説明

側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂の製造方法

【課題】重合度分布および変性度分布が小さい側鎖1,2−ジオール構造を含有するポリビニルアルコール系樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】ビニルエステル系単量体と一般式(1)で示される単量体を溶媒中、重合触媒の存在下で共重合させるにあたり、重合系中に前記単量体を連続的あるいは断続的に添加して共重合し、次いで得られた共重合体をケン化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂の製造方法に関し、さらに詳しくは、重合度分布および側鎖1,2−ジオール構造の含有量の分布、すなわち変性度分布が小さい側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂を得ることができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、ポリビニルアルコールをPVAと略記する。)は、その優れた水溶性、界面特性、皮膜特性(造膜性、強度、耐油性等)、等を利用して、分散剤、乳化剤、懸濁剤、繊維加工剤、紙加工剤、バインダー、接着剤、フィルム等に広く用いられている。
かかるPVA系樹脂においては、その使用目的や求められる特性に応じて種々の変性品が開発されており、例えば、共重合等によって種々の官能基が側鎖に導入された変性PVA系樹脂が開発、上市されている。中でも、側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂は、高ケン化度であっても溶解しやすく、水溶液の粘度安定性が高い、水溶液の発泡性が小さい、熱分解温度よりもはるかに低温で安定して溶融成形することが可能、といった、従来のPVA系樹脂では問題とされていた部分が解消された新規PVA系樹脂として、その応用が期待されている。
【0003】
かかる側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂の製造方法としては、ビニルエステル系単量体とビニルエチレンカーボネートあるいは2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランから得られる共重合体をケン化し、脱酢酸あるいは脱アセタール化する方法(例えば、特許文献1参照。)、およびビニルエステル系単量体と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンから得られる共重合体をケン化する方法(例えば、特許文献2参照。)などが知られている。特に、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンはビニルエステル系単量体との共重合性に優れる点や、製造時の副生物がビニルエステル系単量体として多用される酢酸ビニルに由来する構造単位から生じるものと同一であり、その回収や後処理に特別な装置や工程を設ける必要が無い点などから、好ましく用いられる共重合単量体である。
【0004】
この、ビニルエステル系単量体と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを共重合させる方法として、かかる特許文献2には、滴下重合、さらにHANNA法に基づく方法が好ましいと記載されている。さらに、特許文献3の実施例には、かかるHANNA法を用いた滴下重合の具体例が開示されており、これは、重合初期に酢酸ビニルを全量反応缶に投入し、その後、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを重合系内の両単量体の比率が常に一定となるように両単量体の消費量をシミュレーションした結果に基づいて滴下して共重合させるものである。
【0005】
【特許文献1】特開2002−284818号公報
【特許文献2】特開2004−285143号公報
【特許文献3】特開2006−312313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる特許文献3の実施例に記載された製造法によると、良好な重合速度を保ちながら共重合反応が進行し、これによって得られた側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂は、良好な溶融成形性を示し、例えば、積層体とした時にも良好な層間接着性、ガスバリヤ性、延伸性が得られるものであった。
しかしながら、かかる製造法によって得られた側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂は、フィルムや繊維とした場合、その延伸時に破断や切断がおこりやすく、かかる点に関しては、まだまだ改善の余地があるものであった。フィルムや繊維などの場合、すこしでも弱点となりうる部分があると、そこから破断あるいは切断が生じるが、特許文献3の実施例の方法によって得られた側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂の場合、重合度分布および変性度分布が広く、低重合度の部分や、低変性度のため高結晶性の部分が弱点になっているものと推測される。
すなわち、本発明は、重合度分布および変性度分布が小さい側鎖1,2−ジオール構造含有PVA系樹脂の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記事情に鑑み鋭意検討した結果、ビニルエステル系単量体と一般式(1)で示される単量体を溶媒中、重合触媒の存在下で共重合させるにあたり、重合系中に前記単量体を連続的あるいは断続的に添加して共重合し、得られた共重合体をケン化して得られた側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂によって上述の課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【化1】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子またはR9−CO−(式中、R9はアルキル基である)である。]
【0008】
通常、ビニルエステル系単量体と他の単量体との共重合において、共重合成分がランダムに導入された共重合体を得る場合には両者の反応性比に基づいて系中の両単量体の存在比を一定に制御する方法が好ましく用いられ、その具体的な方法として、HANNA法に基づく滴下重合が行われる。この場合、主成分であるビニルエステル系単量体を重合初期に一括投入し、少量成分である共重合単量体を滴下する方法が一般的である。
【0009】
一方、本発明は側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂の製造において、原料であるビニルエステル系単量体と、一般式(1)で示される単量体を共重合する際、両方とも重合系に連続的あるいは断続的に添加しながら重合することを最大の特徴とするものであって、かかる方法を採用することによって、重合度分布および変性度分布が小さい側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂が得られたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法で得られた側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂は、重合度分布および変性度分布が小さいことから、分子間の均一性が高く、フィルムや繊維等の高度な物性の均一性が要求される用途に極めて好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂の製造法は、ビニルエステル系単量体と、下記一般式(1)で表わされる単量体とを溶媒中、重合触媒の存在下で重合系中に連続的あるいは断続的に添加して共重合し、得られた共重合体をケン化するものであり、かかる方法によって得られたPVA系樹脂は、通常、側鎖1,2−ジオール構造単位を0.1〜20モル%程度含有し、残る部分は、通常のPVA系樹脂と同様、ビニルアルコール構造単位と若干量の酢酸ビニル構造単位からなる。
【化2】

【0013】
本発明で用いられるビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的にみて中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0014】
また、本発明で用いられる一般式(1)で表わされる単量体におけるR1〜R3、及びR4〜R6は、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基で置換されていてもよく、その有機基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
また、一般式(1)で表わされる単量体中のXは代表的には単結合であり、熱安定性の点で単結合であるものが最も好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよく、かかる結合鎖としては特に限定されないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH2O)m−、−(OCH2m−、−(CH2O)mCH2−、−CO−、−COCO−、−CO(CH2mCO−、−CO(C64)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO4−、−Si(OR)2−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−、−Ti(OR)2−、−OTi(OR)2−、−OTi(OR)2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)が挙げられる。中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基が好ましい。
【0015】
なかでも、共重合反応性および工業的な取り扱い性に優れるという点から、R1 〜R6 が水素、Xが単結合、R7〜R8 がR9−CO−であり、R9 がアルキル基である、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、さらにそのなかでも特にR9がメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。
なお、ビニルエステル系モノマーとして酢酸ビニルを用い、これと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを共重合させた際の各モノマーの反応性比は、r(酢酸ビニル)=0.710、r(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)=0.701、であり、これは特許文献1に記載の方法で用いられる単量体であるビニルエチレンカーボネートの場合の、r(酢酸ビニル)=0.85、r(ビニルエチレンカーボネート)=5.4、と比較して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが酢酸ビニルとの共重合反応性に優れることを示すものである。
【0016】
また、かかる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、その共重合体をケン化する際に発生する副生物が、ビニルエステル系モノマーとして多用される酢酸ビニルに由来する構造単位からケン化時に副生する化合物と同一であり、その後処理に特別な装置や工程を設ける必要がない点も、工業的に大きな利点である。
【0017】
なお、上記3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、例えば、WO00/24702に記載の1,3−ブタジエンを出発物質とした合成ルートで製造された製品や、USP5623086、USP6072079に記載の技術によるエポキシブテン誘導体を中間体として製造された製品を入手することができ、また試薬レベルではアクロス社の製品をそれぞれ市場から入手することができる。また、1,4−ブタンジオール製造工程中の副生成物として得られる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを利用することもできる。
また、1,4−ジアセトキシ−1−ブテンを塩化パラジウムなどの金属触媒を用いた公知の異性化反応によって3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに変換して用いることもできる。
【0018】
また上述の単量体(ビニルエステル系単量体、一般式(1)で示される単量体)の他に、樹脂物性に大幅な影響を及ぼさない範囲であれば、これら以外の単量体を共重合してもよく、かかる単量体として、エチレンやプロピレン等のαーオレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体;イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などの化合物、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート、等を挙げることができる。
【0019】
上記のビニルエステル系単量体と一般式(1)で表わされる単量体、さらには他の単量体を共重合するにあたっては溶液重合が用いられ、その際の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロパノール、ブタノール等の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が好ましく用いられ、工業的には、メタノールが好適に使用される。
溶媒の使用量は、目的とする共重合体の重合度に合わせて、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択すればよく、例えば、溶媒がメタノールの時は、S(溶媒)/M(使用単量体の全量)=0.01〜10(重量比)、好ましくは0.03〜3(重量比)程度の範囲から選択される。
【0020】
共重合に当たっては重合触媒が用いられ、かかる重合触媒としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の公知のラジカル重合触媒やアゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシジメチルバレロニトリル等の低温活性ラジカル重合触媒等が挙げられ、重合触媒の使用量は、コモノマーの種類や触媒の種類により異なり一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、アゾイソブチロニトリルや過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系モノマーに対して0.01〜0.7モル%が好ましく、特には0.02〜0.5モル%が好ましい。
また、共重合反応の反応温度は、使用する溶媒や圧力により30℃〜沸点程度で行われ、より具体的には、35〜150℃、好ましくは40〜75℃の範囲で行われる。
【0021】
本発明で用いられるビニルエステル系単量体と一般式(1)で表わされる単量体との共重合は、溶媒および重合触媒の存在下、これらの単量体を両方とも重合系中に連続的あるいは断続的に添加して共重合することを特徴とするものである。
かかる添加方法としては、ビニルエステル系単量体と一般式(1)で表わされる単量体をそれぞれ独立して重合系中に添加してもいいし、両者を予め混合した後、これを重合系中に添加してもいい。また、単量体はそのままで添加してもよいが、添加量を正確に制御するために溶液状としてもよく、その場合には、重合溶媒による溶液を用いることが好ましい。
【0022】
重合系中への添加は、連続的に行っても、断続的におこなってもよく、その添加速度は特に制限されるものではないが、通常、全使用量の1〜25%/時間、特に2〜20%/時間の範囲が好ましく採用される。かかる添加速度が速すぎると目標とする粘度よりも高粘度となる傾向があり、逆に遅すぎると低粘度となる傾向がある。なお、かかる添加速度は、通常、等速で行われるが、系中の単量体の消費量や重合速度のモニター結果などから、途中で変えることも可能である。また、両単量体を独立して添加する場合には、その添加速度は各々設定することも可能であるが、通常は、同等のペースで添加し、開始時間と終了時間が同じになるように行われる。
【0023】
かかる共重合に要する時間は、所望する重合度、変性量、使用する単量体の組み合わせなどによって一概には言えないが、通常、5〜30時間であり、その内訳は、触媒の投入から追加単量体を添加するまでの時間として0〜5時間、単量体の添加に要する時間として5〜25時間、その後、重合を完結させるための時間として0〜5時間、の範囲で行われる。
また、本発明においては、単量体は重合系中に添加されて共重合されるが、使用する単量体の一部を重合初期に投入しておくことも好ましい実施態様であり、通常、全使用量の0〜70%、特に3〜60%、さらには5〜50%の単量体を重合初期に投入しておいてもよい。
【0024】
重合終了は重合系からサンプリングした反応液中の重合体の量をモニターし、所望の重合率となった時点で判断すればよい。かかる重合終了時には、ラジカル重合において用いられる公知の重合禁止剤を反応系内に添加することが好ましく、かかる重合禁止剤としては、例えば、m−ジニトロベンゼン、アスコルビン酸、ベンゾキノン、α―メチルスチレンの二量体、p−メトキシフェノール等を挙げることができる。
【0025】
得られた共重合体は次いでケン化されるのであるが、かかるケン化にあたっては上記で得られた共重合体をアルコール等の溶媒に溶解し、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行われる。代表的な溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等が挙げられるが、メタノールが特に好ましく用いられる。アルコール中の共重合体の濃度は系の粘度により適宜選択されるが、通常は10〜60重量%の範囲から選ばれる。ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。
【0026】
かかるケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択されるが、アルカリ触媒を使用する場合は通常、ビニルエステル系単量体及び式(1)で示される単量体化合物に由来する構造単位の合計量1モルに対して0.1〜30ミリモル、好ましくは2〜17ミリモルの割合が適当である。
また、ケン化反応の反応温度は特に限定されないが、10〜60℃が好ましく、より好ましくは20〜50℃である。
【0027】
かくして、側鎖に1,2−ジオール構造を有する本発明のPVA系樹脂が得られるのであるが、本発明では、PVA系樹脂の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は通常は100〜1000であり、特に200〜700、さらに300〜500のものが好ましく、かかる平均重合度が低すぎると例えばフィルムや繊維用途の場合、全体的な強度が不足する傾向があったり、接着剤やバインダー用途とする場合には接着強度等が不足する傾向にある。逆に平均重合度が高すぎるものは、溶液重合の場合S/Mを小さくする必要があり、単量体の滴下速度を遅くしなければならず、工業的に困難で経済的にも不利である。
【0028】
また、かかるPVA系樹脂のケン化度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常60〜100%以上であり、特に70〜100モル%のものが好適で、かかるケン化度が低すぎると水溶性が低下する傾向にある。
【0029】
また、PVA系樹脂に含まれる側鎖1,2−ジオール構造の含有量は、通常は0.1〜20モル%であり、特に0.1〜15モル%、さらに0.1〜10モル%である。かかる含有量が少なすぎると、側鎖1,2−ジオール構造を導入した効果が得られにくくなる傾向があり、逆に多すぎると重合速度が低下したり、重合率が上がりにくくなる傾向がある。
【0030】
なお、PVA系樹脂中の側鎖1,2−ジオール構造単位の含有率は、PVA系樹脂を完全にケン化したものの1H−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができ、具体的には1,2−ジオール単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、およびメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出すればよい。
【0031】
かくして得られた本発明の側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂は各種用途に使用することができ、以下具体例として次のものが挙げられる。
(1)接着剤関係
木材、紙、アルミ箔、プラスチック等の接着剤、粘着剤、再湿剤、不織布用バインダー、石膏ボードや繊維板等の各種建材用バインダー、各種粉体造粒用バインダー、セメントやモルタル用添加剤、ホットメルト型接着力、感圧接着剤、アニオン性塗料の固着剤、偏光板用接着剤、水ビ接着剤、ハネムーン接着剤、等。
【0032】
(2)成形物関係
繊維、長繊維不織布、複合繊維、中空繊維用、フィルム(特に農薬、洗剤、洗濯用衣類、土木用添加剤、殺菌剤、染料、顔料等の物品包装用の易水溶性フィルム、シート、パイプ、チューブ、防漏膜、暫定皮膜、ケミカルレース用、水溶性繊維、複合繊維(中空繊維)用水溶性素材、等。
【0033】
(3)被覆剤関係
紙のクリアーコーティング剤、紙の顔料コーティング剤、紙のサイジング剤、繊維製品用サイズ剤、経糸糊剤、繊維加工剤、皮革仕上げ剤、塗料、防曇剤、金属腐食防止剤、亜鉛メッキ用光沢剤、帯電防止剤、導電剤、暫定塗料、等。
【0034】
(4)乳化剤関係
エチレン性不飽和化合物、ブタジエン性化合物、各種アクリル系モノマーの乳化重合用乳化剤、ポリオレフィン、ポリエステル樹脂等の疎水性樹脂、エポキシ樹脂、パラフィン、ビチューメン等の後乳化剤、等。
【0035】
(5)懸濁剤関係
塗料、墨汁、水性カラー、接着剤等の顔料分散安定剤、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、(メタ)アクリレート、酢酸ビニル等の各種ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤、等。
【0036】
(6)増粘剤関係
各種水溶液やエマルジョンの増粘剤、等。
(7)樹脂原料
ポリビニルアセタール系樹脂原料、感光性樹脂原料、等
(8)その他
水中懸濁物及び溶存物の凝集剤、パルプ、スラリーの濾水性、土壌改良剤関係
【0037】
中でも、本発明の方法で得られた側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂は、分子間の均一性が高いことから、フィルムや繊維などの高度に物性の均一性が要求される用途に好適である。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0039】
実施例1
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル10部(総使用量の10%)、、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン1.6部(総使用量の10%)、メタノール30部(初期S/M=3.00)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.24モル%(対酢酸ビニルの総使用量)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。その後、酢酸ビニル90部と3,4−ジアセトキシ−1−ブテン14.4部を9時間かけて滴下した(滴下速度=全単量体使用量の10%/時間)。11.5時間後、酢酸ビニルの重合率が91.7%となったので、重合禁止剤としてm−ジニトロベンゼン10ppm(対酢酸ビニルの総使用量)を加え、重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度50%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシ−1-ブテン構造単位の合計量1モルに対して12ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出して、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂のケン化度は、残存する酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位のエステル部の加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ99モル%であり、1,2−ジオール構造を含有する側鎖の含有量は、1H−NMR(内部標準:テトラメチルシラン、溶媒:DMSO−d6)で測定して算出したところ6.81モル%であった。平均重合度はJIS K 6726に準拠して測定したところ、320であった。
かかるPVA系樹脂の製造において、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0040】
(重合度分布)
滴下開始後、3時間後、6時間後、9時間後に重合系中のポリ酢酸ビニル系重合体をサンプリングし、これを完全にケン化してポリビニルアルコール系重合体とし、その4%水溶液の粘度をヘプラー粘度計にて20℃で測定した。その結果を表1に示す。
(変性度分布)
同様にサンプリングしたポリ酢酸ビニル系重合体中の側鎖1,2−ジオール構造の含有量を1H−NMRにて測定した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

※ばらつき(倍)=各測定値/最終製品の測定値
【0042】
PS粘度、変性度ともに各重合時間後にサンプリングしたものと最終製品との測定値差が小さいことから、重合の全期にわたって同等の重合度、変性度のものが生成しているものと推定され、よって最終製品内の重合度分布、変性度分布は小さいものと推定される。
【0043】
比較例1
実施例1において、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの全使用量を重合初期に投入し、酢酸ビニルのみを同様の条件で滴下した以外は実施例1と同様にして側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂を作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

※ばらつき(倍)=各測定値/最終製品の測定値
【0045】
PS粘度、変性度ともに各重合時間後にサンプリングしたものの測定値が大きく変化しており、重合の時期によって異なる重合度、変性度のものが生成しているものと推定され、よって、最終製品の重合度分布、変性度分布は大きいものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の方法で得られた側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂は、重合度分布および変性度分布が小さく、その結果、物性の均一性に優れており、フィルムや繊維などの用途に極めて好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエステル系単量体と一般式(1)で示される単量体を溶媒中、重合触媒の存在下で共重合させるにあたり、重合系中に前記単量体を連続的あるいは断続的に添加して共重合し、次いで得られた共重合体をケン化することを特徴とする側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【化2】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子またはR9−CO−(式中、R9はアルキル基である)である。]
【請求項2】
請求項1記載の製造方法によって得られたことを特徴とする側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂。

【公開番号】特開2009−62434(P2009−62434A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230348(P2007−230348)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】