説明

光ディスク装置の再生パワー設定方法および光ディスク装置

【課題】光ディスクを再生する再生パワーを最適値に設定する。
【解決手段】ステップST1において、レーザノイズの影響を受ける程度に低い再生パワーPr0が設定され、この再生パワーから開始して再生パワーを徐々に増加させ(ステップST5)、再生パワーで再生した場合の再生信号の品質を表す指標値(ジッタ値JT1,JT2,・・・)を測定し、再生パワーの増加に伴い指標値が減少から増加に転じ、且つ増加量が予め設定したしきい値以上になるか否かをステップST8,ST9にて判定し、指標値の増加量がしきい値より小の場合には、再生パワーをより増加させ、指標値の増加量がしきい値より大の場合には、再生パワーの増加を中止し、指標値が最小となる下限再生パワーPjmin を参照して、最適再生パワーを設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高密度光ディスク例えばブルーレイディスクに適用可能な光ディスク装置の再生パワー設定方法および光ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクの高密度記録は、例えば光ピックアップで使用されるレーザ光の短波長化と、対物レンズの開口数NA(Numerical Aperture)を大きくし、集光スポットのサイズを小さくすることで実現できる。例えば、CD(Compact Disc)は、レーザ光の波長が780nm、開口数NAが0.45であり、650MB(メガバイト)の記録容量を有する。また、DVD−ROM(Digital Versatile Disc-ROM)は、レーザ光の波長が650nm、開口数が0.6とされ、4.7GB(ギガバイト)の記録容量を有する。
【0003】
さらに、次世代の高密度記録光ディスク例えばブルーレイディスクは、レーザ光の波長が450nm以下とされ、NAが0.78以上とされ、これにより単層で22GB以上の大容量化が可能となる。高密度記録光ディスクは、ディスクの信号読み取り面側に光透過膜いわゆるカバー層と称する光透過性の保護膜が形成される。カバー層は、例えば100μm(0.1mm)の厚みを有する。
【0004】
図10は、この発明を適用できる光ディスクの一例である2層ブルーレイディスクを模式的に示す。この光ディスクは、基板101の一主面上に情報記録層(L0層)、中間層102、情報記録層(L1層)、カバー層103が順次積層された構成とされる。光ディスクは、中心部にセンターホール(図示せず)が開口された略円盤形状とされる。光ディスクは、例えば、ディスク径120mm,センターホール径15mm,ディスク厚み1.2mm,基板厚み1.1mmとされる。
【0005】
基板101上に、L0層、中間層102、L1層、カバー層103が順次積層された構成を有する。基板101は、例えばポリカーボネート(PC)やシクロオレフィンポリマーなどの低吸収性の樹脂から構成される。情報記録層であるL0層およびL1層は、基板101の凹凸上に成膜された記録膜である。光ディスクが追記型である場合には、L0層およびL1層は、例えば、反射膜、無機記録材料(または有機色素材料)からなる記録層を順次積層して構成される。光ディスクが書き換え可能型である場合には、L0層およびL1層は、例えば、反射膜、下層誘電体層、相変化記録層、上層誘電体層を順次積層して構成される。
【0006】
基板101に形成されたL0層上には、中間層102が形成される。中間層102上には、L1層が形成される。中間層102に形成されたL1層上には、カバー層103が形成される。カバー層103は、光ディスクの保護を目的として、形成される。情報信号の記録および再生は、例えば、対物レンズ104によりレーザ光がカバー層103を通じて情報記録層に集光されることによって行われる。
【0007】
中間層102およびカバー層103として、UVレジンを用いることができる。中間層102の厚さは、例えば25μm、カバー層103の厚さは、例えば75μmであり、均一な厚みの層を形成することが求められる。
【0008】
この光ディスクでは、カバー層103側から情報記録層(L0層またはL1層)にレーザ光を照射することによって、情報信号の記録および再生が行われる。例えば、400nm〜410nmの波長を有するレーザ光が0.84〜0.86の開口数を有する対物レンズ104により集光されカバー層103側から情報記録層に照射されることで、情報信号の記録および再生が行われる。単層光ディスクは、上述した情報記録層L0層のみを有する。
【0009】
上述した2層あるいは3層以上の多層光ディスクに対して記録/再生を行う光ディスク装置においては、単層光ディスクに比して光ディスクに照射されるレーザ光の記録パワー(ライトパワーとも称される)をより高くすることが必要とされる。例えば単層光ディスクの場合では、6mW程度の記録パワーを必要とするのに対して、2層光ディスクの場合では、15mW程度の記録パワーが必要とされる。また、単層光ディスクの場合で、0.3mW程度の再生パワー(リードパワーとも称される)であるのに対して、2層光ディスクの場合で、0.7mW程度の再生パワーが必要とされる。これらのパワーは、対物レンズから出射されるレーザ光のパワーである。
【0010】
単層光ディスクおよび多層光ディスクの両方を使用できる光ディスク装置では、光ディスクの種類を判別して各光ディスクに対して適切な記録パワーおよび再生パワーをそれぞれ設定するようになされる。記録パワーは、各光ディスクの所定のエリアに対して試し記録することによって適切な値に設定される。再生パワーは、予め設定したパワーとなるようにAPC(Automatic Power Control) によって制御される。
【0011】
上述したように、単層光ディスクが多層光ディスクより低い記録パワーで記録できるということは、再生パワーの影響を受けて記録済のデータがダメージを受けやすいことを意味する。したがって、単層光ディスクに対しては、再生パワーを低くすることが望まれる。一方、レーザ光のノイズ(RIN:Relative Intensity Noise と呼ばれる)は、レーザパワーの発光量が多い程安定する特性を有している。
【0012】
単層光ディスクと2層以上の多層光ディスクとを共通の半導体レーザから出射されるレーザ光によって記録および再生する記録再生装置の場合に、多層光ディスクの記録パワーと単層光ディスクの再生パワーとの間の差が大きくなり、レーザの最大出射パワーに対して、再生パワーが非常に低いものとなる。したがって、レーザノイズが問題とならない程度の出射パワーでもって、光ピックアップ内の半導体レーザを発光させ、一方では、対物レンズを介して出射されるレーザ光のパワーは、記録済の信号にダメージを与えないように低い値とする要請がある。記録パワーを大きくするために、結合効率を上げて最大出射パワーを高くすると、単層光ディスクの再生パワーは、レーザ出射パワーの低い不安定な部分で使用することになり、レーザノイズの影響を受ける。それを回避するために、レーザ出射パワーを上げたいが、そうすると、RF信号にダメージを与えてしまうという問題が生じる。光ピックアップ内のレーザの発光量を大きくして対物レンズの出射パワーを小さくするためには、光ピックアップの半導体レーザから対物レンズまでの結合効率を低くすれば良いが、このことは、多層光ディスクの高い記録パワーを発生する面では不利になる。
【0013】
そこで、下記の特許文献1には、光ディスクの種類に応じて透過率を可変できる光学素子を使用することが提案されている。この特許文献1においては、単層光ディスクの場合では、再生時の照射パワーを0.4mWとし、記録時の照射パワーを6mWとし、2層光ディスクの場合では、再生時の照射パワーを0.8mWとし、記録時の照射パワーを12mWと設定している。したがって、単層光ディスクの場合に、光ビーム減衰素子が光路中に挿入されるようになされている。
【0014】
【特許文献1】特開2003−257072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、光ビーム減衰素子を光路中に出し入れするための機構を設ける必要があり、光ピックアップの小型化、ローコスト化を妨げる問題があった。
【0016】
したがって、この発明の目的は、光学的減衰素子の出し入れの機構が不要で、最適再生パワーを決定することができ、レーザノイズの問題並びに記録済のRF信号に対するダメージがなく、記録パワーも確保できる光ディスク装置の再生パワー設定方法および光ディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決するために、この発明は、光ピックアップから出射されるレーザ光を光ディスクに照射し、光ディスクに記録されている信号を再生する光ディスク装置の再生パワー設定方法において、
レーザノイズの影響を受ける程度に低い再生パワーから開始して再生パワーを徐々に増加させ、
再生パワーで再生した場合の再生信号の品質を表す指標値を測定し、
再生パワーの増加に伴い指標値が減少から増加に転じ、且つ増加量が予め設定したしきい値以上になるか否かを判定し、
指標値の増加量がしきい値より小の場合には、再生パワーをより増加させ、
指標値の増加量がしきい値より大の場合には、再生パワーの増加を中止し、指標値が最小となる再生パワーを参照して、最適再生パワーを設定する再生パワー設定方法である。
【0018】
この発明は、指標値が最小となる再生パワーより低く、最も近い再生パワーを下限再生パワーと設定し、
指標値が最小となる再生パワーより高いパワーで、且つ指標値の増加量がしきい値より大の場合の再生パワーを上限再生パワーとして設定し、
上限再生パワーおよび下限再生パワーの間に最適再生パワーを設定する。
【0019】
この発明では、光ディスク上の同一のエリアを複数回トレースした後に指標値を測定することによって、指標値の変化の判別が容易となる。
【0020】
この発明は、光ピックアップから出射されるレーザ光を光ディスクに照射し、光ディスクに記録されている信号を再生する光ディスク装置の再生パワー設定方法において、
レーザノイズの影響を受ける程度に低い再生パワーから開始して再生パワーを徐々に増加させ、
再生パワーで再生した場合の再生信号の品質を表す指標値を測定し、
再生パワーの増加に伴う指標値の変化量が予め設定したしきい値以上になるか否かを判定し、
指標値の変化量がしきい値より大の場合には、再生パワーをより増加させ、
指標値の変化量がしきい値より小の場合には、再生パワーの増加を中止し、指標値の変化量がしきい値より小となる再生パワーに基づいて、最適再生パワーを設定する再生パワー設定方法である。
【0021】
この発明は、変化量がしきい値より小となる場合に、変化量を生じさせる二つの再生パワーの平均値に基づいて、最適再生パワーを設定する。
【0022】
この発明では、指標値が光ディスクから再生されたRF信号のジッタである。
【0023】
この発明では、指標値が光ディスクから再生されたウォブル信号のジッタである。
【0024】
この発明は、光ピックアップから出射されるレーザ光を光ディスクに照射し、光ディスクに記録されている信号を再生する光ディスク装置において、
光ピックアップの再生パワーを設定するための設定情報を記憶する不揮発性メモリと、
不揮発性メモリから読み出された設定情報に対応して光ピックアップの再生パワーを設定するパワー制御部と、
装着された光ディスクが単層光ディスクか、多層光ディスクかを判別するディスク判別部と、
ディスク判別部からの判別信号に応じて不揮発性メモリから装着された光ディスクに対応する再生パワーの設定情報を読み出し、読み出した設定情報をパワー制御部に与える制御部とを備え、
単層光ディスクの再生パワーを設定するための設定情報は、
レーザノイズの影響を受ける程度に低い再生パワーから開始して再生パワーを徐々に増加させ、
再生パワーで再生した場合の再生信号の品質を表す指標値を測定し、
再生パワーの増加に伴い指標値が減少から増加に転じ、且つ増加量が予め設定したしきい値以上になるか否かを判定し、
指標値の増加量がしきい値より小の場合には、再生パワーをより増加させ、
指標値の増加量がしきい値より大の場合には、再生パワーの増加を中止し、指標値が最小となる再生パワーを参照して、最適再生パワーを設定する再生パワー設定方法によって生成される光ディスク装置である。
【0025】
この発明は、光ピックアップから出射されるレーザ光を光ディスクに照射し、光ディスクに記録されている信号を再生する光ディスク装置において、
光ピックアップの再生パワーを設定するための設定情報を記憶する不揮発性メモリと、
不揮発性メモリから読み出された設定情報に対応して光ピックアップの再生パワーを設定するパワー制御部と、
装着された光ディスクが単層光ディスクか、多層光ディスクかを判別するディスク判別部と、
ディスク判別部からの判別信号に応じて不揮発性メモリから装着された光ディスクに対応する再生パワーの設定情報を読み出し、読み出した設定情報をパワー制御部に与える制御部とを備え、
単層光ディスクの再生パワーを設定するための設定情報は、
レーザノイズの影響を受ける程度に低い再生パワーから開始して再生パワーを徐々に増加させ、
再生パワーで再生した場合の再生信号の品質を表す指標値を測定し、
再生パワーの増加に伴う指標値の変化量が予め設定したしきい値以上になるか否かを判定し、
指標値の変化量がしきい値より大の場合には、再生パワーをより増加させ、
指標値の変化量がしきい値より小の場合には、再生パワーの増加を中止し、指標値の変化量がしきい値より小となる再生パワーに基づいて、最適再生パワーを設定する再生パワー設定方法によって生成される光ディスク装置である。
【0026】
この発明による光ディスク装置においては、光ピックアップにおいて、単層光ディスクおよび多層光ディスクの何れに対しても、出射レーザ光の光路中に光減衰素子が挿入されないか、または光減衰素子が挿入される。但し、光減衰素子を機械的に出し入れしないようになされる。
【発明の効果】
【0027】
この発明は、再生パワーが低いことによりレーザノイズが増加することを回避でき、且つ再生パワーが高いことにより記録済の信号に対するダメージが与えられることを回避できる最適な再生パワーを設定できる。特に、単層光ディスクと2層以上の多層光ディスクとを共通の半導体レーザから出射されるレーザ光によって記録および再生する記録再生装置の場合に、多層光ディスクの記録パワーと単層光ディスクの再生パワーとの間の差が大きくなり、レーザの最大出射パワーに対して、再生パワーが非常に低いものとなる。多層光ディスクの記録パワーが大きいということは、結合効率を上げて最大出射パワーを高くしたいことを意味する。そうすると、単層光ディスクの再生パワーは、レーザ出射パワーの低い不安定な部分で使用することになり、レーザノイズの影響を受ける。それを回避するために、レーザ出射パワーを上げたいが、そうすると、RF信号にダメージを与えてしまうという問題が生じる。このように、多層光ディスクの記録パワーと単層光ディスクの再生パワーとの間の差が大きいということは、単層光ディスクの再生パワーは、レーザの出射パワーの低い不安定な部分(RINノイズに影響を受ける)を使用することになる。若し、レーザの出射パワーが十分あるならば、結合効率を十分落として記録パワーも確保し、単層光ディスクの再生時のレーザ発光を十分安定している部分を使用できるならば問題がない。しかしながら、結合効率を下げると、多層光ディスクの記録時に必要とされるパワーを出力するための光ピックアップ内のレーザパワーが過大となり、発生することができなくなる問題が発生する。さらに、光減衰素子としてのNDフィルタを光路中に出し入れすることは、光ピックアップの小型化が阻害されることになり、好ましくない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
この発明の特許請求の範囲と対応する事項について説明する。請求項1の発明は図6のフローチャートに示される処理である。ステップST1において、レーザノイズの影響を受ける程度に低い再生パワーPr0が設定され、この再生パワーから開始して再生パワーを徐々に増加させ(ステップST5)、再生パワーで再生した場合の再生信号の品質を表す指標値(ジッタ値JT1,JT2,・・・)を測定し、再生パワーの増加に伴い指標値が減少から増加に転じ、且つ増加量が予め設定したしきい値以上になるか否かをステップST8,ST9にて判定し、指標値の増加量がしきい値より小の場合には、再生パワーをより増加させ、指標値の増加量がしきい値より大の場合には、再生パワーの増加を中止し、指標値が最小となる再生パワーPjmin を参照して、最適再生パワーを設定する再生パワー設定方法である。指標値が最小となる再生パワーPjmin より低く、最も近い再生パワーを下限再生パワーPmin と設定し、指標値が最小となる再生パワーPjmin より高いパワーで、且つ指標値の増加量がしきい値より大の場合の再生パワーを上限再生パワーPmax として設定し、上限再生パワーPmax および下限再生パワーPmin の間に最適再生パワーを設定する。請求項2の発明は、図8のフローチャートに示される処理である。再生パワーを徐々に増加させ、再生パワーで再生した場合の再生信号の品質を表す指標値を測定し、再生パワーの増加に伴う指標値の変化量が予め設定したしきい値m以上になるか否かを判定し、指標値の変化量がしきい値mより大の場合には、再生パワーをより増加させ、指標値の変化量がしきい値より小の場合には、再生パワーの増加を中止し、指標値の変化量がしきい値mより小となる再生パワーPrnおよびPr(n-1) に基づいて、最適再生パワーを設定する再生パワー設定方法である。さらに、請求項8および請求項9に記載の光ディスク装置は、図1の構成における不揮発性メモリ8に最適再生パワーを設定するための設定情報を記憶し、例えばAPCによって最適再生パワーを設定するものである。
【0029】
以下、図面を参照してこの発明の一実施の形態について説明する。図1は、この発明を適用することができる光ディスク記録再生装置を概略的に示す。光ディスク1に対して光ピックアップ2によって、情報信号の記録がなされ、また、光ディスク1から光ピックアップ2によって情報信号が再生される。光ディスク1は、ブルーレイディスク、DVD−RW、DVD−R等の記録可能な光ディスクである。光ディスク1がスピンドルモータ5によって所定の回転速度で回転される。
【0030】
光ピックアップ2は、記録再生のためのレーザ光源と、このレーザ光源から出射されたレーザ光を対物レンズを介して光ディスク1の記録面に集光させ、この光ディスク1からの反射光を取り込む光学系と、この光学系によって取り込んだ反射光を検出する光検出器とから構成されている。
【0031】
また、光ピックアップ2内には、電磁アクチュエータで実現されるレーザ光位置調整機構が搭載されており、アクチュエータによって対物レンズがフォーカス方向とトラッキング方向に移動制御される。
【0032】
光ピックアップ2が光ディスク1に対してレーザ光を照射して光ディスク1からの戻り光情報を光検出器によって電気信号に変換し、光ピックアップの出力電気信号がアナログフロントエンド3に供給される。アナログフロントエンド3からフォーカスエラー信号FE、トラッキングエラー信号TE、RF信号RFおよびウォブル信号が出力される。これらの信号が信号処理部4に対して供給される。
【0033】
信号処理部4は、例えばDSP(Digital Signal Processor)を備えており、記録信号処理部、再生信号処理部、サーボ等の制御部等が含まれている。インターフェース6を介して記録データが信号処理部4に供給される。光ディスク1からの再生RF信号に基づいて得られた再生データがインターフェース7を介して出力される。
【0034】
信号処理部4に関連して不揮発性メモリ8が設けられている。不揮発性メモリ8には、光ディスク装置の動作に必要な種々の情報が記憶されている。この発明に関連する記憶情報としては、記録時に光ピックアップ2から出射される記録パワーの設定のための記録パワー設定情報と、再生時に光ピックアップ2から出射される再生パワーの設定のための再生パワー設定情報とがある。
【0035】
単層光ディスクの再生パワーの設定情報は、後述するように求められ、不揮発性メモリ8に格納される。さらに、2層光ディスクに関する再生パワーを制御するためのAPCの目標値も不揮発性メモリ8に記憶される。2層光ディスクに関する再生パワーは、比較的大きく、単層光ディスクの再生パワーのように、レーザノイズの影響が生じないので、設計的に予め求められて所定の値が制御のための情報として使用される。
【0036】
これらのパワーの設定は、例えばAPC部9によって制御される。APC部9は、光ピックアップ2内の光検出器の出力から半導体レーザの出射パワーを検出し、この出射パワーが不揮発性メモリ8から読み出された設定情報に基づいて制御される。光ディスク1が単層光ディスクの場合と、多層例えば2層光ディスクの場合とでは、パワーが相違するので、光ディスクの種類を判別するためのディスク判別器10がアナログフロントエンド3に関連して設けられている。ディスク判別器10の判別出力が信号処理部4内の制御部に供給され、制御部が光ディスクの種類と記録モードまたは再生モードに対応して適切な設定情報をAPC部9に供給する。ディスク判別器10は、例えば光ディスクの反射率の相違に基づいて光ディスクの種類を判別する。他に、光ピックアップを光ディスクに対して徐々に接近させた時に、フォーカスエラー信号のS字カーブが2回発生する場合に、当該光ディスクを2層光ディスクと判別する。
【0037】
信号処理部4内のサーボ制御部は、受け取ったフォーカスエラー信号FEからフォーカスを制御するためのフォーカスドライブ信号を生成し、また、受け取ったトラッキングエラー信号TEからトラッキングを制御するためのトラッキングドライブ信号を生成する。さらに、信号処理部4内のサーボ制御部は、光ピックアップ2を目標位置に移動させるためのスレッドモータを駆動するスレッドドライブ信号を生成する。これらのフォーカスドライブ信号、トラッキングドライブ信号およびスレッドドライブ信号が信号処理部4から光ピックアップ2に対して供給され、光ディスク1上の所望の位置にレーザビームが照射される。
【0038】
光ピックアップ2の構成の一例を図2を参照して説明する。図示の光ピックアップ2の構成は、ブルーレイディスクに対して適用されるものである。参照符号11で示す半導体レーザからのレーザビームが光学減衰素子例えばNDフィルタ12を介してプリズム13に対して入力される。NDフィルタ12は、半導体レーザの出射パワーを大としてレーザノイズRINを低減するために設けられている。NDフィルタ12を必ずしも設けないでも良い。プリズム13を透過した一部のレーザビームがディテクタ14に照射される。ディテクタ14は、レーザパワーの出射量を測定し、測定結果に基づいてレーザパワーを所定のものに制御するAPCのためのものであり、検出出力がAPC部9に供給される。
【0039】
プリズム13で反射されたレーザビームが偏光ビームスプリッタ15と、コリメータレンズ16と、1/4波長板17と対物レンズ20を介して光ディスク1上の照射される。コリメータレンズ16が球面収差補正のための光軸方向に変位可能に設けられている。対物レンズ20は、アクチュエータ21によって、フォーカス方向およびトラッキング方向に変位可能とされ、信号処理部4からのフォーカスドライブ信号およびトラッキングドライブ信号によってアクチュエータ21が駆動される。
【0040】
光ディスク1からの戻りレーザビームが対物レンズ20、1/4波長板17、コリメータレンズ16を介して偏光ビームスプリッタ15に入射される。偏光ビームスプリッタ15によって戻りレーザビームが反射され、集光レンズ18を介してディテクタ19に供給される。
【0041】
ディテクタ19は、例えば4分割ディテクタの構成とされ、ディテクタ19の各分割ディテクタの出力信号を演算することによって、フォーカスエラー信号FE、トラッキングエラー信号TE、RF信号RFが得られる。
【0042】
上述したNDフィルタ12が無い状態とすると、効率が高くなり、低いレーザ出射パワーでも対物レンズ20からの出射パワーが高くなる。このことは、同じ半導体レーザを使用しても高出力が可能となり、多層光ディスクに対する記録時に高パワーが必要となる場合に有利である。しかしながら、再生レーザビームを出射する場合には、半導体レーザ11の出射パワーが低く、レーザノイズRINの影響を受けやすい問題が生じる。
【0043】
具体的な例について述べると、BD−RE(ブルーレイディスク リライタブル)の単層光ディスクでは、再生パワーが通常0.3〜0.35mW程度である。単層光ディスクの再生パワーがかなり低いので、安定にレーザが発振できず、レーザノイズが多くなる。
【0044】
そこで、再生パワーを高くすると、今度は記録済RF信号が消去されてしまう問題が生じる。ブルーレイディスクの場合では、1−7PP(Parity preserve/Prohibit Repeated Minimum Transition Length) 方式で変調されたRF信号が光ディスク1上に記録されている。この1−7PP変調方式では、反転間隔の最小値が2Tであり、最大値が8Tである。上述したように、RF信号が消去されるとは、この最小反転間隔(2T)の信号が影響を受けて、再生できなるなることである。
【0045】
本出願の発明者の実験によると、0.6mW程度のパワーが2T信号に対して影響することが確かめられた。したがって、単層光ディスクに関する再生パワーを高くすることに限界がある。すなわち、レーザノイズに対しては、半導体レーザのパワーを高くしたいが、記録済RF信号に対しては、再生パワーを低くしたいと相反する要請が存在する。
【0046】
対物レンズ20から出射される再生パワーを低くしても、レーザノイズを増加させない方法の一つとして、結合効率を下げて光ピックアップ内のレーザパワーを高くする方法がある。しかしながら、結合効率を下げると、2層光ディスクの記録時に必要とされるパワーを出力するための光ピックアップ内のレーザパワーが過大となり、発生することができなくなる問題が発生する。
【0047】
記録時には、NDフィルタのような光減衰素子を通らず、再生時には、光減衰素子を通す切り換え構成は、一つの解決方法であるが、光減衰素子を光路中に挿入、離脱させるための機構が必要となり、光ピックアップの小型化が妨げられる問題が生じる。
【0048】
この発明は、光減衰素子の光路中に選択的に挿入する機構を設けずに、レーザノイズの影響を軽減し、且つ記録済の信号に悪影響を与えないように、最適な再生パワーを設定するものである。
【0049】
再生パワーに対するRFジッタの特性の一例を図3に示す。RFジッタとは、光ディスクのトラックから再生されたRF信号の時間軸方向の信号のズレ、信号の揺らぎの量を意味し、タイムジッタとも称される。但し、この発明は、RFジッタ以外にビットエラーレート等のドライブの再生性能を評価するのに使用される値(指標値と称する)を使用しても良い。通常、ジッタが多いとノイズが増大したり、再生信号のエラーレートが悪化する。横軸が再生パワー(mW)の変化であり、縦軸がRFジッタ(%)である。
【0050】
図3に示すように、再生パワーが0.3(mW)より少なくなるにしたがって、ジッタが増加する。これは、レーザノイズRINあるいは信号のS/Nの影響によるのである。また、再生パワーが0.6(mW)を超えると、ジッタが増加する。これが再生パワーの増大によって、記録済の信号が再生レーザビームにより損傷を受けるためである。
【0051】
図5は、ジッタ測定のための構成の一例である。この構成は、光ディスク装置(例えば図1の構成)において、信号処理部4に設けられている。光ディスクからの再生RF信号31がA/Dコンバータ32に供給されてディジタル信号へ変換される。A/Dコンバータ32の出力信号がプリイコライザ33を介して適応イコライザ34に供給される。プリイコライザ33は、最短(2T)のマーク長の振幅を持ち上げるためのものである。適応イコライザ34は、プリイコライザ33によって生じる歪みを補正するイコライザである。
【0052】
適応イコライザ34の出力信号がビタビデコーダ35に供給され、ビタビデコーダ35から再生ビット系列が得られる。再生ビット系列が復調器36にて1−7PP変調の復調がなされ、再生データ37が後段の回路例えばフォーマット分解回路に供給される。ビタビデコーダ35から分離された再生ビット系列がジッタ測定部38に供給され、ジッタ測定部38から測定されたジッタが得られる。
【0053】
ジッタを測定する方法としては、いくつかの方法が知られている。例えば光ピックアップからの再生RF信号をプリイコライザ33(2T部分の振幅増加特性を有する)を通した信号の基準クロックに対する時間的な揺らぎ量を求める方法である。他の方法は、光ピックアップからの再生RF信号をプリイコライザ33と適応イコライザ34を通した信号の基準クロックに対する時間的な揺らぎ量を求める方法である。
【0054】
さらに、PRML(Partial Response Maximum Likelihood) 再生系の内部状態から求めた値を指標値として使用する方法を使用しても良い。例えば再生波形と理想波形(ノイズが無い場合の再生波形)とを比較することによって指標値を求め、求まった指標値をジッタとして扱う方法を使用しても良い。具体的には、パスメトリックの差分SAM(Sequence Amplitude Margin) を指標値として使用することができる。さらに、MLSE(MaximumLikelihood Sequence Error)を指標値として使用しても良い。
【0055】
最適な再生パワーを求めるための処理の流れを図6のフローチャートに示す。このフローチャートに表す処理は、信号処理部4(図1参照)に備えられているマイクロプロセッサの制御によって行われる。図6のフローチャートに示す処理は、光ディスクに記録済の信号に対してダメージを与えるものであるため、光ディスク記録再生装置の工場出荷時においてなされる。
【0056】
ステップST1は、初期設定処理のステップである。再生パワーが基準再生パワーRrに設定される。最適再生パワーを求めるための最適再生パワー係数Kが設定され、また、ジッタの悪化の程度に関するジッタ閾値Jsが設定される。最適再生パワー係数Kは、0〜1の値に設定され、ジッタ閾値Jsが+の値に設定される。また、ここで、基準再生パワーRrは、十分低いパワーであり、レーザノイズの影響を受ける程度のパワーとする。
【0057】
ステップST2において、ドライブ調整がなされる。ドライブ調整は、サーボ調整、RF信号の振幅調整等の再生を行うための調整である。
【0058】
ステップST3において、上述したような方法を使用して再生パワーPr0=Rrにおけるジッタ値JT0が測定される。再生パワーとジッタ値との関係(Pr0:JT0)が装置のRAM等のメモリに保存される。
【0059】
ステップST4において、ステップST3において求められたジッタ値JT0が最小ジッタ値JTmin にセットされ、再生パワーPr0が下限再生パワーPmin にセットされる。また、変数としてのカウント値nが1にセットされる。
【0060】
ステップST5において、カウント値nが+1されると共に、再生パワーが+A(mW)される。すなわち、再生パワーがPrn=Pr(n−1)+Aとされる。カウント値nが+1される毎に再生パワー(レーザの出射パワー)がA(mW)上昇される。ここで、変化幅A(mW)は、0.02〜0.1(mW)のように、再生パワーの変化に伴うジッタ値の変化が十分判別できるものに設定される。
【0061】
ステップST6において、再生パワーが高くされたのに応答して、サーボ調整、RF振幅調整がなされる。ステップST2において調整されたものを基準として、(Pr0/Prn)倍のゲインを設定して、アナログフロントエンド3においてサーボ信号、RF信号の振幅が最適とされる。但し、アナログフロントエンド3または信号処理部4にAGCが備えられているシステムの場合では、ステップST6の調整工程を設けないくても良い。
【0062】
ステップST7において、再生パワーPr1におけるジッタ値JT1が測定される。再生パワーとジッタ値との関係(Pr1:JT1)が装置のRAM等のメモリに保存される。
【0063】
ステップST8において、ステップST7において再生パワーを+Aした時に測定されるジッタ値JTnが以前に求められているジッタ値JTmin より小さいか否かが判定される。(JTmin >JTn)の関係がある場合には、ステップST9において、JTmin およびPjminが更新される。すなわち、ジッタ値JTnが新たな最小ジッタ値JTmin とされ、再生パワーPrnが新たなジッタ値が最小となる再生パワーPjminとされる。
【0064】
そして、ステップST9において、ジッタ値がそれまでの最小ジッタ値JTmin 以上となったと判定されると、ステップST10において、ジッタの増加量が閾値Js以上か否かが判定される。ステップST10において、(JTn≧JTmin +Js)か否かが判定される。ジッタ値JTnがJTmin にジッタ閾値Jsを加えたものより小さいと判定されると、ステップST11に処理が移り、nが+1される。そして、ステップST5(再生パワーを+Aする)に処理が戻り、上述したのと同様に、ステップST6(サーボゲイン調整およびRF信号調整)、ステップST7(ジッタ測定)、ステップST8(判定)、ステップST9(JTmin およびPjminの更新)、ステップST10(判定)の処理がなされる。
【0065】
ステップST10において、ジッタ値JTnがJTmin に対する差分がジッタ閾値Js以上であると判定されると、ステップST12において、そのジッタ値JTnに対応する再生パワーPrnが上限再生パワーPmax とされる。
【0066】
ステップST13において、Pmax およびPmin が検出される。ジッタ値が最小となる再生パワーPjminよりも高いパワーでジッタ閾値Jsを超えたパワーは、ステップST13において求められた上限再生パワーPmax となる。ジッタ値が最小となる再生パワーPjminよりも低いパワーでジッタ閾値Jsを超えたパワーは、(Pr0:JT0、Pr1:JT1、・・・、Prn:JTn)の関係から求め、下限再生パワーPmin とする。この場合、ジッタ閾値を超えた中でPjminに最も近いパワーがPmin とされる。
【0067】
ステップST14において、最適再生パワーを下式により求める。
Pmin +(Pmax −Pmin )×K
ここで、Kは、最適パワー係数(0〜1)である。K=0であれば、Pmin が最適再生パワーとなり、K=1であれば、Pmax が最適再生パワーとなる。
【0068】
最適パワー係数Kの値は、レーザノイズRINに対するマージン(Pmin 側)と、RF信号に対するダメージが与えられないようにするためのマージン(Pmax 側)を考慮して設定される必要がある。すなわち、記録済のRF信号にダメージが与えられるのは、大きな問題であるので、Kの値は、0.5以下とすることが望ましい。記録済のRF信号にダメージを加えるまで、再生パワーを上げるため、十分低いパワーから高いパワーに変えていくのに注意する必要がある。
【0069】
上述したように設定された最適再生パワーの情報が装置の信号処理部に関連して設けられている不揮発性メモリに記憶される。実際には、再生パワーは、APCによって制御されるので、不揮発性メモリに記憶されるのは、APCの目標値のレーザパワーとなる。記録再生装置が単層光ディスクを再生する場合の再生パワーが不揮発性メモリに記憶されているAPCの目標値に対応して最適再生パワーに制御される。さらに、2層光ディスクに関する再生パワーを制御するためのAPCの目標値も不揮発性メモリに記憶される。2層光ディスクに関する再生パワーは、比較的大きく、単層光ディスクの再生パワーのように、レーザノイズの影響が生じないので、設計的に予め求められて所定の値が制御のための情報として使用される。
【0070】
不揮発性メモリに対して単層光ディスクの再生パワーを設定するための情報と多層例えば2層光ディスクの再生パワーを設定するための情報とが格納されている。したがって、光ディスク装置は、装着された光ディスクが何れの光ディスクであるかを判別し、判別結果に対応する情報を不揮発性メモリから読み出して制御に使用する。例えば光ディスクの反射率の相違に基づいて光ディスクの種類を判別できる。他に、光ピックアップを光ディスクに対して徐々に接近させた時に、フォーカスエラー信号のS字カーブが2回発生する場合に2層光ディスクと判別する方法を使用しても良い。
【0071】
上述した図6のフローチャートに示される処理についてより具体的に説明する。横軸を再生パワーとし、縦軸をジッタとする変化の一例を図7に示す。図7は、この発明の理解の容易のための模式的な変化を示す。再生パワーPr0を基準再生パワーRrに設定した場合のジッタ値がJT0である。再生パワーが+AのステップでPr1(n=1),Pr2(n=2),Pr3(n=3),・・・と順次増加される。
【0072】
再生パワーがPr3(n=3)までは、ジッタ値がJT1,JT2,JT3と減少するので、ステップST8,ステップST9,ステップST10,ステップST11の処理が行われる。そして、ステップST11において、(n=4)とされると、ステップST8では、(JTmin =JT3>JT4)の関係が成立せず、JTmin およびPjminが更新されない。但し、ステップST10の判定において、JT3とJT4のジッタ値の差分がジッタ閾値Jsより小と判定され、ステップST11において、n=5とされる。
【0073】
ジッタ値JT5は、保存されているJTmin より大きく、且つJTmin に対する差分がジッタ閾値Js以上であるので、ステップST10からステップST12に処理が移る。ステップST12において、再生パワーPr5がPmax とされる。
【0074】
ステップST13において、ジッタ値が最小となるパワーPjmin(この例ではPr3)よりも低いパワーで、ジッタ値が(JTmin +ジッタ閾値Js)を超えたパワー値で最もPjminに近いパワーPr2が下限再生パワーPmin とされる。ここで、ジッタ閾値Jsは、(JT4−JT3(JTmin )<Js≦JT2−JT3(JTmin )ということになる。そして、ステップST14において、
Pr2+(Pr5−Pr2)×K
の演算によって求められた再生パワーが最適再生パワーとして設定される。
【0075】
図7の具体例からも分かるように、再生パワーがPjmin(この例ではPr3)の場合に、ジッタ値JT3が最小ジッタ値JTmin となる。この下限(ボトム)の再生パワーは、再生パワーを増加させてレーザノイズRINが徐々に減少して最小値となった再生パワーである。さらに、再生パワーが大きくなると、記録済のRF信号がダメージを受けてRFジッタが増加する。したがって、ジッタ値が最小となる再生パワーが最適な値であるが、実際には、ある程度の変動が存在するので、マージンを考えた場合に最適とは言えないので、Pjminより低いパワーで、ジッタ値が(JTmin +Js)を越えたパワー値で最もPjminに近いパワーPmin (=Pr2)に基づいて最適再生パワーを設定することによって、レーザノイズの影響が少なく且つRF信号にダメージが与えられない再生パワーを設定できる。
【0076】
図4に示すように、再生パワーとRFジッタの関係は、1回でジッタを測定した時と、光ディスクの測定用信号が記録されているエリアを10回トレースした後にジッタを測定した時とで異なったものとなる。10回トレースした後では、再生パワーが大きい領域において、RF信号のダメージが大きいために、ジッタがより大きなものとなる。したがって、上述したこの発明の一実施の形態において、ジッタ測定を行う場合に、複数回のトレースを繰り返した後の再生RF信号を使用することによって、再生パワーによるRF信号の消去の程度をより明確に測定できる。
【0077】
上述したこの発明の一実施の形態では、RF信号を記録した単層光ディスクを再生し、RFジッタを測定して最適な再生パワーを求めている。一実施の形態は、記録済のRF信号に対してダメージを与えてしまうために、ディスク上の再生領域が一回のジッタの測定毎に切り替えられる。光ディスクの全領域を使用してしまった場合には、光ディスクを交換するか、再度RF信号を記録しなおす必要がある。
【0078】
以下に説明するこの発明の第2の実施の形態は、記録済RF信号に対してダメージを与えないようにしたものである。
【0079】
図8のフローチャートに示すように、第2の実施の形態では、光ディスク記録再生装置の製造出荷時において、RF信号が記録されている光ディスクにおいて、十分低い再生パワーからパワーを徐々に増加させた時のRFジッタ変化率を用いて最適再生パワーが求められる。この変化率が予め設定しているジッタ変化率閾値より小となったことを検出して最適再生パワーを求めるものである。したがって、第2の実施の形態では、RF信号がダメージを受けるまで、再生パワーを増大させる必要がない。
【0080】
ステップST21の初期設定処理において、再生パワーが基準再生パワーRrに設定される。最適再生パワーを求めるための最適再生パワー係数Dが設定され、また、ジッタ変化率閾値mが設定される。最適再生パワー係数Dは、レーザノイズに対するマージンをかせぐための係数である。ジッタ変化率閾値mは、例えば0.2〜0.5%程度に選ばれる。また、ここで、基準再生パワーRrは、十分低いパワーであり、レーザノイズの影響を受ける程度のパワーとする。
【0081】
ステップST22において、ドライブ調整がなされる。ドライブ調整は、サーボ調整、RF信号の振幅調整等の再生を行うための調整である。
【0082】
ステップST23において、上述したような方法を使用して再生パワーPr0=Rrにおけるジッタ値JT0が測定される。再生パワーとジッタ値との関係(Pr0:JT0)が装置のRAM等のメモリに保存される。
【0083】
ステップST24において、変数としてのカウント値nが1にセットされる。
【0084】
ステップST25において、カウント値nが+1されると共に、再生パワーが+A(mW)される。すなわち、再生パワーがPrn=Pr(n−1)+Aとされる。カウント値nが+1される毎に再生パワーがA(mW)上昇される。ここで、変化幅A(mW)は、0.02〜0.1(mW)のように、再生パワーの変化に伴うジッタ値の変化が十分識別できるものに設定される。
【0085】
再生パワーが高くされたので、サーボのゲイン、RF信号の振幅などが変化する。このため、ステップST26において、サーボ調整、RF振幅調整がなされる。ステップST22において調整されたものを基準として、(Pr0/Prn)倍のゲインを設定して、アナログフロントエンド3においてサーボ信号、RF信号の振幅が最適とされる。但し、アナログフロントエンド3または信号処理部4にAGCが備えられているシステムの場合では、ステップST26の調整工程を設けないくても良い。
【0086】
ステップST27において、再生パワーPr1におけるジッタ値JT1が測定される。再生パワーとジッタ値との関係(Pr1:JT1)が装置のRAM等のメモリに保存される。
【0087】
ステップST28において、再生パワーを+Aする前のジッタ値JTn-1 とステップST27で測定されたジッタ値JTnとが比較される。すなわち、(|JTn-1 −JTn|≦m)の処理がなされ、ジッタ値の変化量の絶対値が変化率閾値m以下か否かが調べられる。(JTn−JTn-1 )を演算しても良い。ジッタ値の変化量の絶対値が変化率閾値mより大きいことは、再生パワーの増加によるノイズの減少の割合が大きく、レーザノイズの影響が大きいことを意味する。この場合には、カウント値がステップST29において+1され、ステップST25で再生パワーが+Aされ、以下、ステップST26、ステップST27およびステップST28の処理を繰り返す。
【0088】
そして、ジッタ値の変化量の絶対値が変化率閾値m以下となるまで、再生パワーをAづつ高くする。ステップST28において、ジッタ値の変化量が変化率閾値m以下であると判定されると、ステップST30にて下式によって最適再生パワーが求められる。最適再生パワー係数Dは、例えば1.5とされる。
【0089】
(Prn+Pr(n-1) )/2×D
【0090】
または、下記の式で最適再生パワーを計算するようにしても良い。
【0091】
Prn×D
【0092】
上述したように設定された最適再生パワーに対応する制御情報(例えばAPCの目標値の情報)が装置の信号処理部に関連して設けられている不揮発性メモリに記憶される。そして、記録再生装置が単層光ディスクを再生する場合の再生パワーが不揮発性メモリに記憶されている制御情報に基づいて最適再生パワーに設定される。
【0093】
上述したこの発明の一実施の形態および他の実施の形態においては、所定のRF信号が記録されている光ディスクを用意し、この光ディスクを再生して再生パワーが調整される。他の実施の形態は、記録されているRF信号に対してダメージを与えないで最適再生パワーに調整することができるので、市場への出荷後において、RF信号の記録された光ディスクを使用して調整が可能である。さらに、光ディスクの所定の領域例えば最内周領域に設けられたOPC(Optimum Power Control) エリアにテスト的に所定の信号を記録することによって、上述したこの発明の一実施の形態および他の実施の形態による再生パワーの調整を行うようにしても良い。
【0094】
上述した説明では、RF信号のジッタに基づいて最適再生パワーが設定されているが、光ディスクからのウォブル信号に基づいて再生パワーを調整するようにしても良い。書き込み可能な光ディスクの場合では、ブランクディスクの場合でも、ディスク上の位置(アドレス)を規定するために、らせん状の連続したグルーブ(溝)が予め形成され、グルーブをウォブルさせることによって、アドレスを記録するようにしている。
【0095】
図9に示すように、ウォブリンググルーブ51をレーザビームのスポット52が読み取る時に、トラック方向に一致した線で分割された2分割ディテクタの各ディテクタ53aおよび53bの受光信号の差分がウォブル信号として得られる。ウォブル信号ジッタも、RF信号のジッタと同様にレーザノイズによって悪化するので、上述したこの発明の一実施の形態および他の実施の形態と同様の方法によってウォブル信号に基づいて最適再生パワーを求めることができる。
【0096】
以上、この発明の複数の実施形態について説明したが、この発明は、上述した実施の形態等に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】この発明を適用できる光ディスク装置のサーボ制御系のブロック図である。
【図2】この発明を適用できる光ディスク装置において使用される光ピックアップの一例の構成を示す略線図である。
【図3】再生パワーとRFジッタの関係の測定結果の一例を示すグラフである。
【図4】再生パワーとRFジッタの関係の測定結果の一例を示すグラフである。
【図5】RFジッタを測定する構成の一例を示すブロック図である。
【図6】この発明の一実施の形態の処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】この発明の一実施の形態の処理の流れを具体的に説明するために使用するグラフである。
【図8】この発明の他の実施の形態の処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】ウォブルグルーブの説明に使用する略線図である。
【図10】この発明を適用できる2層光ディスクの説明に使用する略線図である。
【符号の説明】
【0098】
1 光ディスク
2 光ピックアップ
3 アナログフロントエンド
4 信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ピックアップから出射されるレーザ光を光ディスクに照射し、光ディスクに記録されている信号を再生する光ディスク装置の再生パワー設定方法において、
レーザノイズの影響を受ける程度に低い再生パワーから開始して再生パワーを徐々に増加させ、
上記再生パワーで再生した場合の再生信号の品質を表す指標値を測定し、
再生パワーの増加に伴い上記指標値が減少から増加に転じ、且つ増加量が予め設定したしきい値以上になるか否かを判定し、
上記指標値の上記増加量が上記しきい値より小の場合には、上記再生パワーをより増加させ、
上記指標値の上記増加量が上記しきい値より大の場合には、上記再生パワーの増加を中止し、上記指標値が最小となる再生パワーを参照して、最適再生パワーを設定する再生パワー設定方法。
【請求項2】
上記指標値が最小となる再生パワーより低く、最も近い上記再生パワーを下限再生パワーと設定し、
上記指標値が最小となる再生パワーより高いパワーで、且つ上記指標値の上記増加量が上記しきい値より大の場合の上記再生パワーを上限再生パワーとして設定し、
上記上限再生パワーおよび上記下限再生パワーの間に上記最適再生パワーを設定する請求項1記載の再生パワー設定方法。
【請求項3】
光ディスク上の同一のエリアを複数回トレースした後に上記指標値を測定する請求項1記載の再生パワー設定方法。
【請求項4】
光ピックアップから出射されるレーザ光を光ディスクに照射し、光ディスクに記録されている信号を再生する光ディスク装置の再生パワー設定方法において、
レーザノイズの影響を受ける程度に低い再生パワーから開始して再生パワーを徐々に増加させ、
上記再生パワーで再生した場合の再生信号の品質を表す指標値を測定し、
再生パワーの増加に伴う上記指標値の変化量が予め設定したしきい値以上になるか否かを判定し、
上記指標値の上記変化量が上記しきい値より大の場合には、上記再生パワーをより増加させ、
上記指標値の上記変化量が上記しきい値より小の場合には、上記再生パワーの増加を中止し、上記指標値の上記変化量が上記しきい値より小となる再生パワーに基づいて、最適再生パワーを設定する再生パワー設定方法。
【請求項5】
上記変化量が上記しきい値より小となる場合に、上記変化量を生じさせる二つの再生パワーの平均値に基づいて、最適再生パワーを設定する請求項4記載の再生パワー設定方法。
【請求項6】
上記指標値が光ディスクから再生されたRF信号のジッタである請求項1または4記載の再生パワー設定方法。
【請求項7】
上記指標値が光ディスクから再生されたウォブル信号のジッタである請求項1または4記載の再生パワー設定方法。
【請求項8】
光ピックアップから出射されるレーザ光を光ディスクに照射し、光ディスクに記録されている信号を再生する光ディスク装置において、
上記光ピックアップの再生パワーを設定するための設定情報を記憶する不揮発性メモリと、
上記不揮発性メモリから読み出された上記設定情報に対応して上記光ピックアップの再生パワーを設定するパワー制御部と、
装着された光ディスクが単層光ディスクか、多層光ディスクかを判別するディスク判別部と、
上記ディスク判別部からの判別信号に応じて上記不揮発性メモリから装着された光ディスクに対応する上記再生パワーの設定情報を読み出し、読み出した上記設定情報を上記パワー制御部に与える制御部とを備え、
単層光ディスクの再生パワーを設定するための設定情報は、
レーザノイズの影響を受ける程度に低い再生パワーから開始して再生パワーを徐々に増加させ、
上記再生パワーで再生した場合の再生信号の品質を表す指標値を測定し、
再生パワーの増加に伴い上記指標値が減少から増加に転じ、且つ増加量が予め設定したしきい値以上になるか否かを判定し、
上記指標値の上記増加量が上記しきい値より小の場合には、上記再生パワーをより増加させ、
上記指標値の上記増加量が上記しきい値より大の場合には、上記再生パワーの増加を中止し、上記指標値が最小となる再生パワーを参照して、最適再生パワーを設定する再生パワー設定方法によって生成される光ディスク装置。
【請求項9】
光ピックアップから出射されるレーザ光を光ディスクに照射し、光ディスクに記録されている信号を再生する光ディスク装置において、
上記光ピックアップの再生パワーを設定するための設定情報を記憶する不揮発性メモリと、
上記不揮発性メモリから読み出された上記設定情報に対応して上記光ピックアップの再生パワーを設定するパワー制御部と、
装着された光ディスクが単層光ディスクか、多層光ディスクかを判別するディスク判別部と、
上記ディスク判別部からの判別信号に応じて上記不揮発性メモリから装着された光ディスクに対応する上記再生パワーの設定情報を読み出し、読み出した上記設定情報を上記パワー制御部に与える制御部とを備え、
単層光ディスクの再生パワーを設定するための設定情報は、
レーザノイズの影響を受ける程度に低い再生パワーから開始して再生パワーを徐々に増加させ、
上記再生パワーで再生した場合の再生信号の品質を表す指標値を測定し、
再生パワーの増加に伴う上記指標値の変化量が予め設定したしきい値以上になるか否かを判定し、
上記指標値の上記変化量が上記しきい値より大の場合には、上記再生パワーをより増加させ、
上記指標値の上記変化量が上記しきい値より小の場合には、上記再生パワーの増加を中止し、上記指標値の上記変化量が上記しきい値より小となる再生パワーに基づいて、最適再生パワーを設定する再生パワー設定方法によって生成される光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−140580(P2009−140580A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316874(P2007−316874)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】