説明

光ドロップケーブルおよびその製造方法

【課題】セミなどによる光ファイバの損傷を確実に防止することができ、かつ心線取り出し性にも優れる光ドロップケーブルを得る。
【解決手段】光ファイバ心線11と、この光ファイバ心線11の両側に間隔をおいて並行配置された抗張力体12と、これらを一括被覆する外被13とを備えた光ドロップケーブル101の外被13を、55以上63以下のショアD硬度(JIS K 7215)を有するポリオレフィン樹脂で形成し、かつ、その表面に先端が光ファイバ心線11近傍に達する半融着状態のスリット状ノッチ14が設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線系ケーブルからビルや一般住宅などの加入者宅内へ引き込み配線するために使用される光ドロップケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットなどの通信サービスの普及に伴い、通信事業者から加入者宅までの全区間を光ファイバで結ぶFTTH(Fiber To The Home)が急速に拡大してきている。このようなFTTHにおいて、加入者宅近傍の光配線網は、電柱を用いた架空配線が一般的であり、電柱に架渉した配線ケーブルから光ドロップケーブルを用いて加入者宅に引き落とす方式が主に採用されている。
【0003】
この光ドロップケーブルは、一般に、光ファイバ心線を挟んでその上下に抗張力体を配置し、さらにその上に支持線を配置し、これらの外周にポリエチレンなどの熱可塑性樹脂を一括押出被覆して外被を設けた構造を有する。このケーブルの支持線と抗張力体の間には、ケーブル部の支持線部からの分離を容易にするため、連結部(首部)が設けられ、また、ケーブル部の外被の両側面には、光ファイバ心線の取出しを容易にするため、断面V字状の引き裂き用ノッチが設けられている。
【0004】
ところで、近時、クマゼミなどの害虫が光ドロップケーブルに産卵管を突き刺し光ファイバを損傷させて、情報伝達に支障が生じる問題が発生している。そして、この損傷は、特に引き裂き用ノッチ部分に挿入された産卵管によるものであることが確認されており、引き裂き用ノッチが断面V字状という産卵管が挿入しやすい形状であることや、引き裂き用ノッチ形成部分の外被の厚さが薄くなっていることなどが、その理由であると考えられている。
【0005】
そこで、クマゼミなどの産卵管による光ファイバの被害を防止するため、例えば、(1)外被内に光ファイバ心線を保護する保護部材を設ける(例えば、特許文献1参照。)、(2)引き裂き用ノッチの先端を光ファイバ心線の位置からずらし、万一、ノッチにクマゼミなどの産卵管が突き刺さっても光ファイバ心線を損傷させないようにする(例えば、特許文献2参照。)、(3)ノッチ開口部を剥離可能な材料で塞ぐ(例えば、特許文献3参照。)、(4)外被に、切断後に切断面同士を接着させた切り込み部を設ける(例えば、特許文献4参照。)など、ケーブル構造自体に様々な対策を施したものが提案されている。
【0006】
しかしながら、(1)のケーブルでは、光ファイバ心線の取り出し性が大きく低下するうえ、部材数が多くなるためにコスト高となるなどの問題もある。(2)のケーブルでは、クマゼミなどの産卵管による被害を防止する効果が必ずしも十分ではない。(3)のケーブルでは、製造が困難であるうえ、(1)と同様、部材数の増加によってコスト高となる。さらに(4)のケーブルでは、材料によっては十分な光ファイバ心線に対する保護効果が得られなかったり、心線の取り出し性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−72380号公報
【特許文献2】特開2002−328276号公報
【特許文献3】特開2002−90596号公報
【特許文献4】特開2006−154639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術の課題に対処してなされたもので、クマゼミなどによる光ファイバの損傷を確実に防止することができ、かつ、光ファイバ心線の取り出し性にも著しく優れる光ドロップケーブル、およびそのような光ドロップケーブルを製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本願の請求項1に記載の発明の光ドロップケーブルは、光ファイバ心線と、この光ファイバ心線の両側に間隔をおいて並行配置された抗張力体と、これらを一括被覆する外被とを備えた光ドロップケーブルであって、前記外被は、55以上63以下のショアD硬度(JIS K 7215)を有するポリオレフィン樹脂で形成され、かつ、その表面に先端が前記光ファイバ心線近傍に達する半融着状態のスリット状ノッチが設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に記載の発明の光ドロップケーブルは、光ファイバ心線と、この光ファイバ心線の両側に間隔をおいて並行配置された抗張力体と、これらを一括被覆する外被とを備えたケーブル部と、前記ケーブル部を支持する支持線を備えた支持線部とを有する光ドロップケーブルであって、前記外被は、55以上63以下のショアD硬度(JIS K 7215)を有するポリオレフィン樹脂で形成され、かつ、その表面に先端が前記光ファイバ心線近傍に達する半融着状態のスリット状ノッチが設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2記載の光ドロップケーブルにおいて、前記スリット状ノッチを起点とした引き裂き強度が15N以下であり、かつ、前記スリット状ノッチ表面を直径1.0mmの針で0.5mm押圧した際の反発力が3N以上であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項記載の光ドロップケーブルにおいて、前記スリット状ノッチは、半溶融状態にある外被に切り込みを入れることによって形成されたノッチであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項記載の光ドロップケーブルにおいて、前記外被は、55以上61以下のショアD硬度(JIS K 7215)を有するポリオレフィン樹脂で形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
また、本願の請求項6に記載の発明の光ドロップケーブルの製造方法は、光ファイバ心線および抗張力体を並列させつつ押出機に導入し、その外周に加熱溶融した樹脂を押出被覆した後、前記被覆が半溶融状態にあるときに、その表面に切り込みを入れることを特徴とするものである。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項6記載の光ドロップケーブルの製造方法において、前記被覆の表面温度が前記樹脂の略融点になったときに、前記切り込みを入れることを特徴とするとするものである。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項6または7記載の光ドロップケーブルの製造方法において、前記樹脂を押出被覆した後、直ちにその被覆表面を強制冷却して前記切り込みを入れることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クマゼミなどによる光ファイバの断線を略確実に防止することができるとともに、光ファイバ心線の取り出し性にも著しく優れる光ドロップケーブルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る光ドロップケーブルを示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る光ドロップケーブルの製造に使用される製造装置の一例を示す模式図である。
【図3】スリット状ノッチの反発力の測定方法を説明する図である。
【図4】本発明の光ドロップケーブルの一変形例を示す断面図である。
【図5】本発明の光ドロップケーブルの他の変形例を示す断面図である。
【図6】本発明の光ドロップケーブルの他の変形例を示す断面図である。
【図7】本発明の光ドロップケーブルの他の変形例を示す断面図である。
【図8】本発明の光ドロップケーブルの他の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、説明は図面に基づいて行うが、それらの図面は単に図解のために提供されるものであって、本発明はそれらの図面により何ら限定されるものではない。また、以下の説明において、同一もしくは略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明の光ドロップケーブルの一実施形態を示す断面図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の光ドロップケーブル101は、電柱間に架設した配線ケーブルからビルや一般住宅などの加入者宅内へ引き込み配線するために使用されるケーブルである。この光ドロップケーブル101は、ケーブル部10と支持線部20とこれらを連結する連結部30とから構成されている。
【0022】
ケーブル部10は、1本の単心光ファイバ心線11と、この単心光ファイバ心線11の上方および下方にこれらの各中心がほぼ同一平面上に位置するように間隔をおいて並行に配置された鋼線、FRP(繊維強化プラスチック)などからなる抗張力体12、12と、これらの外側に一括して押出被覆された外被13とを備えている。
【0023】
外被13は断面が略矩形状に形成され、その両側面、光ファイバ心線が位置する部分には、ケーブル幅方向に延びる1対の半融着状態のスリット状ノッチ14、14が、それぞれの先端が光ファイバ心線11を挟んで対向するように設けられている。スリット状ノッチ14、14の各先端は、光ファイバ心線11の近傍に達している。この半融着状態のスリット状ノッチ14、14は、外被13を形成する際、外被13が半溶融状態にあるときに表面に切り込み(スリット)を入れ、そのまま冷却硬化させたものである。このようなスリット状ノッチ14、14は、見かけ上はスリットは観察されず、外被13の表面はノッチが形成されていない外被の表面と略同じ外観を呈している。
【0024】
一方、支持線部20は、鋼線などからなる支持線21と、その外周にケーブル部10の外被13および連結部30と一体に押出被覆された被覆22とから構成されている。被覆22は断面が円形状に形成されている。
【0025】
ケーブル部10の外被13、支持線部20の被覆22および連結部30は、JIS K 7215に基づいて測定されるショアD硬度(以下、単にショアD硬度という)が55以上63以下のポリオレフィン樹脂の一括押出により形成されている。ショアD硬度が前記範囲のものであれば、ポリオレフィン樹脂の種類は特に限定されるものではない。具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン、エチレンにプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィンを共重合させたエチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレン(PP)、ポリイソブチレンなどが使用される。これらは単独または混合して使用される。これらの樹脂には、難燃剤や着色剤などが配合されていてもよい。ポリオレフィン樹脂のショアD硬度が55未満であると、クマゼミなどの産卵管による被害を防止する効果が低下し、また、ショアD硬度が63を超えると、光ファイバ心線の取り出し性が低下する。ポリオレフィン樹脂のショアD硬度は、55以上61以下であることがより好ましい。
【0026】
また、上記単心光ファイバ心線11は、特に限定されるものではなく、光ファイバの外周にシリコーン樹脂や紫外線硬化型樹脂などを被覆したもの、その外周にさらにナイロン樹脂や着色剤配合の熱可塑性エラストマ、例えばポリブチレンナフタレート系熱可塑性エラストマやポリブチレンテレフタレート系熱可塑性エラストマなどを被覆したものなどが使用される。
【0027】
さらに、抗張力体12を構成する材料としては、鋼線やFRPの他、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド繊維などのアラミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル系繊維、ナイロン繊維、これらの繊維をポリエステル−アクリレート樹脂などで収束し結着させた複合材などが挙げられる。
【0028】
次に、上記光ドロップケーブル101の製造方法について記載する。
図2は、上記光ドロップケーブル101の製造に使用される装置の模式図である。図2に示すように、この製造装置は、単心光ファイバ心線11を送り出す光ファイバ心線送出装置41と、抗張力体12、12を送り出す抗張力体送出装置42、42と、支持線21を送り出す支持線送出装置43と、送り出された単心光ファイバ心線11を予備加熱する予備加熱装置44と、予備加熱された単心光ファイバ心線11、抗張力体12、12および支持線21をそれぞれ所定の位置に集合させつつ、その外周に外被13用の樹脂を被覆する押出機45と、樹脂を半溶融状態まで冷却する補助冷却水槽46と、半溶融状態とされた樹脂の所定の位置に切り込みを入れるスリット加工装置47と、樹脂をさらに冷却して硬化させる主冷却水槽48と、光ドロップケーブル101を巻き取る巻取装置49とを備えている。
【0029】
光ファイバ心線送出装置41から送り出され、予備加熱装置44で予備加熱された光ファイバ心線11、抗張力体送出装置42および支持線送出装置43からそれぞれ送り出された抗張力体12、12および支持線21は、押出機45に導入され、所定の位置に集合されつつその周囲に加熱溶融された樹脂が押し出される。光ファイバ心線11に予備加熱を施しておくことによって、樹脂被覆時に光ファイバ心線11と樹脂との界面に気泡が生ずるのを防止することができる。なお、気泡は光ファイバ心線11表面の揮発成分に起因するもので、気泡が生ずることによって冷却後の光ファイバ心線11と樹脂との界面に空隙が生ずる。予備加熱を行うことによって、かかる空隙の発生を防止することができる。
【0030】
このように樹脂が被覆された各線材(光ファイバ心線11、抗張力体12および支持線21)は補助冷却水槽46で、樹脂が半溶融状態になるまで、具体的には、樹脂の表面温度が樹脂の融点近傍(上記ポリオレフィン樹脂の場合には、通常100〜150℃、好ましくは100〜130℃)になるまで冷却された後、スリット加工装置47に送られ、半溶融状態にある樹脂にスリット状ノッチ14となる切り込みが入れられる。スリット状ノッチ14となる切り込みを入れる際の温度が、樹脂の融点より低過ぎても高過ぎても半融着状態のスリット状ノッチ14を形成することができない。すなわち、切り込みを入れる際の温度が、樹脂の融点より低過ぎると、切り込みの切断面が全く融着しないかもしくは不十分になり、クマゼミなどの産卵管が挿入されやすくなる。その結果、クマゼミなどの産卵管に対する防護効果が低下する。逆に、切り込みを入れる際の温度が、樹脂の融点より高過ぎると、切り込みの切断面が融着してしまい、スリット状ノッチ14がノッチとして機能しなくなる。つまり、スリット状ノッチ14を起点に引き裂くことができなくなる。その結果、心線の取出し性が不良となる。
【0031】
このようにして樹脂表面にスリット状ノッチ14が形成された後、主冷却水槽48で樹脂がさらに冷却され硬化されて光ドロップケーブル101が得られる。得られた光ドロップケーブル101は巻取装置49に巻き取られる。
【0032】
本実施形態の光ドロップケーブル101においては、見かけ上、引き裂き用ノッチが形成されていないため、従来のようにクマゼミなどの産卵管が光ファイバ心線11に誘導されることはない。しかも、万一、クマゼミなどの産卵管が外被13に突き刺されることがあっても、外被13は、ショアD硬度(JIS K 7215)55以上63以下という、従来の外被材料より硬い材料で形成されているので、その先端が外被13内部に深く突き刺さることはない。したがって、クマゼミなどの産卵管による光ファイバの断線を略確実に防止することができる。
【0033】
一方、単心光ファイバ心線11を取り出す際には、スリット状ノッチ14はその切断面が完全に融着しておらず半融着状態であるため、手で容易に分離することができ、この分離したスリット状ノッチ14を起点にケーブル部10を幅方向に引き裂くようにすれば、単心光ファイバ心線11を容易に取り出すことができる。
【0034】
なお、このようなクマゼミなどから光ファイバ心線11を保護し、かつ、光ファイバ心線11の取り出し性を向上させる観点からは、スリット状ノッチ14を起点とした引き裂き強度が15N以下で、かつ、図3に示すように、スリット状ノッチ14表面を直径1.0mmの針51で0.5mm押圧した際の反発力(ロードセル52により測定される)が3N以上であることが好ましい。引き裂き強度が10N以下で、かつ、上記反発力が3.5N以上であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態の光ドロップケーブル101においては、さらに、光ファイバ心線を保護する保護部材などの新たな部材を必要とすることもないため、製品価格の上昇を招くこともない。
【0036】
ここで、本発明の効果を調べるため行った実験およびその結果について記載する。
【0037】
図2に示す製造装置により、図1に示す構造の光ドロップケーブルを製造した。
すなわち、単心光ファイバ心線11と2本の抗張力体12と支持線21とを図1に示すように平行に並べた状態で押出機45に導入し、その外周に、下記に示すショアD硬度が55以上63以下の範囲にあるポリオレフィン樹脂を一括押出被覆した後、補助冷却水槽46、スリット加工装置47、主冷却水槽48を順に通過させて、全体の幅が約2.0mm、同高さが約5.3mmであって、深さ(全長)約0.5mmのスリット状ノッチ14を有する図1に示す光ドロップケーブルを製造した。単心光ファイバ心線11には、外径250μmの単心光ファイバ心線を用い、ケーブル部10の抗張力体12には、外径0.5mmのアラミドFRPを用い、支持線21には、外径1.2mmの亜鉛めっき鋼線を用いた。また、単心光ファイバ心線11の予備加熱温度は、200℃とし、さらに、スリット加工装置47を通過させる際の樹脂の表面温度(スリット加工温度)は、120℃とした。
【0038】
また、比較のために、ショアD硬度が55以上63以下の範囲にあるポリオレフィン樹脂に代えて、下記に示すショアD硬度が55未満または63を超えるポリオレフィン樹脂を用いた以外は、上記光ドロップケーブルと同様にして光ドロップケーブルを製造した。
【0039】
さらに、スリット加工装置47を通過させる際の樹脂の表面温度(スリット加工温度)を、90℃または200℃とした以外は上記各光ドロップケーブルと同様にして光ドロップケーブルを製造した。
【0040】
ポリオレフィン樹脂A:ショアD硬度43
ポリオレフィン樹脂B:ショアD硬度50
ポリオレフィン樹脂C:ショアD硬度56
ポリオレフィン樹脂D:ショアD硬度60
ポリオレフィン樹脂E:ショアD硬度61
ポリオレフィン樹脂F:ショアD硬度62
ポリオレフィン樹脂G:ショアD硬度67
【0041】
上記各光ドロップケーブルについて、スリット状ノッチを起点とした引き裂き強度、およびスリット状ノッチ表面を直径1.0mmの針で0.5mm押圧した際の反発力を測定するとともに、下記に示す方法で、クマゼミの産卵管の侵入に対する防止効果(クマゼミ防護性)を評価した。評価結果を、外被材料の種類、その物性などとともに、表1に示す。
【0042】
[クマゼミ防護性]
クマゼミが出現する期間に光ドロップケーブルを屋外に30日間に亘って布設し、クマゼミの産卵管の侵入により生じた光ファイバの断線箇所の数を調べた。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、外被材料として55以上63以下のショアD硬度を有するポリオレフィン樹脂を用いるとともに、半融着状態のスリット状ノッチを設けた光ドロップケーブル(No.3−2、4−2、5−2、6−2)では、クマゼミ防護性および心線取り出し性がいずれも良好であった。これに対し、外被材料のショアD硬度が55以上63以下の範囲外であるか、あるいは、スリット加工温度が低過ぎるか高過ぎるために半融着状態のスリット状ノッチが形成されなかった光ドロップケーブルでは、クマゼミ防護性および心線取り出し性の少なくとも一方が不良であった。これらの結果から、クマゼミ防護性および心線取り出し性を両立させるためには、外被材料として55以上63以下のショアD硬度を有するポリオレフィン樹脂を用い、かつ、半融着状態の引き裂き用ノッチを設けることが必要であることが確認された。
【0045】
なお、本発明は以上説明した実施の形態の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0046】
例えば、図4に示すように、上記実施形態において、ケーブル部10内に収容する単心光ファイバ心線11の数を2本またはそれ以上としてもよい。図4に示す光ドロップケーブル102は、図1に示す実施形態において、単心光ファイバ心線11を2本配置したものである。
【0047】
また、図5、図6に例示するように、単心光ファイバ心線11に代えて、1枚乃至複数枚の光ファイバテープ心線111を使用してもよい。図5に示す光ドロップケーブル103は、図1に示す実施形態において、1本の単心光ファイバ心線11に代えて、4本の光ファイバ素線を並列させ、その外周に一括被覆を施した光ファイバテープ心線111を1枚配置したものである。また、図6に示す光ドロップケーブル104は、図1に示す実施形態において、同様の光ファイバテープ心線111を2枚配置したものである。
【0048】
さらに、図7に例示するように、支持線部20を持たない構造とすることも可能である。図7に示す光ドロップケーブル105は、図1に示す実施形態におけるケーブル部10のみで構成されたものである。
【0049】
また、図示は省略したが、ケーブル部10を複数状、図1に示す光ドロップケーブル101のそれより大径の支持線部20の周囲に、支持線部と一体化することなく撚り合わせた構造としてもよい。このような光ドロップケーブルは、図1に示したような光ドロップケーブルを用いて光ファイバを加入者宅内に引き込む直前の電柱間に架設するいわゆる架空集合光ドロップケーブルとして使用されるものである。
【0050】
さらに、以上説明した例では、いずれもスリット状ノッチ14、14が、その先端をケーブル幅方向に延長した直線が光ファイバ心線11のほぼ中心を通るように設けられているが、例えば、図8に例示する光ドロップケーブル106は、図1に示す実施形態において、スリット状ノッチ14の一方が、光ファイバ心線11の位置より上方に、他方が、光ファイバ心線11の位置より下方に位置するように設けるようにしてもよい。この場合も、両スリット状ノッチ14の先端はいずれも光ファイバ心線11近傍に達し、かつ、光ファイバ心線11を挟んで対向した構成となっている。
【符号の説明】
【0051】
10…ケーブル部、11…単心光ファイバ心線、12…抗張力体、13…外被、14…半融着状態のスリット状ノッチ、20…支持線部、21…支持線、22…被覆、45…押出機、46…補助冷却水槽、47…スリット加工装置、48…主冷却水槽、101〜106…光ドロップケーブル、111…光ファイバテープ心線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線と、この光ファイバ心線の両側に間隔をおいて並行配置された抗張力体と、これらを一括被覆する外被とを備えた光ドロップケーブルであって、
前記外被は、55以上63以下のショアD硬度(JIS K 7215)を有するポリオレフィン樹脂で形成され、かつ、その表面に先端が前記光ファイバ心線近傍に達する半融着状態のスリット状ノッチが設けられていることを特徴とする光ドロップケーブル。
【請求項2】
光ファイバ心線と、この光ファイバ心線の両側に間隔をおいて並行配置された抗張力体と、これらを一括被覆する外被とを備えたケーブル部と、前記ケーブル部を支持する支持線を備えた支持線部とを有する光ドロップケーブルであって、
前記外被は、55以上63以下のショアD硬度(JIS K 7215)を有するポリオレフィン樹脂で形成され、かつ、その表面に先端が前記光ファイバ心線近傍に達する半融着状態のスリット状ノッチが設けられていることを特徴とする光ドロップケーブル。
【請求項3】
前記スリット状ノッチを起点とした引き裂き強度が15N以下であり、かつ、前記スリット状ノッチ表面を直径1.0mmの針で0.5mm押圧した際の反発力が3N以上であることを特徴とする請求項1または2記載の光ドロップケーブル。
【請求項4】
前記スリット状ノッチは、半溶融状態にある外被に切り込みを入れることによって形成されたノッチであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の光ドロップケーブル。
【請求項5】
前記外被は、55以上61以下のショアD硬度(JIS K 7215)を有するポリオレフィン樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の光ドロップケーブル。
【請求項6】
光ファイバ心線および抗張力体を並列させつつ押出機に導入し、その外周に加熱溶融した樹脂を押出被覆した後、前記被覆が半溶融状態にあるときに、その表面に切り込みを入れることを特徴とする光ドロップケーブルの製造方法。
【請求項7】
前記被覆の表面温度が前記樹脂の略融点になったときに、前記切り込みを入れることを特徴とする請求項6記載の光ドロップケーブルの製造方法。
【請求項8】
前記被覆の表面温度が100〜150℃になったときに、前記切り込みを入れることを特徴とする請求項6または7記載の光ドロップケーブルの製造方法。
【請求項9】
前記樹脂を押出被覆した後、直ちにその被覆表面を強制冷却して前記切り込みを入れることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項記載の光ドロップケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−224495(P2010−224495A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74696(P2009−74696)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】