説明

光フィルタ

【課題】 非透過波長帯域の迷光が多モード光干渉導波路の出力ポートから射出されることを抑制して、透過波長帯域の信号光に対する非透過波長帯域の迷光によるクロストークを改善することができる光フィルタを提供するものである。
【解決手段】 光フィルタ100は、コア層12を有する多モード光干渉導波路5と、多モード光干渉導波路5の導波方向に対して垂直なコア層12における信号光が結像する結像点8aを含む仮想面8のうち当該結像点8aを除く非結像領域8bに、コア層12の屈折率と異なる屈折率の媒質を介在させてなる迷光除去部7と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多モード光干渉導波路を備える光フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットによる情報通信社会の進展に伴い、基幹系ネットワークだけではなく、今後の情報需要や新しいサービスに対応するために、ローカルエリア系ネットワークにも波長多重技術(波長分割多重通信(WDM:Wavelength Division Multiplex))が適用されるようになってきた。ただし、ローカルエリア系ネットワークでは、特にコストやネットワーク管理運用上の観点から、基幹系ネットワークで普及した波長多重方式(DWDM(Dense WDM)方式)ではなく、広い波長範囲を利用する波長多重方式(CWDM(Coarse WDM)方式)を利用するのが一般的である。
【0003】
波長多重方式を実現する上でのキーデバイスの一つは、所望の波長を選択することのできる波長フィルタであり、DWDM方式においては、AWG(Arrayed Waveguide Grating:アレイ導波路回折格子)が広く用いられてきている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、CWDM方式においては、広い波長範囲をカバーするフィルタが必要であることからAWGは適当ではなく、これまでは、多層膜フィルタ板を挿入する等の現実的な対応が取られていた。ただし、この方式では、2波長のうちどちらかを選択するという基本的な波長フィルタリングであれば良いが、波長数が増えてくると、多層膜フィルタ板の挿入箇所も増え、機械的挿入であるがための光学的損失も無視できずに限界があった。そこで、半導体レーザや半導体受光素子との集積が容易な、光フィルタの開発が急務となっている。
【0005】
これに対し、光フィルタのうち、比較的設計自由度が高く、CWDM方式用のフィルタ設計が可能であるものとして、マッハ・ツェンダ型及びラダー型の光フィルタが報告されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−72633号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】肥田安弘他、「マッハ・ツェンダ干渉計の点対称接続により構成した非正弦的なフィルタ特性を有する波長合分波器」、電子情報通信学会論文誌C-I,Vol.J80-C-I,No.11、社団法人電子情報通信学会、1997年11月、pp.517−524
【非特許文献2】松尾慎治他、「ラダー型フィルタとリング共振器を用いた波長可変レーザ」、電子情報通信学会技術研究報告 LQE,103(526)、社団法人電子情報通信学会、2003年12月、pp.33−36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の光導波型フィルタは、アレイ導波路型フィルタであり、出力側スラブ導波路により伝播光を結像させ、出力用導波路に伝播光を導くために、各アレイ導波路間の間隔は中心波長の整数倍を満たすような規則性が必要である。また、従来のAWGは、アレイ導波路の中心線を基準にして正確に左右対称な基本構造にする必要があると共に、ローランド円の構成に従う2つのスラブ導波路を形成しなければならないという製造上の制約がある
という課題がある。
【0009】
また、従来のマッハ・ツェンダ型及びラダー型の光フィルタは、基本的には入射光を2つに分岐した後に、異なる導波路長を経たうえで合波させるもので、2つの経路間の位相差に対応し、位相が合わないものは放射され、位相が整合するものは透過するという原理に基づいている。ただし、所望の透過特性を得る為には、導波方向に数段の重ね合わせを行なう必要があり、その結果、光フィルタの全長が長くなるという課題がある。また、従来のマッハ・ツェンダ型及びラダー型の光フィルタは、導波方向に数段の重ね合わせに伴い、構造が複雑化し、歩留り悪化の要因になり、ひいてはコスト高の要因にもなるという課題がある。
【0010】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、従来の光フィルタと比較して、小型化及び低コスト化を図ると共に、光フィルタを透過させたい所望の波長帯域(以下、透過波長帯域と称す)以外の波長帯域(以下、非透過波長帯域と称す)の迷光(透過波長帯域の信号光ではない混入光)が多モード光干渉導波路の出力ポートから射出されることを抑制して、透過波長帯域の信号光に非透過波長帯域の迷光が混入する現象(クロストーク)を改善することができる光フィルタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る光フィルタにおいては、コア層を有する多モード光干渉導波路と、多モード光干渉導波路の導波方向に対して垂直なコア層における信号光が結像する結像点を含む仮想面のうち当該結像点を除く非結像領域に、コア層の屈折率と異なる屈折率の媒質を介在させてなる迷光除去部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る光フィルタにおいては、非透過波長帯域の迷光が多モード光干渉導波路の出力ポートから射出されることを抑制して、透過波長帯域の信号光に対する非透過波長帯域の迷光によるクロストークを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は第1の実施形態に係る光フィルタの概略構成の一例を示す平面図であり、(b)は第1の実施形態に係る光フィルタの概略構成の他の例を示す平面図である。
【図2】(a)は図1に示す光フィルタの矢視A−A'線の断面図であり、(b)は図1に示す光フィルタの矢視B−B'線の断面図であり、(c)は図1に示す光フィルタの矢視C−C'線の断面図である。
【図3】(a)は迷光除去部を有しない導波路長260μm及び導波路幅20μmの4×1型多モード光干渉導波路における透過設定波長λが1.27μmの信号光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、(b)は迷光除去部を有しない導波路長1575μm及び導波路幅30μmの4×1型多モード光干渉導波路における透過設定波長λが1.27μmの信号光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、(c)は図3(b)に示す光フィールドに基づいて迷光除去部を配設した4×1型多モード光干渉導波路の概略構成を示す平面図である。
【図4】(a)は1×1型多モード光干渉導波路の概略構成を示す平面図であり、(b)は図4(a)に示す1×1型多モード光干渉導波路における透過設定波長λが1.27μmの信号光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図である。
【図5】第1の実施形態に係る光フィルタの原理を説明する説明図であり、(a)はおよそ26nm毎に透過ピークが表れる場合の透過スペクトルであり、(b)はおよそ13nm毎に透過ピークが表れる場合の透過スペクトルである。
【図6】第1の実施形態に係る光フィルタの原理を説明する説明図であり、(a)はおよそ26nm毎に透過ピークが表れる場合の透過スペクトルとおよそ13nm毎に透過ピークが表れる場合の透過スペクトルとを重ねた図であり、(b)は図1に示す光フィルタにより得られる透過スペクトルである。
【図7】第1の実施形態に係る光フィルタの製造方法を説明する説明図であり、(a)は図1に示す光フィルタの矢視A−A'線の断面図に対応するSOI基板上にSiO2膜を堆積した状態の断面図であり、(b)は図1に示す光フィルタの矢視A−A'線の断面図に対応するマスクを形成した状態の断面図であり、(c)は図1に示す光フィルタの矢視A−A'線の断面図に対応するエッチングによりハイメサ構造を形成した状態の断面図である。
【図8】(a)は迷光除去部を有しない4×1型多モード光干渉導波路を備えた光フィルタと迷光除去部を有する4×1型多モード光干渉導波路を備えた光フィルタによる透過スペクトル図であり、(b)は迷光除去部を有しない4×1型多モード光干渉導波路における非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、(c)は迷光除去部を有する4×1型多モード光干渉導波路における非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図である。
【図9】(a)は第2の光導波路群の光導波路が3本の場合における光フィルタの概略構成の一例を示す平面図であり、(b)は第2の光導波路群の光導波路が4本の場合における光フィルタの概略構成の一例を示す平面図であり、(c)は第2の光導波路群の光導波路が6本の場合における光フィルタの概略構成の一例を示す平面図である。
【図10】(a)は図9(a)に示す3×1型多モード光干渉導波路における非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、(b)は図9(b)に示す4×1型多モード光干渉導波路における非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、(c)は図9(c)に示す6×1型多モード光干渉導波路における非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図である。
【図11】(a)は導波路幅20μmの4×1型多モード光干渉導波路における非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、(b)は導波路幅30μmの4×1型多モード光干渉導波路における非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、(c)は導波路幅40μmの4×1型多モード光干渉導波路における非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図である。
【図12】(a)は図9に示す各光フィルタによる透過スペクトル図であり、(b)は図11に示す特性を有する各光フィルタによる透過スペクトル図である。
【図13】(a)は迷光除去部を有しない導波路長1750μm及び導波路幅30μmの6×1型多モード光干渉導波路における透過設定波長λが1.27μmの信号光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、(b)は図13(a)に示す光フィールドに基づいて迷光除去部を配設した6×1型多モード光干渉導波路の概略構成を示す平面図である。
【図14】(a)は図13(b)に示す6×1型多モード光干渉導波路を備えた光フィルタの概略構成の一例を示す平面図であり、(b)は図14(b)に示す6×1型多モード光干渉導波路における透過設定波長λが1.27μmの信号光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、(c)は図9(a)及び図14(a)に示す各光フィルタによる透過スペクトル図である。
【図15】実施例に係る光フィルタの第1の光導波路群、第3の光導波路群、M×N型多モード光干渉導波路及びN×M'型多モード光干渉導波路のパラメータを説明するための説明図である。
【図16】実施例に係る光フィルタの第2の光導波路群のパラメータを説明するための説明図である。
【図17】(a)は図15に示すパラメータの6×1型多モード光干渉導波路における透過設定波長λが1.27μmの信号光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、(b)は図15及び図16に示すパラメータの光フィルタのうち迷光除去部を有する光フィルタと迷光除去部を有しない光フィルタによる透過スペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本発明の第1の実施形態)
光フィルタ100は、基板10上に、光導波路及び多モード光干渉導波路が配設され、外部から入射された光を分岐し、光の位相を整合させたうえで、光を合波して外部に出射する。このため、光フィルタ100は、基板10の一端面10a側における光導波路の端面を入射面とし、基板10の一端面10aに対向する他端面10b側における光導波路の端面を出射面とする場合に、分波用及び合波用の多モード光干渉導波路をそれぞれ備える必要がある。この場合には、光フィルタ100は、後述する、第1の光導波路群1、第2の光導波路群2、第3の光導波路群3、M×N型多モード光干渉導波路4及びN×M'型多モード光干渉導波路5を少なくとも備える(例えば、図1(a)参照)。
【0015】
また、光フィルタ100は、基板10の一端面10a側における光導波路の端面を入射面及び出射面とし、基板10の他端面10b側における光導波路の端面を反射面とする場合に、分波及び合波を兼用する多モード光干渉導波路を備えればよい。この場合には、光フィルタ100は、第1の光導波路群1、第2の光導波路群2及びM×N型多モード光干渉導波路4を少なくとも備える(例えば、図1(b)参照)。
【0016】
なお、本実施形態においては、基板10の一端面10a側における光導波路の端面を入射面とし、基板10の他端面10b側における光導波路の端面を出射面とする場合を例に挙げて説明するが、基板10の一端面10a側における光導波路の端面を入射面及び出射面とし、基板10の他端面10b側における光導波路の端面を反射面とする光フィルタ100であってもよい。
【0017】
本実施形態に係る光フィルタ100は、図1(a)に示すように、基板10上に、入射光導波路としての第1の光導波路群1と、M×N型多モード光干渉導波路4と、光位相整合領域20としての第2の光導波路群2と、N×M'型多モード光干渉導波路5と、出射光導波路としての第3の光導波路群3とが集積されている。
【0018】
第1の光導波路群1、第2の光導波路群2、第3の光導波路群3、M×N型多モード光干渉導波路4及びN×M'型多モード光干渉導波路5は、層構造が同一であり、ハイメサ導波路である。また、これらの断面構造は、図2に示すように、Si基板を基材とする基板層10上に、SiO2からなる第1のクラッド層11、Siからなるコア層12、及びSiO2からなる第2のクラッド層13が、それぞれ積層されたハイメサ構造である。特に、本実施形態においては、第1のクラッド層11の膜厚は1μm程度であり、コア層12の膜厚は0.3μm程度であり、第2のクラッド層13の膜厚は1μm程度である。
【0019】
また、本実施形態に係る層構造は、光導波路の材料系として、SiO2/Si/SiO2構造としているが、この材料系に限定するものではなく、例えば、InP系半導体材料であってもよいし、LiNbO3系材料であっても適用可能である。
【0020】
なお、本実施形態に係る光フィルタ100は、第1の光導波路群1、第2の光導波路群2、第3の光導波路群3、M×N型多モード光干渉導波路4及びN×M'型多モード光干渉導波路5をハイメサ導波路としているが、層構造を限定するものではなく、リッジ構造
や埋め込み構造であっても適用可能である。
【0021】
M×N型多モード光干渉導波路4は、M(Mは1以上の整数)入力かつN(Nは3以上の整数)出力型である多モード光干渉導波路である。なお、本実施形態においては、Mを1とし、Nを4とする1×4型多モード光干渉導波路4aを例に挙げて説明するが、この1×4型多モード光干渉導波路4aに限られるものではない。特に、本実施形態に係る1×4型多モード光干渉導波路4aは、光の導波方向に沿った導波路の長さ(以下、導波路長と称す)が1575μm程度であり、導波路幅が30μm程度である、略矩形状の干渉領域を有する。
【0022】
N×M'型多モード光干渉導波路5は、N(Nは3以上の整数)入力かつM'(M'は1以上の整数)出力型である多モード光干渉導波路である。なお、本実施形態においては、Nを4とし、M'を1とする4×1型多モード光干渉導波路5aを例に挙げて説明するが、この4×1型多モード光干渉導波路5aに限られるものではない。特に、本実施形態に係る4×1型多モード光干渉導波路5aは、導波路長が1575μm程度であり、導波路幅が30μm程度である、略矩形状の干渉領域を有する。
【0023】
また、N×M'型多モード光干渉導波路5は、図2(c)に示すように、導波方向に対して垂直な仮想面8(信号光が結像する結像点8aを含むコア層12)のうち結像点8aを除く非結像領域8bに、コア層12の屈折率と異なる屈折率の媒質を介在させてなる迷光除去部7を備える。なお、仮想面8とは、例えば、図3(b)に示すように、光干渉の結果、入射光と同じ光フィールドが周期的に現れる結像位置(結像点8a)を与える、導波方向に対して垂直な面をいう。
【0024】
なお、迷光除去部7を構成する媒質は、N×M'型多モード光干渉導波路5の出力ポートから迷光を射出させる割合を低減させるのであれば、特に限定されるものではなく、迷光の伝播方向を変化させる媒質や、迷光を吸収する媒質などが挙げられる。
【0025】
特に、迷光除去部7は、迷光の伝播方向を変化させる媒質であれば、コア層12(半導体)との界面で迷光を反射又は屈折させて、迷光の伝播方向を変化させ、N×M'型多モード光干渉導波路5の出力ポート以外の端面(特に、導波方向に平行な面)におけるコア層11(半導体)と外部(空気)との界面で迷光を全反射させることなく、N×M'型多モード光干渉導波路5の外部に射出させる。
【0026】
また、迷光除去部7は、コア層12の媒質(半導体)の屈折率より小さな屈折率の媒質であることにより、コア層12と迷光除去部7との界面においてコア層12から迷光除去部7に入射する迷光を全反射させる可能性が高く、N×M'型多モード光干渉導波路5の導波方向に平行な面から外部に射出させることができる。
【0027】
なお、本実施形態においては、N×M'型多モード光干渉導波路5が、非結像領域8bに対応して、上面からコア層12の下層(第1のクラッド層11又は基板層10)まで達する凹部7aを有し、迷光除去部7が、凹部7a内に介在させる空気である。
【0028】
この構成は、コア層12(本実施形態においては、Si)の屈折率と比較して空気の屈折率が非常に小さいため、半導体(コア層12)との屈折率の差を大きくすることができ、半導体(コア層12)と空気(迷光除去部7)との界面での光の全反射を生じさせ易く、迷光の伝播方向を変化させるうえで有効である。
【0029】
また、迷光除去部7は、コア層12にドーピングされる不純物であるならば、コア層12を光導波路として機能させ、コア層12の屈折率が迷光除去部7の屈折率より大きくな
るように、コア層12にも不純物をドーピングする必要がある。
【0030】
また、迷光除去部7は、迷光を吸収する媒質とするならば、例えば、シリコーン樹脂を母材としてカーボンブラックを混合した光吸収体を凹部7a内に配設する。この構成により、迷光除去部7は、迷光を吸収して、迷光の伝播方向を変化させる媒質と同様に、N×M'型多モード光干渉導波路5の出力ポートから迷光を射出させる割合を低減させることができる。
【0031】
ここで、迷光除去部7を有さず、導波路長が260μmであり、導波路幅が20μmである、4×1型多モード光干渉導波路において、例えば、透過波長帯域をUpstream(1260nm〜1280nm)として透過設定波長λが1.27μmの信号光の光強度をシミュレーションした光フィールドは、図3(a)に示すように、4×1型多モード光干渉導波路の入力ポート側の端面から所定の距離毎に結像点8a及び非結像領域8bが表れる。
【0032】
そこで、図3(a)に示す光フィールドに基づき、4×1型多モード光干渉導波路5aにおける信号光の非結像領域8bに迷光除去部7を配設するのであるが、図3(a)に示す光フィールドでは、個々の非結像領域8bの平面形状における面積が狭いため、有効な迷光除去部7を形成することができない。
【0033】
このため、本実施形態においては、一の仮想面8における結像点8aのスポット数を少なく(例えば、2箇所に)出現させて個々の非結像領域8bの平面形状における面積を広くするように、導波路長1575μm及び導波路幅30μmの4×1型多モード光干渉導波路において、透過設定波長λが1.27μmの信号光の光強度をシミュレーションした(図3(b)参照)。
【0034】
そして、本実施形態においては、図3(b)に示す光フィールドに基づき、図3(c)に示すように、4×1型多モード光干渉導波路5aの入力ポート側の端面から500μm近傍の距離にある非結像領域8bに対応させて、当該非結像領域8bの領域に収まる平面形状(導波方向に対して傾斜したテーパー面を有する形状)で迷光除去部7を配設した。
【0035】
なお、迷光除去部7を配設する位置は、有効な迷光除去部7を形成することができ、非結像領域8bに配設することができるのであれば、この距離にある非結像領域8bに限られるものではない。
【0036】
また、迷光除去部7の平面形状は、透過設定波長の信号光の光強度をシミュレーションした光フィールドで得られる、非結像領域8bの領域に収まる平面形状であれば、導波方向に対して傾斜したテーパー面を有する形状に限られるものでない。
【0037】
また、多モード光干渉導波路は、公知の技術を用いて設計できるのであるが、例えば、MMI(Multimode Interference:多モード干渉)理論に基づいて、M×N型多モード光干渉導波路4及びN×M'型多モード光干渉導波路5を、以下のように設計することができる。
【0038】
多モード光干渉導波路の長さ(Lπ)の式は、下記数1のように示すことができる。ただし、数1の式に示す、Weは多モード干渉領域の実効幅を表し、nrは導波路(コア)の実効屈折率を表し、ncはクラッドの実効屈折率を表し、λ0は入射光波長(中心波長)を表す。また、σはTEモードのときσ=0を表し、TMモードのときσ=1を表す。
〔数1〕
e=W1+(λ0/π)(nc/nr2σ(nr2−nc2-1/2
Lπ=4nre2/3λ0 ・・・(1)
また、多モード光干渉導波路は、下記数2の式で表されるとき、1×N型の光導波路として動作することができる。また、多モード光干渉導波路は、下記数3の式で表されるとき、M×N型の光導波路として動作することができる。なお、M及びNは正の整数であり、入力側のMは1であってもよく、出力側のNは2以上とすることができる。ただし、数2及び数3の式に示すLMMIは、多モード光干渉導波路の長さを表す。
〔数2〕
MMI=(3/4N)Lπ(Nは正の整数) ・・・(2)
〔数3〕
MMI=(3/N)Lπ(Nは正の整数) ・・・(3)
ここで、上記数2のNを1とした1×1型多モード光干渉導波路(図4(a)参照)において、例えば、透過設定波長λが1.27μmの信号光の光強度をシミュレーションした場合には、図4(b)に示す光フィールドが得られる。
【0039】
図4(b)に示すように、1×1型多モード光干渉導波路の導波路長L1×1の半分の長さが2×1型多モード光干渉導波路の導波路長L2×1となり、1×1型多モード光干渉導波路の中央における非結像領域8bに迷光除去部7を配設することが、迷光を除去するうえで、最も効果的である。
【0040】
なお、図4(b)に示すように、1×1型多モード光干渉導波路の入力ポート(又は出力ポート)側から4分の1の領域が1×4型多モード光干渉導波路(又は4×1型多モード光干渉導波路)に対応しており、1×1型多モード光干渉導波路の導波路長L1×1の4分の1の長さが本実施形態に係る4×1型多モード光干渉導波路5aの導波路長L1×4として設定すればよいことになる。
【0041】
第1の光導波路群1は、M×N型多モード光干渉導波路4の入力側の各ポート(入力ポート)に一端がそれぞれ接続されるM本の光導波路からなる。また、第1の光導波路群1は、各光導波路の他端を入射面とする。なお、本実施形態においては、1×4型多モード光干渉導波路4aを例に挙げて説明するために、第1の光導波路群1は、1本の光導波路(以下、入射光導波路1aと称す)からなる。特に、本実施形態に係る入射光導波路1aは、導波路長が50μm程度であり、導波路幅が1.0μm程度である、直線領域のみからなる直線導波路である。また、入射光導波路1aは、M×N型多モード光干渉導波路4の入力側の辺に対して略中央に接続されている。
【0042】
第2の光導波路群2は、M×N型多モード光干渉導波路4の出力側の各ポート(以下、分岐ポートと称す)に一端がそれぞれ接続され、N×M'型多モード光干渉導波路5の入力側の各ポート(以下、合波ポートを称す)に他端がそれぞれ接続されるN本の光導波路からなる。また、第2の光導波路群2は、N本の光導波路のうち、一の光導波路の長さが、他の光導波路の長さと異なる。すなわち、一の光導波路及び他の光導波路は、1本又は複数本の光導波路であり、第2の光導波路群2は、二種以上の異なる長さを有するN本の光導波路からなる。
【0043】
なお、本実施形態においては、1×4型多モード光干渉導波路4a及び4×1型多モード光干渉導波路5aを例に挙げて説明するために、第2の光導波路群2は、4本の光導波路からなる。
【0044】
また、第2の光導波路群2は、直線領域のみからなる直線導波路(第2の位相整合導波路2b)と、直線領域及び曲線領域からなる曲線導波路(第1の位相整合導波路2a、第3の位相整合導波路2c、第4の位相整合導波路2d)とから構成され、各光導波路の導波路長を互いに異ならせているが、二種以上の異なる長さを有する4本の光導波路から構成されるのであれば、例えば、4本の光導波路のうち、3本の光導波路の導波路長を同一
とし、残り1本の光導波路の導波路長を異ならせてもよい。
【0045】
また、第2の光導波路群2は、直線導波路(第2の位相整合導波路2b)と曲線導波路(第1の位相整合導波路2a、第3の位相整合導波路2c、第4の位相整合導波路2d)とから構成されているが、二種以上の異なる長さを有する4本の光導波路から構成されるのであれば、直線導波路及び曲線導波路の組合せに限られるものではなく、例えば、第2の位相整合導波路2b(直線導波路)を曲線導波路で形成し、4本の光導波路を全て曲線導波路で構成してもよい。特に、第2の位相整合導波路2b(直線導波路)に対して導波路長を同じくする曲線導波路に変更した場合には、光位相整合領域20の領域長が短くなり、光フィルタ100素子の全長を短くすることができる。また、第2の光導波路群2は、曲線導波路の替わりに、屈曲領域を含む光導波路であってもよいが、屈曲領域における伝播光の放射による光の伝播ロスが生じるために、曲線導波路にすることが好ましい。
【0046】
第2の光導波路群2は、図1(a)に示すように、1×4型多モード光干渉導波路4a及び4×1型多モード光干渉導波路5a間に、第1の位相整合導波路2a、第2の位相整合導波路2b、第3の位相整合導波路2c及び第4の位相整合導波路2dが並設され、1×4型多モード光干渉導波路4aの分岐ポート及び4×1型多モード光干渉導波路5aの合波ポートにおいて等間隔でそれぞれ接続される。
【0047】
特に、光位相整合領域20が領域長として100μm程度であるために、光位相整合領域20の領域長に一致する第2の位相整合導波路2b(直線導波路)は、導波路長が100μm程度であり、導波路幅が1.0μm程度である。
【0048】
第4の位相整合導波路2dは、後述する数5に基づき、光フィルタ100からの透過光の繰り返しピークの間隔(以下、波長ピーク周期と称す)Δλがおよそ13nmとなるように、後述する数4に基づき、第2の位相整合導波路2b(直線導波路)の導波路長に対する第4の位相整合導波路2dの導波路長の差Δdがおよそ52μmだけ第2の位相整合導波路2b(直線導波路)よりもその長さが長くなるように設定されている。
【0049】
このため、第4の位相整合導波路2dは、図1(a)に示すように、曲率半径Rがおよそ23μmである略S字の曲線領域を光位相整合領域20の中央で結合し、その前後(1×4型多モード光干渉導波路4a側及び4×1型多モード光干渉導波路5a側)におよそ4μm程度の長さの直線領域がそれぞれ配置された構成の光導波路である。
【0050】
第1の位相整合導波路2a及び第3の位相整合導波路2cは、第4の位相整合導波路2dと同様に、後述する数5に基づき、波長ピーク周期Δλがおよそ26nmとなるように、後述する数4に基づき、第2の位相整合導波路2b(直線導波路)の導波路長に対する第3の位相整合導波路2cの導波路長の差Δdがおよそ27μmだけ第2の位相整合導波路2b(直線導波路)よりもその長さが長くなるように設定されている。
【0051】
このため、第1の位相整合導波路2a及び第3の位相整合導波路2cは、図1(a)に示すように、曲率半径Rがおよそ12μmである略S字の曲線領域を光位相整合領域20の中央で結合し、その前後(1×4型多モード光干渉導波路4a側及び4×1型多モード光干渉導波路5a側)におよそ26μm程度の長さの直線領域がそれぞれ配置された構成の光導波路である。
【0052】
第3の光導波路群3は、N×M'型多モード光干渉導波路5の出力側の各ポート(出力ポート)に一端がそれぞれ接続されるM'本の光導波路からなる。また、第3の光導波路群3は、各光導波路の他端を出射面とする。なお、本実施形態においては、4×1型多モード光干渉導波路5aを例に挙げて説明するために、第3の光導波路群3は、1本の光導
波路(以下、出射光導波路3aと称す)からなる。特に、本実施形態に係る出射光導波路3aは、導波路長が50μm程度であり、導波路幅が1.0μm程度である、直線領域のみからなる直線導波路である。
【0053】
以下、本実施形態に係る光フィルタ100によって、小型の光フィルタが実現できる原理を説明する。
【0054】
一般に、多モード光干渉導波路でN分岐された波長λ0の光は、それぞれの振幅が等しく、また、それぞれの位相が各分岐ポート間で相対的に決まった位相で出力される。
【0055】
例えば、本実施形態に係る1×4型多モード光干渉導波路4aでは、4出力側の分岐ポートにおいて、略中央に位置する、第2の位相整合導波路2b(直線導波路)に接続する分岐ポート(以下、第2の分岐ポートと称す)及び第3の位相整合導波路2cに接続する分岐ポート(以下、第3の分岐ポートと称す)から出力される光の位相を0とした場合に、その略中央の2つの分岐ポート(第2の分岐ポート、第3の分岐ポート)の外側に位置する第1の位相整合導波路2aに接続する分岐ポート(以下、第1の分岐ポートと称す)及び第4の位相整合導波路2dに接続する分岐ポート(以下、第4の分岐ポートと称す)から出力される光の位相はπ/3となる。
【0056】
したがって、N分岐された光を、再び、N×M'型多モード光干渉導波路5で合波させる場合には、例え、N本の全ての光導波路を伝播する光の振幅が等しくても、N×M'型多モード光干渉導波路5の各合波ポート間で相対的に決まった位相で入力しないと、N×M'型多モード光干渉導波路5を用いて確実に合波することができず、一部もしくは大部分の光はN×M'型多モード光干渉導波路5から放射してしまうことになる。
【0057】
すなわち、相対的に決まった位相でN×M'型多モード光干渉導波路5の各合波ポートに光が入力されていない場合は、光損失が生じ、光は光フィルタ100を完全には透過しなくなることを意味する。このため、M×N型多モード光干渉導波路4を用いてN分岐した光を、N×M'型多モード光干渉導波路5で合波させる場合は、光位相整合領域20を用いて、入力側の各合波ポート間で相対的に決まった位相でN×M'型多モード光干渉導波路5に光を入力させる必要がある。
【0058】
なお、本実施形態に係る4×1型多モード光干渉導波路5aでは、4入力側の合波ポートにおいて、略中央に位置する、第2の位相整合導波路2b(直線導波路)に接続する合波ポート(以下、第2の合波ポートと称す)及び第3の位相整合導波路2cに接続する合波ポート(以下、第3の合波ポートと称す)に入力される光の位相を0とした場合に、その略中央の2つの合波ポート(第2の合波ポート、第3の合波ポート)の外側に位置する第1の位相整合導波路2aに接続する合波ポート(以下、第1の合波ポートと称す)及び第4の位相整合導波路2dに接続する合波ポート(以下、第4の合波ポートと称す)での光の位相は5π/3として入力させるようにすればよい。
【0059】
具体的には、1×4型多モード光干渉導波路4aの各分岐ポートにおける略中央の2つの分岐ポート(第2の分岐ポート、第3の分岐ポート)の外側に位置する2つの分岐ポート(第1の分岐ポート、第4の分岐ポート)から出力された光が、4×1型多モード光干渉導波路5aの各ポートにおける略中央の2つの合波ポート(第2の合波ポート、第3の合波ポート)の外側に位置する2つの合波ポート(第1の合波ポート、第4の合波ポート)に至るまでに、その略中央の2つの合波ポート(第2の合波ポート、第3の合波ポート)に入力される光との位相差が5π/3となるように、第2の位相整合導波路2b(直線導波路)に対して第1の位相整合導波路2a及び第4の位相整合導波路2dの長さを共に長くすれば、この位相差を得ることができる。
【0060】
ここで、多モード光干渉導波路の各分岐ポートから並設する複数の光導波路のうち、中心とする光導波路の導波路長に対する、中心とする光導波路の外側にある光導波路の導波路長との差をΔdとすると、下記数4の式で表される。ただし、数4の式に示す、neqは光位相整合領域の光導波路の等価屈折率であり、Φ0は初期整合位相であり、mは整数である。
〔数4〕
Δd=λ0(Φ0+2π(m−1))/2πneq ・・・(4)
なお、本実施形態においては、前述したように、1×4型多モード光干渉導波路4aの4出力側の分岐ポートにおいて、その略中央の2つの分岐ポート(第2の分岐ポート、第3の分岐ポート)から出力される光の位相を0とした場合に、その略中央の2つの分岐ポートの外側に位置する2つの分岐ポート(第1の分岐ポート、第4の分岐ポート)から出力される光の位相はπ/3となることと、4×1型多モード光干渉導波路5aの4入力側の合波ポートにおいて、その略中央の2つの合波ポート(第2の合波ポート、第3の合波ポート)に入力される光の位相を0とした場合に、その略中央の2つの合波ポートの外側に位置する2つの合波ポート(第1の合波ポート、第4の合波ポート)での位相は5π/3となることとから、初期整合位相Φ0は、Φ0=5π/3−π/3で与えられる。
【0061】
ここで、数4を参照すると、第2の位相整合導波路2b(直線導波路)の導波路長に対する第1の位相整合導波路2a、第3の位相整合導波路2c及び第4の位相整合導波路2dの導波路長の差Δdは、必ずしも1つの値に限られるわけではなく、mの関数であることがわかる。このことから、ある整数mにおけるΔdと同一の値であるΔdが、整数mとは異なる整数m'及び波長λ0とは別の波長λ'によって実現できることを意味する。
【0062】
すなわち、本願発明に係る光フィルタ100は、ある一定のFSR(Free Spectral Range:自由スペクトル領域)を有する波長フィルタであることがわかる。このFSRを波長ピーク周期Δλとすると、波長ピーク周期Δλは、下記数5の式で表される。
〔数5〕
Δλ=λ0/m ・・・(5)
このように、本願発明に係る光フィルタ100は、以上に説明した原理に従い、波長ピーク周期Δλを自由に設定することができるという特徴を有している。
【0063】
ここで、本実施形態では、第1の位相整合導波路2a及び第3の位相整合導波路2cの導波路長の長さと第4の位相整合導波路2dの導波路長の長さとを異なる長さとしているが、仮に、第1の位相整合導波路2a、第3の位相整合導波路2c及び第4の位相整合導波路2dの導波路長が全て同じ長さであり、かつ、数4及び数5を満たすように設計した場合には、その透過スペクトルが、例えば、図5(a)及び図5(b)に示すようになる。
【0064】
なお、図5(a)は、波長ピーク周期Δλがおよそ26nmになるように、第1の位相整合導波路2a(第3の位相整合導波路2c、第4の位相整合導波路2d)の導波路長を設定した場合における光フィルタ100による透過スペクトルであり、横軸が波長[nm]であり、縦軸が透過率である。また、図5(b)は、波長ピーク周期Δλがおよそ13nmになるように、第1の位相整合導波路2a(第3の位相整合導波路2c、第4の位相整合導波路2d)の導波路長を設定した場合における光フィルタ100による透過スペクトルであり、横軸が波長[nm]であり、縦軸が透過率である。
【0065】
この図5(a)及び図5(b)に示すように、数4及び数5を満たすように、第1の位相整合導波路2a、第3の位相整合導波路2c及び第4の位相整合導波路2dを設計することで、光フィルタ100として、波長ピーク周期Δλの異なる透過スペクトルを自由に
実現することができる。
【0066】
その一方で、透過スペクトルの一つの透過ピークの線幅と波長ピーク周期Δλとは直接的に相関し、透過ピークの線幅を狭くしようとすると、波長ピーク周期Δλも同時に狭くなってしまう。特に、第1の位相整合導波路2a、第3の位相整合導波路2c及び第4の位相整合導波路2dの導波路長が全て同じ長さでは、波長域を広い範囲で使うことが想定されるローカルエリア系ネットワークの用途として、光フィルタ100の適用が困難である。
【0067】
そこで、本実施形態に係る光フィルタ100は、更に次のような動作原理をも有している。
【0068】
通常、前述したように、波長ピーク周期Δλと一つの透過ピークの線幅とを個別に設計する場合には、透過特性の異なる光フィルタを直列的にいくつか接続(従属接続)し、それぞれの透過特性の積として、所望の透過特性を設計することができる。例えば、背景技術で説明したマッハ・ツェンダ型やラダー型の光フィルタは、その代表例である。
【0069】
本願発明においても、マッハ・ツェンダ型やラダー型の光フィルタと同様に、波長ピーク周期Δλが26nmの波長フィルタと波長ピーク周期Δλが13nmの波長フィルタとを、導波方向に従属接続した形に集積すれば、図6(a)に示す2つの波長フィルタの透過特性の積として、図6(b)に示す透過特性が得られる。すなわち、図6(b)に示す透過特性は、波長ピーク周期Δλとしてはおよそ26nmであるが、中心波長における線幅としては狭い線幅の透過スペクトルが得られる。これは、波長ピーク周期Δλが26nmの波長フィルタにおける透過ピークによる山又は谷と、波長ピーク周期Δλが13nmの波長フィルタにおける透過ピークによる谷又は山とを合わせて、透過ピークを減少させて、サイドモードを抑圧した結果である。なお、図6(a)において、実線が波長ピーク周期Δλが13nmの波長フィルタの透過特性を示し、破線が波長ピーク周期Δλが26nmの波長フィルタの透過特性を示している。また、図6(a)及び図6(b)において、横軸が波長[nm]であり、縦軸が透過率である。
【0070】
しかしながら、このような従属接続を行なう場合には、複数の波長フィルタを導波方向に直列的に接続しなければならず、光フィルタ100の長さが必然的に長くなってしまうという課題があり、光フィルタ100の小型化及び低コスト化という観点からは好ましくない。
【0071】
本実施形態に係る光フィルタ100においては、この従来の課題を解決すべく、第1の位相整合導波路2a(第3の位相整合導波路2c)及び第4の位相整合導波路2dの導波路長が互いに異なる長さとすることで、複数の波長フィルタを従属接続することなく、図6(b)に示す透過特性を実現し得ることが、発明者の最近の研究結果からわかった。
【0072】
従って、本実施形態に係る光フィルタ100においては、複数の異なる透過スペクトルの積が、光フィルタ100の全長を長くすることなく実現できることになり、波長ピーク周期Δλ及び線幅の自由な設定だけではなく、従来技術では達成が困難であった光フィルタ100の小型化及び低コスト化までをも実現できることになる。
【0073】
つぎに、図7を参照して、本実施形態に係る光フィルタ100の製造方法を説明する。
【0074】
まず、通常のSOI(Silicon on Insulator)基板30上に、熱CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法を用いて、SiO2膜40を堆積する(図7(a))。
【0075】
そして、ステッパ(縮小投影露光装置)によるフォトリソグラフィ法を用いて、図1(a)に示す、第1の光導波路群1、M×N型多モード光干渉導波路4、第2の光導波路群2、N×M'型多モード光干渉導波路5(迷光除去部7の凹部7aとなる領域を除く)及び第3の光導波路群3の平面形状に合わせて、エッチング用のマスク50を形成する(図7(b))。
【0076】
このマスク50を用いて、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)法によりドライエッチングを施して、第2のクラッド層13となるSiO2膜40、コア層12となるSOI基板30のSi層、及び第1のクラッド層11となるSOI基板30のSiO2層における不要な部分を除去し、断面形状としてハイメサ構造を形成すると共に、迷光除去部7の凹部7aを形成する(図7(c))。なお、図7(c)においては、エッチングの進行が、SOI基板30の基板層10の表面まで達して一部が除去されており、基板層10にエッチング底面10cを図示している。
【0077】
この後、第2のクラッド層13の直上にあるマスク50を、有機溶剤及びアッシング法により除去する(図2(a))。
【0078】
そして、複数の光フィルタ100素子が形成された基板10に対して、光フィルタ100素子間の境界に沿って劈開することで、図1(a)及び図2に示す構造を有する光フィルタ100素子を得ることができる。この劈開により、光フィルタ100素子の後方端面(基板10の一端面10a、入射光導波路1aの入射面)及び前方端面(基板10の他端面10b、出射光導波路3aの出射面)がそれぞれ形成される。
【0079】
最後に、前方端面及び後方端面に反射防止膜をそれぞれ形成して、光フィルタ100素子の製造を終了する。なお、図1(b)に示す光フィルタ100の場合には、前方端面(基板10の一端面10a、入射光導波路1aの入射面)に反射防止膜を形成し、後方端面(基板10の他端面10b、第2の光導波路群2の出射面)に高反射膜を形成して、光フィルタ100素子の製造を終了する。
【0080】
なお、本実施形態に係る製造方法においては、フォトリソグラフィ法にステッパを用いているが、必ずしもこれに限られるわけではなく、例えば、電子ビーム露光装置であっても適用可能である。
【0081】
また、本実施形態に係る製造方法においては、SiO2膜40の形成に熱CVD法を用いているが、例えば、プラズマCVD法であっても、スパッタ法であっても適用可能である。
【0082】
また、本実施形態に係る製造方法においては、ハイメサ構造の製造工程をICP法に限られるものではなく、例えば、NLD(magnetic neutral loop discharge)法、もしくはRIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング )法であっても適用可能である。
【0083】
さらに、本実施形態に係る製造方法においては、エッチングの進行を基板層10にまで到達させたハイメサ構造としているが、必ずしも基板層10にまでエッチングを施す必要はなく、コア層12となるSOI基板30のSi層がエッチングされていればよく、例えば、メサ構造であってもよい。
【0084】
また、本実施形態に係る製造方法においては、光フィルタ100素子の後方端面及び前方端面の形成は、必ずしも劈開である必要はなく、例えば、光フィルタ100素子を切り出した後に研磨してもよいし、切り出した光フィルタ100素子の後方端面及び前方端面
に、コーティング等を施してもよい。
【0085】
以上のように、本実施形態に係る光フィルタ100は、M×N型多モード光干渉導波路4及びN×M'型多モード光干渉導波路5間に、N本(Nは3以上の整数)の光導波路からなる第2の光導波路群2を備え、第2の光導波路群2のうち、一の光導波路の長さが、他の光導波路の長さと異なることにより、波長ピーク周期Δλを自由に設定することができ、ある一定のFSRを有することができるという作用効果を奏する。
【0086】
特に、従来のマッハ・ツェンダ型及びラダー型の光フィルタは、透過光と非透過光との比を大きくする(透過ピークの線幅を狭める)ために、同一の透過特性を有する光フィルタを従属接続(例えば、2段)する必要があった。
【0087】
これに対し、本実施形態に係る光フィルタ100は、第2の光導波路群2を二種以上(例えば、1本の直線導波路と、同一の導波路長である2本の曲線導波路との二種類)の光導波路にすることにより、従来のマッハ・ツェンダ型及びラダー型の光フィルタによる従属接続(例えば、2段)と同様に、透過ピークの線幅を狭めることができる。そのうえ、光フィルタ100は、多段の従属接続が不要であり、構成として比較的単純である光フィルタを実現することができるという作用効果を奏する。
【0088】
また、波長域を広い範囲で使うことが想定されるローカルエリア系ネットワークに光フィルタ100を適用する場合に、第2の光導波路群2が、三種以上の異なる長さを有するN本の光導波路からなることにより、異なる帯域フィルタを集積することと同じ作用効果を、光フィルタのサイズを大きくすることなく実現することができるという作用効果を奏する。
【0089】
さらに、本実施形態に係る光フィルタ100においては、N×M'型多モード光干渉導波路5における信号光の非結像領域8bに迷光除去部7を配設することにより、図8(a)に示すように、透過設定波長1270±5nmの透過率に対する非透過設定波長1320±10nmの透過率を、−12dB程度(迷光除去部7を有しない場合)から−18dB程度(迷光除去部7を有する場合)まで低減することができるという作用効果を奏する。なお、図8(a)において、実線が迷光除去部7を有するN×M'型多モード光干渉導波路5を備えた光フィルタ100による透過特性を示し、破線が迷光除去部7を有しないN×M'型多モード光干渉導波路5を備えた光フィルタ100による透過特性を示す。また、図8(a)において、横軸が波長[nm]であり、縦軸が透過率[dB]である。
【0090】
また、迷光除去部7を有しない4×1型多モード光干渉導波路において、非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドは、図8(b)に示すように、4×1型多モード光干渉導波路の出力ポート側の端面の略中央(出力ポート)において迷光の光強度が強いことがわかる。
【0091】
これに対し、本実施形態に係る迷光除去部7を有する4×1型多モード光干渉導波路5aにおいて、非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドは、図8(c)に示すように、4×1型多モード光干渉導波路5aの出力ポート側の端面で迷光が分散して射出され、当該端面の略中央(出力ポート)において迷光の光強度が弱くなっていることがわかる。
【0092】
すなわち、本実施形態に係る光フィルタ100においては、N×M'型多モード光干渉導波路5における信号光の非結像領域8bに迷光除去部7を配設することにより、非透過波長帯域の迷光が出力ポートから射出されることを抑制して、透過波長帯域の信号光に非透過波長帯域の迷光が混入する現象(クロストーク)を改善することができるという作用
効果を奏する。
【0093】
なお、本実施形態に係る光フィルタ100は、N×M'型多モード光干渉導波路5における信号光の非結像領域8bに迷光除去部7を配設する場合について説明したが、M×N型多モード光干渉導波路4における信号光の非結像領域8bに迷光除去部7を配設する場合についても同様の作用効果を奏する。
【0094】
また、本実施形態に係る光フィルタ100は、第4の位相整合導波路2dの略S字の曲線領域における曲率半径Rを23μmとし、第1の位相整合導波路2a及び第3の位相整合導波路2cの略S字の曲線領域における曲率半径Rを12μmとしているが、所望の導波路長の差Δdが実現できるのであれば、この曲率半径に限られるものではない。
【0095】
また、本実施形態に係る入射光導波路1a及び出射光導波路3aは、直線導波路としているが、必ずしも直線導波路である必要はなく、例えば、テーパー構造等によるスポットサイズ変換機能を直線導波路の一部に持たせ、光ファイバーとの光結合効率を高める構造であってもよい。
また、本実施形態に係る光フィルタ100は、必ずしも従属接続を否定するものではなく、従属接続が併用されていても問題はない。
【0096】
さらに、本実施形態に係る光フィルタ100においては、第1の光導波路群1、第2の光導波路群2、第3の光導波路群3、M×N型多モード光干渉導波路4及びN×M'型多モード光干渉導波路5の一部を、PN接合間に活性層を有する層構造にして、アクティブ化することによって光損失の補償も実現できる。すなわち、この層構造では、PN接合間に順バイアスを加えて、正孔と電子が活性層に閉じ込められ、再結合して発光した光により、光導波路を伝播するうちに損失した光を補償することができるという作用効果を奏する。
【0097】
(その他の実施形態)
図9(a)は第2の光導波路群の光導波路が3本の場合における光フィルタの概略構成の一例を示す平面図であり、図9(b)は第2の光導波路群の光導波路が4本の場合における光フィルタの概略構成の一例を示す平面図であり、図9(c)は第2の光導波路群の光導波路が6本の場合における光フィルタの概略構成の一例を示す平面図である。図10(a)は図9(a)に示す3×1型多モード光干渉導波路における非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、図10(b)は図9(b)に示す4×1型多モード光干渉導波路における非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、図10(c)は図9(c)に示す6×1型多モード光干渉導波路における非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図である。図11(a)は導波路幅20μmの4×1型多モード光干渉導波路における非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、図11(b)は導波路幅30μmの4×1型多モード光干渉導波路における非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、図11(c)は導波路幅40μmの4×1型多モード光干渉導波路における非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図である。図12(a)は図9に示す各光フィルタによる透過スペクトル図であり、図12(b)は図11に示す特性を有する各光フィルタによる透過スペクトル図である。図13(a)は迷光除去部を有しない導波路長1750μm及び導波路幅30μmの6×1型多モード光干渉導波路における透過設定波長λが1.27μmの信号光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、図13(b)は図13(a)に示す光フィールドに基づいて迷光除去部を配設した6×1型多モード光干渉導波
路の概略構成を示す平面図である。図14(a)は図13(b)に示す6×1型多モード光干渉導波路を備えた光フィルタの概略構成の一例を示す平面図であり、図14(b)は図14(b)に示す6×1型多モード光干渉導波路における透過設定波長λが1.27μmの信号光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、図14(c)は図9(a)及び図14(a)に示す各光フィルタによる透過スペクトル図である。図15は実施例に係る光フィルタの第1の光導波路群、第3の光導波路群、M×N型多モード光干渉導波路及びN×M'型多モード光干渉導波路のパラメータを説明するための説明図である。図16は実施例に係る光フィルタの第2の光導波路群のパラメータを説明するための説明図である。図17(a)は図15に示すパラメータの6×1型多モード光干渉導波路における透過設定波長λが1.27μmの信号光の光強度をシミュレーションした光フィールドを示す説明図であり、図17(b)は図15及び図16に示すパラメータの光フィルタのうち迷光除去部を有する光フィルタと迷光除去部を有しない光フィルタによる透過スペクトル図である。図9乃至図17において、図1乃至図8と同じ符号は、同一又は相当部分を示し、その説明を省略する。
【0098】
第1の実施形態においては、透過波長帯域の信号光に非透過波長帯域の迷光が混入する現象(クロストーク)を改善するために、N×M'型多モード光干渉導波路5に迷光除去部7を配設した場合について説明したが、本実施形態においては、N×M'型多モード光干渉導波路5に迷光除去部7を配設することなく、後述するパラメータを変化させることにより、クロストークの改善を試みた。
【0099】
まず、本実施形態においては、N×M'型多モード光干渉導波路5に迷光除去部7を配設することなく、光位相整合領域20の第2の光導波路群2における光導波路の本数を変化させることにより、クロストークを改善することができるかについて検討した。
【0100】
図9(a)に示す光フィルタ100は、導波路長310μm及び導波路幅20μmの1×3型多モード光干渉導波路4並びに3×1型多モード光干渉導波路5を備え、第2の光導波路群2が、1本の直線導波路と、2本の曲線導波路とから構成され、三種類の異なる長さを有する3本の光導波路からなる。また、図9(b)に示す光フィルタ100は、導波路長235μm及び導波路幅20μmの1×4型多モード光干渉導波路4並びに4×1型多モード光干渉導波路5を備え、第2の光導波路群2が、1本の直線導波路と、3本の曲線導波路とから構成され、三種類の異なる長さを有する4本の光導波路からなる。また、図9(c)に示す光フィルタ100は、導波路長160μm及び導波路幅20μmの1×6型多モード光干渉導波路4並びに6×1型多モード光干渉導波路5を備え、第2の光導波路群2が、1本の直線導波路と、5本の曲線導波路とから構成され、四種類の異なる長さを有する6本の光導波路からなる。
【0101】
図9に示す各光フィルタ100は、図12(a)に示すように、光位相整合領域20の第2の光導波路群2における光導波路の本数を増加させることにより、透過設定波長1270±5nmの透過率に対する非透過設定波長1320±10nmの透過率を低減することがわかる。
【0102】
特に、光位相整合領域20の第2の光導波路群2における光導波路の本数を3本から4本に増加させた場合の透過率の下げ幅は、光位相整合領域20の第2の光導波路群2における光導波路の本数を4本から6本に増加させた場合の透過率の下げ幅より、顕著に大きいことがわかる。
【0103】
これは、光位相整合領域20の第2の光導波路群2における光導波路の本数が奇数の場合に、入力ポートの1つが、多モード光干渉導波路の入力ポート側の端面の中央に配設され、出力ポートの対向する位置にあり、多モード光干渉導波路の出力ポート側の端面の中
央(出力ポート)に迷光が結像する傾向にあると考えられる。逆に、光位相整合領域20の第2の光導波路群2における光導波路の本数が偶数の場合には、入力ポートの1つが、多モード光干渉導波路の入力ポート側の端面の中央に配設されず、出力ポートの対向する位置になく、多モード光干渉導波路の出力ポート側の端面の中央(出力ポート)に迷光が結像しない傾向にあると考えられる。すなわち、透過率の下げ幅の顕著な違いは、光位相整合領域20の第2の光導波路群2における光導波路の本数を、奇数(3本)から偶数(4本)に増加させた場合と、偶数(4本)から偶数(6本)に増加させた場合との違いにあると考えられる。
【0104】
なお、図12(a)において、実線が図9(c)に示す光フィルタ100の透過特性を示し、破線が図9(b)に示す光フィルタ100の透過特性を示し、一点鎖線が図9(a)に示す光フィルタ100の透過特性を示す。また、図12(a)において、横軸が波長[nm]であり、縦軸が透過率[dB]である。
【0105】
また、図9(a)に示す3×1型多モード光干渉導波路5において、非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドは、図10(a)に示すように、3×1型多モード光干渉導波路5の出力ポート側の端面の略中央(出力ポート)において迷光の光強度が強いことがわかる。
【0106】
これに対し、図9(b)に示す4×1型多モード光干渉導波路5において、非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドは、図10(b)に示すように、4×1型多モード光干渉導波路5の出力ポート側の端面で迷光が分散して射出され、当該端面の略中央(出力ポート)において迷光の光強度が弱くなっていることがわかる。
【0107】
これに対し、図9(c)に示す6×1型多モード光干渉導波路5において、非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドは、図10(c)に示すように、6×1型多モード光干渉導波路5の出力ポート側の端面で迷光がさらに分散して射出され、当該端面の略中央(出力ポート)において迷光の光強度がさらに弱くなっていることがわかる。
【0108】
すなわち、光フィルタ100においては、光位相整合領域20の第2の光導波路群2における光導波路の本数を増加させることにより、非透過波長帯域の迷光が出力ポートから射出されることを抑制して、透過波長帯域の信号光に非透過波長帯域の迷光が混入する現象(クロストーク)を改善することがわかる。
【0109】
つぎに、本実施形態においては、N×M'型多モード光干渉導波路5に迷光除去部7を配設することなく、N×M'型多モード光干渉導波路5の導波路幅Wを変化させることにより、クロストークを改善することができるかについて検討した。
【0110】
検証した光フィルタ100は、図9(b)に示すように、1×4型多モード光干渉導波路4及び4×1型多モード光干渉導波路5を備え、4×1型多モード光干渉導波路5の導波路幅Wを20μm(導波路長260μm)、30μm(導波路長525μm)又は40μm(導波路長925μm)と変化させた。
【0111】
各光フィルタ100は、図12(b)に示すように、N×M'型多モード光干渉導波路5の導波路幅Wを増加させることにより、透過設定波長1270±5nmの透過率に対する非透過設定波長1320±10nmの透過率を低減することがわかる。
【0112】
なお、図12(b)において、実線が導波路幅40μmの4×1型多モード光干渉導波
路5を備える光フィルタ100の透過特性を示し、破線が導波路幅30μmの4×1型多モード光干渉導波路5を備える光フィルタ100の透過特性を示し、一点鎖線が導波路幅20μmの4×1型多モード光干渉導波路5を備える光フィルタ100の透過特性を示す。また、図12(b)において、横軸が波長[nm]であり、縦軸が透過率[dB]である。
【0113】
また、導波路幅20μmの4×1型多モード光干渉導波路5において、非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドは、図11(a)に示すように、4×1型多モード光干渉導波路5の出力ポート側の端面の略中央(出力ポート)において迷光の光強度が強いことがわかる。
【0114】
これに対し、導波路幅30μmの4×1型多モード光干渉導波路5において、非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドは、図11(b)に示すように、4×1型多モード光干渉導波路5の出力ポート側の端面で迷光が分散して射出され、当該端面の略中央(出力ポート)において迷光の光強度が弱くなっていることがわかる。
【0115】
これに対し、導波路幅40μmの4×1型多モード光干渉導波路5において、非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドは、図11(c)に示すように、4×1型多モード光干渉導波路5の出力ポート側の端面で迷光がさらに分散して射出され、当該端面の略中央(出力ポート)において迷光の光強度がさらに弱くなっていることがわかる。
【0116】
すなわち、光フィルタ100においては、N×M'型多モード光干渉導波路5の導波路幅Wを増加させることにより、非透過波長帯域の迷光が出力ポートから射出されることを抑制して、透過波長帯域の信号光に非透過波長帯域の迷光が混入する現象(クロストーク)を改善することがわかる。
【0117】
つぎに、本実施形態においては、N×M'型多モード光干渉導波路5に迷光除去部7を配設し、光位相整合領域20の第2の光導波路群2における光導波路の本数を増加させ、N×M'型多モード光干渉導波路5の導波路幅Wを増加させることにより、クロストークがどの程度改善するかについて検討した。
【0118】
比較例としては、図9(a)に示すように、光位相整合領域20の第2の光導波路群2における光導波路の本数を3本とし、導波路幅Wを20μmとし、迷光除去部7を有しない、3×1型多モード光干渉導波路5を備える光フィルタ(改善前)を用いた。
【0119】
これに対し、本実施形態としては、一の仮想面8における結像点8aのスポット数を少なく出現させて個々の非結像領域8bの平面形状における面積を広くするように、導波路長1750μm及び導波路幅30μmの6×1型多モード光干渉導波路において、透過設定波長λが1.27μmの信号光の光強度をシミュレーションした(図13(a)参照)。
【0120】
そして、本実施形態に係る光フィルタ100(改善後)としては、図13(a)に示す光フィールドに基づき、図13(b)に示すように、6×1型多モード光干渉導波路5aの入力ポート側の端面から350μm近傍及び700μm近傍の距離にある非結像領域8bに対応させて、当該非結像領域8bの領域に収まる平面形状(導波方向に対して傾斜したテーパー面を有する形状)で迷光除去部7を配設した。
【0121】
すなわち、本実施形態に係る光フィルタ100(改善後)は、比較例に係る光フィルタ
(改善前)に対して、N×M'型多モード光干渉導波路5に迷光除去部7を有し、光位相整合領域20の第2の光導波路群2における光導波路の本数を3本から6本に増加し、N×M'型多モード光干渉導波路5の導波路幅Wを20μmから30μmに増加した。
【0122】
本実施形態に係る光フィルタ100(改善後)は、N×M'型多モード光干渉導波路5に迷光除去部7を配設し、光位相整合領域20の第2の光導波路群2における光導波路の本数を3本から6本に増加し、N×M'型多モード光干渉導波路5の導波路幅Wを20μmから30μmに増加することにより、図14(c)に示すように、透過設定波長1270±5nmの透過率に対する非透過設定波長1320±10nmの透過率を、−9.8dB(改善前)から−18.3dB(改善後)まで低減することがわかる。なお、図14(c)において、実線がクロストーク改善後のN×M'型多モード光干渉導波路5を備えた光フィルタ100の透過特性を示し、破線がクロストーク改善前のN×M'型多モード光干渉導波路5を備えた光フィルタの透過特性を示す。また、図14(c)において、横軸が波長[nm]であり、縦軸が透過率[dB]である。
【0123】
また、クロストーク改善前のN×M'型多モード光干渉導波路5において、非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドは、図10(a)に示すように、N×M'型多モード光干渉導波路5の出力ポート側の端面の略中央(出力ポート)において迷光の光強度が強いことがわかる。
【0124】
これに対し、クロストーク改善後のN×M'型多モード光干渉導波路5において、非透過設定波長λが1.35μmの迷光の光強度をシミュレーションした光フィールドは、図14(b)に示すように、N×M'型多モード光干渉導波路5の出力ポート側の端面で迷光が分散して射出され、当該端面の略中央(出力ポート)において迷光の光強度が非常に弱くなっていることがわかる。
【0125】
すなわち、本実施形態に係る光フィルタ100(改善後)は、N×M'型多モード光干渉導波路5に迷光除去部7を配設し、光位相整合領域20の第2の光導波路群2における光導波路の本数を3本から6本に増加し、N×M'型多モード光干渉導波路5の導波路幅Wを20μmから30μmに増加することにより、非透過波長帯域の迷光が出力ポートから射出されることを抑制して、透過波長帯域の信号光に非透過波長帯域の迷光が混入する現象(クロストーク)を大幅に改善することがわかる。
【0126】
最後に、図15及び図16に示すパラメータで光フィルタ100を設計し、N×M'型多モード光干渉導波路5に迷光除去部7を有する場合(実施例)と、N×M'型多モード光干渉導波路5に迷光除去部7を有しない場合とにおいて、透過設定波長1270±5nmの透過率に対する非透過設定波長1320±10nmの透過率を検証した。なお、図16において、n(n=1、2、3、4、5、6)本目の位相整合導波路は、例えば、図14(a)に示す光フィルタの平面図において、上から順にn本目の位相整合導波路のパラメータを示している。
【0127】
実施例としては、一の仮想面8における結像点8aのスポット数を少なく出現させて個々の非結像領域8bの平面形状における面積を広くするように、導波路長3150μm及び導波路幅40μmの6×1型多モード光干渉導波路において、透過設定波長λが1.27μmの信号光の光強度をシミュレーションした(図17(a)参照)。
【0128】
そして、実施例に係る光フィルタ100としては、図17(a)に示す光フィールドに基づき、図17(b)に示すように、6×1型多モード光干渉導波路5aの入力ポート側の端面から600μm近傍及び1250μm近傍の距離にある非結像領域8bに対応させて、当該非結像領域8bの領域に収まる平面形状(導波方向に対して傾斜したテーパー面
を有する形状)で迷光除去部7を配設した。
【0129】
実施例に係る光フィルタ100は、N×M'型多モード光干渉導波路5に迷光除去部7を配設することにより、図17(c)に示すように、透過設定波長1270±5nmの透過率に対する非透過設定波長1320±10nmの透過率を大幅に低減することがわかる。なお、図17(c)において、実線が迷光除去部7を有するN×M'型多モード光干渉導波路5を備えた光フィルタ100の透過特性を示し、破線が迷光除去部7を有しないN×M'型多モード光干渉導波路5を備えた光フィルタの透過特性を示す。また、図17(c)において、横軸が波長[nm]であり、縦軸が透過率である。
【符号の説明】
【0130】
1 第1の光導波路群
1a 入射光導波路
2 第2の光導波路群
2a 第1の位相整合導波路
2b 第2の位相整合導波路
2c 第3の位相整合導波路
2d 第4の位相整合導波路
3 第3の光導波路群
3a 出射光導波路
4 M×N型多モード光干渉導波路
4a 1×4型多モード光干渉導波路
5 N×M'型多モード光干渉導波路
5a 4×1型多モード光干渉導波路
7 迷光除去部
7a 凹部
8 仮想面
8a 結像点
8b 非結像領域
10 基板,基板層
10a 一端面
10b 他端面
10c エッチング底面
11 第1のクラッド層
12 コア層
13 第2のクラッド層
20 光位相整合領域
30 SOI基板
40 SiO2
50 マスク
100 光フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア層を有する多モード光干渉導波路と、
前記多モード光干渉導波路の導波方向に対して垂直な前記コア層における信号光が結像する結像点を含む仮想面のうち当該結像点を除く非結像領域に、前記コア層の屈折率と異なる屈折率の媒質を介在させてなる迷光除去部と、
を備えることを特徴とする光フィルタ。
【請求項2】
前記請求項1に記載の光フィルタにおいて、
前記遮光除去部は、前記コア層の屈折率より小さな屈折率の媒質であることを特徴とする光フィルタ。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の光フィルタにおいて、
前記多モード光干渉導波路が、前記非結像領域に対応して、上面から前記コア層の下層まで達する凹部を有し、
前記迷光除去部が、前記凹部内に介在させる空気であることを特徴とする光フィルタ。
【請求項4】
前記請求項1又は2に記載の光フィルタにおいて、
前記迷光除去部が、光吸収体であることを特徴とする光フィルタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2012−177800(P2012−177800A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40772(P2011−40772)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】