】
このように構成することで、偏光スイッチング液晶素子1は、透明電極3a,3b間に電圧を印加しない状態では、入射する垂直の偏光透過軸の直線偏光光を90度偏光旋回して水平方向の偏光透過軸で透過させ、透明電極3a,3b間に電圧を印加した状態では、入射する垂直の偏光透過軸の直線偏光光を偏光旋回することなくそのまま透過させる偏光スイッチとして動作する。
【0033】
図2は、TN液晶の透過率位相差依存性を示すグラフであり、縦軸は透過率Tを示し、横軸は位相差uを示している。
【0034】
位相差uは、入射光の波長をλとして、
u=2×Δn×d/λ (1)
で表される。また、入射側および出射側にそれぞれ偏光板を配置して測定される透過率Tは、
T=(1/2)×sin{π(1+u1/2/2}/(1+u) (2)
で表される。
【0035】
ここで、偏光スイッチング液晶素子1は、入射する直線偏光光の偏光透過軸を選択的に90度旋回するスイッチ動作するものであるが、その性能としてスイッチ動作により偏光透過軸を旋回するまたは旋回しないの切り替えの割合がある。
【0036】
図2は、上記の切り替えの割合を示すことと同様の性能を示しており、透過率Tが0に近いほうが割合を完全に分離できていることを示している。しかし、本発明者による種々の実験によると、透過率T=0.1以下となるように液晶材料を選定すれば、偏光スイッチング機能として充分であることが確認できた。
【0037】
一方、位相差uは、上記(1)式から明らかなように光の波長λに依存するので、透過率Tも波長に応じて変化することとなる。ここで、偏光スイッチング液晶素子1の応答速度を向上するために、セルギャップdを4μmとし、波長λを可視光の波長(380nm〜780nm)とした場合には、液晶材料7として複屈折率差Δnが0.13のものを使用すると、位相差uは2.73〜1.33となり、透過率Tは0.06以内に収まることとなる。
【0038】
このように、セルギャップdを4μm以下の厚さとすることで、高速の応答速度を実現することが可能となる。
【0039】
これに対し、Δnが0.13の同一の液晶材料を使用して、応答速度をさらに向上させるためにセルギャップdを2μmにすると、可視光の波長(380nm〜780nm)において位相差uが1.36〜0.66となって、透過率Tが0.31となり、目標値である0.1以下を達成できないことになる。また、同一条件で、液晶材料をΔnが0.24のものに代えると、透過率Tが0.07となって目標値である0.1以下を達成できることになる。
【0040】
以上のことから、セルギャップdを小さくすれば、位相差uは小さくなるが、透過率Tを0.1以下にするためには、Δnの大きい液晶材料を使用すれば良いことがわかる。
【0041】
なお、上記説明では、可視光の波長を380nm〜780nmとしているが、実際の場面では、可視光の影響度を考慮すると、主に使用する可視波長は400nm〜700nmであり、この範囲で液晶の条件を設定することで、より液晶材料の選択の幅を広くすることが可能である。
【0042】
ここで、Δnが大きい液晶材料としては、例えば、メルク社や旭電化社等でディスプレイ用として製造されているΔnが0.35近辺の下記の液晶材料が使用可能である。
【化1】

【0043】
しかし、入手性や性能安定性を考慮すると、現状では、Δnは最大0.26程度となっている。これは、ディスプレイ用途としては、本発明の偏光スイッチング液晶素子のような2つの偏光状態を切り替える能力というよりも、斜入射した光線に対する特性の変化である視野角特性や、2段階より細かな中間調の表現を重視した特性が重視されていて、Δnが大きいと、視野角特性を得ることが難しくなるからである。
【0044】
本発明の偏光スイッチング液晶素子は、通過する偏光光の偏光透過軸を選択的に旋回する際の応答性を高速化するために、液晶の構成を最適な状態とするものであるから、Δnが0.26以下の液晶材料を用いても、透過率Tを0.1以下とすることができる。例えば、Δn=0.202の液晶材料を用いる場合には、セルギャップdを2μmとすれば、波長400nm〜700nmの範囲で透過率Tを0.1以内にすることができる。
【0045】
なお、透過率Tを0.1以下とするためには、位相差uが波長550nmで図2の楕円で示す1.7近辺に入るように液晶を構成することが望ましい。
【0046】
図3は、偏光スイッチング液晶素子の透過率波長依存性を示すグラフで、セルギャップdを2μm、波長λを380nm〜780nmとして、Δnが0.13、0.165、0.218、0.24、0.26の5種について、式(1)、(2)から求めたものである。
【0047】
図3から明らかなように、λ=380nm〜780nmに亘ってT≦0.1を確保するには、Δnが0.218よりも小さくないと実現できない。しかし、使用波長λを400nm〜700nmとすると、Δnが0.218でもT≦0.1を満たし、使用可能な材料となる。なお、セルギャップdが2μmとなる液晶の構成は、図2において位相差uが1.7近辺の状態であることを示し、これよりuが小さくなると、T≦0.1を確保できなくなる。
【0048】
次に、図4乃至図6を参照して、偏光スイッチング液晶素子の特性の測定方法について説明する。
【0049】
図4は、偏光スイッチング液晶素子の透過率Tの測定回路を示す図である。偏光スイッチング液晶素子の能力には、偏光の切り替え速度と、切り替えられる2つの偏光状態、すなわち切り替え状態とがある。図4乃至6は、主として、切り替え状態を説明するための図である。
【0050】
例えば、切り替えの状態が悪いと、偏光スイッチング液晶素子により偏光旋回するという状態にもかかわらず、旋回しないという状態も同時に発生し、旋回した状態と旋回しないという状態との2つの状態が同時に発生することとなり、切り替えが正確に実施されないこととなる。図2に示した透過率Tは、切り替え状態として、Tが0に近ければ近いほど、切り替えが理想的に1対0で行われていることを示し、値が大きくなれば、その値の割合分だけ2つの状態が発生することを示している。
【0051】
このような切り替え状態を測定するには、被測定物である偏光スイッチング液晶素子1を挟んで測定用光源11と受光素子12とを配置するとともに、測定用光源11と偏光スイッチング液晶素子1の間、および偏光スイッチング液晶素子1と受光素子12の間にそれぞれ偏光板13a,13bを平行ニコル(偏光透過軸が互いに平行)の状態で配置する。
【0052】
測定用光源11は光源発光回路15により常時発光するように駆動し、偏光スイッチング液晶素子1には測定制御回路16の制御に基づいて液晶セル駆動回路17により電圧印加をオン・オフして2値的に交互に駆動する。その詳細は、図4で説明する。また、受光素子12はPD(フォトダイオード)を有して構成して、その出力をPD増幅回路18で増幅して測定制御回路16に供給する。
【0053】
かかる構成により、偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加をオン・オフしながら、偏光スイッチング液晶素子1の駆動状態を透過率として測定する。この透過率測定時の光学的な動作は図5で詳細に説明する。
【0054】
また、偏光スイッチング液晶素子1の切り替え状態の波長依存性を測定する場合には、測定用光源11を例えばRGBそれぞれの波長の光を発するLEDを用いて、RGBの各波長の透過率を測定すればよい。
【0055】
なお、図4では、偏光板13a,13bを平行ニコルに配置して透過率Tを測定するようにしたが、これらを直交ニコルに配置して測定してもよく、結果として片側の状態を測定することで、もう一方の状態を類推することは可能である。特に、TN液晶の場合には、平行ニコルで測定する方がもう一方の状態を類推することが容易である。この点については、図6で後述する。したがって、以後の説明では、平行ニコル状態を基本として説明する。なお、図4の構成で、応答速度も計測できるが、その説明は省略する。
【0056】
図5(a)および(b)は、偏光スイッチング液晶素子1の透過率測定動作を説明するための図で、図5(a)は偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加をオフにした状態を示しており、図5(b)は偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加をオンにした状態を示している。
【0057】
図5(a)に示すように、偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加をオフにした状態では、測定用光源11からの光は偏光板13aで水平方向の偏光透過軸を持つ偏光光となり、偏光スイッチング液晶素子1で90度偏光旋回され、垂直方向の偏光透過軸として偏光板13bに入射する。しかし、偏光板13bは水平方向の偏光透過軸のため、透過光はなく、受光素子12に光線は到達しないこととなる。
【0058】
これに対し、図5(b)に示すように、偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加をオンにした状態では、測定用光源11からの光は偏光板13aで水平方向の偏光透過軸を持つ偏光光となり、偏光スイッチング液晶素子1で偏光旋回されることなく、水平方向の偏光透過軸のまま偏光板13bに入射する。ここで、偏光板13bは偏光透過軸が水平方向となっているので、水平方向の偏光透過軸を持つ入射光はそのまま透過して受光素子12に光線が到達することになる。
【0059】
図6は、偏光スイッチング液晶素子1の駆動波形と受光素子12の出力波形とを示したものである。図6の下段は偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加をオン・オフする駆動波形を示しており、上段は駆動波形に対応する受光素子12の出力波形を示しており、受光素子出力波形のオン状態の出力電圧値をVpとし、オフ状態の出力電圧値をVvとしている。
【0060】
V0は、測定用光源11を発光していない状態での測定系の暗電流値を示している。また、V100は、測定系の全透過率を示しており、実際には、偏光スイッチング液晶素子1を通過する全光量は、垂直方向と水平方向との2方向の偏光成分に分離されているだけで、総光量が変化している訳ではないので、図4の偏光板13a,13bを直交ニコルに配置した状態において、図6と同様な測定を行って、偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加をオンにした状態の時の値を、図6のVpに加えた値である。
【0061】
一般に、TN液晶は、電圧印加をオンにした状態では液晶の配向が揃うことで光学的に複屈折が安定状態にあり、楕円偏光化しないので、V100とVpとが極めて近くなる。また、電圧印加をオフにした状態では、楕円偏光化が発生する傾向にある。したがって、偏光スイッチング液晶素子1がTN液晶からなることを前提とする場合には、V100≒Vpとして扱うことで、楕円偏光によるクロストークの割合を、Vp−VvとVv−V0との比で測定することができる。
【0062】
液晶は、一般に透過率Tを用いて評価しており、偏光板13a,13bを直交ニコルとして電圧印加をオフにした時の透過率が大きくなる状態をノーマリーホワイト、偏光板13a,13bを平行ニコルとして電圧印加をオフにした時の透過率が小さくなる状態をノーマリーブラックと称している。
【0063】
図2および図3に示した透過率は、ノーマリーブラック状態で測定したもので、本実施の形態に係る偏光スイッチング液晶素子1においても同様の評価を行うことが可能であり、V100の値を透過率50%で正規化して、透過率T(%)を、T=(Vv−V0)/(2×(Vp−V0))×100、で示すことができる。50%を最大とするのは、偏光板を用いて、片方向の偏光透過軸を扱うためである。
【0064】
なお、図4に示す測定回路で偏光スイッチング液晶素子1の応答速度を測定すると、TN液晶の場合は、特に電圧印加をオフした時の応答速度、すなわち図6において受光素子12の出力電圧がVpからVvまでの立下り始めた10%から立下り終了までの10%の立下り応答速度Tdが遅くなる。
【0065】
図7は、図4乃至図6で説明した測定方法により測定した偏光スイッチング液晶素子の透過率波長依存性を示すグラフである。
【0066】
ここでは、セルギャップdを2μmとし、液晶材料としてΔnが0.165、0.218、0.24の3種のTN液晶を用いてそれぞれ偏光スイッチング液晶素子を構成して、その各々の透過率波長依存性を実測した。なお、測定用光源11はRGBの各波長が626nm、525nm、470nmのLEDを用いている。また、測定温度は50℃にて実施した。
【0067】
図7から明らかなように、セルギャップdを2μmとする場合には、Δnが0.24のTN液晶を用いた場合に、可視の全波長領域に亘って透過率Tが一番低い値を示していることがわかる。なお、図2および図3で説明したように、広い波長帯域で低い透過率を示すほど性能的には望ましい。
【0068】
ここで、Δnは温度特性を有しているので、図3に示した計算値と正確には合致しないが、図7に示した実測データは図3に示した計算値とほぼ合致しており、計算値と相関があることがわかる。したがって、計算値で偏光スイッチング液晶素子1の構成を設定することが可能となる。
【0069】
図8は、偏光スイッチング液晶素子の透過率波長依存性の計算結果を示すグラフである。ここでは、セルギャップdを3μmとし、液晶材料としてΔnが0.13、0.165、0.218、0.24、0.26の5種類について計算している。
【0070】
図8から明らかなように、セルギャップdを3μmとする場合には、Δnが0.13以外は使用可能であることがわかる。すなわち、この場合には、計算上、Δn≧0.135の液晶材料を用いれば、可視光の全波長領域に亘って透過率Tを0.1以下とすることができる。
【0071】
図9は、偏光スイッチング液晶素子の透過率波長依存性の計算結果を示すグラフである。ここでは、セルギャップdを1.6μmとし、液晶材料として図8の場合と同様に、Δnが0.13、0.165、0.218、0.24、0.26の5種類について計算している。
【0072】
セルギャップdを1.6μmと薄くすると、位相差uが小さい方向にシフトするため、この場合には、Δnが0.26の液晶材料のみが使用可能となる。すなわち、この場合には、計算上、Δn≧0.252の液晶材料を用いれば、可視光の全波長領域に亘って透過率Tを0.1以下とすることができる。
【0073】
次に、上述した偏光スイッチング液晶素子を備える本発明に係る画像表示装置の実施の形態について説明する。
【0074】
図10は、本発明に係る画像表示装置の第1実施の形態を示す概略構成図である。
【0075】
この画像表示装置は、上述した本発明に係る偏光スイッチング液晶素子1を用いて水平方向に2点画素ずらし(ウォブリング)を実現したプロジェクタで、色面順次照明可能な色面順次照明手段21と、入力される映像信号を表示するための空間光変調素子22と、色面順次照明手段21からの照明光を空間光変調素子へ効率よく導く照明光学系23と、偏光スイッチング液晶素子1を含む画素ずらし光学ユニット24と、画素ずらし光学ユニット24を通過した光をスクリーン25へ拡大投射するための投影光学系26と、空間光変調素子22を駆動する変調素子駆動回路27と、偏光スイッチング液晶素子1を駆動する液晶セル駆動回路28と、入力される映像信号に基づいて変調素子駆動回路27および液晶セル駆動回路28の駆動を制御する画素ずらし制御回路29とを有している。
【0076】
色面順次照明手段21は、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ等の白色光を発光する白色ランプ31aおよび発光された光線を所定の点に集光する楕円リフレクタ31bを備えた光源31と、RGB各色の波長のみを透過可能な複数の色フィルタを備える円板を回転させてRGBの3色光を時分割で順次生成するカラーホイール32とを有している。なお、白色ランプ31a以外にも、LEDやLD等を用いて、RGB各波長の光を順次発光制御する形態でもかまわない。
【0077】
照明光学系23は、色面順次照明手段21からの照明光から所定の直線偏光を効率よく生成する偏光変換手段であるPS変換素子33と、PS変換素子33からの偏光光を例えば内部反射により多点化するインテグレータロッド34と、インテグレータロッド34で多点化された光を合成して空間光変調素子22の表示領域全域を照明する照明レンズ35とを有するテレセントリック系で構成され、光源31で生じる照明ムラを低減するようになっている。
【0078】
空間光変調素子22は、例えば透過型LCDからなり、その偏光透過軸は照明光学系23のPS変換素子33から出射される照明光の偏光方向と揃えてある。なお、この空間光変調素子22は、透過型LCDに限らず、反射型LCD(LCoS)、DMDであってもかまわない。
【0079】
画素ずらし光学ユニット24は、本発明に係る偏光スイッチング液晶素子1と複屈折板36とを有している。本実施の形態では、偏光スイッチング液晶素子1はTN液晶を液晶材料として用いており、複屈折板36は、例えば水晶(a−SiO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、ルチル(TiO)、方解石(CaCo)、チリ硝石(NaNo)、YVO等の異方性結晶をもって構成され、入射する偏光光の透過軸の方向に応じて画素ずらしするようになっている。
【0080】
本実施の形態では、画素ずらし制御回路29において、入力された映像信号から画素ずらし位置に対応した画像を変調素子駆動回路27に送出するとともに、その送出タイミングと同期して液晶セル駆動回路28を駆動することで、空間光変調素子22の画像情報と画素ずらし位置とを同期させて高解像度化を実現している。なお、上記特許文献2に開示のように、画素ずらし制御回路29において空間光変調素子22の応答速度の遅れ分を考慮したフィールド間の補正処理を行ってもかまわない。
【0081】
また、本実施の形態では、空間光変調素子22として透過型LCDを用い、照明光学系23をテレセントリック系で構成していることから、空間光変調素子22から出射される光線は従属光線を含めても30度以下になる。このため、偏光スイッチング液晶素子1は、通過光線が光軸に対して30度以下の角度となるように構成して空間光変調素子22の近傍に配置することにより、空間光変調素子22からの斜入射による特性の影響を軽減している。
【0082】
以下、本実施の形態で使用する透過型LCDからなる空間光変調素子22について、詳細に説明する。
【0083】
本実施の形態では、空間光変調素子22として、表示切り替えを画面全域に亘って同時期に実施可能なものを用いている。このような一括表示(変調)可能な空間光変調素子22は、各画素が有する記録用コンデンサに全画面分を所持し、各画素が有する表示用コンデンサを一度に動作可能としている。
【0084】
一方、従来の画像表示装置では、上記特許文献1に開示されているような線順次走査する空間光変調素子が用いられている。この線順次走査する空間光変調素子は、記録用コンデンサが数画素分または1ライン分または数ライン分であり、コスト的に有利であるが、画素ずらしによる高解像度化(ウォブリング)を実施しようとすると、特許文献1に開示されているように、画素ずらしユニットの偏光スイッチング液晶素子を複数分極化して、空間光変調素子の線順次の走査タイミングに合わせて、偏光スイッチング液晶素子を順次駆動する必要がある。
【0085】
これに対し、本実施の形態のように、一括表示(変調)可能な空間光変調素子22を用いれば、偏光スイッチング液晶素子を複数分極する必要がないので、偏光スイッチング液晶素子1の駆動タイミングを調整することが容易となる。
【0086】
さらに、偏光スイッチング液晶素子の配置位置に関しても、線順次走査型空間光変調素子を用いる場合には、偏光スイッチング液晶素子を空間光変調素子から距離をもって配置すると、空間光変調素子の線順次走査と偏光スイッチング液晶素子の分極駆動タイミングとの相関関係が光学的に混ざってしまうため、偏光スイッチング液晶素子を空間光変調素子の近傍に配置しなければならず、配置の自由度がなくなる。
【0087】
これに対し、本実施の形態のように、一括表示(変調)可能な空間光変調素子22を用いれば、偏光スイッチング液晶素子を空間光変調素子22から距離をもって配置しても、偏光スイッチング液晶素子を分極化する必要がないので、偏光スイッチング液晶素子の配置位置の自由度を高めることができる。
【0088】
このような配置の自由度に関しては、特に、空間光変調素子として反射型LCD(LCoS)を用いた場合に有効である。すなわち、反射型LCDの場合には、一般に反射型LCDの前方に入射光と変調光とを分離する偏光ビームスプリッタ(PBS)が配置されることから、PBSで分離された変調光の光路に画素ずらしユニットを配置しようとすると、反射型LCDから画素ずらしユニットまでの距離が長くなるからである。
【0089】
次に、図11(a)および(b)を参照して、偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加をオン・オフして水平方向に2点画素ずらし(ウォブリング)を行う場合に、偏光スイッチング液晶素子1で生じる切り替えの状態の悪化(図4乃至図6参照)、すなわち楕円偏光化によって生じるクロストークについて説明する。なお、図11(a)は偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加がオフの場合を、図11(b)は偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加がオンの場合をそれぞれ示している。
【0090】
図11(a)および(b)において、空間光変調素子22は、垂直方向の偏光透過軸を有する偏光光を変調して、水平方向の偏光透過軸を有する偏光光を出射するようになっている。ここで、図11(a)に示すように、偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加がオフの場合には、偏光スイッチング液晶素子1に入射した偏光光は、理想的には90度偏光方向が旋回されて垂直方向の偏光透過軸を有する偏光光となって、複屈折板36で水平方向に画素ずらし(光線シフト)されることなく画素位置Aに到達する。
【0091】
しかし、偏光スイッチング液晶素子1において、理想状態に偏光旋回することは極めて困難であり、実際には偏光スイッチング液晶素子1から出射される偏光光は楕円化される。このため、偏光スイッチング液晶素子1から出射される偏光光には、ベクトル成分として水平方向の偏光成分と垂直方向の偏光成分とが現れ、水平方向の偏光成分は複屈折板36で画素ずらしされて画素位置Bに到達し、垂直方向の偏光成分は複屈折板36で画素ずらしされることなく画素位置Aに到達して、偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加がオフという同時期に画素位置AおよびBの両方に光が到達することになる。
【0092】
このように、偏光スイッチング液晶素子1から出射される偏光光が楕円化されて、本来画素位置Aに表示する情報が楕円偏光の割合に応じて画素位置AおよびBの両方に表示されると、解像力の劣化が生じることになる。このような現象を、ここではクロストークと言うこととする。
【0093】
同様に、偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加をオンした場合も、偏光スイッチング液晶素子1から出射される偏光光は楕円化されるため、本来は水平右方向にシフトした画素位置Bに表示する情報が楕円偏光の割合に応じて画素位置BおよびAの両方に表示されて、クロストークが生じる。なお、偏光スイッチング液晶素子1としてTN液晶を用いた場合には、電圧印加のオフ時とオン時とで偏光光の楕円化の度合いが異なり、オフ時の方がオン時よりも楕円化が大きくなる。
【0094】
上記のクロストークは波長依存性を有しているため、単一の波長の照明光を用いる場合には、その使用波長で最適化すれば良いが、可視全域(またはRGBの所定の色)の照明光を用いる場合には、解像度の劣化の他に、クロストークの発生の程度に色毎の変化が生じて、後述する偽色が発生することになる。
【0095】
ここで、クロストークは偏光スイッチング液晶素子1の上述した透過率が低いほど発生が防止され、偽色はRGB全域で透過率が低いほど発生が防止される。また、Δnが大きい材料は、液晶の需要量として大きい分野である画像表示用途としては、視野角(斜入射)特性の確保が難しいが、画像表示用途でない偏光スイッチング液晶素子1としては、特にプロジェクタの画素ずらし素子として使用する場合は、斜め方向の光線(30度以上の傾いた光)を扱うことが少ないので、斜入射の影響を受け難い構成が容易となる。
【0096】
次に、図12及び図13を参照して、偽色について説明する。
【0097】
図12は、クロストークのない理想的な画素ずらしを説明するための図である。ここでは、画素位置Aと画素位置Bとに表示したい画像として、画素位置Aには白、画素位置Bには黒を表示するものとする。すなわち、RGBの各色を8ビットの信号で表すと、画素位置AにはR=255、G=255、B=255の画像を表示し、画素位置BにはR=0、G=0、B=0の画像を表示するものとする。なお、画素位置Aおよび画素位置Bは、説明の便宜上分離して示しているが、実際の画素形状は画素開口率を大きくとることで、画素位置Aと画素位置Bとは一部重なったものとなる。
【0098】
この場合、RGBの各色が偏光スイッチング液晶素子1の楕円偏光化に伴って異なるクロストーク、例えば図13に示すように、Rが50:50、Gが80:20、Bが90:10の割合でクロストークが生じると、画素位置Aに表示される画像は、赤の色が弱くなることで青味がかった白となり、画素位置Bに表示される画層は、赤の色が強くなることで赤味がかった黒となる現象が生じ、本来白黒の表示をしたいのに、色が付く偽色という現象が生じてしまう。すなわち、RGB各色のクロストーク量の差が影響して、狙いでない色が生じることになる。
【0099】
図14は、図10に示した画像表示装置により色面順次表示で2点画素ずらしを行う場合のタイムチャートである。
【0100】
空間光変調素子22は、1フレームの間にRGBの順次表示を4回行っている。RGBの各色光の照明時間は、光源31の分光特性によりホワイトバランスを考慮して決められる。本実施の形態では、R>B>Gの順序で照明するようにカラーホイール32が構成されている。
【0101】
1フレームの周波数は、RGBの1周期を1フィールドとした場合、4フィールドで30Hzとなるように設定されており、2点画素ずらしは各フィールドで行われて、1フィールド目および3フィールド目は偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加をオフとして画素位置Aに表示し、2フィールド目および4フィールド目は偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加をオンとして画素位置Bに表示するようになっている。なお、入力信号がインターレースの場合には、1,2フィールドと、3,4フィールドとで60Hz毎に違うデータを表示するように構成してもかまわない。
【0102】
偏光スイッチング液晶素子1は、TN液晶を用いると電圧印加をオンする時とオフする時とで応答速度に違いを有し、特にオンからオフに応答する期間では、偏光スイッチングしている期間にクロストークが発生して偽色が生じ易いので、この偽色の発生を低減するために、偏光スイッチング液晶素子1の駆動タイミングを、応答速度を考慮して画素位置Bから画素位置Aにずらすタイミングに対してより早い時間にオンからオフへ切り替えるようにしている。
【0103】
ここで、偏光スイッチング液晶素子1の応答による偽色の発生メカニズムを詳細に説明すると、1フィールドと2フィールドとの間のB1光とR2光との期間において、偏光スイッチング液晶素子1への電圧印加をオフからオンすると、偏光旋回が開始される。この偏光旋回が開始されてから終了するまでの期間は、画素位置Aと画素位置Bとの両方に光線が到達してクロストークとなる。特に、偏光スイッチング液晶素子1の応答特性が要因のものは、R色とB色においてクロストークが生じ、G色は影響を受けない。このため、各画素位置における画素の情報(ホワイトバランス含む)が狙いのものと異なり、偽色が生じることとなる。
【0104】
一方、空間光変調素子22として線順次走査を用いたものを使用して、その線順次走査のタイミングに対応して偏光スイッチング液晶素子1の駆動タイミングを調整すると、オンからオフへの切り替えタイミングが画面の上部と下部とで異なることから、偽色の傾向に差が生じて偽色の面内ムラが生じることになる。なお、このような偽色の面内ムラを低減するために、偏光スイッチング液晶素子1を分極すると、分極内での偽色の面内ムラが生じることとなる。
【0105】
これに対し、本実施の形態におけるように、空間光変調素子22として一括表示型のものを用いれば、偽色の発生はあっても画面一様に生じ、観察画像の偽色部分ムラがないので、違和感を受け難くできる効果がある。
【0106】
なお、上記の効果は、本実施の形態のようなTN液晶を用いた偏光スイッチング液晶素子に限らず、強誘電性液晶を用いた偏光スイッチング液晶素子を画素ずらし素子に用いて面順次で一括表示する場合にも、同様に得られるものである。
【0107】
図15は、本発明に係る画像表示装置の第2実施の形態を示す概略構成図である。本実施の形態の画像表示装置は、第1実施の形態の画像表示装置において、2セットの画素ずらし光学ユニット24a,24bを用いて、水平および垂直方向に4点画素ずらしを行うようにしたものである。
【0108】
画素ずらし光学ユニット24a,24bは、それぞれ本発明に係る偏光スイッチング液晶素子1a,1bと複屈折板36a,36bとを有して構成して、複屈折板36aおよび36bを光線シフト方向が直交するように配置する。その他の構成は、第1実施の形態と同様であるので、同様の作用を行う素子には同一符号を付してその説明を省略し、また、4点画素ずらしの動作も公知であるので、ここではその説明を省略する。
【0109】
図16は、本発明に係る画像表示装置の第3実施の形態を示す概略構成図である。本実施の形態の画像表示装置は、第2実施の形態の画像表示装置において、一括表示型の空間光変調素子22として反射型LCDを用いたものである。このため、照明光学系23と空間光変調素子22との間にPBS41を配置して、空間光変調素子22に入射する照明光と空間光変調素子22で変調されて戻る変調光とを偏光分離し、このPBS41で分離された変調光を画素ずらし光学ユニット24a,24b側に導くようにしている。
【0110】
本実施の形態では、反射型の空間光変調素子22を用いていることから、この空間変調素子22と光学ユニット24aを構成する偏光スイッチング液晶素子1aとの間の光学路が長くなるが、空間光変調素子22が一括表示型で、偏光スイッチング液晶素子1aを分極化する必要がないので、上述したように偏光スイッチング液晶素子1aの配置位置の自由度を高めることができる。
【0111】
図17は、本発明に係る画像表示装置の第4実施の形態を示す概略構成図である。本実施の形態は、それぞれ透過型LCDからなる3枚の空間光変調素子22R,22G,22Bを用いた3板式の画像表示装置において、第2実施の形態と同様に本発明に係る偏光スイッチング液晶素子1a,1bを有する2セットの画素ずらし光学ユニット24a,24bとを用いて、水平および垂直方向に4点画素ずらしを行うようにしたものである。
【0112】
図17において、白色光源51からの照明光は、空間光変調素子22R,22G,22B上での照明ムラを平準化するためにフライアイレンズ52で多点化され、さらにマルチPBSからなるPS変換素子53により所定の偏光光に変換される。
【0113】
PS変換素子53から出射される照明光は、ダイクロイックミラー54でR光が分離され、さらにダイクロイックミラー55でG光とB光とに分離され、R光はミラー56を経て空間光変調素子22Rに入射して変調され、G光は空間光変調素子22Gに入射して変調され、B光はミラー57,58を経て空間光変調素子22Bに入射して変調される。
【0114】
空間光変調素子22R,22G,22Bでそれぞれ変調されたR光、G光、B光は、色合成プリズム59で合成され、その合成されたRGB光が第2実施の形態と同様に、2セットの画素ずらし光学ユニット24a,24bで水平および垂直方向に4点画素ずらしされて投影光学系26によりスクリーン25に投影表示される。
【0115】
ここで、画素ずらし光学ユニットを構成する偏光スイッチング液晶素子として、従来の偏光比の波長依存性を有するものを用いると、3板式であるために色毎にクロストークの発生の程度が変化して偽色が発生することになる。しかし、本実施の形態では、図1乃至図9において説明した本発明に係る偏光スイッチング液晶素子1a,1bを用いて画素ずらし光学ユニット24a,24bを構成しているので、高解像度で偽色の少ない3板式の画像表示装置を実現することができる。
【0116】
図18は、本発明に係る偏光スイッチング液晶素子を用いた3Dメガネの概略構成を示すものである。
【0117】
この3Dメガネは、偏光スイッチング液晶素子をシャッタとして用いたもので、3Dメガネ61の左右のレンズ部には、図1乃至9で説明した本発明に係る偏光スイッチング液晶素子1L,1Rが設けられ、その外側(表面側)には垂直方向の偏光透過軸を有する偏光板62L,62Rが、内側(裏面側)には水平方向の偏光透過軸を有する偏光板63R,63Lがそれぞれ配置されて、偏光スイッチング液晶素子1L,1Rを液晶セル駆動回路64で交互に駆動することにより、偏光スイッチング液晶素子1L,1Rを交互に透過状態、すなわち左目が透過で右目が不透過の状態と左目が不透過で右目が透過の状態となるようにしたものである。
【0118】
この3Dメガネを用いて左目用画像と右目用画像とが交互に表示される画像を観察する際は、左目用画像と右目用画像との表示切り替えタイミングに同期して、液晶セル駆動回路64で偏光スイッチング液晶素子1L,1Rを交互に駆動することにより、3D画像の観察が可能となる。
【0119】
ところで、このような3Dメガネでは、左目用の液晶シャッタと右目用の液晶シャッタとの切り替え速度が重要であり、左右の表示画像の切り替えに連動して、左右の液晶シャッタが高速に応答することが望まれる。そのためには、上述したように液晶セルの厚さを薄くすることが有効であるが、シャッタによる遮光程度(透過率)に波長依存性が発生することになる。このため、色によっては左右の画像を有効に分離できるように遮光されず、例えば左目用の画像が右目に漏れる現象(これもクロストークといえる)が生じて、3D観察における立体感が損なわれることになる。
【0120】
その点、本実施の形態では、左右の液晶シャッタとして図1乃至9で説明した本発明に係る偏光スイッチング液晶素子を用いているので、液晶シャッタとしての遮光率の波長依存性による左右画像の漏れ現象(クロストーク)を最低限に抑えながら、液晶シャッタの応答速度を高速化でき、3D観察における立体感の低下を改善することが可能となる。
【0121】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、本発明に係る偏光スイッチング液晶素子は、プロジェクタや3Dメガネに限らず、電子ビューファインダ(EVF)や頭部装着型ディスプレイ(HMD)のようなマイクロディスプレイを使用する画像表示装置や、光を選択的に透過・遮光する光シャッタとして広く適用することができるとともに、画素ずらしユニットを用いた画素ずらし型の撮像装置に用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明に係る偏光スイッチング液晶素子の一実施の形態の概略構成を示す断面図である。
【図2】TN液晶の透過率位相差依存性を示すグラフである。
【図3】偏光スイッチング液晶素子の透過率波長依存性を示すグラフである。
【図4】偏光スイッチング液晶素子の透過率測定回路を示す図である。
【図5】偏光スイッチング液晶素子の透過率測定動作を説明するための図である。
【図6】偏光スイッチング液晶素子の駆動波形と受光素子12の出力波形とを示す図である。
【図7】偏光スイッチング液晶素子の透過率波長依存性を示すグラフである。
【図8】偏光スイッチング液晶素子の透過率波長依存性の計算結果を示すグラフである。
【図9】同じく、偏光スイッチング液晶素子の透過率波長依存性の計算結果を示すグラフである。
【図10】本発明に係る画像表示装置の第1実施の形態を示す概略構成図である。
【図11】2点画素ずらしにおけるクロストークの発生メカニズムを説明するための図である。
【図12】クロストークのない理想的な画素ずらしを説明するための図である。
【図13】偏光スイッチング液晶素子の特性によって生じるRGBのクロストークを説明するための図である。
【図14】図10に示した画像表示装置により色面順次表示で2点画素ずらしを行う場合のタイムチャートである。
【図15】本発明に係る画像表示装置の第2実施の形態を示す概略構成図である。
【図16】同じく、第3実施の形態を示す概略構成図である。
【図17】同じく、第4実施の形態を示す概略構成図である。
【図18】本発明に係る偏光スイッチング液晶素子を用いた3Dメガネの概略構成を示すものである。
【符号の説明】
【0123】
1,1a,1b,1L,1R 偏光スイッチング液晶素子
2a,2b 透明基材
3a,3b 透明電極
4a,4b 液晶配向膜
5 スペーサ部材
6 シール材
7 液晶材料
11 測定用光源
12 受光素子
13a,13b 偏光板
15 光源発光回路
16 測定制御回路
17 液晶セル駆動回路
18 PD増幅回路
21 色面順次照明手段
22,22R,22G,22B 空間光変調素子
23 照明光学系
24,24a,24b 画素ずらし光学ユニット
25 スクリーン
26 投影光学系
27 変調素子駆動回路
28 液晶セル駆動回路
29 画素ずらし制御回路
31 光源
32 カラーホイール
33 PS変換素子
34 インテグレータロッド
35 照明レンズ
36,36a,36b 複屈折板
41 PBS
51 白色光源
52 フライアイレンズ
53 PS変換素子
54,55 ダイクロイックミラー
56,57,58 ミラー
59 色合成プリズム
61 3Dメガネ
62L,62R,63R,63L 偏光板
64 液晶セル駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の透明基材間に保持した液晶を有し、上記液晶に選択的に電圧を印加して、少なくとも可視光の偏光光を、その偏光透過軸を選択的に90度旋回して透過させる偏光スイッチング液晶素子であって、
上記液晶の屈折率異方性をΔn、上記液晶の厚さをd、上記偏光光の波長をλとして、上記液晶の位相差uをu=2×Δn×d/λ、入射側および出射側にそれぞれ偏光板を配置して測定される透過率TをT=(1/2)×sin{π(1+u1/2/2}/(1+u)とするとき、上記透過率Tが0.1以下であることを特徴とする偏光スイッチング液晶素子。
【請求項2】
上記液晶がTN液晶であることを特徴とする請求項1に記載の偏光スイッチング液晶素子。
【請求項3】
上記dが4μm以下であることを特徴とする請求項2に記載の偏光スイッチング液晶素子。
【請求項4】
上記λが400nm〜700nmであることを特徴とする請求項2または3に記載の偏光スイッチング液晶素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の偏光スイッチング液晶素子を備える画像表示装置であって、
少なくとも可視光を発光する可視光源と、
上記可視光源からの可視光を所定の偏光光に変換する偏光変換手段と、
上記偏光変換手段からの偏光光を画像情報に応じて変調する空間光変調手段と、
上記偏光スイッチング液晶素子および複屈折素子を有し、上記偏光スイッチング液晶素子に選択的に電圧を印加して上記空間光変調手段からの変調光を画素ずらしする画素ずらし手段と、
上記画素ずらし手段を経た変調光を表示する表示光学手段と、
を有することを特徴とする画像表示装置。
【請求項6】
上記可視光源は上記空間光変調手段にRGBの各色光を面順次で出射し、
上記空間光変調手段は上記可視光源からの各色光に対応して画像情報を順次変調することを特徴とする請求項5に記載の画像表示装置。
【請求項7】
上記空間光変調手段は上記可視光源からの各色光に対応して画像情報を全面同時に切り替えることを特徴とする請求項6に記載の画像表示装置。
【請求項8】
上記偏光スイッチング液晶素子を透過する光線の傾斜角度が30度以下であることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一項に記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−121893(P2007−121893A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316864(P2005−316864)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】