説明

光ファイバケーブル

【課題】光ファイバを外被で被覆した光ファイバケーブルにおいて、外被の色味を非黒色とし、高い難燃性を実現しつつ、耐水性、引張特性及び耐寒性等の諸物性に優れた光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】外被3は、光ファイバ心線1を被覆した内層3aと、この内層3aを被覆した外層3bとからなり、内層3aは、リン系化合物、または、窒素系化合物、あるいは、これらの両方を難燃剤として含有する非黒色のポリオレフィン系材料からなり、外層3bは、非黒色の高密度ポリエチレン、または、非黒色のポリオレフィン系材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを外被(シース)で被覆した光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信に使用される光ファイバケーブルとしては、加入者用光ファイバケーブルとして架設される架空集合型ドロップ光ファイバケーブルや、架空集合型ドロップ光ファイバケーブルから分岐して加入者宅に引込み配線するための架空ドロップ光ファイバケーブルとして使用されるものがある。
【0003】
アパートやマンション等の集合住宅へ引込み配線するための架空ドロップ光ファイバケーブルとしては、図3に示すように、支持線部101と、ケーブル本体部102とが、首部103を介して連結された自己支持構造の光ファイバケーブルが使用されている。なお、加入者宅内や、ビル、マンション等の構内において使用される光ファイバケーブルは、支持線部101を有しないケーブル本体部102のみからなる構造の光ファイバケーブルである。
【0004】
支持線部101には、鋼線からなる支持線104が内蔵されている。ケーブル本体部102には、光ファイバ心線105と、抗張力体106が内蔵されている。このような光ファイバケーブルの光ファイバ心線105は、石英系ガラスファイバの外周を、紫外線硬化型樹脂などからなる被覆材により被覆して構成されている。外被(シース)107としては、ノンハロゲン難燃シースが使用されている。
【0005】
特許文献1には、蝉の産卵管により突き刺しによる損傷を防止するとともに、巻き癖がなく難燃特性を備えた光ファイバケーブルが記載されている。この光ファイバケーブルは、光ファイバ心線とテンションメンバとを平行に配置し、外被により一体に被覆した光ファイバケーブルであり、外被は、光ファイバ心線の外周を覆う内側の第1の被覆層と、第1の被覆層の外周を覆う外側の第2の被覆層とを有し、第1の被覆層はデュロメータ(タイプD)による硬さが52以上で、第2の被覆層は第1の被覆層より硬さが小さい樹脂材料で形成されている。第1の被覆層の硬さは56〜64で、第2の被覆層の硬さが52以下となっている。また、第1の被覆層の外被に対する断面積比率は、1/4〜2/3であることが望ましいとなっている。
【0006】
特許文献2には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、繊維、コーティング剤、シーラントなどの樹脂、エラストマーに使用される難燃性添加剤において、耐吸湿性、分散性に優れたリン系難燃性添加剤が記載されている。このリン系難燃性添加剤は、リンと窒素を両方とも含有する化合物より成る群の中から選択されたガス発生剤またはリン含有化合物と窒素含有化合物との混合物であるガス発生剤80〜99.8質量%と、平均式RSiO0.5(式中R は炭素数1〜30の非置換または置換の炭化水素基から選択される同種あるいは異種の基である。)で示されるM単位と、平均式SiOで示されるQ単位とを主成分として含むシリコーン樹脂0.2〜20質量%とからなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009‐265394号公報
【特許文献2】特開2005−226034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前述のような光ファイバケーブルにおいては、加入者宅内や、ビル、または、マンション等の外壁ヘ布設する場合には、外観上の問題から、外被の色を非黒色、例えば、白色、灰色、または、茶色等として、壁面の色に合わせた色味とすることが求められている。
【0009】
しかし、外被をなす材料を非黒色のものとする場合には、色味の問題から、配合できる難燃剤の種類が限られてしまう。例えば、難燃剤として水酸化マグネシウム及び赤燐等を配合し、これらの併用による相乗効果により難燃性を得る場合には、外被の色味は、濃赤色となってしまうので、目的の色味を得ることは困難である。
【0010】
難燃剤としては、一般的には、水酸化マグネシウムや、これに窒素系化合物を添加した難燃樹脂が用いられている。しかし、この難燃剤を用いる場合には、所望の難燃性を得るためには、多量の難燃剤の添加が必要である。難燃剤を多量に添加すると、引張特性及び耐寒性が大幅に低下してしまい、屋外での使用に耐えられない光ファイバケーブルになってしまうという問題がある。
【0011】
近年、前述したように、難燃剤として、ポリリン酸アンモニウム等のリン系化合物、または、メラミンシアヌレート等の窒素系化合物、もしくは、これらの両方を含有する化合物であるイントメッセント系材料が提案されている。このようなイントメッセント系材料を難燃剤として用いることにより、外被を非黒色とすることができ、また、金属水和物による難燃剤を用いる場合に比較して、少ない添加量で高い難燃性を実現することができるので、引張特性や耐寒性等の種々の物性が損なわれることがない。
【0012】
以下の〔表1〕には、ベース材としてEEA/LLDPEを用い、難燃剤として水酸化マグネシウムを配合した場合と、イントメッセント系難燃剤を配合した場合との樹脂の諸物性を示す。
【0013】
【表1】

【0014】
しかしながら、特許文献2にも記載されているように、イントメッセント系材料は、耐水性が低く、周囲の水分に溶解し易い。そのため、イントメッセント系材料を難燃剤として用いた場合には、難燃材のブリードアウトによる外観不良や、長期的に水分に暴露されることで難燃性の低下が認められる。したがって、水が存在する環境である地下や屋外で使用する光ファイバケーブルの外被には、イントメッセント系材料を難燃剤として用いることができない。
【0015】
そこで、本発明は、前述の実情に鑑みて提案されるものであって、光ファイバを外被で被覆した光ファイバケーブルにおいて、外被の色味を非黒色とし、高い難燃性を実現しつつ、耐水性、引張特性及び耐寒性等の諸物性に優れた光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述の課題を解決し、前記目的を達成するため、本発明に係る光ファイバケーブルは、以下の構成のいずれか一を有するものである。
【0017】
〔構成1〕
光ファイバ心線を熱可塑性合成樹脂材料からなる外被によって被覆した光ファイバケーブルであって、外被は、光ファイバ心線を被覆した内層とこの内層を被覆した外層とからなり、内層は、リン系化合物、または、窒素系化合物、あるいは、これらの両方を難燃剤として含有する非黒色のポリオレフィン系材料からなり、外層は、非黒色の高密度ポリエチレン、または、非黒色のポリオレフィン系材料からなることを特徴とするものである。
【0018】
〔構成2〕
構成1を有する光ファイバケーブルにおいて、外層の厚さは、11μm以上213μm以下であることを特徴とするものである。
【0019】
より好ましくは、外層の厚さは、26μm以上、213μm以下である。
【0020】
〔構成3〕
構成1、または、構成2を有する光ファイバケーブルにおいて、外層の透湿度は、4.22g/m・24hr以下であることを特徴とするものである。
【0021】
さらに好ましくは、外層は、透湿度0.19g/m・24hr以下で、厚さ11μm以上、213μm以下、さらにより好ましくは、厚さ26μm以上、213μm以下である。
【0022】
〔構成4〕
構成1乃至構成3のいずれか一を有する光ファイバケーブルにおいて、内層及び外層は、互いに密着していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る光ファイバケーブルは、構成1を有することにより、外被は、光ファイバ心線を被覆した内層とこの内層を被覆した外層とからなり、内層は、リン系化合物、または、窒素系化合物、あるいは、これらの両方を難燃剤として含有する非黒色のポリオレフィン系材料からなり、外層は、非黒色の高密度ポリエチレン、または、非黒色のポリオレフィン系材料からなるので、外層により高い耐水性が実現され、内層により高い難燃性が実現される。したがって、この光ファイバケーブルにおいては、外被の色味を非黒色としても、難燃性、耐水性、引張特性及び耐寒性等の諸物性を優れたものとすることができる。
【0024】
すなわち、本発明は、光ファイバを外被で被覆した光ファイバケーブルにおいて、外被の色味を非黒色とし、高い難燃性を実現しつつ、耐水性、引張特性及び耐寒性等の諸物性に優れた光ファイバケーブルを提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの構成の他の例を示す断面図である。
【図3】従来の光ファイバケーブルの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの構成を示す断面図である。
【0028】
本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルは、図1に示すように、光ファイバ心線1を合成樹脂材料からなる外被(シース)3によって被覆して構成されている。
【0029】
光ファイバ心線1は、石英系ガラスファイバの外周を、紫外線硬化型樹脂などからなる被覆材により被覆して構成されている。外被3は、熱可塑性合成樹脂材料からなり、光ファイバ心線1を被覆した内層3aと、この内層3aを被覆した外層3bとからなる。
【0030】
外被3の内層3aには、光ファイバ心線1とともに、繊維強化プラスチックからなる2本の抗張力体(テンションメンバ)5,5が内包されている。これら抗張力体5,5は、光ファイバ心線1に平行に配置されている。
【0031】
外被3には、光ファイバ心線1を挟んで互いに対峙する両側面部に、平行な溝状の一対のノッチ6,6が形成されている。外被3は、これらノッチ6,6において、容易に引き裂くことが可能となっている。端末部分の外被3を引き裂くことにより、光ファイバ心線1の端末部分を外部に引き出す、いわゆる口出し作業を行うことにより、他の光ファイバケーブルの光ファイバ心線との接続を行うことができる。
【0032】
この光ファイバケーブルにおいて、内層3aをなす材料には、イントメッセント系材料の難燃剤が含有されている。外層3bをなす材料は、透湿度4.22g/m・24hr以下で、非黒色、かつ、非難燃、もしくは、低難燃性の材料である。外層3bの被覆厚は、11μm以上213μm以下とすることにより、耐ブリード性や難燃特性等を充分に維持しながら、外観の色味を非黒色とすることができ、建物の外壁の色に調色することが可能である。
【0033】
この外被3において、外層3bをなす材料の透湿度が4.22g/m・24hr以下であって、被覆厚が6μm以上であることによって、難燃材のブリードアウト現象を防止することができる。
【0034】
なお、この光ファイバケーブルにおいて、外層3bの外被厚が薄すぎると、内層3aの周囲に外層3bを被覆する際に、外層3bのセンター位置ずれにより内層3aが外層3bからはみ出してしまう虞があるので、外層3bは、適度の厚さを有していることが望ましい。
【0035】
また、この外被3において、外層3bの被覆厚が11μm以上213μm以下であることによって、イントメッセント系材料の難燃剤におけるチャーの生成速度が外層3bの延焼速度よりも十分に速くなり、自己消炎する。イントメッセント系材料の難燃剤は、燃焼時にチャー(灰分)を膨張させ、外被からの可燃性ガスの発生を防ぎ、また、外気からの酸素の流入を防ぐことにより、自己消炎する消炎機構を有している。
【0036】
図2は、本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの構成の他の例を示す断面図である。
【0037】
なお、本発明に係る光ファイバケーブルは、図2に示すように、支持線2を有する自己支持型の光ファイバケーブルとして構成してもよい。この場合には、この光ファイバケーブルは、光ファイバ心線1及び抗張力体5,5を内包した本体部1aと、支持線2を内包した支持線部2aとから構成される。支持線2としては、鋼線などを用いる。本体部1aと支持線部2aとは、一体的な外被3によって被覆されており、首部4を介して連結されている。
【実施例】
【0038】
本発明に係る光ファイバケーブルの実施例として、内層3aをなす材料として、ベース樹脂をHDPE、LLDPE及びEVAの混合物とし、難燃剤としてポリリン酸メラミンを40wt%配合した材料を用いた。
【0039】
外層3bをなす材料としては、非黒色、非燃性の高密度ポリエチレン(透湿度0.19g/m・24hr)、または、難燃剤として水酸化マグネシウムを40wt%配合した非黒色の難燃ポリオレフィン(透湿度4.22g/m・24hr)を用いた。外層3bの被覆厚は、これら2種類の材料のそれぞれについて、0μm乃至320μmとした。
【0040】
これら内層3a及び外層3bを用いて、図1に示す構成の光ファイバケーブルを試作した。なお、内層3a及び外層3b間は、押出し成形時の熱によって密着させた。このように試作した光ファイバケーブルの諸特性を以下の〔表2〕に示す。
【表2】

【0041】
透湿度の測定には、JIS Z0208「透湿度試験(カップ法)」を用いた。環境条件は、25°C90%RHで0.4mmシートでの測定結果を用いた。外層3bの被覆厚は、試作した光ファイバケーブルを断面方向に片刃で切断し、顕微鏡を用いて測定した。
【0042】
難燃性については、光ファイバケーブルでのJIS C3005水平燃焼試験を行い、自己消炎した場合を合格、延焼した場合を不合格とした。
【0043】
難燃剤のブリードアウトの確認は、光ファイバケーブルを85°C95%RHの湿熱槽に投入し、1ヶ月後に光ファイバケーブルの表面を顕微鏡により観察し、難燃材の析出の有無を確認した。
【0044】
製造性については、ケーブル製造時のセンター位置微調整の時間が、一般的なインドアケーブルと比較して、2倍以上の時間を要した場合を×(不合格)、1.5倍以上2倍未満の時間を要した場合を△、1.5倍未満の時間で済んだ場合を○(合格)とした。
【0045】
〔表2〕に示すように、光ファイバケーブルの燃焼特性、難燃剤のブリードアウト、製造性の観点から、外層3bをなす材料としては、透温度が4.22g/m・24hr以下の材料であることが好ましい。そして、外層3bの被覆厚は、11μm以上213μm以下であることが好ましく、26μm以上、213μm以下であることがより好ましい。さらに、透湿度0.19g/m・24hr以下で、厚さ11μm以上、213μm以下であることがさらに好ましく、26μm以上、213μm以下であることがさらにより好ましい。
【0046】
また、光ファイバケーブルの端末部からの水分の侵入を防止するためには、外層3bと内層3aとが密着していることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、光ファイバを外被(シース)で被覆した光ファイバケーブルに適用される。
【符号の説明】
【0048】
1 光ファイバ心線
3 外被(シース)
3a 内層
3b 外層
5 抗張力体(テンションメンバ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線を熱可塑性合成樹脂材料からなる外被によって被覆した光ファイバケーブルであって、
前記外被は、前記光ファイバ心線を被覆した内層と、この内層を被覆した外層とからなり、
前記内層は、リン系化合物、または、窒素系化合物、あるいは、これらの両方を難燃剤として含有する非黒色のポリオレフィン系材料からなり、
前記外層は、非黒色の高密度ポリエチレン、または、非黒色のポリオレフィン系材料からなる
ことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記外層の厚さは、11μm以上213μm以下である
ことを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記外層の透湿度は、4.22g/m・24hr以下である
ことを特徴とする請求項1、または、請求項2記載の光ファイバケーブル。
【請求項4】
前記内層及び前記外層は、互いに密着している
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の光ファイバケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−145761(P2012−145761A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3942(P2011−3942)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】