説明

光フィルタ装置及びその製造方法

【課題】小型で応答性に優れ、製作も容易なフォトニック結晶光共振器を用いた能動光フィルタ装置を提供する。
【解決手段】シリコン光導波路と、2次元フォトニック結晶内とフォトニック結晶の周期的配列を乱す少なくとも1つの点状の欠陥と、点状欠陥が形成されたフォトニック結晶であるフォトニック結晶光共振器を移動させることで、あるいはシリコン光導波路を移動させることで、点状欠陥がシリコン光導波路を伝搬する光のなかで、特定波長の光を捕獲してこれを放射し、あるいは外部からの特定波長の光を捕獲してシリコン光導波路内に導入する光の取り出しまたは取り入れ量を変化させることでシリコン光導波路を伝搬する特定波長の光の変量を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光計測・分析、光情報処理、光通信等に用いる光フィルタ装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信システムは急速に発展しており、光通信で使用する波長1300〜1600nmで機能する光スイッチや光減衰器などの能動光学素子が開発されている。
【0003】
従来、光導波路における光の量を制御するデバイスとして、電気光学効果を利用して屈折率を変化させることで光を変調させる方式のデバイスや、光導波路を加熱して屈折率を変化させる方式のデバイスなどが開発されてきた。しかしながら、電気光学効果を利用するタイプは電気光学材料のような異種材質を導波路と組み合わせるために製造が困難になる。また、加熱するタイプは応答速度が遅い。
【0004】
シリコンの微細加工技術を用いたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)のミラーデバイスによる光スイッチも開発されているが、ミラーを用いたMEMSデバイスはミラーの移動量や走査角度が大きいため、動作スピードに課題があり、自由空間光学系のため、ビーム径が大きくなり、光スイッチデバイスのサイズが大きくなってしまう。
【0005】
また近年、フォトニック結晶を用いた光回路が開発されている(非特許文献1)。フォトニック結晶はシリコンなどにエアーホールなどの周期的な構造を設けた物である。エアーホールの大きさ、周期を適切に制御することで、特定の波長帯域で光を全く通さない、”光絶縁体”として作用する。これは電子のバンドギャップ構造との類似から、フォトニックバンドギャップと呼ばれる。フォトニック結晶は光を通さないが、部分的に周期構造を乱すことで、様々な特性を生み出すことが出来る。フォトニック結晶欠陥導波路は、2次元フォトニック結晶に線状欠陥を設けた物である。面内方向はフォトニック結晶による光の閉じこめ、厚み方向は屈折率差による閉じこめにより欠陥部分に光が導波する。フォトニック結晶導波路は光を強く閉じ込めることが出来るので、従来の石英系光導波路に比べてコンパクトな光導波路デバイスを製作することが出来る。また、シリコンの微細加工技術は半導体の分野で発達しており、微細構造を精度良く製作することが出来る。すでに、シリコンフォトニック結晶導波路を用いた分岐路のような基本的な受動光学素子が実現されている。また野田らは、フォトニック結晶導波路に隣接した場所に少なくとも一つ以上の点状欠陥を形成し、この点状欠陥が導波路中を伝搬する光のなかで、特定の波長の光を捕獲して外部へ放射したり、あるいは外部からの特定波長の光を捕獲してフォトニック結晶導波路へ導入する、フォトニック結晶光共振器を開発した(特許文献1)。非常に優れた波長選択性と高いQ値を有する非常に小さな光共振器であり、アド・ドロップ光素子への応用など、フォトニック結晶光集積回路を構成する上で重要な光素子となる。
【0006】
フォトニック結晶を用いた光集積回路を実現する上で光変調を行う能動光学素子が必要不可欠であるが、ほとんど開発されていない。
【0007】
フォトニック結晶はSOI基板を用いて製作されることが多く、下部クラッドとなるSiO2層上に、フォトニック結晶導波路あるいはフォトニック結晶光共振器が形成されている。光の閉じ込め効果を大きくするために下部SiO2層が除去されたエアブリッジ構造のデバイスも多い。エアブリッジのような自立構造であればアクチュエータを用いてフォトニック結晶を変位および変形することにより光変調を行うことができ、フォトニック結晶光共振器のような高効率な波長選択素子の光特性を能動制御することが出来れば、小型で優れた光スイッチや光減衰器などを実現することができる。
【0008】
【非特許文献1】迫田和彰著、「フォトニック結晶入門」、森北出版、2004年1月初版
【特許文献1】特開2001−272555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、従来のデバイスは、応答性に優れ、小型で、製作が容易な光変調デバイスの実現は困難であった。また、コンパクトな光集積回路が実現できるフォトニック結晶を用いた能動光学フィルタについては存在しないのが実情である。
【0010】
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたものであり、小型で応答性に優れ、製作も容易なシリコンフォトニック結晶光共振器を用いた能動光フィルタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の光フィルタ装置は、
シリコン光導波路と、
2次元フォトニック結晶内と、
前記フォトニック結晶の周期的配列を乱す少なくとも1つの点状の欠陥と、
前記点状欠陥が形成されたフォトニック結晶であるフォトニック結晶光共振器を移動させることで、あるいはシリコン光導波路を移動させることで、点状欠陥がシリコン光導波路を伝搬する光のなかで、特定波長の光を捕獲してこれを放射し、あるいは外部からの特定波長の光を捕獲してシリコン光導波路内に導入する光の取り出しまたは取り入れ量を変化させる駆動機構と、
を備えたことを特徴としている。
【0012】
本発明の請求項2に記載の光フィルタ装置は、
駆動機構で、フォトニック結晶光共振器を移動させることで、あるいはシリコン光導波路を移動させることにより、点状欠陥がシリコン光導波路を伝搬する光のなかで、特定波長の光を捕獲してこれを放射し、あるいは外部からの特定波長の光を捕獲してシリコン光導波路内に導入する光の取り出しまたは取り入れ量を変化させることで、
シリコン光導波路を伝搬する光の量を制御することを特徴としている。
【0013】
本発明の請求項3に記載の光フィルタ装置は、
シリコン光導波路に対してフォトニック結晶光共振器と対向する位置に、シリコン光導波路の光閉じ込め効果を強めるために2次元フォトニック結晶が形成されることを特徴としている。
【0014】
本発明の請求項4に記載の光フィルタ装置は、
フォトニック結晶光共振器は支持梁により支持され、支持梁は固定部とつながっているシリコン弾性ばねとつながっていて、
支持梁はフォトニック結晶光共振器を移動させるアクチュエータとつながっていることを特徴としている。
【0015】
本発明の請求項5に記載の光フィルタ装置は、
あるいはシリコン光導波路は支持梁により支持され、支持梁は固定部とつながっているシリコン弾性ばねとつながっていて、
支持梁はシリコン光導波路を移動させるアクチュエータとつながっていることを特徴としている。
【0016】
本発明の請求項6に記載の光フィルタ装置は、
フォトニック結晶光共振器はシリコン光導波路とエバネッセント光による光結合がほとんど無い距離を持って配置され、
アクチュエータによってフォトニック結晶光共振器がシリコン光導波路へ、あるいはシリコン光導波路がフォトニック結晶光共振器へ、エバネッセント光による光結合が可能な距離に近づくことによって、
点状欠陥がシリコン光導波路を伝搬する光のなかで、特定波長の光を捕獲してこれを放射し、あるいは外部からの特定波長の光を捕獲してシリコン光導波路内に導入する光の取り出しまたは取り入れ量が増加することを特徴としている。
【0017】
本発明の請求項7に記載の光フィルタ装置は、
フォトニック結晶光共振器はシリコン光導波路とエバネッセント光による光結合が可能な距離を持って配置され、
アクチュエータによってフォトニック結晶光共振器がシリコン光導波路から、あるいはシリコン光導波路がフォトニック結晶光共振器から、エバネッセント光による光結合がほとんど無い距離へ離れることによって、
点状欠陥がシリコン光導波路を伝搬する光のなかで、特定波長の光を捕獲してこれを放射し、あるいは外部からの特定波長の光を捕獲してシリコン光導波路内に導入する光の取り出しまたは取り入れ量が減少することを特徴としている。
【0018】
本発明の請求項8に記載の光フィルタ装置は、
駆動機構は、フォトニック結晶光共振器あるいはシリコン光導波路を、
平行方向に移動させることで、または垂直方向に移動させることで、
フォトニック結晶光共振器とシリコン光導波路のエバネッセント光による光結合により生じる光の伝搬量を変化させることで、
シリコン光導波路を伝搬する光の量を制御することを特徴としている。
【0019】
本発明の請求項9に記載の光フィルタ装置は、
駆動機構は、基板に固定された固定電極と、
前記固定電極に対向配置され、固定電極との間に電圧を印加した時に生じる静電引力によって、基板に平行方向に移動させる可動電極と、
で駆動するアクチュエータを備えることを特徴としている。
【0020】
本発明の請求項10に記載の光フィルタ装置は、
駆動機構は、
基板と、フォトニック結晶光共振器あるいはシリコン光導波路が連結した自立構造との間に、
電圧を印加した時に生じる静電引力によって、基板に垂直方向に移動させる可動電極と、
で駆動するアクチュエータを備えることを特徴としている。
【0021】
本発明の請求項11に記載の光フィルタ装置は、
駆動機構は、アクチュエータとシリコン弾性ばねに働く力のバランスにより、
フォトニック結晶光共振器あるいはシリコン光導波路の位置を制御することにより光の量を変化させることを特徴としている。
【0022】
本発明の請求項12に記載の光フィルタ装置は、
フォトニック結晶光共振器、シリコン光導波路、アクチュエータ、支持梁、シリコン弾性ばねは同一面内に形成され、シリコンで形成されることを特徴としている。
【0023】
本発明の請求項13に記載の光フィルタ装置は、
請求項1に記載の光フィルタ装置を直列あるいは並列にシリコン光導波路で接続することにより、特定波長の光のエネルギーを分配して取り出しあるいは導入したり、特定波長の異なる光フィルタを複数個配置することにより多波長に対する光の量を制御することを特徴としている。
【0024】
本発明の請求項14に記載の光フィルタ装置の製造方法は、
Silicon on Insulator(SOI)基板を用いて、リソグラフィーによるパターニングの後、それをマスクとしてデバイスシリコン層のエッチングを行い、その後、可動部下部のSiO2層をエッチングすることにより形成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来の石英系光回路よりもさらにコンパクトな光回路の形成が可能なシリコンフォトニック結晶の技術を用いて、光制御可能なデバイスを製作したので小型であり、半導体微細加工技術を用いて安価に大量生産できる。また、アクチュエータの移動量もエバネッセント光による光結合の量が制御できる程度でよいため、少ない移動量で大きな光量制御を行うことが出来るため、応答速度が速く、駆動電力も従来のものより少なく、フォトニック結晶光共振器の位置制御という単純な原理に基づき、特定波長の光の取り出し、取り入れ量を広範に渡って連続的に可変を行えるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0027】
図1は本発明の実施の形態による光フィルタ装置の概略構成を示す図である。シリコン光導波路とフォトニック結晶光共振器との間のギャップが十分離れている場合は、シリコン光導波路を伝搬する光はシリコン光導波路内を直進する。しかしシリコン光導波路とフォトニック結晶光共振器が近接した場合、フォトニック結晶光共振器に共振する波長(λ1)は、フォトニック結晶光共振器内で共振し、面外への放射光が得られる。異なる波長(λ2)では、共振は起こらず、シリコン光導波路内を直進する。このようにアクチュエータを用い、シリコン光導波路とフォトニック結晶光共振器とのギャップを調節することで、共振器との結合強さを調節できる。
【0028】
図2は、製作するデバイスの形状を示す。固定電極と可動電極の間に電圧を印加することによって発生する静電気力によって可動電極を固定電極へ引き付ける静電櫛歯型アクチュエータは、シリコン光導波路、フォトニック結晶光共振器、シリコン弾性ばね、支持梁およびフォトニック結晶などの他の部位と同一のデバイスシリコン層に製作するため、厚みは260nmとなる。設計したアクチュエータの大きさは54μm×34μmである。シリコン弾性ばねは二段一組の組み合わせを4本、回転防止の梁と共に設けた。シリコン弾性ばねの断面寸法は250nm(幅)×260nm(厚)であり、長さは17.5μmである。このバネを用いることで、回転方向に働く力が抑制され動作が安定化し、駆動電圧も低減される。櫛歯幅は250nmで櫛歯間のギャップは350nmである。計算では20Vの駆動電圧においておよそ900nmの変位を得る事が出来る。これはフォトニック結晶光共振器やシリコン光導波路のエバネッセント光の光結合制御が可能であることを示す。製作したアクチュエータの共振周波数の理論値は156kHzである。シリコン光導波路に対してフォトニック結晶光共振器と対向する位置に、シリコン光導波路の光閉じ込め効果を強めるために2次元フォトニック結晶が形成されている。
【0029】
図3は、フォトニック結晶光共振器において、点状欠陥形成部の形状を示す。格子周期a=420nm、エアーホール半径=122nmとした。計算によるとλ=1538〜2039nmの領域にバンドギャップを持つ。ナノ共振器はエアーホールを3つ取り除いた構造とした。この構造により、半値幅1.0nm以下の鋭い共振が得られる。
【0030】
図4は、点状欠陥からの光取り出し量のギャップ依存性の計算値を示す。縦軸は電界強度(電解の振幅値)を示しているが、電界強度が大きいことは光取り出し量も大きいことを示している。計算はFinite Difference Time Domain(FDTD)法を用いた。ギャップが1000nmのとき、シリコン光導波路とフォトニック結晶光共振器との光結合がほとんど生じないため、シリコン光導波路を伝搬する光はそのままシリコン光導波路内を伝搬していく。しかしながら、ギャップが50nmと狭くなると、フォトニック結晶光共振器と共振する特定の波長が点状欠陥から外部へ取り出されていることが分かる。ギャップが1000nmの時よりも50nmの方が、光取り出し量が31dB増加することが分かり、十分な光取り出しが出来ることが分かる。ギャップをアクチュエータによりアナログ的に変化させれば、光取り出し効率もアナログ的に可変することが出来る。
【0031】
図5は製作工程を示す。デバイス製作にSilicon on Insulator(SOI)基板を用いた。デバイスシリコン層の厚さは260nm、犠牲層のSiO2厚さは2000nmである。シリコン光導波路、フォトニック結晶光共振器、櫛歯静電アクチュエータ構造はすべてデバイスシリコン層に形成する。まず微細加工用の切断機であるダイシング装置を用いてSOIウェハを2cm角に切断する。洗浄した後、電子線レジストを塗布する。電子線レジストはZEP-520Aを用いる。次に電子線描画装置を用い、電子線レジストにシリコン光導波路、フォトニック結晶光共振器、櫛歯静電アクチュエータ、シリコン弾性ばね、支持梁、フォトニック結晶などのパターンを描画する。現像により、電子線が照射された部分のレジストを除去する。次に、高速原子線加工装置を用いデバイスシリコン層をエッチングする。この装置は中性化した高速原子線を用いることで、垂直に精度良くエッチングできる。特にシリコン光導波路およびフォトニック結晶は側面の表面荒れにより光学損失が大きくなるので、本装置によるエッチングは有効である。次に電子線レジストを剥離する。次にSOI基板表面をテープで保護し、裏側からダイシング装置で溝を入れる。溝より劈開することで、シリコン光導波路に光を入射するための平坦なシリコン光導波路端面を形成する。最後に気相フッ酸により犠牲層SiO2をエッチングし自立構造を形成する。
【0032】
図6は、製作したデバイスのSEM写真を示す。静電櫛歯アクチュエータに、20Vの電圧を印加している。櫛歯幅は263nmで櫛歯間のギャップは337nmとほぼ設計通りに製作することが出来た。
【0033】
図7は、製作したデバイスのフォトニック結晶光共振器付近の拡大写真である。フォトニック結晶光共振器、シリコン光導波路および、フォトニック結晶光共振器に対向配置されたフォトニック結晶が精度良く製作されている。フォトニック結晶光共振器に対向配置されたフォトニック結晶は、フォトニック結晶光共振器がシリコン光導波路に近づくと散乱体として機能し、シリコン光導波路に対して散乱損失を生じる可能性があるので、フォトニック結晶光共振器に対向する位置にフォトニック結晶を配置して、シリコン光導波路に対して構造の対称性を良くすることにより、光閉じ込め効率を高め、シリコン光導波路からの伝搬光の漏れを抑制する狙いがある。
【0034】
図8は、製作したデバイスのアクチュエータの変位量と駆動電圧の関係を示す。実験では20Vでおよそ1μmの変位が得られている。また計算値と良く一致していることが分かる。計算値は、静電櫛歯アクチュエータに発生する力とシリコン弾性ばねの力の釣り合いの関係から求めた。
【0035】
図9は、製作したデバイスの共振周波数を示す。実験は、SEM内で1V程度のSin波電圧を加え、周波数を変化させることで共振周波数を測定した。測定結果から132.05kHzに鋭い共振を得た。このことから製作したアクチュエータは100kHz以上の高速な応答が可能である事が分かる。
【0036】
また、本発明の光フィルタ装置は実施例に記載した点状欠陥からの光取り出し機能に限らず、フォトニック結晶光共振器に共振する特定の波長を点状欠陥へ導入することにより、特定の波長をシリコン光導波路へ取り入れ、ギャップ量に応じてその取り入れ効率を制御できる光フィルタを実現することができる。
【0037】
また、本発明の光フィルタ装置は実施例に記載した波長に対する光の取り入れまたは取り出しに限らず、フォトニック結晶光共振器におけるフォトニック結晶の周期、エアホール、厚みなどの形状・寸法や、点状欠陥の形状・寸法に依存して共振する特定波長が変わるので、他の波長に対する光フィルタ装置を実現することができる。
【0038】
また、本発明の光フィルタ装置を直列あるいは並列にシリコン光導波路で接続することにより、特定波長の光のエネルギーを分配して取り出しあるいは導入したり、特定波長の異なる光フィルタを複数個配置することにより多波長に対する光フィルタを実現するのは容易に考えられる。
【0039】
また、本発明に用いるアクチュエータは実施例に記載した櫛歯静電アクチュエータに限らず、並行平板静電アクチュエータ、ピエゾアクチュエータ、熱アクチュエータ、電磁アクチュエータなど、フォトニック結晶光共振器あるいはシリコン光導波路を移動できるアクチュエータであれば良い。
【0040】
また、本発明に用いるアクチュエータの移動方向は実施例に記載した基板に対して平行方向に限らず、フォトニック結晶光共振器とシリコン光導波路とのギャップを制御できれば伝搬光の量を制御できるので、基板に対して垂直方向に移動しても同様の効果が得られることは容易に考えられる。
【0041】
また、本発明に用いるパターニングは実施例に記載した電子線描画装置に限らず、ナノインプリント装置、ステッパーなど、形状をパターニングできる手法であれば良い。
【0042】
また、本発明に用いるシリコンのエッチングは、実施例に記載した高速原子線加工装置に限らず、反応性イオンエッチング、集束イオンビームエッチングなど、シリコンをエッチングできる装置であれば良い。
【0043】
また、本発明に用いるSiO2層のエッチングは実施例に記載した気相フッ酸による方法に限らず、フッ酸溶液、プラズマエッチングなど、SiO2をエッチングできる手法であれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る光フィルタ装置は、光通信、光情報処理、光分析・計測等の様々な分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態による光フィルタ装置の概略構成図。
【図2】製作するデバイスの形状。
【図3】点状欠陥が形成部の形状。
【図4】点状欠陥からの光取り出し量のギャップ依存性(計算値)。
【図5】製作工程。
【図6】製作したデバイスのSEM写真。
【図7】製作したデバイスのフォトニック結晶部のSEM写真。
【図8】製作したデバイスのアクチュエータの変位量と駆動電圧の関係。
【図9】製作したデバイスの共振周波数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン光導波路と、
2次元フォトニック結晶内と、
前記フォトニック結晶の周期的配列を乱す少なくとも1つの点状の欠陥と、
前記点状欠陥が形成されたフォトニック結晶であるフォトニック結晶光共振器を移動させることで、あるいはシリコン光導波路を移動させることで、点状欠陥がシリコン光導波路を伝搬する光のなかで、特定波長の光を捕獲してこれを放射し、あるいは外部からの特定波長の光を捕獲してシリコン光導波路内に導入する光の取り出しまたは取り入れ量を変化させる駆動機構と、
を備えたことを特徴とする光フィルタ装置。
【請求項2】
駆動機構で、フォトニック結晶光共振器を移動させることで、あるいはシリコン光導波路を移動させることにより、点状欠陥がシリコン光導波路を伝搬する光のなかで、特定波長の光を捕獲してこれを放射し、あるいは外部からの特定波長の光を捕獲してシリコン光導波路内に導入する光の取り出しまたは取り入れ量を変化させることで、
シリコン光導波路を伝搬する光の量を制御することを特徴とする光フィルタ装置。
【請求項3】
シリコン光導波路に対してフォトニック結晶光共振器と対向する位置に、シリコン光導波路の光閉じ込め効果を強めるために2次元フォトニック結晶が形成されることを特徴とする光フィルタ装置。
【請求項4】
フォトニック結晶光共振器は支持梁により支持され、支持梁は固定部とつながっているシリコン弾性ばねとつながっていて、
支持梁はフォトニック結晶光共振器を移動させるアクチュエータとつながっていることを特徴とする光フィルタ装置。
【請求項5】
あるいはシリコン光導波路は支持梁により支持され、支持梁は固定部とつながっているシリコン弾性ばねとつながっていて、
支持梁はシリコン光導波路を移動させるアクチュエータとつながっていることを特徴とする光フィルタ装置。
【請求項6】
フォトニック結晶光共振器はシリコン光導波路とエバネッセント光による光結合がほとんど無い距離を持って配置され、
アクチュエータによってフォトニック結晶光共振器がシリコン光導波路へ、あるいはシリコン光導波路がフォトニック結晶光共振器へ、エバネッセント光による光結合が可能な距離に近づくことによって、
点状欠陥がシリコン光導波路を伝搬する光のなかで、特定波長の光を捕獲してこれを放射し、あるいは外部からの特定波長の光を捕獲してシリコン光導波路内に導入する光の取り出しまたは取り入れ量が増加することを特徴とする光フィルタ装置。
【請求項7】
フォトニック結晶光共振器はシリコン光導波路とエバネッセント光による光結合が可能な距離を持って配置され、
アクチュエータによってフォトニック結晶光共振器がシリコン光導波路から、あるいはシリコン光導波路がフォトニック結晶光共振器から、エバネッセント光による光結合がほとんど無い距離へ離れることによって、
点状欠陥がシリコン光導波路を伝搬する光のなかで、特定波長の光を捕獲してこれを放射し、あるいは外部からの特定波長の光を捕獲してシリコン光導波路内に導入する光の取り出しまたは取り入れ量が減少することを特徴とする光フィルタ装置。
【請求項8】
駆動機構は、フォトニック結晶光共振器あるいはシリコン光導波路を、
平行方向に移動させることで、または垂直方向に移動させることで、
フォトニック結晶光共振器とシリコン光導波路のエバネッセント光による光結合により生じる光の伝搬量を変化させることで、
シリコン光導波路を伝搬する光の量を制御することを特徴とする光フィルタ装置。
【請求項9】
駆動機構は、基板に固定された固定電極と、
前記固定電極に対向配置され、固定電極との間に電圧を印加した時に生じる静電引力によって、基板に平行方向に移動させる可動電極と、
で駆動するアクチュエータを備えることを特徴とする光フィルタ装置。
【請求項10】
駆動機構は、
基板と、フォトニック結晶光共振器あるいはシリコン光導波路が連結した自立構造との間に、
電圧を印加した時に生じる静電引力によって、基板に垂直方向に移動させる可動電極と、
で駆動するアクチュエータを備えることを特徴とする光フィルタ装置。
【請求項11】
駆動機構は、アクチュエータとシリコン弾性ばねに働く力のバランスにより、
フォトニック結晶光共振器あるいはシリコン光導波路の位置を制御することにより光の量を変化させることを特徴とする光フィルタ装置。
【請求項12】
フォトニック結晶光共振器、シリコン光導波路、アクチュエータ、支持梁、シリコン弾性ばねは同一面内に形成され、シリコンで形成されることを特徴とする光フィルタ装置。
【請求項13】
請求項1に記載の光フィルタ装置を直列あるいは並列にシリコン光導波路で接続することにより、特定波長の光のエネルギーを分配して取り出しあるいは導入したり、特定波長の異なる光フィルタを複数個配置することにより多波長に対する光の量を制御することを特徴とする光フィルタ装置。
【請求項14】
Silicon on Insulator(SOI)基板を用いて、リソグラフィーによるパターニングの後、それをマスクとしてデバイスシリコン層のエッチングを行い、その後、可動部下部のSiO2層をエッチングすることにより形成されることを特徴とする光フィルタ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−233769(P2008−233769A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76748(P2007−76748)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】