説明

側鎖に(メタ)アクリル基を有する含フッ素共重合体及びこれを含む硬化性組成物

【課題】表面の指紋汚れを目立たなくさせ、汚れの拭き取りを可能にし、耐久性に優れ、防汚添加剤として好適な含フッ素共重合体及びこれを含む硬化性組成物、及び硬化被膜が形成された耐指紋性ハードコート処理物品を提供する。
【解決手段】フッ素原子を有する不飽和エチレン系あるいはフッ素原子を有するビニルエーテル系モノマーと水酸基を有するアクリル酸、メタアクリル酸又はビニルエーテル系モノマーの共重合により得られる、含フッ素共重合体(A)((a)と(b)の繰り返し単位を含む)に、アクリル基又はメタクリル基を有するイソシアネート化合物(B)を反応させることにより得られる側鎖に(メタ)アクリル基を有する含フッ素共重合体。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロポリエーテル基等のフッ素置換基を有する硬化可能な側鎖に(メタ)アクリル基を有する含フッ素共重合体に関し、詳細にはフルオロオレフィンモノマー及び水酸基を有するビニルモノマーを含む単量体成分を用いて得られた共重合体に、アクリル基を有するイソシアネート化合物を反応させることで得られる側鎖に(メタ)アクリル基を有する含フッ素共重合体及びこれを含む硬化性組成物に関する。また、該硬化性組成物の硬化被膜が形成された耐指紋性ハードコート処理物品に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル化合物は紫外線や電子線等の活性エネルギー線の照射により容易に硬化させることができ、プラスチック樹脂に代表させる各種物品表面に塗工し硬化させることで、表面を保護し新たな機能を付与するハードコート素材として非常に幅広い用途に用いられている。
【0003】
これらハードコートはその用途の広がりに応じて、従来の求められてきた硬度、耐摩耗性、耐薬品性、耐久性等に加え、防汚性、耐候性、すべり性、帯電防止性、防曇性、難焦性、反射防止等の更なる高機能が求められてきている。中でも汚れ防止、汚れ拭き取り性の向上が着目を浴びている。
【0004】
こうしたアクリル系硬化性組成物への防汚性の付与としては、表面にフッ素系の化合物層をつくり、撥水撥油性を高めることで水、油を含んだ汚れ成分を弾かせる試みが広くなされている。典型的な手法としては側鎖にパーフルオロアルキル基を有する重合性モノマー、例えば、アクリル酸含フッ素アルキルエステルやメタクリル酸含フッ素アルキルエステルから得られる重合体が広く知られている。
【0005】
例えば、特開平10−147741号公報(特許文献1)には、側鎖に4級又は3級の炭素をもつモノマーと、側鎖にパーフルオロアルキル基をもつモノマーとを有するアクリル樹脂を含むことを特徴とするアクリル樹脂系塗料組成物が示されている。
【0006】
また、特開平11−293159号公報(特許文献2)では、ハードコート剤に微量の非架橋型フッ素系界面活性剤を添加することで、人工汗をはじかせる手法が示されている。
【0007】
一方、近年、タブレット型パソコンや携帯電話、電子ブックリーダー等タッチパネルを用いた電子機器の普及により、指等の人体で直接画面に接触することで操作する表示部材に最適化された防汚性が特に着目されてきている。こうした用途は定常的に人の手で触れられるため、指紋の付着汚れをまず目立たせないことが求められている。
【0008】
ところが、従来のフッ素化合物の層を表面に形成させる方法は、指紋の付着そのものが少なく拭き取りやすいという利点はあるものの、付着した汚れ成分を含んだ油分が表面に弾かれて微小な液滴群を形成してしまうため、むしろ指紋の汚れが目立ってしまうという欠点があった。
【0009】
一方、特開2001−353808号公報(特許文献3)には、被膜に高級脂肪酸由来の親油性の高い防汚剤被膜を形成し、対象表面を親油性にすることで汚れ目立ちを防止する手法が示されている。しかし、この場合付着した油分を含む汚れは、表面に薄く広がって行き、確かに指紋は目立たなくなるものの、拭き取ることができず、徐々に汚れが堆積するという欠点があった。
【0010】
また、含フッ素アクリル化合物をアクリル系ハードコート組成物に添加した場合、フッ素化合物の表面自由エネルギーの低さから、含フッ素アクリル化合物が表面に浮上しそこにフッ素層を形成するため、フッ素は少量の添加で済み、またハードコートの表面以外の物性にも比較的影響を与えにくいが、高級脂肪酸由来のアクリル化合物で同様の添加を行っても、樹脂全体に分散してしまうため、表面に十分な耐指紋性能を与えることができない。
【0011】
こうした流れを受けて、最近になり、特開2010−84033号公報(特許文献4)において、フルオロオレフィンと水酸基含有ビニルエーテルモノマーを含み、水酸基価90〜130のフッ素系ポリマーを含有する耐指紋性向上剤の提案が行われている。この手法は指紋の目立ち防止と拭き取り性をある程度両立させているが、配合されるアクリル樹脂と直接反応する官能基を持たないため、添加先のハードコート組成によっては耐久性が不十分となるという欠点があった。
【0012】
このためアクリル系ハードコート剤に少量配合することで、表面の指紋汚れを目立たなくさせ、かつ汚れの拭き取りが可能で耐久性に優れた防汚添加剤への要求が高まっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10−147741号公報
【特許文献2】特開平11−293159号公報
【特許文献3】特開2001−353808号公報
【特許文献4】特開2010−84033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、表面の指紋汚れを目立たなくさせると共に、汚れの拭き取りを可能にし、しかも耐久性に優れ、防汚添加剤として好適な含フッ素共重合体及びこれを含む硬化性組成物、並びに該硬化性組成物の硬化被膜が形成された耐指紋性ハードコート処理物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、下記繰り返し単位(a)、
【化1】

(但し、X1はフッ素原子、水素原子、塩素原子、又は炭素数1〜4で、エーテル結合を含んでいてもよく水素原子の一部又は全てがフッ素化されていてもよいアルキル基であり、X2、X3はそれぞれ独立に、フッ素原子、水素原子又は塩素原子である。)
と、下記繰り返し単位(b)
【化2】

(但し、Yは構造中に少なくとも1つの水酸基を有し、エーテル結合及び/又はエステル結合を1つ又は複数有していてもよい炭素数1〜20の1価の基であり、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)
を主鎖構造に有する含フッ素共重合体(A)に、アクリル基又はメタクリル基を有するイソシアネート化合物(B)を反応させることにより得られる側鎖に(メタ)アクリル基を有する含フッ素共重合体(すなわち、含フッ素アクリル化合物)を、アクリル系ハードコート剤に少量配合することで、表面の指紋汚れを目立たなくさせ、かつ汚れの拭き取りを可能とし更に耐久性にも優れることを見出し、本発明をなすに至った。
【0016】
従って、本発明は、側鎖に(メタ)アクリル基を有する含フッ素共重合体及びこれを含む硬化性組成物、並びに該硬化性組成物の硬化被膜が形成された耐指紋性ハードコート処理物品を提供する。
[1]下記の繰り返し単位(a)
【化3】

(但し、X1はフッ素原子、水素原子、塩素原子、又は炭素数1〜4で、エーテル結合を含んでいてもよく水素原子の一部又は全てがフッ素化されていてもよいアルキル基であり、X2、X3はそれぞれ独立に、フッ素原子、水素原子又は塩素原子である。)
と、下記の繰り返し単位(b)
【化4】

(但し、Yは構造中に少なくとも1つの水酸基を有し、エーテル結合及び/又はエステル結合を1つ又は複数有していてもよい炭素数1〜20の1価の基であり、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)
を主鎖構造に有する含フッ素共重合体(A)に、アクリル基又はメタクリル基を有するイソシアネート化合物(B)を反応させることにより得られる側鎖に(メタ)アクリル基を有することを特徴とする含フッ素共重合体。
[2]アクリル基又はメタクリル基を有するイソシアネート化合物(B)が、以下のいずれかである[1]記載の含フッ素共重合体。
【化5】

[3]繰り返し単位(a)において、X1が塩素原子、X2及びX3がフッ素原子である[1]又は[2]記載の含フッ素共重合体。
[4]共重合体(A)の繰り返し単位として、(a),(b)単位に加え、更に、下記の繰り返し単位(c)
【化6】

(但し、R2及びR3はそれぞれ独立に、水素原子、又はエーテル結合及び/又はエステル結合を有していてもよい炭素数1〜20の1価炭化水素基である。)
を含む[1]〜[3]のいずれかに記載の含フッ素共重合体。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の含フッ素共重合体を含むことを特徴とする硬化性組成物。
[6]アクリル系ハードコート組成物である[5]記載の硬化性組成物。
[7]樹脂成形体又はフィルムからなる基材上に[5]又は[6]記載の硬化性組成物の硬化被膜が形成されたことを特徴とする耐指紋性ハードコート処理物品。
【発明の効果】
【0017】
本発明の含フッ素共重合体は、防汚添加剤として用いられて、表面の指紋汚れを目立たなくさせると共に、汚れの拭き取りを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に用いられる共重合体(A)は、下記の繰り返し単位(a)
【化7】

(但し、X1はフッ素原子、水素原子、塩素原子、又は炭素数1〜4で、エーテル結合(−O−)を含んでいてもよく水素原子の一部又は全てがフッ素化されていてもよいアルキル基であり、X2、X3はそれぞれ独立に、フッ素原子、水素原子又は塩素原子である。)
と、以下の繰り返し単位(b)
【化8】

(但し、Yは構造中に少なくとも1つの水酸基を有し、エーテル結合(−O−)及び/又はエステル結合(−COO−)を1つ又は複数有していてもよい炭素数1〜20、特に1〜10の1価の基、特にアルキル基であり、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)
とを含むことを特徴とする。
【0019】
このような共重合体(A)は、その製法には左右されず、いかなる手法により合成されたものも用いることができる。
例えば(a)に対応する含フッ素モノマー、及び(b)に対応する含水酸基モノマーを共重合させる方法、あるいは反応性の基を有し(a)構造を持つ含フッ素共重合体に高分子反応により水酸基を導入し(b)構造を得る方法、更に加水分解等により水酸基を形成し得るモノマーをあらかじめ重合せしめた含フッ素共重合体を、加水分解等をすることにより(b)構造を形成する方法、また(a)構造と(b)構造をはじめから同一分子中に有する中間体を作製し、これを任意の手法により鎖長延長するなどさまざまな手法があるが、合成の容易さから、繰り返し単位(a)及び繰り返し単位(b)に対応するモノマー(a)’及び(b)’すなわち、
CFX1=CX23 (a)’
及び
CH2=CR1Y (b)’
(X1、X2、X3、R1、Yは前記に同じ。)
を公知の手法で共重合させることがもっとも好適である。
【0020】
ここでモノマー(a)’は、重合後の構造として繰り返し単位(a)を形成するものであれば特に限定されないが、具体的には(a)’としては、
CF2=CH2
CF2=CF2
CFCl=CF2
CF2=CF−CF3
CF2=CF−CF2CF3
CF2=CF−O−CF2CF2CF3
等が例示される。
【0021】
また、モノマー(b)’としては、分子中に少なくとも水酸基を1個以上有し、モノマー(a)’と共重合可能で重合後に繰り返し単位(b)を形成すれば特に限定されないが、例えば以下の構造を示すことができる。
CH2=CHOCH2CH2OH 、
CH2=CHOCH(CH3)CH2OH、
CH2=CHOCH2CH2CH2OH 、
CH2=CHOCH2CH2CH2CH2OH、
CH2=CHOCH2CH2CH2O(CH2CH2O)nH 、
CH2=CHOCH2CH2CH2O(CH2CH2O)n(CH(CH3)CH2O)mH 、
CH2=CHCH2OCH2CH2O(CH2CH2O)nH 、
CH2=CHCOO(CH2CH2O)nH 、
CH2=C(CH3)COO(CH2CH2O)nH 、
CH2=CHCOOCH2CH2OH 。
【0022】
ここで、n及びmはYに相当する部位の炭素数が20以下となるような範囲で任意の値を取ることができる。
【0023】
このようなモノマー(a)’及び(b)’の組み合わせとしては任意の組み合わせで使用でき、モノマー(a)’及び(b)’はそれぞれ単体でも混合物でも利用可能であるが、特にモノマー(a)’と(b)’の交互共重合性の高いものが好ましく、そのような組み合わせとしては、モノマー(a)’として
CF2=CF2
あるいは
CFCl=CF2
モノマー(b)’としてはビニルエーテル誘導体モノマー類、特に、
CH2=CHOCH2CH2CH2CH2OH
の組み合わせが好ましい。
【0024】
また、更に本発明においては、フッ素基及び/又は水酸基を含まない繰り返し単位として、下記繰り返し単位(c)
【化9】

(但し、R2及びR3はそれぞれ独立に、水素原子、又はエーテル結合及び/又はエステル結合を有していてもよい炭素数1〜20の1価炭化水素基である。)
を必要に応じて任意に導入してもよい。この場合、繰り返し単位(c)は前記した(a),(b)単位の導入方法と同様に任意の手法をとることができるが、対応するモノマー(c)’
CH2=CR23 (c)’
(R2、R3は前記に同じ。)
を、モノマー(a)’と(b)’と共に重合する方法が特に好ましい。このようなモノマー(c)’としては、オレフィン類、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、アリルエーテル類、アリルエステル類、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等が該当し、具体的には、エチレン、プロピレン、イソブチレン、酢酸ビニルエチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、酢酸アリル、メチルイソプロペニルエーテル等が好ましい。
【0025】
モノマー(a)’と(b)’及び(c)’の共重合は公知のさまざまな方法で実施することができ、特に制限はされないが、例えば特許第2570827号公報や特公平1−29507号公報等に示される手法がその方法として挙げられる。
【0026】
このようにして得られる共重合体(A)に含まれる繰り返し単位(a),(b),(c)は、任意の割合とすることができるが、溶解性及びフッ素特性の発現との兼ね合いから、(a)が30〜70mol%(以下、モル%)、(b)が5〜70モル%、(c)が0〜50モル%を占めることが好ましく、特に(a)40〜60モル%、(b)10〜40モル%、(c)10〜40モル%が好ましい。
【0027】
なお、この共重合体(A)は溶媒として、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム等を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量が2,000〜100,000、特に4,000〜50,000程度であることが好ましい。
【0028】
本発明における共重合体(A)は以上の手法で合成することができるが、該当する市販品を用いてもよい。そのような市販品の商品名の例としては「ルミフロン」(旭硝子株式会社)、「フルオネート」(DIC株式会社)、「ゼッフル」(ダイキン工業株式会社)、「セラフルコート」(セントラル硝子株式会社)、「ザフロン」(東亞合成株式会社)等が挙げられる。
【0029】
本発明の側鎖に(メタ)アクリル基を有する含フッ素共重合体(含フッ素アクリル化合物)は、含フッ素共重合体(A)に、アクリル基又はメタクリル基を有するイソシアネート化合物(B)を反応させることで得られる。
【0030】
化合物(B)はイソシアネート基と共に少なくとも一つのアクリル基又はメタクリル基(特には、アクリロイルオキシ基又はメタアクリロイルオキシ基)を有していれば、特に制限されないが、例えば、1分子中に1個又は2個のアクリル基又はメタクリル基(特には、アクリロイルオキシ基又はメタアクリロイルオキシ基)と、1個又は2個のイソシアネート基(−N=C=O基)とが、エーテル結合酸素原子(−O−)を含有していてもよい、炭素数1〜20、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数2〜6個程度の、直鎖状又は分岐状の2〜4価のアルキレン基で連結された化合物等を挙げることができ、このような化合物(B)の好適なものの例として以下を示すことができる。
【化10】

【0031】
中でも特に
【化11】

が好適である。
化合物(B)は1種単独でも又は2種以上を併用してもよい。
【0032】
共重合体(A)と化合物(B)の反応は、0〜120℃の条件下で両者を混合することで進行することができる。共重合体(A)と化合物(B)の反応の際の仕込み比率は、目的とする含フッ素アクリル化合物の物性に応じて(A)に含まれる全水酸基量を基準に任意に決定することができるが、好ましくは繰り返し単位(b)中の水酸基量に対して1モル%以上、特に好ましくは10〜100モル%であり、かつ、共重合体を構成する繰り返し単位(a),(b),(c)の全繰り返し単位のモル数の和に対して、1〜50モル%を満たすことが望ましい。これよりも少なすぎると、(B)由来の構造の導入による溶解性の向上や耐久性の効果が薄く、これより多くなると架橋密度が大きくなり硬化収縮率や塗膜強度等のハードコートの表面以外の物性に与える影響が強くなりすぎてしまう。
【0033】
また、反応の際は仕込んだ(B)の全量が反応するように設定することが簡便であるが、未反応の(B)が残存する場合も、これを減圧留去等の方法で除去したり、そのまま組成物の一部としたりしてもよい。この際、反応系に別途、水や低分子量のアルコールを加えてその後に除去したり、組成物の一部としてもよい。
【0034】
反応の追跡は1H−NMRやIRによって追跡することができる。反応の速度を増加するために適切な触媒を加えてもよい。触媒としては、例えばジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクタン酸第1錫等のアルキル錫エステル化合物、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタン、ジプロポキシビス(アセチルアセトナ)チタン、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコール等のチタン酸エステル又はチタンキレート化合物、ジルコウニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムキレート化合等が例示されるが、これらはその1種に限定されず、2種もしくはそれ以上の混合物として使用してもよい、これらの触媒を反応物総質量に対して、0.01〜2質量%、好ましくは0.05〜1質量%で加えることにより反応速度を増加させることができる。また、必要に応じて適当な溶媒で希釈して反応を行ってもよい。このような溶剤としては、イソシアネート及び水酸基と反応しない溶剤であれば特に制限なく用いることができるが、具体的にはテトラヒドロフラン,ジイソプロピルエーテル,ジブチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒等が示される。
【0035】
本発明による含フッ素アクリル化合物は、単体で電子線を照射したり、光重合開始剤と混合し紫外線照射により硬化させたりすることもできるが、非フッ素系のハードコート組成物、特にアクリル系ハードコート組成物に添加して硬化させることで、必要最低限の使用量で、ハードコート層表面に耐指紋性を付与することができる。
【0036】
非フッ素系ハードコート組成物(硬化性組成物)の固形分100質量部に対する本発明による含フッ素アクリル化合物の配合量は0.01〜30質量部であり、好ましくは0.5〜15質量部である。上記上限値超では添加した含フッ素アクリレート成分層が厚くなり、ハードコート剤としての性能を損なう可能性があり、下限値未満ではハードコート層の表面を十分に覆うことができなくなるおそれがある。
【0037】
非フッ素系のハードコート組成物としては、本発明の化合物と混合、硬化可能であれば、いかなるものであっても使用することができるが、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、フタル酸水素−(2,2,2−トリ−(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチル、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート等の2〜6官能の(メタ)アクリル化合物、これらの(メタ)アクリル化合物をエチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン、脂肪酸、アルキル変性した変性品、エポキシ樹脂にアクリル酸を付加させて得られるエポキシアクリレート類、アクリル酸エステル共重合体の側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入した共重合体等を含むものが挙げられる。また、更にウレタンアクリレート類、ポリイソシアネートに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるもの、ポリイソシアネートと末端ジオールのポリエステルに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるもの、ポリオールに過剰のジイソシアネートを反応させて得られるポリイソシアネートに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるものが挙げられ、中でも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、及びペンタエリスリトールトリアクリレートから選ばれる水酸基を有する(メタ)アクリレートと、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、及びジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれるポリイソシアネートを反応させたウレタンアクリレート類を含むものが好ましい。
【0038】
このような紫外線や電子線など活性エネルギー線で硬化可能なハードコート剤は各社からさまざまなものが市販されている。例えば、荒川化学工業(株)「ビームセット」、大橋化学工業(株)「ユービック」、オリジン電気(株)「UVコート」、カシュー(株)「カシューUV」、JSR(株)「デソライト」、大日精化工業(株)「セイカビーム」、日本合成化学(株)「紫光」、藤倉化成(株)「フジハード」、三菱レイヨン(株)「ダイヤビーム」、武蔵塗料(株)「ウルトラバイン」等の商品名が挙げられる。
【0039】
本発明の化合物は、ハードコート組成物に配合することで、ハードコート層表面に防汚、特に、耐指紋性を付与するのに有用である。これによって、指紋、皮脂、汗等の人脂、化粧品等による汚れが付着した場合であっても、汚れが目立ちにくくなり、加えて拭き取り性にも優れたハードコート表面を与える。このため、本発明の化合物は、人体が触れて人脂、化粧品等により汚される可能性のある物品の表面に施与される塗装膜もしくは保護膜を形成するための硬化性組成物の添加剤として有用である。
【0040】
このような物品としては、特にタッチパネルディスプレイなど人の指あるいは手のひらで直接画面上で操作を行う表示入力装置を有する各種機器、例えば、タブレット型コンピュータ、ノートPC、携帯電話、携帯(通信)情報端末、デジタルメディアプレイヤー、電子ブックリーダー、デジタルフォトフレーム、ゲーム機、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、自動車用等のナビゲーション装置、自動現金引出し預け入れ装置、現金自動支払機、自動販売機、デジタルサイネージ(電子看板)、セキュリティーシステム端末、POS端末、リモートコントローラなど各種コントローラ、車載装置用パネルスイッチ等の表示入力装置などが挙げられる。また、このほか各種表面で考えられる用途としては、タブレット型コンピュータ、ノートPC、携帯電話、携帯(通信)情報端末、デジタルメディアプレイヤー、電子ブックリーダーなど人の手で持ち歩く各種機器の筐体;液晶、プラズマ、有機EL等の各種フラットパネルディスプレイ及びTVの画面等の表示機器表面、自動車の外装、ピアノや家具の光沢表面、大理石等の建築用石材表面、トイレ、風呂、洗面等の水周りの装飾建材、美術品展示用保護ガラス、ショーウインドー、ショーケース、フォトフレーム用カバー、腕時計、自動車用フロントガラス、列車、航空機等の窓ガラス、自動車ヘッドライト、テールランプ等の透明なガラス製又は透明なプラスチック製(アクリル、ポリカーボネート等)部材、各種ミラー部材等に関する塗装及び表面保護膜が例として挙げられる。
【0041】
更に光磁気ディスク、光ディスク等の光記録媒体;メガネレンズ、プリズム、レンズシート、ペリクル膜、偏光板、光学フィルター、レンチキュラーレンズ、フレネルレンズ、反射防止膜、光ファイバーや光カプラー等の光学部品・光デバイスの表面保護被膜としても有用である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、各共重合体の重量平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によるポリスチレン換算の重量平均分子量を示す。
【0043】
[実施例1]
共重合体(A)に該当するポリマーとして、旭硝子株式会社製の商品名「ルミフロン LF200」(重量平均分子量;約18,200、水酸基価50mgKOH/g、固形分濃度60質量%)25gを、乾燥雰囲気下で還流装置と撹拌用マグネットをセットした100mL枝つきナスフラスコに仕込んだ。次いで、(B)に該当する化合物として2−イソシアナトエチルアクリレートをLF200の全水酸基量と等モルとなる1.96gを仕込み、更にメチルエチルケトン25.44gを加えて撹拌し、内温が45℃となるまで加熱した。温度が安定した後に、ジオクチル錫ラウレート0.01gを添加し、反応系内の温度が48℃まで上昇したのを確認し、加熱撹拌を3時間継続した。反応液を室温まで冷却した後にIR測定を行い、NCO基が消失し、反応が完結したことを確認した。反応液はそのまま固形分40質量%の添加剤溶液(A−1)として試験に用いた。
【0044】
[実施例2]
共重合体(A)に該当するポリマーとして、旭硝子株式会社製の商品名「ルミフロン LF906N」(重量平均分子量;約8,300、水酸基価118mgKOH/g、固形分濃度65質量%)23.9gを、乾燥雰囲気下で還流装置と撹拌用マグネットをセットした100mL枝つきナスフラスコに仕込んだ。次いで、(B)に該当する化合物として2−イソシアナトエチルアクリレートをLF906Nの全水酸基量と等モルとなる4.60gを仕込み、更にメチルエチルケトン30.2gを加えて撹拌し、内温が45℃となるまで加熱した。温度が安定した後に、ジオクチル錫ラウレート0.01gを添加し、反応系内の温度が52℃まで上昇したのを確認し、加熱撹拌を3時間継続した。反応液を室温まで冷却した後にIR測定を行い、NCO基が消失し、反応が完結したことを確認した。反応液はそのまま固形分40質量%の添加剤溶液(A−2)として試験に用いた。
【0045】
[実施例3]
共重合体(A)に該当するポリマーとして、旭硝子株式会社製の商品名「ルミフロン LF906N」(重量平均分子量;約8,300、水酸基価118mgKOH/g、固形分濃度65質量%)23.9gを、乾燥雰囲気下で還流装置と撹拌用マグネットをセットした100mL枝つきナスフラスコに仕込んだ。次いで、(B)に該当する化合物として2−イソシアナトエチルアクリレートをLF906Nの全水酸基量の1/2モルに相当する2.30gを仕込み、更にメチルエチルケトン26.7gを加えて撹拌し、内温が45℃となるまで加熱した。温度が安定した後に、ジオクチル錫ラウレート0.01gを添加し、反応系内の温度が52℃まで上昇したのを確認し、加熱撹拌を3時間継続した。反応液を室温まで冷却した後にIR測定を行い、NCO基が消失して反応が完結したことを確認した(水酸基価の理論値 51mgKOH/g)。反応液はそのまま固形分40質量%の添加剤溶液(A−3)として試験に用いた。
【0046】
[比較例1,2]
前述の「ルミフロン LF200」にメチルエチルケトン5.00gを加え、固形分40質量%の添加剤溶液(B−1)、同様に「ルミフロン LF906N」にメチルエチルケトン6.25gを加え、固形分40質量%の添加剤溶液(B−2)とした。
【0047】
ハードコート組成物における評価
ハードコート標準液として、以下の組成の溶液を調製した。
【0048】
【表1】

【0049】
上記、ハードコート標準液100質量部に対して、実施例1〜3及び比較例1,2で示した各添加剤溶液(A−1〜3及びB−1,2)を5質量部配合して、塗工用溶液を調製した。またブランクとして添加剤を含まない溶液も調製した。
調製した各溶液を2mm厚の10cm平方の黒色アクリル板上にスピンコートし、100℃で30秒予備加熱を行った後、コンベア型紫外線照射装置において、窒素雰囲気中で1.6J/cm2の紫外線を照射して硬化させ、サンプル表面を作製した。
サンプル表面の評価はサンプル内容を知らない被験者5人が各自の指で任意にサンプル表面に指紋をつけて以下の基準で比較した。
【0050】
指紋目立ちにくさ…添加剤未添加のブランクサンプルと比較して以下の4段評価(4:目立たない、3:やや目立たない、2:同程度、1:目立つ)した平均値。
【0051】
指紋拭き取り性…付着させた指紋について各試験者にティッシュで拭き取りを行ってもらい、添加剤未添加のブランクサンプルと比較して以下の4段評価(4:非常に拭き取りやすい、3:やや拭き取りやすい、2:同程度、1:拭き取りにくい)した平均値。
【0052】
摩擦後の指紋の目立ちにくさ…不織布(旭化成株式会社製、BEMCOT M−3II)表面で、1kgf/cm2の圧力で1,000回往復摩擦を行ったサンプルについて、摩擦試験を行っていない添加剤未添加のブランクサンプルと比較して、指紋目立ちにくさと同様の4段階評価を行った平均値。
【0053】
【表2】

【0054】
以上示したように、本発明の化合物は、表面ハードコート用組成物、印刷物表面の保護膜用組成物、塗装用組成物等への耐指紋性付与添加剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の繰り返し単位(a)
【化1】

(但し、X1はフッ素原子、水素原子、塩素原子、又は炭素数1〜4で、エーテル結合を含んでいてもよく水素原子の一部又は全てがフッ素化されていてもよいアルキル基であり、X2、X3はそれぞれ独立に、フッ素原子、水素原子又は塩素原子である。)
と、下記の繰り返し単位(b)
【化2】

(但し、Yは構造中に少なくとも1つの水酸基を有し、エーテル結合及び/又はエステル結合を1つ又は複数有していてもよい炭素数1〜20の1価の基であり、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)
を主鎖構造に有する含フッ素共重合体(A)に、アクリル基又はメタクリル基を有するイソシアネート化合物(B)を反応させることにより得られる側鎖に(メタ)アクリル基を有することを特徴とする含フッ素共重合体。
【請求項2】
アクリル基又はメタクリル基を有するイソシアネート化合物(B)が、以下のいずれかである請求項1記載の含フッ素共重合体。
【化3】

【請求項3】
繰り返し単位(a)において、X1が塩素原子、X2及びX3がフッ素原子である請求項1又は2記載の含フッ素共重合体。
【請求項4】
共重合体(A)の繰り返し単位として、(a),(b)単位に加え、更に、下記の繰り返し単位(c)
【化4】

(但し、R2及びR3はそれぞれ独立に、水素原子、又はエーテル結合及び/又はエステル結合を有していてもよい炭素数1〜20の1価炭化水素基である。)
を含む請求項1乃至3のいずれか1項記載の含フッ素共重合体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の含フッ素共重合体を含むことを特徴とする硬化性組成物。
【請求項6】
アクリル系ハードコート組成物である請求項5記載の硬化性組成物。
【請求項7】
樹脂成形体又はフィルムからなる基材上に請求項5又は6記載の硬化性組成物の硬化被膜が形成されたことを特徴とする耐指紋性ハードコート処理物品。

【公開番号】特開2012−116978(P2012−116978A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269227(P2010−269227)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】