説明

光プリンタヘッド

【課題】 有機ELから出射される光の利用効率を向上させた光プリンタヘッドを提供する。
【解決手段】 光プリンタヘッド101は、有機ELパネル111、ロッドレンズアレイ112及び光学シート113から構成されている。有機ELパネル111は有機EL素子115を並べて配置されたものである。ロッドレンズアレイ112は入射した光を所定の位置に結像するものである。また、有機ELパネル111とロッドレンズアレイ112の間に設置される光学シート113は、ロッドレンズアレイと対向した面に四角錐状のプリズム133を並べて形成したプリズム面132を有している。しかして、有機ELパネル111から出射される光は、光学シート113で偏向されて効率よくロッドレンズアレイ112に入射させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源に有機EL素子を用いた光プリンタヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プリンタには光源にレーザを用いたレーザービームプリンタやLEDを用いたLEDプリンタが実用化されている。
【0003】
レーザービームプリンタは、レーザーダイオードから出射されたレーザービームを画像パターンに応じてON/OFFさせながら感光ドラム(感光体)上をポリゴンミラーなどで走査させる。しかし、このようなレーザービームプリンタでは、レーザービームを感光ドラムの端から端まで光学的に走査させる為には、ポリゴンミラーと感光ドラムとの間に相応の空間が必要である。また、ポリゴンミラーはモータによって回転させるようになっているので、レーザービームの走査系の小型化も困難である。そのため、レーザービームプリンタは、小型化には不向きである。また、さらに大きな感光ドラムにレーザービームを走査させる為には、さらに大きな光学系や空間が必要になる。さらに、感光ドラムの端付近ではレーザービームが大きな角度をもって感光ドラムに入射するので、レーザービームの変形などの問題も生じやすくなる。
【0004】
次に、LEDプリンタは、レーザービームプリンタよりも小型にすることが可能である。しかし、LEDプリンタでは、LEDチップごとの輝度ばらつきが大きいため、LEDチップの選別や駆動回路による輝度調整など、輝度むらの対策が必要であり、コスト高の要因となる。
【0005】
近年、有機薄膜エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)素子を利用したディスプレイデバイスの開発が各研究機関・企業などで活発に行われ、一部のメーカーでは商品化に向けて開発が行なわれている。このような有機EL素子は、ガラス基板やフィルムなどの上に一括して作製することが可能であり、プリンタに適用することで、輝度むらの低減・光学系の小型化・低コスト化の点で有望視されている。
【0006】
一方、有機EL素子は単位面積あたりの発光強度が小さいため、感光ドラムを感光させるだけの出力を得るためには、有機EL素子にディスプレイデバイスとして用いるよりも高い電圧を印加して大きな電流密度の電流を流す必要がある。しかしながら、有機EL素子に印加する電圧を大きくして流れる電流の電流密度を大きくすると、有機EL素子の発光効率が下がり、その寿命も短くなる。そのため、有機EL素子に印加する電圧をむやみに大きくすることはできない。
【0007】
図1に従来の有機ELプリンタの光プリンタヘッド1(特許文献1)の概略断面図を示す。光プリンタヘッド1は、複数の有機EL素子2が配列された有機ELパネル3と、有機EL素子2から出射された光を感光ドラム4に結像させるためのロッドレンズアレイ5で構成されている。ロッドレンズアレイ5は、有機EL素子2と感光ドラム4の間に設置されており、複数のロッドレンズ6を配列させて構成されている。ロッドレンズアレイ5を構成する各ロッドレンズ6は、例えば中心部が屈折率の高いコア部6aとなっており、外周部が屈折率の小さなクラッド部6bとなっており、外表面は黒色被覆6cによって覆われている。
【0008】
しかして、有機EL素子2から出射され比較的小さな取込角θでロッドレンズ6に入射した光は、ロッドレンズ6のコア部6a内に閉じこめられて導波され、図1に実線矢印で示すように感光ドラム4の表面の対応する位置に投射される。
【0009】
しかしながら、有機EL素子2から出射されロッドレンズ6に大きな取込角θで入射した光は、図1に破線矢印で示すように、コア部6aからクラッド部6bに侵入し、黒色被覆6cによって吸収されてしまう。
【0010】
このため、有機EL素子2から放射された光のうちロッドレンズアレイ5に取り込める光には制限がある。例えば、日本板硝子(株)のSLA−9Aでは、取込角θが±9度以下の範囲内でロッドレンズアレイ5に入射した光であればロッドレンズ6に取り込むことができるが、それ以上の取込角θで入射した光は取り込むことができず利用できない。有機EL素子2は前方へ出射される光の指向性が低く、ほぼランバート分布しているので、±9度以下の範囲内に出射される光は、有機EL素子2から出射される光全体の20%程度に過ぎない。このように、従来の光プリンタヘッド1では、有機EL素子2から出射された光を有効に利用できていないという問題があった。
【0011】
また、このような問題を解決するものとして特許文献2に開示された発明が提案されている。詳しくは、ロッドレンズアレイの代わりに有機(無機)EL素子の光が出射する面の表面に各有機EL素子と同程度の大きさで半球形のレンズを形成し、光の出射方向を揃えることが提案されている。しかしながら、この方法では、レンズの中心軸から外れた位置から出射された光は、中心軸と平行な方向と異なる方向に偏向されてレンズから出射されてしまう。したがって、このような光はロッドレンズアレイ内に取り込まれないので有効に利用されず、ロッドレンズアレイを用いない場合には隣の有機EL素子からの光で照射するべき領域に入射してしまい、解像度低下の原因となる可能性があった。
【0012】
【特許文献1】特開昭63−103288号公報
【特許文献2】特開2004−58448号公報
【特許文献3】特開2003−54030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記のような技術的課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、有機EL素子に印加する電圧を大きくすることなく各ロッドレンズに有効に取り込むことのできる光量を増加させることのできる光プリンタヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明にかかるプリンタヘッドは、複数の有機EL素子を並べて形成された有機ELパネルの発光面から出射される光を、円柱形のレンズを複数並べて形成されたロッドレンズアレイを介して感光体に投射する光プリンタヘッドにおいて、錐体状のプリズムをアレイ状に並べたプリズム面を一方の面に有する光学シートを、該プリズム面と反対側の面を前記発光面に対向させて配置し、前記発光面からの出射光を前記光学シートで偏向させて前記ロッドレンズアレイに入射させることを特徴としている。
【0015】
本発明のプリンタヘッドにあっては、光学シートのプリズムにより、有機EL素子から出射された光をロッドレンズの中心軸に平行な方向に集めることができる。したがって、有機EL素子から出射された光のうちロッドレンズに有効な取込角で入射する光量を増加させることができ、感光体に投射される光の強度を高くすることができる。よって、有機ELパネルから出射された光の利用効率を高めることができ、光学シートを設けないプリンタヘッドと同程度の光強度で感光体を露光する場合には、省電力化を図ることができると共に有機EL素子の劣化を抑えることができる(実質的な寿命が長くなる)。
【0016】
本発明のプリンタヘッドのある実施態様は、前記光学シートと前記発光面の間に、空気層もしくは前記光学シートよりも屈折率の低い低屈折率層を設けたことを特徴としている。かかる実施態様にあっては、光学シートと有機ELパネルの発光面の間に光学シートよりも屈折率の低い低屈折率層を設けているので、発光面から出射した光は光学シートのプリズム面と反対側の面でも光学シートと垂直な方向に集められる。つまり、光学シートのプリズム面及びプリズム面と反対側の面の両面で、発光面から出射された光を集めることができ、ロッドレンズの有効な取込角内に入射する光量を増加させることができる。
【0017】
本発明のプリンタヘッドの別な実施態様は、前記光学シートの前記プリズム面と反対側の面に、低反射層を形成したことを特徴としている。かかる実施態様によれば、光学シートと有機ELパネルの間でのフレネル反射による損失を減らすことができるので、有機EL素子から出射される光の利用効率を向上させることができ、感光体に投射される光の強度をより高くすることができる。
【0018】
上記低反射層は、多層薄膜によって形成することができる。多層薄膜によって反射層を形成すれば、無反射コートも可能になるので、高い効率で反射光を減らすことができる。なお、低反射層に多層薄膜を用いる場合はフッ化マグネシウムや二酸化珪素などの多層膜を用いることができる。
【0019】
また、上記低反射層は、前記有機EL素子からの出射光の波長以下の間隔で形成された凹状又は凸状をした微細構造体としてもよい。出射光の波長以下の間隔で凹状又は凸状をした微細構造体は、屈折率が平均化されて空気の屈折率と光学シートの屈折率の中間の屈折率となるので、光学シートのプリズム面と反対面における反射率を小さくすることができる。さらに、このような低反射層では、微細構造物をプリズム面を成形する際に同時に成形することができるので、製造が簡略化される。
【0020】
本発明のプリンタヘッドのさらに別な実施態様は、前記光学シートのプリズム面に垂直な方向から見たとき、前記プリズムのそれぞれが前記有機EL素子のいずれかの領域内に収まっていることを特徴としている。かかる実施態様によれば、プリズムが複数の有機EL素子に跨って配置されていないので、隣接する有機EL素子から出射された光が混じりあって感光体に投射されにくくなる。したがって、ロッドレンズアレイを通して結像される感光体上の潜像の解像度が良好になる。なお、各プリズムの2方向の辺の長さは、有機ELパネルの2方向の辺の長さのそれぞれ整数分の1となるようにすれば、プリズム間に隙間を空けないようにプリズム面にプリズムを配列させることができ、光学シートの効果を高くすることができる。
【0021】
本発明のプリンタヘッドのさらに別な実施態様は、前記プリズムは四角錐形状をしており、かつ該プリズムの頂角が70度以上110度以下の範囲内であることを特徴としている。かかる実施態様は、プリズムの頂角が70度以上110度以下の範囲内に形成されているので、光学シートのプリズム面から出射される光をプリズムで光学シートに垂直な方向に効率良く集めることができる。
【0022】
本発明のプリンタヘッドのさらに別な実施態様は、前記光学シートの前記プリズム面以外の領域に表裏判別用のマーク又は切り欠き部を形成したことを特徴としている。本発明にかかる光学シートに設けられているプリズムは非常に微細であるので、視覚などでは表裏の判別が困難であるが、かかる実施態様によれば、表裏判別用のマーク等を顕微鏡などで観察することにより容易に光学シートの表裏を判別できる。
【0023】
本発明のプリンタヘッドのさらに別な実施態様は、前記光学シートの前記プリズム面以外の領域に、有機ELパネルと位置合わせするためのマークあるいは切り欠き部を形成したことを特徴としている。本発明にかかる光学シートに設けられているプリズムは非常に微細であるので、視覚などでは表裏の判別が困難であるが、かかる実施態様によれば、位置合せ用のマーク等を顕微鏡などで観察することにより容易に各プリズムの位置を有機EL素子に合わせることができる。
【0024】
本発明にかかる光プリンタヘッドは、感光体や、感光体にトナーを供給するトナー供給部と共にプリンタを構成することができる。このプリンタは、印刷機、ファックス、複写機等の各種機器の印刷部として使用することができる。
【0025】
なお、本発明の以上説明した構成要素は、可能な限り任意に組み合わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施例を図面に従って詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものでないことは勿論である。
【実施例1】
【0027】
図2は、光プリンタヘッド101を示す斜視図である。また、図3は光プリンタヘッド101と感光ドラム(感光体)114を示す模式図である。光プリンタヘッド101は、有機ELパネル111と、ロッドレンズアレイ112と、光学シート113で構成されており、光学シート113は有機ELパネル111とロッドレンズアレイ112の間に配置されている。また、有機ELパネル111と光学シート113は距離α1だけ離して設置されており、有機ELパネル111と光学シート113の間は空気層あるいは光学シート113よりも屈折率の低い低屈折率層126となっている。また、光学シート113の有機ELパネル111と対向した面(光入射面130)とロッドレンズアレイ112の光学シート113と対向した面(光入射面141)の間隔は距離α2となるように設置されている。また、ロッドレンズアレイ112の光学シート113と対向する光入射面141と反対側の面(光出射面142)から感光ドラム114の表面までの距離がβとなるように感光ドラム114が設置されている。
【0028】
図4は有機ELパネル111の断面構造を示す。有機ELパネル111の一方の面には複数の有機EL素子115が格子状に配列されている。有機EL素子115は、封止基板121、透明電極122、発光層123、背面電極124で構成され、透明電極122への印加電圧をON/OFFすることによって各有機EL素子115の発光層123を発光させて文字や画像を生成することができるようになっている。つまり、有機ELパネル111は有機EL素子115を複数配列したものであって、各有機EL素子115を制御することによって文字や画像を生成する。また、有機ELパネル111には、図5(a)に示すように有機EL素子115を格子状に配列したものや、図5(b)に示すように有機EL素子115をデルタ配列したものなどがある。
【0029】
また、有機EL素子115の材料としては、例えば封止基板121にはガスバリア性の良好な無アルカリガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)などを用いることができ、透明電極122にはインジウム錫酸化物(ITO)など、発光層にはトリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)など、背面電極にはAlなどを用いることができる。
【0030】
光学シート113は、ガラス(屈折率1.5)、ポリメチルメタクリレート(PMMA、アクリル)(屈折率1.49)、ポリオレフィン系樹脂(屈折率1.53等)、紫外線硬化型樹脂(屈折率1.37等)、ポリカーボネート(PC)(屈折率1.58)、PET(屈折率1.6)、などのポリマーなどによって略矩形平板状に成形されており、有機ELパネル111とロッドレンズアレイ112の間に配置されている。
【0031】
図6は光学シート113の正面図である。光学シート113は、片方の面に平坦な光入射面130が形成されており、他方の面に光出射面131が形成されている。また、図7及び図8に示すように光出射面131には四角錘形をした複数個のプリズム133が配列されたプリズム面132が形成されている。そして、図3に示すように光入射面130が有機ELパネル111の発光面125と対向するようにして配置されて、有機ELパネル111から出射された光を光学シート113で偏向させることによって、光の進行方向を光学シート113に入射した光よりも光学シート113に垂直な方向に集めてロッドレンズアレイ112側へ出射することができる。
【0032】
また、光学シート113のプリズム面132に形成されたプリズム133は微細なため、目視にて光学シート113の表裏、すなわち光入射面130と光出射面131を見分けることは難しい。そのため図6に示すように光学シート113のプリズム面132以外の領域に切欠部135を設け、光学シート113を表向けたときと裏向けたときとで切欠部135の位置が異なることにより、光学シート113の光入射面130と光出射面131を目視で見分けることができるようにしている。
【0033】
プリズム面132に形成したプリズム133は、光学シート113を有機ELパネル111の前面に対向させて正しく配置したとき、各プリズム133が各有機EL素子115と1対1に対応して有機EL素子115の境界がプリズム133の境界と一致するようになっている。各プリズム133の大きさは互いに等しく、かつ、有機EL素子115と同じ大きさ、あるいはそれよりも小さくなっている。ただし、プリズム133の大きさが有機EL素子115の大きさよりも小さい場合には、有機EL素子115の境界がプリズム133の境界に一致するためには、プリズム133の縦横の寸法はそれぞれ有機EL素子115の縦横の寸法の整数分の一になっていなければならない。
【0034】
図9(a)は格子状に配置された各有機EL素子115に対して1個のプリズム133が重なりあうように配置された状態を示しており、図9(b)は格子状に配置された各有機EL素子115に対して複数個のプリズム133が重なりあうように配置された状態を示している。また、図10(a)はデルタ状に配置された各有機EL素子115に対して1個のプリズム133が重なりあうように配置された状態を示しており、図10(b)はデルタ状に配置された各有機EL素子115に対して複数個のプリズム133が重なりあうように配置された状態を示している。特に、図10(b)のようにデルタ配置された有機EL素子115に複数個のプリズム133を対応させる場合には、1個の有機EL素子115に対応して配列される複数個のプリズム133は格子状配置となる。なお、図9(a)(b)、図10(a)(b)において、太線は有機EL素子115の輪郭を表わしている。
【0035】
たとえば、解像度600dpiのプリンタの場合、1dot(有機EL素子115が1個分)の大きさは1辺が約42μmであるから、プリズム133の1辺も42μmとするか、あるいは21μm、14μmなど42μm/整数とする。また、1つのプリズム133が2つ以上の有機EL素子115に跨って対向しないよう、有機ELパネル111と光学シート113を位置合わせする必要がある。また、図7に示すように、プリズム133の向かい合う斜面のなす角度を頂角ωと定義すると、各プリズム133の頂角ωは互いに等しく、後述のようにその頂角ωは約70度〜110度の範囲に設定されており、より好ましくは80度〜110度の範囲に設定されている。特に、プリズム133は、その頂角ωが90度で最も光の利用効率が良くなる。
【0036】
また、有機EL素子115が矩形状である場合、1個又は複数個のプリズム133を隙間無く配列させようとすれば、プリズム133の底面の形状も矩形状でなければならない。従って、用いるプリズム133は図11(a)に示すようなピラミッド状をしたものが望ましいが、円錐状のプリズム133の場合であっても、図11(b)のように一部をカットして底面を矩形状にすれば使用することができる。
【0037】
ロッドレンズアレイ112は、図12に示したように円柱形状をした複数のロッドレンズ140を有機EL素子115やプリズム133の配列に合わせて並べられており、光学シート113のプリズム面133と対向した光入射面141とその反対側に光出射面142を有している。また、光入射面141は各ロッドレンズ140の一方の円形面の集合体、光出射面142は各ロッドレンズ140の他方の円形面の集合体で構成されている。さらに、ロッドレンズアレイ112の光入射面141は、光学シート113の光入射面141から距離α2だけ離れた位置になるように設置されている。
【0038】
ロッドレンズ140は、任意の断面で屈折率が中心から外周方向に向けて次第に小さくなるように傾斜分布したもの(屈折率分布型のロッドレンズ)でもよく、屈折率の比較的大きなコア部の周囲をコア部よりも屈折率の小さなクラッド部で覆ったもの(ステップ型のロッドレンズ)でもよい。ロッドレンズアレイ112は、有機ELパネル111で生成された画像をロッドレンズアレイ112の光出射面142から距離βだけ離れた場所に結像させるレンズとして機能するようになっている。従って、光学シート113からロッドレンズアレイ112までの距離α2と、ロッドレンズアレイ112から感光ドラム114の表面までの距離βはいずれも、ロットレンズ140の焦点距離と等しくするか、あるいはロッドレンズ140の焦点距離と同程度の距離に保っている。
【0039】
また、感光ドラム114は、光が照射(露光)された位置の帯電極性が変化するものである。特に図示しないが、この帯電極性の変化した箇所にトナーなどを吸着して紙などに転写することにより、画像や文字などが紙に印刷される。
【0040】
図13は有機ELパネル111から出射された光が感光ドラム114に到達するまでの挙動を説明する図である。有機ELパネル111に駆動電圧を印加すると、電圧を印加された個所の有機EL素子115が発光する。有機ELパネル111の発光面125から出射した光185は、発光面125に対してほぼ180度の広がりを持つほぼランバート分布の指向特性を有している。有機ELパネル111の発光面125から出射して光学シート113の光入射面130に到達した光185は光学シート113内に入射する。その際、低屈折率層126と光入射面130との間の界面で屈折することにより、光185は光学シート113の光入射面130に垂直な方向に近くなるように光進行方向を偏向される。さらに、この光185は、光学シート113のプリズム面132から出射する際にプリズム133の斜面で屈折させられ、光学シート113の光入射面130に垂直な方向に集まるようにさらに偏向される。従って、光学シート113の光出射面131から出射された光185は、ロッドレンズ140の中心軸に対して小さな取込角θ(ロッドレンズ140への入射角)でロッドレンズアレイ112に入射する。
【0041】
ロッドレンズアレイ112に入射した光185のうち、ある取込角θよりも狭い入射角で入射した光は、ロッドレンズアレイ112を透過し、有機ELパネル111の発光位置と対向する位置で感光ドラム114に入射する。ここで、ロッドレンズアレイ112の光入射面141に入射する光185は、光学シート113によってロッドレンズ140の中心軸に平行な方向に集められているので、光学シート113を設置しない場合よりも多くの光185がロッドレンズアレイ112を透過して感光ドラム114に到達する。よって、有機ELパネル111で生成された文字や画像は、大きな光強度をもって感光ドラム114の表面に結像され、感光ドラム114に潜像を生成させる。よって、感光ドラム114に強い光を投影させるために有機ELパネル111の印加電圧を高くする必要がなくなるので、有機ELパネル111の寿命を長くすることができる。
【0042】
次に、図14(a)〜(c)により、光学シート113の製造方法の一例を説明する。光学シート113は上型150と下型151とを用いて成形される。下型151の表面は光学シート113の光入射面130を成形するための平坦面152となっている。また、上型150は光学シート113のプリズム面132を成形するための複数の凹パターン(あるいは、凸パターン)154が形成されたパターン成形面153となっている。
【0043】
しかして、光学シート113を成形するに当たっては、図14(a)に示すように、上型150と下型151を準備する。次に、図14(b)に示すように、上型150と下型151を対向させ、上型150と下型151の間に熱可塑性樹脂シート158を挟み込んで熱を加える。そうすると、一方の面に上型150に形成された凹パターン154が熱可塑性樹脂シート158に転写され、熱可塑性樹脂シート158の他方の面に下型151に形成された平坦面152が転写される。この後、上型150と下型151とを開くと、図14(c)に示すように、熱可塑性樹脂シート158によって光学シート113が形成される。そして、光学シート113の一方の面にプリズム面を有する光出射面131が形成され、他方の面に平坦な光入射面130が形成される。
【0044】
ここで上型150及び下型151の作製方法としては、例えば上型150及び下型151は無酸素銅などの材料を加工して形成される。詳しくは、下型151は矩形平板状の材料の光入射面と対応する面を研磨などにより平坦な面としたものである。上型150は、図15(a)に示すように、先端がダイヤモンドでできたバイト156を用い、無酸素銅製で矩形平板状をした母材157の一方の面に沿ってバイト156をX方向に移動させて溝154aを切削すると共に順次バイト156をY方向に一定ピッチ毎に走査させて切削加工を繰り返す。次に、図15(b)に示すように、母材157の一方の面に沿ってバイト156をY方向に移動させて溝154bを切削すると共に順次バイト156をX方向に一定ピッチ毎に走査させて切削加工を繰り返す。この結果、X方向の溝とY方向の溝によって母材157の一方の面に、光学シート113のプリズム133に対応する多数のピラミッド状をした凹パターン154が形成され、上型150ができあがる。
【0045】
この方法によれば、バイト156の刃先角を変化させることにより、光学シート113に形成されるプリズム133の頂角ωを任意の形状に形成できる。また、バイト156の刃先角に合わせた凹パターン154の切削深さ及びピッチで切削することにより、プリズム133を隙間無く形成することができる。
【0046】
また、例えば下型151の材料を無酸素銅ではなく、紫外線が透過するガラスなどを用いれば、熱可塑性樹脂158の代わりに紫外線硬化樹脂を用いることができる。そして、上型150と下型151の間に紫外線硬化樹脂を挟んで下型151側から紫外線を照射することにより、上型150の凹パターン154及び下型151の平坦面152が転写された光学シート113を作製することができる。さらに、この場合には、紫外線の照射により紫外線硬化樹脂が硬化するので、熱を加える必要が無く熱膨張などの影響による変形を小さく抑えることができる。また、上型150の材料としても切削加工が可能な材料であれば特に無酸素銅である必要はなく、樹脂、ガラス、シリコン、その他の金属などを用いても良い。
【0047】
次に、実施例1に示した光学シート113をロッドレンズアレイ112と組み合わせた光プリンタヘッドのシミュレーションによる特性評価結果を説明する。まず始めに、光プリンタヘッドをシミュレーションで評価する際の信頼性を検証するため、光学シート113から出射された光の出射角度依存性を実測とシミュレーションの結果で比較した。実測及びシミュレーションには、底面が1辺20μmの正方形で頂角ωが70度の四角錐状をしたプリズム133を縦横に格子状に配列させた屈折率が1.58の光学シート113を用いた。この光学シート113を空気層を介して有機ELパネル111の正面に設置し、有機ELパネル111から出た光線が光学シート113を通過した後の出射角度依存性を調べた。
【0048】
図16は実測とシミュレーションによる出射角度依存性を比較して示す図である。図16において横軸は光学シートから出射される光の出射方向、即ち取込角θを表わし、縦軸は各方向における光の強度(任意単位)を表わしている。また、図16に示す実線による曲線L1は実測値を表わし、破線による曲線L2はシミュレーションによる計算結果を示す。図16から分かるようにシミュレーションによる計算結果は、実測値を反映したものとなっているので、以後はシミュレーションにより評価した結果を示す。
【0049】
まず、光学シート113の光出射面131から出射された光の出射角度依存性を評価した。この結果を図17に曲線L3で示す。この評価には、上記光学シートと同じモデルを用いた。すなわち、底面が1辺20μmの正方形で、頂角ωが70度、屈折率1.58の四角錐状をしたプリズム133を縦横に格子状に配列させた光学シート113を用いた。この光学シート113を空気層を介して有機ELパネル111の正面に設置し、有機ELパネル111から出た光線が光学シート113を通過した後で、ロッドレンズアレイ112に入射する際の取込角θを調べた。
【0050】
図17の横軸はロッドレンズアレイ112へ入射する光の取込角θを示し、縦軸は取込角θにおける効率ηを表わしている。ここで、取込角θにおける効率ηとは、光学シート113を設けた場合の取込角θにおける光強度を、光学シート113を設けない場合の取込角θにおける光強度で割った値を表わしている。
【0051】
図17から分かるように、実施例1にかかる光学シート113を有機ELパネル111の前に配置すると、ロッドレンズアレイ112への取込角θが50度以下の領域で効率ηが上昇し、取込角θが50度以上では逆に効率ηが低下することが分かる。特に取込角θが9度付近(これは、ロッドレンズアレイ112における有効な取込角θのほぼ最大値に当たる。)においては、効率ηがほぼ1.6〜1.8倍程度まで大きく上昇することが分かる。
【0052】
図18は、プリズム133の頂角ωをパラメータとして変化させたときの、取込角θにおける効率ηを表わしている。図18に示した曲線L4、L5、L6、L7、L8は、それぞれプリズム133の頂角ωが70度、80度、90度、100度、110度の場合の効率ηを表わしている。図18によれば、頂角ωが70度〜110度のプリズム133においては、取込角θが少なくとも0度から50度で効率ηが1よりも大きくなっており、ロッドレンズアレイ112に取り込むことのできる光量が増加していることが分かる。特に、頂角ωがほぼ90度のプリズム133を有する光学シート113を用いたときに最も良好な結果が得られることが分かる。
【0053】
また、図18に示す曲線L9は、光学シート113を表裏逆向きに配置した場合、つまりプリズム面132を有機ELパネル111と対向させた場合のシミュレーション結果を表わしている。なお、曲線L9のシミュレーションに用いたプリズム133の頂角ωは90度である。図18からわかるように、光学シート113のプリズム面132を有機ELパネル111側に向けて表裏逆向きに配置した場合には、光学シート113を配置しない場合よりも効率ηが悪くなってしまった。
【0054】
図19は光学シート113の効率ηとプリズム133の頂角ωとの関係を表わす図である。ここでは、底面が1辺20μmの正方形で屈折率1.58の四角錐状をしたプリズム133を縦横に格子状に配列させた光学シート113を用いた。そして、プリズム133の頂角ωを70度〜110度まで変化させ、取込角θ=10度における効率ηを求めたところ、図19の曲線L10が得られた。この曲線L10からも、取込角θが10度(9度付近)においては、頂角ωがほぼ90度で最も効率ηが良くなることが分かる。
【0055】
次に、プリズム133の屈折率を変化させて光学シート113を用いた場合の効率ηの変化を調べた結果を図20に示す。ここでは、底面が1辺20μmの正方形で、頂角ωが70度の四角錐状をしたプリズム133を縦横に格子状に配列させた光学シート113を用いた。そして、プリズム133の屈折率を1.33、1.49、1.58と異ならせた光学シート113を用いて効率ηを調べた。
【0056】
図20に示す曲線L11、L12、L13は、それぞれ屈折率が1.37、1.49、1.58の光学シート113を用いた場合の効率ηを表わす。図20からわかるように、プリズム133の頂角ωが同じ場合には、プリズム133の屈折率が高いほど高い効率ηが得られることがわかる。したがって、光学シート113の材料としては、前述した様々な材料を用いることができるが、屈折率の高いPC、PETなどの樹脂を用いればより高い効果を見込める。
【0057】
次に、光学シート113を透過する光185の光線図を図21及び図22に示す。図21及び図22は、実施例1にかかる光学シート113に設けられているプリズム133の一つをプリズム170で模式的に表わした図であって、光学シート113の光出射面131に形成されたプリズム133をプリズム170の両斜辺172で表わし、光学シート113の光入射面130をプリズム170の底辺171で表わしている。図21は、プリズム170の底辺171(図21及び図22では光学シート113の光入射面130に相当する)の垂直二等分線173上に配置した点光源180から出射された光の挙動を計算した結果を示す図である。また、図22は垂直二等分線173上からずれた位置に配置した点光源181から出射された光の挙動を計算した結果を示す図である。また、図23及び図24は、実施例1で使用した四角錐形状のプリズム170の代わりに半球形状のレンズ174を使用した場合の光185の挙動を2次元平面で計算した比較例を示す。なお、図23は、レンズ174の断面において底辺175の垂直二等分線176上に配置した点光源182から出射された光の挙動を計算した結果を示す図であり、図24は垂直二等分線176上からずれた位置に配置した点光源183から出射された光の挙動を計算した結果を示す図である。
【0058】
図21から分かるように、四角錐形状をしたプリズム170の底辺171の垂直二等分線173上にある点光源180から出射された光は、プリズム170を通過することによって、底辺171の垂直二等分線173と平行な方向に偏向される。同様に、図23から分かるように、半球形状をしたレンズ174の底辺175の垂直二等分線176上にある点光源182から出射された光は、レンズ174を通過することによって、底辺175の垂直二等分線176と平行な方向に偏向される。
【0059】
一方、図22に示すような四角錐形状のプリズム170の場合には、点光源181がプリズム170の垂直二等分線173上からずれていても、プリズム170の斜辺172から出射された光はある程度垂直二等分線173と平行な方向に出射される。これに対し、図24に示すような半球形状のレンズ174の場合ニは、点光源183がレンズ174の垂直二等分線176からずれていると、レンズ174から出射される光はほとんど垂直二等分線176と平行な方向に出射されていないことが分かる。
【0060】
したがって、半球形状のレンズ174を用いるよりも、四角錐形状のプリズム170を用いた方が光の利用効率が良くなることがわかる。
【0061】
しかして、実施例1にかかる光プリンタヘッド101にあっては、有機EL素子115から出射された光を光学シート113で偏向させて取込角の狭い範囲内に集め、効率よくロッドレンズアレイ112内に取り込むことができるので、光の利用効率にすぐれる。また、印加電圧を変えずにロッドレンズアレイ112に垂直な方向の輝度を向上させることができる。さらに、従来の光プリンタヘッドと同程度の輝度で充分な場合には、印加電圧を下げることができるので省電力化及び有機ELの長寿命化を図れる。
【0062】
また、光学シート113から不要な方向に出射された光はロッドレンズアレイ112を透過しないので、不要な方向に出射された光が隣接する有機EL素子115によって照射されるべき感光ドラム114の領域に入射して露光してしまい、解像度が低下することがない。
【0063】
なお、有機ELパネル111と光学シート113の間の距離α1は、大きくなりすぎると光学シート113より手前での光線の干渉が発生するので、空気の層を挟みつつ可能な限り接近させることが好ましい。また、空気の層を挟むことによって空気の層と光学シート113の光入射面130との間で屈折率が異なるので、光学シート113の光入射面130で光を偏向させることができる(図13参照)。
【実施例2】
【0064】
実施例2は、光学シート113の作製時に用いる上型及び下型の製造方法が実施例1に示した上型150の製造方法と異なるものである。図25(a)〜(b)に従って上型190の作製方法を説明する。実施例2にかかる上型190は、実施例1で作製した上型150を用いて、フォトリソグラフィーなどの技術を用いて複製の型を作製したものである。
【0065】
まず、実施例1の上型150と同様(図15(a)、(b)参照)にして先端がダイヤモンド製のバイト156を用いて凹パターン192を形成し、上型190の型原版191を作製する(図25(a))。ただし、楔形の凹パターン192は、実施例1に示した上型150と1/2ピッチずらして形成する。次に、図25(b)に示すように型原版191に形成した凹パターン192上にニッケルなどを電気鋳造法により形成し、型原版191を剥離すれば実施例1の上型150と同じ凹パターン154を有する上型190が得られる(図25(c))。
【0066】
このようにして作製した上型190は、硬いニッケルなどの材料でできているので実施例1に示した無酸素銅製の上型150よりも光学シート113の製造時に消耗しにくい。したがって、大量生産時のコストを低減することができる。また、型原版191を使用して光学シート113を製造しないので、上型190が消耗した場合においても保存しておいた型原版191から再び電気鋳造法により上型190を容易に複製することができる。
【0067】
なお、本実施例2では上型190について記述したが、下型の製造方法については、上型190と同じ材料の矩形平板状のものを準備し、実施例1と同様に研磨により製造してもよいし、実施例2示した上型190の製造方法と同様に電気鋳造法により製造してもよい。
【実施例3】
【0068】
本実施例3は、実施例1と光学シート113の作製時に用いる上型の製造方法が異なるものである。図26(a)〜(e)を用いて実施例3にかかる上型193の作製方法を説明する。実施例3にかかる上型193は、実施例1で作製した上型150を用いてドライエッチング用のマスクを作製し、母材194をドライエッチングすることにより作製したものである。
【0069】
まず、実施例1の上型150と同様(図15(a)、(b)参照)に先端がダイヤモンド製のバイト156を用いて凹パターン195を形成し、上型193の型原版196を作製する(図26(a))。ただし、楔形の凹パターン195は、実施例1に示した上型150と1/2ピッチずらして形成する。同時に図26(b)に示すようにガラスなどのドライエッチングが可能な母材194上に紫外線硬化樹脂197を塗布したものを用意する。なお、母材194と硬化後の紫外線硬化樹脂197(エッチングマスク198)はドライエッチングのエッチング速度が等しくできる材料を選択する。図26(c)に示すように型原版196の凹パターン195を紫外線硬化樹脂197に押し当てて紫外線を照射することにより紫外線硬化樹脂197を硬化させる。紫外線硬化樹脂197が充分に硬化したら型原版196を剥離すれば、図26(d)に示すように母材194上にピラミッド形をした凸パターン199を有するエッチングマスク198が形成されたものを得る。次に、母材194のエッチングマスク198を形成した面側からドライエッチングによりエッチングマスク198がすべて除去されるまでエッチングを行う(図26(e))。母材194とエッチングマスク198のエッチング速度は等しくしているので、図26(f)に示すように母材194にエッチングマスク198のピラミッド形をした凸パターン199が転写されたピラミッド形の凹パターン200を有する上型193を得る。
【0070】
なお、エッチングマスク198の材料にはドライエッチングが可能な熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などを用いてもよい。この場合、母材194には不透明な材料でもドライエッチングが可能な素材であれば用いることができる。
【0071】
このようにして作製した上型193は、型原版194を複製して作製しているので、1枚1枚の上型193をバイトなどの切削加工により作製したものと比べて、各上型193のばらつきを小さくすることができる。したがって、大量生産などで同じ凹パターン199を有する上型193を多量に使用する場合は、ロット毎のばらつきや製造ライン毎のばらつきを低減することができる。
【実施例4】
【0072】
本実施例4は、実施例1に示した光学シート133を形成するための上型150の形成方法が異なるものである。実施例4にかかる上型201の作製方法は、シリコン結晶の異方性エッチングにより上型201を作製したものである。図27(a)〜図27(g)を用いて上型201の作製方法を説明する。
【0073】
まず、図27(a)及び図27(b)に示すようにシリコン基板202上にフォトリソグラフィなどにより、適切な凹パターンが形成されるようにレジストパターン203を形成する。次に図27(c)に示すようにシリコン基板202の異方性エッチングを行い、凹パターン204を形成する。レジストパターン203を除去すればシリコンでできた上型201を得ることができる(図27(d)参照)。
【0074】
また、下型の製造方法については、シリコンを実施例1と同様に研磨することにより製造してもよいし、下型にもパターンを形成する場合等には実施例4に示した上型201の製造方法と同様にシリコンの異方性エッチングにより製造すればよい。
【0075】
しかし、シリコンの異方性エッチングのプロセス上、レジストパターン203が形成されている箇所はシリコンをエッチングしきれない。そのため、上型201を用いて形成した光学シート206は、図28(a)及び(b)に示すように隣接するプリズム207の間に一定の間隔δを有する隙間部208が形成されてしまう。例えば、底辺が20μm四方の四角錐形状をしたプリズム207に対して、間隔δが1.2μmの隙間部208が形成されると全体に対して6%程度が隙間部208となる。さらに、四角錐のプリズム207のサイズを小さくすればするほど、この隙間部208の面積の割合は大きくなってしまい、プリズム面209全体に占めるプリズム207の割合が減ることになり、有機ELパネル111から出射された光185を屈折させる効果が小さくなってしまう。また、この隙間部208の面積を小さくすることもできるが、制御が難しく歩留まりを落とす原因となる。故に高い解像度が必要な光学シート113の作製には向かない。また、シリコンの異方性エッチングをもちいて上型201を作製する場合には、四角錐の形状がシリコンの結晶方位で決定されてしまうため頂角ωが70.5度の上型201は作製できるが、それ以外の任意の頂角ωに作製できず効率ηの最適化が行えない等の制限がある。しかしながら、比較的精度を要求されない光学シート113を作製する場合には有効である。
【実施例5】
【0076】
実施例5にかかる光学シート220は、実施例1にかかる光学シート113の裏表の判別手段がことなるものである。図29に実施例5にかかる光学シート220の平面図を示す。光学シート220は、光学シート113と同様に一方の面に光入射面(図示せず)が形成され、他方の面に光出射面225が形成されている。また光出射面225には複数のプリズム227が形成されたプリズム面226が形成されている。一方、光学シート220の外周に切欠部135は形成されておらず、代わりに光学シート220の光出射面225のプリズム面226が形成されていない領域に位置合わせマーク228が設けられている。また、位置合わせマーク228を複数設けた場合は、点対称あるいは線対称とならないように配置されている。
【0077】
この位置合わせマーク228は、プリズム227と同様に型に位置合わせマーク228に対応するパターンを形成しておき、プリズム227の形成工程と同時に形成されるようにすれば、製造工程を減らすことができる。さらに、位置合わせマーク228の断面形状をプリズム227の断面と同様な四角錐形状及び半球形をした凸状或いは凹状にしておけば、光の屈折により透過光の輝度の違いにより目視で光学シート220の表裏を確認できる。また、この位置合わせマーク228を光学シート220と有機ELパネル111とのアライメント時の基準として用いることができる。
【0078】
変形例としては、図30(a)に示した光学シート221のように光出射面225のプリズム面226の領域以外の外周部にスルーホール229を設けてもよい。また、図30(b)に示した光学シート222のように切欠部(ノッチ)230を設けてもよい。
【実施例6】
【0079】
実施例1にかかる光学シート113は、光入射面130が平坦な面に形成されているので、有機ELパネル111の発光面125から出射された光が光学シート113の光入射面130でフレネル反射などによって反射されてしまい光学シート113内に入射しないので、その分だけ光の損失が生じる。そのため、光の利用効率が悪くなる可能性がある。実施例6にかかる光学シート240は、光学シート240の光入射面241での反射を防止し、光の利用効率をさらに上げることを可能にしたものである。図31は、実施例6にかかる光学シート240の断面図である。
【0080】
実施例6にかかる光学シート240は、実施例1に示した光学シート113の光入射面130に微細な凸状又は凹状の反射防止パターン242を設けたものである。この凸状又は凹状の反射防止パターン242は、有機EL素子115から出射される光の波長よりも短い間隔で配列されている。光の波長よりも短い間隔で微細な凸状又は凹状の反射防止パターン242を形成していると、その層では屈折率が1の領域(凹部内の空気)と屈折率が光学シート240の屈折率と等しい領域(光学シート240の凸部)が混在しているので、反射防止パターン242の設けられている層は屈折率が光学シート240の屈折率と空気の屈折率との中間の屈折率とみなすことができる。よって、光学シート240の光入射面130に低屈折率層を設けたのと同様の働きをし、入射光が光学シート240の光入射面130で反射されにくくなる。また、このような反射防止パターン242は、光学シート240にプリズム133のプリズム面132を形成する際、同時に成形することができるので、光学シート240の製作が容易になる。
【0081】
また、変形例としては図32に示す光学シート245のように光学シート113の光入射面130にフッ化マグネシウムや二酸化珪素などの多層膜を蒸着やスパッタなどにより形成した低反射層246を設けることによっても光学シート240と同様の効果を得ることができる。このような多層膜では、無反射コートとすることもできるので、高い反射防止効果を得ることも可能になる。
【0082】
なお、図示しないが、光学シートの裏面にいわゆるエアロゲルの層を付着させたり、光学シートと有機ELパネルの間にエアロゲルを充填させてもよい。エアロゲルは、マトリックス中に微少な気泡が分散した透明性多孔質体である。エアロゲルについては、たとえば特開2005−37927号公報、特開2004−195677号公報、特開2003−119052号公報、作花済夫著「ゾル−ゲル法の応用」(アグネ承風社、1997年、pp.42〜47)に記載がある。
【実施例7】
【0083】
実施例7のプリンタ250は、上記に記載した光プリンタヘッドを組み込んだものである。図33にプリンタ250の構成図を示す。図33を用いてプリンタ250の動作を説明する。印刷される紙251は、矢印Aの方向へ流れ、感光ドラム252は矢印Bの方向へ回転する。最初感光ドラム252の表面はプラスに帯電した部分とマイナスに帯電した部分が混在しているが、帯電ローラー253と接触することによって表面全体が電気的にマイナスに帯電する。
【0084】
次に光プリンタヘッド254により印刷したい文字あるいは画像が感光ドラム252上に潜像として書き込まれる。つまり、印刷したい文字あるいは画像のデータに対応して有機EL素子を発光させ感光ドラム252の光が照射された部分はプラスに帯電し、他の部分はマイナスに帯電したままである。
【0085】
次に現像機255で感光ドラム252の表面にトナー256が付着されるが、トナー256はマイナスに帯電されており感光ドラム252のプラスに帯電した箇所のみに付着する。
【0086】
転写機257は感光ドラム252の表面よりも強くプラスに帯電させられており、マイナスに帯電しているトナー256は転写機257の方へ移ろうとして紙251に付着する。トナー256が付着した紙251が矢印A方向に送られて、定着機258で熱と圧力が加えられることにより、トナー256が紙251に定着し印刷される。感光ドラム252はクリーナー259で残ったトナー256が落とされ、再び帯電ローラー253と接触して帯電させられる。このサイクルを繰り返すことによって紙251へ文字や画像が印刷される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】従来の有機ELプリンタの光学系を示した断面図である。
【図2】実施例1にかかる光プリンタヘッドの斜視図である。
【図3】実施例1にかかるプリンタの光学系の断面図である。
【図4】同上のプリンタの光学系に用いられている有機ELパネルの一部を拡大した断面図である。
【図5】(a)、(b)は同上の有機ELパネルに形成されている有機EL素子の配置を示した図である。
【図6】実施例1にかかる光プリンタヘッドで用いられている光学シートの上面図である。
【図7】同上の光学シートの断面図である。
【図8】図6の光学シートの斜視図である。
【図9】(a)、(b)はいずれも格子状に配置された有機EL素子に対して配置されたプリズムを示す正面図である。
【図10】(a)、(b)はいずれもデルタ状に配置された有機EL素子に対して配置されたプリズムを示す正面図である。
【図11】(a)はピラミッド状をしたプリズムの斜視図、(b)は一部切欠された円柱状のプリズムを示す斜視図である。
【図12】実施例1にかかる光プリンタヘッドで用いられているロッドレンズアレイの斜視図である。
【図13】図3のプリンタの光学系における光の挙動を説明するための断面図である。
【図14】(a)〜(c)は、実施例1のプリンタの光学系に用いられる光学シートの製造工程を説明するための図である。
【図15】(a)、(b)は、同上の光学シートを製造するために使用する型の製造工程を説明するための図である。
【図16】有機ELパネルから出射された光の出射角度依存性を実測とシミュレーションの結果で比較した図である。
【図17】光学シートの光出射面から出射された光の出射角度依存性を評価した計算結果を示した図である。
【図18】光学シートに形成したプリズムの頂角ωを変えた時のロッドレンズアレイへの取込角θと効率ηの関係を示した図である。
【図19】ロッドレンズアレイへの取込角θが10度における、プリズムの頂角ωを変えた時のと効率ηの関係を示した図である。
【図20】光学シートの材料の屈折率を変えた時のロッドレンズアレイへの取込角θと効率ηの関係を示した図である。
【図21】四角錐形状のプリズムにおける、四角錐の底面の中心を通る垂線上から出射する光のでの挙動を計算した結果を示す図である。
【図22】四角錐形状のプリズムにおける、四角錐の底面の中心を通る垂線上から外れた位置から出射する光のでの挙動を計算した結果を示す図である。
【図23】半球形レンズにおける、半球形レンズの底面の中心を通る垂線上から出射する光の挙動を計算した結果を示す図である。
【図24】半球形レンズにおける、半球形レンズ底面の中心を通る垂線上から外れた位置から出射する光の挙動を計算した結果を示す図である。
【図25】(a)〜(c)は、実施例2にかかる光学シート製造用の型の製造方法を説明する図である。
【図26】(a)〜(e)は、実施例3にかかる光学シート製造用の型の製造方法を説明する図である。
【図27】(a)〜(d)は、実施例4にかかる光学シート製造用の型の製造方法を説明する図である。
【図28】(a)は同上の型を用いて製造した光学シートの断面図である。(b)は同上の型を用いて製造した光学シートの上面図である。
【図29】実施例5にかかる光学シートの上面図である。
【図30】(a)、(b)は、実施例5にかかる光学シートの変形例を示す上面図である。
【図31】実施例6にかかる光学シートの断面図である。
【図32】実施例6にかかる光学シートの変形例を示す断面図である。
【図33】実施例7にかかるプリンタの構成を説明する概略断面図である・
【符号の説明】
【0088】
101 光プリンタヘッド
102 光学系
112 ロッドレンズアレイ
113 光学シート
114 感光ドラム
125 発光面
130 光入射面
131 光出射面
132 プリズム面
133 プリズム
135 切欠部
140 ロットレンズ
141 光入射面
142 光出射面
250 プリンタ
251 紙
252 感光ドラム
253 帯電ローラー
254 光プリンタヘッド
255 現像機
256 トナー
257 転写機
258 定着機
259 クリーナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の有機EL素子を並べて形成された有機ELパネルの発光面から出射される光を、円柱形のレンズを複数並べて形成されたロッドレンズアレイを介して感光体に投射する光プリンタヘッドにおいて、
錐体状のプリズムをアレイ状に並べたプリズム面を一方の面に有する光学シートを、該プリズム面と反対側の面を前記発光面に対向させて配置し、
前記発光面からの出射光を前記光学シートで偏向させて前記ロッドレンズアレイに入射させることを特徴とする光プリンタヘッド。
【請求項2】
前記光学シートと前記発光面の間に、空気層もしくは前記光学シートよりも屈折率の低い低屈折率層を設けたことを特徴とする、請求項1に記載の光プリンタヘッド。
【請求項3】
前記光学シートの前記プリズム面と反対側の面に、低反射層を形成したことを特徴とする、請求項1に記載の光プリンタヘッド。
【請求項4】
前記低反射層は、多層薄膜であることを特徴とする、請求項3に記載の光プリンタヘッド。
【請求項5】
前記低反射層は、前記有機EL素子からの出射光の波長以下の間隔で形成された凹状又は凸状をした微細構造体であることを特徴とする、請求項3に記載の光プリンタヘッド。
【請求項6】
前記光学シートのプリズム面に垂直な方向から見たとき、前記プリズムのそれぞれが前記有機EL素子のいずれかの領域内に収まっていることを特徴とする、請求項1に記載の光プリンタヘッド。
【請求項7】
前記プリズムは四角錐形状をしており、かつ該プリズムの頂角が70度以上110度以下の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の光プリンタヘッド。
【請求項8】
前記光学シートの前記プリズム面以外の領域に表裏判別用のマーク又は切り欠き部を形成したことを特徴とする、請求項1に記載の光プリンタヘッド。
【請求項9】
前記光学シートの前記プリズム面以外の領域に、有機ELパネルと位置合わせするためのマークあるいは切り欠き部を形成したことを特徴とする、請求項1に記載の光プリンタヘッド。
【請求項10】
請求項1に記載した光プリンタヘッドと、感光体と、感光体にトナーを供給するトナー供給部とを備えたプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2006−297814(P2006−297814A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−124915(P2005−124915)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】