説明

光ファイバケーブル及び光ファイバケーブルの製造方法

【課題】少なくとも一の光ファイバ心線及び少なくとも一の抗張力体を内蔵した内層コアとこの内層コアを被覆する外層とを有する光ファイバケーブルにおいて、光ファイバ心線を容易に取り出すことができるようにする。
【解決手段】複数本の内層コア3を、光ファイバ心線1及び抗張力体2の配列方向に並列させて外層5により被覆する。外層5をなす合成樹脂材料は、内層ノッチ4内に侵入させ、内層コア3同士の間には侵入しないようにする。また、外層ノッチ6の底部を、内層コア3同士の境界面の略々延長上に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバをシースで被覆した光ファイバケーブル及び光ファイバケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信に使用される光ファイバケーブルとしては、加入者用光ファイバケーブルとして架設される架空集合型ドロップ光ファイバケーブルや、架空集合型ドロップ光ファイバケーブルから分岐して加入者宅に引込み配線するための架空ドロップ光ファイバケーブルとして使用されるものがある。
【0003】
特に、双方向通信を行う場合や、映像及び情報を同時に送信する必要がある場合などには、特許文献1に記載されているように、2心の光ファイバ心線を用いたドロップ光ファイバケーブルが用いられる。このドロップ光ファイバケーブルとしては、図3に示すように、支持線部101と、ケーブル本体部102とが、首部103を介して連結された自己支持構造の光ファイバケーブルが使用される。支持線部101は、外被(シース)107内に鋼線からなる支持線104を内蔵して構成されている。ケーブル本体部102は、外被107内に、2心の光ファイバ心線105及び抗張力体(テンションメンバ)106を内蔵して構成されている。外被107をなす材料としては、ノンハロゲン難燃シースが使用される。
【0004】
なお、加入者宅内や、ビル、マンション等の構内において使用される光ファイバケーブルは、支持線部101を有しないケーブル本体部102のみからなる構造の光ファイバケーブルである。
【0005】
このような2心の光ファイバ心線を用いた光ファイバケーブルにおいては、1心の光ファイバ心線を用いた場合と異なり、外被把持型のコネクタを用いることができないため、メカニカルスプライスや融着等の作業により光ファイバを接続する必要がある。この場合、外被把持型のコネクタを用いる場合と比較して、作業時間や手間が多くなる。また、1心の光ファイバ心線を用いた光ファイバケーブルを2本引き落とす場合には、布設等の作業により多くの時間を要するという問題がある。さらに、クロージャ内の配線についても、光ファイパ単体では、径が細いために、暗所や薄暗くなった場所では視認が困難となることや、ラフな取り回しを行うと容易に断線してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004‐205979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、図4に示すように、内層コア108及び外層107を有する光ファイバケーブルにおいては、外層107の両側面部の中央部に設けられたノッチ109から外被107を引き裂いて、内層コア108内の光ファイバ心線105を取り出すときに、外層107の引き裂き位置が偏り、片側の内層コア108が引き裂き後の外層107に埋もれてしまい、取り出しが困難となるという問題が生じた。
【0008】
ここで、光ファイバ心線105の取り出し性を改善するため、ノッチ109を斜めに形成することが考えられる。しかし、この場合には、外層107にニッパ等により斜めに切り込みを入れる必要があるため、ニッパーで切断しようとした際に刃が入れにくいため作業が困難となったり、また、屋内用のドロップ光ファイバケーブルに用いられているデタッチャ工具の適用ができなくなるという問題が生じた。
【0009】
そこで、本発明は、前述の実情に鑑みて提案されるものであって、少なくとも一の光ファイバ心線及び少なくとも一の抗張力体を内蔵した内層コアとこの内層コアを被覆する外層とを有する光ファイバケーブルであって、光ファイバ心線を容易に取り出すことができる光ファイバケーブル及び光ファイバケーブルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の課題を解決し、前記目的を達成するため、本発明は、以下の構成を有するものである。
【0011】
〔構成1〕
本発明に係る光ファイバケーブルは、1本以上の光ファイバ心線及び1本以上の抗張力体を並列させて内蔵し外周面に引き裂き用の内層ノッチを有する合成樹脂材料からなる内層コアと、複数本の内層コアを光ファイバ心線及び抗張力体の配列方向に並列させて被覆し外周面に引き裂き用の外層ノッチを有する合成樹脂材料からなる外層とを備え、外層をなす合成樹脂材料は、内層ノッチ内を埋めており、一の内層コアと他の内層コアとの間には侵入しておらず、外層ノッチの底部は、一の内層コアと他の内層コアとの境界面の略々延長上に位置していることを特徴とするものである。
【0012】
〔構成2〕
構成1を有する光ファイバケーブルにおいて、外層の厚さは、0.2mm以上、0.5mm以下であることを特徴とするものである。
【0013】
〔構成3〕
構成1、または、構成2を有する光ファイバケーブルにおいて、外層をなす合成樹脂材料は、MFRが0.05g/10min乃至0.90g/10minであり、融点が、内層コアをなす合成樹脂材料の融点よりも10°C乃至50°C低いことを特徴とするものである。
【0014】
〔構成4〕
構成1乃至構成3のいずれか一を有する光ファイバケーブルを製造する光ファイバケーブルの製造方法であって、内層コアと外層とを押し出し成形により成形し、押し出し成形中における内層コアをなす合成樹脂材料と外層をなす合成樹脂材料との接触時間が、0.001秒乃至0.05秒であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る光ファイバケーブルは、構成1を有することにより、外層をなす合成樹脂材料は、内層ノッチ内を埋めており、一の内層コアと他の内層コアとの間には侵入しておらず、外層ノッチの底部は、一の内層コアと他の内層コアとの境界面の略々延長上に位置しているので、外層を外層ノッチから切り裂いて内層コアを取り出し、さらに、内層コアを内層ノッチから切り裂いて、光ファイバ心線を容易に取り出すことができる
本発明に係る光ファイバケーブルは、構成2を有することにより、外層の厚さは、0.2mm以上、0.5mm以下であるので、ケーブル外径を太くすることなく、内層コアからの分離が容易に行える。
【0016】
本発明に係る光ファイバケーブルは、構成3を有することにより、外層をなす合成樹脂材料は、MFRが0.05g/10min乃至0.90g/10minであり、融点が、内層コアをなす合成樹脂材料の融点よりも10°C乃至50°C低いので、内層コアと外層との間の分離を容易に行える。
【0017】
本発明に係る光ファイバケーブルの製造方法は、構成4を有することにより、内層コアと外層とを押し出し成形により成形し、押し出し成形中における内層コアをなす合成樹脂材料と外層をなす合成樹脂材料との接触時間が、0.001秒乃至0.05秒であるので、内層コアと外層との間の分離を容易に行える。
【0018】
すなわち、本発明は、少なくとも一の光ファイバ心線及び少なくとも一の抗張力体を内蔵した内層コアとこの内層コアを被覆する外層とを有する光ファイバケーブルであって、光ファイバ心線を容易に取り出すことができる光ファイバケーブル及び光ファイバケーブルの製造方法を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの構成の他の例を示す断面図である。
【図3】従来の光ファイバケーブルの構成を示す断面図である。
【図4】従来の光ファイバケーブルの外層を引き裂いた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの構成を示す断面図である。
【0022】
この光ファイバケーブルは、1本以上の光ファイバ心線1と、1本以上の抗張力体2とを有して構成される。この実施の形態においては、2本の光ファイバ心線1と、4本の抗張力体2とを有している。光ファイバ心線1は、少なくとも1本の光ファイバからなる。抗張力体2としては、例えば、アラミドFRP線を用いることができる。
【0023】
1本の光ファイバ心線1及び2本の抗張力体2,2は、光ファイバ心線1を中央にして並列された状態で、合成樹脂材料からなる内層コア3により被覆されている。内層コア3は、外周面の互いに対向する位置に、一対の引き裂き用の内層ノッチ4,4を有している。内層ノッチ4は、ケーブルの長手方向に沿って形成されたV字状、もしくはU字状の溝である。
【0024】
そして、この光ファイバケーブルは、複数本の内層コア3が合成樹脂材料からなる外層5によって被覆されて構成されている。この実施の形態においては、2本の内層コア3,3が外層5によって被覆されている。各内層コア3は、光ファイバ心線1及び抗張力体2の配列方向に並列された状態で、外層5によって被覆されている。外層5は、外周面の互いに対向する位置に、一対の引き裂き用の外層ノッチ6,6を有している。
【0025】
外層5をなす合成樹脂材料は、内層ノッチ4内を埋めており、かつ、一の内層コア3と他の内層コア3との間7には侵入していない。また、外層ノッチ6の底部は、一の内層コア3と他の内層コアと3の境界面の略々延長上に位置している。
【0026】
このように、内層コア3同士の境界面の略々延長上に外層ノッチ6の底部が位置していることにより、内層コア3同士の間の隙間がノッチの効果を奏して引き裂きのガイドをするので、外層5の引き裂きの偏りが防止され、引き裂いた外層5内に内層コア3が埋もれることがなく、内層コア3を容易に取り出すことが可能である。
【0027】
また、外層5をなす合成樹脂材料により内層ノッチ4内を埋めることにより、外層5内における内層コア3の移動を防止することができる。すなわち、内層コア3と外層5とを融着(接着)しない場合には、ケーブルを曲げたり、内層コア3を引っ張ったときに、内層コア3が外層5内で移動し、クロージャ内における光ファイバコネクタ部の抜けが発生する可能性がある。内層ノッチ4内を外層5をなす合成樹脂材料により埋めない場合には、50N程度の牽引張力で内層コア3を引っ張ると、外層5内で移動した。これに対し、内層ノッチ4内を外層5をなす合成樹脂材料により埋めた場合には、300Nの力で内層コア3を引っ張っても、移動は見られなかった。なお、300Nは、一般人のおおよその最大牽引張力である。
【0028】
したがって、外層5の成型時には、外層5をなす合成樹脂材料が内層ノッチ4内を埋める程度に回り込むようにする必要がある。しかしながら、外層5をなす合成樹脂材料が成型時において回り込み易すぎると、内層コア3同士の間にも回り込んでしまう。内層コア3同士の間に外層5をなす合成樹脂材料が回り込んでしまうと、内層コア3を外層5内から取り出すことが不可能になる。
【0029】
このことから、外層5をなす合成樹脂材料は、内層ノッチ4内へ回り込ませつつ、内層コア3同士の間への回り込みを防止する必要がある。外層5をなす合成樹脂材料の成形時の回り込みの制御は、内層コア3をなす合成樹脂材料に対する融点の差、及び、MFRの調整により行う。MFRは、「JIS K7210」に準拠して、測定荷重2.16kg、温度190°Cにおけるものである。
【0030】
この結果、外層5をなす合成樹脂材料は、MFRが0.05g/10min乃至0.90g/10minであることが好ましく、融点は、内層コア3をなす合成樹脂材料の融点よりも10°C乃至50°C低いことが好ましい。例えば、内層コア3をなす材料は、リン系化合物を含有する熱可塑性樹脂(ポリオレフィン系樹脂)であり、融点は、120°C程度である。また、外層5をなす材料は、例えば、水酸化マグネシウムを含有する熱可塑性樹脂(ポリオレフィン系樹脂)であり、融点は、100°C程度、MFRは、0.2g/min程度である。
【0031】
また、この光ファイバケーブルを製造するには、内層コア3と外層5とを押し出し成形により成形し、押し出し成形中における内層コア3をなす合成樹脂材料と外層5をなす合成樹脂材料との接触時間が、0.001秒乃至0.05秒であることが好ましい。
【0032】
これらの条件を満たすことにより、外層5をなす合成樹脂材料は、内層ノッチ4内へ回り込みつつ、内層コア3同士の間へ回り込みが防止され、内層コア3と外層5との分離が可能となるとともに、内層コア3の外層5内での移動が防止される。
【0033】
外層5の厚さについては、過度に厚い場合には、光ファイバケーブル全体が太くなってしまい、収納性が劣化することとなる。一方、外層5が過度に薄いと、外層5を引き裂いて外層5内から内層コア3を取り出すときに、外層5が内層コア3の表面に貼り付いてしまうので、外層5を内層コア3の表面から引き剥がさなければならなくなる。このとき、外層5が細かく千切れてしまうため、煩雑な作業となる。
【0034】
このように、外層5の厚さは、光ファイバケーブルの細径化、外層5の引き裂きの容易さ及び外層5の内層コア3からの引き剥がしの容易さの観点から、最適値は、0.2mm以上、0.5mm以下である。
【0035】
図2は、本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの構成の他の例を示す断面図である。
【0036】
本発明に係る光ファイバケーブルは、図2に示すように、種々の構造が考えられる。すなわち、外層ノッチ6の断面形状は、左右対称のV字状に限定されず、図2(a)に示すように、左右が非対称の形状であってもよい。
【0037】
また、外層ノッチ6の底部は、図2(b)に示すように、内層コア3同士の境界面の延長上より、僅かにずれていてもよい。
【0038】
そして、この光ファイバケーブルにおいては、各内層コア3内には、必ずしも複数の抗張力体2,2が内蔵されている必要はなく、図2(c)に示すように、1本の抗張力体2のみが内蔵されていてもよい。
【実施例】
【0039】
本発明に係る光ファイバケーブルの実施例として、以下の〔表1〕に示すように、外層5をなす合成樹脂材料について、MFR、内層コア3をなす合成樹脂材料に対する融点の差、及び、押し出し成形中における内層コア3をなす合成樹脂材料との接触時間を種々変更し、成形時に内層ノッチ4内へ回り込むこと、成形時に内層コア3同士の間へ回り込まないこと、及び、内層コア3からの分離が容易であることについて評価した。
【0040】
【表1】

その結果、外層5をなす合成樹脂材料は、MFRが0.05g/10min乃至0.90g/10minであることが好ましく、融点は、内層コア3をなす合成樹脂材料の融点よりも10°C乃至50°C低いことが好ましく、押し出し成形中における内層コア3をなす合成樹脂材料との接触時間が、0.001秒乃至0.05秒であることが好ましいことが確認された。
【0041】
また、外層5の厚さについて、以下の〔表2〕に示すように、種々変更し、光ファイバケーブルの細径化、外層5の引き裂きの容易さ、及び、外層5の内層コア3からの引き剥がしの容易さについて評価した。
【0042】
【表2】

その結果、外層5の厚さの最適値は、0.2mm以上、0.5mm以下であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、光ファイバをシースで被覆した光ファイバケーブル及び光ファイバケーブルの製造方法に適用される。
【符号の説明】
【0044】
1 光ファイバ心線
2 抗張力体(テンションメンバ)
3 内層コア
4 内層ノッチ
5 外層(シース)
6 外層ノッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本以上の光ファイバ心線及び1本以上の抗張力体を並列させて内蔵し、外周面に引き裂き用の内層ノッチを有する合成樹脂材料からなる内層コアと、
複数本の前記内層コアを、前記光ファイバ心線及び前記抗張力体の配列方向に並列させて被覆し、外周面に引き裂き用の外層ノッチを有する合成樹脂材料からなる外層と
を備え、
前記外層をなす合成樹脂材料は、前記内層ノッチ内を埋めており、一の内層コアと他の内層コアとの間には侵入しておらず、
前記外層ノッチの底部は、一の内層コアと他の内層コアとの境界面の略々延長上に位置している
ことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記外層の厚さは、0.2mm以上、0.5mm以下である
ことを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記外層をなす合成樹脂材料は、MFRが0.05g/10min乃至0.90g/10minであり、融点が、内層コアをなす合成樹脂材料の融点よりも10°C乃至50°C低い
ことを特徴とする請求項1、または、請求項2記載の光ファイバケーブル。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の光ファイバケーブルを製造する光ファイバケーブルの製造方法であって、
前記内層コアと前記外層とを押し出し成形により成形し、
押し出し成形中における内層コアをなす合成樹脂材料と外層をなす合成樹脂材料との接触時間が、0.001秒乃至0.05秒である
ことを特徴とする光ファイバケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−221252(P2011−221252A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89782(P2010−89782)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】