光フィルターおよび光機器
【課題】工程の増大がなく、製造時及び使用時のスティッキングや電流リークを防止できる光フィルター及び光機器を提供する。
【解決手段】光フィルター1は、第1基板2と、第1基板2に設けられた第1ミラー4Aと、第1ミラー4Aの周辺に配置された第1電極6Aと、第1基板2と対向した第2基板3と第2基板3に設けられ、第1ミラー4Aと対向した第2ミラー4Bと、第2ミラー4Bの周辺に設けられ、第1電極6Aと対向した第2電極6Bと、を少なくとも有し、第1ミラー4A、及び第2ミラー4Bは誘電体多層膜9A,9Bを含み、誘電体多層膜9A,9Bが、第1電極6A、または第2電極6Bの少なくとも一方を覆っている。
【解決手段】光フィルター1は、第1基板2と、第1基板2に設けられた第1ミラー4Aと、第1ミラー4Aの周辺に配置された第1電極6Aと、第1基板2と対向した第2基板3と第2基板3に設けられ、第1ミラー4Aと対向した第2ミラー4Bと、第2ミラー4Bの周辺に設けられ、第1電極6Aと対向した第2電極6Bと、を少なくとも有し、第1ミラー4A、及び第2ミラー4Bは誘電体多層膜9A,9Bを含み、誘電体多層膜9A,9Bが、第1電極6A、または第2電極6Bの少なくとも一方を覆っている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光フィルター、および当該光フィルターを備えた光機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入射光から目的とする波長の光を選択して出射する光フィルターとして、一対の基板を対向配置し、これら基板の対向する面それぞれにミラーを設けた構造のフィルターが知られている。また、これらのミラーの周囲にそれぞれ電極を設けるとともに、一方のミラーの周囲にダイアフラム部を設け、これら電極間の静電力によりダイアフラム部を変位させてこれらのミラー間のギャップ(エアーギャップ)を変化させることにより、所望の波長の光を取り出すエアーギャップ型かつ静電駆動型の光フィルターが知られている(例えば、特許文献1)。
エアーギャップを可変させる際、大きな駆動電圧が印加されると電極同士が貼り付くスティッキングと呼ばれる現象が発生し、印加電圧を取り除いても電極同士が離れなくなる場合がある。また、電極同士を電流が流れるリーク現象が発生することもある。その対策として、一方、もしくは両方の電極上に絶縁膜を形成し、スティッキングや電流リークが発生しないようにすることが提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−57438号公報
【特許文献2】特開2005−62384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載の光フィルターのように電極上に絶縁膜を形成する場合、工数増大に伴う生産性の低下や、他の構成部材への行程ダメージによる歩留まりの低下などが課題として挙げられる。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[適用例1]本適用例に係る光フィルターは、第1基板と、前記第1基板に設けられた第1ミラーと、前記第1ミラーの周辺に配置された第1電極と、前記第1基板と対向した第2基板と前記第2基板に設けられ、前記第1ミラーと対向した第2ミラーと、前記第2ミラーの周辺に設けられ、前記第1電極と対向した第2電極と、を少なくとも有し、前記第1ミラー、及び前記第2ミラーは誘電体膜を含み、前記誘電体膜が、前記第1電極、または前記第2電極の少なくとも一方を覆っていることを特徴とする。
【0006】
本適用例によれば、ミラーを構成する誘電体膜が第1電極、または第2電極の少なくとも一方を覆う構造となり、誘電体膜が電極の絶縁膜として作用することが可能となる。その場合、絶縁膜を形成する工程を追加する必要が無くなるため、工程の簡略化、更には歩留まりの向上が可能となる。
また、電極上の誘電体膜が絶縁層として作用することで、絶縁膜形成工程を追加することなく、スティッキングや電流リークを抑制することが可能となる。
【0007】
[適用例2]上記適用例に記載の光フィルターは、前記第1電極、または前記第2電極を覆っている前記誘電体膜と、前記第1ミラー、または前記第2ミラーを構成している前記誘電体膜とが同一材料であることが好ましい。
【0008】
本適用例によれば、ミラー、ならびに電極上への誘電体膜の形成を同一工程とすることが出来、工程の簡略化、更には歩留まりの向上が可能となる。
【0009】
[適用例3]上記適用例に記載の光フィルターは、前記第1電極、または前記第2電極を覆っている前記誘電体膜と、前記第1ミラー、または前記第2ミラーを構成している前記誘電体膜とが連続していることが好ましい。
【0010】
本適用例によれば、ミラーを任意形状にパターニングする際に行うエッチングやリフトオフなどの工程が省略され、それら工程での他の部材へのダメージ発生による歩留まりの低下を省くことが可能となる。
【0011】
[適用例4]上記適用例に記載の光フィルターは、前記第1ミラー、及び前記第2ミラーは前記誘電体膜が複数積層された積層膜からなることが好ましい。
【0012】
本適用例によれば、ミラーは高反射率を持ちつつ、透過性も有していなければならず、ミラーを積層膜とすることで、反射性と透過性を兼ね備えたミラーとして作用することが出来る。
【0013】
[適用例5]上記適用例に記載の光フィルターは、前記第1ミラー、及び前記第2ミラーを構成する前記誘電体膜であって、前記積層膜、またはその一部の前記誘電体層が前記第1電極、または前記第2電極を覆っていることが好ましい。
【0014】
本適用例によれば、ミラーの構成要素である誘電体膜の全部または一部が電極上に形成されることとなる。この場合、積層膜の厚みが厚ければ厚いほど絶縁性は向上するが、その分、電極間のギャップは狭くなる。必要な駆動範囲を確保するためには電極間ギャップを予め広くしておく必要が生じ、それにより電極間に発生する静電引力は低下してしまう。そのため、必要に応じて誘電体膜の全部、または一部を形成することで、所望の特性を得ることが出来る。
【0015】
[適用例6]上記適用例に記載の光フィルターは、前記第1ミラー、及び前記第2ミラーが前記誘電体膜と金属膜から形成されることが好ましい。
【0016】
本適用例によれば、ミラーは誘電体膜と金属膜の積層構造から構成される。金属膜は高い反射率を持ちながら、必要となる透過性を持つ材料は少ないが、反射ピークが得られる波長帯域は広くなる。誘電体膜は積層膜とすることで高い反射率を持ちつつ透過性を有することも可能であるが、反射ピークが得られる波長帯域が狭い。そのため、誘電体積層膜と組み合わせることで、それぞれの特性を補い、光フィルターに適したミラーとして作用することが可能となる。
【0017】
[適用例7]上記適用例に記載の光フィルターは、前記第1ミラー、及び前記第2ミラー上に酸化または硫化に対して耐性を有するバリア膜が形成されていることが好ましい。
【0018】
本適用例によれば、ミラー上にバリア膜を形成することで、ミラーの信頼性を向上させることが出来る。金属膜は耐環境性に乏しい材料が多く、時間経過によりミラーの特性が低下することが想定される。ミラー上にバリア層を形成すれば、ミラーの特性低下を抑制でき、信頼性を長期間持続して得ることが可能となる。
【0019】
[適用例8]上記適用例に記載の光フィルターは、前記バリア膜が前記第1電極、または前記第2電極の少なくとも一方を覆っていることが好ましい。
【0020】
本適用例によれば、バリア膜が電極上を覆うことで、ミラーを構成する誘電体膜のみが電極上にある場合よりも更に絶縁効果を高めることが出来る。バリア膜に使用する膜は誘電体であるため、誘電体膜が積層されることで、効果が向上する。
【0021】
[適用例9]本発明の光機器は、上記に記載の光フィルターを用いることを特徴とする。
【0022】
本適用例によれば、スティッキングや電流リークが発生し得ない光機器を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態1の光フィルターの構成を示す平面図。
【図2】実施形態1の光フィルターの構成を示す断面図。
【図3】実施形態1の光フィルターにおいて、電圧が印加されていない場合の波長と透過率との関係を示す図。
【図4】実施形態1の光フィルターにおいて、電圧が印加された場合の波長と透過率との関係を示す図。
【図5】実施形態1の光フィルターの製造方法を説明するための図。
【図6】実施形態1の光フィルターの製造方法を説明するための図。
【図7】実施形態1の光フィルターの製造方法を説明するための図。
【図8】実施形態1の光フィルターの製造方法を説明するための図。
【図9】実施形態1の光フィルターの製造方法を説明するための図。
【図10】変形例1の光フィルターの構成を示す断面図。
【図11】変形例2の光フィルターの構成を示す断面図。
【図12】実施形態2の可変ギャップエタロンフィルターを用いた光フィルターの構造の一例を示す図。
【図13】実施形体の光機器の一例である波長多重通信システムの送信機の概略構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。ここでは、光フィルターとして、エアーギャップ型かつ静電駆動型の光フィルターについて説明する。なお、以下の各図においては、各層や各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各層や各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。
【0025】
(実施形態1)
図1および図2において、符号1はエアーギャップ型で静電駆動型の光フィルターである。この光フィルター1は、第1基板2と、第1基板2に対向した状態で接合(または接着)された第2基板3と、第1基板2の第2基板3と対向する側の対向面2aの中央部に設けられた円形状の第1ミラー4Aと、第2基板3の第1基板2と対向する側の面の中央部に形成された第1の凹部5の底部中央に第1ミラー4Aと第1のギャップG1を介して対向して設けられた円形状の第2ミラー4Bと、第1基板2の第1ミラー4Aの周囲に設けられた円環状の第1電極6Aと、第2基板3の第1の凹部5の周囲に形成された円環状の第2の凹部7に第1電極6Aと第2のギャップG2を介して対向して設けられた円環状の第2電極6Bと、第1基板2の対向面2aの反対面側において、第1電極6Aとほぼ対応する位置にエッチング(選択除去)により形成された薄肉の円環状のダイアフラム部8とにより構成されている。
【0026】
静電アクチュエーターは第2のギャップG2を介して対向して設けられた電極6A、6Bと、ダイアフラム部8と、により構成されている。
【0027】
第1基板2及び第2基板3を共に光透過性を有する材料とすることにより、電磁波のうち所望の波長帯域の電磁波や可視光線を入射光として用いることができる。透過性を持つ材料として、具体的には、ソーダガラス、結晶化ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ナトリウムガラス、無アルカリガラス等が好適に用いられる。
また、第1基板2及び第2基板3を共に半導体材料、例えばシリコンで形成すれば、入射光として近赤外線を用いることができる。
【0028】
第1ミラー4A、第2ミラー4Bは、第1のギャップG1を介して互いに対向して配置されたもので、高屈折率層と低屈折率層とが交互に複数積層された誘電体膜により構成されている(以下、第1ミラー4Aを構成する誘電体膜を第1誘電体多層膜9A、第2ミラー4Bを構成する誘電体膜を第2誘電体多層膜9Bとする。)。なお、第1ミラー4A、第2ミラー4Bは、誘電体多層膜に限定されることなく、例えば、銀を主成分とする合金膜や、それらの多層膜等を用いることもできる。
【0029】
これら第1ミラー4A、第2ミラー4Bのうち、第1ミラー4Aは変形可能な第1基板2に設けられているので可動ミラーと称し、第2ミラー4Bは変形しない第2基板3に設けられているので固定ミラーと称することもある。
【0030】
この光フィルター1を可視光線の領域あるいは赤外線の領域で用いる場合、誘電体多層膜における高屈折率層を形成する材料としては、例えば、酸化チタン(Ti2O)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ニオブ(Nb2O5)等が用いられる。また、光フィルター1を紫外線の領域で用いる場合、高屈折率層を形成する材料としては、例えば酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化トリウム(ThO2)等が用いられる。
【0031】
一方、誘電体多層膜における低屈折率層を形成する材料としては、例えば、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化ケイ素(SiO2)等が用いられる。
この高屈折率層及び低屈折率層の層数及び厚みについては、必要とする光学特性に基づいて適宜に設定される。一般に、誘電体多層膜により反射膜(ミラー)を形成する場合、その光学特性を得るために必要な層数は10層以上である。
【0032】
第1電極6A、第2電極6Bは、第2のギャップG2を介して互いに対向して配置されたもので、入力される駆動電圧に応じてこれら第1電極6A、第2電極6B間に静電力を発生させ、第1ミラー4A、第2ミラー4Bを互いに対向した状態で相対移動させる静電アクチュエーターの一部を構成するものである。
【0033】
これにより、第1電極6A、第2電極6Bは、ダイアフラム部8を図2の上下方向に変位させて第1ミラー4A、第2ミラー4B間の第1のギャップG1を変化させ、この第1のギャップG1に対応する波長の光を出射するようになっている。
【0034】
なお、本実施形態では、第1基板2の対向面2aと第2基板3に形成された第2の凹部7とは平行になっているので、第1電極6A、第2電極6B間も平行となっている。
これら第1電極6A、第2電極6Bを形成する材料としては導電性であればよく、特に限定はされないが、例えば、Cr、Al、Al合金、Ni、Zn、Ti、Au等の金属、あるいはカーボン、チタン等を分散した樹脂、多結晶シリコン(ポリシリコン)、アモルファスシリコン等のシリコン、窒化シリコン、ITO等の透明導電材料等が用いられる。
これら第1電極6A、第2電極6Bには、図1に示すように、第1配線11A、第2配線11Bが接続されており、これら第1電極6A、第2電極6Bは、これら第1配線11A、第2配線11Bを介して電源(図示せず)に接続されている。
【0035】
本実施形態では第1ミラー4A、第2ミラー4Bを構成する第1誘電体多層膜9A、第2誘電体多層膜9Bが、第1電極、または第2電極の少なくとも一方を覆うように形成されている。これにより、製造時及び使用時のスティッキングや電流リークが防止され、信頼性を向上させることが出来る。
【0036】
なお、本実施形態では第1ミラー4A、第2ミラー4Bを構成する第1誘電体多層膜9A、第2誘電体多層膜9Bが第1電極、または第2電極覆うように形成されているとしたが、第1誘電体多層膜9A、第2誘電体多層膜9Bの一部の膜のみが、第1電極6A、第2電極6Bを覆う構造としてもよい。
【0037】
積層膜の厚みが厚ければ厚いほど絶縁性は向上するが、その分、電極間のギャップは狭くなる。必要な駆動範囲を確保するためには電極間ギャップを予め広くしておく必要が生じ、それにより電極間に発生する静電引力は低下してしまう。そのため、必要に応じて誘電体膜の全部、または一部を形成することで、所望の特性を得ることが出来る。
【0038】
電源は、駆動信号として、第1電極6A、第2電極6Bに電圧を印加することにより、第1電極6A、第2電極6Bを駆動させ、これらの間に所望の静電力を発生させるものである。なお、この電源には制御装置(図示せず)が接続されており、この制御装置によって電源を制御することにより、第1電極6A、第2電極6B間の電位差を調整することができるようになっている。
【0039】
ダイアフラム部8は、このダイアフラム部8が形成されていない第1基板2の箇所に比べて厚さが薄くなっている。このように、第1基板2のうち他の箇所に比べて厚さが薄い箇所は、弾性(可撓性)を有して変形可能(変位可能)になっており、これにより、このダイアフラム部8は、第1のギャップG1を変化させて第1ミラー4A、第2ミラー4B間の間隔を所望の波長の光に対応する間隔に変化させることにより、所望の波長の光を出射させる波長選択機能を有するようになっている。
【0040】
これらダイアフラム部8の形状や厚みは、所望の波長の範囲の光を出射させることができればよく、具体的には、第1ミラー4A、第2ミラー4B間の間隔の変化量及び変化の速さ等を勘案し、この光フィルター1に求められる出射光の波長の範囲に対応して設定される。
【0041】
本実施形態の光フィルター1では、制御装置及び電源が駆動されず、したがって、第1電極6Aと第2電極6Bとの間に電圧が印加されていない場合、第1ミラー4Aと第2ミラー4Bとは第1のギャップG1を介して対向している。そこで、この光フィルター1に光が入射すると、図3に示すように、この第1のギャップG1に対応した波長の光が透過し、例えば720nmの波長の光が出射されることとなる。
【0042】
ここで、制御装置及び電源を駆動させて第1電極6Aと第2電極6Bとの間に電圧を印加すると、これら第1電極6Aと第2電極6Bとの間には、電圧(電位差)の大きさに対応した静電力が発生する。このように、制御装置が電源を制御することにより、第1電極6A、第2電極6B間に所望の電圧を印加し、第1電極6Aと第2電極6Bとの間に所望の静電力を発生させることができる。このようにして第1電極6A、第2電極6B間に所望の静電力が発生すると、この静電力により第1電極6A、第2電極6Bが相互に引きつけられて第1基板2が第2基板3側に向かって変形し、第1ミラー4Aと第2ミラー4Bとの第1のギャップG1が、電圧が印加されていない場合と比べて狭くなる。
【0043】
そこで、この光フィルター1に光が入射すると、図4に示すように、変位した第1のギャップG1に対応した波長の光が透過し、例えば590nmの波長の光が出射されることとなり、透過波長が短波長側にシフトすることとなる。
【0044】
次に、本実施形態の光フィルター1の製造方法について、図面を参照して説明する。図5〜9は、本実施形態の光フィルター1の製造方法を示す断面図である。
この製造方法は、[1]第1基板の加工工程、[2]第2基板の加工工程、を有している。以下、各工程について順次説明する。
【0045】
[1]第1基板の加工工程
図5(a)に示すように、第1基板2の全面にマスク層51を成膜する。マスク層51を構成する材料としては、例えば、Cr/Au等の金属膜やレジスト材料等を用いることができる。マスク層51の厚さは、特に限定されないが、0.01〜1μm程度とすることが好ましく、0.1〜0.3μm程度とすることがより好ましい。マスク層51が薄すぎると、第1基板2を十分に保護できない場合があり、マスク層51が厚すぎると、マスク層51の内部応力によりマスク層51が剥がれ易くなる場合がある。本実施形態では、マスク層51は、Cr/Au膜をスパッタ法によって成膜し、Cr、Auそれぞれの膜厚は0.01μm、0.3μmとしている。
【0046】
次に、図5(b)に示すように、マスク層51に、ダイアフラム部8を形成するための開口部51aを形成する。開口部51aは、例えばフォトリソグラフィー法により形成することができる。具体的には、マスク層51上に、開口部51aに対応したパターンを有するレジスト層(図示せず)を形成し、このレジスト層をマスクとして、マスク層51の一部を除去した後に、レジスト層を除去することで開口部51aが形成される。なお、マスク層51の一部除去は、ウェットエッチング等により行われる。
【0047】
次に、図5(c)に示すように、ウェットエッチングによって第1基板2をエッチングし、ダイアフラム部8を形成する。エッチング液としては、例えば、フッ酸水溶液や緩衝フッ酸水溶液(BHF)が等を用いることができる。なお、ダイアフラム部8の形成方法としては、ウェットエッチングに限られず、ドライエッチング等他のエッチング法を用いてもよい。その後、図5(d)に示すように、マスク層51をエッチングによって除去することによって、ダイアフラム部8を備えた第1基板2が得られる。
【0048】
次に、図6(a)に示すように、第1電極6A、第1配線11Aを形成する。第1電極6A、第1配線11Aを構成する材料としては、例えばCr、Au、Al等の金属膜やITOのような透明導電材料等を用いることができる。第1電極6A、第1配線11Aの厚さは、例えば、0.1〜0.2μmとするのが好ましい。
【0049】
これら第1電極6A、第1配線11Aを形成するためには、蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等によって金属膜等を成膜した後、フォトリソグラフィー法及びエッチングによってパターニングを行う。
【0050】
次に、対向面2aのダイアフラム部8に囲まれた位置2a’で第1ミラー4Aとして作用する第1誘電体多層膜9Aを形成する。例えば、第1誘電体多層膜9Aは高屈折率層を形成する材料として酸化チタン(Ti2O)、低屈折率層を形成する材料として酸化ケイ素(SiO2)を積層することで第1ミラー4Aとして作用する。
【0051】
また第1ミラー4Aとして作用する第1誘電体多層膜9Aは、連続した膜として、第1電極6Aを覆うように形成されている。これにより、絶縁膜のみを形成する工程を追加することなく第1電極6A上に絶縁層として作用する誘電体膜を形成できる。これにより、スティッキングや電流リークが防止され、信頼性を向上させることが出来る。
【0052】
なお、本実施形態の第1基板2の加工工程において、第1ミラー4Aとして作用する第1誘電体多層膜9Aは、連続した膜として、第1電極6Aを覆うように形成されているとしたが、フォトリソグラフィーなどでパターニングされ、第2ミラー4Bとして作用する第2誘電体多層膜9Bが連続した膜となっていない構造としてもよい。
【0053】
[2]第2基板の加工工程
図7(a)に示すように、第2基板3の全面にマスク層61を成膜する。マスク層61を構成する材料としては、マスク層51と同様、例えば、Cr/Auなどの金属膜や、レジスト材料等を用いることができる。
【0054】
次に、図7(b)に示すように、マスク層61の第1基板2との対向面3aに、第2の凹部7を形成するための開口部61aを形成する。開口部61aは、開口部51aと同様の方法で形成することができる。
【0055】
次に、図7(c)に示すように、ウェットエッチングによって第2基板3をエッチングし、第2の凹部7を形成する。エッチング液としては、例えば、フッ酸水溶液や緩衝フッ酸水溶液(BHF)等を用いることができる。なお、第2の凹部7の形成方法としては、ウェットエッチングに限られず、ドライエッチング等他のエッチング法を用いてもよい。
【0056】
次に、エッチングによって図7(d)のように第2基板3からマスク層61を除去する。その後、第2の凹部7の形成と同じ要領で、第1の凹部5を形成する。具体的には、第2基板3上にマスク層62を成膜し、図8(a)に示すように、第1の凹部5を形成するための開口部62aを形成する。次いで、図8(b)に示すように、ウェットエッチングによって第2基板3をエッチングして、第1の凹部5を形成する。その後、図8(c)に示すように、マスク層62をエッチングによって除去することによって、第1の凹部5及び第2の凹部7を備えた第2基板3が得られる。
【0057】
次に、図9(a)に示すように、第2電極6B、第2配線11Bを形成する。第2電極6B、第2配線11Bを構成する材料としては、例えばCr、Al等の金属膜やITOのような透明導電材料等を用いることができる。第2電極6B、第2配線11Bの厚さは、例えば、0.1〜0.2μmとするのが好ましい。
これら第2電極6B、配線11Bの形成には、蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等によって金属膜等を成膜した後、フォトリソグラフィー法及びエッチングによってパターニングを行う。
【0058】
次に、第1基板2の第1ミラー4Aに対向する位置に第2ミラー4Bとして作用する第2誘電体多層膜9Bを形成する。例えば、第2誘電体多層膜9B高屈折率層を形成する材料として酸化チタン(Ti2O)、低屈折率層を形成する材料として酸化ケイ素(SiO2)を積層することで第2ミラー4Bとして作用する。
【0059】
また第2ミラー4Bとして作用する第2誘電体多層膜9Bは、連続した膜として、第2電極6Bを覆うように形成されている。これにより、絶縁膜のみを形成する工程を追加することなく第2電極6B上に絶縁層として作用する誘電体膜を形成できる。これにより、スティッキングや電流リークが防止され、信頼性を向上させることが出来る。
【0060】
なお、本実施形態の第2基板3の加工工程において、第2ミラー4Bとして作用する第2誘電体多層膜9Bは、連続した膜として、第2電極6Bを覆うように形成されているとしたが、フォトリソグラフィーなどでパターニングされ、第2ミラー4Bとして作用する第2誘電体多層膜9Bが連続した膜となっていない構造としてもよい。
【0061】
なお、本実施形態では、第1誘電体多層膜9A、第2誘電体多層膜9Bのそれぞれが、第1電極6A、ならびに第2電極6Bを覆うものとしたが、第1誘電体多層膜9A、または第2誘電体多層膜9Bのどちらか一方が、第1電極6A、または第2電極6Bを覆う構造としてもよい。
【0062】
以上説明したように、本実施形態の光フィルターによれば、第1電極6A、および第2電極6Bを、第1ミラー4Aを構成する第1誘電体多層膜9A、および第2ミラー4Bを構成する第2誘電体多層膜9Bが覆うことで、絶縁層のみを形成する工程を追加することなく、絶縁層としての誘電体膜を形成することが出来る。これにより、製造時及び使用時のスティッキングや電流リークが防止され、製品信頼性を向上させることが出来る。
【0063】
(変形例1)
図10は、変形例1に係るエアーギャップ型で静電駆動型の光フィルターである。
上記実施形態1では、第1ミラー4A、第2ミラー4Bに誘電体多層膜を用いたが、この構成に限定するものではない。
以下、変形例1に係る光フィルター20について説明する。なお、実施形態1と同一の構成部位については、同一の番号を附し、重複する説明は省略する。
【0064】
第1ミラー21A、第2ミラー21Bは、第1誘電体多層膜22A、第2誘電体多層膜22B、ならびに第1金属膜23A、第2金属膜23Bから構成される。第1誘電体多層膜22A、第2誘電体多層膜22Bは、例えば、酸化チタン(Ti2O)や酸化ケイ素(SiO2)から構成される。第1金属膜23A、第2金属膜23Bの材料としては、Ag(銀)単体、Ag(銀)を主成分とする合金、Au(金)単体、Au(金)を主成分とする合金、Al(アルミニウム)単体、Al(アルミニウム)を主成分とする合金の中から選ばれた一つを使用することができる。これら金属単体あるいは金属の合金は、光学膜の候補として有力である。
【0065】
ミラーは誘電体膜と金属膜から構成されることで、反射ピークが得られる波長帯域を広くすることが出来る。金属膜は高い反射率を持ちながら、必要となる透過性を持つ材料は少ないが、反射ピークが得られる波長帯域は広くなる。誘電体膜は積層膜とすることで高い反射率を持ちつつ透過性を有することも可能であるが、反射ピークが得られる波長帯域が狭い。そのため、誘電体積層膜と組み合わせることで、それぞれの特性を補い、光フィルターに適したミラーとして作用することが可能となる。
【0066】
第1ミラー21A、第2ミラー21Bを構成する第1誘電体多層膜22A、第2誘電体多層膜22Bは、第1電極6A、ならびに第2電極6Bを覆うように形成されている。これにより、実施形態1と同様に、スティッキングや電流リークが防止され、信頼性を向上させることが出来る。
【0067】
(変形例2)
なお、変形例1において、図11に示すように第1ミラー21A、および第2ミラー21B上に第1バリア膜24A、および第2バリア膜24Bを形成しても良い。第1ミラー21A、および第2ミラー21Bを構成する第1金属膜23A、第2金属膜23Bに好適な材料として、Ag(銀)単体、Ag(銀)を主成分とする合金が挙げられるが、これらは酸化や硫化などへの耐性が低く、すぐに劣化が起きてしまう。それを防ぐ手段として、第1バリア膜24A、および第2バリア膜24Bの形成が効果的である。
【0068】
第1バリア膜24A、および第2バリア膜24Bの材料としては、Al(アルミニウム)の酸化膜、Al(アルミニウム)の窒化膜、Si(シリコン)の酸化膜、Si(シリコン)の窒化膜、Ti(チタン)の酸化膜、Ti(チタン)の窒化膜、Ta(タリウム)の酸化膜、Ta(タリウム)の窒化膜、ITO(酸化インジウム錫)膜、Mg(マグネシウム)のフッ化膜の群の中から選ばれた一つの膜、あるいは、上記の群の中から選ばれた一つの酸化膜および一つの窒化膜の積層膜を使用することができる。
【0069】
なお、図11に示すように、第1バリア膜24A、および第2バリア膜24Bを第1電極6A、および第2電極6B上に形成することで、ミラーを構成する誘電体膜のみが電極上にある場合よりも更に絶縁効果を高めることが出来る。バリア膜に使用する膜は誘電体であるため、誘電体膜が積層されることで、効果が向上する。
【0070】
以上述べたように、本変形例に係る光フィルター20によれば、実施形態1での効果に加えて、反射ピークが得られる波長帯域の広域化、ならびに絶縁性の向上が可能となる。
(実施形態2)
【0071】
上記実施形態1、ならびに上記変形例1の光フィルターを用いることで、図12に示すような分光測定器を構成することができる。なお、分光測定器の例としては、例えば、測色器、分光分析器、分光スペクトラムアナライザー等があげられる。図12に示される分光測定器において、例えば、サンプル200の測色を行う場合には光源100が用いられ、また、サンプル200の分光分析を行う場合には、光源100’が用いられる。
【0072】
分光測定器は、光源100(あるいは100’)と、複数の波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(1)〜可変BPF(4))を備える光フィルター(分光部)300と、フォトダイオード等の受光素子PD(1)〜PD(4)を含む受光部400と、受光部400から得られる受光信号(光量データ)に基づいて、所与の信号処理を実行して分光光度分布等を求める信号処理部600と、可変BPF(1)〜可変BPF(4)の各々を駆動する駆動部301と、可変BPF(1)〜可変BPF(4)の各々の分光帯域を可変に制御する制御部303と、を有する。信号処理部600は、信号処理回路501を有し、必要に応じて、補正演算部500を設けることも可能である。分光光度分布の測定によって、例えば、サンプル200の測色や、サンプル200の成分分析等を行うことができる。また、光源100(100’)としては、例えば、白熱電球、蛍光灯、放電管、LED等の固体発光素子を用いた光源(固体発光素子光源)等を使用することができる。
【0073】
なお、光フィルター300および受光部400によって、光フィルターモジュール350が構成される。光フィルターモジュール350は、分光測定器に適用できる他、例えば、光通信装置の受信部(受光光学系と受光素子を含む)としても使用可能である。この例については、図5を用いて後述する。本実施形態における光フィルターモジュール350は、光学膜の特性劣化が抑制されて信頼性が高く、また、透過光の波長範囲を広くとることができ、小型軽量で、かつ使い勝手がよいという利点がある。
(第3実施形態)
【0074】
図13は、光機器の一例である波長多重通信システムの送信機の概略構成を示すブロック図である。波長多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)通信では、波長の異なる信号は干渉し合わないという特性を利用して、波長が異なる複数の光信号を一本の光ファイバー内で多重的に使用すれば、光ファイバー回線を増設せずにデータの伝送量を向上させることができるようになる。
【0075】
図13において、波長多重送信機800は、光源100からの光が入射される光フィルター300を有し、光フィルター300(上記いずれかのミラー構造が採用されたエタロン素子を具備する)からは、複数の波長λ0,λ1,λ2,…の光が透過される。波長毎に送信器311,312,313が設けられる。送信器311,312,313からの複数チャンネル分の光パルス信号は、波長多重装置321にて1つに合わせられて一本の光ファイバー伝送路331に送出される。
【0076】
本発明は光符号分割多重(OCDM:Optical Code Division Multiplexing)送信機にも同様に適用できる。OCDMは、符号化された光パルス信号のパターンマッチングによってチャンネルを識別するが、光パルス信号を構成する光パルスは、異なる波長の光成分を含んでいるからである。このように、本発明を光機器に適用することによって、光学膜の特性劣化が抑制された、信頼性の高い光機器(例えば、各種センサーや光通信応用機器)が実現される。
【0077】
以上、幾つかの実施形態について本発明を説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるものである。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【符号の説明】
【0078】
1…光フィルター、2…第1基板、3…第2基板、4A…第1ミラー,4B…第2ミラー,21A…第1ミラー,21B…第2ミラー、5…第1の凹部、6A…第1電極,6B…第2電極、7…第2の凹部、8…ダイアフラム部、9A…第1誘電体多層膜,9B…第2誘電体多層膜,22A…第1誘電体多層膜,22B…第2誘電体多層膜、11A…第1配線,11B…第2配線、G1…第1のギャップ、G2…第2のギャップ、23A…第1金属膜,23B…第2金属膜、24A…第1バリア膜,24B…第2バリア膜。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光フィルター、および当該光フィルターを備えた光機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入射光から目的とする波長の光を選択して出射する光フィルターとして、一対の基板を対向配置し、これら基板の対向する面それぞれにミラーを設けた構造のフィルターが知られている。また、これらのミラーの周囲にそれぞれ電極を設けるとともに、一方のミラーの周囲にダイアフラム部を設け、これら電極間の静電力によりダイアフラム部を変位させてこれらのミラー間のギャップ(エアーギャップ)を変化させることにより、所望の波長の光を取り出すエアーギャップ型かつ静電駆動型の光フィルターが知られている(例えば、特許文献1)。
エアーギャップを可変させる際、大きな駆動電圧が印加されると電極同士が貼り付くスティッキングと呼ばれる現象が発生し、印加電圧を取り除いても電極同士が離れなくなる場合がある。また、電極同士を電流が流れるリーク現象が発生することもある。その対策として、一方、もしくは両方の電極上に絶縁膜を形成し、スティッキングや電流リークが発生しないようにすることが提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−57438号公報
【特許文献2】特開2005−62384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載の光フィルターのように電極上に絶縁膜を形成する場合、工数増大に伴う生産性の低下や、他の構成部材への行程ダメージによる歩留まりの低下などが課題として挙げられる。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[適用例1]本適用例に係る光フィルターは、第1基板と、前記第1基板に設けられた第1ミラーと、前記第1ミラーの周辺に配置された第1電極と、前記第1基板と対向した第2基板と前記第2基板に設けられ、前記第1ミラーと対向した第2ミラーと、前記第2ミラーの周辺に設けられ、前記第1電極と対向した第2電極と、を少なくとも有し、前記第1ミラー、及び前記第2ミラーは誘電体膜を含み、前記誘電体膜が、前記第1電極、または前記第2電極の少なくとも一方を覆っていることを特徴とする。
【0006】
本適用例によれば、ミラーを構成する誘電体膜が第1電極、または第2電極の少なくとも一方を覆う構造となり、誘電体膜が電極の絶縁膜として作用することが可能となる。その場合、絶縁膜を形成する工程を追加する必要が無くなるため、工程の簡略化、更には歩留まりの向上が可能となる。
また、電極上の誘電体膜が絶縁層として作用することで、絶縁膜形成工程を追加することなく、スティッキングや電流リークを抑制することが可能となる。
【0007】
[適用例2]上記適用例に記載の光フィルターは、前記第1電極、または前記第2電極を覆っている前記誘電体膜と、前記第1ミラー、または前記第2ミラーを構成している前記誘電体膜とが同一材料であることが好ましい。
【0008】
本適用例によれば、ミラー、ならびに電極上への誘電体膜の形成を同一工程とすることが出来、工程の簡略化、更には歩留まりの向上が可能となる。
【0009】
[適用例3]上記適用例に記載の光フィルターは、前記第1電極、または前記第2電極を覆っている前記誘電体膜と、前記第1ミラー、または前記第2ミラーを構成している前記誘電体膜とが連続していることが好ましい。
【0010】
本適用例によれば、ミラーを任意形状にパターニングする際に行うエッチングやリフトオフなどの工程が省略され、それら工程での他の部材へのダメージ発生による歩留まりの低下を省くことが可能となる。
【0011】
[適用例4]上記適用例に記載の光フィルターは、前記第1ミラー、及び前記第2ミラーは前記誘電体膜が複数積層された積層膜からなることが好ましい。
【0012】
本適用例によれば、ミラーは高反射率を持ちつつ、透過性も有していなければならず、ミラーを積層膜とすることで、反射性と透過性を兼ね備えたミラーとして作用することが出来る。
【0013】
[適用例5]上記適用例に記載の光フィルターは、前記第1ミラー、及び前記第2ミラーを構成する前記誘電体膜であって、前記積層膜、またはその一部の前記誘電体層が前記第1電極、または前記第2電極を覆っていることが好ましい。
【0014】
本適用例によれば、ミラーの構成要素である誘電体膜の全部または一部が電極上に形成されることとなる。この場合、積層膜の厚みが厚ければ厚いほど絶縁性は向上するが、その分、電極間のギャップは狭くなる。必要な駆動範囲を確保するためには電極間ギャップを予め広くしておく必要が生じ、それにより電極間に発生する静電引力は低下してしまう。そのため、必要に応じて誘電体膜の全部、または一部を形成することで、所望の特性を得ることが出来る。
【0015】
[適用例6]上記適用例に記載の光フィルターは、前記第1ミラー、及び前記第2ミラーが前記誘電体膜と金属膜から形成されることが好ましい。
【0016】
本適用例によれば、ミラーは誘電体膜と金属膜の積層構造から構成される。金属膜は高い反射率を持ちながら、必要となる透過性を持つ材料は少ないが、反射ピークが得られる波長帯域は広くなる。誘電体膜は積層膜とすることで高い反射率を持ちつつ透過性を有することも可能であるが、反射ピークが得られる波長帯域が狭い。そのため、誘電体積層膜と組み合わせることで、それぞれの特性を補い、光フィルターに適したミラーとして作用することが可能となる。
【0017】
[適用例7]上記適用例に記載の光フィルターは、前記第1ミラー、及び前記第2ミラー上に酸化または硫化に対して耐性を有するバリア膜が形成されていることが好ましい。
【0018】
本適用例によれば、ミラー上にバリア膜を形成することで、ミラーの信頼性を向上させることが出来る。金属膜は耐環境性に乏しい材料が多く、時間経過によりミラーの特性が低下することが想定される。ミラー上にバリア層を形成すれば、ミラーの特性低下を抑制でき、信頼性を長期間持続して得ることが可能となる。
【0019】
[適用例8]上記適用例に記載の光フィルターは、前記バリア膜が前記第1電極、または前記第2電極の少なくとも一方を覆っていることが好ましい。
【0020】
本適用例によれば、バリア膜が電極上を覆うことで、ミラーを構成する誘電体膜のみが電極上にある場合よりも更に絶縁効果を高めることが出来る。バリア膜に使用する膜は誘電体であるため、誘電体膜が積層されることで、効果が向上する。
【0021】
[適用例9]本発明の光機器は、上記に記載の光フィルターを用いることを特徴とする。
【0022】
本適用例によれば、スティッキングや電流リークが発生し得ない光機器を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態1の光フィルターの構成を示す平面図。
【図2】実施形態1の光フィルターの構成を示す断面図。
【図3】実施形態1の光フィルターにおいて、電圧が印加されていない場合の波長と透過率との関係を示す図。
【図4】実施形態1の光フィルターにおいて、電圧が印加された場合の波長と透過率との関係を示す図。
【図5】実施形態1の光フィルターの製造方法を説明するための図。
【図6】実施形態1の光フィルターの製造方法を説明するための図。
【図7】実施形態1の光フィルターの製造方法を説明するための図。
【図8】実施形態1の光フィルターの製造方法を説明するための図。
【図9】実施形態1の光フィルターの製造方法を説明するための図。
【図10】変形例1の光フィルターの構成を示す断面図。
【図11】変形例2の光フィルターの構成を示す断面図。
【図12】実施形態2の可変ギャップエタロンフィルターを用いた光フィルターの構造の一例を示す図。
【図13】実施形体の光機器の一例である波長多重通信システムの送信機の概略構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。ここでは、光フィルターとして、エアーギャップ型かつ静電駆動型の光フィルターについて説明する。なお、以下の各図においては、各層や各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各層や各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。
【0025】
(実施形態1)
図1および図2において、符号1はエアーギャップ型で静電駆動型の光フィルターである。この光フィルター1は、第1基板2と、第1基板2に対向した状態で接合(または接着)された第2基板3と、第1基板2の第2基板3と対向する側の対向面2aの中央部に設けられた円形状の第1ミラー4Aと、第2基板3の第1基板2と対向する側の面の中央部に形成された第1の凹部5の底部中央に第1ミラー4Aと第1のギャップG1を介して対向して設けられた円形状の第2ミラー4Bと、第1基板2の第1ミラー4Aの周囲に設けられた円環状の第1電極6Aと、第2基板3の第1の凹部5の周囲に形成された円環状の第2の凹部7に第1電極6Aと第2のギャップG2を介して対向して設けられた円環状の第2電極6Bと、第1基板2の対向面2aの反対面側において、第1電極6Aとほぼ対応する位置にエッチング(選択除去)により形成された薄肉の円環状のダイアフラム部8とにより構成されている。
【0026】
静電アクチュエーターは第2のギャップG2を介して対向して設けられた電極6A、6Bと、ダイアフラム部8と、により構成されている。
【0027】
第1基板2及び第2基板3を共に光透過性を有する材料とすることにより、電磁波のうち所望の波長帯域の電磁波や可視光線を入射光として用いることができる。透過性を持つ材料として、具体的には、ソーダガラス、結晶化ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ナトリウムガラス、無アルカリガラス等が好適に用いられる。
また、第1基板2及び第2基板3を共に半導体材料、例えばシリコンで形成すれば、入射光として近赤外線を用いることができる。
【0028】
第1ミラー4A、第2ミラー4Bは、第1のギャップG1を介して互いに対向して配置されたもので、高屈折率層と低屈折率層とが交互に複数積層された誘電体膜により構成されている(以下、第1ミラー4Aを構成する誘電体膜を第1誘電体多層膜9A、第2ミラー4Bを構成する誘電体膜を第2誘電体多層膜9Bとする。)。なお、第1ミラー4A、第2ミラー4Bは、誘電体多層膜に限定されることなく、例えば、銀を主成分とする合金膜や、それらの多層膜等を用いることもできる。
【0029】
これら第1ミラー4A、第2ミラー4Bのうち、第1ミラー4Aは変形可能な第1基板2に設けられているので可動ミラーと称し、第2ミラー4Bは変形しない第2基板3に設けられているので固定ミラーと称することもある。
【0030】
この光フィルター1を可視光線の領域あるいは赤外線の領域で用いる場合、誘電体多層膜における高屈折率層を形成する材料としては、例えば、酸化チタン(Ti2O)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ニオブ(Nb2O5)等が用いられる。また、光フィルター1を紫外線の領域で用いる場合、高屈折率層を形成する材料としては、例えば酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化トリウム(ThO2)等が用いられる。
【0031】
一方、誘電体多層膜における低屈折率層を形成する材料としては、例えば、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化ケイ素(SiO2)等が用いられる。
この高屈折率層及び低屈折率層の層数及び厚みについては、必要とする光学特性に基づいて適宜に設定される。一般に、誘電体多層膜により反射膜(ミラー)を形成する場合、その光学特性を得るために必要な層数は10層以上である。
【0032】
第1電極6A、第2電極6Bは、第2のギャップG2を介して互いに対向して配置されたもので、入力される駆動電圧に応じてこれら第1電極6A、第2電極6B間に静電力を発生させ、第1ミラー4A、第2ミラー4Bを互いに対向した状態で相対移動させる静電アクチュエーターの一部を構成するものである。
【0033】
これにより、第1電極6A、第2電極6Bは、ダイアフラム部8を図2の上下方向に変位させて第1ミラー4A、第2ミラー4B間の第1のギャップG1を変化させ、この第1のギャップG1に対応する波長の光を出射するようになっている。
【0034】
なお、本実施形態では、第1基板2の対向面2aと第2基板3に形成された第2の凹部7とは平行になっているので、第1電極6A、第2電極6B間も平行となっている。
これら第1電極6A、第2電極6Bを形成する材料としては導電性であればよく、特に限定はされないが、例えば、Cr、Al、Al合金、Ni、Zn、Ti、Au等の金属、あるいはカーボン、チタン等を分散した樹脂、多結晶シリコン(ポリシリコン)、アモルファスシリコン等のシリコン、窒化シリコン、ITO等の透明導電材料等が用いられる。
これら第1電極6A、第2電極6Bには、図1に示すように、第1配線11A、第2配線11Bが接続されており、これら第1電極6A、第2電極6Bは、これら第1配線11A、第2配線11Bを介して電源(図示せず)に接続されている。
【0035】
本実施形態では第1ミラー4A、第2ミラー4Bを構成する第1誘電体多層膜9A、第2誘電体多層膜9Bが、第1電極、または第2電極の少なくとも一方を覆うように形成されている。これにより、製造時及び使用時のスティッキングや電流リークが防止され、信頼性を向上させることが出来る。
【0036】
なお、本実施形態では第1ミラー4A、第2ミラー4Bを構成する第1誘電体多層膜9A、第2誘電体多層膜9Bが第1電極、または第2電極覆うように形成されているとしたが、第1誘電体多層膜9A、第2誘電体多層膜9Bの一部の膜のみが、第1電極6A、第2電極6Bを覆う構造としてもよい。
【0037】
積層膜の厚みが厚ければ厚いほど絶縁性は向上するが、その分、電極間のギャップは狭くなる。必要な駆動範囲を確保するためには電極間ギャップを予め広くしておく必要が生じ、それにより電極間に発生する静電引力は低下してしまう。そのため、必要に応じて誘電体膜の全部、または一部を形成することで、所望の特性を得ることが出来る。
【0038】
電源は、駆動信号として、第1電極6A、第2電極6Bに電圧を印加することにより、第1電極6A、第2電極6Bを駆動させ、これらの間に所望の静電力を発生させるものである。なお、この電源には制御装置(図示せず)が接続されており、この制御装置によって電源を制御することにより、第1電極6A、第2電極6B間の電位差を調整することができるようになっている。
【0039】
ダイアフラム部8は、このダイアフラム部8が形成されていない第1基板2の箇所に比べて厚さが薄くなっている。このように、第1基板2のうち他の箇所に比べて厚さが薄い箇所は、弾性(可撓性)を有して変形可能(変位可能)になっており、これにより、このダイアフラム部8は、第1のギャップG1を変化させて第1ミラー4A、第2ミラー4B間の間隔を所望の波長の光に対応する間隔に変化させることにより、所望の波長の光を出射させる波長選択機能を有するようになっている。
【0040】
これらダイアフラム部8の形状や厚みは、所望の波長の範囲の光を出射させることができればよく、具体的には、第1ミラー4A、第2ミラー4B間の間隔の変化量及び変化の速さ等を勘案し、この光フィルター1に求められる出射光の波長の範囲に対応して設定される。
【0041】
本実施形態の光フィルター1では、制御装置及び電源が駆動されず、したがって、第1電極6Aと第2電極6Bとの間に電圧が印加されていない場合、第1ミラー4Aと第2ミラー4Bとは第1のギャップG1を介して対向している。そこで、この光フィルター1に光が入射すると、図3に示すように、この第1のギャップG1に対応した波長の光が透過し、例えば720nmの波長の光が出射されることとなる。
【0042】
ここで、制御装置及び電源を駆動させて第1電極6Aと第2電極6Bとの間に電圧を印加すると、これら第1電極6Aと第2電極6Bとの間には、電圧(電位差)の大きさに対応した静電力が発生する。このように、制御装置が電源を制御することにより、第1電極6A、第2電極6B間に所望の電圧を印加し、第1電極6Aと第2電極6Bとの間に所望の静電力を発生させることができる。このようにして第1電極6A、第2電極6B間に所望の静電力が発生すると、この静電力により第1電極6A、第2電極6Bが相互に引きつけられて第1基板2が第2基板3側に向かって変形し、第1ミラー4Aと第2ミラー4Bとの第1のギャップG1が、電圧が印加されていない場合と比べて狭くなる。
【0043】
そこで、この光フィルター1に光が入射すると、図4に示すように、変位した第1のギャップG1に対応した波長の光が透過し、例えば590nmの波長の光が出射されることとなり、透過波長が短波長側にシフトすることとなる。
【0044】
次に、本実施形態の光フィルター1の製造方法について、図面を参照して説明する。図5〜9は、本実施形態の光フィルター1の製造方法を示す断面図である。
この製造方法は、[1]第1基板の加工工程、[2]第2基板の加工工程、を有している。以下、各工程について順次説明する。
【0045】
[1]第1基板の加工工程
図5(a)に示すように、第1基板2の全面にマスク層51を成膜する。マスク層51を構成する材料としては、例えば、Cr/Au等の金属膜やレジスト材料等を用いることができる。マスク層51の厚さは、特に限定されないが、0.01〜1μm程度とすることが好ましく、0.1〜0.3μm程度とすることがより好ましい。マスク層51が薄すぎると、第1基板2を十分に保護できない場合があり、マスク層51が厚すぎると、マスク層51の内部応力によりマスク層51が剥がれ易くなる場合がある。本実施形態では、マスク層51は、Cr/Au膜をスパッタ法によって成膜し、Cr、Auそれぞれの膜厚は0.01μm、0.3μmとしている。
【0046】
次に、図5(b)に示すように、マスク層51に、ダイアフラム部8を形成するための開口部51aを形成する。開口部51aは、例えばフォトリソグラフィー法により形成することができる。具体的には、マスク層51上に、開口部51aに対応したパターンを有するレジスト層(図示せず)を形成し、このレジスト層をマスクとして、マスク層51の一部を除去した後に、レジスト層を除去することで開口部51aが形成される。なお、マスク層51の一部除去は、ウェットエッチング等により行われる。
【0047】
次に、図5(c)に示すように、ウェットエッチングによって第1基板2をエッチングし、ダイアフラム部8を形成する。エッチング液としては、例えば、フッ酸水溶液や緩衝フッ酸水溶液(BHF)が等を用いることができる。なお、ダイアフラム部8の形成方法としては、ウェットエッチングに限られず、ドライエッチング等他のエッチング法を用いてもよい。その後、図5(d)に示すように、マスク層51をエッチングによって除去することによって、ダイアフラム部8を備えた第1基板2が得られる。
【0048】
次に、図6(a)に示すように、第1電極6A、第1配線11Aを形成する。第1電極6A、第1配線11Aを構成する材料としては、例えばCr、Au、Al等の金属膜やITOのような透明導電材料等を用いることができる。第1電極6A、第1配線11Aの厚さは、例えば、0.1〜0.2μmとするのが好ましい。
【0049】
これら第1電極6A、第1配線11Aを形成するためには、蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等によって金属膜等を成膜した後、フォトリソグラフィー法及びエッチングによってパターニングを行う。
【0050】
次に、対向面2aのダイアフラム部8に囲まれた位置2a’で第1ミラー4Aとして作用する第1誘電体多層膜9Aを形成する。例えば、第1誘電体多層膜9Aは高屈折率層を形成する材料として酸化チタン(Ti2O)、低屈折率層を形成する材料として酸化ケイ素(SiO2)を積層することで第1ミラー4Aとして作用する。
【0051】
また第1ミラー4Aとして作用する第1誘電体多層膜9Aは、連続した膜として、第1電極6Aを覆うように形成されている。これにより、絶縁膜のみを形成する工程を追加することなく第1電極6A上に絶縁層として作用する誘電体膜を形成できる。これにより、スティッキングや電流リークが防止され、信頼性を向上させることが出来る。
【0052】
なお、本実施形態の第1基板2の加工工程において、第1ミラー4Aとして作用する第1誘電体多層膜9Aは、連続した膜として、第1電極6Aを覆うように形成されているとしたが、フォトリソグラフィーなどでパターニングされ、第2ミラー4Bとして作用する第2誘電体多層膜9Bが連続した膜となっていない構造としてもよい。
【0053】
[2]第2基板の加工工程
図7(a)に示すように、第2基板3の全面にマスク層61を成膜する。マスク層61を構成する材料としては、マスク層51と同様、例えば、Cr/Auなどの金属膜や、レジスト材料等を用いることができる。
【0054】
次に、図7(b)に示すように、マスク層61の第1基板2との対向面3aに、第2の凹部7を形成するための開口部61aを形成する。開口部61aは、開口部51aと同様の方法で形成することができる。
【0055】
次に、図7(c)に示すように、ウェットエッチングによって第2基板3をエッチングし、第2の凹部7を形成する。エッチング液としては、例えば、フッ酸水溶液や緩衝フッ酸水溶液(BHF)等を用いることができる。なお、第2の凹部7の形成方法としては、ウェットエッチングに限られず、ドライエッチング等他のエッチング法を用いてもよい。
【0056】
次に、エッチングによって図7(d)のように第2基板3からマスク層61を除去する。その後、第2の凹部7の形成と同じ要領で、第1の凹部5を形成する。具体的には、第2基板3上にマスク層62を成膜し、図8(a)に示すように、第1の凹部5を形成するための開口部62aを形成する。次いで、図8(b)に示すように、ウェットエッチングによって第2基板3をエッチングして、第1の凹部5を形成する。その後、図8(c)に示すように、マスク層62をエッチングによって除去することによって、第1の凹部5及び第2の凹部7を備えた第2基板3が得られる。
【0057】
次に、図9(a)に示すように、第2電極6B、第2配線11Bを形成する。第2電極6B、第2配線11Bを構成する材料としては、例えばCr、Al等の金属膜やITOのような透明導電材料等を用いることができる。第2電極6B、第2配線11Bの厚さは、例えば、0.1〜0.2μmとするのが好ましい。
これら第2電極6B、配線11Bの形成には、蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等によって金属膜等を成膜した後、フォトリソグラフィー法及びエッチングによってパターニングを行う。
【0058】
次に、第1基板2の第1ミラー4Aに対向する位置に第2ミラー4Bとして作用する第2誘電体多層膜9Bを形成する。例えば、第2誘電体多層膜9B高屈折率層を形成する材料として酸化チタン(Ti2O)、低屈折率層を形成する材料として酸化ケイ素(SiO2)を積層することで第2ミラー4Bとして作用する。
【0059】
また第2ミラー4Bとして作用する第2誘電体多層膜9Bは、連続した膜として、第2電極6Bを覆うように形成されている。これにより、絶縁膜のみを形成する工程を追加することなく第2電極6B上に絶縁層として作用する誘電体膜を形成できる。これにより、スティッキングや電流リークが防止され、信頼性を向上させることが出来る。
【0060】
なお、本実施形態の第2基板3の加工工程において、第2ミラー4Bとして作用する第2誘電体多層膜9Bは、連続した膜として、第2電極6Bを覆うように形成されているとしたが、フォトリソグラフィーなどでパターニングされ、第2ミラー4Bとして作用する第2誘電体多層膜9Bが連続した膜となっていない構造としてもよい。
【0061】
なお、本実施形態では、第1誘電体多層膜9A、第2誘電体多層膜9Bのそれぞれが、第1電極6A、ならびに第2電極6Bを覆うものとしたが、第1誘電体多層膜9A、または第2誘電体多層膜9Bのどちらか一方が、第1電極6A、または第2電極6Bを覆う構造としてもよい。
【0062】
以上説明したように、本実施形態の光フィルターによれば、第1電極6A、および第2電極6Bを、第1ミラー4Aを構成する第1誘電体多層膜9A、および第2ミラー4Bを構成する第2誘電体多層膜9Bが覆うことで、絶縁層のみを形成する工程を追加することなく、絶縁層としての誘電体膜を形成することが出来る。これにより、製造時及び使用時のスティッキングや電流リークが防止され、製品信頼性を向上させることが出来る。
【0063】
(変形例1)
図10は、変形例1に係るエアーギャップ型で静電駆動型の光フィルターである。
上記実施形態1では、第1ミラー4A、第2ミラー4Bに誘電体多層膜を用いたが、この構成に限定するものではない。
以下、変形例1に係る光フィルター20について説明する。なお、実施形態1と同一の構成部位については、同一の番号を附し、重複する説明は省略する。
【0064】
第1ミラー21A、第2ミラー21Bは、第1誘電体多層膜22A、第2誘電体多層膜22B、ならびに第1金属膜23A、第2金属膜23Bから構成される。第1誘電体多層膜22A、第2誘電体多層膜22Bは、例えば、酸化チタン(Ti2O)や酸化ケイ素(SiO2)から構成される。第1金属膜23A、第2金属膜23Bの材料としては、Ag(銀)単体、Ag(銀)を主成分とする合金、Au(金)単体、Au(金)を主成分とする合金、Al(アルミニウム)単体、Al(アルミニウム)を主成分とする合金の中から選ばれた一つを使用することができる。これら金属単体あるいは金属の合金は、光学膜の候補として有力である。
【0065】
ミラーは誘電体膜と金属膜から構成されることで、反射ピークが得られる波長帯域を広くすることが出来る。金属膜は高い反射率を持ちながら、必要となる透過性を持つ材料は少ないが、反射ピークが得られる波長帯域は広くなる。誘電体膜は積層膜とすることで高い反射率を持ちつつ透過性を有することも可能であるが、反射ピークが得られる波長帯域が狭い。そのため、誘電体積層膜と組み合わせることで、それぞれの特性を補い、光フィルターに適したミラーとして作用することが可能となる。
【0066】
第1ミラー21A、第2ミラー21Bを構成する第1誘電体多層膜22A、第2誘電体多層膜22Bは、第1電極6A、ならびに第2電極6Bを覆うように形成されている。これにより、実施形態1と同様に、スティッキングや電流リークが防止され、信頼性を向上させることが出来る。
【0067】
(変形例2)
なお、変形例1において、図11に示すように第1ミラー21A、および第2ミラー21B上に第1バリア膜24A、および第2バリア膜24Bを形成しても良い。第1ミラー21A、および第2ミラー21Bを構成する第1金属膜23A、第2金属膜23Bに好適な材料として、Ag(銀)単体、Ag(銀)を主成分とする合金が挙げられるが、これらは酸化や硫化などへの耐性が低く、すぐに劣化が起きてしまう。それを防ぐ手段として、第1バリア膜24A、および第2バリア膜24Bの形成が効果的である。
【0068】
第1バリア膜24A、および第2バリア膜24Bの材料としては、Al(アルミニウム)の酸化膜、Al(アルミニウム)の窒化膜、Si(シリコン)の酸化膜、Si(シリコン)の窒化膜、Ti(チタン)の酸化膜、Ti(チタン)の窒化膜、Ta(タリウム)の酸化膜、Ta(タリウム)の窒化膜、ITO(酸化インジウム錫)膜、Mg(マグネシウム)のフッ化膜の群の中から選ばれた一つの膜、あるいは、上記の群の中から選ばれた一つの酸化膜および一つの窒化膜の積層膜を使用することができる。
【0069】
なお、図11に示すように、第1バリア膜24A、および第2バリア膜24Bを第1電極6A、および第2電極6B上に形成することで、ミラーを構成する誘電体膜のみが電極上にある場合よりも更に絶縁効果を高めることが出来る。バリア膜に使用する膜は誘電体であるため、誘電体膜が積層されることで、効果が向上する。
【0070】
以上述べたように、本変形例に係る光フィルター20によれば、実施形態1での効果に加えて、反射ピークが得られる波長帯域の広域化、ならびに絶縁性の向上が可能となる。
(実施形態2)
【0071】
上記実施形態1、ならびに上記変形例1の光フィルターを用いることで、図12に示すような分光測定器を構成することができる。なお、分光測定器の例としては、例えば、測色器、分光分析器、分光スペクトラムアナライザー等があげられる。図12に示される分光測定器において、例えば、サンプル200の測色を行う場合には光源100が用いられ、また、サンプル200の分光分析を行う場合には、光源100’が用いられる。
【0072】
分光測定器は、光源100(あるいは100’)と、複数の波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(1)〜可変BPF(4))を備える光フィルター(分光部)300と、フォトダイオード等の受光素子PD(1)〜PD(4)を含む受光部400と、受光部400から得られる受光信号(光量データ)に基づいて、所与の信号処理を実行して分光光度分布等を求める信号処理部600と、可変BPF(1)〜可変BPF(4)の各々を駆動する駆動部301と、可変BPF(1)〜可変BPF(4)の各々の分光帯域を可変に制御する制御部303と、を有する。信号処理部600は、信号処理回路501を有し、必要に応じて、補正演算部500を設けることも可能である。分光光度分布の測定によって、例えば、サンプル200の測色や、サンプル200の成分分析等を行うことができる。また、光源100(100’)としては、例えば、白熱電球、蛍光灯、放電管、LED等の固体発光素子を用いた光源(固体発光素子光源)等を使用することができる。
【0073】
なお、光フィルター300および受光部400によって、光フィルターモジュール350が構成される。光フィルターモジュール350は、分光測定器に適用できる他、例えば、光通信装置の受信部(受光光学系と受光素子を含む)としても使用可能である。この例については、図5を用いて後述する。本実施形態における光フィルターモジュール350は、光学膜の特性劣化が抑制されて信頼性が高く、また、透過光の波長範囲を広くとることができ、小型軽量で、かつ使い勝手がよいという利点がある。
(第3実施形態)
【0074】
図13は、光機器の一例である波長多重通信システムの送信機の概略構成を示すブロック図である。波長多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)通信では、波長の異なる信号は干渉し合わないという特性を利用して、波長が異なる複数の光信号を一本の光ファイバー内で多重的に使用すれば、光ファイバー回線を増設せずにデータの伝送量を向上させることができるようになる。
【0075】
図13において、波長多重送信機800は、光源100からの光が入射される光フィルター300を有し、光フィルター300(上記いずれかのミラー構造が採用されたエタロン素子を具備する)からは、複数の波長λ0,λ1,λ2,…の光が透過される。波長毎に送信器311,312,313が設けられる。送信器311,312,313からの複数チャンネル分の光パルス信号は、波長多重装置321にて1つに合わせられて一本の光ファイバー伝送路331に送出される。
【0076】
本発明は光符号分割多重(OCDM:Optical Code Division Multiplexing)送信機にも同様に適用できる。OCDMは、符号化された光パルス信号のパターンマッチングによってチャンネルを識別するが、光パルス信号を構成する光パルスは、異なる波長の光成分を含んでいるからである。このように、本発明を光機器に適用することによって、光学膜の特性劣化が抑制された、信頼性の高い光機器(例えば、各種センサーや光通信応用機器)が実現される。
【0077】
以上、幾つかの実施形態について本発明を説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるものである。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【符号の説明】
【0078】
1…光フィルター、2…第1基板、3…第2基板、4A…第1ミラー,4B…第2ミラー,21A…第1ミラー,21B…第2ミラー、5…第1の凹部、6A…第1電極,6B…第2電極、7…第2の凹部、8…ダイアフラム部、9A…第1誘電体多層膜,9B…第2誘電体多層膜,22A…第1誘電体多層膜,22B…第2誘電体多層膜、11A…第1配線,11B…第2配線、G1…第1のギャップ、G2…第2のギャップ、23A…第1金属膜,23B…第2金属膜、24A…第1バリア膜,24B…第2バリア膜。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と、
前記第1基板に設けられた第1ミラーと、
前記第1ミラーの周辺に配置された第1電極と、
前記第1基板と対向した第2基板と
前記第2基板に設けられ、前記第1ミラーと対向した第2ミラーと、
前記第2ミラーの周辺に設けられ、前記第1電極と対向した第2電極と、
を少なくとも有し、
前記第1ミラー、及び前記第2ミラーは誘電体膜を含み、
前記誘電体膜が、前記第1電極、または前記第2電極の少なくとも一方の表面を覆っていることを特徴とする光フィルター。
【請求項2】
請求項1に記載の光フィルターであって、
前記第1電極、または前記第2電極を覆っている前記誘電体膜と、
前記第1ミラー、または前記第2ミラーを構成している前記誘電体膜と、が同一材料であることを特徴とする光フィルター。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光フィルターであって、
前記第1電極、または前記第2電極を覆っている前記誘電体膜と、前記第1ミラー、または前記第2ミラーを構成している前記誘電体膜とが、連続して形成されていることを特徴とする光フィルター。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光フィルターであって、
前記第1ミラー、及び前記第2ミラーは前記誘電体膜が複数積層された積層膜であることを特徴とする光フィルター。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光フィルターであって、
前記第1ミラー、及び前記第2ミラーを構成する前記誘電体膜であって、
前記積層膜、またはその一部の前記誘電体層が前記第1電極、または前記第2電極を覆っていることを特徴とする光フィルター。
【請求項6】
請求項1請求項5のいずれか一項に記載の光フィルターであって、
前記第1ミラー、及び前記第2ミラーが前記誘電体膜と金属膜から形成されることを特徴とする光フィルター。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光フィルターであって、
前記第1ミラー、及び前記第2ミラー上に酸化または硫化に対して耐性を有するバリア膜が形成されていることを特徴とする光フィルター。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光フィルターであって、
前記バリア膜が前記第1電極、または前記第2電極の少なくとも一方を覆っていることを特徴とする光フィルター。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の光フィルターを用いた光機器。
【請求項1】
第1基板と、
前記第1基板に設けられた第1ミラーと、
前記第1ミラーの周辺に配置された第1電極と、
前記第1基板と対向した第2基板と
前記第2基板に設けられ、前記第1ミラーと対向した第2ミラーと、
前記第2ミラーの周辺に設けられ、前記第1電極と対向した第2電極と、
を少なくとも有し、
前記第1ミラー、及び前記第2ミラーは誘電体膜を含み、
前記誘電体膜が、前記第1電極、または前記第2電極の少なくとも一方の表面を覆っていることを特徴とする光フィルター。
【請求項2】
請求項1に記載の光フィルターであって、
前記第1電極、または前記第2電極を覆っている前記誘電体膜と、
前記第1ミラー、または前記第2ミラーを構成している前記誘電体膜と、が同一材料であることを特徴とする光フィルター。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光フィルターであって、
前記第1電極、または前記第2電極を覆っている前記誘電体膜と、前記第1ミラー、または前記第2ミラーを構成している前記誘電体膜とが、連続して形成されていることを特徴とする光フィルター。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光フィルターであって、
前記第1ミラー、及び前記第2ミラーは前記誘電体膜が複数積層された積層膜であることを特徴とする光フィルター。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光フィルターであって、
前記第1ミラー、及び前記第2ミラーを構成する前記誘電体膜であって、
前記積層膜、またはその一部の前記誘電体層が前記第1電極、または前記第2電極を覆っていることを特徴とする光フィルター。
【請求項6】
請求項1請求項5のいずれか一項に記載の光フィルターであって、
前記第1ミラー、及び前記第2ミラーが前記誘電体膜と金属膜から形成されることを特徴とする光フィルター。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光フィルターであって、
前記第1ミラー、及び前記第2ミラー上に酸化または硫化に対して耐性を有するバリア膜が形成されていることを特徴とする光フィルター。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光フィルターであって、
前記バリア膜が前記第1電極、または前記第2電極の少なくとも一方を覆っていることを特徴とする光フィルター。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の光フィルターを用いた光機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−108220(P2012−108220A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255598(P2010−255598)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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