説明

光ファイバドロップケーブルの製造方法およびその装置

【課題】 支持線の外周に接着される接着剤から余分の接着剤カスを容易に除去するようにする。
【解決手段】 光ファイバ用ボビン25と、抗張力体用ボビン27と、支持線用ボビン29と、各ボビンからそれぞれ引き出された光ファイバ、抗張力体および支持線が送り込まれると共に熱可塑性樹脂が供給されて、光ファイバドロップケーブル1を製造するための押出し機31と、押出し機31で製造された光ファイバドロップケーブル1を巻き取る巻き取りボビン35とから構成される光ファイバドロップケーブルの製造装置23において、支持線用ボビンと押出し機との間に支持線用ボビンから送り出された支持線の外周に接着剤を塗布する接着剤塗布工程装置37が備えられ、接着剤塗布工程装置の一部を構成する接着剤塗布装置43の押出し機側に支持線の外周に付着した余分な接着剤カスKを除去せしめる接着剤カス用除去手段45が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光ファイバドロップケーブルの製造方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、FTTH(Fiber To The Home)すなわち家庭またはオフィスでも超高速データ等の高速広帯域情報を送受できるようにするために、電話局から延設された光ファイバケーブルが一般住宅などの加入者宅へ引き落とされて、これを配線するために好適な光ファイバドロップケーブルが用いられている。つまり、光ファイバドロップケーブル(屋外線)は電柱上から家庭内へ引き込む際に用いられるケーブルである。
【0003】
この種の光ファイバドロップケーブルとしては例えば特許文献1に示されている。すなわち、この光ファイバドロップケーブル101の構造は図5に示されているように、光ファイバとしての例えば光ファイバ心線103とこの光ファイバ心線103を挟んでその両側に平行に配置された少なくとも一対の第1抗張力体105とをケーブルシース107で被覆された長尺の光エレメント部109と、支持線111をシース113で被覆した長尺のケーブル支持線部115とを互いに平行に首部117を介して固着されている。
【特許文献1】特開2001−83385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した光ファイバドロップケーブル101において、ケーブル支持線部115は支持線111をシース113で被覆されているだけであるから、支持線111とシース113との密着力が弱いので、この密着力を高めるために、図6に示されているように、支持線111の周囲に接着剤119を塗布した後、シース113を被覆することが最近行われている。
【0005】
この支持線111の周囲に接着剤119を塗布する手段が、前記光ファイバドロップケーブル101を製造する前工程として行われている。この接着剤119を塗布する手段として、図7に示されているように、上ダイス121U、121Dからなるダイス121を用いて接着剤119を塗布しているが、ダイス121を通過した支持線111の周囲に接着剤119が均一に塗布されていれば、何ら問題がないが、例えば2.3mmΦの支持線111を通過させるダイス121の径は例えば2.5mmΦを使用しているため、ダイス121の出口部に接着剤カス(通称ヒゲという)Kが付着していき、長時間支持線111に接着剤119を塗布し続けるとダイス121の出口部に接着剤カス(通称ヒゲという)Kがこぶとしてこぶりついてしまい、しまいには支持線111の周囲に塗布した接着剤119の周囲に接着剤カスKが不均一に付着して接着剤119が支持線111の周囲に均一に塗布できないという問題がある。また、ダイス121の出口部にこぶりついた接着剤カスKを定期的に除去するのも大変であると共に接着剤カスKがこぶりついたダイス121を交換するとしても頻繁に行わなければ加工効率に支障きたすという問題がある。
【0006】
この発明は上述の課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記発明が解決しようとする課題を達成するためにこの発明の光ファイバドロップケーブルの製造方法は、光ファイバ、抗張力体および支持線を押出し機に送り込むと共に熱可塑性樹脂からなるシース材を前記押出し機に供給することで、光ファイバとこの光ファイバを挟んでその両側に平行に配置された少なくとも一対の抗張力体とをケーブルシースで被覆した長尺の光エレメント部と、支持線をシースで被覆した長尺のケーブル支持線部とを、首部を介して互いに平行に固着されてなる光ファイバドロップケーブルを製造する際、前記押出し機に支持線を送り込むとき、支持線の外周に前もってダイスからなる接着剤塗布装置で接着剤を塗布した状態で走行させ、ついで、支持線の外周に余分に付着した接着剤カスを除去せしめて前記押出し機に送り込ませることを特徴とするものである。
【0008】
この発明の光ファイバドロップケーブルの製造装置は、光ファイバ心線が巻かれた回転可能な光ファイバ用ボビンと、抗張力体が巻かれた回転可能な抗張力体用ボビンと、支持線が巻かれた回転可能な支持線用ボビンと、前記光ファイバ用ボビン、抗張力体用ボビンおよび支持線用ボビンからそれぞれ引き出された光ファイバ、抗張力体および支持線が送り込まれると共に熱可塑性樹脂が供給されて、光ファイバドロップケーブルを製造するための押出し機と、この押出し機で製造された光ファイバドロップケーブルを巻き取る巻き取りボビンとから構成される光ファイバドロップケーブルの製造装置において、
前記支持線用ボビンと前記押出し機との間に支持線用ボビンから送り出された支持線の外周に接着剤を塗布するための接着剤塗布工程装置が備えられ、前記接着剤塗布工程装置の一部を構成する接着剤塗布装置の前記押出し機側に前記支持線の外周に付着した余分な接着剤カスを除去せしめる接着剤カス用除去手段が備えられていることを特徴とするものである。
【0009】
この発明の光ファイバドロップケーブルの製造装置は、前記光ファイバドロップケーブルの製造装置において、前記接着剤塗布装置が、接着剤塗布用ダイスで構成されていると共に前記接着剤カス用除去手段が前記接着剤塗布用ダイスに連接して前記支持線の外周に付着した余分な接着剤カスを除去せしめる適数の接着剤カス除去用ダイスで構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
以上のごとき課題を解決するための手段から理解されるように、接着剤カス除去手段により支持線の外周に付着した余分な接着剤カスが除去されて、均一に塗布して次工程に支障を来さないようになり、良好な光ファイバドロップケーブルを製造することができる。また、接着剤カス除去手段が適数の接着剤カス除去用ダイスで構成されているから、この適数の接着剤カス除去用ダイス内に余分な接着剤カスが貯まった時点で接着剤塗布用ダイスと接着剤カス除去用ダイスとを一緒に新しいものに交換されるので、加工効率を従来よりも向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図4を参照するに、光ファイバドロップケーブル1の構造としては光ファイバとしての例えば光ファイバ心線3とこの光ファイバ心線3を挟んでその両側(図4において上下両側)に平行に配置された少なくとも一対の例えば金属、プラスチック、繊維などからなる抗張力体5とがケーブルシース7で被覆されている。このケーブルシース7において、前記光ファイバ心線3の図4において両側の外周部にはノッチ9が形成されており、これらを総称して長尺の光エレメント部11と呼んでいる。そして、この長尺の光エレメント部11の図4において上方には、長尺の例えば鋼線からなる支持線13が配置され、しかも支持線13の外周には接着剤15が塗布されて接着剤層が形成されている。この接着剤15の外周にはシース17が被覆されて長尺のケーブル支持線部19が配置されている。この長尺のケーブル支持線部19と前記長尺の光エレメント部11とは互いに平行に首部21を介して固着されている。
【0013】
したがって、長尺の光エレメント部11に対して長尺のケーブル支持線部19を首部21で引き裂いたときに、支持線13の外周に接着剤15を介してシース17が被覆されているから、支持線13とシース17との密着力が向上し、支持線13はシース17から剥がれず使用に対して支障がなくなる。
【0014】
次に、光ファイバドロップケーブル1の製造法およびその装置について説明する。図1を参照するに、光ファイバドロップケーブル製造装置23は、光ファイバ心線3が巻かれた回転可能な光ファイバ心線用ボビン25と、抗張力体5が巻かれた回転可能な抗張力体用ボビン27と、支持線13が巻かれた回転可能な支持線用ボビン29とを備えている。前記光ファイバ心線用ボビン25、抗張力体用ボビン27および支持線用ボビン29からそれぞれ引き出された光ファイバ心線3、抗張力体5および支持線13が押出し機31の押出しヘッド33に送り込まれると共に熱可塑性樹脂Pも同様に押出し機31の押出しヘッド33に供給される。この押出し機31の押出しヘッド33にて製造された光ファイバドロップケーブル1が巻き取りボビン35に巻き取られる。そして、前記支持線用ボビン29と前記押出し機31の押出しヘッド33との間に支持線用ボビン29から送り出された支持線13の外周に接着剤15を塗布するための接着剤塗布工程装置37が備えられている。
【0015】
この接着剤塗布工程装置39は、図2にも併せて参照するに、前記支持線用ボビン29側すなわち図2において左側から順に張力付与装置39、ストレートナー41、接着剤塗布装置43、この接着剤塗布装置43に連接された接着剤カス用除去手段45、乾燥装置47および冷却装置49が配置されている。前記張力付与装置39、ストレートナー41、接着剤塗布装置43は、それぞれ各支柱51、53、55上に設けられている。また、前記乾燥装置47は架台57上に設けられている。さらに、冷却装置49は支柱59上に設けられている。
【0016】
上記構成により、支持線用ボビン29に巻かれた支持線13は支持線用ボビン29より送り出されて走行し、張力付与装置39で一定の張力が付与され、ついで、ストレートナー41でもって支持線13のくせを除去しストレートにする。さらに、接着剤塗布装置43で例えば液体状の接着剤15が塗布されて支持線13の外周に接着剤層が形成される。外周に接着剤層が形成された支持線13は前記接着剤塗布装置41に連接された接着剤カス用除去手段45で支持線13の外周に余分に付着された接着剤15が除去された後、乾燥装置47に送られて乾燥装置47に備えられたヒータ61により例えば400℃程度の熱風を接着剤15に吹き付けて接着剤層に含まれている不純物が除去されると共に乾燥される。乾燥された外周に接着剤層が形成された支持線13に冷却装置49によりエアを吹きかけて冷却された後、前記押出し機33の押出しヘッド35に送られることとなる。
【0017】
前記支持線13は張力付与装置39で一定の張力が付与された後、押出し機31の押出しヘッド33に送られるまでは、ストレート状態を維持した状態を保って押出し機31の押出しヘッド33に送られることになる。その結果、支持線13とシース17との密着力が向上し、支持線13はシース17から剥がれず使用に対して支障がなくなる。
【0018】
前記接着剤塗布装置43と接着剤カス用除去手段45とをさらに詳細に説明すると、図3に示されているように、前記接着剤塗布装置43は、上ダイス63Uと下ダイス63Dとからなる接着剤塗布用ダイス63で構成されている。この接着剤塗布用ダイス63における上ダイス63Uと下ダイス63D内に接着剤15が充填されている。しかも、この接着剤15は図示省略されているが、常に補充されるようになっている。接着剤カス用除去手段45は押出し機31側図3において右側に例えば接着剤塗布用ダイス63に連接されて適数例えば2個の接着剤カス除去用ダイス65、67が直列に設けられている。接着剤カス除去用ダイス65は上ダイス65Uと下ダイス65Dとで構成されている。また、同様に接着剤カス除去用ダイス67も上ダイス67Uと下ダイス67Dとでで構成されている。
【0019】
そして、接着剤塗布用ダイス63における上ダイス63Uと下ダイス63Dとの間隔は例えば2.7mmΦのD1からなり、接着剤カス除去用ダイス65における上ダイス65Uと下ダイス65Dとの間隔は例えば2.6mmΦのD2からなっていると共に、接着剤カス除去用ダイス67における上ダイス67Uと下ダイス67Dとの間隔は例えば2.5mmΦのD3からなっている。すなわち、D1>D2>D3の関係を有している。しかも、接着剤カス除去用ダイス65における上ダイス65Uと下ダイス65D内には接着剤15が充填されておらず、空間となっいる。同様に、接着剤カス除去用ダイス67における上ダイス67Uと下ダイス67D内にも接着剤15が充填されておらず、空間となっいる。
【0020】
上記構成により、支持線13を図3において、左側から右側に向けて順に接着剤塗布用ダイス63における上ダイス63Uと下ダイス63Dとの間、接着剤カス除去用ダイス65における上ダイス65Uと下ダイス65Dとの間および接着剤カス除去用ダイス67における上ダイス67Uと下ダイス67Dとの間を走行させると、接着剤15が塗布される。そして、接着剤15が塗布された支持線13が順に接着剤カス除去用ダイス65における上ダイス65Uと下ダイス65Dとの間、接着剤カス除去用ダイス67における上ダイス67Uと下ダイス67Dとの間を走行されることで、D1>D2>D3の関係を有していることから、支持線13の外周に付着した余分な接着剤カスKが除去されて、下ダイス65D、下ダイス67D内に貯まることになる。
【0021】
而して、接着剤カス除去手段45により支持線13の外周に付着した余分な接着剤カスKが除去されて、均一に塗布して次工程に支障を来さないようになり、良好な光ファイバドロップケーブル1を製造することができる。また、接着剤カス除去手段45が適数の接着剤カス除去用ダイス65、67で構成されているから、この適数の接着剤カス除去用ダイス65、67内に余分な接着剤カスKが貯まった時点で接着剤塗布用ダイス43と接着剤カス除去用ダイス65、67とを一緒に新しいものに交換することで、加工効率を従来よりも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の光ファイバドロップケーブルを製造する光ファイバドロップケーブル製造装置を示す正面図である。
【図2】この発明の光ファイバドロップケーブル製造装置における接着剤塗布工程装置を示す正面図である。
【図3】接着剤塗布用装置と接着剤カス除去手段との具体的な構造を示した正面断面図である。
【図4】この発明の光ファイバドロップケーブルの構造を示す断面図である。
【図5】従来の光ファイバドロップケーブルの構造を示す断面図である。
【図6】図5における支持線の外周に接着剤を塗布した状態を示した説明図である。
【図7】従来の接着剤塗布装置で支持線の外周に接着剤を塗布した状態を示した説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1 光ファイバドロップケーブル
3 光ファイバ心線
5 抗張力体
7 ケーブルシース
9 ノッチ
11 光エレメント部
13 支持線
15 接着剤
17 シース
19 ケーブル支持線部
21 首部
23 光ファイバドロップケーブル製造装置
25 光ファイバ心線用ボビン
27 抗張力体用ボビン
29 支持線用ボビン
31 押出し機
33 押出しヘッド
35 巻き取りボビン
37 接着剤塗布工程装置
39 張力付与装置
41 ストレートナー
43 接着剤塗布装置
45 接着剤カス用除去手段
47 乾燥装置
49 冷却装置
51、53、55、59 支柱
61 ヒータ
63 接着剤塗布用ダイス
63U 上ダイス
63D 下ダイス
65、67 接着剤カス用ダイス
65U、67U 上ダイス
67D、67D 下ダイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ、抗張力体および支持線を押出し機に送り込むと共に熱可塑性樹脂からなるシース材を前記押出し機に供給することで、光ファイバとこの光ファイバを挟んでその両側に平行に配置された少なくとも一対の抗張力体とをケーブルシースで被覆した長尺の光エレメント部と、支持線をシースで被覆した長尺のケーブル支持線部とを、首部を介して互いに平行に固着されてなる光ファイバドロップケーブルを製造する際、前記押出し機に支持線を送り込むとき、支持線の外周に前もってダイスからなる接着剤塗布装置で接着剤を塗布した状態で走行させ、ついで、支持線の外周に余分に付着した接着剤カスを除去せしめて前記押出し機に送り込ませることを特徴とする光ファイバドロップケーブルの製造方法。
【請求項2】
光ファイバが巻かれた回転可能な光ファイバ用ボビンと、抗張力体が巻かれた回転可能な抗張力体用ボビンと、支持線が巻かれた回転可能な支持線用ボビンと、前記光ファイバ用ボビン、抗張力体用ボビンおよび支持線用ボビンからそれぞれ引き出された光ファイバ、抗張力体および支持線が送り込まれると共に熱可塑性樹脂が供給されて、光ファイバドロップケーブルを製造するための押出し機と、この押出し機で製造された光ファイバドロップケーブルを巻き取る巻き取りボビンとから構成される光ファイバドロップケーブルの製造装置において、
前記支持線用ボビンと前記押出し機との間に支持線用ボビンから送り出された支持線の外周に接着剤を塗布するための接着剤塗布工程装置が備えられ、この接着剤塗布工程装置の一部を構成する接着剤塗布装置の前記押出し機側に前記支持線の外周に付着した余分な接着剤カスを除去せしめる接着剤カス用除去手段が備えられていることを特徴とする光ファイバドロップケーブルの製造装置。
【請求項3】
前記接着剤塗布装置が、接着剤塗布用ダイスで構成されていると共に前記接着剤カス用除去手段が前記接着剤塗布用ダイスに連接して前記支持線の外周に付着した余分な接着剤カスを除去せしめる適数の接着剤カス除去用ダイスで構成されていることを特徴とする請求項2記載の光ファイバドロップケーブルの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−10964(P2006−10964A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186699(P2004−186699)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】