説明

偏肉樹脂シートの製造方法

【課題】反りの発生を低減した偏肉樹脂シートの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】溶融した樹脂をシート状に押し出す押出工程100と、押し出した溶融樹脂シート14aを型ローラ16とニップローラ18で挟み、型ローラ16表面の加工形状を溶融樹脂シート14aに転写し、冷却固化するシート成形工程112と、引取ローラ24で樹脂シート14を引き取って搬送する搬送工程115と、を有し、搬送工程115では、樹脂シート14の最厚部の表面温度がTg以下になる前に、樹脂シート14の剥離ローラ20に接していた側から加熱装置22cで加熱して、樹脂シート14における幅方向の厚み分布の最薄部の表面温度を最厚部の表面温度より高くし、樹脂シート14が切断されるまで幅方向の表面温度分布が30℃以内になるように徐冷することを特徴とする偏肉樹脂シートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏肉樹脂シートの製造方法に係り、特に、各種表示装置の背面に配される導光板や各種光学素子に使用するのに好適な偏肉樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、樹脂シートの押出成形においては、Tダイから押し出された溶融樹脂シートは冷却ロールにより冷却され、その後、引取ロールにより引き取られながら搬送部での空冷により冷却・固化し、シート状に成形される。このような樹脂シートの押出成形では、成形されたシートの反りが問題となり、反り対策としていくつかの提案がされている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1および2には、ポリシングロールまたはその近傍で樹脂シートの両端部を加熱、あるいは、樹脂シートの中央部を冷却することで、引取ロールの周速度をポリシングロールの周速度と等しくして無張力状態とすることにより、樹脂シート端部の波打ち(エッジウェーブ)を改善する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献3、4には、ポリシングロール後の搬送部でシートの上下からヒータで加熱してシート上面と下面の温度を均一にすることで、温度差に起因する内部歪みおよび反りを低減する方法が開示されている。
【0005】
特許文献5には、冷却ロールの温度を調節し、かつ押し出されたシートを加熱することにより温度を高くした後、緩やかに徐冷し、内部応力を緩和する方法が開示されている。
【特許文献1】実開平4−111417号公報
【特許文献2】特開平9−1636号公報
【特許文献3】特開平7−9538号公報
【特許文献4】特開2002−120249号公報
【特許文献5】特開平6−344417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜5に記載の装置および方法は、いずれも平らな樹脂シートについての反り対策である。幅方向に厚み分布の大きい偏肉樹脂シートの押出成形の場合には、幅方向での温度分布が非常に大きくなるため、温度制御が難しく、薄肉部と厚肉部の温度差により搬送中にシートがねじれてしまうという問題があった。また、適切に温度制御を行わないとシートの変形により所望の断面形状を得ることができなかった。さらに、引取ロールの周速度を冷却ロールの周速度よりも速くして搬送中のシートの張力を大きくすることで、張力により搬送中のシートのねじれを抑制することも行われているが、大きな張力をかけた状態で冷却・固化を行うため、残留歪みが残ってしまい、成形後のシートが高温の環境下にさらされた場合に反りが発生してしまうという問題があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、反りの発生を低減した偏肉樹脂シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1は、前記目的を達成するために、溶融した樹脂をダイからシート状に押し出す押出工程と、押し出した溶融樹脂シートを型ローラとニップローラで挟み、該型ローラ表面の加工形状を該溶融樹脂シートに転写し、冷却固化することにより樹脂シートを成形するシート成形工程と、前記樹脂シートを剥離ローラから剥離する剥離工程と、引取ローラで前記樹脂シートを引き取って搬送する搬送工程と、前記樹脂シートを切断手段により所定の長さに切断する切断工程と、を有し、前記剥離工程では、前記樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、前記剥離ローラから剥離した直後の該剥離ローラに接していない側の前記樹脂シートの表面温度が、Tg以上(Tg+80)℃以下であり、前記搬送工程では、前記樹脂シートの最厚部の表面温度がTg以下になる前に、該樹脂シートの前記剥離ローラに接していた側から加熱装置で加熱して、該樹脂シートにおける幅方向の厚み分布の最薄部の表面温度を最厚部の表面温度より高くし、前記切断工程により切断されるまで該樹脂シートの幅方向の表面温度分布が30℃以内になるように徐冷することを特徴とする偏肉樹脂シートの製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
押出成形により製造された樹脂シートは、剥離ローラから剥離した後、搬送工程において徐冷されるが、偏肉樹脂シートにおいては、樹脂シートの厚みに分布があるため、樹脂シートの厚みが厚い部分に比べて、薄い部分の温度が下がりやすくなっている。そのため、樹脂シートの幅方向に温度差が生じ、この温度差により樹脂シートに反りが発生する。
【0010】
請求項1によれば、剥離ローラから剥離された樹脂シートの温度をTg以上の温度とし、さらに、樹脂フィルムの最厚部の温度がTg以下になる前に最薄部の温度を加熱装置により最厚部の温度より高くしている。したがって、空冷による冷却においては、最薄部と最厚部で、最薄部の方が、冷却が速いため温度差が広がるが、本発明においては、搬送工程において、加熱装置により、最薄部の温度を高くしているため、その後の空冷においても、温度差が広がることを防止することができる。
【0011】
さらに、切断工程で切断されるまでの樹脂シートの幅方向の温度差を30℃以内に維持するようにしているため、温度差による反りを防止することができる。
【0012】
請求項2は請求項1において、前記引取ローラの最外径の周速度Vaと前記型ローラの周速度Vbの比(Va/Vb)が0.98以上1.02以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、温度を制御することにより、反りの発生を抑制しているため、樹脂シートに張力をかけることなく、反りの発生を抑制することができる。引取ローラと型ローラの周速比を上記範囲とすることにより、残留歪みが樹脂シートに残ることなく、樹脂シートの製造を行うことができる。
【0014】
請求項3は請求項1または2において、前記加熱装置が遠赤外線ヒータであることを特徴とする。
【0015】
請求項3によれば、加熱装置に遠赤外線ヒータを用いているため、効率良く樹脂シートの加熱を行うことができる。
【0016】
請求項4は請求項1から3いずれかにおいて、前記切断工程の後、(Tg−40)℃以上(Tg−10)℃以下の温度でアニール処理を行うアニール処理工程を有することを特徴とする。
【0017】
請求項4によれば、アニール処理を上記温度で行うことにより、短時間でさらに残留歪みを除去することができ、経時での反りの発生や、二次加工時の反りの発生を抑制することができる。
【0018】
請求項5は、請求項1から4いずれかにおいて、前記アニール処理工程は、前記樹脂シートを平面状の支持部材で支持して行うことを特徴とする。
【0019】
請求項5によれば、アニール処理工程時において、樹脂シートを平面状の支持部材で支持してアニール処理することで、高温で柔らかい状態の樹脂シートが自重により平らになり、樹脂シートの変形の矯正を容易に行うことができる。
【0020】
請求項6は請求項1から5いずれかにおいて、前記樹脂シートの幅方向における厚み分布の、最厚部と最薄部の厚みの差が0.5mm以上5mm以下であることを特徴とする。
【0021】
請求項6によれば、厚み分布の最厚部と最薄部の差を上記範囲とすることにより、樹脂シートの温度調節を容易に行うことができるので、樹脂シートの反りの発生を防止することができる。
【0022】
請求項7は請求項1から6いずれかにおいて、前記樹脂シートの幅方向における厚み分布が200mm以上のピッチの周期性を有することを特徴とする。
【0023】
請求項7によれば、樹脂シートに幅方向に厚み分布が周期性を有するときに、この周期形状の継ぎ目についても、温度制御することにより、反りの発生を抑制して、樹脂シートの製造を行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の樹脂シートの製造方法によれば、剥離ローラから剥離された後に、冷却されやすい樹脂シートの最薄部を加熱し、冷却することで、樹脂シートに厚み分布がある偏肉樹脂シートの製造においても、樹脂シートの最薄部と最厚部で温度差を少なくすることができるので、反りの発生を抑制した樹脂シートを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面に従って、本発明に係る樹脂シートの製造方法の好ましい実施の形態について説明する。
【0026】
図1は、本発明に係る樹脂シートの製造方法の全体工程図であり、図2は各工程における装置構成を示す概念図である。
【0027】
図1に示すように、本発明の樹脂シートの製造方法は、主として、原料の計量や混合を行う原料工程100、溶融した樹脂を連続してシート状(帯状)に押し出す押出工程112と、押し出した溶融樹脂シート14aを成形しながら冷却して固化するシート成形工程114と、樹脂シート14を剥離する剥離工程115と、剥離された樹脂シート14を次工程である切断工程124に搬送する搬送工程116と、樹脂シート14を所定サイズ(長さ・幅)に裁切断する切断工程124と、樹脂シート14を徐冷し、残留歪みの除去を行うアニール処理工程126とで構成される。
【0028】
以下、図2を参照に本発明が適用される樹脂シートの製造装置の主要な構成を説明する。
【0029】
図2に示すように、原料工程100では、原料サイロ128(又は原料タンク)及び添加物サイロ130(又は添加物タンク)から自動計量機132に送られた原料樹脂および添加物が自動計量され混合器134で原料樹脂と添加物が所定比率になるように混合される。
【0030】
本発明に適用される原料樹脂の樹脂材料としては、熱可塑性樹脂を用いることができ、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリスチレン樹脂(PS)、MS樹脂、AS樹脂、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、熱可塑性エラストマー、又はこれらの共重合体、シクロオレフィンポリマーなどが挙げられる。
【0031】
また、これらの熱可塑性樹脂に光拡散粒子を含んでもよく、光拡散粒子としては、例えば、シリコーンやシリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン、ガラスビーズ、ケイ酸カルシウムなどの無機粒子やポリメチルメタクリレート粒子などが挙げられる。散乱粒子を添加する場合、最初に、原料樹脂に散乱粒子を所定濃度よりも高濃度に添加されたマスターペレットが造粒機で製造される。次いで、マスターバッチ方式を好適に採用することで、散乱粒子を所定濃度よりも高濃度に添加されたマスターペレットと散乱粒子が添加されていないベースペレットとが混合器134で所定比率混合される。散乱粒子以外の添加物を添加する場合も同様である。
【0032】
原料工程100で適切に計量・混合された原料樹脂は押出工程112に送られる。
【0033】
押出工程112では、混合器134で混合された原料樹脂がホッパー136を介して押出機138に投入される。原料樹脂が押出機138により混練りされながら溶融される。押出機138は単軸式押出機及び多軸式押出機の何れでもよく、押出機138の内部を真空にするベント機能を含むものが好ましい。押出機138で溶融された原料樹脂は、スクリューポンプ又はギアポンプなどの定量ポンプ140により供給管142を介してダイ12(例えばTダイ)に送られる。ダイ12からシート状に押し出された溶融樹脂シート14aは次にシート成形工程114に送られる。
【0034】
シート成形工程114では、ダイ12から押し出された溶融樹脂シート14aが、型ローラ16とニップローラ18とで挟まれる。溶融樹脂シート14aが幅方向に厚み分布を持つ形状に成形されながら、冷却・固化される。固化した樹脂シート14は剥離ローラ20で剥離される(剥離工程)。シート成形工程114を経た樹脂シート14は次に搬送工程116に送られる。偏肉樹脂シートは、フィルムの幅方向に厚さ分布を有するため、空冷により冷却を行うと樹脂フィルムの厚みが薄い箇所は温度が下がりやすく、厚い箇所は温度が下がりにくいため、樹脂フィルムの幅方向で温度差が生じる。そのため、温度差が生じたまま樹脂フィルムの切断を行うと、樹脂フィルムに反りが発生する。そこで、本発明においては、シート成形工程において、加熱装置を用いて、樹脂シートの温度調節を行う。
【0035】
搬送工程116は、剥離ローラ20から剥離された樹脂シート14を切断工程124に搬送する工程である。偏肉樹脂シートは、フィルムの幅方向に厚さ分布を有するため、空冷により冷却を行うと樹脂フィルムの厚みが薄い箇所は温度が下がりやすく、厚い箇所は温度が下がりにくいため、樹脂フィルムの幅方向で温度差が生じる。そのため、温度差が生じたまま樹脂フィルムの切断を行うと、樹脂フィルムに反りが発生する。そこで、本発明においては、剥離工程から切断工程における搬送工程において、加熱装置を用いて、樹脂シートの温度調節を行う。
【0036】
搬送工程116により温度制御され搬送された樹脂シート14は、切断工程124に送られる。切断工程124は樹脂シート14を所定長さに切り揃える工程である。また、樹脂シート14の幅方向両端部分(耳部)を切除する工程を有することもできる。切断手段174としては、レーザーカッター、電子ビーム切断、超音波カッターなどを用いることができる。また、受け刃と押し当て刃とからなるギロチンタイプの切断手段を用いることもできる。
【0037】
また、樹脂シートに形成された形状が複数の厚肉部を有している場合には、切断工程124において、その形状の継ぎ目で搬送方向に切断する工程も有することができる。
【0038】
また、樹脂シート14は、シート成形工程114で所定の形状に成形されるが、樹脂シート14の両縁部は、その形状において中央部に比較して寸法精度が悪くなる。また、残留歪みも大きくなるので、切断することが好ましい。切断部分は、樹脂シート14の両端部各20〜30mm切断することが好ましい。樹脂シートの両縁部は図2に示すように、樹脂シートを搬送方向と直交する方向に切断する前に切断することもできるし、所定の形状にシートを切断し、アニール処理を行う前に切断することもできる。
【0039】
切断された樹脂シート14の一部は回収ボックス176で回収され、回収された樹脂は廃棄又は再利用される。
【0040】
切断された枚葉の樹脂シート14は、ローラ194により駆動されるコンベアベルト196で、次の処理に搬送されると共に、樹脂シート14の幅方向から鼓状の部材192により走行中にズレない様に押さえられている。
【0041】
次に上記各工程のうち、本発明の特徴をなすシート成形工程114から搬送工程116の詳細について図3および図4により説明する。
【0042】
樹脂シートの製造ライン10は、押出機138によって溶融された原料樹脂をシート状に賦形するためのダイ12と、表面に偏肉形状が形成された型ローラ16と、型ローラ16に対向配置されるニップローラ18と、型ローラ16に対向配置される剥離ローラ20と、樹脂シート14の温度を制御する加熱装置22と、により構成される。
【0043】
ダイ12より押し出したシート状の溶融樹脂シート14aを、型ローラ16と型ローラ16に対向配置されるニップローラとで挟圧し、型ローラ16表面の偏肉形状の反転型を樹脂シート14に転写して成形し、樹脂シート14を型ローラ16に対向配置される剥離ローラ20に巻き掛けることにより徐冷し、歪みが除去された状態で、搬送される。
【0044】
この樹脂シートの製造において、ダイ12の樹脂シート14の押し出し速度は、0.1〜50m/分、好ましくは0.3〜30m/分の値が採用できる。したがって、型ローラ16の周速も略これに一致させる。なお、各ローラの速度ムラは、設定値に対して、1%以内に制御することが好ましい。
【0045】
ニップローラ18の型ローラ16への押し付け圧は、線圧換算(各ニップローラの弾性変形による面接触を線接触と仮定して換算した値)で、0〜200kN/m(kgf/cm)とすることが好ましく、0〜100kN/m(kgf/cm)とするのがより好ましい。
【0046】
型ローラ16の表面には、例えば、図4(a)、(b)に示される偏肉樹脂シートを成形するための反転形状が形成されている。図4は、成形後の樹脂シート14の断面図である。すなわち、樹脂シート14の裏面は平面であり、樹脂シート14の表面には、走行方向に平行な直線状の偏肉形状面が形成されている。したがって、型ローラ16の表面には、図4(a)、(b)に示す形成後の樹脂シート14の反転形状のエンドレス溝を形成すればよい。本発明の樹脂シートの製造方法により製造される偏肉樹脂シートの厚みは、樹脂シートの最厚部と最薄部の厚み差が0.5mm以上5mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5mm以上3mm以下であることがさらに好ましい。また、図4(b)に示すように、厚肉の部分が2ヶ所以上ある場合のピッチLは200mm以上あることが好ましく、より好ましくは400mm以上である。
【0047】
型ローラ16の材質としては、各種鉄鋼部材、ステンレス鋼、銅、亜鉛、真鍮、これらの金属材料を芯金として、表面にゴムライニングしたもの、これらの金属材料にHCrメッキ、Cuメッキ、Niメッキなどのメッキを施したもの、セラミックス、及び各種の複合材料が採用できる。
【0048】
型ローラ表面の逆蒲鉾形状の形成は、ローラ表面の材質にもよるが、一般的にはNC旋盤による切削加工と仕上げバフ加工との組み合わせが好ましく採用できる。また、他の公知の加工方法(切削加工、超音波加工、放電加工、など)も採用できる。型ローラ表面の表面粗さは、中心線平均粗さRaで0.5μm以下とするのが好ましく、0.2μm以下とするのがより好ましい。型ローラ16は、図示しない駆動手段により、所定の周速度で回転駆動される。
【0049】
ニップローラ18は、型ローラ16に対向配置され、型ローラ16とで樹脂シート14を挟圧するためのローラである。ニップローラ18の材質としては、各種鉄鋼部材、ステンレス鋼、銅、亜鉛、真鍮、これらの金属材料を芯金として、表面にゴムライニングしたもの、これらの金属材料にHCrメッキ、Cuメッキ、Niメッキなどのメッキを施したもの、セラミックス、および各種の複合材料が採用できる。
【0050】
ニップローラ18の表面は鏡面状に加工されていることが好ましく、中心線平均粗さRaで0.5μm以下とするのが好ましく、0.2μm以下とするのがより好ましい。このような平滑な表面とすることにより、成形後の樹脂シート14の裏面を良好な状態にできる。また、ニップローラ18は、図示しない駆動手段により、所定の周速度で回転駆動される。尚、ニップローラ18に駆動手段を設けない構成も可能であるが、樹脂シート14の裏面を良好な状態できる点より、駆動手段を設けることが好ましい。
【0051】
ニップローラ18には、図示しない加圧手段が設けられており、型ローラ16との間の樹脂シート14を所定の圧力で挟圧できるようになっている。この加圧手段は、いずれも、ニップローラ18と型ローラ16との接触点における法線方向に圧力を印加する構成のもので、モータ駆動手段、エアシリンダ、油圧シリンダ等の公知の各種手段が採用できる。
【0052】
ニップローラ18には、挟圧力の反力による撓みが生じにくくなるような構成を採用することもできる。このような構成としては、ニップローラ18の背面側(型ローラ16の反対側)に図示しないバックアップローラを設ける構成、クラウン形状(中高形状とする)を採用する構成、ローラの軸方向中央部の剛性が大きくなるような強度分布を付けたローラの構成、及びこれらを組み合わせた構成などが採用できる。
【0053】
また、剥離ローラ20は、型ローラ16に対向配置され、樹脂シート14を巻き掛けることにより樹脂シート14を型ローラ16より剥離するためのローラで、型ローラ16の180度下流側に配置される。剥離ローラ20の表面は鏡面状に加工されていることが好ましい。このような表面とすることにより、成形後の樹脂シート14の裏面を良好な状態にできる。そして、剥離ローラ表面の表面粗さは、中心線平均粗さRaで0.5μm以下とするのが好ましく、0.2μm以下とするのがより好ましい。剥離ローラ20の材質としては、各種鉄鋼部材、ステンレス鋼、銅、亜鉛、真鍮、これらの金属材料を芯金として、表面にゴムライニングしたもの、これらの金属材料にHCrメッキ、Cuメッキ、Niメッキ等のメッキを施したもの、セラミックス、及び各種の複合材料が採用できる。剥離ローラ20は、図示しない駆動手段により、所定の周速度で矢印方向に回転駆動される。尚、剥離ローラ20に駆動手段を設けない構成も可能であるが、樹脂シート14の裏面を良好な状態にできる点より、駆動手段を設けることが好ましい。
【0054】
シート成形工程114および後の搬送工程116においては、加熱装置22を設けることが好ましい。厚肉部に比べて温度が低い樹脂シートの薄肉部を、該加熱装置で加熱することにより、温度分布を均一化することができる。加熱装置22は、図3に示すように、型ロール近傍、剥離ロール近傍、搬送工程の樹脂シート14の下面側および上面側に設置する。加熱装置22としては、温風や遠赤外線ヒータ、近赤外線ヒータなどの非接触のものであれば、特に限定されず用いることができるが、加熱効率の点から遠赤外線ヒータを用いることが好ましい。
【0055】
加熱装置による加熱温度は、樹脂シート14が剥離ローラ20から剥離した直後の樹脂シート14の剥離ローラに接していない側の表面温度を、樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、Tg℃以上(Tg+80)℃以下とすることが好ましい。温度がTg℃以下であると、樹脂シートの冷却・固化が始まるため、樹脂シートに反りが発生してしまう。逆に、温度を(Tg+80)℃以上とした場合、熱により、樹脂シート14が変形してしまうため好ましくない。剥離工程後の樹脂シートの温度の好ましい範囲は、Tg℃以上(Tg+60)℃以下であり、より好ましくはTg℃以上(Tg+40)℃以下である。
【0056】
樹脂シート14を剥離ローラ20から剥離した後、樹脂シートの表面温度がTg以下となる前に、樹脂シート14の下面側(型がついていない面側)から加熱装置22cにより加熱を行う。樹脂シート14の上面側(型がついている面側)から加熱しすぎると、その後の熱収縮で変形してしまい、所望の形状の樹脂シートを得ることができない場合がある。したがって、樹脂シート14の表面温度がTg以上の時は、樹脂シート14の下面側から加熱することが好ましい。
【0057】
加熱は、樹脂シートの薄肉部の加熱を行い、具体的には、製品幅における樹脂シート最厚部の厚みをDmax、最薄部の厚みをDminとしたとき、シートの厚みtが、t=Dmin+(Dmax−Dmin)/3を満たす部分を加熱することが好ましい。樹脂シート14の断面形状が図4(a)のような形状であれば、少なくとも上記範囲内の両端の薄肉部を加熱し、図4(b)のような断面形状であれば、両端だけでなく、中央の薄肉部の加熱を行うことが好ましいが、加熱すべき範囲はシート形状や成形条件によって異なるため、適宜最適化することが好ましい。
【0058】
加熱は、加熱面側の最薄部の表面温度が最厚部の表面温度が高くなるまで加熱を行い、加熱面側の最薄部の表面温度と最厚部の表面温度の温度差が30℃以内、好ましくは、20℃以内、さらに好ましくは10℃以内とすることが好ましい。上記温度範囲とすることにより、樹脂シート14の最厚部と最薄部で温度差を小さくすることができるので、反りの発生を抑制することができる。また、最薄部の表面温度を最厚部の表面温度より高くなるまで加熱を行うことにより、その後の空冷により樹脂シートの最薄部の方が冷却されやすいため、剥離ローラ20からの剥離後に最薄部の表面温度を最厚部の表面温度より高くすることにより、樹脂フィルムの温度制御を容易に行うことができる。
【0059】
樹脂シートの表面温度がTg以下になった後は、樹脂シートの製品幅における幅方向の表面温度分布が30℃以内、好ましくは20℃以内、さらに好ましくは10℃以内となるように、温度の低い薄肉部の加熱を行う。図3においては、樹脂シート14の上面側から加熱装置22c、22dを用いて行っているが、加熱装置の位置は樹脂シート14の下面側から行うことも可能である。また、表面温度分布も上記範囲内であれば、樹脂シート14の最厚部、最薄部いずれの温度が高くとも反りの発生を抑制した樹脂シートの製造をすることができる。
【0060】
また、搬送工程116においては、引取ローラ24の周速度を速くすることにより、搬送中の樹脂シート14にテンションがかかり樹脂シート14の反りを抑制する効果があるが、残留歪みが発生してしまう。本発明においては、搬送工程における温度制御により樹脂シートの反りを防止しているため、引取ローラ24の周速度を速くし、テンションをかけなくなくても反りの発生を抑制することができる。具体的には、引取ローラ24の最外径の周速度Vaと型ロールの最外径の周速度Vbの比Va/Vbを0.98以上1.02以下とすることが好ましく、0.99以上1.01以下とすることがさらに好ましい。
【0061】
樹脂シート14は切断工程124の後に、アニール処理工程126を行うことが好ましい。アニール処理は、樹脂シートを平らな面の上に、樹脂シートの平面側下にして置き、熱処理を行うことにより、自重を利用して樹脂シートの変形・反りを矯正し、残留歪みを除去する工程である。樹脂シートを支持する平面状の支持部材198の平面度は、アニール処理後の樹脂シートの平面度に反映されるため、樹脂シートを支持する領域において0.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であることがさらに好ましい。支持部材は平板だけでなく、格子板、パンチングメタルなど、平面状のものであれば開口部があっても良い。支持部材の材質としては、ステンレスや鉄などの金属以外にも、フッ素樹脂含浸繊維などの耐熱性の高い素材も使用することができる。アニール温度は(Tg−40)℃以上(Tg−10)℃以下が好ましく、湿度は乾燥状態が好ましい。熱処理後は5℃/min以下の速度で徐冷することが好ましく、2℃/min以下の速度で徐冷することがさらに好ましい。加熱手段は温風加熱や遠赤外線加熱などにより行うことができる。
【0062】
次に反りの測定方法について説明する。反りは図5に示すように、樹脂シート14の裏面(平坦面側)を平面な測定基盤26の上面に載置したときに、樹脂シート14と測定基盤26との最大距離Hを反り量という。最大距離Hは、レーザー変位計により測定することができる。
【実施例】
【0063】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴を具体的に説明する。以下の実施例に材料、処理内容、処理手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0064】
[実施例1]
図4に示す装置を用いて樹脂シートの製造を行った。
【0065】
PMMA(旭化成(株)製、80NH、ガラス転移温度110℃)を、温度255℃に設定したTダイより押し出し、ニップロール、図6に示すような形状の型ロール、剥離ロールを経てシート状にし、樹脂シートの両端を切断して、シート幅方向の断面形状が図4(a)のような幅594mm、最薄部2.0mm、最厚部3.8mmの樹脂シートを得た。
【0066】
押出工程において、ダイのリップ幅は660mmであり、リップ開度(リップクリアランス)は4mmであり、幅方向の流量分布は、各位置でのニップロールと型ロールのクリアランス量に略比例するように、チョークバーで調整した。
【0067】
シート成形工程において、ニップロール、型ロール、剥離ロールの表面温度はそれぞれ70℃、75℃、80℃であり、ニップロールのロール径はφ350mm、剥離ロールのロール径はφ500mm、型ロールの厚肉形成部のロール径はφ345.6mm、薄肉形成部のロール径はφ349.2mm、樹脂シートと非接触部のロール径(最外径)はφ350mmとした。ニップロールと型ロールのクリアランスは、ロール中央の最大部で3.90mm、ロール端部の最小部で1.70mmであり、型ロールと剥離ロールのクリアランスはロール中央の最大部で4.00mm、ロール端部の最小部で1.80mmとした。ニップロール、型ロール、剥離ロール、引取ロールの周速度(最外径)はそれぞれ1.205m/min、1.209m/min、1.230m/min、1.207m/minとした。引取ロールの最外径の周速度Vaと型ロールの最外径の周速度Vbの比Va/Vbは0.998とした。ニップロール、型ロール、剥離ロールは硬質クロムメッキ処理されており、引取ロールの表面材質は、EPTゴムとした。
【0068】
樹脂シートの製造は、図3に示すように、型ロールおよび剥離ロールと接触している面と反対側の樹脂シート面を、樹脂シート表面から50mm離れた位置に遠赤外線セラミックヒータを設置し、シートの両端からそれぞれ150mmの範囲を加熱した。このとき遠赤外線セラミックヒータの表面温度は500℃であり、型ロールとの接触中に20秒間、剥離ロールとの接触中に15秒間それぞれ加熱した。
【0069】
搬送工程においても、剥離ロールから120mmの位置で樹脂シートから下面側に50mm離れた位置に遠赤外線セラミックヒータを設置してヒータの表面温度を500℃とし、剥離ロールから470mm、730mmの位置で樹脂シートから上面側に50mm離れた位置に遠赤外線セラミックヒータを設置してヒータの表面温度を400℃とし、シートの両端からそれぞれ150mmの範囲を20秒間ずつ加熱した。
【0070】
切断機で樹脂シートを幅方向に切断し、1050mmのシートとし、その後幅が594mmとなるように、樹脂シートの幅方向の両端部(両耳)を所望のサイズの樹脂シートとし、図5に示すように平らな測定基盤26の上にのせて、レーザー変位計で測定基盤26からの距離を測定したところ、最大値は3.3mmであった。
【0071】
上記樹脂シートを温風加熱方式の恒温槽内で、ステンレス製の平らな網棚に樹脂シートの平面側が下になるように載せて、90℃の乾燥状態で2時間アニール処理をして1℃/minの速度で徐冷して室温まで戻した。得られた樹脂シートの変形量を再度、図5に示す方法で測定したところ最大値は0.5mmであった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明が適用される樹脂シートの製造方法のフローを説明する工程図である。
【図2】本発明が適用される樹脂シートの製造装置の概念図である。
【図3】樹脂シートの製造装置のシート成形工程、剥離工程、搬送工程を示す構成図である。
【図4】樹脂シートの形状の一例を示す断面図である。
【図5】樹脂シートの反りの測定方法を説明する説明図である。
【図6】実施例で使用した型ローラの側面図である。
【符号の説明】
【0073】
12…ダイ、14…樹脂シート、14a…溶融樹脂シート、16…型ローラ、18…ニップローラ、20…剥離ローラ、22…加熱装置、24…引取ローラ、26…測定基盤、100…原料工程、112…押出工程、114…シート成形工程、115…剥離工程、116…搬送工程、124…切断工程、128…原料サイロ、130…添加物サイロ、132…自動計量機、134…混合器、136…原料樹脂がホッパー、138…押出機、140…定量ポンプ、142…供給管、174…切断手段、176…回収ボックス、192…鼓状の部材、194…ローラ、196…コンベアベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融した樹脂をダイからシート状に押し出す押出工程と、
押し出した溶融樹脂シートを型ローラとニップローラで挟み、該型ローラ表面の加工形状を該溶融樹脂シートに転写し、冷却固化することにより樹脂シートを成形するシート成形工程と、
前記樹脂シートを剥離ローラから剥離する剥離工程と、
引取ローラで前記樹脂シートを引き取って搬送する搬送工程と、
前記樹脂シートを切断手段により所定の長さに切断する切断工程と、を有し、
前記剥離工程では、前記樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、前記剥離ローラから剥離した直後の該剥離ローラに接していない側の前記樹脂シートの表面温度が、Tg以上(Tg+80)℃以下であり、
前記搬送工程では、前記樹脂シートの最厚部の表面温度がTg以下になる前に、該樹脂シートの前記剥離ローラに接していた側から加熱装置で加熱して、該樹脂シートにおける幅方向の厚み分布の最薄部の表面温度を最厚部の表面温度より高くし、前記切断工程により切断されるまで該樹脂シートの幅方向の表面温度分布が30℃以内になるように徐冷することを特徴とする偏肉樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記引取ローラの最外径の周速度Vaと前記型ローラの周速度Vbの比(Va/Vb)が0.98以上1.02以下であることを特徴とする請求項1に記載の偏肉樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記加熱装置が遠赤外線ヒーターであることを特徴とする請求項1または2に記載の偏肉樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記切断工程の後、(Tg−40)℃以上(Tg−10)℃以下の温度でアニール処理を行うアニール処理工程を有することを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の偏肉樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
前記アニール処理工程は、前記樹脂シートを平面状の支持部材で支持して行うことを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の偏肉樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂シートの幅方向における厚み分布の、最厚部と最薄部の厚みの差が0.5mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の偏肉樹脂シートの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂シートの幅方向における厚み分布が200mm以上のピッチの周期性を有することを特徴とする請求項1から6いずれかに記載の偏肉樹脂シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−64387(P2010−64387A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233377(P2008−233377)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】