説明

停止距離推定システム及び該停止距離推定システムを用いて停止距離を算出して推定する方法

【課題】停止距離を精度よく算出することができる停止距離推定システム方法を提供する。
【解決手段】制御部20は、初速度を設定する初速度設定手段203と、減速測定速度と算出速度との誤差に基づいて[数1]を補正する補正手段204と、測定加速度と算出加速度との差に基づいて減速度合と時定数とを決定する決定手段205と、補正された数式と初速度と減速度合及び時定数とを用いて、停止時間を算出する停止時間算出手段206と、停止距離を[数2]より算出する停止距離算出手段207とを備える。
【数1】


但し、vを算出速度、v0を初速度、μgを減速度合、tを減速開始時を基準に経過した時間である減速時間、τを時定数とする。
【数2】


但し、dsを停止距離、tsを停止時間とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば走行する車両などの測定対象物の停止距離を算出することができる停止距離推定システム及び該停止距離推定システムを用いて停止距離を算出して推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種停止距離推定システムとしては、測定対象物としての車両が交差点等の所定の位置までに安全に停止することができる速度(閾値速度)を算出するために、当該車両の停止距離を算出するものが公知である。かかる停止距離推定システムは、[数910]及び[数920]を用いて車両の空走距離と制動距離とを算出し、算出した空走距離と制動距離とから[数930]を用いて停止距離を算出し、該算出した停止距離に基づいて、走行する車両が所定位置までに安全に停止することができる速度を算出するよう構成されている(下記特許文献1参照)。尚、空走距離とは、車両の運転者が、ブレーキをかける必要があると判断し、アクセルペダルから足を離し、ブレーキペダルを踏み込んでブレーキが効き始めるまでに車両が進んだ距離である。また、制動距離とは、ブレーキが効き始め、車両が停止するまでの間に車両が進んだ距離である。
【数910】

但し、Dtは空走距離、Trは運転者が危険を感じてブレーキが必要と判断した時点から、ブレーキペダルを踏み込んでブレーキが効き始める時点までの反応時間、Vは車両の速度である。
【数920】

但し、Dbは制動距離、μは摩擦係数、gは重力加速度である。
【数930】

但し、Dsは停止距離である。
【0003】
ここで、上記の停止距離推定システムにおいては、前記反応時間と摩擦係数とは、それぞれ定数である。即ち、反応時間は一般的な平均値の0.75秒であり、摩擦係数は、表900に示すように、路面の状態に応じて決定される一定値である。
【表900】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−346333号公報(第18頁乃至第19頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の停止距離推定システムにおける反応時間の値は、実際には、運転者の性別や年齢、運転技能、反応感覚の速さ、体調などに応じて個々に定まる値であるため、一定の値ではなく測定する車両毎に変化する値である。
【0006】
また、摩擦係数の値は、実際には、車両の種類や構造、或いは、積載重量、ブレーキ性能、タイヤの摩耗状態等の車両の条件だけでなく、路面の勾配や凹凸、新旧状態等の路面の条件にも密接に関係して定まる値であるため、測定する車両に対して一定の値を確定することは実質的にできない。
【0007】
更に、実際に走行している車両は、運転者がブレーキを踏み込む動作である制動動作をすると直ちに十分な制動力を得て減速するものではなく、ブレーキを踏み込むと徐々に制動力が増加して最終的に十分な制動力を得て減速するものである、即ち、実際に走行している車両の制動挙動は緩やかな減速となるのに対し、上記従来の停止距離推定システムにおいては、かかる車両の実際の制動挙動については一切考慮されていない。
【0008】
これらのことから、上記従来の停止距離推定システムにあっては、算出される空走距離や制動距離に多くの誤差が含まれてしまい、従って、精度よく停止距離を算出することはできなかった。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされ、停止距離を精度よく算出することができる停止距離推定システム及び該停止距離推定システムを用いて停止距離を算出して推定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、本発明に係る停止距離推定システムは、測定対象物の速度を所定時間測定する測定手段と、該測定手段の測定結果に基づいて前記測定対象物が停止するまでの停止距離を算出する制御部とを備え、該制御部は、前記測定手段により所定時間測定した速度結果のうち所定期間連続して減速している期間を減速判断期間と認識することで前記測定対象物が減速していると判断する減速判断手段と、前記減速判断期間の減速開始時における測定速度を初速度として設定する初速度設定手段と、前記減速判断期間内で測定される減速測定速度と、前記減速開始時を基準として[数1]から算出される算出速度との誤差に基づいて[数1]を補正する補正手段と、前記減速測定速度に関する測定加速度と前記算出速度に関する算出加速度とに基づく差に基づいて、前記減速度合と時定数とを決定する決定手段と、前記補正手段によって補正された数式と前記初速度設定手段によって設定された初速度と前記決定手段によって決定された減速度合及び時定数とを用いて、減速開始時から測定対象物が停止するまでの時間を停止時間として算出する停止時間算出手段と、前記減速開始時から測定対象物が停止するまでの間に前記測定対象物が移動する距離を停止距離として[数2]より算出する停止距離算出手段と、を備えることを特徴とする。
【数1】

但し、vを算出速度と、v0を初速度と、μgを減速度合と、tを減速開始時を基準に経過した時間である減速時間と、τを時定数とする。
【数2】

但し、dsを停止距離と、tsを停止時間とする。
【0011】
該構成の停止距離推定システムにあっては、補正手段が、減速測定速度と算出速度との誤差に基づいて[数1]を補正し、決定手段が、測定加速度と算出加速度との差に基づいて減速度合と時定数とを決定するので、補正した数式から算出される速度と減速度合と時定数との値を、実際に測定している測定対象物の制動挙動に対応した値とすることができる。そして、停止時間算出手段が、前記補正した数式と減速度合と時定数とを用いて停止時間を算出するので、誤差が小さい停止時間を算出することができる。故に、停止距離算出手段が、測定対象物の制動挙動に対応した減速度合及び時定数と、誤差が小さい停止時間とを、停止距離を算出するための[数2]に適用して誤差が小さく精度のよい停止距離を算出することができる。
【0012】
特に、前記補正手段は、前記減速測定速度と前記算出速度との誤差が0となるように、[数1]を補正することが好ましい。
【0013】
また、前記決定手段は、前記減速測定加速度と前記算出加速度との差の絶対値が最小値となるように前記減速度合と時定数とを決定することが好ましい。
【0014】
更に、前記減速測定速度は、減速判断期間内で所定の測定時間ごとに測定されており、前記算出速度は、前記各々の減速測定速度に対応するように、前記測定時間ごとに算出されており、前記補正手段は、互いに対応する減速測定速度と算出速度との間の誤差をそれぞれ算出し、該算出したそれぞれの誤差の平均値が0となるように、[数1]を補正することが好ましい。
【0015】
また更に、前記減速測定速度は、減速判断期間内で所定の測定時間ごとに測定されており、前記算出速度は、前記各々の減速測定速度に対応するように、前記測定時間ごとに算出されており、前記決定手段は、前記測定時間に相当する区間ごとに、該区間での減速測定速度と該減速測定速度の直前に測定された減速測定速度とを用いて、当該区間での加速度を測定加速度として算出し、前記測定時間に相当する区間ごとに、該区間での算出速度と該算出速度の直前に算出された算出速度とを用いて、当該区間での加速度を算出加速度として算出し、それぞれの区間において、互いに対応する測定加速度と算出加速度との差の絶対値を算出し、該算出したそれぞれの絶対値の総和が最小値となるように、前記減速度合と時定数とを決定することが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る方法は、測定対象物の速度を所定時間測定する測定手段と、該測定手段の測定結果に基づいて前記測定対象物が停止するまでの停止距離を算出する制御部とを備える停止距離推定システムを用いて前記停止距離を算出して推定する方法であって、該制御部は、前記測定手段により所定時間測定した速度結果のうち所定期間連続して減速している期間を減速判断期間と認識することで前記測定対象物が減速していると判断するステップと、前記減速判断期間の減速開始時における測定速度を初速度として設定するステップと、前記減速判断期間内で測定される減速測定速度と、前記減速開始時を基準として[数1]から算出される算出速度との誤差に基づいて[数1]を補正するステップと、前記減速測定速度に関する測定加速度と前記算出速度に関する算出加速度とに基づく差に基づいて、前記減速度合と時定数とを決定するステップと、前記補正するステップにおける補正された数式と前記初速度と前記決定された減速度合及び時定数とを用いて、減速開始時から測定対象物が停止するまでの時間を停止時間として算出するステップと、前記減速開始時から測定対象物が停止するまでの間に前記測定対象物が移動する距離を停止距離として[数2]より算出するステップと、を備えることを特徴とする。
【数1】

但し、vを算出速度と、v0を初速度と、μgを減速度合と、tを減速開始時を基準に経過した時間である減速時間と、τを時定数とする。
【数2】

但し、dsを停止距離と、tsを停止時間とする。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明に係る停止距離推定システム及び該停止距離推定システムを用いて停止距離を算出して推定する方法にあっては、補正手段が、減速測定速度と算出速度との誤差に基づいて[数1]を補正し、決定手段が、測定加速度と算出加速度との差に基づいて減速度合と時定数とを決定し、停止時間算出手段が、前記補正した数式と減速度合と時定数とを用いて停止時間を算出するので、補正した数式から算出される速度と減速度合と時定数との値を、実際に測定している測定対象物の制動挙動に対応した値とすることができ、誤差が小さい停止時間を算出することができる結果、停止距離算出手段が、測定対象物の制動挙動に対応した減速度合及び時定数と、誤差が小さい停止時間とを、停止距離を算出するための[数2]に適用して誤差が小さく精度のよい停止距離を算出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る停止距離推定システムの第一実施形態を示す概略図である。
【図2】同停止距離推定システムの構成を示すブロック図である。
【図3】同停止距離推定システムによる停止距離算出手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る停止距離推定システムの第二実施形態を示す概略図である。
【図5】同停止距離推定システムの構成を示すブロック図である。
【図6】同停止距離推定システムによる停止位置判断手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る停止距離推定システム及び停止距離を算出して推定する方法の第一実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1及び2に、本第一実施形態における停止距離推定システム1が示されている。該停止距離推定システム1は、例えば走行している測定対象物としての車両Pの速度を測定し、該測定結果に基づいて、車両Pのブレーキが効き始めてから停止するまでの停止距離を算出して推定することができるシステムであり、車両Pの速度としての測定速度を所定時間測定する測定手段10と、該測定手段10の測定結果に基づいて前記車両Pが停止するまでの停止距離を算出する制御部20とを備えている。
【0020】
測定手段10は、車両Pへ向けて送信波を連続的に送信し、車両Pにて反射した反射波を受信波として受信する送受信手段110と、該送受信手段110が受信した受信波に基づいて、測定速度を演算し、該測定速度を測定順に並ぶように測定された順に例えば不図示のメモリー等に記憶する演算手段120とから構成されている。
【0021】
送受信手段110は、信号波を生成する信号源111と、該信号源111にて生成された信号波を送信波として車両Pへ向けて送信し、車両Pにて反射した反射波を受信波として受信するアンテナ112とを備えている。また、送受信手段110は、受信した受信波を演算手段120へ順次入力するように構成されており、本第一実施形態では、受信した受信波を、増幅器としてのパワーディテクタ113によって増幅して演算手段120へ順次入力するように構成されている。
【0022】
演算手段120は、順次入力される受信波に基づいて測定速度を演算し、演算した測定速度を測定順に並ぶように測定した順に記憶するよう構成されている。尚、本第一実施形態では、測定速度は、所定の測定時間ごとに測定されており、具体的には、所定の測定時間ごとに演算手段120にて演算されて記憶されるように構成されている。また、演算手段120は制御部20に設けられているが、これに限らず、例えば送受信手段110に内蔵してもよい。
【0023】
制御部20は、測定手段10によって順次測定される測定速度と、その直前に測定された測定速度とを比較する速度比較手段201と、測定手段10により所定時間測定した速度結果のうち所定期間連続して減速している期間を減速判断期間と認識することで車両Pが減速していると判断する減速判断手段202とを備えている。
【0024】
速度比較手段201は、測定手段10によって測定時間ごとに測定されるそれぞれの測定速度について、測定されたものから順に、今回測定された測定速度と前回測定された測定速度とを比較するよう構成されている。具体的には、速度比較手段201は、演算手段120により最新(最後)に記憶された測定速度を、その直前に記憶された測定速度と比較するよう構成されている。
【0025】
減速判断手段202は、速度比較手段201の比較結果に基づいて、車両Pが減速しているか否かを判断するように構成されている。具体的には、減速判断手段202は、速度比較手段201によって測定順になされる比較に基づいて、今回測定された測定速度が前回測定された測定速度よりも小さいか否かを判断するよう構成されており、今回測定した測定速度が前回測定した測定速度よりも小さい結果が所定期間連続して得られた場合に、当該期間を減速判断期間と認識し、これにより測定に係る車両Pが減速していると判断するよう構成されている。
【0026】
より詳細に説明すると、減速判断手段202は、速度比較手段201による比較の結果、演算手段120により最新に記憶された測定速度の方がその直前に記憶された測定速度よりも小さい場合、即ち、速度勾配が負となっている場合には、最新に記憶された速度にフラッグメントを付すように構成されており、かかる工程を複数回連続して繰り返した結果、その全ての工程において最新に記憶された測定速度にフラッグメントが付された場合、即ち、速度勾配が負である状態が所定期間持続した場合に、かかる期間を減速判断期間と認識して減速であると判断するよう構成されている。尚、減速判断手段202によって減速判断期間が認識されると、該減速判断期間内で測定時間ごとに測定された複数の測定速度は、減速判断期間内で測定時間ごとに測定された複数の減速測定速度と認識される。
【0027】
また、制御部20は、減速判断期間の減速開始時における測定速度を初速度としての測定初速度として設定する初速度設定手段203と、減速判断期間内で測定される減速測定速度と、減速開始時を基準として[数1]から算出される算出速度との誤差に基づいて[数1]を補正する補正手段204と、減速測定速度に関する測定加速度と算出速度に関する算出加速度とに基づく差に基づいて、減速度合と時定数とを決定する決定手段205と、補正手段204によって補正された数式と初速度設定手段によって設定された測定初速度と決定手段205によって決定された減速度合及び時定数とを用いて、減速開始時から車両Pが停止するまでの時間を停止時間として算出する停止時間算出手段206と、減速開始時から車両Pが停止するまでの間に車両Pが移動する距離を停止距離として[数2]より算出する停止距離算出手段207とを備える。
【数1】

但し、vを算出速度と、v0を初速度と、μgを減速度合と、tを減速開始時を基準に経過した時間である減速時間と、τを時定数とする。
【数2】

但し、dsを停止距離と、tsを停止時間とする。
【0028】
初速度設定手段203は、減速判断手段202によって車両Pが減速していると判断された場合に、減速判断手段202が認識した減速判断期間の間に測定された減速測定速度のうち、最初に測定された減速測定速度を測定初速度として設定するように構成されている。具体的には、初速度設定手段203は、減速判断手段202によって車両Pが減速していると判断されると、減速判断期間のうち、今回測定した減速測定速度が前回測定した減速測定速度よりも小さくなった最初の時点を割出し、かかる時点における前回測定した減速測定速度を測定初速度として設定して記憶する。
【0029】
より詳細に説明すると、初速度設定手段203は、車両Pが減速していると判断されると、減速判断手段202によって減速判断期間において測定時間ごとに順に付されている複数のフラッグメントを、減速であると判断した時点でのフラッグメントから付された順と逆順になるように遡り、最初にフラッグメントが付されている時点での減速測定速度を割出し、当該割出した減速測定速度の直前に記憶されている減速測定速度を割出してこれを測定初速度として設定して記憶するよう構成されている。尚、本第一実施形態では、初速度設定手段203は、測定初速度を設定すると、決定手段205に減速度合と時定数とを決定するよう、決定手段205に対して決定命令を出力するように構成されている。
【0030】
補正手段204は、減速判断期間内で測定される減速測定速度と、減速開始時を基準として[数1]から算出される算出速度と、に関する誤差としての速度誤差に基づいて、[数1]を補正するように構成されており、前記速度誤差が0となるように[数1]を補正するように構成されている。具体的には、補正手段204は、互いに対応する減速測定速度と算出速度との差に基づく速度誤差を用いて、該速度誤差の平均値が0となるように、[数1]を補正するように構成されている。
【0031】
尚、算出速度は、各々の減速測定速度に対応するように、減速判断期間内で測定時間ごとに算出されている。つまり、算出速度は、減速開始時から測定時間が経過する度に算出されており、算出されるタイミングが、減速測定速度を測定するタイミングと同じタイミングとなっている。尚、本実施形態では、算出速度は、[数1]を変換した[数3]から算出される。
【0032】
本実施形態では、補正手段204は、t=jΔt(j=0,1,2,・・・,n)と、x=μgΔtと、z=Δt/τとを用いて[数1]を変換した[数3]を、速度誤差を考慮した数式に補正するよう構成されており、具体的には、[数3]の算出初速度v(0)を、速度誤差を考慮して補正するように構成されている。尚、jは測定回数を示し、Δtは測定時間を示す。また、xは、測定時間Δtが経過する間に減速する減速量を示し、zは、単位時間あたりの時間の遅れ度合を示す係数である。
【数3】

但し、v(jΔt)を算出速度と、v(0)を算出初速度とする。
【0033】
より詳細に説明すると、補正手段204は、まず、[数1]を[数3]に変換する。そして、かかる[数3]と、算出速度及び速度誤差を用いて減速測定速度を表した[数4]とを用いて、[数5]に示すように、測定時間ごとの減速測定速度をそれぞれ演算する。
【数4】

但し、vjを減速測定速度と、Δvjを速度誤差とする。
【数5】

【0034】
そして、[数5]のv0=v(0)+Δv0よりv(0) =v0−Δv0とし、この数式を[数5]の他の数式に代入して[数6]を演算する。
【数6】

【0035】
そして、yj0=Δvj−Δv0とし、この数式を[数6]に代入してxの数式である[数7]を演算する。尚、yj0は、減速測定速度と算出速度との速度誤差の差に関する数式であり、具体的には、測定初速度及び算出初速度の初速度誤差Δv0と、j回目に測定した減速測定速度及び算出した算出速度の速度誤差Δvjとの差を示す数式である。
【数7】

【0036】
そして、[数7]を用いて、y10〜y(n-1)0をそれぞれ示す[数8]を演算する。具体的には、[数7]の第1式と第n式とを用いてy10を演算し、第2式と第n式とを用いてy20を演算し、かかる演算を続けて最終的にy(n-1)0を演算する。
【数8】

【0037】
ここで、補正手段204は、yn0=0と仮定し、速度誤差の平均値としての速度誤差の総和が0となることを示す数式である[数9]と仮定する。
【数9】

【0038】
そして、[数9]を変形して、Δv0−Δv0+Δv1−Δv0+・・・+Δvn−Δv0+(n+1)Δv0=y10+y20+・・・+yn0+(n+1)Δv0=0とし、初速度誤差を示す数式である[数10]を演算する。
【数10】

【0039】
最後に、補正手段204は、[数10]と、[数5]から得られるv(0) =v0−Δv0とを、[数3]に代入し、速度誤差を考慮して[数3]を補正した数式である[数11]を演算する。
【数11】

【0040】
このように、補正手段204は、速度を算出するための速度算出式が速度誤差を考慮した数式となるように、[数3]の算出初速度v(0)を、速度誤差Δv0で表して補正し、[数11]を得るのである。
【0041】
決定手段205は、減速測定速度に関する測定加速度と前記算出速度に関する算出加速度とに基づく差としての加速度誤差に基づいて、減速度合と時定数とを決定するように構成されており、加速度誤差に基づく絶対値が最小値となるように減速度合と時定数とを決定するように構成されている。
【0042】
具体的には、決定手段205は、測定時間に相当する区間ごとに、該区間での減速測定速度と該減速測定速度の直前に測定された減速測定速度とを用いて、当該区間での加速度を測定加速度として算出し、同じく区間ごとに、該区間での算出速度と該算出速度の直前に算出された算出速度とを用いて、当該区間での加速度を算出加速度として算出し、それぞれの区間において、互いに対応する測定加速度と算出加速度との差である加速度誤差の絶対値を算出し、該算出したそれぞれの絶対値の総和が最小値となるように、前記減速度合と時定数とを決定するように構成されている。
【0043】
より詳細に説明すると、決定手段205は、[数12]を用いて、測定時間に相当する区間ごとの加速度誤差を演算する。尚、[数12]の[v((j−1)Δt)−v(jΔt)]/Δtは、算出加速度を示し、(vj-1−vj)/Δtは、測定加速度を示す。また、[数12]で示される加速度誤差は、区間ごとの傾きの差に等しくなっている。
【数12】

【0044】
そして、[数12]に[数4]を代入して[数13]を得、更に、該[数13]にyj0=Δvj−Δv0を代入して加速度誤差を速度誤差同士の差で表した[数14]を得る。
【数13】

【数14】

【0045】
そして、決定手段205は、加速度誤差の絶対値の総和、即ち、測定時間に相当する区間ごとの加速度誤差の二乗の和の平均値を示す[数15]を用いて、該[数15]が最小値となるようにzを演算する。
【数15】

最後に、決定手段205は、求めたzを用いて[数6]のvn=Δvn+v0−Δv0 −x[n−(1−e-nz)/z]よりxを求める。
【0046】
停止時間算出手段206は、補正手段204によって補正された数式である[数11]を用いて、減速開始時から車両が停止するまでの時間、即ち、初速度を測定した時点から車両が停止するまでの時間を停止時間として算出するよう構成されている。具体的には、停止時間算出手段206は、[数11]と、初速度設定手段によって設定された初速度である測定初速度v0と、決定手段205によって決定された減速度合に基づくx及び時定数に基づくzと、を用いて、停止時間tsを算出する。具体的には、[数11]に、v0とxとzとをそれぞれ代入すると共に算出速度をv(jΔt)=0として、停止時間ts=nΔtを演算する。
【0047】
停止距離算出手段207は、減速開始時から測定対象物が停止するまでの間に測定対象物が移動する距離を停止距離、即ち、初速度を測定した時点から車両が停止するまでの間に車両が移動する距離を停止距離として算出するよう構成されている。具体的には、停止距離算出手段207は、一次遅れ系を加えた速度算出式[数1]に基づいて得られる停止距離算出式[数2]を用いて、停止距離を算出するように構成されており、本実施形態では、測定初速度v0と、xから求まる減速度合μgと、zから求まる時定数τと、停止時間tsとを[数2]に代入して停止距離dsを演算するよう構成されている。
【0048】
続いて、以上のような構成の停止距離推定システム1を用いて停止距離を算出する方法について、図3に示すフローチャートを参照して説明する。
【0049】
まず、停止距離算出方法がスタートすると、測定手段10によって、測定対象物である車両Pの速度である測定速度を所定の測定時間ごとに測定する(ステップS1)。具体的には、送受信手段110によって、車両Pへ向けて送信波を連続的に送信し、車両Pにて反射した反射波を受信波として受信して該受信波を制御部20の演算手段120へ順次入力する。そして、演算手段120によって、測定時間が経過する度に、順次入力される受信波に基づいて車両Pの速度である測定速度を演算し、演算した測定速度を測定順に並ぶように測定されたものから順に例えばメモリー等に記憶する。
【0050】
次に、減速判断手段202によって、測定手段10により所定時間測定した速度結果のうち所定期間連続して減速している期間を減速判断期間と認識することで車両Pが減速していると判断する(ステップS2)。具体的には、速度比較手段201によって、測定手段10により所定の測定時間ごとに測定されるそれぞれの測定速度について、測定されたものから順に、今回測定された測定速度と前回測定された測定速度とを比較する。そして、減速判断手段202によって、測定順になされる前記比較に基づいて、今回測定された測定速度が前回測定された測定速度よりも小さいか否かを判断し、今回測定した測定速度が前回測定した測定速度よりも小さい結果が所定期間連続して得られた場合に、当該期間を減速判断期間と認識し、これにより測定に係る車両Pが減速していると判断する。
【0051】
より詳細に説明すると、速度比較手段201によって、測定順に記憶される測定速度のうち、最新に記憶された測定速度(最後に記憶された測定速度)と、その直前に記憶された測定速度とを比較する。そして、減速判断手段202により、最新の測定速度の方が直前に記憶された測定速度よりも小さい場合、即ち、速度勾配が負となっている場合には、最新の速度にフラッグメントを付す。かかる工程を複数回連続して繰り返し、その全ての工程においてフラッグメントが付される場合、即ち、速度勾配が負である状態が所定期間持続した場合に、かかる期間を減速判断期間と認識して減速であると判断する。つまり、ステップS2においては、減速判断手段202によって、測定手段10により所定時間測定した速度結果のうち速度勾配が負である状態が所定期間連続して持続している場合に、当該期間を減速判断期間と認識することで車両Pが減速していると判断する。尚、減速判断手段202によって減速判断期間が認識されると、該減速判断期間内で測定時間ごとに測定された複数の測定速度は、減速判断期間内で測定時間ごとに測定された複数の減速測定速度と認識される。
【0052】
減速判断手段202によって車両Pが減速していると判断されると、初速度設定手段203によって、減速判断期間の減速開始時における車両Pの速度を初速度として設定する(ステップS3)。具体的には、ステップS2において車両Pが減速していると判断されると、初速度設定手段203によって、減速判断期間のうち、今回測定した減速測定速度が前回測定した減速測定速度よりも小さくなった最初の時点の直前の減速測定速度を測定初速度として設定して記憶する。より詳細には、車両Pが減速していると判断されると、初速度設定手段203により、減速判断期間において連続して順に付されている複数のフラッグメントを、減速であると判断した時点でのフラッグメントから、フラッグメントが付された順と逆順になるように遡り、最初にフラッグメントが付されている時点での減速測定速度を割出し、当該割出した減速測定速度の直前に記憶されている減速測定速度を割出してこれを測定初速度として設定して記憶する。尚、初速度設定手段203は、測定初速度を設定すると、決定手段205に減速度合と時定数とを決定するよう決定命令を出力する。
【0053】
次に、補正手段204によって、減速判断期間内で測定される減速測定速度と、減速開始時を基準として[数1]から算出される算出速度と、に関する誤差としての速度誤差に基づいて、[数1]を補正する(ステップS4)。具体的には、補正手段204によって、速度誤差が0となるように、つまり、互いに対応する減速測定速度と算出速度との差に基づく速度誤差を用いて、該速度誤差の平均値が0となるように、[数1]を補正する。
【0054】
本実施形態では、補正手段204によって、t=jΔt(j=0,1,2,・・・,n)と、x=μgΔtと、z=Δt/τとを用いて[数1]を変換した[数3]を、速度誤差を考慮した数式、つまり、[数3]の算出初速度v(0)を、速度誤差を考慮して補正する。
【0055】
より詳細に説明すると、ステップS4では、補正手段204によって、[数1]を[数3]に変換し、かかる[数3]と、算出速度及び速度誤差を用いて減速測定速度を表した[数4]とを用いて、[数5]に示すように、測定時間ごとの減速測定速度をそれぞれ演算する。
【0056】
そして、[数5]よりv(0) =v0−Δv0を算出し、この数式を[数5]の他の数式に代入して[数6]を演算する。
【0057】
そして、yj0=Δvj−Δv0とし、この数式を[数6]に代入してxの数式である[数7]を演算する。
【0058】
そして、[数7]を用いて、y10〜y(n-1)0をそれぞれ示す[数8]を演算する。具体的には、[数7]の第1式と第n式とを用いてy10を演算し、第2式と第n式とを用いてy20を演算し、かかる演算を続けて最終的にy(n-1)0を演算する。
【0059】
ここで、yn0=0と仮定し、速度誤差の平均値としての速度誤差の総和が0となることを示す数式である[数9]と仮定する。
【0060】
そして、[数9]を変形して、Δv0−Δv0+Δv1−Δv0+・・・+Δvn−Δv0+(n+1)Δv0=y10+y20+・・・+yn0+(n+1)Δv0=0とし、初速度誤差を示す数式である[数10]を演算する。
【0061】
そして、[数10]と、[数5]から得られるv(0) =v0−Δv0とを、[数3]に代入し、速度誤差を考慮して[数3]を補正した数式である[数11]を演算する(ステップS41)。
【0062】
そして、ステップS41において[数11]が演算されたか否かを確認する(ステップS42)。
【0063】
このように、ステップS4では、補正手段204によって、速度を算出するための速度算出式が速度誤差を考慮した数式となるように、[数3]の算出初速度v(0)を、速度誤差Δv0で表して補正して[数11]を算出し(ステップS41)、補正がなされたか否か、つまり、[数11]が算出されたか否かを確認する(ステップS42)。
【0064】
次に、決定手段205によって、減速測定速度に関する測定加速度と算出速度に関する算出加速度とに基づく加速度誤差に基づいて、減速度合と時定数とを決定する(ステップS5)。本実施形態では、決定手段205によって、加速度誤差に基づく絶対値が最小値となる、即ち、ように減速度合と時定数とを決定する。
【0065】
具体的には、決定手段205によって、測定時間に相当する区間ごとに、該区間での減速測定速度と該減速測定速度の直前に測定された減速測定速度とを用いて、当該区間での加速度を測定加速度として算出し(ステップS51)、前記区間ごとに、該区間での算出速度と該算出速度の直前に算出された算出速度とを用いて、当該区間での加速度を算出加速度として算出し(ステップS52)、それぞれの区間において、互いに対応する測定加速度と算出加速度との差である加速度誤差の絶対値を算出し(ステップS53)、該算出したそれぞれの絶対値の総和が最小値となるように、前記減速度合と時定数とを決定する(ステップS54乃至S57)。
【0066】
より詳細に説明すると、ステップS5においては、[数12]を用いて、測定加速度と算出加速度と加速度誤差とを演算する(ステップS51乃至S53)。そして、[数12]に[数4]を代入して[数13]を得、更に、該[数13]にyj0=Δvj−Δv0を代入して加速度誤差を速度誤差同士の差で表した[数14]を得て、更に、加速度誤差の絶対値の総和、即ち、測定時間に相当する区間ごとの加速度誤差の二乗の和の平均値を示す[数15]を用いて、該[数15]が最小値となるようにzを演算する(ステップS54)。
【0067】
そして、ステップS54の演算がなされたか否かを確認、即ち、zが演算されたか否かを確認し(ステップS55)、zが演算された場合には、求めたzを用いて[数6]のvn=Δvn+v0−Δv0 −x[n−(1−e-nz)/z]よりxを求め(ステップS56)、ステップS56においてxが求められたか否かを確認する(ステップS57)。
【0068】
次に、停止時間算出手段206によって、[数11]を用いて、減速開始時から車両が停止するまでの時間、即ち、測定初速度を測定した時点から車両が停止するまでの時間を停止時間として算出する(ステップS6)。具体的には、[数11]に、初速度設定手段によって設定された測定初速度v0と、決定手段205によって決定された減速度合に基づくx及び時定数に基づくzとをそれぞれ代入すると共に算出速度をv(jΔt)=0として、停止時間ts=nΔtを演算する。
【0069】
最後に、停止距離算出手段207によって、減速開始時から車両Pが停止するまでの間に車両Pが移動する距離を停止距離、即ち、測定初速度を測定した時点から車両が停止するまでの間に当該車両が移動する距離を停止距離として算出する(ステップS7)。具体的には、測定初速度v0と、xから求まる減速度合μgと、zから求まる時定数τと、停止時間tsとを[数2]に代入して停止距離dsを演算する。
【0070】
続いて、本発明に係る第二実施形態について図4乃至6を参照して説明する。尚、第一実施形態と共通する構成及び手順(ステップ)については、第一実施形態と同じ符号を付すこととし、その説明を省略する。
【0071】
図4及び5に本第二実施形態に係る停止距離推定システム1が示されている。該停止距離推定システム1は、測定対象物としての車両Pの速度及び該車両Pの位置としての車両Pまでの距離を路肩から測定することによって、当該車両Pの停止位置を割出すことができるシステムである。
【0072】
かかる停止距離推定システム1は、車両Pの速度と該車両Pまでの距離とを所定時間測定する測定手段10と、該測定手段10の測定結果に基づいて車両Pが停止するまでの停止距離を算出し、算出した停止距離に基づいて車両Pが停止する位置を割出す制御部20と、割出した停止位置が基準位置を越えると判断した場合に、当該基準位置を越えて停止することを報知すべく作動する報知手段30とを備える。尚、本第二実施形態では、停止距離推定システム1は、交差点に向かって走行している車両Pが基準位置としての交差点手前の停止線Yを越えて停止するか否かを判断することができるものである。
【0073】
具体的には、制御部20は、第一実施形態と同様の構成を備え、更に、前記停止距離算出手段207によって算出した停止距離に基づいて車両Pが停止する位置を割出す停止位置割出手段208と、割出した停止位置が基準位置としての停止線Yを越えるか否かを判断する停止位置判断手段209とを具備する。
【0074】
停止位置割出手段208は、前記減速判断期間の減速開始時における車両Pの位置と、停止距離算出手段207によって算出された停止距離とに基づいて、減速開始時における車両Pの位置を基準にした車両Pの停止位置を割出すように構成されている。
【0075】
停止位置判断手段209は、停止位置割出手段208によって割出された停止位置と停止線Yとの間の距離を算出することによって、停止位置が停止線Yを越えるか否かを判断するように構成されている。具体的には、停止位置判断手段209は、停止位置割出手段208によって割出される停止位置における車両Pまでの距離と、停止線Yまでの距離とを比較し、停止位置における車両Pまでの距離が停止線Yまでの距離よりも大きい(遠い)場合には、割出した停止位置が停止線Yを越えない、つまり車両Pが停止線Yの手前で停止すると判断し、小さい(近い)場合には、割出した停止位置が停止線Yを越える、つまり車両Pが停止線Yを越えて停止すると判断するように構成されている。尚、停止位置判断手段209は、停止位置が停止線Yを越えると判断した場合に報知手段30に作動命令を出力するように構成されている。
【0076】
報知手段30は、停止位置が停止線Yを越えると停止位置判断手段209が判断した場合に、当該越えることを報知すべく作動するように構成されている。具体的には、報知手段30は、例えば表示灯やサイレンなどであり、停止位置判断手段209からの作動命令を受信すると、光や音を放つことによって、周囲に或いは車両Pの運転者に対して当該車両Pの停止位置が停止線Yを越えることを報知するように構成されている。
【0077】
続いて、以上のような構成の停止距離推定システム1を用いて車両Pの停止位置が停止線Yを越えるか否かを判断する方法について、図6に示すフローチャートを参照して説明する。尚、車両Pの停止距離を算出するまでの手順(ステップS1乃至ステップS7)については、第一実施形態の手順と同様である。
【0078】
ステップS7において車両Pの停止距離が算出されると、停止位置割出手段208により算出された停止距離に基づいて車両Pが停止する位置を割出す(ステップS8)。具体的には、停止位置割出手段208によって、前記減速判断期間の減速開始時における車両Pの位置と、停止距離算出手段207によって算出された停止距離とに基づいて、車両Pの停止位置を割出す。
【0079】
次に、停止位置判断手段209によって、割出された停止位置が基準位置としての停止線Yを越えるか否かを判断する(ステップS9)。具体的には、ステップS8において割出された停止位置と、基準位置としての停止線Yの位置とを比較し、当該停止位置が停止線Yよりも車両P進行方向前側である場合には、車両Pが停止線Yを越えて停止すると判断し、停止位置が停止線Yよりも車両P進行方向後側である場合には、車両Pが停止線Yを越えないで停止すると判断する。そして、停止位置判断手段209は、車両Pが停止線Yを越えて停止すると判断した場合には、報知手段30に対して作動命令を出力する。尚、車両Pが停止線Yを越えないで停止すると判断された場合には、制御は終了する。
【0080】
次に、車両Pが停止線Yを越えて停止すると判断された場合には報知手段30が作動する(ステップS10)。具体的には、表示灯が点灯したり、サイレンが鳴動したりする。これにより当該車両Pが停止線Yを越えて停止することを報知することができる。
【0081】
以上のような第一及び第二実施形態にかかる停止距離推定システム1及び該停止距離推定システム1を用いて停止距離を算出して推定する方法にあっては、補正手段204が、減速測定速度と算出速度との誤差に基づいて[数1]を補正し、決定手段205が、測定加速度と算出加速度との差に基づいて減速度合と時定数とを決定するので、補正した数式である[数11]から算出される算出速度と減速度合と時定数との値を、実際に測定している車両の制動挙動に対応した値、つまり、車両や路面、運転者等の状況によって様々に変化する摩擦係数や反応時間とは無関係に、実際の車両にて起こる緩やかな制動挙動に対応した値とすることができる。そして、停止時間算出手段206が、[数11]と減速度合と時定数とを用いて停止時間を算出するので、誤差が小さい精度のよい停止時間を算出することができる。故に、停止距離算出手段207が、車両の実際の制動挙動に対応した減速度合及び時定数と、精度がよい停止時間とを、停止距離を算出するための[数2]に適用して誤差が小さく精度のよい停止距離を算出することができる。
【0082】
また、減速度合及び時定数を決定するに際し、速度誤差を考慮して補正した[数11]を用い、加速度誤差の絶対値が最小となるように演算するので、減速度合と時定数との値をより適切な値とすることができ、停止距離を精度よく算出することができる。
【0083】
更に、演算手段120が、演算した速度を測定順に並ぶように測定したものから順に例えばメモリー等に記憶するので、処理の効率化が図られる。
【0084】
また更に、第二実施形態にかかる停止距離推定システム1及び該停止距離推定システム1を用いて停止距離を算出して推定する方法にあっては、精度よく算出した車両Pの停止距離に基づいて、当該車両Pの停止位置と基準位置としての停止線Yとの位置関係を判断するので、車両Pが停止線Yを越えて停止する場合を精度よく判断してこれを報知することができ、例えば停止線Yでの停止を忘れている車両Pの運転手を正確に判別して注意喚起することができる。
【0085】
尚、第一及び第二実施形態では、車両Pの位置が、測定手段10から車両Pまでの距離である場合について説明したが、これに限らず、車両Pの位置を、例えば所定の基準車両位置から車両Pまでの距離とすることも可能である。
【0086】
また、第一及び第二実施形態では、補正手段204による補正ステップ(ステップS4)の後に、決定手段205による決定ステップ(ステップS5)を実行する場合について説明したが、これに限らず、例えば、補正ステップと決定ステップとを同時期に実行する場合であってもよい。
【符号の説明】
【0087】
1…停止距離推定システム、10…測定手段、20…制御部、30…報知手段、110…送受信手段、111…信号源、112…アンテナ、113…パワーディテクタ、120…演算手段、201…速度比較手段、202…減速判断手段、203…初速度設定手段、204…補正手段、205…決定手段、206…停止時間算出手段、207…停止距離算出手段、208…停止位置割出手段、209…停止位置判断手段、P…車両、Y…停止線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の速度を所定時間測定する測定手段と、該測定手段の測定結果に基づいて前記測定対象物が停止するまでの停止距離を算出する制御部とを備え、
該制御部は、
前記測定手段により所定時間測定した速度結果のうち所定期間連続して減速している期間を減速判断期間と認識することで前記測定対象物が減速していると判断する減速判断手段と、
前記減速判断期間の減速開始時における測定速度を初速度として設定する初速度設定手段と、
前記減速判断期間内で測定される減速測定速度と、前記減速開始時を基準として[数1]から算出される算出速度との誤差に基づいて[数1]を補正する補正手段と、
【数1】

但し、vを算出速度と、v0を初速度と、μgを減速度合と、tを減速開始時を基準に経過した時間である減速時間と、τを時定数とする。
前記減速測定速度に関する測定加速度と前記算出速度に関する算出加速度とに基づく差に基づいて、前記減速度合と時定数とを決定する決定手段と、
前記補正手段によって補正された数式と前記初速度設定手段によって設定された初速度と前記決定手段によって決定された減速度合及び時定数とを用いて、減速開始時から測定対象物が停止するまでの時間を停止時間として算出する停止時間算出手段と、
前記減速開始時から測定対象物が停止するまでの間に前記測定対象物が移動する距離を停止距離として[数2]より算出する停止距離算出手段と、を備えることを特徴とする停止距離推定システム。
【数2】

但し、dsを停止距離と、tsを停止時間とする。
【請求項2】
前記補正手段は、前記減速測定速度と前記算出速度との誤差が0となるように、[数1]を補正することを特徴とする請求項1に記載の停止距離推定システム。
【請求項3】
前記決定手段は、前記減速測定加速度と前記算出加速度との差の絶対値が最小値となるように前記減速度合と時定数とを決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の停止距離推定システム。
【請求項4】
前記減速測定速度は、減速判断期間内で所定の測定時間ごとに測定されており、
前記算出速度は、前記各々の減速測定速度に対応するように、前記測定時間ごとに算出されており、
前記補正手段は、互いに対応する減速測定速度と算出速度との間の誤差をそれぞれ算出し、該算出したそれぞれの誤差の平均値が0となるように、[数1]を補正することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の停止距離推定システム。
【請求項5】
前記減速測定速度は、減速判断期間内で所定の測定時間ごとに測定されており、
前記算出速度は、前記各々の減速測定速度に対応するように、前記測定時間ごとに算出されており、
前記決定手段は、前記測定時間に相当する区間ごとに、該区間での減速測定速度と該減速測定速度の直前に測定された減速測定速度とを用いて、当該区間での加速度を測定加速度として算出し、前記測定時間に相当する区間ごとに、該区間での算出速度と該算出速度の直前に算出された算出速度とを用いて、当該区間での加速度を算出加速度として算出し、それぞれの区間において、互いに対応する測定加速度と算出加速度との差の絶対値を算出し、該算出したそれぞれの絶対値の総和が最小値となるように、前記減速度合と時定数とを決定することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の停止距離推定システム。
【請求項6】
測定対象物の速度を所定時間測定する測定手段と、該測定手段の測定結果に基づいて前記測定対象物が停止するまでの停止距離を算出する制御部とを備える停止距離推定システムを用いて前記停止距離を算出して推定する方法であって、
該制御部は、
前記測定手段により所定時間測定した速度結果のうち所定期間連続して減速している期間を減速判断期間と認識することで前記測定対象物が減速していると判断するステップと、
前記減速判断期間の減速開始時における測定速度を初速度として設定するステップと、
前記減速判断期間内で測定される減速測定速度と、前記減速開始時を基準として[数1]から算出される算出速度との誤差に基づいて[数1]を補正するステップと、
【数1】

但し、vを算出速度と、v0を初速度と、μgを減速度合と、tを減速開始時を基準に経過した時間である減速時間と、τを時定数とする。
前記減速測定速度に関する測定加速度と前記算出速度に関する算出加速度とに基づく差に基づいて、前記減速度合と時定数とを決定するステップと、
前記補正するステップにおける補正された数式と前記初速度と前記決定された減速度合及び時定数とを用いて、減速開始時から測定対象物が停止するまでの時間を停止時間として算出するステップと、
前記減速開始時から測定対象物が停止するまでの間に前記測定対象物が移動する距離を停止距離として[数2]より算出するステップと、を備えることを特徴とする方法。
【数2】

但し、dsを停止距離と、tsを停止時間とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−176540(P2010−176540A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20434(P2009−20434)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年8月1日 インターネットアドレス「http://search.ieice.org/bin/index.php?category=A&year=2008&vol=J91‐A&num=8&lang=J&abst=」に発表
【出願人】(000002462)積水樹脂株式会社 (781)
【Fターム(参考)】