説明

光ディスク用保護フィルム及びそれを用いた光ディスク

【課題】光ディスク、特にブルーレイディスクの情報記録層を保護するために用いられ、かつ光ディスクの記録特性に悪影響を及ぼすことがない上、光ディスクの金属反射膜や情報記録層などに対する腐食が抑制された光ディスク用保護フィルムを提供する。
【解決手段】光透過性基材フィルムと、その一方の面に設けられた粘着剤層を有する光ディスク用保護フィルムであって、前記光透過性基材フィルムと粘着剤層の屈折率差が0.08以下であり、かつ粘着剤層のゲル分率が65質量%以上の光ディスク用保護フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスク用保護フィルム及びそれを用いた光ディスクに関し、さらに詳しくは、光ディスク、特にブルーレイディスク(BD)の情報記録層を保護するために用いられ、かつ光ディスクの記録特性に悪影響を及ぼすことがない上、光ディスクの金属反射膜や情報記録層などに対する腐食が抑制された光ディスク用保護フィルム、及び前記保護フィルムを情報記録層上に粘着剤層を介して貼合してなる光ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスクとして、すでにCD、CD−ROMのような情報読み出し専用のディスクや、MOあるいはMDと呼ばれる光磁気ディスク、CD−Rと呼ばれる書き込み可能な光ディスクが広く使用されている。これらの光ディスクの記録容量は650MB(メガバイト)程度であるが、さらに記録容量の大きなDVD(デジタル多用途ディスク)と呼ばれる一連の光ディスク、具体的にはDVD−ROM(読み出し専用型DVD)、DVD−R(追記型DVD)、DVD−RAM(書き込み・読み出し型DVD)、DVD−RW(書き換え型DVD)などのDVDシリーズが開発されている。これらのDVDシリーズは基板を2枚貼り合せたもので、記録容量が片面4.7GB(ギガバイト)、両面で9.4GBのものなどが実用化されており、そして情報の記録・再生に波長630〜650nm程度の赤色レーザー光が用いられている。
しかしながら、現状のDVDにおいては、例えばハイビジョン映像の場合、片面で約30分程度しか収録できないという問題がある。このDVDを普及させるには、片面でハイビジョン映像を少なくとも2時間収録できることが望まれる。このためには、大容量の光ディスクが要求され、それを実現するには、より短波長のレーザー光による記録・再生が必要となる。
【0003】
したがって、現在、波長405nm程度の青色レーザー光の使用が検討されている。しかしながら、このような短波長の青色レーザー光を用いることにより、トラックピッチやピットサイズを小さくすることが可能となるが、波長が短いことから、焦点深度が浅くなり、現状の厚さ0.6mmの基板同士を貼り合わせる(基板の合計厚さ1.2mm)というDVDシリーズに適用されている規格や方法が使用できないという問題が生じる。そこで、例えば厚さ1.1mmの基板上に設けられた情報記録層上に、基板と同素材の厚さ0.1mmの光透過性保護フィルムを貼り合わせることが試みられている。この場合、保護フィルムの貼合方法としては、エネルギー線硬化型接着剤や粘着剤を用いる方法が検討されているが、該接着剤や粘着剤は、光ディスクの記録・再生機能に支障をもたらすことのないものであることが肝要である。
前記方法の中で、エネルギー線硬化型接着剤を用いて貼合する方法は、該接着剤の塗布に、通常スピンコート法が採用されるため、厚みむらが生じやすいという問題がある。これに対し、粘着剤を用いて貼合する方法は、高い厚み精度を実現することが可能である。
【0004】
ところで、光ディスク用保護フィルムは、光ディスクの記録及び再生を行うための光が入射する側に貼合されるが、従来の粘着剤使用光ディスク用保護フィルムを用いて作製された光ディスクにおいては、該保護フィルムに用いられる基材と粘着剤層との屈折率差が大きい(一般に、粘着剤層の屈折率が、基材の屈折率よりも低い)ために、レーザー光の入射時や記録面からの反射時に、粘着剤層と基材フィルムの界面でのレーザー光の屈折や反射が生じ、信号強度の低下又はノイズとして信号レベルに悪影響を及ぼす。したがって、保護フィルムにおいては、基材フィルムと粘着剤層との屈折率差はできるだけ小さいことが好ましい(例えば、特許文献1参照)。
ところが、一般に、基材フィルムに比べて粘着剤層は低屈折率であるため、粘着剤層と基材フィルムとの屈折率差を小さくするには、粘着剤層を構成する粘着剤中に、高屈折率成分を混入させることが考えられる。しかしながら、高屈折率成分を混入させた粘着剤は、高温、高湿度の環境下において、該高屈折率成分の染み出しにより、被着体となる金属反射膜や情報記録層などを腐食するおそれがある。
【0005】
【特許文献1】特開2000−67468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、光ディスク、特にブルーレイディスクの情報記録層を保護するために用いられ、かつ光ディスクの記録特性に悪影響を及ぼすことがない上、光ディスクの金属反射膜や情報記録層などに対する腐食が抑制された光ディスク用保護フィルム、及びこの保護フィルムを、粘着剤層を介して貼合してなる光ディスクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、光透過性基材フィルムの一方の面に、該基材フィルムとの屈折率差がある値以下であって、ゲル分率がある値以上である粘着剤層、好ましくはアリールオキシアルキル基及び/又はアリールアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体を樹脂成分とする粘着剤から構成された粘着剤層を設けてなる光ディスク用保護フィルムにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)光透過性基材フィルムと、その一方の面に設けられた粘着剤層を有する光ディスク用保護フィルムであって、前記光透過性基材フィルムと粘着剤層の屈折率差が0.08以下であり、かつ粘着剤層のゲル分率が65質量%以上であることを特徴とする光ディスク用保護フィルム、
(2)粘着剤層を構成する粘着剤が、(メタ)アクリル酸エステル共重合体を樹脂成分とするものである上記(1)の光ディスク用保護フィルム、
(3)(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、アリールオキシアルキル基及び/又はアリールアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を有する上記(2)の光ディスク用保護フィルム、
(4)(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、重量平均分子量50万〜200万である上記(2)又は(3)の光ディスク用保護フィルム、
(5)(メタ)アクリル酸エステル共重合体における未架橋成分中の分子量1万以下の成分の割合が30質量%以下である上記(2)〜(4)のいずれかに記載の光ディスク用保護フィルム、
(6)光透過性基材フィルムが、ポリカーボネート系樹脂フィルムである上記(1)〜(5)のいずれかに記載の光ディスク用保護フィルム、
(7)波長405nmにおける光線透過率が87%以上である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の光ディスク用保護フィルム、及び
(8)光ディスク用基板の少なくとも片面に設けられた情報記録層上に、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の光ディスク用保護フィルムを、その粘着剤層を介して貼合してなる光ディスク、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光ディスク、特にブルーレイディスクの情報記録層を保護するために用いられ、かつ光ディスクの記録特性に悪影響を及ぼすことがない上、光ディスクの金属反射膜や情報記録層などに対する腐食が抑制された光ディスク用保護フィルム、及びこの保護フィルムを、粘着剤層を介して貼合してなる光ディスクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の光ディスク用保護フィルムは、光ディスクの情報記録層を保護するためのものであって、光透過性基材フィルムと、その片面に設けられた粘着剤層から構成されている。本発明においては、前記基材フィルムとして、光透過性のものが用いられるが、この光透過性とは、当該保護フィルムが適用される光ディスクに用いられるレーザー光に対して透明性を有することを指す。したがって、一般的には、波長380〜780nmの領域の可視光を透過するフィルムが用いられる。このような光透過性基材フィルムとしては、例えばアクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ノルボルネン系樹脂などの透明樹脂からなるフィルムを用いることができるが、当該保護フィルムが適用される光ディスクの基板と、熱膨張係数が近似したものが、反りなどを防止し得る点から好ましく、通常該基板と同質材料のものが用いられる。したがって、現在光ディスクの樹脂基板として、一般にポリカーボネート系樹脂が用いられていることから、この光透過性基材フィルムにおいても、一般にポリカーボネート系樹脂フィルムが用いられる。
【0011】
この光透過性基材フィルムは、表面ができるだけ平坦であって、複屈折が生じにくいものが好ましい。この基材フィルムに複屈折が生じると集光したレーザー光の集光度が悪くなるので好ましくない。また、厚みむらもできるだけ少ない方が好ましく、厚みむらが存在すると、レーザー光の集光度低下の原因となる。さらに、ドライブの光学ヘッドがフィルム面に接触しても傷が付きにくいように、所望により粘着剤層と反対側の基材フィルム表面に、傷付き防止層を設けることができる。本発明においては、この光透過性基材フィルムの厚さとしては、当該保護フィルムが適用される光ディスクに用いられるレーザー光の波長に応じて適宜選定されるが、一般的には50〜100μm、好ましくは50〜90μmの範囲で選定される。
【0012】
本発明の光ディスク用保護フィルムにおいては、前記の光透過性基材フィルムと粘着剤層の屈折率差が0.08以下であることを要す。該屈折率差が0.08以下であれば、レーザー光の入射時や記録面からの反射時に、粘着剤層と基材フィルムの界面での反射が生じにくく、その結果、信号強度が低下したり、ノイズとして信号レベルに悪影響を及ぼしたりすることが抑制される。前記屈折率差は、好ましくは0.07以下、より好ましくは0.065以下である。
ちなみに、ポリカーボネートフィルムの屈折率は約1.58であり、ポリメチルメタクリレートフィルムの屈折率は約1.49である。
なお、基材フィルムと粘着剤層との屈折率差は、(株)アタゴ製のアッベ屈折率計「アッベ屈折計1T」を用い、それぞれの屈折率を測定して求めた値である。
【0013】
本発明の光ディスク用保護フィルムにおいては、粘着剤層は、ゲル分率が65質量%以上であることを要する。このゲル分率が65質量%以上であれば、未架橋成分が少なく、該未架橋成分の染み出しによる光ディスクにおける金属反射膜や情報記録層などの腐食を抑制することができる。上記ゲル分率は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上である。その上限については特に制限はないが、通常90質量%程度である。
なお、上記ゲル分率は、下記の方法で測定した値である。
<粘着剤層のゲル分率>
粘着剤層を構成する粘着剤を、ナイフコーターにて重剥離フィルム[リンテック(株)製「SP−PET381031」]の剥離処理面に塗布したのち、90℃で約1分間加熱処理して架橋させ、厚さ約25μmの粘着剤層を作製する。これに、軽剥離フィルム[リンテック(株)製「SP−PET38GS」]をラミネートし、ゲル分率測定用シートサンプルを得る。次いで、このシートサンプルを、23℃、相対湿度50%の条件下で1週間放置したのち、粘着剤層を剥ぎ取り、ソックスレー抽出器を用いて、酢酸エチルにて約16時間還流させて抽出を行う。未溶解分成分を風乾後、100℃で10時間乾燥させ、23℃相対湿度50%の条件下に3時間放置して調湿を行った後、その質量を測定して、以下の式によりゲル分率を測定した。
ゲル分率(%)=(乾燥・調湿後の未溶解成分の質量/抽出前の粘着剤の質量)×100
このゲル分率は、粘着剤層を構成する粘着剤の樹脂成分、例えば(メタ)アクリル酸エステル共重合体を製造する際の架橋度によって調整することができる。
【0014】
また、当該粘着剤層の温度25℃における貯蔵弾性率は104Pa以上であることが好ましい。該貯蔵弾性率が104Pa以上であれば、光ディスクに貼合された保護フィルムの保持性が良好となる。該貯蔵弾性率の上限に特に制限はないが、通常106Pa程度である。好ましい25℃における貯蔵弾性率は104〜105Paの範囲である。
なお、上記貯蔵弾性率は、下記の方法で測定した値である。
<粘着剤層の25℃における貯蔵弾性率>
粘着剤層を厚み約600μmとなるように形成し、粘弾性測定装置(Rheometrics社製「DYNAMIC ANALYZER RDA II」を用いて1Hzで測定を行った。
本発明の光ディスク用保護フィルムにおいては、粘着剤層を構成する粘着剤として、光学用途に好適な(メタ)アクリル酸エステル共重合体を樹脂成分とするアクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
【0015】
この(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、(A)屈折率を高める機能をもつアリールオキシアルキル基及び/又はアリールアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位、(B)ガラス転移温度(Tg)を調整する機能をもつ、エステル部分のアルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位、(C)架橋点を付与する機能を有する、活性水素をもつ官能基を備えた単量体由来の構成単位、及び(D)所望により導入される他の単量体由来の構成単位を含有する共重合体を好ましく挙げることができる。
この(メタ)アクリル酸エステル共重合体において、前記(A)アリールオキシアルキル基及び/又はアリールアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を形成する単量体(a)としては、例えば一般式(I)
【0016】
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基、Aは全炭素数が6〜20の置換基を有していてもよいアリール基又はアリールオキシ基、R2はヒドロキシル基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキレン基を示し、nは0又は1以上の整数を示す。)
で表される(メタ)アクリル酸エステルの中から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0017】
前記の一般式(I)において、Aで示される全炭素数が6〜20の置換基を有していてもよいアリール基又はアリールオキシ基としては、例えば環上に炭素数1〜10の炭化水素基を1個以上有していてもよい、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基などを挙げることができる。また、R2で示されるヒドロキシル基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキレン基は直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、2−ヒドロキシトリメチレン基、テトラメチレン基などを挙げることができる。nは0〜10程度が好ましい。
前記の一般式(I)で表される(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸2−フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸2−(2−フェノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−(4−イソプロピルフェノキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(1−ナフチルオキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ナフチルオキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェネチル、(メタ)アクリル酸3−フェニルプロピル、(メタ)アクリル酸1−ナフチルメチル、(メタ)アクリル酸2−ナフチルメチル、(メタ)アクリル酸パラクミルフェノキシエチレングリコールなどを挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、得られる(メタ)アクリル酸エステル共重合体のガラス転移温度(Tg)をあまり高めずに、屈折率を高くすることができるアクリル酸2−フェノキシエチルが特に好適である。
【0018】
(B)Tgを調整する機能をもつ、エステル部分のアルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を形成する単量体(b)としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中で、粘着剤として適度なTgを与えることのできるアクリル酸n−ブチル及び/又はアクリル酸2−エチルヘキシルが特に好適である。
【0019】
(C)架橋点を付与する機能を有する、活性水素をもつ官能基を備えた単量体由来の構成単位を形成する単量体(c)としては、例えば(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどのアクリルアミド類;(メタ)アクリル酸モノメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノプロピルなどの(メタ)アクリル酸モノアルキルアミノアルキル;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸などが挙げられる。これらのモノマーは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
(D)所望により導入される他の単量体由来の構成単位を形成する単量体(d)としては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのハロゲン化オレフィン類;スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン系モノマー;ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル系モノマー;N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミドなどのN,N−ジアルキル置換アクリルアミド類などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
当該アクリル系粘着剤において、樹脂成分として用いられる(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の各構成単位の含有量は、形成される粘着剤層における所望の屈折率、ゲル分率、及び粘着剤の所望Tgなどによって適宜選定されるが、通常(A)単位0〜99.9質量%、(B)単位0〜99.9質量%、(C)単位0.1〜20質量%及び(D)単位0〜5質量%であり、好ましくは(A)単位40〜90質量%、(B)単位10〜60質量%、(C)単位0.1〜5質量%及び(D)単位0〜5質量%である。
該アクリル系粘着剤において、樹脂成分として用いられる(メタ)アクリル酸エステル系共重合体は、その共重合形態については特に制限はなく、ランダム、ブロック、グラフト共重合体のいずれであってもよい。また、分子量は、光ディスクに悪影響を与えず、光ディスクの信頼性確保などの点から、重量平均分子量で50万〜200万の範囲が好ましい。なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値である。
また、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体における未架橋成分中の低分子量共重合体の含有量は、光ディスクにおける金属反射膜や情報記録層などに対する腐食抑制の点から少ないことが好ましい。より具体的には、該未架橋成分中の分子量1万以下の成分の割合が、該未架橋成分に対して30質量%以下であることが好ましく、特に25質量%以下であることが好ましい。ここで、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体中の未架橋成分とは、上述のゲル分率測定において、酢酸エチルに抽出された成分をいう。
【0022】
該(メタ)アクリル酸エステル共重合体のTgは、通常−60〜−10℃程度であり、好ましくは−50〜−20℃である。
本発明においては、この(メタ)アクリル酸エステル共重合体は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明における(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重合は、常法により行うことができる。溶媒としては、酢酸エチル、トルエン等を挙げることができ、重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド等を挙げることができる。重合条件に関しても特に限定されず、通常50〜90℃で2〜30時間の条件で行われる。
【0023】
本発明に用いられるアクリル系粘着剤は架橋剤を含んでいてもよい。該架橋剤としては特に制限はなく、従来アクリル系粘着剤において架橋剤として慣用されているもの、例えばポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジアルデヒド類、メチロールポリマー、金属キレート化合物、金属アルコキシド、金属塩などの中から、当該保護フィルムが適用される光ディスクの反射膜や情報記録層の種類などに応じて適宜選択される。該架橋剤の含有量は特に制限はないが、通常(メタ)アクリル酸エステル共重合体100質量部に対して、0.01〜20質量部である。
また、本発明においては、光ディスクの金属反射膜などの腐食を抑制する点から、酸化防止剤の含有量が0.005〜10質量%の範囲にあるアクリル系粘着剤が好ましい。該酸化防止剤の含有量が0.005質量%以上であると金属反射膜や情報記録層などの腐食抑制効果が十分に発揮され、10質量%を超えて含有してもその量の割には効果の向上がみられず、むしろ経済的に不利となる場合がある。この酸化防止剤のより好ましい含有量は0.01〜5質量%の範囲であり、特に0.1〜3質量%の範囲が好ましい。
【0024】
前記酸化防止剤としては特に制限はなく、従来公知のヒンダードフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、キノン系酸化防止剤などの中から任意のものを適宜選択して用いることができるが、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられる。具体例としては、単環フェノール系酸化防止剤として、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ブチルヒドロキシアニソール及びステアリルβ−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどを、2環フェノール系酸化防止剤として、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)及び3,6−ジオキサオクタメチレンビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]などを、3環フェノール系酸化防止剤として1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタンなどを、4環フェノール系酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3',5'−ジ−tert−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどを好ましく挙げることができる。これらの酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
さらに、本発明の光ディスク用保護フィルムの基材フィルムや光ディスクの基板に対する侵食、あるいは光ディスクの金属反射膜や情報記録層などに対する腐食を抑制する点から、残留溶剤及び残留モノマーの合計含有量が100質量ppm以下のアクリル系粘着剤が好ましい。この残留溶剤及び残留モノマーの合計含有量が100質量ppm以下であると当該保護フィルムの基材フィルムや光ディスクの基板に対する侵食が十分に抑制され、また光ディスクの金属反射膜や情報記録層などの腐食が十分に抑制される。該残留溶剤及び残留モノマーの合計含有量は、より好ましくは50質量ppm以下、特に好ましくは20質量ppm以下である。
【0026】
本発明の光ディスク用保護フィルムにおいては、前記アクリル系粘着剤を光透過性基材フィルムの片面に直接塗布して粘着剤層を設けてもよいし、剥離シート上にアクリル系粘着剤を塗布して粘着剤層を設けたのち、これを基材フィルムの片面に貼着し、該粘着剤層を転写してもよい。この場合、剥離シートは、所望により剥がすことなく、そのまま付着させておいて、当該保護フィルムの使用時に剥離してもよい。基材フィルムの片面に設けられる粘着剤層の厚みは、通常5〜60μm、好ましくは10〜30μm程度である。上記剥離シートとしては、例えばグラシン紙、コート紙、キャストコート紙などの紙基材、これらの紙基材にポリエチレンなどの熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙、あるいはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィンフィルムなどのプラスチックフィルムに、シリコーン樹脂などの剥離剤を塗布したものなどが挙げられる。この剥離シートの厚さについては特に制限はないが、通常20〜150μm程度である。
【0027】
また、光透過性基材フィルムの片面又は剥離シート上にアクリル系粘着剤を塗布する際には、通常、酢酸エチルやトルエンなどの溶剤を加えて塗布した後に、乾燥して粘着剤層を形成するが、70℃以上、好ましくは80〜150℃で10秒〜10分間程度加熱して乾燥させることが好ましい。
このようにして得られた本発明の光ディスク用保護フィルムは、光ディスク、特にブルーレイディスクに適用されるため、波長405nmにおける光線透過率が、87%以上であることが好ましい。該光線透過率が87%以上であれば、ブルーレイディスクの情報記録面に入射されるレーザー光及び記録面からの反射光の透過が良好となる。該光線透過率は、より好ましくは89%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0028】
本発明の光ディスク用保護フィルムは、光ディスク、特にブルーレイディスクの情報記録層を保護するために用いられ、かつ光ディスクの記録特性に悪影響を及ぼすことがない上、光ディスクの金属反射膜や情報記録層などに対する腐食を抑制し得るなどの特性を有し、光ディスクの情報の記録・再生機能に支障をもたらすことがなく、信頼性の高い光ディスクを与えることができる。
【0029】
次に、本発明の光ディスクは、光ディスク用基板の少なくとも片面に設けられた情報記録層上に、前記光ディスク用保護フィルムを、その粘着剤層を介して貼合してなる光ディスクである。
本発明の光ディスクにおける基板としては、通常の光ディスクに用いられるものであればよく、特に制限はないが、一般的には、ポリカーボネート樹脂基板が用いられる。この基板の厚さとしては、光ディスクの総厚の規格、情報記録層上に設けられる保護フィルムの厚さなどに応じて適宜選定されるが、通常1.05〜1.15mmの範囲である。この基板の上に設けられる機能層の構成としては、通常の光ディスクの層構成であればよく、特に制限はない。例えば読み出し専用型の場合は、情報記録層として反射金属膜のみをスパッタリング法などにより設ければよく、また書き込み、読み出し可能型の場合は、相変化型、光磁気型の記録材料を用い、反射膜の上に、誘電体層、該記録材料層、誘電体層からなる情報記録層を設けた層構成を挙げることができる。ここで、反射膜としては、例えば銀合金膜、アルミニウムやアルミニウム合金膜などが用いられる。また、情報記録層における記録材料としては、相変化型としてTeOx、Te−Ge、Sn−Te−Ge、Bi−Te−Ge、Sb−Te−Ge、Pb−Sn−Teなどが、光磁気型としてTb−Fe、Tb−Fe−Co、Dy−Fe−Co、Tb−Dy−Fe−Coなどが用いられる。さらに、情報記録層における誘電体層には、例えばSiN、SiO、SiO2、ZnS−SiO2、Ta25などが用いられる。本発明の光ディスクは、青色レーザー光の使用が可能で、特に高容量のBD−ROM、BD−R、BD−RAMなどのブルーレイディスクシリーズに好適に用いられる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例における諸特性は、以下に示す方法に従って求めた。
(1)粘着剤層の屈折率
作製した光ディスク用保護フィルムにおいて、アッベ屈折率計[(株)アタゴ製、「アッベ屈折計1T」]を用い、25℃雰囲気下、ナトリウムD線(波長589.3nm)を照射し粘着剤層の屈折率を測定する。
(2)粘着剤層のゲル分率
明細書本文記載の方法に従って測定する。
(3)光ディスク用保護フィルムの波長405nmにおける光線透過率
作製した光ディスク用保護フィルムを、紫外可視分光光度計[(株)島津製作所製、商品名「UV−3100PC」]を用いて、波長405nmの光の透過率を測定する。
(4)光ディスク用保護フィルムにおける反射率の変化率
作製した光ディスク用保護フィルムを、粘着剤層を介して銀合金膜に貼付し、反射率測定用サンプルを作製する。このサンプルについて、波長405nmの光に対する初期反射率Ra、及び該サンプルを相対湿度85%の環境下に1000時間放置後の波長405nmの光に対する反射率Rbを、下記の方法で測定し、関係式
Y(%)=[(Ra−Rb)/Ra]×100
で表される反射率の変化率(Y)を求める。
<反射率の測定方法>
紫外可視分光光度計[(株)島津製作所製、商品名「UV−3100PC」]を用いて、405nmの光を前記サンプルの光透過性フィルム側から照射して、反射率を測定する。
(5)未架橋成分中の重量平均分子量1万以下の(メタ)アクリル酸エステル共重合体の割合
ゲル分率測定において、酢酸エチルに抽出された(メタ)アクリル酸エステル共重合体(未架橋成分)の重量平均分子量と分子量分布をGPC法により測定し、得られたチャートのピーク面積比から算出した。なお、GPC測定は、東ソー(株)製のGPC装置「HLC−8020」を用い、カラムはTSKGelGMHXL− TSKGelGMHXL−TSKGelG2000HHL(全て東ソー(株)製)を三連につないで測定した。
【0031】
実施例1
アクリル酸n−ブチル40質量部、アクリル酸2−フェノキシエチル57質量部及びアクリル酸3質量部からなるモノマー混合物に、溶媒として酢酸エチル150質量部及び重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1質量部を加え、窒素雰囲気下、60℃で17時間重合を行い、アクリル酸n−ブチル/アクリル酸2−フェノキシエチル/アクリル酸共重合体溶液を得た。次いで、この共重合体溶液の固形分100質量部に対し、ポリイソシアネート系架橋剤[東洋インキ製造(株)製、商品名「BHS−8515」]3.0質量部を加えて、粘着剤塗工液を調製した。
なお、前記共重合体は、重量平均分子量:54万、Tg:−25℃であった。
次に、この粘着剤塗工液を、ナイフコーターにて剥離フィルム[リンテック(株)製、商品名「SP−PET381031」]の剥離処理面に、乾燥後の厚さが20μmとなるように塗布し、90℃で約1分間乾燥させたのち、光透過性基材フィルムとして厚さ80μmのポリカーボネートフィルムにラミネートし、厚さ約100μmの光ディスク用保護フィルムを作製した。この保護フィルムの諸特性を第1表に示す。
【0032】
実施例2
実施例1において、モノマー混合物として、アクリル酸n−ブチル20質量部、アクリル酸2−フェノキシエチル77質量部及びアクリル酸3質量部からなる混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合体溶液を得たのち、粘着剤塗工液を調製した。
なお、前記共重合体は、重量平均分子量:50万、Tg:−22℃であった。
次に、この粘着剤塗工液を用い、実施例1と同様にして、厚さ約100μmの光ディスク用保護フィルムを作製した。この保護フィルムの諸特性を第1表に示す。
【0033】
比較例1
実施例1において、ポリイソシアネート系架橋剤の添加量を0.5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして粘着剤塗工液を調製し、さらに厚さ約100μmの光ディスク用保護フィルムを作製した。この保護フィルムの諸特性を第1表に示す。
【0034】
比較例2
実施例1において、アクリル酸2−フェノキシエチルを用いずに、かつアクリル酸n−ブチルの量を97質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして共重合体溶液を得たのち、粘着剤塗工液を調製した。
なお、前記共重合体は、重量平均分子量:65万、Tg:−41℃であった。
次に、この粘着剤塗工液を用い、実施例1と同様にして、厚さ約100μmの光ディスク用保護フィルムを作製した。この保護フィルムの諸特性を第1表に示す。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の光ディスク用保護フィルムは、光ディスク、特にブルーレイディスクの情報記録層を保護するために用いられ、光ディスクの情報の記録・再生機能に支障をもたらすことがなく、信頼性の高い光ディスクを与えることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性基材フィルムと、その一方の面に設けられた粘着剤層を有する光ディスク用保護フィルムであって、前記光透過性基材フィルムと粘着剤層の屈折率差が0.08以下であり、かつ粘着剤層のゲル分率が65質量%以上であることを特徴とする光ディスク用保護フィルム。
【請求項2】
粘着剤層を構成する粘着剤が、(メタ)アクリル酸エステル共重合体を樹脂成分とするものである請求項1に記載の光ディスク用保護フィルム。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、アリールオキシアルキル基及び/又はアリールアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を有する請求項2に記載の光ディスク用保護フィルム。
【請求項4】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、重量平均分子量50万〜200万である請求項2又は3に記載の光ディスク用保護フィルム。
【請求項5】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体における未架橋成分中の分子量1万以下の成分の割合が30質量%以下である請求項2〜4のいずれかに記載の光ディスク用保護フィルム。
【請求項6】
光透過性基材フィルムが、ポリカーボネート系樹脂フィルムである請求項1〜5のいずれかに記載の光ディスク用保護フィルム。
【請求項7】
波長405nmにおける光線透過率が87%以上である請求項1〜6のいずれかに記載の光ディスク用保護フィルム。
【請求項8】
光ディスク用基板の少なくとも片面に設けられた情報記録層上に、請求項1〜7のいずれかに記載の光ディスク用保護フィルムを、その粘着剤層を介して貼合してなる光ディスク。


【公開番号】特開2006−188630(P2006−188630A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2585(P2005−2585)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】