説明

偏光子保護フィルムおよび偏光板

【課題】透明性や耐熱性に優れるだけでなく、可撓性や耐折性などの機械的特性に優れ、かつ異物が少なく着色性が低いという望ましい特性を備えると共に、特に、光弾性係数が小さく延伸しても光学的等方性が高いという光学的特性に優れた偏光子保護フィルムおよびそれを用いた偏光板を提供すること。
【解決手段】本発明の偏光子保護フィルムは、正の位相差を与えるラクトン環構造単位と負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位とを有するアクリル系共重合体を主成分として含有する。本発明の偏光板は、このような偏光子保護フィルムを偏光子の少なくとも片面に貼合してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子保護フィルムおよびそれを用いた偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、透過光を直線偏光に変換するために偏光板が使用されている。一般的に、偏光板は、偏光子の両面に保護フィルムが貼合された3層で構成されている。偏光子としては、通常、ポリビニルアルコール(以下「PVA」と略記する。)にヨウ素や染料を吸着・分散させた一軸配向フィルムが使用されている。
【0003】
ところが、このようなPVA系偏光子は、機械的特性が低く、また、熱や水分によって収縮したり、偏光機能が低下したりしやすいので、その両面に保護フィルムが接着された積層体にして使用されている。その保護フィルムは、複屈折性を示さないこと、光線透過率が高いこと、防湿性・耐熱性が優れていること、機械的特性が優れていること、PVA系偏光子との接着性が良好であることなどが要求される。
【0004】
従来、偏光子保護フィルムとしては、トリアセチルセルロース(以下「TAC」と略記する。)フィルムが使用されていた。しかし、TACフィルムは、例えば、高温高湿下での耐久性試験では、偏光子からの剥離、透明性の低下、偏光子の偏光度低下などが発生するなど、耐湿性が不充分であった。また、光弾性係数が大きく、外部応力により位相差変化が生じやすいので、実際に偏光板に使用する際の歪みによって、特に、大型の液晶表示装置において、色ムラが発生したり、周辺部のコントラストが低下したりするなどの問題があった。
【0005】
そこで、TACフィルムに代わる偏光子保護フィルムとして、特許文献1には、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体を環化縮合反応させることにより得られるラクトン環含有重合体を主成分として含有する光学用保護フィルムが開示されている。しかし、この光学用保護フィルムは、未延伸状態では、位相差が非常に小さいが、可撓性や耐折性などの機械的特性を付与するために延伸すると位相差が大きくなるという問題点がある。
【0006】
また、特許文献2には、ラクトン環含有重合体の複屈折を調整するために、負の位相差を与える構造単位を有するアクリロニトリル−スチレン樹脂(以下「AS樹脂」ということがある。)をブレンドすることが提案されている。しかし、AS樹脂は熱黄変しやすく、混練工程で着色するなどの問題点がある。また、混練工程が加わって工程が長くなることで高温の成形時間が長くなるために、ポリマーゲルが発生しやすく、さらに、混練工程での環境異物や、AS樹脂に含まれる異物などが混入してくるので、樹脂に含まれる異物が多くなるという問題点がある。
【特許文献1】特開2006−096960号公報
【特許文献2】特開2006−171464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、透明性や耐熱性に優れるだけでなく、可撓性や耐折性などの機械的特性に優れ、かつ異物が少なく着色性が低いという望ましい特性を備えると共に、特に、光弾性係数が小さく延伸しても光学的等方性が高いという光学的特性に優れた偏光子保護フィルムおよびそれを用いた偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討の結果、ラクトン環含有重合体に他の樹脂をブレンドするのではなく、正の位相差を与えるラクトン環構造単位を有するアクリル系共重合体に予め負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位を共重合すれば、ブレンドによる複屈折の調整が不必要となり、特に、光学的弾性係数が小さく延伸しても光学的等方性が高いという優れた光学的特性を有する偏光子保護フィルムおよびそれを用いた偏光板が容易に得られることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、正の位相差を与えるラクトン環構造単位と負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位とを有するアクリル系共重合体を主成分として含有することを特徴とする偏光子保護フィルム(以下「本発明の偏光子保護フィルム」ということがある。)を提供する。
【0010】
本発明の偏光子保護フィルムは、好ましくは、下記の特性または性能を有する:
面方向および厚さ方向の厚さ100μmあたりの位相差が好ましくは10nm以下である;
好ましくは、温度25℃、湿度65%RHの雰囲気下、半径1mmで180°に折り曲げた際にクラックを生じない;
空気雰囲気下、280℃で60分間加熱後の前記アクリル系共重合体の15%クロロホルム溶液の光路長1cmにおける加熱後の着色度(YI)が好ましくは20以下である;
前記アクリル系共重合体1gに含まれる粒径20μm以上の異物数が好ましくは50個以下である。
【0011】
本発明の偏光子保護フィルムは、好ましくは、延伸フィルムである。
本発明の偏光子保護フィルムにおいて、前記ラクトン環構造単位は、好ましくは、下記式(1):
【0012】
【化1】

【0013】
[式中、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示されるラクトン環構造単位である。
【0014】
本発明の偏光子保護フィルムにおいて、前記芳香族単量体由来の構造単位は、好ましくは、下記式(2):
【0015】
【化2】

【0016】
[式中、R、R、R、R、R、R、R10およびR11は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示される芳香族単量体由来の構造単位である。
【0017】
また、本発明は、上記のような偏光子保護フィルムを偏光子の少なくとも片面に貼合してなることを特徴とする偏光板を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ラクトン環含有重合体に他の樹脂をブレンドするのではなく、ラクトン環含有重合体に予め負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位を共重合しているので、ブレンドによる複屈折の調整が不必要となり、透明性や耐熱性に優れるだけでなく、可撓性や耐折性などの機械的特性に優れ、かつ異物が少なく着色性が低いという望ましい特性を備えると共に、特に、光弾性係数が小さく延伸しても光学的等方性が高いという光学的特性に優れた偏光子保護フィルムおよびそれを用いた偏光板が容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
≪偏光子保護フィルム≫
本発明の偏光子保護フィルムは、正の位相差を与えるラクトン環構造単位と負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位とを有するアクリル系共重合体を主成分として含有することを特徴とする。
【0020】
ここで、「正の位相差を与えるラクトン環構造単位」とは、偏光子保護フィルムの主成分である共重合体が単独のアクリル系共重合体である場合に、その面方向および厚さ方向の位相差に正の寄与をする構造単位であって、前記アクリル系共重合体の製造過程で分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とが環化縮合することにより形成されるラクトン環を含有する構造単位を意味する。また、「負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位」とは、偏光子保護フィルムの主成分である共重合体が単独のアクリル系共重合体である場合に、その面方向および厚さ方向の位相差に負の寄与をする構造単位であって、前記アクリル系共重合体の製造に用いる芳香族単量体に由来する構造単位を意味する。さらに、「・・・アクリル系共重合体を主成分として含有する」とは、本発明の偏光子保護フィルムを構成する熱可塑性樹脂中における前記アクリル系共重合体の含有量が通常は50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であることを意味する。なお、前記アクリル系共重合体の含有量の上限は、特に限定されるものではないが、通常は100質量%である。
【0021】
本発明の偏光子保護フィルムは、その他の成分として、前記アクリル系共重合体以外の重合体(以下「その他の重合体」ということがある。)を含有してもよい。その他の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩素化ビニル樹脂などのハロゲン化ビニル系重合体;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系重合体;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂などのゴム質重合体;などが挙げられる。これらの重合体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明の偏光子保護フィルムにおけるその他の重合体の含有量は、本発明の効果を阻害しない限り、特に限定されるものではないが、例えば、通常は0〜50質量%、好ましくは0〜40質量%、より好ましくは0〜30質量%、さらに好ましくは0〜20質量%である。
【0023】
本発明の偏光子保護フィルムは、従来公知の様々な添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐熱安定剤、耐光安定剤、耐候安定剤などの安定剤;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤などの帯電防止剤;樹脂改質剤;可塑剤;滑剤;などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明の偏光子保護フィルム中における添加剤の含有量は、各添加剤が効果を発揮する量であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜0.5質量%である。
【0025】
本発明の偏光子保護フィルムは、その厚さが好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μmである。厚さが5μm未満であると、フィルムの強度が低下するだけでなく、偏光子に貼合して耐久性試験を行うと捲縮が大きくなることがある。逆に、厚さが200μmを超えると、フィルムの透明性が低下するだけでなく、透湿性が小さくなり、偏光子に貼合する際に水系接着剤を用いた場合、その溶剤である水の乾燥速度が遅くなることがある。
【0026】
本発明の偏光子保護フィルムは、必要に応じて、ハードコート、アンチグレアコート、無反射コート、その他の機能性コートなどのコーティング処理を施すこともできる。
【0027】
本発明の偏光子保護フィルムは、面方向および厚さ方向の厚さ100μmあたりの位相差が好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下、さらに好ましくは3nm以下である。面方向および厚さ方向の位相差は複屈折の指標であり、本発明の偏光子保護フィルムは複屈折が低い。面方向および厚さ方向の厚さ100μmあたりの位相差が10nmを超えると、屈折率の異方性が上昇し、低複屈折を要求される偏光板の用途に使用できないことがある。
【0028】
本発明の偏光子保護フィルムは、好ましくは、温度25℃、湿度65%RHの雰囲気下、半径1mmで180°に折り曲げた際にクラックを生じない。一般に、アクリル系重合体は、脆いので、フィルム状に成形しても実用に耐えないが、延伸することにより、実用的な強度を付与することができる。また、延伸すると、位相差が生じるが、負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位を共重合することにより、たとえ延伸しても偏光子保護フィルムに適した低位相差を実現することができる。
【0029】
本発明の偏光子保護フィルムは、空気雰囲気下、280℃で60分間加熱後の前記アクリル系共重合体の15%クロロホルム溶液の光路長1cmにおける着色度(YI)が好ましくは20以下、より好ましくは18以下、さらに好ましくは15以下である。着色度(YI)は着色性の指標であり、本発明の偏光子保護フィルムは着色性が低い。着色度(YI)が20を超えると、着色性が高く、低着色性を要求される偏光板の用途に使用できないことがある。アクリル系共重合体は、成形温度が高いので、成形時に黄変しやすいが、窒素原子を含まない構造単位を選択することにより、黄変を抑制することができる。
【0030】
本発明の偏光子保護フィルムは、前記アクリル系共重合体1gに含まれる粒径20μm以上の異物数が好ましくは50個以下、より好ましくは30個以下、さらに好ましくは20個以下である。なお、異物数は、前記アクリル系共重合体の試料1gを清浄な溶剤に溶解し、パーティクルカウンターを用いて、粒径20μm以上のものを異物としてカウントした値である。
【0031】
本発明の偏光子保護フィルムは、前記アクリル系共重合体のガラス転移温度(Tg)が好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。ここで、ガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121に準拠した方法で測定された値である。ガラス転移温度(Tg)は耐熱性の指標であり、従って、本発明の偏光子保護フィルムは耐熱性が高い。なお、ガラス転移温度(Tg)の上限は、特に限定されるものではないが、好ましくは200℃、より好ましくは180℃、さらに好ましくは150℃である。ガラス転移温度(Tg)が120℃未満であると、耐熱性が低下し、高い耐熱性を要求される偏光板の用途に使用できないことがある。
【0032】
本発明の偏光子保護フィルムは、その全光線透過率が好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。ここで、全光線透過率は、ASTM D1003に準拠した方法で測定された値である。全光線透過率は透明性の指標であり、従って、本発明の偏光子保護フィルムは透明性が高い。全光線透過率が85%未満であると、透明性が低下し、高い透明性を要求される偏光板の用途に使用できないことがある。
【0033】
本発明の偏光子保護フィルムは、その光弾性係数の絶対値が好ましくは20×10−12/N以下、より好ましくは10×10−12/N以下、さらに好ましくは5×10−12/N以下である。一般に、プラスチックフィルムに外部応力を加えると、一時的に光学的異方性が増大し、複屈折が大きくなる。光弾性係数はその指標であり、絶対値が小さい方が光学的均一性に優れ、歪による位相差変化などが生じにくい。光弾性係数の絶対値が20×10−12/Nを超えると、得られた偏光板を液晶表示装置に組み込んだ場合に色ムラが生じたり、周辺部のコントラストが低下したりすることがある。
【0034】
<アクリル系共重合体の構成>
本発明の偏光子保護フィルムの主成分であるアクリル系共重合体は、正の位相差を与えるラクトン環構造単位と負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位とを有する。
【0035】
正の位相差を与えるラクトン環構造単位としては、特に限定されるものではないが、例えば、下記式(1):
【0036】
【化3】

【0037】
[式中、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示されるラクトン環構造単位が特に好適である。
【0038】
本明細書において、「有機残基」とは、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基または置換アリール基を意味し、その具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ラウリル基、ステアリル基、フェニル基、メトキシフェニル基、ベンジル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0039】
アクリル系共重合体の構造中における正の位相差を与えるラクトン環構造単位の含有割合は、好ましくは5〜70質量%、より好ましくは8〜60質量%、さらに好ましくは10〜50質量%、特に好ましくは12〜45質量%である。正の位相差を与えるラクトン環構造単位の含有割合が5質量%未満であると、負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位を共重合して、面方向および厚さ方向の位相差を容易に相殺できるが、得られたアクリル系共重合体の耐熱性、耐溶剤性および表面硬度が低下することがある。逆に、正の位相差を与えるラクトン環構造単位の含有割合が70質量%を超えると、負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位を共重合しても、面方向および厚さ方向の位相差を充分に相殺できないことや、得られたアクリル系共重合体の成形加工性が低下することがある。
【0040】
負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位としては、特に限定されるものではないが、例えば、下記式(2):
【0041】
【化4】

【0042】
[式中、R、R、R、R、R、R、R10およびR11は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示される芳香族単量体由来の構造単位が特に好適である。
【0043】
アクリル系共重合体の構造中における負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位の含有割合は、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは2〜18質量%、さらに好ましくは4〜16質量%、特に好ましくは5〜15質量%である。負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位の含有割合が1質量%未満であると、正の位相差を与えるラクトン環構造単位と共重合しても、面方向および厚さ方向の位相差を充分に相殺できないことがある。逆に、負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位の含有割合が20質量%を超えると、負の位相差が大きくなりすぎ、正の位相差を与えるラクトン環構造単位で位相差を相殺できないことがある。
【0044】
本発明のアクリル系共重合体において、正の位相差を与えるラクトン環構造単位および負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位以外の構造単位(以下「他の構造単位」ということがある。)としては、特に限定されるものではないが、例えば、共重合体の製造方法として後述するような、(メタ)アクリル酸エステルと、ヒドロキシ基含有単量体と、不飽和カルボン酸と、下記式(3):
【0045】
【化5】

【0046】
[式中、R12は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、−OAc基、−CN基、−CO−R13基、または−CO−O−R14基を表し、Acはアセチル基を表し、R13およびR14は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す]
で示される単量体とからなる群から選択される少なくとも1種の単量体を重合して形成される構造単位(繰り返し単位)が挙げられる。
【0047】
アクリル系共重合体の構造中における他の構造単位の含有割合は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを重合して形成される構造単位(繰り返し単位)の場合、好ましくは90〜50質量%、より好ましくは85〜55質量%、さらに好ましくは80〜60質量%、特に好ましくは75〜65質量%であり、ヒドロキシ基含有単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜10質量%、特に好ましくは0〜5質量%である。また、不飽和カルボン酸を重合して形成される構造単位(繰り返し単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜10質量%、特に好ましくは0〜5質量%である。さらに、上記式(3)で示される単量体を重合して形成される構造単位(繰り返し単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜10質量%、特に好ましくは0〜5質量%である。
【0048】
本発明の偏光子保護フィルムの主成分であるアクリル系共重合体は、重量平均分子量が好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフを用いて、ポリスチレン換算により求めた値である。
【0049】
<アクリル系共重合体の製造>
正の位相差を与えるラクトン環構造単位と負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位とを有するアクリル系共重合体を製造する方法は、特に限定されるものではないが、まず、重合工程によって、分子鎖中に負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位と共に、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有するアクリル系共重合体(a)を得た後、得られたアクリル系共重合体(a)を加熱処理して、正の位相差を与えるラクトン環構造をアクリル系共重合体に導入する環化縮合工程を行うことによって得られる。
この場合、重合工程においては、例えば、下記式(4):
【0050】
【化6】

【0051】
[式中、R、R、R、R、R、R、R10およびR11は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示される単量体と、例えば、下記式(5):
【0052】
【化7】

【0053】
[式中、R15およびR16は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す]
で示される単量体とを配合した単量体成分の重合反応を行うことにより、分子鎖中に負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位と共に、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有するアクリル系共重合体(a)が得られる。
【0054】
上記式(4)で示される単量体としては、例えば、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、2−メチル−4−クロロスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α―メチルスチレン、cis−β−メチルスチレン、trans−β−メチルスチレン、4−メチル−α−メチルスチレン、4−フルオロ−α−メチルスチレン、4−クロロ−α−メチルスチレン、4−ブロモ−α−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2−フルオロスチレン、3−フルオロスチレン、4−フルオロスチレン、2,4−ジフルオロスチレン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、オクタクロロスチレン、2−ブロモスチレン、3−ブロモスチレン、4−ブロモスチレン、2,4−ジブロモスチレン、α−ブロモスチレン、β−ブロモスチレン、2−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシスチレンなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、共重合が容易なことから、スチレン、α−メチルスチレンが特に好ましい。
【0055】
重合工程に供する単量体成分中における上記式(4)で示される単量体の含有割合は、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは5〜30質量%、特に好ましくは5〜20質量%である。上記式(4)で示される単量体の含有割合が5質量%未満であると、正の位相差を与えるラクトン環構造単位と共重合しても、面方向および厚さ方向の位相差を充分に相殺できないことがある。逆に、上記式(4)で示される単量体の含有割合が50質量%を超えると、負の位相差が大きくなりすぎ、正の位相差を与えるラクトン環構造単位で位相差を相殺できないことがある。
【0056】
上記式(5)で示される単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性を向上させる効果が高いことから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。
【0057】
重合工程に供する単量体成分中における上記式(5)で示される単量体の含有割合は、好ましくは0〜40質量%、より好ましくは0〜30質量%、さらに好ましくは0〜20質量%、特に好ましくは0〜15質量%である。上記式(5)で示される単量体の含有割合が40質量%を超えると、重合工程や環化縮合工程においてゲル化が起こることや、得られたアクリル系共重合体の成形加工性が低下することがある。
【0058】
重合工程に供する単量体成分には、上記式(4)および上記式(5)で示される単量体以外の単量体を配合してもよい。このような単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシ基含有単量体、不飽和カルボン酸、および、下記式(3):
【0059】
【化8】

【0060】
[式中、R12は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、−OAc基、−CN基、−CO−R13基、または−CO−O−R14基を表し、Acはアセチル基を表し、R13およびR14は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す]
で示される単量体などが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0061】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、上記式(5)で示される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルである限り、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;などが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの(メタ)アクリル酸エステルのうち、アルキル基の炭素数が1〜7である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、得られたアクリル系共重合体の耐熱性や透明性が優れることから、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0062】
上記式(5)で示される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、さらに好ましくは40〜90質量%、特に好ましくは50〜90質量%である。
【0063】
ヒドロキシ基含有単量体としては、上記式(5)で示される単量体以外のヒドロキシ基含有単量体である限り、特に限定されるものではないが、例えば、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル;2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸;などが挙げられる。これらのヒドロキシ基含有単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0064】
上記式(5)で示される単量体以外のヒドロキシ基含有単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0065】
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸などが挙げられる。これらの不飽和カルボン酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの不飽和カルボン酸のうち、本発明の効果が充分に発揮されることから、アクリル酸、メタクリル酸が特に好ましい。
【0066】
不飽和カルボン酸を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0067】
上記式(3)で示される単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0068】
上記式(3)で示される単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0069】
単量体成分を重合して、分子鎖中に負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位と共に、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有するアクリル系共重合体(a)を得るための重合反応の形態としては、溶剤を使用する重合形態であることが好ましく、溶液重合が特に好ましい。
【0070】
重合温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合などに応じて変化するが、例えば、好ましくは、重合温度が0〜150℃、重合時間が0.5〜20時間であり、より好ましくは、重合温度が80〜140℃、重合時間が1〜10時間である。
【0071】
溶剤を使用する重合形態の場合、重合溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるアクリル系共重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃である溶剤が好ましい。
【0072】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレートなどのアゾ化合物;などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0073】
重合を行う際には、反応液のゲル化を抑制するために、重合反応混合物中に生成したアクリル系共重合体の濃度が50質量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中に生成したアクリル系共重合体の濃度が50質量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して50質量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中に生成したアクリル系共重合体の濃度は、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。なお、重合反応混合物中に生成したアクリル系共重合体の濃度が低すぎると生産性が低下するので、重合反応混合物中に生成したアクリル系共重合体の濃度は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
【0074】
重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中に生成したアクリル系共重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより充分に抑制することができ、特に、ラクトン環含有割合を増やして耐熱性を向上させるために分子鎖中のヒドロキシ基とエステル基との割合を高めた場合であっても、ゲル化を充分に抑制することができる。添加する重合溶剤としては、例えば、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの単一溶剤であっても2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0075】
以上の重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られたアクリル系共重合体以外に溶剤が含まれているが、溶剤を完全に除去してアクリル系共重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で、続く環化縮合工程に導入することが好ましい。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、続く環化縮合工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
【0076】
重合工程で得られたアクリル系共重合体は、分子鎖中に負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位と共に、ヒドロキシ基とエステル基とを有するアクリル系共重合体(a)である。アクリル系共重合体(a)の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフを用いて、ポリスチレン換算により求めた値である。重合工程で得られたアクリル系共重合体(a)は、続く環化縮合工程において、加熱処理されることにより、正の位相差を与えるラクトン環構造単位がアクリル系共重合体に導入され、低複屈折のアクリル系共重合体となる。
【0077】
アクリル系共重合体(a)にラクトン環構造を導入するための反応は、加熱により、アクリル系共重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とが環化縮合してラクトン環構造を生じる反応であり、その環化縮合によってアルコールが副生する。ラクトン環構造がアクリル系共重合体の分子鎖中(アクリル系共重合体の主骨格中)に形成されることにより、負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位との共存によって面方向および厚さ方向の位相差が相殺されると共に、高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不充分であると、面方向および厚さ方向の位相差が充分に相殺されないことや、耐熱性が充分に向上しないことや、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールが成形品中に泡やシルバーストリークとなって存在することがある。
【0078】
環化縮合工程において得られる低複屈折のアクリル系共重合体は、正の位相差を与えるラクトン環構造単位として、好ましくは、下記式(1):
【0079】
【化9】

【0080】
[式中、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示されるラクトン環構造単位を有する。また、負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位として、好ましくは、下記式(2):
【0081】
【化10】

【0082】
[式中、R、R、R、R、R、R、R10およびR11は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示される芳香族単量体由来の構造単位を有する。
【0083】
アクリル系共重合体(a)を加熱処理する方法については、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を利用すればよい。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。あるいは、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。あるいは、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を備えた加熱炉や反応装置、脱揮装置を備えた押出機などを用いて加熱処理を行うこともできる。
【0084】
環化縮合反応を行う際に、アクリル系共重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸などの有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。さらに、例えば、特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に開示されているように、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などを用いてもよい。
【0085】
あるいは、環化縮合反応の触媒として有機リン化合物を用いてもよい。使用可能な有機リン酸化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸などのアルキル(アリール)亜ホスホン酸(ただし、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸などのジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸などのアルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸などのアルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニルなどの亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニルなどのリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのモノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィンなどのアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィンなどの酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウムなどのハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。これらの有機リン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機リン化合物のうち、触媒活性が高くて着色性が低いことから、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸モノエステルまたはジエステルが特に好ましい。
【0086】
環化縮合反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル系共重合体(a)に対して、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.01〜2.5質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。触媒の使用量が0.001質量%未満であると、環化縮合反応の反応率が充分に向上しないことがある。逆に、触媒の使用量が5質量%を超えると、得られたアクリル系共重合体が着色することや、アクリル系共重合体が架橋して、溶融成形が困難になることがある。
【0087】
触媒の添加時期は、特に限定されるものではなく、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。
【0088】
環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、かつ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、および、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
【0089】
脱揮工程とは、溶剤、残存単量体などの揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールを、必要に応じて減圧加熱条件下で、除去処理する工程を意味する。この除去処理が不充分であると、得られたアクリル系共重合体中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質などにより着色することや、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こることがある。
【0090】
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、用いる装置については、特に限定されるものではないが、例えば、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、脱揮装置と押出機を直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置またはベント付き押出機を用いることがより好ましい。
【0091】
熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られたアクリル系共重合体の着色や分解が起こることがある。
【0092】
熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは798〜66.5hPa(600〜50mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。逆に、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
【0093】
ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
【0094】
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られたアクリル系共重合体の着色や分解が起こることがある。
【0095】
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは798〜13.3hPa(600〜10mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。逆に、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
【0096】
なお、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られる低複屈折共重合体の物性が劣化することがあるので、前述した脱アルコール反応の触媒を用い、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機などを用いて行うことが好ましい。
【0097】
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られたアクリル系共重合体(a)を溶剤と共に環化縮合反応装置に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機などの環化縮合反応装置に通してもよい。
【0098】
脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、アクリル系共重合体(a)を製造した装置を、さらに加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
【0099】
先に述べた環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、アクリル系共重合体(a)を、二軸押出機を用いて、250℃付近、あるいはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解などが生じ、得られる低複屈折共重合体の物性が劣化することがある。そこで、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られる低複屈折重合体の物性の劣化を抑制できるので好ましい。特に好ましい形態としては、例えば、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、すなわち、重合工程で得られたアクリル系共重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型反応器を用いて溶剤の存在下で環化縮合反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置を備えた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機などで、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特に、この形態の場合、環化縮合反応用の触媒が存在していることがより好ましい。
【0100】
前述したように、重合工程で得られたアクリル系共重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、本発明において低複屈折共重合体を得る上で好ましい形態である。この形態により、ガラス転移温度がより高く、環化縮合反応率もより高まり、耐熱性に優れた低複屈折共重合体が得られる。この場合、環化縮合反応率の目安としては、例えば、実施例に示すダイナッミクTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率が、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0101】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は、特に限定されるものではないが、例えば、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置などが挙げられ、さらに、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用可能である。これらの反応器のうち、オートクレーブ、釜型反応器が特に好ましい。しかし、ベント付き押出機などの反応器を用いる場合でも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュー形状、スクリュー運転条件などを調整することにより、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化縮合反応を行うことが可能である。
【0102】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、例えば、重合工程で得られたアクリル系共重合体(a)と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させる方法、および、前記(i)または(ii)を加圧下で行う方法などが挙げられる。
【0103】
なお、環化縮合工程において環化縮合反応に導入する「アクリル系共重合体(a)と溶剤とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物それ自体、あるいは、いったん溶剤を除去した後に環化縮合反応に適した溶剤を再添加して得られた混合物を意味する。
【0104】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に再添加できる溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合工程に用いた溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。
【0105】
方法(i)で添加する触媒としては、例えば、一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などが挙げられるが、本発明においては、前述の有機リン化合物を用いることが好ましい。触媒の添加時期は、特に限定されるものではないが、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル系共重合体(a)の質量に対して、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.01〜2.5質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。方法(i)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは室温〜180℃、より好ましくは50〜150℃であり、加熱時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。加熱温度が室温未満であるか、あるいは、加熱時間が1時間未満であると、環化縮合反応率が低下することがある。逆に、加熱温度が180℃を超えるか、あるいは、加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
【0106】
方法(ii)は、例えば、耐圧性の釜型反応器などを用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱すればよい。方法(ii)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは100〜180℃、より好ましくは100〜150℃以上であり、加熱時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。加熱温度が100℃未満であるか、あるいは、加熱時間が1時間未満であると、環化縮合反応率が低下することがある。逆に、加熱温度が180℃を超えるか、あるいは加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
【0107】
いずれの方法においても、条件によっては、加圧下となっても何ら問題はない。
【0108】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
【0109】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の終了時、すなわち、脱揮工程開始直前における、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率は、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。質量減少率が2%を超えると、続けて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても、環化縮合反応率が充分高いレベルまで上がらず、得られる低複屈折共重合体の物性が劣化することがある。なお、上記の環化縮合反応を行う際に、アクリル系共重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。
【0110】
重合工程で得られたアクリル系共重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態の場合、予め行う環化縮合反応で得られたアクリル系共重合体(分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基との少なくとも一部が環化縮合反応したアクリル系共重合体)と溶剤を、そのまま脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入してもよいし、必要に応じて、前記共重合体(分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基との少なくとも一部が環化縮合反応したアクリル系共重合体)を単離してから溶剤を再添加するなどのその他の処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入しても構わない。
【0111】
脱揮工程は、環化縮合反応と同時に終了することには限らず、環化縮合反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
【0112】
アクリル系共重合体(a)を環化縮合反応させて得られた、分子鎖中に負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位と共に、分子鎖中に正の位相差を与えるラクトン環構造を有するアクリル系共重合体に含まれる異物数は、アクリル系共重合体の製造工程および/またはフィルム製膜工程において、アクリル系共重合体の溶液または溶融液を、例えば、濾過精度1.5〜15μmのリーフディスク型ポリマーフィルターなどで濾過することにより、減少させることができる。
【0113】
≪偏光子保護フィルムの製造≫
本発明の偏光子保護フィルムを製造するには、まず、例えば、オムニミキサーなど、従来公知の混合機でフィルム原料をプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する。この場合、押出混練に用いる混合機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機を用いることができる。
【0114】
次いで、押出混練した混合物をフィルム状に成形する。フィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、従来公知のフィルム成形法が挙げられる。これらのフィルム成形法のうち、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が特に好ましい。
【0115】
溶液キャスト法(溶液流延法)に使用する溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチエルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0116】
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーターなどが挙げられる。
【0117】
溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、その際の成形温度は、フィルム原料のガラス転移温度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
【0118】
Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出機や二軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出されたフィルムを巻取って、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻取りロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることで、一軸延伸することも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸することにより、同時二軸延伸、逐次二軸延伸などを行うこともできる。
【0119】
本発明の偏光子保護フィルムは、未延伸フィルムまたは延伸フィルムのいずれでもよいが、好ましくは、延伸フィルムである。延伸フィルムである場合は、一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルムのいずれでもよいが、二軸延伸フィルムが特に好ましい。二軸延伸した場合は、直交する2つの方向に延伸するので、フィルム面内の任意の方向についての機械的強度が向上し、フィルム性能が向上する。二軸延伸フィルムである場合は、同時二軸延伸フィルムまたは逐次二軸延伸フィルムのいずれでもよい。上記のようなアクリル系共重合体は、その他の熱可塑性樹脂を混合することにより、延伸しても位相差の増大を抑制することができ、光学的等方性を保持した偏光子保護フィルムを得ることができる。
【0120】
延伸温度は、フィルム原料であるアクリル系共重合体のガラス転移温度近傍であることが好ましく、具体的には、好ましくは(ガラス転移温度−30℃)〜(ガラス転移温度+100℃)、より好ましくは(ガラス転移温度−20℃)〜(ガラス転移温度+80℃)の範囲内である。延伸温度が(ガラス転移温度−30℃)未満であると、充分な延伸倍率が得られないことがある。逆に、延伸温度が(ガラス転移温度+100℃)超えると、共重合体の流動(フロー)が起こり、安定な延伸が行えなくなることがある。
【0121】
面積比で定義した延伸倍率は、一方向で、好ましくは1.1〜25倍、より好ましくは1.3〜10倍の範囲内である。延伸倍率が1.1倍未満であると、延伸に伴う靭性の向上につながらないことがある。逆に、延伸倍率が25倍を超えると、延伸倍率を上げるだけの効果が認められないことがある。
【0122】
延伸速度は、一方向で、好ましくは10〜20,000%/min、より好ましく100〜10,000%/minの範囲内である。延伸速度が10%/min未満であると、充分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなることがある。逆に、延伸速度が20,000%/minを超えると、延伸フィルムの破断などが起こることがある。
【0123】
なお、本発明の偏光子保護フィルムは、その光学的等方性や機械的特性を安定化させるために、延伸処理後に熱処理(アニーリング)などを行うことができる。熱処理の条件は、従来公知の延伸フィルムに対して行われる熱処理の条件と同様に適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0124】
本発明の偏光子保護フィルムは、表面の濡れ張力を調整するために、例えば、コロナ放電処理、オゾン吹き付け、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理、その他の従来公知の表面処理を施すことができる。表面の濡れ張力は、好ましくは40mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上、さらに好ましくは55mN/m以上である。表面の濡れ張力が少なくとも40mN/m以上であると、本発明の偏光子保護フィルムと偏光子との接着強度がさらに向上する。
【0125】
≪偏光板≫
本発明の偏光板は、本発明の偏光子保護フィルムを偏光子の少なくとも片面に貼合してなることを特徴とする。
【0126】
一般に、従来の偏光板は、偏光子の両面に同じ種類の偏光子保護フィルムが貼合されているが、本発明の偏光板は、その用途に応じて、両方の偏光子保護フィルムが同じ種類のフィルムであってもよいし、異なる種類のフィルムであってもよい。すなわち、本発明の偏光板においては、本発明の偏光子保護フィルムを偏光子の両面に貼合してもよいし、本発明の偏光子保護フィルムを偏光子の一方の面に貼合し、偏光子の他方の面には、従来公知の偏光子保護フィルム、例えば、TACフィルムを貼合してもよい。
【0127】
偏光子としては、従来公知の偏光子を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、PVAフィルムにヨウ素を吸着させた後、ホウ酸浴中で一軸延伸したPVA・ヨウ素系偏光子;PVAフィルムに二色性が高い直接染料を拡散・吸着させた後、一軸延伸したPVA・染料系偏光子;PVAフィルムにヨウ素を吸着させた後、延伸してポリビニレン構造としたPVA・ポリビニレン系偏光子;などが挙げられる。
【0128】
本発明の偏光板は、本発明の偏光子保護フィルムを偏光子の片面に接着剤で貼合して乾燥させた後、偏光子の他方の面に本発明の偏光子保護フィルムまたは従来公知の偏光子保護フィルムを接着剤で貼合して乾燥させるか、あるいは、本発明の偏光子保護フィルムまたは従来公知の偏光子保護フィルムを偏光子の片面に接着剤で貼合して乾燥させた後、偏光子の他方の面に本発明の偏光子保護フィルムを接着剤で貼合して乾燥させるか、あるいは、本発明の偏光子保護フィルムを偏光子の両面に接着剤で同時に(例えば、ウェットラミネーションにより)貼合して乾燥させるか、あるいは、本発明の偏光子保護フィルムと従来公知の偏光子保護フィルムとを偏光子の両面に別々にかつ同時に(例えば、ウェットラミネーションにより)貼合して乾燥させることにより作製することができる。
【0129】
接着剤としては、従来公知の偏光板を作製する際に用いられている接着剤である限り、特に限定されるものではないが、例えば、PVAを主成分とする水系接着剤のほか、ゼラチン系、ビニル系ラテックス系、ポリウレタン系、イソシアネート系、ポリエステル系、エポキシ系などの接着剤が挙げられる。なお、接着剤は、従来公知の様々な添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などのカップリング剤;テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂などの粘着付与剤;ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐熱安定剤、耐光安定剤、耐候安定剤などの安定剤;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤;などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの添加剤の含有量は、通常の接着剤に含有される場合と同様であり、特に限定されるものではない。
【0130】
偏光子に偏光子保護フィルムを接着剤で貼合する方法は、従来公知の方法から適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ディップコート法などにより、偏光子および/または偏光子保護フィルムの接着面に、接着剤を塗布した後、両者を重ね合わせる方法などが挙げられる。
【0131】
偏光子と偏光子保護フィルムとを貼合した後は、乾燥処理が施される。乾燥処理は、従来公知のいかなる方法を用いて行ってもよく、その方法は、特に限定されるものではないが、例えば、自然乾燥法、熱風乾燥法、赤外線照射法などが挙げられる。これらの乾燥法のうち、熱風乾燥法が特に好適である。乾燥の温度および時間は、用いる乾燥法に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、乾燥温度は、好ましくは40℃以上、100℃以下、より好ましくは50℃以上、90℃以下であり、また、乾燥時間は、好ましくは10分間以上、24時間以内、より好ましくは20分間以上、12時間以内である。
【0132】
乾燥後の接着剤層の厚さは、好ましくは0.001〜5μm、より好ましくは0.01〜5μm、さらに好ましくは0.01〜2μmである。乾燥後の接着層の厚さが0.001μm未満であると、偏光子と偏光子保護フィルムとの接着性が低下することがある。逆に、乾燥後の接着剤層の厚さが5μmを超えると、偏光板が外観不良になることがある。
【0133】
≪偏光子の用途≫
本発明の偏光板は、偏光子の偏光機能を利用する用途であれば、いかなる用途にも使用可能であるが、種々の光学機器や電子機器の構成部品、例えば、偏光顕微鏡のポラライザーやアナライザー;歪み検査装置の歪み検出用フィルター;偏光式光減衰装置の光減衰用フィルター;偏光式立体映像装置の偏光シャッターや偏光メガネ;偏光サングラスのレンズ;カメラの偏光フィルター;液晶テレビ、PC用ディスプレイ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話、電卓などの液晶表示装置;あるいは、遮光用窓ガラスなどに好適である。
【実施例】
【0134】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0135】
まず、各種の測定方法および評価方法について説明する。
【0136】
<ダイナミックTG>
アクリル系共重合体をいったんテトラヒドロフランに溶解または希釈し、過剰のヘキサンまたはメタノールに投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1mmHg(1.33hPa)、80℃、3時間以上)することによって揮発成分などを除去し、得られた白色固形状の樹脂を以下の方法(ダイナミックTG法)で分析した。
測定装置:差動型示差熱天秤(Thermo Plus 2 TG−8120 ダイナミックTG、(株)リガク製)
測定条件:試料量5〜10mg
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素フロー200mL/min
方法:階段状等温制御法(60℃から500℃までの範囲内における質量減少速度値0.005%/s以下に制御)
【0137】
<ラクトン環構造単位の含有割合>
まず、得られたアクリル系共重合体組成からすべてのヒドロキシ基がメタノールとして脱アルコールした際に起こる質量減少量を基準にし、ダイナミックTG測定において質量減少が始まる前の150℃からアクリル系共重合体の分解が始まる前の300℃までの脱アルコール反応による質量減少から、脱アルコール反応率を求めた。
【0138】
すなわち、ラクトン環構造を有するアクリル系共重合体のダイナミックTG測定において150℃から300℃までの間の質量減少率の測定を行い、得られた実測値を実測質量減少率(X)とする。他方、当該共重合体の組成から、そのアクリル系共重合体組成に含まれるすべてのヒドロキシ基がラクトン環の形成に関与するためにアルコールになり脱アルコールすると仮定した時の質量減少率(すなわち、その組成上において100%脱アルコール反応が起きたと仮定して算出した質量減少率)を理論質量減少率(Y)とする。なお、理論質量減少率(Y)は、より具体的には、アクリル系共重合体中の脱アルコール反応に関与する構造(ヒドロキシ基)を有する原料単量体のモル比、すなわち当該共重合体組成における原料単量体の含有率から算出することができる。これらの値を脱アルコール計算式:
1−(実測質量減少率(X)/理論質量減少率(Y))
に代入してその値を求め、百分率(%)で表記すると、脱アルコール反応率が得られる。
【0139】
一例として、後述の実施例1で得られたアクリル系共重合体におけるラクトン環構造単位の含有割合を計算する。このアクリル系共重合体の理論質量減少率(Y)を求めてみると、メタノールの分子量は32であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの分子量は116であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのアクリル系共重合体中の含有率(質量比)は組成上15.0質量%であるから、(32/116)×15.0≒4.14質量%となる。他方、ダイナミックTG測定による実測質量減少率(X)は0.15質量%であった。これらの値を上記の脱アルコール計算式に当てはめると、1−(0.15/4.14)≒0.963となるので、脱アルコール反応率は、96.3%である。そして、この脱アルコール反応率の分だけ所定のラクトン環化が行われたものとして、ラクトン環化に関与する構造(ヒドロキシ基)を有する原料単量体の当該共重合体組成における含有率(質量比)に、脱アルコール反応率を乗じ、ラクトン環構造単位の含有率(質量比)に換算することにより、当該共重合体におけるラクトン環構造単位の含有割合を算出することができる。実施例1の場合、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの当該共重合体における含有率が15.0質量%、算出した脱アルコール反応率が96.3質量%、分子量が116の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルがメタクリル酸メチルと縮合した場合に生成するラクトン環構造単位の式量が170であることから、当該共重合体中におけるラクトン環構造単位の含有割合は、21.2(15.0×0.963×170/116)質量%となる。
【0140】
<重量平均分子量>
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPCシステム、東ソー(株)製)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。
【0141】
<ガラス転移温度>
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC−8230、(株)リガク製)を用いて、窒素ガス雰囲気下、α−アルミナをリファレンスとし、JIS K7121に準拠して、試料約10mgを常温から200℃まで昇温速度20℃/minで昇温して得られたDSC曲線から中点法で算出した。
【0142】
<位相差>
位相差測定装置(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)製)を用いて、波長589nmにおける位相差を測定し、得られた値をフィルム厚さ100μmに換算して測定値とした。
【0143】
<光弾性係数>
エリプソメーター(JASCO M−150、日本分光(株)製)に光弾性係数測定用の持具を取り付け、20mm×50mmの試験片を用いて、25℃で0〜13Nの応力を加えたときの波長590nmにおける面方向の位相差を測定し、応力と位相差との関数の傾きから光弾性係数を算出した。
【0144】
<全光線透過率>
全光線透過率は、ASTM D1003に準拠して、濁度計(NDH−1001DP、日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
【0145】
<加熱後の着色度(YI)>
加熱後の着色度(YI)は、試料1gを試験管にとり、ヒートブロックを用いて、空気雰囲気中、280℃で60分間加熱した後、試料を取り出し、この試料をクロロホルムに溶解した15質量%溶液を、光路長1cmの石英セルに入れ、JIS K7103に準拠して、色差計(SZ−Σ90、日本電色工業(株)製)を用いて、透過光で測定した。
【0146】
<異物>
試料樹脂またはフィルム1gを清浄な溶剤に溶解し、パーティクルカウンター(SUSS−C16 HCB−LD−50AC、PARTICLE MEASURING SYSTEMS INC.製)を用いて、粒径20μm以上のものを異物としてカウントした。
【0147】
<可撓性>
JIS K5400 8.1「耐屈曲性」(1994年版)に準拠して、試料フィルムを温度25℃、湿度65%RHの雰囲気下で1時間以上静置した後、折り曲げ半径1mmで約1秒かけて180°折り曲げた。一軸延伸フィルムの場合は、延伸方向と、延伸方向に垂直な方向とについて、それぞれ試験を行い、二軸延伸フィルムの場合は、直交する二つの延伸方向で試験を行った。二方向ともクラックが生じない場合を「○」、一方向のみクラックが生じた場合を「△」、二方向ともクラックが生じた場合を「×」として評価した。
【0148】
<耐折性>
幅15mm×長さ80mmの試料片を温度25℃、湿度65%RHの雰囲気下で1時間以上静置した後、MIT耐折度試験機(BE−201型、テスター産業(株)製)を用いて、荷重50gの条件で、JIS P8115に準拠して、試験片を折り曲げ、試験片が破断するか、あるいは耐折回数が100回になるまで試験を行った。一軸延伸フィルムの場合は、延伸方向と、延伸方向に垂直な方向とについて、それぞれ試験を行い、二軸延伸フィルムの場合は、直交する2つの延伸方向で試験を行った。1つの試料について3回試験を行って、耐折回数の平均値を算出し、二方向とも平均値が50回以上の場合を「○」、少なくとも一方向の平均値が50回未満の場合を「×」として評価した。
【0149】
次に、アクリル系共重合体および偏光子保護フィルムの製造例について説明する。
【0150】
≪実施例1≫
まず、攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入管を備えた容量30Lの反応容器に、メタクリル酸メチル(MMA)7,950g、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)1,500g、スチレン(ST)550g、トルエン10,000gを仕込んだ。この反応容器に窒素ガスを導入しながら昇温し、105℃に達したところで、重合開始剤として、t−アミルパーオキシイソナノエート12gを添加すると同時に、トルエン136gにt−アミルパーオキシイソナノエート24gを溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下、約105〜110℃で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0151】
得られた重合体溶液に、リン酸オクチル(Phoslex A−8、堺化学工業(株)製)10gを添加し、加圧下、約120℃で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、得られた重合体溶液を、リアベント数1個、フォアベント数4個を備えたベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で、2.0kg/hの処理速度で導入し、バレル温度240℃、回転数120rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)で脱揮処理を行った。この処理の際に、第2フォアベントと第3フォアベントとの中間で、発泡抑制剤としてオクチル酸亜鉛(ニッカオクチクス亜鉛、日本化学産業(株)製)をトルエン溶液の形態で得られる重合体に対して1,400ppmとなるように注入を行った。二軸押出機の先端部に、濾過処理した正常な冷却水で満たした水槽を配置し、二軸押出機から押し出されたストランドを冷却し、ペレタイザーに導入して、アクリル系共重合体の透明なペレットを得た。なお、ペレットを調製する際、ダイスからペレタイザーまでの環境清浄度が5,000以下となるように、クリーンスペースを設けた。
【0152】
得られたペレットの測定および評価を行ったところ、重量平均分子量が137,000、ガラス転移温度(Tg)が125℃、粒径20μm以上の異物数が35個、加熱後の着色度(YI)が10であった。結果を表1に示す。
【0153】
得られたペレットを、シリンダー径が20mmの単軸押出機を用いて、下記の条件(ダイ:温度280℃、幅120mm;成膜:つや付き2本ロール;ロール温度:110℃;引き取り速度:2.5m/min)により、押出温度280℃で押出成形し、厚さ140μmの未延伸フィルムを作製した。さらに、この未延伸フィルムを、オートグラフ(AGS−100D、(株)島津製作所製)により、延伸温度135℃、一方向延伸速度100%/min、一方向延伸倍率2倍の条件で、逐次二軸延伸して、厚さ80μmの延伸フィルムを作製した。
【0154】
得られた延伸フィルムの測定および評価を行ったところ、全光線透過率が93%、面方向の厚さ100μmあたりの位相差が2nm、厚さ方向の厚さ100μmあたりの位相差が1nm、光弾性係数が1.3×10−12/N、可撓性が○、耐折性が○であった。結果を表1に示す。
【0155】
≪比較例1≫
実施例1において、反応容器に仕込んだ単量体の組成を、メタクリル酸メチル(MMA)8,000g、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)2、000gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、アクリル系共重合体の透明なペレットを得た。
【0156】
得られたペレットの測定および評価を行ったところ、重量平均分子量が145,000、ガラス転移温度(Tg)が128℃、粒径20μm以上の異物数が38個、加熱後の着色度(YI)が10であった。結果を表1に示す。
【0157】
得られたペレットを実施例1と同様の条件下で製膜し、厚さ140μmの未延伸フィルムを作製した。さらに、延伸温度を138℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の条件下で、この未延伸フィルムを延伸し、厚さ80μmの延伸フィルムを作製した。
【0158】
得られた延伸フィルムの測定および評価を行ったところ、全光線透過率が93%、面方向の厚さ100μmあたりの位相差が22nm、厚さ方向の厚さ100μmあたりの位相差が15nm、光弾性係数が2.1×10−12/N、可撓性が○、耐折性が○であった。結果を表1に示す。
【0159】
≪比較例2≫
比較例1で得られたペレットと、アクリロニトリル−スチレン樹脂(トーヨーAS AS20、東洋スチレン(株)製)とを、質量比90/10で、二軸押出機を用いて混練押出することにより、透明なペレットを得た。
【0160】
得られたペレットの測定および評価を行ったところ、重量平均分子量が144,000、ガラス転移温度(Tg)が125℃、粒径20μm以上の異物数が522個、加熱後の着色度(YI)が30であった。結果を表1に示す。
【0161】
得られたペレットを実施例1と同様の条件下で製膜し、厚さ140μmの未延伸フィルムを作製した。さらに、この未延伸フィルムを実施例1と同様の条件下で延伸し、厚さ80μmの延伸フィルムを作製した。
【0162】
得られた延伸フィルムの測定および評価を行ったところ、全光線透過率が92%、面方向の厚さ100μmあたりの位相差が2nm、厚さ方向の厚さ100μmあたりの位相差が2nm、光弾性係数が1.4×10−12/N、可撓性が○、耐折性が○であった。結果を表1に示す。
【0163】
【表1】

【0164】
表1から明らかなように、実施例1のアクリル系共重合体は、ガラス転移温度が高く、特に、異物数が少なく、加熱後の着色度(YI)が低く、また、実施例1の偏光子保護フィルムは、全光線透過率が高く、可撓性および耐折性に優れると共に、光弾性係数が小さく、特に、この偏光子保護フィルムを構成するアクリル系共重合体が正の位相差を与えるラクトン環構造単位と負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位とを有するので、面方向および厚さ方向の厚さ100μmあたりの位相差が小さい。
【0165】
これに対し、比較例1のアクリル系共重合体は、ガラス転移温度が高く、異物数が少なく、加熱後の着色度(YI)が低く、また、比較例1の偏光子保護フィルムは、全光線透過率が高く、可撓性および耐折性に優れると共に、光弾性係数が小さいが、特に、この偏光子保護フィルムを構成するアクリル系共重合体が負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位を有しないので、面方向および厚さ方向の厚さ100μmあたりの位相差が大きい。比較例2の熱可塑性樹脂組成物は、ガラス転移温度が高いが、特に、この熱可塑性樹脂組成物が2種類の樹脂のブレンドであり、単独のアクリル系共重合体ではないので、異物数が非常に多く、加熱後の着色度(YI)が高く、また、比較例2の偏光子保護フィルムは、全光線透過率が高く、可撓性および耐折性に優れると共に、光弾性係数が小さく、この偏光子保護フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物が正の位相差を与えるラクトン環構造単位を有するアクリル系共重合体と負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位を有するAS樹脂とのブレンドであるので、面方向および厚さ方向の厚さ100μmあたりの位相差が小さい。
【0166】
かくして、ラクトン環含有重合体に他の樹脂をブレンドするのではなく、ラクトン環含有重合体に予め負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位を共重合すれば、ブレンドによる複屈折の調整が不必要となり、透明性や耐熱性に優れるだけでなく、可撓性や耐折性などの機械的特性に優れ、かつ異物が少なく着色性が低いという望ましい特性を備えると共に、特に、光弾性係数が小さく延伸しても光学的等方性が高いという光学的特性に優れた偏光子保護フィルムが容易に得られることがわかる。
【0167】
次に、偏光子および偏光板の製造例について説明する。
【0168】
≪製造例1≫
鹸化度99%、厚さ75μmのPVA未延伸フィルムを室温の水で洗浄した後、縦一軸に5倍延伸を行った。このフィルムの緊張状態を保持したまま、ヨウ素0.5質量%とヨウ化カリウム5質量%とを含む水溶液に浸漬して、二色性色素を吸着させた。さらに、ホウ酸10質量%とヨウ化カリウム10質量%とを含む50℃の水溶液で5分間架橋処理を行って、偏光子を得た。
【0169】
≪実施例2≫
実施例1で得られたフィルムを、製造例1で得られた偏光子の両面に、接着剤としてポリビニルアルコール(クラレポバールPVA−117H、(株)クラレ製)の5%ス溶液を用いて、ウェットラミネーションにより貼り合わせ、得られた積層フィルムを熱風乾燥機を用いて70℃で30分間乾燥させて、偏光板を作製した。
【0170】
得られた偏光板をクロスニコルで重ね合わせて、光抜けを観察したところ、重なった部分の光抜け(輝点)は観察されなかった。
【0171】
かくして、本発明の偏光子保護フィルムを用いることにより、光抜けなどの欠点を有しない光学的特性に優れた偏光板が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明の偏光子保護フィルムは、透明性や耐熱性に優れるだけでなく、可撓性や耐折性などの機械的特性に優れ、かつ異物が少なく着色性が低いという望ましい特性を備えると共に、特に、光弾性係数が小さく延伸しても光学的等方性が高いという光学的特性に優れているので、それを用いた偏光板と共に、偏光板を利用する光学機器や電子機器などに関連する分野に多大の貢献をなすものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正の位相差を与えるラクトン環構造単位と負の位相差を与える芳香族単量体由来の構造単位とを有するアクリル系共重合体を主成分として含有することを特徴とする偏光子保護フィルム。
【請求項2】
面方向および厚さ方向の厚さ100μmあたりの位相差が10nm以下である請求項1記載の偏光子保護フィルム。
【請求項3】
温度25℃、湿度65%RHの雰囲気下、半径1mmで180°に折り曲げた際にクラックを生じない請求項1または2記載の偏光子保護フィルム。
【請求項4】
空気雰囲気下、280℃で60分間加熱後の前記アクリル系共重合体の15%クロロホルム溶液の光路長1cmにおける加熱後の着色度(YI)が20以下である請求項1〜3のいずれか1項記載の偏光子保護フィルム。
【請求項5】
前記アクリル系共重合体1gに含まれる粒径20μm以上の異物数が50個以下である請求項1〜4のいずれか1項記載の偏光子保護フィルム。
【請求項6】
前記偏光子保護フィルムが延伸フィルムである請求項1〜5のいずれか1項記載の偏光子保護フィルム。
【請求項7】
前記ラクトン環構造単位が下記式(1):
【化1】

[式中、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示されるラクトン環構造単位である請求項1〜6のいずれか1項記載の偏光子保護フィルム。
【請求項8】
前記芳香族単量体由来の構造単位が下記式(2):
【化2】

[式中、R、R、R、R、R、R、R10およびR11は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示される芳香族単量体由来の構造単位である請求項1〜7のいずれか1項記載の偏光子保護フィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の偏光子保護フィルムを偏光子の少なくとも片面に貼合してなることを特徴とする偏光板。

【公開番号】特開2008−191426(P2008−191426A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26087(P2007−26087)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】