説明

優れた高温耐久性を有する燃料電池改質器用触媒コンバータ

【課題】ステンレス鋼箔から構成されるメタルハニカム基体にNi系或はRu系の改質触媒を含有する触媒層を担持した、メタノールや都市ガスをH2やCOガスに改質するための改質触媒コンバーターにおいて、水素脆化や浸炭によるステンレス鋼箔の劣化を抑制し、長期耐久性を備えた改質触媒コンバーターを提供する。
【解決手段】ステンレス鋼箔を加工してなるメタルハニカム基材と、ステンレス鋼箔上に形成した触媒層から構成される燃料電池改質器用触媒コンバータであって、前記ステンレス鋼箔は少なくともFe,Cr,およびAlを含有し、前記ステンレス鋼箔の表面にはステンレス鋼箔成分が酸化してできたアルミナ系酸化物皮膜を有し、該酸化物皮膜の含有するFeの濃度が酸化物に対する質量%で0.5%以上5.0%以下であることを特徴とする。燃料電池改質器用触媒コンバータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタンガスやアルコール等の燃料を改質して水素ガスを取り出す改質器用触媒コンバータに関し、特に、コンバータの基材がステンレス鋼箔からなるメタルハニカムで構成された高温耐久性を有する改質器用触媒コンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球環境保全意識の高まりを背景に、発電効率が高く、排熱も利用でき、他の発電装置と比べると低騒音・低振動で環境にやさしい燃料電池発電システムの普及が期待されている。燃料電池発電システムは、原料燃料が都市ガス・LPG・消化ガス・メタノール・GTL・灯油等の場合は原料燃料を改質して水素に富む一酸化炭素低減ガスを生成する燃料処理装置と、燃料処理装置で生成された一酸化炭素低減ガスを燃料極に供給すると共に空気等の酸素を含む酸化剤ガスを空気極に供給して水素と酸素との電気化学的反応により発電する燃料電池とを備えている。
【0003】
特許文献1には、燃料処理装置の中心となる部分として、メタノール等の原料燃料の炭化水素化合物を水蒸気改質して水素リッチなガスを生成する改質器が示されている。この生成反応は触媒を介して行われ、触媒はセラミックス製のペレットなどに担持されて気相で反応させるように装置内に組み込まれている。
【0004】
改質用触媒の活性成分としては特許文献2に示されているように、Ni、Ru、Rhの少なくとも一種が用いられている。これらの成分は、主にα−アルミナを代表とする耐熱性の酸化物から構成される基材の表面に塗布された層に含有され、この塗布層は触媒層として機能する。触媒層は基材表面に位置するため、触媒反応で生成したH2やCO等の強い還元性のガスは、基材表面に頻繁に接触するようになる。
触媒を担持する基材として、従来からペレットが用いられてきたが、近年、セラミックス、あるいは金属から構成されるハニカム基材を使用するようになってきている。これらハニカム基材は、ガスが通過する多数のセル状の流路を有し、各セルの壁面に触媒層をコーティングして触媒コンバータとする。このような構造にすることによって、通過するガスと触媒の接触面積を広くすることを可能にしている。
【0005】
特許文献3には、金属材として耐熱性を有するAl含有ステンレス鋼箔を用いたメタルハニカムが基材として示されている。メタルハニカム基材は、ステンレス鋼からなる厚み数十μmの平箔と波箔とを交互に巻き回し、あるいは積層することによって円筒形等のハニカム体とし、このハニカム体を金属製の外筒に装入したものである。このメタルハニカム基材のガス流路となるハニカム体の各セルの金属箔の表面に、触媒を染み込ませた触媒担持層を形成し、触媒コンバータとする。ハニカム体の平箔と波箔との接触部は、ろう付け等の手段によって接合して強度のある構造体とする。
メタルハニカム基材は自動車排ガス浄化用として用いられる場合もあり、これまで各種の応用がなされてきた。
【0006】
特許文献4には、自動車排ガスに含まれるNOxをアルカリ金属を含有した触媒層で吸着、タイミングを見計らって酸化処理で無害化するシステムが示されている。基材として、Fe−Cr−Alステンレス鋼からなるメタルハニカム基材が示されている。従来、アルカリ金属は、Fe−Cr−Alステンレス鋼を高温で腐食させ易かったが、予めハニカムを高温酸化させて表面にαアルミナ酸化物皮膜を形成させておくと、皮膜による隔離効果でアルカリ金属による高温腐食が抑制される。
【0007】
特許文献5には、自動車排気ガス浄化触媒中に含まれる希土類金属複合酸化物が起こすステンレス鋼箔の高温腐食を0.1〜7%のFeを含有するアルミナ系酸化物皮膜によって抑制する技術が示されている。Feの含有濃度を0.1〜7%に限定すると、ステンレス鋼箔のFeが触媒へ移動することを皮膜が抑制し、触媒劣化を防止する。Feの含有濃度が0.1%未満であると皮膜に微小亀裂が生じやすくなり、ステンレス鋼中のFe成分が皮膜の亀裂を通過して触媒に移動する場合がある。また、Feの含有濃度が7%を超えると、ステンレス鋼のFeが皮膜を透過して触媒へ移動し易くなる。
このように、従来公知技術にはステンレス鋼箔の表面にαアルミナ等の酸化物皮膜を形成させたメタルハニカム基材は開示されているが、改質器用メタルハニカム基材に関しては課題を示したり、課題解決に関する技術は無かった。
【0008】
メタノールや都市ガスなどの燃料をH2やCOガスへ改質する目的で、ステンレス鋼箔から構成されるメタルハニカム体を基材とし、基材表面にNi系改質触媒やRu系改質触媒を担持した改質触媒コンバータが用いられる。この改質触媒コンバータでは、ステンレス鋼箔はH2やCOガスによって水素脆化や浸炭を起こして、メタルハニカム基材の機械特性が劣化することが分かってきた。特に、改質反応は高温ほど効率的に進むため、基材温度は800℃程度まで上昇するようになり、さらに上記の劣化が顕在化してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−300703号公報
【特許文献2】特開2007−703号公報
【特許文献3】特開平8−299808号公報
【特許文献4】特開2007−152269号公報
【特許文献5】特開2007−203256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明では、上記のようなNi系改質触媒やRu系改質触媒を含有する触媒層を担持して、メタノールや都市ガスをH2やCOガスへ改質する目的に使用するメタルハニカム基材においても、上記劣化が抑制され、優れた長期耐久性が得られる改質器用触媒コンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)ステンレス鋼箔を加工してなるメタルハニカム基材と、ステンレス鋼箔上に形成した触媒層とから構成される燃料電池改質器用触媒コンバータであって、前記ステンレス鋼箔は、少なくともFe,Cr,およびAlを含有し、かつ、該ステンレス鋼箔の表面にステンレス鋼箔成分が酸化してできたアルミナ系酸化物皮膜を有し、前記酸化物皮膜の含有するFeの濃度が酸化物に対する質量%で0.5%以上5.0%以下であることを特徴とする燃料電池改質器用触媒コンバータ。
【0012】
(2)前記酸化物被膜の厚みが1.5μm以上6.0μm以下であることを特徴とする(1)に記載の燃料電池改質器用触媒コンバータ。
(3)前記酸化物被膜の厚みが2.0μm以上4.0μm以下であることを特徴とする(1)に記載の燃料電池改質器用触媒コンバータ。
(4)前記触媒層がRu、Niのうち少なくとも一種を活性成分として含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の燃料電池改質器用触媒コンバータ。
【発明の効果】
【0013】
本発明の燃料電池改質器用触媒コンバータは、ステンレス鋼箔を加工してなるメタルハニカム基材とステンレス鋼箔上に形成されたNi系改質触媒やRu系改質触媒を含有する触媒層から構成されており、ステンレス鋼箔の表面にステンレス鋼箔の酸化によって形成されたアルミナ系酸化物皮膜中のFe濃度をコントロールすることによって、800℃程度の高温、かつ、H2やCOガス雰囲気環境下で使用する場合にステンレス鋼箔の水素脆化や浸炭による劣化を著しく抑制できる。その結果、高効率、かつ、クリーンな排出物の発電機関が実現でき、例えば、家庭用燃料電池等への応用が期待される。また、本発明のコンバータの基材はステンレス鋼から構成されるメタルハニカムであるので、優れた高温耐久性を有するメタルハニカムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、ステンレス鋼箔を加工してなるメタルハニカム基材と、ステンレス鋼箔上に形成させた触媒層から構成される改質器用触媒コンバータにおいて、燃料、および、H2やCOガス中に基材の温度が常温〜800℃の間の条件で暴露させた場合のメタルハニカム基材の機械特性について詳細に調べた。
使用したステンレス鋼箔はCr:18mass%を含有したフェライト系ステンレス鋼であった。触媒層は、Ni系、あるいは、Ru系の改質触媒をそれぞれ担持したものである。ステンレス鋼箔表面に該触媒層を形成させた触媒コンバータ内を、メタンガスと水蒸気を混合した燃料ガスを通過させて、加熱条件下で改質反応によりH2ガスとCOガスを生成させた。
【0015】
触媒床温度が常温から800℃の間で変化している中で、生成したH2ガスとCOガスが通過している条件下において、メタルハニカム基材の経時劣化を調べた。
ステンレス鋼箔表面に担持した触媒層では、改質触媒の作用によって、原料の炭化水素と水蒸気が高温下でH2ガスとCOガスに変換されていた。このため、ステンレス鋼箔表面には生成した一部のH2ガスとCOガスが高温下で接触していた。このうちH2ガスは表面からステンレス鋼箔の内部へ浸透拡散し、運転停止の冷却時にそのままステンレス鋼箔中に残留した。また、COガスはステンレス鋼成分のCrと反応して箔表面近傍でCr炭化物を形成した。この現象は触媒層の活性成分がNi、あるいは、Ruである場合に顕著であった。
冷却後にメタルハニカム基材を構成するステンレス鋼箔の機械特性を分析した結果、破断伸びが低下したり、破断強度が低下しており、機械特性が残留水素や浸炭の影響によって劣化していることが判った。
【0016】
本発明者らは、これらの劣化を抑制する手法として、メタルハニカム基材のステンレス鋼箔素材にFe-Cr-Alフェライト系ステンレス鋼を適用し、さらに、箔表面に特定の組織を有するアルミナ系酸化物皮膜を予め形成させることが有効であることを見出した。このアルミナ系酸化物皮膜はステンレス鋼箔成分が酸化してできたものである。この手法によると、酸化物皮膜は、H2ガスとCOガスがステンレス鋼表面に直接接触することを妨げる遮蔽機能を持つばかりでなく、この遮蔽機能を長期間維持できる優れた耐久性を有することも判ってきた。
【0017】
従来から、高温大気中においてFe-Cr-Alフェライト系ステンレス鋼の表面には該ステンレス鋼成分が酸化してなるアルミナ系酸化物皮膜が形成されることが知られている。
本発明者らは、このアルミナ系酸化物皮膜に含有されるFeの濃度が酸化物皮膜に対する質量%で0.5%以上5%以下に制御されると、改質ガスであるH2ガスとCOガスの遮蔽効果と効果の長期持続性が得られることを見出した。その結果、メタルハニカム基材の残留水素や浸炭による劣化が長期間にわたって抑制できるようになるのである。
ステンレス鋼箔成分が酸化してできた酸化物皮膜には、ステンレス鋼箔中のAlが酸化してできるアルミナ系酸化物を少なくとも含有していることが必須である。アルミナ系酸化物が含有されると、酸化物皮膜中のFeの濃度が制御しやすく、その結果、酸化物皮膜自体の劣化を抑制しやすくなる。ここで、アルミナ系酸化物は、結晶構造による分類でα、γ、θ、χ、δ、η、κアルミナがあり、本発明の酸化物皮膜にはこれらのうちの少なくとも一種類以上のアルミナを含有することが望ましい。アルミナ系酸化物のAl原子をステンレス鋼箔成分のAl以外の金属元素等の他元素で一部置換した酸化物も本発明に含まれる。
【0018】
酸化物皮膜の平均厚みの望ましい範囲は1.5μm以上6.0μm以下である。平均厚みが1.5μm未満であると、酸化物皮膜に亀裂が入りやすくなり、H2ガスやCOガスの進入が起こり易くなる。このため、望ましい酸化物皮膜の厚みは1.5μm以上である。酸化物皮膜の平均厚みが6.0μmを超えると、酸化物皮膜が剥離しやすくなり、剥離した部分からH2ガスやCOガスが進入するようになるので、平均厚みを6.0μm以下である。さらに望ましい酸化物皮膜の平均厚みの範囲は2.0μm以上4.0μm以下である。平均厚みが2.0μm以上であると、酸化物皮膜に亀裂が殆ど入らなくなり、H2ガスやCOガスの進入が殆ど起こらなくなる。このため、より望ましい酸化物皮膜の厚みは2.0μm以上である。酸化物皮膜の平均厚みが4.0μm以下であると、酸化物皮膜は殆ど剥離しなくなり、H2ガスやCOガスが進入できなくなる、より望ましい平均厚みは4.0μm以下である。
【0019】
本発明においてアルミナ系酸化物皮膜に含有するFeの濃度が質量%で0.5%以上5.0%以下であると、改質ガスの遮蔽効果が極めて高くなり、優れた長期耐久性が得られる。
Feの濃度が5.0%を超えると、Feを含有した酸化物皮膜がH2ガスとCOガスによって還元され易くなり、還元された部分に空孔を生じるようになる。特に、触媒層の活性成分がNi、あるいは、Ruの場合にこの影響は大きくなる。酸化物皮膜に空孔が増加すると、酸化物皮膜によるH2ガスとCOガスの遮蔽効果が低下して、残留水素や浸炭が増加し、劣化し易くなる。したがって、Feの濃度を5.0%以下とする。
【0020】
一方、該酸化物皮膜に含有するFeの濃度が0.5%未満であると、H2ガスとCOガスに接触した酸化物皮膜の靱性が著しく低下し、繰り返し冷熱により酸化物皮膜に微小な亀裂が発生しやすくなった。この靱性の低下は、触媒層の活性成分がNi、あるいは、Ruの場合に特に起こり易かった。酸化物皮膜に亀裂が生じると、これらのガスの遮蔽効果が低下し、ステンレス鋼箔の残留水素や浸炭が増加するようになる。したがって、酸化物皮膜に含有するFeの濃度は0.5%以上とする必要がある。以上から、酸化物皮膜に含有するFe濃度の範囲は0.5%以上5%以下と限定した。より好ましくは、1.2〜4.7%である。
なお、酸化物皮膜に含有されるFe濃度を測定するためには、例えば、定量GDS法を用いると良い。触媒層を剥ぎ取った後に、触媒層側から酸化物皮膜をグロー放電で剥ぎ取って行き、この中に含まれるFeの濃度分布を測定できる。
【0021】
ここで、本発明のハニカム基材を構成するステンレス鋼箔の厚みは、5μm以上150μm以下が望ましい。5μmを下回ると、箔の強度が低くなりすぎて変形等が生じやすくなるからである。また、150μmを超えると、熱容量が大きくなりすぎて改質性能が低下するからである。
【0022】
上記に示した本発明は、触媒層に活性成分としてNi、Ruのうち少なくとも一種を含有する場合においてその効果が最も発揮される。これらの活性成分が触媒層に担持されていると、酸化物皮膜の靱性が低下し易くなり、亀裂が入ったり、剥離し易くなる。その結果、H2ガスとCOガスが進入するようになり、残留水素や浸炭が増加して、ステンレス鋼箔の機械特性が劣化してしまう。本発明のFe濃度0.5〜5.0質量%のアルミナ系酸化物皮膜が形成されると、これらの問題が解決される。
【0023】
次に、より好ましいステンレス鋼箔の成分系について述べる。
本発明のメタルハニカム基材のステンレス鋼箔にはAlを含有させる。含有されたAlはステンレス鋼箔の表面にアルミナ系酸化物を形成させたり、形成される酸化物皮膜の厚みを制御するために利用される。ステンレス鋼箔と酸化物皮膜に含有する全てのAl量の望ましい範囲は質量%で1.5%以上13%以下である。1.5%未満であると、本発明の酸化物皮膜を形成させることが困難になる。したがって、1.5%以上が望ましい。13%を超えると、ステンレス鋼箔の靭性が著しく低下し、排気ガスの圧力や振動によって箔の欠けや亀裂が発生して、構造信頼性が損なわれる。したがって、酸化物皮膜とステンレス鋼箔に含有する全Al濃度は1.5〜13質量%が好ましい。
【0024】
Cは、不可避的に混入し、ステンレス鋼箔の靭性、延性、耐酸化性に悪影響するので、低いほうが望ましいが、本発明においては0.1%以下であれば実害が許容できるので、Cの上限は0.1%であることが望ましい。
【0025】
Siも不可避的に混入し、ステンレス鋼箔の靭性、延性を低下させ、一般には耐酸化性を向上させるが、2%を超えると効果が少なくなるばかりでなく、靱性が低下する問題を生じる。したがって、Si濃度は2%以下が好ましい。
【0026】
Mnも不可避的に混入し、ステンレス鋼箔に2%を超えて含有されると、ステンレス鋼箔の耐酸化性が劣化するので、Mn濃度の上限は2%であることが好ましい。
【0027】
Crは、本発明において、アルミナ系酸化物皮膜を安定にして、耐酸化性を向上させるために添加するが、Cr濃度9%未満ではその効果は不十分で本発明の酸化物皮膜を得られなくなる。また、Cr濃度が25%を超えると鋼が脆くなり、冷間圧延や加工に耐えなくなるので、Cr濃度は9〜25質量%であることが好ましい。
【0028】
Ti,Zr,Nb,Hfは、アルミナ系酸化物皮膜の酸素透過性を低下させ、酸化速度を著しく減少させる効果があるため、必要な添加元素である。しかしながら、合計で2.0%を超えると箔中に金属間化合物の析出が増えて箔を脆くするため、Ti,Zr,Nb,Hfの合計濃度は2.0%以下であることが好ましい。
【0029】
Mg,Ca,Baもアルミナ系酸化物皮膜に固溶し、ステンレス鋼箔の高温耐酸化性を向上させる場合がある。合計で0.01%を超えると箔の靭性が低下するため、Mg,Ca,Baの合計濃度は0.01%以下であることが好ましい。
【0030】
Y等の希土類元素は、酸化物皮膜の密着性を確保する元素として添加は必要である。但し、合計で0.5%を超えると箔中に金属間化合物の析出が増加し、靭性が低下するので、Y等希土類元素濃度は0.5%以下であることが好ましい。
【0031】
次に、アルミナ系酸化物皮膜の含有するFeの濃度を本発明の範囲に制御する具体的方法について述べる。
本発明者らは、メタルハニカム基材を構成するステンレス鋼箔を制御された雰囲気と温度条件の下で高温酸化して、その表面に酸化物皮膜を形成させると酸化物皮膜中に含有されるFe濃度を本発明の範囲に制御できることを見出した。
Fe−Cr−Al箔を10-2〜10-4Pa程度の高真空中において1000〜1200℃で熱処理し、引き続き、水蒸気露点を制御した大気中において1000〜1300℃で熱処理すると本発明の酸化物皮膜を得ることができる。大気中で高温酸化させる際、雰囲気の水蒸気露点を10〜50℃に制御すると容易にFe濃度を本発明の範囲に制御することが可能である。大気中の熱処理温度が1000℃未満であると、酸化物皮膜の厚みが十分ではなく、また、Fe濃度を制御するのが難しくなるため、その結果、使用中に酸化物皮膜に亀裂が生じやすくなる。1300℃を超えると、酸化物皮膜の厚みが厚くなり過ぎ、また、Fe濃度を制御するのが難しくなるため、使用中に皮膜が剥離し易くなる。したがって、熱処理温度の望ましい範囲は1000℃〜1300℃である。
【0032】
メタルハニカム基材は、ステンレス鋼箔に波付け加工を施した波箔と平箔を組み合わせて捲き回し、波箔と平箔を部分的に接合して製造できる。接合は、ろう材を使用したろう付け接合や、拡散接合によって実施できる。この時の真空度は10-2〜10-4Pa程度が望ましい。
通常、ろう付けのための真空中熱処理の後に、上記に示した熱処理条件によってステンレス箔表面にアルミナ系酸化物皮膜を形成させる。この際、ろう付け部にも同様な酸化物皮膜が形成できるようにステンレス鋼に含有されたAlがろう付け部にも拡散している必要がある。また、ろう付け部に必ずしも最適な酸化物皮膜が形成されない場合がある。このような場合には、接合はろう付け法を用いず、箔同士を拡散接合で接合する方法も有効である。なお、アルミナ系酸化物皮膜を形成させた後に活性ろう材を利用してハニカム基材を形成することも可能である。
【0033】
メタルハニカム基材のステンレス鋼箔上には、改質反応を担う触媒層が形成される。触媒層はαアルミナを代表とする耐熱性酸化物層の担体と、その酸化物層内に分散された活性成分から構成される。耐熱性酸化物層の担体は、その他ZrO2,CeO2,Nd23,Pr23等を組み合わせたものを用いる。
【0034】
活性成分としては、Ru、Niの少なくとも一種を使用する。使用中の高温凝集やカーボン析出を抑制するために、ロジウムやイリジウムを微量添加する場合があるが、この条件でも本発明の効果は得られる。
【0035】
本発明における改質反応とは、炭化水素化合物類を活性触媒の存在下に高温の水蒸気と反応させて、H2ガスとCOガスに変換する反応である。原料となる炭化水素化合物類としては、例えば、天然ガス、LPG、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油など工業的に安価に入手できる材料を挙げられる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
厚み40μmのステンレス鋼箔(I)を用意して、メタルハニカム基材を製造した。ステンレス鋼箔(I)の成分系は、質量%で20%Cr-5.0%Al-0.05%Zr-0.1%La-bal.Feであった。
メタルハニカム基材の製造は、ステンレス鋼箔にコルゲート加工を施した波箔と平箔を組み合わせた捲き回し、両者の接触部を真空中熱処理によるNi系ろう材で接合することで行った。この時、真空度は10-2Paに制御し、1050℃に加熱した。得られたメタルハニカム基材は、直径25mm×長さ50mm(24.5cm3)の円筒状であり、セル密度は400セル/inch2(62セル/cm2)であった。
【0037】
次に、これらのハニカム基材を高温大気中に暴露してステンレス鋼箔の表面に酸化物皮膜を形成させた。この際の酸化物皮膜作成条件(露点、熱処理条件)は表1に示した。
触媒層を形成させる前に、ステンレス鋼箔の表面に形成された酸化物皮膜を観察した。XRD法を使用して酸化物相の同定を行った。GDS法を使用して酸化物皮膜に含有するFe濃度を測定した。また、SEM観察によって酸化物皮膜の厚みを求めた。これらの結果について、表1に示す。
【0038】
次に、ステンレス鋼箔の上に触媒層を形成させた。まず、αアルミナからなる担体をステンレス鋼箔表面に付着させた。担体の質量はメタルハニカム基材の体積当たり80g/Lであった。引き続き、活性成分としてNiを担持させた。担持の方法は硝酸Niを担体に含浸させた後に、蒸発乾固させて調製した。Niの含有割合は担体質量に対して5mass%となるようにした。
【0039】
以上の方法で製造した改質触媒コンバータについて、改質反応で発生するH2ガス、COガスに対するメタルハニカム基材の耐久性を評価した。評価の方法を以下に述べる。
評価は、断続的に改質反応と室温への冷却を繰り返し、一定回数を繰り返した後にステンレス鋼箔に含有される水素濃度、炭素濃度を測定して試験における増加分に基いて行なうものである。
改質反応は外熱方式で改質触媒コンバータを800℃に加熱し、水蒸気とメタンガスの混合ガスを流入させて行なった。この際、水蒸気とメタンガスのモル比は1.5であり、圧力は1atm、流量GHSVは10000h-1であった。改質反応は20時間連続させた。その後、冷却は外熱を止めて水蒸気のみを流してコンバータ全体を室温まで下げるものであった。繰り返し冷熱回数は1000回にした。
【0040】
繰り返し改質反応試験の後、メタルハニカム基材のステンレス鋼箔部分を取り出して、水素と炭素の含有量を測定した。予め、繰り返し試験の前に同じステンレス鋼箔の水素と炭素の含有量を測定しておき、試験後の増加濃度を評価した。ここで、水素分析は不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて行なった。炭素分析は高周波燃焼-ソリッドステート型赤外線吸収法を用いて行なった。水素の場合、増加濃度が2ppm未満であれば優(○)、2以上10ppm未満であれば良(△)として合格、10ppm以上であれば不合格(×)とした。炭素の場合、増加濃度が10ppm未満であれば優(○)、10以上30ppm未満であれば良(△)として合格、30ppm以上であれば不合格(×)とした。
その結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
No.1の改質触媒コンバータでは、ステンレス鋼箔表面への酸化物皮膜形成は行なわなかった。その結果、繰り返し改質試験後のステンレス鋼箔における水素、炭素濃度の増加は大きく、何れも不合格であった。
No.2の改質触媒コンバータでは、ステンレス鋼箔表面にアルミナ系酸化物皮膜を形成させた。しかし、酸化物皮膜に含有されるFe濃度は本発明範囲から外れていた。繰り返し改質試験後のステンレス鋼箔における水素、炭素濃度の増加は大きく、何れも不合格であった。酸化物皮膜に含有されるFe濃度が高過ぎ、H2ガス、COガスの遮蔽効果が低下したものと考えられる。
【0043】
No.3〜7の改質触媒コンバータでは、ステンレス鋼箔表面にアルミナ系酸化物皮膜を形成させた。酸化物皮膜に含有するFe濃度は本発明範囲に入っていた。繰り返し改質試験後のステンレス鋼箔における水素、炭素濃度の増加は小さく、何れも合格であった。特に、酸化物皮膜の厚みが1.5μm以上であると炭素濃度が著しく低くなっていた。さらに、酸化物被膜の厚みが2.0μm以上4.0μm以下であると水素濃度も著しく低くなり、優れた耐久性が得られた。本発明の酸化物皮膜であったので、H2ガス、COガスの遮蔽効果が繰り返し改質試験中においても維持されていたと考えられる。
【0044】
No.8の改質触媒コンバータでは、ステンレス鋼箔表面にアルミナ系酸化物皮膜を形成させた。しかし、酸化物皮膜に含有するFe濃度は本発明範囲から外れていた。繰り返し改質試験後のステンレス鋼箔における水素、炭素濃度の増加は大きく、何れも不合格であった。酸化物皮膜に含有するFe濃度が低すぎ、H2ガス、COガスの遮蔽効果が低下したものと考えられる。
以上示したように、メタルハニカム基材を構成するステンレス鋼箔の表面には箔成分が酸化してできた酸化物皮膜が形成されており、該酸化物皮膜に含有するFeの濃度が本発明の範囲内で制御されていれば、Ni系改質触媒層が形成されても、H2ガス、COガスによる劣化が抑制できることが明らかになった。
【0045】
(実施例2)
厚み30μmのステンレス鋼箔を用意して、メタルハニカム基材を製造した。ステンレス鋼箔の成分系は、質量%で20%Cr-7.8%Al-0.04%Ti-0.1%(La,Ce)-bal.Feであった。
メタルハニカム基材の製造は、ステンレス鋼箔にコルゲート加工を施した波箔と平箔を組み合わせた捲き回し、両箔の接触部と真空中熱処理による拡散接合することで行った。この時、真空度は10-2Paに制御し、1150℃に加熱した。得られたメタルハニカム基材は、直径25mm×高さ50mm(24.5cm3)の円筒状であり、セル密度は600セル/inch2であった。
【0046】
次に、これらのハニカム基材を高温大気中に暴露してステンレス鋼箔の表面に酸化物皮膜を形成させた。この際の酸化物皮膜作成条件(露点、熱処理条件)は表2に示した。
触媒層を形成させる前に、ステンレス鋼箔の表面に形成された酸化物皮膜を観察した。観察方法は実施例1と同じであり、結果は表2に示す。
【0047】
次に、ステンレス鋼箔の上に形成させる触媒層を形成させた。まず、αアルミナからなる担体をステンレス鋼箔表面に付着させた。担体の質量はメタルハニカム基材の体積当たり80g/Lであった。引き続き、活性成分としてRuを担持させた。担持の方法は硝酸Ruを担体に含浸させた後に、蒸発乾固させて調製した。Ruの含有割合は担体質量に対して2mass%となるようにした。
以上の方法で製造した改質触媒コンバータについて、改質反応で発生するH2ガス、COガスに対するメタルハニカム基材の耐久性を評価した。評価の方法は実施例1と同じである。その結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
No.9の改質触媒コンバータでは、ステンレス鋼箔表面への酸化物皮膜形成は行なわなかった。その結果、繰り返し改質試験後のステンレス鋼箔における水素、炭素濃度の増加は大きく、何れも不合格であった。
No.10の改質触媒コンバータでは、ステンレス鋼箔表面にアルミナ系酸化物皮膜を形成させた。しかし、酸化物皮膜に含有するFe濃度は本発明範囲から外れていた。繰り返し改質試験後のステンレス鋼箔における水素、炭素濃度の増加は大きく、何れも不合格であった。酸化物皮膜に含有するFe濃度が高過ぎ、H2ガス、COガスの遮蔽効果が低下したものと考えられる。
【0050】
No.11〜19の改質触媒コンバータでは、ステンレス鋼箔表面にアルミナ系酸化物皮膜を形成させた。酸化物皮膜に含有するFe濃度は本発明範囲に入っていた。繰り返し改質試験後のステンレス鋼箔における水素、炭素濃度の増加は小さく、何れも合格であった。特に、酸化物皮膜の厚みが1.5μm以上6.0μm以下であると炭素濃度が著しく低くなっていた。さらに、酸化物被膜の厚みが2.0μm以上4.0μm以下であると水素濃度も著しく低くなり、優れた耐久性が得られた。本発明の酸化物皮膜であったので、H2ガス、COガスの遮蔽効果が繰り返し改質試験中においても維持されていたと考えられる。
【0051】
No.20の改質触媒コンバータでは、ステンレス鋼箔表面にアルミナ系酸化物皮膜を形成させた。しかし、酸化物皮膜に含有するFe濃度は本発明範囲から外れていた。繰り返し改質試験後のステンレス鋼箔における水素、炭素濃度の増加は大きく、何れも不合格であった。酸化物皮膜に含有するFe濃度が低すぎ、H2ガス、COガスの遮蔽効果が低下したものと考えられる。
以上示したように、メタルハニカム基材を構成するステンレス鋼箔の表面には箔成分が酸化してできた酸化物皮膜が形成されており、該酸化物皮膜に含有するFeの濃度が本発明の範囲内で制御されていれば、Ru系改質触媒層が形成されても、H2ガス、COガスによる劣化が抑制できることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼箔を加工してなるメタルハニカム基材と、この基材のステンレス鋼箔上に形成した触媒層とから構成される燃料電池改質器用触媒コンバータであって、
前記ステンレス鋼箔は、少なくともFe,Cr,およびAlを含有し、かつ、該ステンレス鋼箔の表面にステンレス鋼箔成分が酸化してできたアルミナ系酸化物皮膜を有し、
前記酸化物皮膜の含有するFeの濃度が酸化物に対する質量%で0.5%以上5.0%以下であることを特徴とする燃料電池改質器用触媒コンバータ。
【請求項2】
前記酸化物被膜の厚みが1.5μm以上6.0μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池改質器用触媒コンバータ。
【請求項3】
前記酸化物被膜の厚みが2.0μm以上4.0μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池改質器用触媒コンバータ。
【請求項4】
前記触媒層がRu、Niのうち少なくとも一種を活性成分として含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池改質器用触媒コンバータ。

【公開番号】特開2011−103243(P2011−103243A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258127(P2009−258127)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】