説明

光ファイバ母材および光ファイバの製造方法

【課題】空孔の長手方向での変形が抑制された光ファイバ母材および光ファイバの製造方法を提供すること。
【解決手段】長手方向に延びる空孔がガラス母材の一端に形成され、前記空孔の長さが前記ガラス母材の全体の長さの半分以下であるガラス母材を準備する準備工程と、前記空孔が一端に形成されたガラス母材の外周部に、ガラス微粒子を堆積して多孔質ガラス母材を合成する合成工程と、前記空孔を大気開放した状態で、前記空孔が形成された一端が下になるように配置して前記多孔質ガラス母材を焼結する焼結工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向に延びる複数の空孔を有する光ファイバ母材および光ファイバの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、シリカガラスからなる光ファイバは、例えばゲルマニウムをドープすることによって屈折率を高めたコアと、その周囲を取り囲み、コアより屈折率が低いクラッドとから構成されている。そして、クラッドとコアとの境界面における光の全反射の作用によりコア内を光が導波する。従来、実際に実現できるコアとクラッドとの比屈折率差は、大きくても3〜4%程度であった。
【0003】
これに対して、近年、このような従来の光ファイバに比して大きな比屈折率差を得ることができる光ファイバが報告されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1によると、クラッド中に複数の空孔を長手方向に設けることによって、クラッドの平均屈折率を大きく低減できることが報告されている。すなわち、このような空孔を有する光ファイバは、コアとクラッドの実効的な比屈折率差を従来の光ファイバに比して格段に大きくすることができる。
【0004】
このような空孔を有する光ファイバは、空孔を有する光ファイバ母材を作製したのち、これを加熱して線引きすることによって製造される。光ファイバ母材に空孔を形成する方法としては、主として、中実のガラス母材の所定の位置にドリルなどを用いて穿孔する方法(例えば、特許文献2参照。)や、複数のガラス管とガラス棒を束ね、加熱してガラス管およびガラス棒の外面を融着させ、ガラス管の孔を残して一体化する方法(例えば、特許文献1参照)等、がある。
【0005】
このような空孔を有する光ファイバにおいて、所望の特性を実現するためには、光ファイバ内に形成された空孔が、光ファイバの長手方向の全長にわたって、変形することなく均一であることが好ましい。
【0006】
空孔の変形や歪みを低減するための光ファイバ母材の製造方法として、長手方向に延びる空孔が形成されたガラス母材の外周に、ガラス微粒子を堆積して多孔質ガラス母材を形成し、この多孔質ガラス母材を焼結して長手方向に延びる空孔を有する光ファイバ母材を製造する方法が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−95628号公報
【特許文献2】特開2002−145634号公報
【特許文献3】特開2004−244260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献3に記載の方法を用いた場合、多孔質ガラス母材を焼結するにあたり、多孔質ガラス層が焼結することにより、ガラス母材が収縮することや、焼結時に加えられた熱によりガラス母材が自重で伸びることにより、ガラス母材に形成された空孔が変形してしまう問題が生じることがあった。この現象は光ファイバ母材が大型化するとより顕著となる。すなわち、特許文献3に記載の方法を用いた場合においても、依然として光ファイバ母材の長手方向において、空孔が変形してしまう問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、空孔の長手方向での変形が抑制された光ファイバ母材および光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る光ファイバ母材の製造方法は、長手方向に延びる空孔がガラス母材の一端に形成され、前記空孔の長さが前記ガラス母材の全体の長さの半分以下であるガラス母材を準備する準備工程と、前記空孔が一端に形成されたガラス母材の外周部に、ガラス微粒子を堆積して多孔質ガラス母材を合成する合成工程と、前記空孔を大気開放した状態で、前記空孔が形成された一端が下になるように配置して前記多孔質ガラス母材を焼結する焼結工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る光ファイバ母材の製造方法は、前記空孔は、前記ガラス母材の全体の長さの1/3以下に形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る光ファイバの製造方法は、上記の発明に係る製造方法により製造した光ファイバ母材を前記空孔が形成された一端が上になるように配置して、前記空孔が形成されていないもう一端から線引きする線引工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、空孔の長手方向での変形が抑制された光ファイバ母材および光ファイバの製造方法を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施の形態に係る光ファイバ母材および光ファイバの製造方法のフロー図である。
【図2】図2は、準備工程の一例について説明する模式図である。
【図3】図3は、準備工程の別の例について説明する模式図である。
【図4】図4は、合成工程について説明する模式図である。
【図5】図5は、焼結工程に用いる電気炉(焼結炉)を示す説明図である。
【図6】図6は、線引工程に用いる線引装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して本発明に係る光ファイバ母材および光ファイバの製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る光ファイバ母材および光ファイバの製造方法のフロー図である。
本実施の形態に係る光ファイバ母材の製造方法では、図1に示すように、はじめに、長手方向に延びる空孔が一端に形成され、空孔の長さがガラス母材の全体の長さの半分以下であるガラス母材を準備する準備工程を行い(ステップS101)、つぎに、準備したガラス母材の外周にガラス微粒子を堆積して多孔質ガラス母材を合成する合成工程を行い(ステップS102)、つぎに、多孔質ガラス母材を焼結する焼結工程を行う(ステップS103)。これによって、軸方向に延びる複数の孔を有する光ファイバ母材が作製される。
また、本実施の形態に係る光ファイバの製造方法では、つぎに、ステップS101〜S103の工程により作製した光ファイバ母材を、空孔が形成された一端が上になるように配置して、空孔が形成されていないもう一端から線引きする線引工程をさらに行う(ステップS104)。これによって、軸方向に延びる複数の空孔を有する光ファイバが作製される。
【0017】
以下、各工程について具体的に説明する。図2、図3は、ステップS101の準備工程の一例および別の例について説明する模式図である。
準備工程では一端に長手方向に延びる空孔が形成されたガラス母材を作製する。長手方向に延びる空孔が一端に形成されたガラス母材の作製方法としては、複数のガラス管、あるいは複数のガラス管とガラス棒とを密充填状態に束ね、これを一体化して製造した空孔を有するガラス母材を中実な円柱状のガラス母材に接続する方法や、円柱状のガラス母材の一端に空孔を穿孔する方法などがある。
ここでは、円柱状のガラス母材の一端に空孔を穿孔し、長手方向に延びる空孔が形成されたガラス母材を作製する方法について説明する。
【0018】
はじめに、図2に示す一例を説明する。まず、VAD(Vapor phase Axial Deposition)法、OVD(Outside Vapor Deposition)法、MCVD(Modified Chemical Vapor Deposition)法などの周知の方法を用いて図2(a)に示す石英ガラスからなる円柱状のガラス母材1を作製する。
このときガラス母材1は、中心部に位置し、Ge等を添加して屈折率を高めたコア11と、コア11を取り囲み、純石英ガラス等からなるコア11より屈折率が低いクラッド12とを有する構造とする。ここで、純石英ガラスとは、屈折率を調整するためのドーパントを含まない石英ガラスを意味する。なお、Ge等の添加量は、光ファイバに要求される特性に応じて変化させる。また、場合によっては特にコアを設けず、ガラス母材の全域が純石英ガラスからなるものとしてもよい。
【0019】
つぎに、図2(b)に示すようにこのガラス母材1のクラッド12に対して、ドリル加工などの機械的手段によりガラス母材1の長手方向に延びる1以上の空孔13を穿孔する。ここでは6個の空孔13を形成している。なお、空孔13は、コア11、またはコア11およびクラッド12の両方に形成してもよい。このとき空孔13は、母材の一端側のみに形成し、空孔13の長さLhは、空孔13の長手方向の変形を抑制するために、ガラス母材の長さLaの半分以下とする。このようにすることで、後述する焼結工程(ステップS103)において、ガラス微粒子堆積層が焼結することにより、多孔質ガラス母材が収縮することや、焼結時に加えられた熱により多孔質ガラス母材が自重で伸びることによる空孔13の変形を抑制することができる。空孔13の変形をより確実に抑制するためには、空孔の長さLhをガラス母材の長さLaの1/3以下とすることがさらに好ましい。
つぎに、形成した空孔13の内面を洗浄し、光学研磨する。
【0020】
つぎに、図3に示す別の例を説明する。はじめに、図3(a)に示すように、図2(a)と同様のガラス母材1を作製する。つぎに、図3(b)に示すようにガラス母材1をガラス母材1aとガラス母材1bとに2分割する。そして、図3(c)に示すように一方のガラス母材1bに空孔13を穿孔し、内面を洗浄して光学研磨をした後に、図3(d)に示すように空孔13を穿孔していないもう一方のガラス母材1aと接続する。このときガラス母材1a、1bの接続は、両方の母材の端面を加熱して付き合わせて溶着することにより可能である。なおガラス母材1a、1bを接続するための加熱は火炎や電気炉等により行うことができる。
このように一旦ガラス母材1を2分割した後、一方のガラス母材1bに空孔13を穿孔することで、穿孔する空孔13の位置精度を向上させることができ、さらに空孔13内を充分に洗浄・研磨することができる。なお、図3に示す例ではガラス母材1を2分割し、一方に空孔を形成しているが、全長にわたって空孔を有するガラス母材を別途準備して、これをそのまま、あるいは分割してガラス母材1に接続するようにしてもよい。
また、図2の例のように、ガラス母材1を2分割することなく、一端に空孔13を設けた場合は、ガラス母材を接続する手間が省ける上、接続部の強度不足がなく、接続する2本のガラス母材の中心軸のずれが生じない点で好ましい。
【0021】
また、これらのように、円柱状のガラス母材1の一端に空孔13を穿孔する方法を用いた場合、複数のガラス管、あるいは複数のガラス管とガラス棒を密充填状態に束ね、これを一体化して作製した空孔を有するガラス母材を、中実な円柱状のガラス母材に接続した場合と比較して、接続後のガラス母材外径を長手方向で一定にできるうえ、作業性がよい点で好ましい。ただし、本発明はこれに限らず、複数のガラス管、あるいは複数のガラス管とガラス棒を密充填状態に束ね、これを一体化して作製した空孔を有するガラス母材を、中実な円柱状のガラス母材に接続して、ガラス母材を準備してもよい。
なお、空孔の径、数、位置は光ファイバに要求される特性などによって決められる。
以上の準備工程により、一端に長手方向に延びる空孔13が形成されたガラス母材1が作製される。
【0022】
つぎに、ステップS102の合成工程について説明する。図4は、合成工程について説明する模式図である。
合成工程では、一端に空孔13を形成したガラス母材1の外周にクラッドとなる石英ガラスなどからなるガラス微粒子を、VAD法、OVD法などにより合成する。ここではOVD法を用いた場合について説明する。
【0023】
まず、ガラス母材1の外周にガラス微粒子を合成する前に、ガラス母材1の空孔13が形成されている一端1bbに管状部材41を接続し、この管状部材41の中空部と空孔13とを連通して、全ての空孔13を大気開放した状態とする。一方ガラス母材1の他方の一端1aaにも、ガラス母材1を支持するための支持部材42を接続する。一端1aa側に接続される支持部材42は、管状部材であっても中実部材であってもかまわないが、ガラス母材1を支持するための強度を確保するためには、図4に示すように中実部材であることが好ましい。
この一端に空孔13を形成したガラス母材1に管状部材41、支持部材42を接続したガラス母材1をターゲットロッド1Aと呼ぶ。
【0024】
ターゲットロッド1Aは、OVD法を用いた製造装置の図示しない把持機構により、一端が支持部材42で、もう一端が管状部材41で把持され、製造装置に軸支される。また、製造装置の図示しない駆動機構はターゲットロッド1Aを所定の速度で回転させる。さらにこの状態で、駆動機構はガラス微粒子合成用バーナ43をターゲットロッド1Aの軸方向に直線往復運動させる。
【0025】
ガラス微粒子合成用バーナ43には、ガラス原料ガスであるSiCl4ガスと、燃焼ガスであるH2ガス及びO2ガスとを供給し、燃焼ガスによって形成される火炎中でガラス原料ガスを火炎加水分解させてガラス微粒子を合成する。このガラス微粒子をガラス微粒子合成用バーナ43から回転するターゲットロッド1Aの外周上に噴射し、ガラス微粒子堆積層2aを堆積させる。これによって、多孔質ガラス母材2が合成される。
【0026】
つぎに、ステップS103の焼結工程について説明する。図5は、本実施の形態にて焼結工程に用いる電気炉(焼結炉)50を示す説明図である。
焼結炉50は、多孔質ガラス母材2を把持するための把持部51aを有する回転昇降機構51と、多孔質ガラス母材2を収容する石英ガラス製の炉心管53と、炉心管53の上蓋52と、炉心管53の外周に備えられ外部から多孔質ガラス母材2を加熱する環状のマルチヒータ54と、炉心管53の外周で断熱材55を介してマルチヒータ54を収容している炉体56と、を備える。
さらに、炉心管53は、ヘリウムガスなどの不活性ガスや、塩素ガスを含む不活性ガスなどを炉心管53内に供給するためのガス供給口57を下部に、使用済みのガスを炉心管53外に排出するためのガス排出口58を上部に備える。
【0027】
焼結炉50を用いて、多孔質ガラス母材2を焼結させる方法としては、まず、多孔質ガラス母材2を空孔13が形成された一端1bbを下にして、上端に接続された支持部材42を回転昇降機構51の把持部51aで把持する。なお、このとき多孔質ガラス母材2の空孔13が形成された一端1bbには、合成工程から引き続き、管状部材41が接続されており、この管状部材41の中空部と空孔13とが連通して、全ての空孔13が大気開放した状態となっている。
そして、回転昇降機構51により多孔質ガラス母材2を降下させて炉心管53内に挿入し、上蓋52により蓋をする。つぎに、多孔質ガラス母材2を所定のスタート位置にセットし、ヒータ54をおよそ1500℃の所定の温度まで昇温する。
【0028】
つぎに、ガス供給口57から炉心管53内にヘリウムガスを含む焼結ガスを供給する。そして多孔質ガラス母材2を回転昇降機構51により回転させながら加熱領域に対して所定の相対移動速度で降下させる。
この焼結工程により、多孔質ガラス母材2のガラス微粒子堆積層2aが透明ガラス化され、透明な光ファイバ母材となる。
なお、必要であれば焼結工程の前に処理温度900℃〜1300℃でヘリウムガスと塩素ガスとを含む脱水ガス雰囲気で熱処理する脱水工程を設けてもよい。
このようにして空孔を有する光ファイバ母材を得ることができる。
【0029】
つぎに、ステップS104の線引工程について説明する。図6は、本実施の形態にて線引工程に用いる線引装置60を示す説明図である。
線引工程では、焼結工程(ステップS103)で得られた光ファイバ母材3を空孔13が形成された一端1bbが上になるように配置して、空孔13が形成されていないもう一端1aa側から線引きする。
【0030】
はじめに、光ファイバ母材3を線引装置60の電気炉(線引炉)内に空孔13が形成された一端1bbが上になるように配置し、空孔13が形成されていない光ファイバ母材3のもう一端を線引炉内のヒータ61によって加熱溶融してガラス光ファイバ4を鉛直方向下向きに引き出す。このとき光ファイバ母材3の空孔13が形成された一端1bbには、焼結工程から引き続き、管状部材41が接続されており、この管状部材41の中空部と空孔13とが連通して、全ての空孔13が大気開放した状態となっている。
なお、管状部材41は、線引工程の前に付け替えてもよいが、合成工程、焼結工程で使用したものをそのまま用いることで、管状部材41の付け替え工程を省略でき、より容易に空孔を有する光ファイバを製造できる。
光ファイバ母材3の上端には、管状部材41を介して空孔加圧装置62が接続され、空孔加圧装置62から光ファイバ母材3の空孔13内にNやArなどの不活性ガスを送り込むことにより、空孔13内を加圧する。これにより、空孔13が潰れることなく光ファイバを線引きできる。
【0031】
つぎに、引き出したガラス光ファイバ4の外径を外径測定器63で監視しつつ、ガラス光ファイバ4の外周表面に紫外線硬化性樹脂を被覆装置64で塗付し、その後、紫外線照射装置65によって紫外線を照射し、塗布した紫外線硬化性樹脂を硬化させて1次被覆層を形成する。つぎに、さらにこの1次被覆層上に紫外線硬化性樹脂を被覆装置66で塗付し、その後、紫外線照射装置67によって紫外線を照射し、塗布した紫外線硬化性樹脂を硬化させて2次被覆層を形成し、被覆した光ファイバ5とする。なお、各紫外線硬化性樹脂を塗布した後にも図示しない外径測定器を設けてもよい。また、形成する被覆層の層数は光ファイバ5の使用目的等に応じて適宜調整され、被覆層の層数に応じた数の被覆装置、紫外線照射装置及び外径測定器が配置される。また、複数の被覆層を一括して塗布し、硬化させる方法を用いても良い。
つぎに、ガイドローラ68は、光ファイバ5を巻取機69に案内し、巻取機69が、光ファイバ5をボビンに巻き取る。このようにして、光ファイバ5が製造される。
なお、この実施形態によれば、線引き開始からしばらくは、通常の中実な光ファイバ5が線引きされ、引き続いて線引きの途中から空孔を有する光ファイバ5が線引きされる。
【0032】
この実施形態によれば、多孔質ガラス母材2を焼結する工程において、空孔13が大気開放された状態で、空孔13が形成された一端が下になるように配置して多孔質ガラス母材2を焼結し、さらに空孔13の長さがガラス母材1の全体の長さの半分以下であるので、空孔13が焼結による多孔質ガラス母材2の収縮や、加熱による自重での伸びなどの影響を受けにくく、空孔13の長手方向での変形が抑制された光ファイバ母材3を得ることができる。また、この実施形態の光ファイバ母材3を線引きすることで、空孔の長手方向での変形が抑制された光ファイバ5を得ることができる。
なお、光ファイバ母材3が大型化するほど、多孔質ガラス母材2の焼結時の変形は大きくなる傾向にあるため、この効果は光ファイバ母材3の重さが10kg以上の場合に特に顕著である。
【0033】
また、合成工程でガラス母材1の空孔13が形成されている一端1bbに接続した管状部材41を焼結工程、線引工程でそのまま使用できるため、管状部材41の付け替え工程を省略でき、より容易に空孔を有する光ファイバ5を製造できる。
さらに、線引工程では、中実な光ファイバ5に引き続き空孔を有する光ファイバ5を線引きすることができる。ここで、線引き開始時には、線引き条件の調整等により、線引きされる光ファイバには不良部分が発生する。これに対して、本実施の形態では、中実な光ファイバ5を線引きしている間に条件調整等を行える。したがって、その後に空孔13を有する光ファイバ母材3の部分を線引きした光ファイバ5においては、条件調整等により発生する不良部分の長さを最小限に抑えることができる。その結果、空孔を有する光ファイバ5の良品率が向上する。
なお、上記実施の形態では、焼結工程で得られた光ファイバ母材3をそのまま線引きしているが、焼結工程の後に光ファイバ母材3を延伸する工程を設け、延伸した光ファイバ母材3を線引きするようにしてもよい。
【0034】
(実施例、比較例)
つぎに、実施例、比較例により本発明をより詳細に説明する。なお、これによりこの発明が限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
(準備工程:ステップS101)
はじめに、実施例1として、上記実施の形態に従い、以下のようにして、ガラス母材の一方の一端に空孔を形成したガラス母材を作製した。
まず、VAD法により、Geが添加されたコアと、該コアの外周に純石英ガラスからなるクラッドを有するガラス母材を作製した。コアとクラッドの外径比はおよそ1/5である。得られたガラス母材を外径40mm、長さ1000mmに加熱延伸し、長さ700mmと300mmに2分割した。
つぎに、長さ300mmのガラス母材の一端から、コアの外周を取り囲むように、クラッド部分にドリル加工により長手方向に延びる6個の空孔を穿孔した。
つぎに形成した空孔を洗浄・研磨し、このガラス母材をもう一方の長さ700mmのガラス母材と端面で突き合わせ、突き合せ部分を火炎で加熱することにより、分割した2本のガラス母材を溶着接続した。その結果、空孔の長さはガラス母材の全体の長さの1/3以下である。
【0036】
(合成工程:ステップS102)
つぎに、ガラス母材の空孔が形成されている一端に管状部材を接続し、この管状部材の中空部と空孔とを連通して、全ての空孔を大気開放した状態とした。一方ガラス母材の他方の端部にも、ガラス母材を支持するための支持部材を接続し、ターゲットロッドを作製した。
つぎに、両端に接続した管状部材、支持部材をそれぞれ把持し、ガラス微粒子合成用バーナをターゲットロッドの軸方向に直線往復運動させターゲットロッドの外周上にガラス微粒子を堆積させ、多孔質ガラス母材を作製した。
【0037】
(焼結工程:ステップS103)
つぎに、多孔質ガラス母2の空孔を大気開放した状態で、空孔が形成された一端側を下にして上端に接続された支持部材を回転昇降装置の把持部で把持し、炉心管に挿入した。そして、約1500℃の温度で、ヘリウムガス、塩素ガスを含む雰囲気下で焼結させ光ファイバ母材を得た。
【0038】
(線引工程:ステップS104)
つぎに、得られた光ファイバ母材を空孔が形成された一端が上になるように配置して、空孔が形成されていないもう一端側から線引きした。このとき光ファイバ母材の空孔が形成された一端には、焼結工程から引き続き、管状部材が接続されており、この管状部材の中空部と空孔とが連通して、全ての空孔が大気開放した状態となっている。
光ファイバ母材の上端には、管状部材を介して空孔加圧装置を接続した。空孔が形成された部分を線引きする段階においては、この空孔加圧装置により、光ファイバ母材の空孔内にNガスを送り込み、空孔内を加圧した。
【0039】
得られた光ファイバのうち焼結工程の終端側(焼結が最後に行われた側)の25kmを5kmごとに切断し、端面の空孔径を観察した。
観察により得られた空孔径の平均値(6箇所×6個)をDa、最小値をDs、最大値をDlとしたとき、(Dl−Ds)/Daは3%と非常に小さかった。
【0040】
(実施例2)
長さ1000mmのガラス母材を長さ600mmと400mmに2分割し、長さ400mmのガラス母材の方に空孔を穿孔した以外は実施例1と同様にして光ファイバを製造した。その結果、空孔の長さはガラス母材の全体の長さの半分以下である。
得られた光ファイバのうち焼結工程の終端側の25kmを5kmごとに切断し、端面の空孔径を観察した。
観察により得られた空孔径の平均値(6箇所×6個)をDa、最小値をDs、最大値をDlとしたとき、(Dl−Ds)/Daは5%と非常に小さかった。
【0041】
(実施例3)
長さ1000mmのガラス母材を2分割せずに、ガラス母材の一端に300mmの空孔を穿孔した以外は実施例1と同様にして光ファイバを製造した。その結果、空孔の長さはガラス母材の全体の長さの1/3以下である。
得られた光ファイバのうち焼結工程の終端側の25kmを5kmごとに切断し、端面の空孔径を観察した。
観察により得られた空孔径の平均値(6箇所×6個)をDa、最小値をDs、最大値をDlとしたとき、(Dl−Ds)/Daは5%と非常に小さかった。
【0042】
(比較例1)
ガラス母材として全長にわたって空孔が形成された長さ1000mmのガラス母材を用いた以外は、実施例1と同様にして光ファイバを製造した。
得られた光ファイバのうち焼結工程の終端側の25kmを5kmごとに切断し、端面の空孔径を観察した。
観察により得られた空孔径の平均値(6箇所×6個)をDa、最小値をDs、最大値をDlとしたとき、(Dl−Ds)/Daは30%と大きかった。
【0043】
(比較例2)
長さ1000mmのガラス母材を長さ400mmと600mmに2分割し、長さ600mmのガラス母材の方に空孔を穿孔した以外は実施例1と同様にして光ファイバを製造した。その結果、空孔の長さはガラス母材の全体の長さの半分より長い。
得られた光ファイバのうち焼結工程の終端側の25kmを5kmごとに切断し、端面の空孔径を観察した。
観察により得られた空孔径の平均値(6箇所×6個)をDa、最小値をDs、最大値をDlとしたとき、(Dl−Ds)/Daは22%と大きかった。
【符号の説明】
【0044】
1 ガラス母材
1A ターゲットロッド
2 多孔質ガラス母材
3 光ファイバ母材
4 ガラス光ファイバ
5 光ファイバ
11 コア
12 クラッド
13 空孔
41 管状部材
42 支持部材
50 電気炉(焼結炉)
60 線引装置
S101〜S104 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びる空孔がガラス母材の一端に形成され、前記空孔の長さが前記ガラス母材の全体の長さの半分以下であるガラス母材を準備する準備工程と、
前記空孔が一端に形成されたガラス母材の外周部に、ガラス微粒子を堆積して多孔質ガラス母材を合成する合成工程と、
前記空孔を大気開放した状態で、前記空孔が形成された一端が下になるように配置して前記多孔質ガラス母材を焼結する焼結工程と、
を有することを特徴とする光ファイバ母材の製造方法。
【請求項2】
前記空孔は、前記ガラス母材の全体の長さの1/3以下に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により製造した光ファイバ母材を前記空孔が形成された一端が上になるように配置して、前記空孔が形成されていないもう一端から線引きする線引工程を有することを特徴とする光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−101994(P2012−101994A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254003(P2010−254003)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】