説明

光ファイバケーブルおよび光ファイバケーブルの製造方法

【課題】光ファイバのPMDを低減できるとともに、曲げによる伝送損失の増加も抑制できる光ファイバケーブルおよび光ファイバケーブルの製造方法を提供すること。
【解決手段】外周に長手方向に沿って螺旋方向が180°以上の反転角で周期的に反転するSZ螺旋状の収納溝が形成されたスロットと、前記スロットの収納溝内に積層して収納された光ファイバテープ心線と、を備え、前記スロットにおいて前記収納溝の螺旋方向が反転する部分を反転部とし、隣接する前記反転部間の中点を中間部とすると、前記積層した光ファイバテープ心線は、前記各反転部において積層方向が前記スロットの周方向の一方を向き、隣接する前記中間部において前記積層方向が前記スロットの径方向の互いに反対を向くように収納されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光ファイバテープ心線を収納する光ファイバケーブルおよび光ファイバケーブルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバケーブルは、外周に長手方向に沿って螺旋状の収納溝が形成されたスロットと、このスロットの収納溝内に積層して収納された光ファイバテープ心線と、このスロットの外周に形成された押巻と、この押巻の外周に形成されたプラスチック製のシースとを備えた構造をしている。この収納溝の形状としては、たとえば螺旋方向が一方向である一方向螺旋状と、螺旋方向が周期的に反転するSZ螺旋状とがある。なお、収納溝がSZ螺旋状の光ファイバケーブルは、SZ光ファイバケーブルと呼ばれる。
【0003】
一方、光ファイバは、伝播する光の速度が、直交する2つの偏波状態の光において互いに異なるという特性を有する。この特性は、偏波モード分散(Polarization Mode Dispersion,PMD)と呼ばれる。このPMDは、光ファイバが楕円化したり非対称な応力が印加したりすることによって、光ファイバに複屈折が生じることによって発生する。このPMDは、光ファイバ中を伝送する光信号の品質の劣化や伝送速度の制限の原因となるので、できるだけ低減することが好ましい。
【0004】
そこで、光ファイバケーブルに光ファイバテープ心線を収納する際に、光ファイバが元々有するPMDを低減する技術が開示されている。たとえば、特許文献1では、PMDの低減のために、光ファイバテープ心線に所定の捻回角の捻りが加わるようにして、スロットの収納溝に光ファイバテープ心線を収納する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2007−25400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される光ファイバケーブルにおいては、収納溝に積層して収納された光ファイバテープ心線のうち、積層の最上層に位置するものと、最下層に位置するものとでは、スロットの中心軸からの距離が異なるように収納される。たとえば、最上層に位置する光ファイバテープ心線は、長手方向のほとんどの部分において、最下層に位置するものよりも、スロットの中心軸から径方向の遠距離に位置するように収納されている。その結果、収納されている光ファイバテープ心線の長さが互いに異なるようになる。このような光ファイバケーブルは、曲げを加えた場合に、光ファイバテープ心線に過剰な引っ張り、たわみなどが生じ、その伝送損失が増加するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、光ファイバのPMDを低減できるとともに、曲げによる伝送損失の増加も抑制できる光ファイバケーブルおよび光ファイバケーブルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る光ファイバケーブルは、外周に長手方向に沿って螺旋方向が180°以上の反転角で周期的に反転するSZ螺旋状の収納溝が形成されたスロットと、前記スロットの収納溝内に積層して収納された光ファイバテープ心線と、を備え、前記スロットにおいて前記収納溝の螺旋方向が反転する部分を反転部とし、隣接する前記反転部間の中点を中間部とすると、前記積層した光ファイバテープ心線は、前記各反転部において積層方向が前記スロットの周方向の一方を向き、隣接する前記中間部において前記積層方向が前記スロットの径方向の互いに反対を向くように収納されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る光ファイバケーブルの製造方法は、外周に長手方向に沿って螺旋方向が180°以上の反転角で周期的に反転するSZ螺旋状の収納溝が形成されたスロットと、前記スロットの収納溝内に積層して収納された光ファイバテープ心線とを備えた光ファイバケーブルの製造方法であって、光ファイバテープ心線を整線して積層した状態にする整線工程と、前記積層した光ファイバテープ心線の積層方向を前記スロットの周方向の一方に向けた状態で、前記収納溝に該積層した光ファイバテープ心線を収納する収納工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スロットの収納溝内に積層した光ファイバテープ心線は、各反転部において積層方向がスロットの周方向の一方を向き、隣接する中間部において積層方向がスロットの径方向の互いに反対を向くように収納されていることによって、光ファイバテープ心線は、十分に捻回した状態で、積層の位置にかかわらず同じ長さで収納されているため、PMDを低減できるとともに、曲げによる伝送損失の増加も抑制できる光ファイバケーブルが実現できるという効果を奏する。
【0011】
また、本発明によれば、積層した光ファイバテープ心線の積層方向をスロットの周方向の一方に向けた状態で、収納溝に該積層した光ファイバテープ心線を収納することによって、光ファイバテープ心線を、捻回した状態で、積層の位置にかかわらず同じ長さで収納できるため、PMDを低減できるとともに、曲げによる伝送損失の増加も抑制できる光ファイバケーブルを製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、図面を参照して本発明に係る光ファイバケーブルおよび光ファイバケーブルの製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
(実施の形態)
はじめに、本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルについて説明する。図1は、本実施の形態に係る光ファイバケーブル10の模式的な断面図である。図1に示すように、この光ファイバケーブル10は、外周に8つの収納溝12aが形成され、中心に抗張力体11が配置されたスロット12と、各収納溝12a内に収納された積層した光ファイバテープ心線13と、スロット12の外周に形成した押巻14と、押巻14の外周に形成したプラスチックシース15とを備える。
【0014】
抗張力体11は、たとえば、鋼線、鋼撚線、または高張力繊維やガラス繊維を熱硬化性の樹脂で一体化したFRPロッドである。また、スロット12は、たとえばポリエチレンからなるものである。スロット12には、長手方向に沿ってスロット12の周方向の位置を識別するために黒色のマーカ12bが形成されている。また、押巻14は、たとえば不織布テープをスロット12の外周に巻いて形成される。また、プラスチックシース15は、たとえば黒色に着色されたポリエチレンからなる。
【0015】
図2は、図1に示す積層した光ファイバテープ心線13の模式的な断面図である。図2に示すように、積層した光ファイバテープ心線13は、10枚の光ファイバテープ心線が積層したものである。ここで、符号131は最上層の光ファイバテープ心線を示し、符号132は最下層の光ファイバテープ心線を示し、符号133は中間層の光ファイバテープ心線を示している。また、矢印Aは積層方向を示している。また、本明細書および図面では、図面上で積層方向が判別しやすいように、積層した光ファイバテープ心線13に、マークM1、M2を付すこととする。
【0016】
また、図2に示すように、最上層の光ファイバテープ心線131は、平面的に配列した8本の光ファイバ心線131aの外周に樹脂からなるテープ被覆131bを形成してテープ状にしたものである。光ファイバ心線131aは、ガラス光ファイバの外周に軟質層と硬質層の少なくとも2層からなる被覆が施され、さらにその外周に着色樹脂等からなる被覆を被覆されている。これらの被覆およびテープ被覆131bは、たとえば紫外線硬化型樹脂からなる。他の光ファイバテープ心線132、133も最上層の光ファイバテープ心線131と同様の構造を有している。
【0017】
つぎに、スロット12についてさらに説明する。図3は、図1に示すスロット12の側面、および等間隔に配置したB−B線、C−C線、D−D線、E−E線における矢印方向から見た断面を模式的に示す図である。図3に示すように、各収納溝12aは、スロット12の外周に、長手方向に沿って螺旋方向が周期的に反転するSZ螺旋状に形成されている。
【0018】
また、特定の収納溝12aに着目すると、収納溝12aは、紙面左側から、長手方向に沿って、B−B線までは反時計回りに螺旋回転し、B−B線からD−D線までは時計回りに螺旋回転し、D−D線から紙面右側へは反時計回りの螺旋方向となるように形成されている。すなわち、B−B線、D−D線の位置が収納溝12aの螺旋方向が反転する部分である反転部であり、B−B線、D−D線の位置の中点に対応するC−C線、およびE−E線の位置が中間部となる。なお、スロット12の外周上で収納溝12aが回転する角度の最大値として定義される反転角θは、本実施形態においては275°である。また、隣接する反転部間の長手方向に沿った距離として定義されるピッチPは400mmである。したがって、長手方向に沿った単位長さにおける収納溝12aの回転角度として定義される捻率は、約0.69°/mmである。なお、SZ螺旋状に収納溝が形成されたスロットにおいて、捻率は一般的に0.5〜2.0°/mm程度である。
【0019】
なお、この収納溝12aの幅、深さ、断面形状、およびピッチは、光ファイバケーブル10に求められる特性やスロット12の外径などに応じて、収納溝12aに収納される積層した光ファイバテープ心線13に、圧力または歪みが加わらないように適宜設計されるものである。
【0020】
つぎに、スロット12の収納溝12a内での積層した光ファイバテープ心線13の収納状態について説明する。図4は、特定の積層した光ファイバテープ心線13の収納状態を、スロット12の長手方向に沿って2ピッチ分を1/12毎、すなわち1/6ピッチ毎に示した図である。なお、図4においては、中間層の光ファイバテープ心線の幾つかを略記している。また、図4は、特定の積層した光ファイバテープ心線13の収納状態を示すものであり、実際には全ての収納溝12aに同様な状態で積層した光ファイバテープ心線13が収納されている。
【0021】
はじめに、図の左上に示した反転部であるB−B線の位置においては、スロット12の収納溝12aに収納された積層した光ファイバテープ心線13は、その積層方向が、矢印A1が示すようにスロット12の周方向の時計回りの方向を向いている。
【0022】
収納溝12aの底部からスロット12の外周に向かう方向を収納溝方向とした場合、積層した光ファイバテープ心線13は、スロット12の長手方向に沿って、時計方向に螺旋回転する収納溝12a内で、収納溝方向に対して反時計回りに捻れるように収納されている。そして、中間部であるC−C線の位置においては、積層した光ファイバテープ心線13の積層方向は、矢印A2が示すようにスロット12の径方向の外周側を向いている。つぎに、積層した光ファイバテープ心線13は、スロット12の長手方向に沿って、時計回りに螺旋回転する収納溝12a内で、今度は時計回りに捻れるように収納されている。そして、反転部であるD−D線の位置においては、積層した光ファイバテープ心線13の積層方向は、矢印A3が示すようにスロット12の周方向の時計回りの向きを向いている。
【0023】
ここで、D−D線の位置において、収納溝12aの回転方向は反転し、反時計回りになる。そして、その後の積層した光ファイバテープ心線13は、スロット12の長手方向に沿って、反時計回りに螺旋回転する収納溝12a内で、収納溝方向に対して時計回りに捻れるように収納されている。そして、中間部であるE−E線の位置においては、積層した光ファイバテープ心線13の積層方向は、矢印A4が示すようにスロット12の径方向の中心側を向いている。そして、積層した光ファイバテープ心線13は、スロット12の長手方向に沿って、反時計方向に螺旋回転する収納溝12a内で、今度は反時計方向に捻れるように収納されており、つぎの反転部において、B−B線の位置と同じ収納状態に戻る。
【0024】
図4に示す収納状態の場合、隣接する中間部であるC−C線、E−E線の位置において、積層した光ファイバテープ心線13は、その積層方向が、矢印A2、A4が示すようにスロット12の径方向の互いに反対を向くように収納されている。
【0025】
すなわち、隣接する中間部において、積層した光ファイバテープ心線13の最上層と最下層が入れ替わるように収納されている。その結果、積層した光ファイバテープ心線13の各光ファイバテープ心線131〜133は、捻回した状態で、積層の位置にかかわらず同じ長さで収納されていることとなる。したがって、光ファイバケーブル10は、曲げを加えた場合にも、積層した光ファイバテープ心線13に対する過剰な引っ張り、たわみの発生が発生せず、伝送損失の増加が抑制される。
【0026】
さらに、図5は、図4に示した反転部であるB−B線、D−D線の位置における積層した光ファイバテープ心線13の収納溝方向は無視した絶対位置の積層方向の関係を示す図である。なお、基準方向としてC−C線の位置における積層方向を示す矢印A2の方向を0°としている。図5に示すように、B−B線の位置において、積層した光ファイバテープ心線13の積層方向は、矢印A1が示すように矢印A2に対して反時計回りに角度αだけ回転した方向を向いている。一方、D−D線の位置において、積層した光ファイバテープ心線13の積層方向は、矢印A3が示すように矢印A1に対して時計回りに角度(180+α+β)、すなわち角度γだけ回転している。すなわち、積層した光ファイバテープ心線13は、180°以上の角度γだけ捻回して収納されていることとなる。その結果、積層した光ファイバテープ心線13に十分な捻りが加わり、PMDは低減される。なお、角度γは、矢印A1、A3の方向がスロット12の周方向と完全に一致していれば反転角θと同じ値である。したがって、角度γを180°以上とするためには、スロット12に形成される収納溝の反転角を180°以上とする必要がある。
【0027】
以上説明したように、本実施の形態に係る光ファイバケーブル10は、PMDを低減できるとともに、曲げによる伝送損失の増加も抑制できる。
【0028】
つぎに、本実施の形態に係る光ファイバケーブル10の製造方法の一例について説明する。図6は、光ファイバケーブル10の製造装置の構成の一例を模式的に示す図である。
【0029】
この製造装置20は、スロット供給装置21と、光ファイバテープ心線供給装置22と、収納装置23と、押巻形成装置24と、巻取り装置25とを備える。
【0030】
スロット供給装置21は、スロット12を走行させて供給する。また、光ファイバテープ心線供給装置22は、スロット12に形成された収納溝12aに収納する光ファイバテープ心線の数に対応して、ボビン221、222、223、・・・を備えている。
【0031】
収納装置23は、スロット12に形成された収納溝12aのそれぞれに対応する数だけ、整線治具231を備えている。この整線治具231は、走行するスロット12を中心軸として回転するように設けられており、光ファイバテープ心線供給装置22から供給された光ファイバテープ心線131、132、133、・・・を収束、整線し、積層した状態にするように構成されている。そして、収納装置23は、走行するスロット12を中心軸として、スロット12の収納溝の軌跡に合わせるように整線治具231を回転させながら、光ファイバテープ心線131、132、133、・・・を整線し、積層した状態でスロット12の収納溝に収納する。
【0032】
また、押巻形成装置24は、光ファイバテープ心線131、132、133、・・・を収納したスロット12に、図1に示す押巻14を形成する。巻取り装置25に巻取られた光ファイバテープ心線131、132、133、・・・を収納したスロット12に、図示しないシース形成装置によりさらに図1に示すプラスチックシース15を形成し、光ファイバケーブル10とする。
【0033】
図7は、整線治具231の模式的な斜視図である。この整線治具231は、金属やプラスチックなどからなる直方体の外形状をしており、断面が長方形の整線孔231aが側面を貫通するように形成されている。なお、本明細書および図面では、図面上で方向が判別しやすいように、整線治具231には、光ファイバテープ心線131、132、133、・・・の積層方向に対応する方向にマークM3を付すこととする。そして、この整線治具231は、図8に示すように、整線孔231aの一方から入射した光ファイバテープ心線131、132、133、・・・を、積層した光ファイバテープ心線13として整線孔231aの他方から出射する。
【0034】
ここで、収納装置23は、積層した光ファイバテープ心線13の積層方向を、スロット12の周方向の一方に向けた状態で、収納溝12aに積層した光ファイバテープ心線13を収納する。これによって、積層した光ファイバテープ心線13は、図4に示すような状態に収納される。
【0035】
以下、具体的に説明する。図9は、収納装置23が収納溝12aに積層した光ファイバテープ心線13を収納する際の整線治具231および積層した光ファイバテープ心線13の方向を、図4に対応させてスロット12の長手方向に沿って2ピッチ分を1/6ピッチ毎に示した図である。
【0036】
図9に示すように、整線治具231は、長手方向のいずれの位置においても、積層させる方向が、たとえば矢印A5〜A8が示すようにスロット12の周方向の時計回りの向きを向いている。これによって、積層した光ファイバテープ心線13の積層方向を、スロット12の周方向の一方に向けた状態で、収納溝12aに積層した光ファイバテープ心線13を収納する。その結果、整線治具231を通過する時点においては、積層した光ファイバテープ心線13の積層方向も、いずれの位置においても周方向の時計回りの向きを向いている。この場合、積層した光ファイバテープ心線13の各光ファイバテープ心線131〜133は、積層の位置にかかわらず同じ長さで収納される。
【0037】
そして、図9のように積層した光ファイバテープ心線13を収納した後、反転部であるB−B線、D−D線の位置では、収納溝12aの螺旋方向が反転していることによって、積層した光ファイバテープ心線13は収納溝12aの内壁に引っ掛かり、収納直後の状態と同様に周方向の時計回りの向きを向いたまま固定される。しかし、反転部の間の位置では、反転部のように引っ掛かりがないので、積層した光ファイバテープ心線13は光ファイバテープ心線の剛性によって収納溝12a内で回転する。たとえは、図10に示すように、中間部であるC−C線の位置では、積層した光ファイバテープ心線13は、その積層方向が、矢印A6が示す周方向から矢印A2が示す径方向の外周側を向くように回転する。一方で、E−E線の位置では、積層した光ファイバテープ心線13は、その積層方向が周方向から径方向の中心側を向くように回転する。なお、この回転方向の違いは、収納溝12aの螺旋形状と積層した光ファイバテープ心線13の関係から生じる光ファイバテープ心線に与えられる力の違いによって生じている。
【0038】
以上のようにして、積層した光ファイバテープ心線13は、その積層方向が図4に示した状態になるように収納溝12a内に収納される。その後、押巻14とプラスチックシース15とを形成することによって、光ファイバケーブル10が製造される。
【0039】
ここで、上記の製造方法にしたがって、平均のPMDが1ps/√kmの光ファイバテープ心線を用いて、実施の形態と同様の光ファイバケーブルを製造したところ、平均のPMDは0.5ps/√kmまで低減されていた。また、光ファイバケーブルを直線状とした場合と光ファイバケーブルに光ファイバケーブルの外径の10倍の直径で曲げを加えた場合とで光ファイバの伝送損失を測定したところ、伝送損失にほとんど差異がなく、曲げによる伝送損失の増加も抑制されていることが確認された。
【0040】
なお、上記の製造方法では、走行するスロット12を中心軸として整線治具231を回転させながら、光ファイバテープ心線131、132、133、・・・をスロット12の収納溝12aに収納している。しかしながら、整線治具231を回転させずに、スロット12を軸回りに回転させながら、光ファイバテープ心線131、132、133、・・・を収納溝12aに収納してもよい。
【0041】
図11は、光ファイバケーブル10の製造装置の構成の別の一例を模式的に示す図である。この製造装置30は、製造装置20と同様のスロット供給装置21と、光ファイバテープ心線供給装置22と、収納装置23と、押巻形成装置24と、巻取り装置25とを備え、さらにスロット回転機構36を備える。
【0042】
この製造装置30においては、整線治具231を回転させずに、スロット回転機構36がスロット12を収納溝の軌跡に合わせるように軸回りに回転させることによって、積層した光ファイバテープ心線13をスロット12の収納溝に収納する。このとき、整線治具231および積層した光ファイバテープ心線13とスロット12との位置関係を、相対的に図9に示すものと同様にすることによって、実施の形態に係る光ファイバケーブル10を製造できる。
【0043】
なお、積層した光ファイバテープ心線の収納状態は、図4に示すものに限られない。たとえば、図12は、スロット12の収納溝12aに別の積層した光ファイバテープ心線33を収納した状態を示す図である。なお、積層した光ファイバテープ心線33は、積層した光ファイバテープ心線13とは、光ファイバテープ心線の積層数が異なっている。これにより、図4に示すものとは光ファイバテープ心線に与えられる力が異なり、この違いによって収納状態の違いが生じている。なお、積層した光ファイバテープ心線の収納状態は、光ファイバテープ心線に与えられる力とそれに対する光ファイバ心線の剛性により決定される。また、光ファイバテープ心線に与えられる力は、光ファイバ収納溝の螺旋形状(ピッチ、収納溝の深さ等)と積層した光ファイバテープ心線(枚数、光ファイバ心線数等)の関係により決まる。図12に示す場合は、中間部または反転部であるB−B線〜E−E線の位置における積層した光ファイバテープ心線33の積層方向が、それぞれ図4に示す場合と同様の方向A1〜A4になっており、それ以外の位置における積層方向は図4の場合と異なっている。しかしながら、このような収納状態であっても、積層した光ファイバテープ心線33は、実施の形態の場合と同様に180°以上捻回して収納されており、さらに、積層した各光ファイバテープ心線が積層の位置にかかわらず同じ長さで収納されている。その結果、PMDの低減と曲げによる伝送損失の増大の抑制とが実現される。
【0044】
また、収納溝の反転角については、上記実施の形態の値に限られず、180°以上であればPMDの低減効果を実現することができる。特に、SZ光ファイバケーブルの場合は、敷設時に光ファイバケーブルから光ファイバテープ心線を取り出して使用することがあるが、反転角が250〜300°であれば、光ファイバテープ心線の取出しが容易であり、光ファイバケーブルの製造性も高いので好ましい。また、ピッチについても、上記実施の形態の値に限られず、たとえば150〜500mmとできる。
【0045】
また、上記実施形態では、積層した光ファイバテープ心線13は、各反転部において、その積層方向がいずれもスロット12の周方向の時計回りの方向を向いている状態で収納されていたが、いずれも反時計回りの方向を向いている状態で収納されてもよい。また、中間部あるいは反転部における積層方向の向きは、周方向あるいは径方向に正確に一致している必要はなく、多少のずれがあってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの模式的な断面図である。
【図2】積層した光ファイバテープ心線の模式的な断面図である。
【図3】図1に示すスロットの側面、および等間隔に配置したB−B線、C−C線、D−D線、E−E線における矢印方向から見た断面を模式的に示す図である。
【図4】特定の積層した光ファイバテープ心線の収納状態を、スロットの長手方向に沿って2ピッチ分を1/6ピッチ毎に示した図である。
【図5】図4に示した反転部であるB−B線、D−D線の位置における積層した光ファイバテープ心線の積層方向の関係を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの製造装置の構成の一例を模式的に示す図である。
【図7】整線治具の模式的な斜視図である。
【図8】整線治具が光ファイバテープ心線を整線する様子を示した図である。
【図9】収納装置が収納溝に積層した光ファイバテープ心線を収納する際の整線治具および積層した光ファイバテープ心線の方向を、図4に対応させてスロットの長手方向に沿って2ピッチ分を1/6ピッチ毎に示した図である。
【図10】積層した光ファイバテープ心線が収納溝内において回転する様子を示した図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの製造装置の構成の別の一例を模式的に示す図である。
【図12】実施の形態に係るスロットの収納溝に別の積層した光ファイバテープ心線を収納した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
10 光ファイバケーブル
11 抗張力体
12 スロット
12a 収納溝
12b マーカ
13、33 積層した光ファイバテープ心線
14 押巻
15 プラスチックシース
20、30 製造装置
21 スロット供給装置
22 光ファイバテープ心線供給装置
23 収納装置
24 押巻形成装置
25 巻取り装置
36 スロット回転機構
131 最上層の光ファイバテープ心線
131a 光ファイバ心線
131b テープ被覆
132 最下層の光ファイバテープ心線
133 中間層の光ファイバテープ心線
221〜223 ボビン
231 整線治具
231a 整線孔
A、A1〜A8 矢印
M1〜M3 マーク
α〜γ 角度
θ 反転角
P ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に長手方向に沿って螺旋方向が180°以上の反転角で周期的に反転するSZ螺旋状の収納溝が形成されたスロットと、
前記スロットの収納溝内に積層して収納された光ファイバテープ心線と、
を備え、前記スロットにおいて前記収納溝の螺旋方向が反転する部分を反転部とし、隣接する前記反転部間の中点を中間部とすると、前記積層した光ファイバテープ心線は、前記各反転部において積層方向が前記スロットの周方向の一方を向き、隣接する前記中間部において前記積層方向が前記スロットの径方向の互いに反対を向くように収納されていることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
外周に長手方向に沿って螺旋方向が180°以上の反転角で周期的に反転するSZ螺旋状の収納溝が形成されたスロットと、前記スロットの収納溝内に積層して収納された光ファイバテープ心線とを備えた光ファイバケーブルの製造方法であって、
光ファイバテープ心線を整線して積層した状態にする整線工程と、
前記積層した光ファイバテープ心線の積層方向を前記スロットの周方向の一方に向けた状態で、前記収納溝に該積層した光ファイバテープ心線を収納する収納工程と、
を含むことを特徴とする光ファイバケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−204801(P2009−204801A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45981(P2008−45981)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】