説明

光アッテネータ用磁性ガーネットおよびその製造方法

【課題】 垂直磁場制御におけるファラデー回転角の急峻な変化を抑止できる光アッテネータ用磁性ガーネットおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 一般式(R,Bi)3(Fe,M)512(但し、RはGd,Ybの少なくとも1種、MはAl,Gaの少なくとも1種)で表される組成を有し、Nd3Ga512単結晶上に液相エピタキシャル成長法により育成する厚膜単結晶の光アッテネータ用磁性ガーネットの製造方法であり、成長誘導磁気異方性に対して残留比率を15〜30%とする工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファラデー回転効果およびコットンムートン効果を利用した光アッテネータに用いる、磁気光学用ビスマス置換希土類鉄系ガーネット厚膜単結晶(以下、磁性ガーネットと略す)およびその製造方法に関し、特に、液相エピタキシャル成長法にて育成し、希土類元素をGd,Ybの少なくとも1種とした磁性ガーネット厚膜単結晶を用いた光アッテネータに好適な光アッテネータ用磁性ガーネットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光通信や光情報処理において、磁気光学素子のファラデー効果を用いた光アイソレータや、ファラデー効果とコットンムートン効果を用いた光アッテネータが開発、実用化されている。後者の光アッテネータは光信号強度を任意に制御できることから、例えばエルビウムドープ光ファイバーアンプなどで、光信号強度調節用として用いられている。
【0003】
ファラデー効果とコットンムートン効果を用いた光アッテネータとしては、特許文献1に開示された方式が実用化されている。この特許文献1で開示されている光アッテネータでは、光軸方向と平行成分の磁場(磁性ガーネットの飽和磁場以上)に対し、直交する磁場(以下、垂直磁場と記す)の強度制御により、磁性ガーネットの磁化方向を変化させ、光軸と磁化方向の角度差によって生じるコットンムートン効果およびファラデー効果を変化させ、その透過光を複屈折結晶などの偏光子に通すことで光の強度を制御している。
【0004】
【特許文献1】特許第2815509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は特許願2004年第026528号で光アッテネータ用磁性ガーネットについて記載したが、その発明に係り、Gd1.8Yb0.2Bi1.0Fe4.4Al0.3Ga0.312について、室温25℃において、コットンムートン効果にも依存して、ファラデー回転の変化が急峻となる現象が見られる。
【0006】
具体的には、図5に示すように前記磁性ガーネットを1.0mm×1.7mm×光軸方向厚み0.45mmの試料片に、光軸方向と平行な150Oe(11.9kA/m)の磁場を印加し、垂直磁場を印加していくと、25℃でのファラデー回転角の急峻な変化に対し、0℃ではファラデー回転角が負の領域まで変化する。
【0007】
ファラデー回転角の変化が急峻となることは、光アッテネータの減衰特性の急峻な変化をもたらし、制御が困難になることから、本発明の技術的課題は、垂直磁場制御におけるファラデー回転角の急峻な変化を抑止することができる、光アッテネータ用磁性ガーネットおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する手段として、本発明者は磁性ガーネットの磁気特性改善、特に垂直磁場強度に対して、磁性ガーネットの有する成長誘導磁気異方性(以下、磁気異方性と略すことがある)の検討を行った。
【0009】
本発明者は垂直磁場強度に対して、ファラデー回転角の負の領域まで変化する急峻な変動について検討したところ、図3(a)に示すように、前記磁性ガーネットがFeの磁気モーメントとGdの磁気モーメントが相対するフェリ強磁性であることから、磁気モーメントによる2つのファラデー回転成分、θFe(Feのファラデー回転成分)、θ(重希土類元素のファラデー回転成分)の合成により全ファラデー回転θが現れるが、垂直磁場強度の増大に伴い、θFeとθの変化が異なることに起因しているとの考えに至った。
【0010】
前記磁性ガーネットは、厚膜単結晶の育成時に得た磁気異方性を熱処理により消失させているが、この熱処理で消失した磁気異方性についてはFeの磁気モーメントの変化による寄与が大きい。一般に希土類元素であるGdの磁気モーメントは4f電子が起源となっており、Gdの周囲の環境による変化は小さいものと考えられる。すなわち、熱処理による磁気異方性消失はFeの磁気モーメントの変化の寄与が大きいものと考えることが出来、これによって図3(c)に示すように、ファラデー回転角が負の領域まで変化する。なお、図3(b)には図3(c)に至る途中段階を示した。
【0011】
以上のことから、ファラデー回転角の垂直磁場強度に対する急峻な変化(負の領域までの変化)を改善する手段として、以下の2つが考えられる。
(1)磁気異方性を残留させ、θFeの変化を抑える。
(2)重希土類元素の一部をYやEuのような、磁気モーメントを有しない希土類元素で置換し、重希土類元素のθを減らす。
【0012】
但し、(2)では光アッテネータ用磁性ガーネットがフェリ強磁性であることから、飽和磁化上昇につながるため、特許願2004年第026528号で述べた光アッテネータの小型化に逆行する。従って、(1)での検討が選択肢となるが、磁気異方性を残留させる方法としては、特許願2004年第026528号では完全に磁気異方性を消失させる熱処理方法を実施したが、本発明では熱処理時の保持温度降下、保持時間短縮により、磁性ガーネットの一部に磁気異方性を残留させる方法を選択した。
【0013】
その磁気異方性が残留している部分の比率としては、図4に示すように、磁性ガーネットの<11−2>方向に磁場印加した際の磁化曲線において、初磁化部に磁気異方性による磁化困難部(磁場強度が約50Oe以下の部分)が現れるが、この磁化困難部の磁化Mdと、熱処理により磁気異方性が消失した磁化容易部の磁化Meによって、Md/(Md+Me)として表すことができる。そのように表記して、成長誘導磁気異方性の残留比率が15〜30%において、光アッテネータに適した、磁性ガーネットを得ることが出来た。
【発明の効果】
【0014】
以上、説明したように、本発明によれば、一般式(R,Bi)3(Fe,M)512(但し、RはGd,Ybの少なくとも1種、MはAl,Gaの少なくとも1種)の成長誘導磁気異方性を、15〜30%残留させることにより、ファラデー回転角の負側への変化を抑止し、光アッテネータに適した磁性ガーネットおよびその製造方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。純度99.9%の酸化ガドリニウムGd23、酸化イッテルビウムYb23、酸化第二鉄Fe23、酸化アルミニウムAl23、酸化ガリウムGa23、および酸化鉛PbO、酸化ビスマスBi23、酸化硼素B23の粉末を使用し、PbO−Bi23−B23系をフラックスとして、LPE法(液相エピタキシャル成長法)にて、格子定数a=12.509ÅのNd3Ga512(以下、NGGと記す)基板に、一般式Gd1.8Yb0.2Bi1.0Fe4.4Al0.3Ga0.312の磁性ガーネットを650μm育成した。
【0016】
育成後、11mm×11mmに切断した後、NGG基板を研磨により除去し、試料を得た。
【0017】
次に、この試料を保持温度1100〜1120℃、保持時間5〜30時間、大気中で熱処理し、波長1.55μmにてファラデー回転角45degとなる厚み450μmで鏡面状態に仕上げ、当該波長用の無反射膜を施し、垂直磁場強度に対するファラデー回転角の変化を測定した。
【0018】
なお、成長誘導磁気異方性の残留部の比率は、試料振動型磁力計(VSM)により、<11−2>方向と平行な磁場の印加で磁化曲線を測定し、前述の手法により求めた。
【0019】
次に、ファラデー回転角測定に際しては、<111>方向に当該波長の光を入射し、これと平行方向に150Oeの磁場を印加し、垂直磁場を<11−2>方向に印加し、垂直磁場強度との関係を得た。比較例として、成長誘導磁気異方性を消失させた試料(残留比率として0%)の場合を示した。
【0020】
図1に本実施例および比較例の垂直磁場強度とファラデー回転角の相関図を示す。図1に示すように、成長誘導磁気異方性の残留部の比率がおよそ10%以上において、負側へのファラデー回転角の変化を抑止できる。
【0021】
次に、成長誘導磁気異方性残留部の比率の適正値であるが、ファラデー回転角の負側への変化について、室温25℃では、およそ10%以上で実現できるが、低温側での使用(例えば−5℃)ではファラデー回転角が大きくなることから、垂直磁場による変化も大きくなる。また、ばらつき等も考慮に入れると、下限としては15%が望ましい。
【0022】
上限については、当該残留部の比率が37%では、図2に示すように、高温での使用(例えば65℃)では、ファラデー回転角の変化が少ないため、光アッテネータでの使用には適さない。従って、ばらつき等も考慮に入れると、当該残留部の比率の上限は30%が望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】磁気異方性残留部比率が0〜37%における、<111>方向に150Oeの磁場を印加した場合の、<11−2>方向に印加した垂直磁場強度によるファラデー回転角の変化を示す図。
【図2】磁気異方性残留比率が37%における、<111>方向に150Oeの磁場を印加した場合の、<11−2>方向に印加した垂直磁場強度による、ファラデー回転角の変化を示す図。
【図3】磁性ガーネットに重希土類元素を用いた場合の、Feのファラデー回転成分と重希土類元素のファラデー回転成分の合成を、ベクトルを用いて示した概念図、図3(a)はフェリ強磁性の2つのファラデー回転成分を示す図、図3(b)は図3(c)に至る途中段階を示す図、図3(c)はファラデー回転角が負の領域まで変化した様子を示す図。
【図4】磁気異方性残留部を含む磁性ガーネットを<11−2>方向に磁化させた場合の磁化曲線を示す図。
【図5】磁気異方性を消失させた磁性ガーネットの、0℃におけるファラデー回転角と垂直磁場との相関を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(R,Bi)3(Fe,M)512(但し、RはGd,Ybの少なくとも1種、MはAl,Gaの少なくとも1種)で表される組成を有し、Nd3Ga512単結晶上に液相エピタキシャル成長法により育成してなる光アッテネータ用磁性ガーネットであって、成長誘導磁気異方性の残留比率が15〜30%であることを特徴とする、光アッテネータ用磁性ガーネット。
【請求項2】
一般式(R,Bi)3(Fe,M)512(但し、RはGd,Ybの少なくとも1種、MはAl,Gaの少なくとも1種)で表される組成を有し、Nd3Ga512単結晶上に液相エピタキシャル成長法により育成してなる光アッテネータ用磁性ガーネットの製造方法であって、成長誘導磁気異方性の残留比率を15〜30%とする工程を含むことを特徴とする、光アッテネータ用磁性ガーネットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−84746(P2006−84746A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−269064(P2004−269064)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】