説明

光ドロップケーブル

【課題】難燃性が良好で、かつ、管路布設にも十分対応可能な優れた低摩擦性、耐摩耗性、機械的強度および柔軟性を有する光ドロップケーブルを提供する。
【解決手段】光ファイバテープ心線11と、この光ファイバ心線11の両側に間隔をおいて並行配置された第1および第2の抗張力体12a、12bと、これらを一括被覆する外被13を備えた光ドロップケーブル101において、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンまたはこれらの混合物をベース樹脂とするノンハロゲン組成物中に、難燃成分として赤燐のみを、樹脂成分100質量部あたり20〜35質量部配合してなる組成物により、外被13を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線系ケーブルからビルや一般住宅などの加入者宅内へ引き込み配線するために使用される光ドロップケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ドロップケーブルにおいては、防災対策として難燃性が求められるようになり、特に、燃焼時にハロゲン化水素ガスなどの有害ガスや多量の煙を発生しないいわゆるノンハロゲンの材料による難燃性が求められてきている。
【0003】
このようなノンハロゲンの難燃性を付与した光ドロップケーブルとして、可燃性のハロゲンを含まないポリオレフィンに水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの金属水和物を配合して難燃化した組成物をケーブル外被材料として用いたものが知られている。
【0004】
しかしながら、上記光ドロップケーブルが自己消火性を備える程度に難燃化されるためには金属水和物を多量に配合する必要があり、その結果、ケーブルの耐外傷性や耐磨耗性、機械的強度などが低下し、ケーブルを加入者宅内へ引き込み配線する際の管路布設などが困難になる難点があった。
【0005】
管路への挿入を容易にするため、ケーブルの表面平滑性を改善する方法としては、例えば、ケーブル外被材料中に特定の結晶径を有するタルクを使用する方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。しかしながら、この方法では、表面平滑性は改善されるものの、被覆全体の機械的強度はほとんど改善されず、また、柔軟性もタルクによる表面改質により却って低下するため、管路布設性を十分に改善することができなかった。
【特許文献1】特開2007−140445号公報
【特許文献2】特開2007−272199号公報
【特許文献3】特開2007−270120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来技術の課題に対処してなされたもので、難燃性が良好で、かつ、管路布設にも十分対応可能な優れた低摩擦性、耐摩耗性、機械的強度および柔軟性を有する光ドロップケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る光ドロップケーブルは、光ファイバ心線と、この光ファイバ心線に間隔をおいて並行配置された抗張力体と、これらを一括被覆する外被を備えた光ドロップケーブルであって、直鎖状低密度ポリエチレンもしくは高密度ポリエチレンまたはこれらの混合物をベース樹脂とするノンハロゲン組成物中に、難燃成分として赤燐のみを、樹脂成分100質量部あたり20〜35質量部配合してなる組成物により、前記外被が形成されていることを特徴とするとするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様に係る光ドロップケーブルによれば、良好な難燃性を有するとともに、低摩擦性、耐摩耗性、機械的強度および柔軟性にも優れており、管路布設にも十分対応可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、説明は図面に基づいて行うが、それらの図面は単に図解のために提供されるものであって、本発明はそれらの図面により何ら限定されるものではない。
【0010】
図1は、本発明の光ドロップケーブルの一実施形態を示す断面図である。
【0011】
本実施形態の光ドロップケーブル101は、電柱間に架設した配線ケーブルからビルや一般住宅などの加入者宅内へ引き込み配線するための光ドロップケーブルとして使用されるものであり、ケーブル部10と支持線部20とこれらを連結する連結部30とから構成されている。
【0012】
ケーブル部10は、複数本(図面の例では、4本)の光ファイバ素線を並列させ、その外周に一括被覆を施した光ファイバテープ心線11と、この光ファイバテープ心線11の幅方向両側にそれぞれの中心がほぼ同一平面上に位置するように間隔をおいて並行に配置された鋼線、ガラス繊維強化プラスチック、アラミド繊維強化プラスチックなどからなる第1および第2の抗張力体12a、12bと、これらを一括被覆する外被13とを備えている。外被は13は、断面が長円形状もしくは矩形状に形成されている。また、外被13の光ファイバテープ心線11が位置する部分の両側面には、ケーブル端末処理などの際に光ファイバテープ心線11を取り出し易くするため、1対の引き裂き用ノッチ14a、14bが設けられている。
【0013】
一方、支持線部20は、鋼線などからなる支持線21と、その外周にケーブル部10の外被13および連結部30と一体に押出被覆された被覆22とから構成されている。被覆22は断面が円形状に形成されている。
【0014】
そして、本実施形態においては、ケーブル部10の外被13、連結部30および支持線部20の被覆22が、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンまたはこれらの混合物をベース樹脂とするノンハロゲン組成物中に、難燃成分として赤燐のみを、樹脂成分100質量部あたり20〜35質量部、好ましくは20〜35質量部配合してなる組成物により形成されている。
【0015】
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)は、α−オレフィン(プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、4−メチルペンテンなど)をコモノマーとして直鎖状ポリマーに短鎖分岐を導入した密度0.910〜0.925のポリエチレンである。具体的には、例えばモアテック0168N、モアテック0138N(以上、いずれも(株)プライムポリマー製 商品名)などが使用される。
【0016】
また、高密度ポリエチレン(HDPE)としては、密度が0.942〜0.960で、JIS K 7210に準拠して測定されるメルトフローレート(MFR)(荷重2.16kg)が0.27〜0.45g/10分のものが適しており、具体的には、例えばハイゼックス5600B、ハイゼックス5100B(以上、いずれも(株)プライムポリマー製 商品名)などが使用される。
【0017】
さらに、難燃成分として単独で配合される赤燐としては、例えばノーバクエルFST100、ノーバレッド120UF(以上、いずれも燐化学工業(株)製 商品名)などが使用される。
【0018】
ノンハロゲン組成物は、これらの直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンおよび赤燐のみを組成成分とするものであってもよいが、樹脂成分として直鎖状低密度ポリエチレンおよび高密度ポリエチレン樹脂以外に、超高分子量高密度ポリエチレン(UMWHDPE)を、直鎖状低密度ポリエチレンおよび高密度ポリエチレン樹脂の合計量の100質量部あたり35〜45質量部、好ましくは38〜43質量部の範囲で配合することができる。超高分子量高密度ポリエチレンとしては、例えばリュブマーL4000(三井化学(株)製 商品名)などが使用される。超高分子量高密度ポリエチレンを配合することにより、機械的強度、硬さが向上することで耐摩耗性、低摩擦性をさらに向上させることができる。なお、この超高分子量高密度ポリエチレンの配合量が前記上限を超えると、伸びが著しく低下して逆に機械的強度が低下する。また、前記下限に満たないと、添加による効果が得られない。
【0019】
また、ポリオレフィンに無水マレイン酸等の酸無水物を1〜10質量%程度、ジクミルパーオキサイドなどの有機化酸化物などを用いてグラフトさせた接着性ポリマーを、樹脂成分全体の20質量%を限度に配合することができる。接着性ポリマーとしては、例えば
アドテックスL6101M(日本ポリオレフィン(株)製 商品名)などが使用される。接着性ポリマーを配合することにより、伸びが向上することで機械的強度をさらに向上させることができる。なお、この接着性ポリマーの配合量が前記上限を超えると、逆に機械的強度が低下し、また、耐摩耗性が著しく低下してしまう。
【0020】
ノンハロゲン組成物には、さらに本発明の効果を阻害しない範囲で、上記直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンおよび超高分子量高密度ポリエチレン以外のポリオレフィンを含むノンハロゲンポリマーを配合することができる。このようなポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)などが挙げられる。
【0021】
また、この種のノンハロゲン組成物に通常配合される着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加工助剤、滑剤、安定剤その他の添加剤を、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で配合することができる。
【0022】
このノンハロゲン組成物は、以上の各成分をバンバリーミキサー、タンブラー、加圧ニーダ、混練押出機、ミキシングローラなどの通常の混練機を用いて均一に混合(ドライブレンド)または混練することにより容易に製造することができる。
このように得られるノンハロゲン組成物は、ノンハロゲン性の良好な難燃性を有するとともに、従来の金属水和物を用いた組成物のように、ケーブルの低摩擦性、耐摩耗性、機械的強度などを低下させることはなく、また、従来のタルクを用いた場合のように、ケーブルの柔軟性を低下させることもない。
【0023】
したがって、本実施形態の光ドロップケーブル101は、良好な難燃性を有するとともに、低摩擦性、耐摩耗性、機械的強度および柔軟性にも優れたものとなり、管路内にも作業性よく布設することができる。
【0024】
なお、本発明は以上説明した実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、図2に示す光ドロップケーブル102のように、図1に示す光ドロップケーブル101のケーブル部10のみで構成されていてもよい。この光ドロップケーブル102は、通常、地下に布設する地下光ドロップケーブルとして使用される。
【0025】
また、図1に示す光ドロップケーブル101では、外被13内に1枚の光ファイバテープ心線11が埋設されているが、例えば図3に示す光ドロップケーブル103のように、複数枚の光ファイバテープ心線11を埋設してもよい。この場合、複数枚の光ファイバテープ心線11の配置方法は特に限定されるものではない。さらに、図4に示す光ドロップケーブル104のように、光ファイバテープ心線11に代えて1本または複数本(図面の例では2本)の単心光ファイバ心線15を使用してもよい。
【0026】
さらに、抗張力体12a、12bの数や引き裂き用ノッチ14a、14bの形状なども特に限定されるものではない。
【0027】
これらの各光ドロップケーブル102〜104などにおいても、外被13が、ノンハロゲン性の良好な難燃性を有するとともに、低摩擦性、耐摩耗性、機械的強度および柔軟性にも優れる組成物により形成されているので、光ドロップケーブル101と同様、管路内にも作業性よく布設することができる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
実施例1〜28、比較例1〜6
下記に示すポリオレフィンおよび赤燐、接着性ポリマーとして無水マレイン酸変性ポリエチレン(MAHPE)(日本ポリオレフィン(株)製 商品名 アドテックスL6101M)、酸化防止剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤((株)ADEKA製 商品名 アデカスタブAO−60)、着色剤としてカーボンブラック(東海カーボン(株)製 商品名 カーボンシーストG116)、加工助剤として脂肪酸アミド滑剤(日本油脂(株)製 商品名 アルフローP−10)、滑剤としてステアリン酸系滑剤(川研ファインケミカル(株)製 商品名 LE−5)、並びに、水酸化マグネシウム(神島化学工業(株)製 商品名 マグシーズN−4)を用い、表1乃至表5に示す配合で各成分を均一に混練して樹脂組成物を得た。
LLDPE(a):(株)プライムポリマー製 商品名 モアテック0168N
LLDPE(b):(株)プライムポリマー製 商品名 モアテック0138N
HDPE(a):(株)プライムポリマー製 商品名 ハイゼックス5600B
HDPE(b):(株)プライムポリマー製 商品名 ハイゼックス5100B
UMWHDPE:三井化学(株)製 商品名 リュブマーL4000
赤燐(a):燐化学工業(株)製 商品名 ノーバクエルFST100
赤燐(b):燐化学工業(株)製 商品名 ノーバレッド120UF
【0030】
次いで、得られた樹脂組成物を用いて、図1に示す構造の光ドロップケーブルを製造した。まず、4心光ファイバテープ心線(幅1.1mm、厚さ0.3mm)11と、2本の外径0.4mmのG−FRP(ガラス繊維強化プラスチック)からなる抗張力体12a、12bと、外径1.2mmの亜鉛めっき単鋼線からなる支持線21とを、図1に示すように並列させた状態で押出し機に導入し、その外周に上記樹脂組成物を一括押出被覆して、表面に引き裂き用ノッチ14a、14bを有する外被13を形成し、幅約2mm、高さ約5.8mmの光ドロップケーブルを製造した。
【0031】
上記各実施例および各比較例で得られた光ドロップケーブルについて、下記に示す方法で各種特性を評価した。なお、機械的特性(引張強さ、伸びおよび硬さ(ショアD))は、ケーブルの製造とは別に各実施例および各比較例で得られた樹脂組成物をプレス機にて180℃×10分間、圧力20MPaの条件で加熱加圧成型して試験用シートを作製して測定した。
【0032】
[引張強さおよび伸び]
JIS K 6251に準拠して測定した。
[硬さ(ショアD)]
JIS K 6253のタイプDデュロメータにより測定した。
[難燃性]
JIS C 3005に規定される60度傾斜燃焼試験を行い、上端まで延焼しなかった場合を合格(○)とし、その他の場合を不合格(×)と判定した。
[耐摩耗性]
JIS C 3005に規定される摩耗試験機を用い、ケーブル部から切り離した支持線部に錘1kgをかけ、支持線が露出するまでの摩耗回転数を求めた。摩耗回転数が500回以上の場合を合格(○)、500回未満の場合を不合格(×)と判定した。
[動摩擦係数]
支持線部を切り離したケーブル部について、JIS K 7125に準じた方法(錘2kg、引き抜き試験片長300mm、固定試験片長150mm)で動摩擦力を測定し、次式より算出した。
μ=F/F
(μ:動摩擦係数、F:動摩擦力(N)、F:錘の質量により生じる法線力(N))
これらの結果を表1乃至表5の下欄に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
表1乃至表5から明らかなように、実施例では、外被はいずれも良好な機械的特性(破断強度10MPa以上、伸び400%以上)を有しており、光ドロップケーブルが十分な柔軟性(可撓性)を有するものであることが確認された。また、実施例の光ドロップケーブルは難燃性に優れ、かつ、管路布設に適した耐摩耗性および低摩擦性を有していた。これに対し、赤燐の配合量が過少もしくは過多であったり、水酸化マグネシウムを用いた従来タイプの光ケーブルでは、伸びが小さく、難燃性、耐摩耗性が不十分であった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態に係る光ドロップケーブルを示す断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10…ケーブル部、11…光ファイバテープ心線、12a,12b…第1および第2の抗張力体、13…外被、15…単心光ファイバ心線、20…支持線部、21…支持線、22…被覆、30…連結部、101〜104…光ドロップケーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線と、この光ファイバ心線に間隔をおいて並行配置された抗張力体と、これらを一括被覆する外被を備えた光ドロップケーブルであって、
直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンまたはこれらの混合物をベース樹脂とするノンハロゲン組成物中に、難燃成分として赤燐のみを、樹脂成分100質量部あたり20〜35質量部配合してなる組成物により、前記外被が形成されていることを特徴とする光ドロップケーブル。
【請求項2】
赤燐の配合量が、樹脂成分100質量部あたり25〜30質量部であることを特徴とする請求項1記載の光ドロップケーブル。
【請求項3】
前記ノンハロゲン組成物は、超高分子量ポリオレフィンをベース樹脂100重量部あたり35〜45質量部含有することを特徴とする請求項1または2記載の光ドロップケーブル。
【請求項4】
前記光ファイバ心線にほぼ並行に配置され、外周に前記外被と一体に形成された被覆を有する支持線を備えてなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の光ドロップケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−229518(P2009−229518A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71458(P2008−71458)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】