説明

偽造防止用紙

【課題】一目で簡単に真偽判定をする事が出来る金属薄膜層を有する偽造防止用紙を提供する。
【解決手段】用紙基材1の紙層中にスレッド11を漉き込み、また、用紙基材1の表面に文字や数字等を印刷して偽造防止用紙21を構成する。上記スレッド11は、スレッド基材に連続的に厚みが変化する金属薄膜層を積層して構成し、逆光環境下で観察した場合は、予め設定した絵柄や文字等が透けて見えるようにする。上記偽造防止用紙21を順光環境下で観察した場合、用紙基材1に漉き込んだスレッド11の形状が薄く見え、また、偽造防止用紙21を逆光環境下で観察した場合は、用紙基材1に漉き込んだスレッド11が金属薄膜層の厚みの差によって透過光に階調が生じ、予め設定した絵柄や文字等が透けて見える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣、株券、債券、商品券、宝くじ等の紙からなる有価証券類の偽造防止に関するもので、更に詳しくは、電子複写機による偽造や改竄をしようとした時にそれらの行為が極めて困難である偽造防止用紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、紙は紙幣をはじめ、株券、債券、商品券、宝くじ等々金銭的価値を有する有価証券として幅広く使用されており、その様な有価証券類に用いられている用紙には容易に偽造又は変造出来ない様に、紙自身に透かしを施したり、あるいはマイクロ文字や凹版、隠し文字、蛍光印刷等の特殊な印刷を施したり、金箔や銀箔のような金属光沢を有する箔、もしくは光の干渉を用いて立体画像や特殊な装飾画像を表現し得るホログラムや回折格子のような回折構造を有する箔を転写またはシールで施しているのが一般的である(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
上記回折構造を有する回折構造形成層は、微細な凹凸パターンや屈折率の異なる縞状パターンなどの回折構造を、面反射を持つ金属薄膜層や透過性と反射性を併せ持つ高屈折率透明材の上に積層したホログラムや回折格子等の総称である。
【0004】
回折構造形成層は、一般的には光学的な撮影方法により微細な凹凸パターンからなるレリーフ型のマスターを作製し、これから電気メッキ法により凹凸パターンを複製したニッケル製のプレス板を複製し、このプレス板を樹脂層状に加熱押圧するという周知の方法により行われており、レリーフ型と称されている。
【0005】
また、レリーフ型とは異なり、感光性樹脂などの記録材を用いて、体積方向に干渉縞を記録する体積型と称されるものもあり、体積型の光学機能層では感光性樹脂の屈折率を体積方向に変化させ、反射型としたものが一般に使用される。
【0006】
有価証券類が偽造される場合、主に印刷による方法と電子複写機による方法がとられるが、今日ではデジタル技術の進歩により、従来偽造が困難であった微細な印刷加工や色彩までもが容易にカラーコピー機やスキャナー等で再現出来るようになった。その結果、偽造防止策としての印刷加工も更に高微細化し、より複製や偽造を困難なものとしているが、このように高微細化が進んでくると一目で真偽判定を行う事ができず、それらの真贋判定は容易でないものとなる。
【0007】
そこで、こういった電子複写機を用いた偽造手段には、金属光沢を有する箔や回折構造形成層を積層したスレッドを紙層中に抄き込んだ偽造防止用紙が、複写防止効果が高いとして商品券や紙幣などで採用されている。これらの金属光沢を有する箔や回折構造形成層を複写すると、ほとんど黒く複写されてしまうため一目見て複写物であることがわかるためである。
【0008】
ところが、これら金属光沢を有する箔や回折構造形成層を積層したスレッドは金属光沢を持つ、似たような箔で偽造されても偽造と分かりづらいという問題があった。そこで、最近では、前記金属光沢を持つ反射層の一部を除去したり、金属薄膜層や無機化合物からなる薄膜層を複数設けたりするなど、反射層の構成や製造方法を複雑化して、視覚的な変化を大きくしつつ、より一層偽造が困難な偽造防止媒体としたものもある(例えば、特許文献3参照。)。
【0009】
このような反射層は、従来、材料の種類や設けられる形状に関わらず、偽造防止媒体の光学効果を安定化させるため、形成される膜厚はほぼ一定であり、膜厚の差は、金属薄膜層や無機化合物層の有無の差もしくは、金属光沢を持ったインキ層の有無の差である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第1615000号公報
【特許文献2】特開平4−149585号公報
【特許文献3】特許第3885572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記のような偽造防止策としての回折構造物であっても、回折構造物の製造方法の簡易化や低コスト化が進んだ事により、一目では簡単に真偽判定をする事が出来ない回折構造物の偽造が増加しており、最近では、その偽造防止効果が薄れつつあるという問題がある。
【0012】
また、有価証券や紙幣の偽造防止策として、UVやIVといった波長の光を利用して真贋判定を行う特殊発光(もしくは吸収)インキなども使用されているが、その確認には専用の光源が必要であり、一目で真贋判定ができないという問題がある。
【0013】
また、一般大衆が有価証券や紙幣の真贋判定を行う際には、現在でも用紙の透かしが有効であるため、実際に偽造防止用紙に用いられているが、日本国内においては、民間企業が製造する透かし用紙は2階調のみに制限されており、複数の階調を持った透かし用紙は紙幣だけに用いられる。
【0014】
そこで本発明は、係る従来技術の問題点を解決するものであり、その課題は、複数の階調を持った透かしの効果を紙の透かし技術ではなく、スレッド上に設けられた金属薄膜層の厚さの制御によって達成する事であり、金属薄膜を複数の階調を持つように任意の厚さに連続的に変化させる事により、正反射ではキラキラした金属光沢を持ちつつ、逆光環境下などで光を透過させた時にはその膜厚の変化によって光透過度が連続的に変化する事によって、透過光が文字や絵柄のように観察出来るというユニークな偽造防止用紙を提供する事にある。
【0015】
また本発明による連続的に厚さが変化する金属薄膜層を回折構造物の反射層として使用する事により、光源が観察者の背後にある順光環境下の状態で回折構造物を観察した場合には、回折構造物による回折光を観察する事ができるだけでなく、回折構造物を逆光環境下で観察した場合には、透過光の透過濃度の変化によって文字や絵柄が紙の透かしのように観察する事が可能となり、従来にはない真偽判定が可能な偽造防止媒体や偽造防止用紙とする事が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明において、上記課題を達成するために、まず請求項1の発明では、スレッドを用紙基材中に抄き込んだスレッド用紙であり、前記スレッドが高分子樹脂フィルムと金属薄膜層からなり、更に金属薄膜層の厚みが約0nm〜100nmの範囲で連続的に変化している事を特徴とする偽造防止用紙としたものである。
【0017】
次に、請求項2の発明では、前記スレッドが高分子樹脂フィルム、回折構造形成層、金属薄膜層の3層からなり、更に金属薄膜層の厚みが約0nm〜100nmの範囲で連続的に変化している事を特徴とする請求項1に記載の偽造防止用紙としたものである。
【0018】
また、請求項3の発明では、前記スレッドが多層薄膜フィルムと金属薄膜層からなり、更に金属薄膜層の厚みが約0nm〜100nmの範囲で連続的に変化している事を特徴とする請求項1に記載の偽造防止用紙としたものである。
【0019】
また、請求項4の発明では、前記スレッドの少なくとも片面に、印刷層を積層した事を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の偽造防止用紙としたものである。
【0020】
また、請求項5の発明では、前記スレッドに、更に保護層を積層した事を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の偽造防止用紙としたものである。
【0021】
また、請求項6の発明では、前記スレッドの少なくとも片面に、接着層を積層した事を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の偽造防止用紙としたものである。
【0022】
また、請求項7の発明では、前記スレッドの何れかの層中に、密着補助層を有する事を特徴とする、請求項1乃至6の何れかに記載の偽造防止用紙としたものである。
【0023】
また、請求項8の発明では、前記スレッドが用紙の表裏、またはどちらか片面に部分的に露出している事を特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の偽造防止用紙としたものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の事例に係る偽造防止用紙の順光環境下で観察される画像例を示す平面図である。
【図2】図1に示す偽造防止用紙のA−A断面図である。
【図3】本発明の第1の事例に係る偽造防止用紙の逆光環境下で観察される画像例を示す平面図である。
【図4】本発明の第2の事例に係る偽造防止用紙の順光環境下で観察される画像例を示す平面図である。
【図5】図4に示す偽造防止用紙のB−B断面図である。
【図6】本発明の第2の事例に係る偽造防止用紙の逆光環境下で観察される画像例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本発明に係る偽造防止用紙の構造等について、その実施の形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の第1の事例を示す偽造防止用紙21の平面図で、用紙基材1の紙層中にスレッド11が漉き込まれており、また、用紙基材1の表面には印刷層6が積層されている。また、図1は順光環境下で観察される状態を示しており、用紙基材1に漉き込まれたスレッド11は薄くその形状が見える状態である。
【0027】
図2は、図1のA−A断面を示す断面図で、本発明第1の事例を示す偽造防止用紙21が、スレッド基材2に連続的に厚みが変化する金属薄膜層3を積層したスレッド11を用紙基材1の紙層中に漉き込んで作製されている事を示した図である。上記スレッド11は、金属薄膜層3の厚みを連続的に変化させることにより、逆光環境下で観察した場合に、予め設定した絵柄や文字等が透けて見えるように構成される。
【0028】
図3は、偽造防止用紙21を逆光環境下で観察した状態を示した図で、漉き込まれたスレッド11が金属薄膜層3の厚みの差によって透過光に階調が生じ、予め設定した絵柄や文字、例えば桜の絵柄や“5000”の文字が透けて見えることを示している。
【0029】
図4は、本発明の第2の事例を示す偽造防止用紙22の平面図で、偽造防止用紙22の紙層中の一部に窓開きの状態でスレッド12が漉き込まれており、窓開き部14からはスレッド12に設けられた回折構造による回折画像が順光環境下で観察できる事を示した図である。
【0030】
図5は、図4のB−B断面を示す断面図で、スレッド基材2、回折構造形成層4、連続的に厚みが変化する金属薄膜層3を順次積層してなるスレッド12を用紙基材1の紙層中に漉き込んで作製されている事を示した図である。上記回折構造形成層4には、金属薄膜層3側に回折構造5が設けられている。
【0031】
図6は、偽造防止用紙22を逆光環境下で観察した状態を示した図で、逆光では窓開き部であっても回折画像は見えず、漉き込まれたスレッド12の金属薄膜層3の厚みの差による透過光の階調によって、桜の絵柄や“5000”の文字が透けて見えることを示している。
【0032】
以下に、本発明の偽造防止用紙を構成する各層の材質と形成方法などについて解説する。
【0033】
(用紙基材)
本発明の用紙基材1の原料としては、針葉樹や広葉樹、イネ、エスパルト、バガス、麻、亜麻、綿ケナフ、カンナビス等のパルプや、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニル等のプラスチックから作られた合成繊維が用いられる。
【0034】
次に、パルプまたは合成繊維を水中にて叩解して水稀薄原料としたものを抄いて絡ませた後、脱水・乾燥させて作られる。このとき、紙は原料であるセルロースの水酸基間の水結合で繊維間の強度が得られる。また、紙に用いる填料としてはクレイ、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタン等があり、サイズ剤としてはロジン、アルキル・ケテン・ダイマー、無水ステアリン酸、アルケニル無水こはく酸、ワックス等があり、紙力増強剤には変性デンプン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、尿素−ホルムアルデヒド、メラミン−ホルムアルデヒド、ポリエチレンイミン等があり、これらの材料は必要に応じて適宜水稀薄原料に加えられる。
【0035】
また、本発明の用紙基材1における抄紙方法は通常の植物繊維紙の漉き合わせ法でよく、原料濃度を0.5%〜10%、好ましくは1%〜2%の水稀薄原料で十分に膨潤させた繊維をよく混練し、スダレ・網目状のワイヤーパート上に流して並べ、搾水後加温により水分を蒸発させて作られる。この際、前記のスレッドの漉き込みには、針金あるいは薄板(金属その他)を切り抜いて作った型をワイヤーパート上に固定するか、高分子樹脂またはハンダなどの金属を溶かしてワイヤーパート上に固着させたものを漉き網として使い、この部分にスレッドを当てて用紙基材1の窓開き部14の位置を合わせながら漉き合わせを行う。
【0036】
また、植物繊維以外の例えば合成繊維を混入した紙の場合は合成繊維間に水素結合などの結合力を持たないため結着剤を必要とする事が多いので、合成繊維比率と結着剤量は、紙の強度を落とさない程度に適宜決めるのが望ましい。
【0037】
(スレッド)
スレッドは、高分子樹脂フィルムからなるスレッド基材2に金属薄膜層3や回折構造形成層4、必要によっては印刷層や保護層、接着層、密着補助層などを順次積層して構成する。
【0038】
本発明の偽造防止用紙への印刷・加工は、従来の紙の場合と同じ方法、すなわち、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法等の印刷法で文字或いは絵柄を印刷する事や断裁機を用いての小切れ加工などが可能である。
【0039】
(スレッド基材)
上記スレッド基材2には、透明性に優れ、機械的に強く柔軟性や可撓性を有するポリエチレンテレフタレートやポリ塩化ビニル、ポリアクリレート等の高分子材料からなるフィルム状のプラスチックが必要に応じて用いられる。一般的に厚さ10μm〜100μmのものをフィルムと称しているが、この場合あまり厚いと印刷用紙としての意匠性を損ない、更に重ね合わせた時にスレッド部分が盛り上がるので加工適性にも影響を与えるため、厚さとしては10μm〜30μmが好ましい。
【0040】
また、スレッド基材2として、屈折率の異なる高分子樹脂の膜厚を精密に制御して複数層積層した多層薄膜フィルムを使用する事が可能である。多層フィルムを使用する場合には、その積層数と各層の膜厚によって光学的変化の効果が異なるが、前記単層の高分子樹脂フィルム同様、印刷用紙の意匠性や重ねた時の盛り上がりなどを考慮すると、多層薄膜フィルムの厚さも10μm〜30μmが好ましい。
【0041】
(金属薄膜層)
金属薄膜層3としては、反射輝度が高いのと、その製膜厚さが制御しやすく、除去もし易い点で金属薄膜が好ましく利用できる。このような金属としては、例えば、Al、Sn、Cr、Ni、Cu、Au、真鍮等が挙げられる。そして、真空製膜法を利用してこの金属薄膜を形成する事ができる。真空製膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法等が適用でき、厚みが1nm〜100nmの間で制御できれば良い。
【0042】
そして、この金属薄膜層3は、次のような方法で、一定の膜厚のまま金属薄膜層3をパターン状に形成するか、または連続的に変化して漉かした時にパターン状となるように加工する事ができる。
【0043】
すなわち、金属薄膜層3を一定の膜厚のままパターン状に形成するための第1の方法は、回折構造形成層4にパターン状の開口部を有するマスクを重ねて真空製膜する事により、金属薄膜層3をパターン状に製膜する方法である。
【0044】
その第2の方法は、まず、溶剤溶解性の樹脂層をネガパターン状に設け、この溶剤溶解性樹脂層を被覆して全面一様に金属薄膜層3を形成した後、溶剤で前記の溶剤溶解性樹脂層を溶解して除去すると同時に、この溶剤溶解性樹脂層上に重ねられた金属薄膜層3を除去する事によって、残存する金属薄膜層3がパターン状に形成される方法がある。
【0045】
また、金属薄膜層3の膜厚を連続的に変化させながらパターン状に形成する第1の方法としては、全面一様に金属薄膜層3を形成し、この金属薄膜層3上に耐薬品性の樹脂層をパターン状に設け、アルカリ性または酸性のエッチング液を適用して露出している金属薄膜層3を溶解して除去する方法がある。但し、この場合の樹脂層の耐薬品性は、アルカリ性または酸性のエッチング液に浸漬されている間に、徐々に金属薄膜層3から剥離する程度の耐薬品性であり、前記エッチング液に浸漬しても金属薄膜層3から全く剥離しない樹脂層は使用できない。
【0046】
また、金属薄膜層3の膜厚を連続的に変化させながらパターン状に形成する第2の方法として、用紙基材1上に形成した回折構造形成層4の回折構造5の構造深さや構造幅を任意に変化させて形成した後に金属薄膜層3を真空製膜法で形成することにより、回折構造5の構造深さや構造幅に準じて金属薄膜層3の膜厚を変化させる方法がある。
【0047】
尚、本発明では、金属薄膜層3をパターン状に形成したり、その厚みを連続的に変化させたりする方法については、前記方法に限定するものではなく、これらのパターンとしては、明確な意味を持たないランダムなパターンでも良いが、絵柄、図形、模様、文字、数字、記号等のパターンとして、観察者に認知可能な情報を付与させる事も可能である。
【0048】
(密着補助層)
密着補助層は、各層間同士の密着を向上させるものであれば材料や形成方法を特に限定するものではないが、一般的には、密着性が良い塩酢ビ樹脂やアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂などの樹脂材料をベースとした接着材料や粘着材料、熱もしくは光硬化性樹脂材料などを用いる事ができ、透明度や不透明度は樹脂材料の他、添加する材料によって任意に調整する事が可能である。
【0049】
(回折構造形成層)
回折構造形成層4は、レリーフ型回折格子や体積型回折格子等の回折構造体が利用できる。
【0050】
前記レリーフ型回折格子は、その表面に微細な凹凸パターンの形態で回折格子を記録したものである。
【0051】
このような凹凸パターンは、例えば、二光束干渉法を使用して感光性樹脂の表面に互いに可干渉の2本の光線を照射してこの感光性樹脂表面に干渉縞を生成させ、この干渉縞を凹凸の形態で感光性樹脂に記録する事で形成できる。尚、この二光束性干渉法によって形成された干渉縞も回折格子であり、前記2本の光線の選択によって任意の立体画像を回折格子パターンとして記録する事が可能である。また、観察する角度に応じて異なる画像(以下チェンジング画像と言う)が見られるように記録する事も可能である。
【0052】
本発明に用いられる折格子構造物となる画像パターンを記録する方法については、前記二光束干渉法の他にもイメージホログラムやリップマンホログラム、レインボーホログラム、インテグラルホログラムなど、従来から知られているホログラムの製造方法により作製が可能である。
【0053】
また、レリーフ型回折格子の凹凸パターンは、電子線硬化型樹脂の表面に電子線を照射して、回折格子となる縞状パターンに露光する事によって回折構造物を形成する事も可能である。この場合には、その干渉縞を1本ごとに制御する事ができるため、ホログラムと同様に任意の立体画像やチェンジング画像を記録する事ができる。また、画像をドット状の画素領域に分割し、この画素領域ごとに異なる回折格子を記録し、これら画祖の集合で全体の画像を表現する事も可能である。画素は円形のドットの他、星形のドットでも良い。
【0054】
また、誘起表面レリーフ形成法によって、前記凹凸パターンを形成する事も可能である。すなわち、アゾベンゼンを鎖側に持つポリマーのアモルファス薄膜に対して、青色〜緑色に渡る範囲の或る波長を有した数十mW/cm程度の比較的弱い光を照射する事によって、数μmスケールでポリマー分子の移動を起こし、結果、薄膜表面に凹凸によるレリーフを形成する事ができる。
【0055】
そして、このように形成された凹凸パターンを有するレリーフ型のマスター版の表面に電気メッキ法で金属膜を形成する事によって、レリーフ型マスター版の凹凸パターンを複製し、これをプレス版とする。そして、用紙基材1上に塗布された樹脂層や金属薄膜層3が表面に形成されている樹脂層にこのプレス版を熱圧着し、この樹脂層の表面に微細な凹凸パターンを転写することにより、回折構造形成層4とする事ができる。
【0056】
前記レリーフ型回折格子による回折構造形成層4に適用される樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線あるいは電子線硬化性樹脂等が使用できる。例えば、熱可塑性樹脂では、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、ビニル系樹脂等が挙げられる。また、反応性水酸基を有するアクリルポリオールやポリエステルポリオール等にポリイソシアネートを架橋剤として添加して架橋させたウレタン樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂等が使用できる。また、紫外線あるいは電子線硬化性樹脂としては、エポキシ(メタ)アクリル、ウレタン(メタ)アクリレート等が使用できる。
【0057】
また、スレッドに積層される接着としては、澱粉系、メチルセルロース系、カルボキシル化セルロース系、ヒドロキシエチルセルロース系、ポリビニルアルコール系、ポリビニルピロリドン系、ビニルエチルエーテル−無水マレイン酸共重合体系、ポリアクリル酸系ポリエチレンオキサイド系等を、グラビアコーティング等の各種コーティング法、マイクログラビア印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷、凹版印刷等の印刷法によって1μm〜10μm程度の膜厚で設けられる。
【実施例】
【0058】
次に、実施例によって本発明を説明する。
【0059】
(実施例1)
まず。前述第1の例である、連続的に厚みが変化する金属薄膜層3を積層したスレッド11を漉き込んだ偽造防止用紙21について説明する。
【0060】
スレッド11の基材として、厚さ16μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、真空蒸着法にてアルミニウム蒸着膜を膜厚70nmにて均一に形成した後、下記組成物からなるパターンレジストインキを、スピンコーター法を用いて塗布し、温度80℃の乾燥炉で5分乾燥させて厚さ15μmのレジストインキ膜を形成した。
【0061】
「パターンレジストインキ」
フォトレジスト 30.0重量部
トルエン 10.0重量部
メチルエチルケトン 10.0重量部
シリカフィラー 1.5重量部
次に、任意の濃度のネガ文字やネガ画像、及びネガタイプの階調を持った画像からなる露光マスクを、前記レジストインキ膜上に密着させ、露光量100mJ/cmの紫外照射装置を用いて露光処理を行い、温度35℃、濃度3%の水酸化ナトリウム水溶液にて現像処理を行いつつ、そのまま浸漬してレジストインキの剥離も同時に行った。更に常温の濃度0.1%塩酸水溶液で中和処理を行った後に水洗いし、その後自然乾燥させ、アルミ蒸着膜が0〜70nmの間で連続的に変化する金属薄膜層3となり、スレッド11を作製した。
【0062】
次に、前記スレッド11の両面に、水溶性のポリビニル系のバインダーをマイクログラビアコーティング法にて厚さ3μmに均一にコーティングした接着層を設け、直線状の10mm幅にスリットしてスレッドとした。
【0063】
しかる後に、針葉樹パルプを水中で叩解して原料濃度を1.5%とした後、金属で加工された透き網と手漉き装置を用いて一度漉き、スレッド11を所望の位置に配置して更にもう一度漉き合わせを行い、脱水、乾燥させて秤量100g/mである本発明の偽造防止用紙21を作製した(図1に示したものに対応する)。
【0064】
最後に、この偽造防止用紙21の片面にオフセット印刷法により、“さくら百貨店”と“5000”の文字を印刷し、所望の偽造防止用紙を作製した。
【0065】
こうして作製された偽造防止用紙21は、通常の順光環境下では金属薄膜層3は、紙層中に漉き込まれているために薄く透けて見えるだけで文字や絵柄は全く観察されないが、逆光環境下では、スレッド11に積層された金属薄膜層3の膜厚差によって透過濃度のコントラストによる画像を観察する事ができた(図3に示したものに対応する)。
【0066】
(実施例2)
前述した第2の例である窓開きスレッドを有する偽造防止用紙22について説明する。本実施例におけるスレッド12には回折構造が形成されており、窓開き部14からスレッド12を観察する事が出来るようになっている。
【0067】
まず、スレッド12の基材2として、厚さ16μmの透明なポリエチレンテレフタレート(通称PET)フィルムを使用した。
【0068】
次に、下記組成物からなるインキをグラビア印刷法にて塗布・乾燥して膜厚1μmの層を形成した後、ロールエンボス法により回折格子形成用のプレス版を熱圧してその表面に回折格子を発生させるための凹凸を形成し、回折構造形成層4とした。
【0069】
「回折構造形成層インキ組成物」
ウレタン樹脂 20.0重量部
シリコン添加剤 0.2重量部
メチルエチルケトン 50.0重量部
酢酸エチル 30.0重量部
次に、前記回折構造形成層4に接するよう真空蒸着法にてアルミニウム蒸着膜を膜厚70nmにて均一に形成した後、下記組成物からなるパターンレジストインキを、スピンコーター法を用いて塗布し、温度100℃の乾燥炉で5分乾燥させて厚さ15μmのレジストインキ膜を形成した。
【0070】
「パターンレジストインキ」
フォトレジスト 30.0重量部
トルエン 10.0重量部
メチルエチルケトン 10.0重量部
シリカフィラー 1.5重量部
次に、任意の濃度のネガ文字やネガ画像、及びネガタイプの階調を持った画像からなる露光マスクを、前記レジストインキ膜上に密着させ、露光量100mJ/cmの紫外照射装置を用いて露光処理を行い、温度35℃、濃度3%の水酸化ナトリウム水溶液にて現像処理を行いつつ、そのまま浸漬してレジストインキの剥離も同時に行った。更に常温の濃度0.1%塩酸水溶液で中和処理を行った後に水洗いし、その後自然乾燥させ、アルミ蒸着膜が0〜70nmの間で連続的に変化する金属薄膜層3を形成し、スレッド12を作製した。
【0071】
次に、前記スレッド12の両面に、水溶性のポリビニル系のバインダーをマイクログラビアコーティング法にて厚さ3μmに均一にコーティングした接着層を設け、直線状の10mm幅にスリットしてスレッドとした。
【0072】
しかる後に、針葉樹パルプを水中で叩解して原料濃度を1.5%とした後、金属で加工された透き網と手漉き装置を用いて一度漉き、スレッド所望の位置に配置して更にもう一度漉き合わせを行い、脱水、乾燥させて秤量100g/mである本発明の偽造防止用紙21を作製した(図4に示したものに対応する)。
【0073】
最後に、この偽造防止用紙22の片面にオフセット印刷法により、“さくら百貨店”と“10000”の文字を印刷し、所望の偽造防止用紙を作製した。
【0074】
こうして作製された偽造防止用紙22は、用紙基材1に漉き込まれたスレッド12が窓開き部14から部分的に露出しており、窓開き部14からはスレッド12の回折構造形成層4に形成された微細な凹凸からなる回折構造5により、順光環境下ではその回折画像である“GIFT”の文字や“桜”の文字を含む画像を観察する事が出来た。
【0075】
一方、偽造防止用紙22を逆光環境下で観察すると、スレッド12上の回折画像は観察されないが、窓開き部14だけでなく埋め込み部13でも、金属薄膜層3の膜厚差によって、透過濃度のコントラストによる画像を観察する事ができたため、スレッド12上では連続的に画像を観察する事ができた(図6に示したものに対応する)。
【0076】
このように、本発明の偽造防止用紙は、従来国内では紙幣用紙のみに使用されていた偽造防止技術である“階調を持った透かし”の効果をスレッドが達成している事が確認でき、更には、従来から偽造防止効果が高い回折構造も併せ持つ事が出来るため、真贋判定が容易でありながらも、より偽造や改竄を困難なものとしている事が分かった。
【符号の説明】
【0077】
1…用紙基材、2…スレッド基材、3…金属薄膜層、4…回折構造形成層、5…回折構造(凹凸部)、6…印刷層、11…金属薄膜層3を有するスレッド、12…回折構造形成層4と金属薄膜層3を有するスレッド、13…スレッドが紙層中に埋め込まれている埋め込み部、14…スレッドが紙層中から露出している窓開き部、15…逆光環境下で発現する透過光画像、21…埋め込みスレッドを有する偽造防止用紙、22…窓開きスレッドを有する偽造防止用紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スレッドを用紙基材中に抄き込んだスレッド用紙であり、前記スレッドが高分子樹脂フィルムと金属薄膜層からなり、更に金属薄膜層の厚みが約0nm〜100nmの範囲で連続的に変化している事を特徴とする偽造防止用紙。
【請求項2】
前記スレッドが高分子樹脂フィルム、回折構造形成層、金属薄膜層の3層からなり、更に金属薄膜層の厚みが約0nm〜100nmの範囲で連続的に変化している事を特徴とする請求項1に記載の偽造防止用紙。
【請求項3】
前記スレッドが多層薄膜フィルムと金属薄膜層からなり、更に金属薄膜層の厚みが約0nm〜100nmの範囲で連続的に変化している事を特徴とする請求項1に記載の偽造防止用紙。
【請求項4】
前記スレッドの少なくとも片面に印刷層を積層した事を特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の偽造防止用紙。
【請求項5】
前記スレッドに、更に保護層を積層した事を特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の偽造防止用紙。
【請求項6】
前記スレッドの少なくとも片面に、接着層を積層した事を特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の偽造防止用紙。
【請求項7】
前記スレッドの何れかの層中に、密着補助層を有する事を特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の偽造防止用紙。
【請求項8】
前記スレッドが用紙の表裏、またはどちらか片面に部分的に露出している事を特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の偽造防止用紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−153013(P2012−153013A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14161(P2011−14161)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】