説明

偏光制御素子及びそれを用いたレーザシステム

【課題】入射光の高出力化に起因する熱効果の影響を効率的に低減することが可能な偏光制御素子を提供すること。
【解決手段】この偏光制御素子1は、ポッケルス効果を有する電気光学材料からなる媒質5と、媒質5を挟むように媒質5の表面に接合された1対の平板状電極6とを有し、入射光Oinの入射方向に沿って直列に配置された2つのポッケルスセル3a,3bと、2つのポッケルスセル3a,3bの間に設けられ、2つのポッケルスセル3a,3b間を伝搬する入射光Oinの偏光面を90度回転させる90度クオーツローテータ4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印加する電界によって光の偏光制御を行う偏光制御素子及びそれを用いたレーザシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、励起用レーザダイオードの技術進歩や、レーザ材料、レーザ媒質の熱効果の制御方法の進歩によって、固体レーザを用いた産業用、科学技術用のレーザシステムの高平均出力化が実現されており、例えば平均出力1kW級、定光出力(CW出力)10kW級のレーザシステムが報告されている。このようなレーザシステムは、下記非特許文献1に記載のように、レーザ発振器、レーザガラスをレーザ媒質として有するレーザ増幅器、空間フィルター、ミラー、レンズ、ポッケルスセル、ファラデーローテータ等で構成されている。これらのうち、ポッケルスセル(電気光素子)は、媒質に電界を加えることで生じる複屈折性を利用して1/2波長板や1/4波長板と同等の機能をオン−オフすることができる光学素子であり、逆行する光の抑止、各レーザ増幅器間のアイソレーションや多重パス増幅における偏光制御用に用いられる。
【非特許文献1】T. Kawashima, T. Kanabe, H. Matsui, E. Eguchi, M. Yamanaka, Y. Kato,M. Nakatsuka, Y. Izawa, S. Nakai, T.Kanzaki and H. Kan, “Design and performance ofa Diode-Pumped Nd: Silica-Phosphate Glass Zig-Zag Slab Laser Amplifier forInertial Fusion Energy”, Jpn. J. Appl. Phys. 40, p.6415 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述したレーザシステムにおいては、高出力化に伴って光透過型の光学素子においてレーザ光のエネルギーが吸収され、それによって光学素子の媒質内における内部発熱が生じる。その結果、レーザシステムにおいて、光学素子の発熱による熱膨張や、光学素子の屈折率の熱依存性による屈折率分布等に起因した熱効果が問題になる。このような熱効果としては、熱レンズ効果、熱複屈折効果、熱変形、熱応力破壊等が挙げられる。熱レンズ効果は、媒質内に生じる温度分布によって媒質内の屈折率が空間分布を持つ現象である。熱複屈折効果は、熱応力により媒質が光学的異方性(複屈折性)を有し、これによりレーザ材料の主軸方向とこれに直交する方向の屈折率が異なり、直交する2つの方向の位相速度の差が原因で偏光解消が生じてしまう現象である。このような熱複屈折効果は、偏光の回転を利用したMOPA(Master Oscillator Power Amplifier)のようなレーザシステムにおいては、システム損失の増大を招いてしまう。
【0004】
なお、吸収係数が10−3/cm程度と高く、線膨張係数が高く、かつ、屈折率の熱依存性を持つ材料で構成されるポッケルスセルにおいては、上記熱効果の影響が大きい。すなわち、ポッケルスセルに熱レンズ効果、熱複屈折効果、熱変形効果、熱応力破壊が発生すると、本来得られるべき偏光制御が得られなくなり、レーザシステムにおける効率の低下が生じるばかりか、安定したレーザ動作そのものの妨げになる。特に、ポッケルスセルにおいてはレーザ材料やレーザ媒質等に比して発生する熱量が小さいため熱レンズ効果よりも熱複屈折効果による影響を大きく受けてしまう。
【0005】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、入射光の高出力化に起因する熱効果の影響を効率的に低減することが可能な偏光制御素子及びそれを用いたレーザシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の偏光制御素子は、電気光学効果を有する電気光学材料からなる媒質と、媒質を挟むように媒質の表面に接合された1対の電極とを有し、光の入射方向に沿って直列に配置された2つのポッケルスセルと、2つのポッケルスセルの間に設けられ、2つのポッケルスセル間を伝搬する光の偏光面を90度回転させる90度偏光回転子とを備える。
【0007】
このような偏光制御素子によれば、媒質を挟んで接合された一対の電極を用いて媒質内に電界が印加されて、2つのポッケルスセルの媒質に連続して光が透過することで、その光の偏光状態を変化させることができる。このとき、光の入射方向に沿って並んだ2つのポッケルスセル間に90度偏光回転子を配置させることで、1つ目のポッケルスセルの媒質から出射された光の偏光面を90度回転させた後に、その光を2つ目のポッケルスセルの媒質に入射させることになる。従って、熱複屈折効果による偏光解消が2つのポッケルスセル間でキャンセルされ、全体として偏光解消を補償することができる。その結果、高出力化された入射光のエネルギー損失を低減することができる。
【0008】
2つのポッケルスセルは、光の光軸を挟むように媒質の対向面に沿って設けられた冷却部を更に有することが好ましい。この場合、媒質内における温度上昇を抑えることができるので、入射する光の偏光制御時の熱効果の影響を更に低減することができる。
【0009】
また、2つのポッケルスセルは、光の光軸を挟むように媒質の対向面を除く表面に沿って設けられた熱源又は断熱部材を更に有することも好ましい。かかる構成を採れば、ポッケルスセルの媒質内の熱の移動を特定の方向に制御することができるので、熱複屈折効果による偏光解消が2つのポッケルスセル間でキャンセルし易くなり、熱効果の影響が効果的に低減される。
【0010】
さらに、媒質は、入射方向に垂直な方向に沿った断面が矩形状に形成されていることも好ましい。かかる媒質を備えれば、冷却面積を大きくすることができるので入射する光の偏光制御時の熱効果の影響を効率的に低減することができる。
【0011】
またさらに、冷却部と媒質との間には、非潮解性物質からなる保護層が更に設けられていることも好ましい。こうすれば、冷却部における冷媒として液体を用いた場合であっても、媒質の劣化を防止することができる。
【0012】
本発明のレーザシステムは、上述した偏光制御素子と、偏光制御素子に入射するレーザ光を生成するレーザ発振器と、偏光制御素子による偏光制御に応じてレーザ光を外部に出力する出力部とを備える。このようなレーザシステムによれば、入射光を高エネルギー化しても偏光制御素子における熱複屈折効果の影響を抑えることができ、全体のシステム損失を低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、入射光の高出力化に起因する熱効果の影響を効率的に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る偏光制御素子の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面は説明用のために作成されたものであり、説明の対象部位を特に強調するように描かれている。そのため、図面における各部材の寸法比率は、必ずしも実際のものとは一致しない。
【0015】
図1は、本発明の好適な一実施形態である偏光制御素子1の斜視図である。この偏光制御素子1は、ポッケルス効果(電気光学効果)を利用して、印加電圧によって入射光の偏光状態の変化を制御する光学素子である。同図に示すように、偏光制御素子1は、平板状の台座部2上に載置された2つのポッケルスセル3a,3bと、台座部2上における2つのポッケルスセル3a,3bの間に配置された90度クオーツローテータ(偏光回転子)4とを備えている。なお、2つのポッケルスセル3a,3bは、ほぼ同様の構成を有している。ここで、同図において、偏光制御素子1に対する光の入射方向に沿った方向をZ軸方向とし、Z軸に垂直でかつ台座部2の面に平行な方向をX軸方向、Z軸に垂直でかつ台座部2の面に垂直な方向をY軸方向とする。
【0016】
詳細には、ポッケルスセル3a,3bは、略立方体形状の媒質5を有している。媒質5は、ポッケルス効果を有する電気光学材料であるKDP(KHPO)結晶、DKDP(KDPO)結晶等からなり、長手方向(Z方向)に対して垂直な方向の断面が矩形状を成している。ポッケルス効果とは、外部電界の影響下で光学媒体が屈折率変化を起こす現象である。これらの媒質5は、その側面がYZ平面又はZX平面に平行になるように配置される。
【0017】
この媒質5のZX平面に平行な対向面には、それぞれ、媒質5を上下(Y軸方向)から挟むように、その対向面全体に亘って一対の平板状電極6が接合されている。この一対の平板状電極6間に電圧が印加されると、媒質5のポッケルス効果によりXY平面に沿った方向において屈折率差が生じる。すなわち、X方向とY方向とにおいて光の位相速度の差異が生じ、位相速度の差異は印加する電圧に依存する。
【0018】
さらに、媒質5のYZ平面に平行な対向面には、それぞれ、媒質5を左右(X軸方向)から耐水コーティング(保護層)7を介して挟むように、その対向面全体に沿って一対の冷却部8が取り付けられている。冷却部8は、内部に冷却媒体が循環可能な中空構造を有し、略平板状に形成された樹脂材料等の非金属材料によって構成される。媒質5の対向面全体に形成された耐水コーティング7は、SiO等の非潮解性物質からなり、後述する冷却媒体として水を含む媒体が用いられた場合に、媒質5の潮解性を抑制する役割を有する。
【0019】
このような冷却部8の外面(±X方向側の側面)には、それぞれ、内部の中空構造に接続されて冷却媒体を流入させるための導入パイプ9、及び内部の中空構造に接続されて冷却媒体を流出させるための排出パイプ10が、外部に突出して設けられている。導入パイプ9及び排出パイプ10は、図示しないチラー装置に接続されている。このチラー装置によって、水(HO)、液体窒素、液体ヘリウム、フッ素系不活性液体、重水素デカリン等の冷却媒体が、導入パイプ9から冷却部8の中空部を経て、排出パイプ10まで続く流路に循環される。このような構成により、冷却部8は、媒質5の両側面において発生する熱を吸収して媒質5を冷却する。なお、導入パイプ9から排出パイプ10に続く流路における接続部分は、外部への冷却媒体の液漏れを防止するためにオーリングによってシールされている。
【0020】
上述の媒質5はその光の入射面と出射面は大気雰囲気にさらされているが、例えば媒質5を、その入射面及び出射面に対応する領域に光学ウィンドウが設けられた容器内に収容し、容器内を真空に保つか、もしくは窒素充填することにより、電気光学素子の温度をさらに293Kから70K程度に冷却可能な構造とすることも可能である。このような構成とすることによって低温での熱伝導率の増加と電気光学定数の増加による低電圧化を得ることが可能になり、熱効果の低減に好都合である。
【0021】
さらに、冷却部8が接合された面を除く媒質5の側面に沿って、シート状の断熱部材11が設けられている。具体的には、この断熱部材11は、冷却部8の側面に接合された平板状電極6の表面に接して設けられている。断熱部材11としては、例えば、ポリウレタン、テトラフルオロエチレン等の熱伝導率が0.5W/cmK以下の断熱材が用いられる。このような断熱部材11は、媒質5内においてY軸方向への熱の輸送を防止するように作用する。
【0022】
このような構成を有するポッケルスセル3a,3bは、入射光Oinが媒質5の中心部に入射するように、台座部2上に互いに離間して配置される。すなわち、ポッケルスセル3a,3bは、入射光Oinの光軸に沿って直列に並んでおり、平板状電極6、冷却部8、及び断熱部材11のそれぞれは、その光軸を挟んで対称に配置される。
【0023】
台座部2上における2つのポッケルスセル3a,3bの間に、90度クオーツローテータ4が載置される。90度クオーツローテータ(水晶旋光子)4は、ポッケルスセル3aを透過して、ポッケルスセル3a,3b間を伝搬する入射光Oinの偏光面を、偏光状態を保ったまま90度回転させる光学素子である。90度クオーツローテータ4は、XY平面に沿った断面がポッケルスセル3a,3bの媒質5の断面とほぼ同じ形状及び大きさを有し、入射光Oinが断面の中心部を通るように配置される。
【0024】
以上説明した偏光制御素子1のポッケルスセル3a,3bには、所定電圧(例えば、P波又はS波として入射した直線偏光を円偏光に変更するような大きさの電圧)が、平板状電極6を介して媒質5のY方向に印加される。このとき、ポッケルスセル3aに入射した入射光Oinは、媒質5を透過することによって印加電圧に応じて偏光状態が変更された後、90度クオーツローテータ4に入射する。そして、入射光Oinは90度クオーツローテータ4によって偏光面が90°回転させられた後にポッケルスセル3bに入射し、ポッケルスセル3bの印加電圧に応じて再び偏光状態が変更される。これにより、入射光Oinの高エネルギー化に伴って生じる1つ目のポッケルスセル3aの熱複屈折効果によって、XY平面における2つの方向に位相差が生じた偏光状態が、そのまま90°回転させられた後に、2つ目のポッケルスセル3bにおいてポッケルスセル3aと同様の熱複屈折効果の影響を受けることになる。従って、2つのポッケルスセル3a,3bにおいて生じる位相差が互いに相殺されることになり、入射光Oinの出力時の熱効果に起因する偏光解消が防止されて熱効果の影響が偏光制御素子1全体で低減される。
【0025】
また、ポッケルスセル3a,3bには冷却部8が設けられているので、媒質5内における温度上昇を抑えることができ、入射光Oinの偏光制御時の熱破壊等の熱効果の影響をも低減することができる。特に、媒質5はXY平面に沿った断面が矩形状に形成されているので、媒質5の冷却面積を大きくすることができるので熱効果の影響を効率的に低減することができる。さらに、ポッケルスセル3a,3bには、断熱部材11が設けられているので、2つのポッケルスセル3a,3bの媒質5内の熱の移動をXY平面に沿った特定の方向に制御することができるので、熱効果による偏光解消が2つのポッケルスセル3a,3b間でキャンセルし易くなる。
【0026】
以上説明した偏光制御素子1は、レーザシステムに使用することができる。図5は、偏光制御素子1を有する多重パス増幅方式のMOPAレーザシステム100の構成を示す図である。
【0027】
MOPAレーザシステム100は、複数の反射板によって構成される光路上に、偏光制御素子1の他、レーザ発振器111、前置増幅器112、拡大光学系113a,113bファラデーアイソレータ114a,114b、ファラデーローテータ115a,115b、クオーツローテータ116、ポラライザ117a,117b、空間フィルター118、及びレーザ増幅器119a,119bを備えている。ポラライザ117a,117b、ファラデーローテータ115a、及びクオーツローテータ116によってレーザ光を外部出力する出力部が構成されている。
【0028】
直線偏光である被増幅レーザ光を生成するレーザ発振器111から、拡大光学系113a及びファラデーアイソレータ114aを経由して、被増幅レーザ光が前置増幅器112に入射される。拡大光学系113aは、被増幅レーザ光のビーム径を10倍に拡大する。ファラデーアイソレータ114aは、被増幅レーザ光のレーザ発振器111側への逆行によるレーザ発振器111の損傷を防止する。その後、被増幅レーザ光は、前置増幅器112によって増幅される。増幅された被増幅レーザ光は、前置増幅器112及びレーザ発振器111への逆行を防止するファラデーアイソレータ114bを透過した後、拡大光学系113bに入射する。拡大光学系113bは、被増幅レーザ光のビーム径を5倍に拡大する。この時点で、被増幅レーザ光はS波の直線偏光である。
【0029】
その後、被増幅レーザ光は、ポラライザ117aを透過してファラデーローテータ115a及びクオーツローテータ116に順に入射する。ここで、ポラライザ117a,117bはS波を透過させ、P波を反射する性質を有する。被増幅レーザ光は、ファラデーローテータ115aによって偏光面を45°回転された後、クオーツローテータ116によって逆方向に45°回転されることによってS波に戻り、ポラライザ117bを透過して、レーザ増幅器119a、空間フィルター118、及びレーザ増幅器119bに順に入射する。レーザ増幅器119a,119bは、固体レーザ媒質と固体レーザ媒質を挟むように配置された一対の励起光源を有し、励起光の照射に応じて反転分布を形成し、特定の波長の光を誘導放出することができる。この励起光源は、励起光を生成して固定レーザ媒質に照射して固定レーザ媒質を励起する。例えば、固体レーザ媒質は、長尺のスラブ形状を有するNd添加ガラスである。このようなレーザ増幅器119a,119bに入射したレーザ光は、固定レーザ媒質の一方の端面に対して斜めに入射し、固体レーザ媒質の両側面で繰り返し反射されながらジグザグ光路上を進行する。レーザ光が固体レーザ媒質のジグザグ光路に沿って伝播する間誘導放出が生じ、レーザ光が増幅される。また、空間フィルター118は、レーザ増幅器119aから出力されたレーザ光をレーザ増幅器119b側に像転送する。
【0030】
そして、レーザ増幅器119bによって増幅されて出力されたレーザ光は、反射板で反射されることによってファラデーローテータ115bを往復し、S波からP波に変更された後、再び、レーザ増幅器119b、空間フィルター118、及びレーザ増幅器119aを逆方向に通過する。その後、レーザ光は、ポラライザ117bで反射されて、偏光制御素子1を往復する。このとき、偏光制御素子1に直線偏光を円偏光に偏光するような電圧、すなわち1/4波長板と同等の機能を発揮させるような電圧が印加されていれば、レーザ光はS波に戻されて、レーザ増幅器119a,119bを含む増幅パスを再び往復する。このように偏光制御素子1に電圧が印加されている間は、レーザ光を繰り返し増幅することができる。
【0031】
一方、偏光制御素子1に印加する電圧をオフすると、偏光制御素子1で偏光状態は変更されないので、レーザ光はP波でファラデーローテータ115bを往復することによって、S波に変更されてポラライザ117bを透過する。そして、レーザ光は、クオーツローテータ116、及びファラデーローテータ115aを透過することによって、同一方向に偏光面を45°回転されてP波に変更された後、ポラライザ117aで反射されて出力される。
【0032】
このように、レーザ発振器111によって生成されてからレーザ増幅器119a,119bによって複数回増幅されたレーザ光が、偏光制御素子1による偏光制御に応じて外部に出力される。
【0033】
このようなレーザシステム100によれば、被増幅レーザ光の出力を大きくして高エネルギー化しても多重パス増幅方式における偏光制御用の偏光制御素子1における熱複屈折効果の影響を抑えることができ、全体のシステム損失を低減することができる。
【0034】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、偏光制御素子1の媒質5としては、入射光の光軸に沿って配置されたロッド状の形状のものを使用してもよい。このような形状の場合は、媒質5の周面上の対向する位置に冷却部を配置し、冷却部が配置された面を除く面に断熱部材を配置することができる。
【0035】
また、冷却部8としてはペルチェ素子等の冷却素子を用いてもよい。この場合は、冷却部8から発生する電界の影響を防ぐために、冷却部8と媒質5との間にサファイヤ等の熱伝導性の高い絶縁層を設けることが好ましい。
【0036】
また、断熱部材11の代わりに、導電性のプラスチックシートや、内部に温水等の熱媒体を有するシート部材等の熱源が用いられてもよい。このような熱源を用いることで、断熱部材では熱流束の制御が不十分な場合でも、充分な温度分布の制御が可能になる結果、偏光制御素子1の熱効果の影響を抑えることができる。
【0037】
また、90度クオーツローテータ4の代わりに、直線偏光の偏光面を90°回転させる機能を有する1/2波長板を用いてもよい。ただし、1/2波長板はあくまで複屈折性を利用した光学素子であるため、偏光面を単純に回転させる機能を有するクオーツローテータを用いるほうがポッケルスセル3a,3b間の相殺効果を得やすいのでより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の好適な一実施形態である偏光制御素子の斜視図である。
【図2】図1の偏光制御素子を用いたレーザシステムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1…偏光制御素子、3a,3b…ポッケルスセル、4…90度クオーツローテータ(90度偏光回転子)、5…媒質、6…平板状電極、7…耐水コーティング(保護層)、8…冷却部、11…断熱部材、100…レーザシステム、111…レーザ発振器、Oin…入射光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する電気光学材料からなる媒質と、前記媒質を挟むように前記媒質の表面に接合された1対の電極とを有し、光の入射方向に沿って直列に配置された2つのポッケルスセルと、
前記2つのポッケルスセルの間に設けられ、前記2つのポッケルスセル間を伝搬する光の偏光面を90度回転させる90度偏光回転子と、
を備えることを特徴とする偏光制御素子。
【請求項2】
前記2つのポッケルスセルは、前記光の光軸を挟むように前記媒質の対向面に沿って設けられた冷却部を更に有する、
ことを特徴とする請求項1記載の偏光制御素子。
【請求項3】
前記2つのポッケルスセルは、前記光の光軸を挟むように前記媒質の対向面を除く表面に沿って設けられた熱源又は断熱部材を更に有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の偏光制御素子。
【請求項4】
前記媒質は、前記入射方向に垂直な方向に沿った断面が矩形状に形成されている、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の偏光制御素子。
【請求項5】
前記冷却部と前記媒質との間には、非潮解性物質からなる保護層が更に設けられている、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の偏光制御素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の偏光制御素子と、
前記偏光制御素子に入射するレーザ光を生成するレーザ発振器と、
前記偏光制御素子による偏光制御に応じて前記レーザ光を外部に出力する出力部と、
を備えることを特徴とするレーザシステム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−316158(P2007−316158A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143192(P2006−143192)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】