光ヘッド装置
【課題】高いS偏光反射率かつ高いP偏光透過率の偏光分離特性を有する平板の偏光ビームスプリッタを搭載した光利用効率の高い光ヘッド装置を提供する。
【解決手段】光ヘッド装置の偏光ビームスプリッタは、透光性基板の表面に屈折率の異なる少なくとも2種以上の膜材料からなる多層膜が成膜され、斜入射光線の入射角に伴う反射帯の立ち上がり・立ち下がりの偏光透過特性の違いを利用し、互いに直交する偏光成分を透過・反射させるとともに、互いに長、短波長を中心波長とする2つの反射帯多層膜層をその分離面に設け、短波長反射帯の長波長側立ち上がりと長波長反射帯の短波長側立ち下がりを近接させ、それぞれの反射、透過偏光特性を乗ずることにより偏光分離有効波長域を拡げる。
【解決手段】光ヘッド装置の偏光ビームスプリッタは、透光性基板の表面に屈折率の異なる少なくとも2種以上の膜材料からなる多層膜が成膜され、斜入射光線の入射角に伴う反射帯の立ち上がり・立ち下がりの偏光透過特性の違いを利用し、互いに直交する偏光成分を透過・反射させるとともに、互いに長、短波長を中心波長とする2つの反射帯多層膜層をその分離面に設け、短波長反射帯の長波長側立ち上がりと長波長反射帯の短波長側立ち下がりを近接させ、それぞれの反射、透過偏光特性を乗ずることにより偏光分離有効波長域を拡げる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
光記録媒体としてDVDやCDなどの光ディスクが普及し、高密度情報記録光ディスクBD(Blu−ray Disc)が製品化され、光ディスクへの情報記録および記録情報の再生(以下、「記録再生」とよぶ)に光ヘッド装置が用いられる。
従来の光ヘッド装置300の構成例の模式図を図11に示す。レーザ光源1と、偏光ビームスプリッタプリズム2aと、コリメートレンズ3および対物レンズ5と、光検出器6とを備え、レーザ光源1からの出射光が偏光ビームスプリッタプリズム2aを透過し、コリメートレンズ3により平行光となり、対物レンズ5により光ディスク7の情報記録面に集光され、情報記録面で反射された信号光が対物レンズ5を再度透過して平行光となり、コリメートレンズ3により、偏光ビームスプリッタプリズム2aで反射された信号光が光検出器6の受光面に集光される。
【0002】
ここで、レーザ光源1からの出射光を効率よく情報記録面に集光するとともに、情報記録面で反射された信号光を効率よく光検出器に分波するために、2個の直角2等辺三角柱ガラスの一方の斜面に多層膜を成膜し接合された六面体ガラスブロック形態の偏光ビームスプリッタプリズム2aが1/4波長板4とともに用いられる。レーザ光源から出射された直線偏光はP偏光(第1の直線偏光)として偏光ビームスプリッタプリズム2aに入射して透過され、情報記録面に集光および反射されて1/4波長板4を往復透過することでS偏光(第2の直線偏光)となって偏光ビームスプリッタプリズム2aに入射して反射される。
【0003】
ここで用いられる偏光ビームスプリッタプリズム2aでは、空気の屈折率(ng=1)に比べてプリズムである直角2等辺三角柱ガラスの屈折率(ng>1)が大きなため、空気と接する多層膜(ここで、多層膜材料の屈折率をnとする)に斜入射する平板ビームスプリッタに比べ、Snell屈折則により入射角θ0に対する多層膜中の屈折角θ=arcsin{(ng/n)sinθ0}の低下が少ない。後述するように、多層膜中の屈折角が大きなほどP偏光を透過しS偏光を反射する偏光分離波長領域が広くなるため、偏光ビームスプリッタとして機能する広い波長帯域を確保できる。その結果、例えばBD光ディスクの記録再生に用いられる青色半導体レーザ光源の使用波長帯域である398〜415nmにおいて、発散入射光に対しても高いS偏光反射率かつ高いP偏光透過率を示す偏光分離特性が得られ、レーザ光源から光ディスクへと進行する往路および光ディスクから光検出器へと進行する復路において高い光利用効率を実現できる。
【0004】
また、従来の光ヘッド装置の他の構成例の模式図を図12に示す。光ヘッド装置400は、図11に示す偏光ビームスプリッタプリズム2aの代わりに、平行平板の透光性基板の片面に多層膜が成膜された平板ビームスプリッタ2bを用いている(例えば、特許文献1および2参照)。
【特許文献1】特開2007−280460号公報
【特許文献2】特開2002−4915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、図11に示す光ヘッド装置300においては、2個の直角2等辺三角柱ガラスを精度よく加工した後、多層膜の成膜および六面体ガラスブロック形態に接着する必要があり、図12に示す平板ビームスプリッタに比べて加工が複雑化するとともにコストアップとなるといった問題があった。また、有機接着材を用いるため、高温および高湿度環境における長時間特性安定性や青色レーザ光照射に伴う耐光性などの信頼性に課題があった。
【0006】
また、図12に示す光ヘッド装置400においては、平板ビームスプリッタ2bにおいて、空気と多層膜材料との屈折率差が大きいため、偏光ビームスプリッタプリズム2aに比べてSnell屈折則による多層膜中の屈折角が小さな値となる。その結果、斜入射におけるP偏光とS偏光の実効屈折率の差が低下し、例えば、青色半導体レーザ光源の使用波長帯域である398〜415nmにおいて、発散入射光に対し高い偏光分離特性の実現が困難であった。その結果、往路および復路の光利用効率が低下し、高出力の青色半導体レーザ光源が必要となるとともに、光検出器のSN比(信号とノイズの比)低下を招くといった問題があった。また、入射角中心値を70°以上の大きな値とすることにより平板ビームスプリッタ2bの多層膜中の屈折角を大きな値に設定し偏光分離特性を向上することができるが、大面積の平板ビームスプリッタ2bが必要となり光ヘッド装置の大形化を招くといった問題があった。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑み、高い偏光分離特性を有する平板の偏光ビームスプリッタを搭載した光利用効率の高い光ヘッド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、レーザ光源と、前記レーザ光源から出射された第1の直線偏光を円偏光に変換するとともに、光記録媒体から反射された円偏光を第1の直線偏光と直交する第2の直線偏光に変換する1/4波長板と、前記1/4波長板を透過した円偏光を光記録媒体に集光する対物レンズと、前記光記録媒体により反射され前記1/4波長板により変換された第2の直線偏光を検出する光検出器と、前記レーザ光源と前記1/4波長板との間の光路中に配置され、前記レーザ光源から出射された第1の直線偏光を透過又は反射し、かつ、前記光記録媒体から反射され前記1/4波長板で円偏光から第2の直線偏光に変換された反射光を反射又は透過する偏光ビームスプリッタと、を備えた光ヘッド装置であって、前記偏光ビームスプリッタは、透光性基板の表面に屈折率の異なる少なくとも2種以上の膜材料からなる多層膜が成膜され、斜入射光線の入射角に伴う反射帯の立ち上がり・立ち下がりの偏光透過特性の違いを利用し、互いに直交する偏光成分を透過・反射させるとともに、互いに長、短波長を中心波長とする2つの反射帯多層膜層をその分離面に設け、短波長反射帯の長波長側立ち上がりと長波長反射帯の短波長側立ち下がりを近接させ、それぞれの反射、透過偏光特性を乗ずることにより偏光分離有効波長域を拡げたことを特徴とする。
【0009】
また、前記光ヘッド装置において、前記光前記偏光ビームスプリッタの法線と入射光の主光線で規定される平面内における入射角の相違に起因して発生する分光特性の入射角依存性を補正するように、前記多層膜層の光学膜厚が調整されていることを特徴とする。
【0010】
また、前記光ヘッド装置において、前記多層膜が、少なくとも短波長反射帯多層膜層および長波長反射帯多層膜層であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光ヘッド装置では、透光性基板の表面に多層膜が成膜された平板の偏光ビームスプリッタを用いるため、安価で大面積のガラス基板を用いて生産性よく多層膜の成膜が可能となり、従来の偏光ビームスプリッタプリズムを用いた光ヘッド装置に比べてコストダウンとなる。
【0012】
また、本発明の光ヘッド装置では、レーザ光源の使用波長帯域において、高い偏光分離特性が実現できるため、往路および復路において高い光利用効率が得られる。その結果、比較的低出力のレーザ光源を用いてSN比の高い光信号検出が可能となる。
【0013】
また、本発明の光ヘッド装置では、発散光中に平板偏光ビームスプリッタが配置された場合、偏光分離特性の波長依存性および入射角依存性を補正できるため、レーザ光源の波長変動に対して平板偏光ビームスプリッタにより偏光分離された光の強度分布が安定化する。その結果、光ヘッド装置の大型化を招くことなく、往路および復路において高い光利用効率を実現できる。
【0014】
また、前記平板偏光ビームスプリッタは光透過面および光反射面に接着材が用いられないため、高い信頼性が実現するとともに高密度情報記録光ディスクBD用の光ヘッド装置に用いられる青色レーザ光に対する耐光性を確保しやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の光ヘッド装置100の構成例の模式図を図1に示す。図12に示す従来の光ヘッド装置400の構成例と同じ機能の部品は同じ番号を記し、説明を省略する。
【0016】
偏光ビームスプリッタとして、平行平板の透光性基板の片面に多層膜が成膜された平板偏光ビームスプリッタ10を用い、レーザ光源1から出射する光の主光線が平板偏光ビームスプリッタ10の偏光反射面に対して入射角θで入射する。なお、平板偏光ビームスプリッタ10の偏光反射面である多層膜面の法線と入射光の主光線で規定される平面に対して、入射光の偏光のうち面内の偏光をP偏光、面に垂直な偏光をS偏光と呼ぶこととする。
【0017】
ここで、レーザ光源1から出射する直線偏光をS偏光(第1の直線偏光)として平板偏光ビームスプリッタ10に入射することにより高い反射率が得られる。レーザ光源1から出射する直線偏光がS偏光でない場合は、レーザ光源1と平板偏光ビームスプリッタ10の間の光路中に1/2波長板を配置し、1/2波長板の透過偏光を回転させてS偏光に変換すればよい。また、レーザ光源1からの出射光の一部が平板偏光ビームスプリッタ10を透過し、透過光を図示されていない光検出器により検出し、光ディスク7の情報記録面に到達する光が一定となるようにレーザ光源1の発光強度を帰還制御する場合、P偏光成分も平板偏光ビームスプリッタ10に入射するように、主光線を回転軸としてレーザ光源1を回転する、あるいは前記1/2波長板を用いてその遅相軸の角度を回転調整して出射直線偏光の方向を所望の角度にすればよい。
【0018】
平板偏光ビームスプリッタ10により反射されたS偏光は、光ディスク7の情報記録面で反射し信号光となり、1/4波長板4を往復することによりP偏光(第2の直線偏光)に変換されて平板偏光ビームスプリッタ10に入射する。平板偏光ビームスプリッタ10はP偏光に対して高い偏光透過率を示すため、効率よく光検出器6の受光面に集光されて電気信号に変換される。
【0019】
本発明の光ヘッド装置100に用いられる平板偏光ビームスプリッタ10について、その構造を示す断面図である図2を用いて偏光分離機能を以下に説明する。
図1では平板偏光ビームスプリッタ10を発散光中に配置し、往路でS偏光反射および復路でP偏光透過となる光ヘッド装置としているが、往路でP偏光透過および復路でS偏光反射となる配置とした光ヘッド装置としてもよい。
【0020】
ただし、発散光中に平板偏光ビームスプリッタ10を斜入射で配置した場合、主光線の入射角と発散光の角度幅および基板の厚さに応じて透過光に非点収差が発生する。往路における透過波面収差が大きな場合、光ディスクの情報記録面の集光スポット形状が劣化し記録再生エラーとなるため、図1に示す往路でS偏光反射および復路でP偏光透過となる光ヘッド装置の構成が好ましい。
【0021】
図2は本発明に係る光ヘッド装置100に用いられるに用いられる平板偏光ビームスプリッタ10の構造を示すもので、異なる2つの中心波長からなる短波長反射帯多層膜層12Sと長波長反射帯多層膜層12Lがこの場合は平板基板11一面上に重ねられている。光線が入射したときのP,S偏光の分光透過特性形状を図3に示す。図中、実線(黒丸●および白丸○)は短波長反射帯の長波長側立ち上がり部であって、左側の線がP偏光分光透過特性を、右側の線がS偏光分光透過特性を表し、図中の破線(黒四角■および白四角□)は長波長反射帯の短波長側立ち下がり部分であって、左側の線がS偏光分光透過特性を、右側の線がP偏光分光透過特性を表す。この2つの分光透過特性の重ね合わせにより図中央部のP偏光透過波長領域が合成される。また同様にS偏光についても短波長反射帯と長波長反射帯のS偏光透過特性の重ね合わせにより、図中の白菱形◇で示すように全領域にわたるS偏光反射波長領域が合成される。長波長反射帯の短波長側立ち下がり部及び、短波長反射帯の長波長側立ち上がり部とも単独では従来の有効偏光分離波長領域が小さいが、双方の特性が合成されることにより、結果として、図中央部に示されるように幅広い有効偏光分離波長領域を得ることとなる。
【0022】
平板基板11の片面に成膜する短波長反射帯多層膜層12Sと長波長反射帯多層膜層12Lの順番に制約はなく、図2と逆でもよい。
使用波長帯域における多層膜層の光吸収はほとんど無いため、透過率と反射率の和はほぼ100%となる。
なお、平板偏光ビームスプリッタ10の他方の平面において、レーザ光源1の使用波長帯域の少なくともP偏光に対して、反射が低減される入射角の配置、あるいは反射防止膜などの反射防止処理を施すことが好ましい。
【0023】
短波長反射帯多層膜層12Sおよび長波長反射帯多層膜層12Lは、屈折率の異なる透明誘電体膜が積層された多層膜層から成り、高屈折率nHの誘電体膜と低屈折率nLの誘電体膜を交互に積層された構造が一般的である。高屈折率nHの誘電体膜として屈折率2以上のTiO2、Ta2O5、Nb2O5、ZrO2などを用い、低屈折率nLの誘電体膜として屈折率1.5以下のSiO2、MgF2、AlF3、NaF、非結晶フッ素樹脂などを用いる。
【0024】
なお、多層膜の構成材料として、常光屈折率noと異常光屈折率ne(ne>no)の複屈折材料を高屈折膜として用い、屈折率がnoに略等しい均質屈折率の低屈折膜と交互に積層した多層膜層としてもよい。この場合、複屈折材料の常光屈折率noの方向をP偏光方向に一致させることにより、広い入射角範囲および広い波長帯域でP偏光に対して高い透過率が得られる。また、多層膜は短波長反射帯多層膜層および長波長反射帯多層膜層からなる2層に限らず、3層以上であってもよい。
【0025】
多層膜形成方法として、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法などの乾式法と、塗布法、ゾルゲル法などの湿式法が用いられる。
【0026】
以下、本発明の光ヘッド装置100に用いられるに用いられる平板偏光ビームスプリッタ10の原理について説明する。
屈折率1の大気中の多層膜に入射角θで光が入射した時、高屈折率nHおよび低屈折率nLのP偏光およびS偏光に対する実効屈折率ηHP、ηHSおよびηLP、ηLSは(1a)から(1d)式で記載される。
ηHP=nH/cosθH=nH/{1−(sinθ/nH)2}0.5 (1a)
ηHS=nH×cosθH=nH×{1−(sinθ/nH)2}0.5 (1b)
ηLP=nL/cosθL=nL/{1−(sinθ/nL)2}0.5 (1c)
ηLS=nL×cosθL=nL×{1−(sinθ/nL)2}0.5 (1d)
【0027】
したがって、垂直入射でない場合は高屈折率誘電体膜と低屈折率誘電体膜のP偏光およびS偏光に対する実効屈折率差△ηPと△ηSは異なるとともに入射角θに依存し、(2a)および(2b)式で記載される。
△ηP=ηHP−ηLP=(nH−nL)×AP×C (2a)
△ηS=ηHS−ηLS=(nH−nL)×AS (2b)
ここで、AP、ASおよびCは(3a)から(3c)式で記載される。
AP=(nH+nL)/(ηHP+ηLP) (3a)
AS=(nH+nL)/(ηHS+ηLS) (3b)
C={(nHnL)2−(nH2+nL2)sin2θ}/(ηHSηLS)2(3c)
【0028】
入射角θの増加に伴いsinθは増加するため、S偏光の実効屈折率ηHSおよびηLSは(1b)、(1d)式より減少する。その結果、(3b)式よりASが増加するため、実効屈折率差△ηSは(2b)式より増加する。また、屈折率差(nH−nL)の大きな誘電体膜材料ほど実効屈折率差△ηSは大きくなる。
【0029】
一方、P偏光の実効屈折率ηHPおよびηLPは(1a)、(1c)式より入射角θの増加に伴い増加し、(3a)、(3c)式よりAPおよびCは減少するため、実効屈折率差△ηPは(2a)式より減少する。特に、(3c)式において、(nHnL)2/(nH2+nL2)≦0.5のため、nH、nLおよびθの設定によってはゼロに近い値となり、実効屈折率差△ηPを小さくできる。
【0030】
高屈折率nHで膜厚dHの誘電体膜と低屈折率nLで膜厚dLの誘電体膜の光学膜厚はnH×dHおよびnL×dLであり、各層の干渉に寄与する光路長差LHおよびLLは(4a)、(4b)式で記述される。入射光の基準波長λ0に対して光路長差LHおよびLLがλ0/4となる膜厚dHおよびdLの条件で交互に積層した多層膜層の場合、透過率50%となる反射帯の波長間隔で定義されるP偏光およびS偏光の反射帯の波長幅△λPおよび△λSは(5a)、(5b)式で記載される。
【0031】
LH=nH×dH×cosθH
=nH×dH×{1−(sinθ/nH)2}0.5 (4a)
LL=nL×dL×cosθL
=nL×dL×{1−(sinθ/nL)2}0.5 (4b)
△λP/λ0=(4/π)×sin−1{△ηP/(ηHP+ηLP)} (5a)
△λS/λ0=(4/π)×sin−1{△ηS/(ηHS+ηLS)} (5b)
【0032】
この時のP偏光およびS偏光に対する分光透過率TpとTsの計算例を図4に示す。
なお、高屈折率nHと低屈折率nLの誘電体膜の積層数を多くするほど、また実効屈折率差△ηPおよび△ηSが大きなほど、透過帯と反射帯の境界波長域の分光特性が急峻となる。
【0033】
したがって、P偏光とS偏光の入射光に対する反射帯の波長幅△λPと△λSが△λP<△λSの大小関係となり、入射角θおよび屈折率差(nH−nL)の増加に伴い反射帯の波長幅△λPと△λSの差が拡大する。
【0034】
その結果、基準波長λ0とする反射波長帯の短波長域と長波長域で、P偏光を透過しS偏光を反射する立ち下がり部と立ち上がり部の偏光分離波長帯が発現し、平板偏光ビームスプリッタの機能が得られる。
【0035】
本発明の平板偏光ビームスプリッタ10において、短波長反射帯多層膜層12Sおよび長波長反射帯多層膜層12Lを構成する多層膜の膜厚dHおよびdLを調整することにより、使用波長域に中心波長に対して各々の反射帯の波長幅の略中心波長に相当する基準波長λ0を短波長反射帯多層膜層12Sでは短波長側に長波長反射帯多層膜層12Lでは長波長側にするとともに、短波長反射帯多層膜層12SのS偏光立ち上がり部と長波長反射帯多層膜層12LのS偏光立ち下がり部が使用波長域の中心波長に近接するように多層膜層を設計する。その結果、図3に示す所望の広い有効偏光分離波長領域を有する平板偏光ビームスプリッタ10が得られる。
【0036】
なお、各層の光路長差LHおよびLLがλ0/4の単純な多層膜とした場合、有効偏光分離波長領域におけるP偏光透過率の波長変動が大きくなるため、膜厚dHおよびdLを調整することによりP偏光透過率が95%以上となる多層膜構成とすることが好ましい。
【0037】
高屈折率誘電体膜と低屈折率誘電体膜の屈折率差(nH−nL)が大きなほど、主光線の入射角θが大きな配置ほど、短波長反射帯多層膜層12Sおよび長波長反射帯多層膜層12Lの個々の偏光分離波長帯が広いため、平板偏光ビームスプリッタ10においても広い有効偏光分離波長領域が得られる。
【0038】
例えば、レーザ光源1として高情報記録密度光ディスクBDの記録再生用の光ヘッド装置に搭載される青色半導体レーザを用いる場合、レーザ光源の発振波長の個体差ばらつきおよび温度変化に伴う発振波長変動を考慮すると、使用波長帯域は398〜415nm程度となり、この使用波長帯域においてS偏光反射およびP偏光透過の偏光分離機能が重要となる。本発明の平板偏光ビームスプリッタ10を入射角θ=45°の配置で用いた光ヘッド装置とすることにより、使用波長帯域において95%以上の高いS偏光反射およびP偏光透過の偏光分離機能が実現できる。
【0039】
一方、短波長反射帯多層膜層12Sあるいは長波長反射帯多層膜層12Lのみが平板基板11の片面に成膜された従来の平板偏光ビームスプリッタとした場合、同等の偏光分離機能が得られる波長帯域幅は10nm以下の狭い領域に留まるため、青色半導体レーザの波長変動に伴い光ヘッド装置の信号光量が安定せず、記録再生エラーが発生し問題となる。
【0040】
また、図1の光ヘッド装置100に示すように、平板偏光ビームスプリッタ10が発散光および収束光の入射光配置において用いられる場合、短波長反射帯多層膜層12Sおよび長波長反射帯多層膜層12Lを構成する高屈折率nHおよび低屈折率nLの誘電体膜の光路長差LHおよびLLは、(4a)、(4b)式に示すように入射角θに応じて変化する。主光線の入射角θに比べて、大きな入射角では偏光分離波長領域が短波長側に、小さな入射角では偏光分離波長領域が長波長側にシフトする。
【0041】
その結果、例えば入射角θ=45°の平行光に対しては使用波長帯域において高い偏光分離特性が実現できるが、入射角45°±8°の発散光に対しては、使用波長帯域をカバーする高い偏光分離特性が実現できないといった問題が生じる可能性がある。具体的には、入射角θ=45°で波長帯域幅約25nmに対して高い偏光分離機能を示す平板偏光ビームスプリッタ10の場合、入射角45°±8°の発散光に対する高い偏光分離特性が得られる波長幅は約5nmに低下する。
【0042】
光ヘッド装置100において、レーザ光源1からの出射光はその半値強度全角の放射角が6°から22°程度の楕円強度分布を有し、コリメートレンズ3で平行光とした後対物レンズで光ディスクの情報記録面に集光する。このとき、対物レンズの開口径に対して実効的な開口数が低下しない強度分布となるようにレーザ光源1の出射発散光に対するコリメートレンズ3による取り込み角が設定される。その結果、レーザ光源1とコリメートレンズ3の間の光路中に配置された平板偏光ビームスプリッタ10は、入射光が主光線の入射角θに対して±6°から±9°程度の発散光の配置となる。
【0043】
平板偏光ビームスプリッタへの入射角が主光線に対して分布した発散光中でも高い偏光分離特性を実現する2種類の方法を以下に説明する。
【0044】
1.光学膜厚が空間分布した多層膜層
平板偏光ビームスプリッタの多層膜層を構成する高屈折率nHと低屈折率nLの誘電体膜の光路長差LHおよびLLは(4a)、(4b)式に示す入射角依存性があるため、主光線に対する入射角θからの差異による光路長差変化分を各誘電体膜の膜厚dHおよびdLを調整することにより補償すればよい。
【0045】
このような多層膜層構造を有する平板偏光ビームスプリッタ20の法線と入射光の主光線で規定されるXZ面における断面構造の模式図を図5に示す。なお、実際の多層膜層の総膜厚は0.5μmから10μm程度とわずかだが、説明のために膜厚を拡大強調して示している。
【0046】
各誘電体膜の膜厚dHおよびdLは主光線の入射角θに対し、広角(θ+α)側では厚く、狭角(θ−α)側では薄くなるよう、狭角側から広角側へ各誘電体膜の膜厚が連続的に空間分布した多層膜層構造とする。
【0047】
なお、図5の紙面に垂直なY軸方向において、平板偏光ビームスプリッタ20に対する主光線の入射角成分は0°のため、(4a)、(4b)式より±10°以下程度の発散光における入射角変化に対する光路長差LHおよびLLの変動はわずかであり、Y軸方向の各誘電体膜の膜厚を調整する可能性は低い。
【0048】
このような多層膜層の分光特性における入射角依存性を膜厚調整で補正する技術は、ウェッジ付き光学フィルタなどの製品に適用されている成膜時に膜厚補正板を配置するなどの手法を用いることにより実現可能である。
【0049】
2.主光線の入射角θが大きくなる配置
前述したように、平板偏光ビームスプリッタの多層膜層を構成する高屈折率誘電体膜と低屈折率誘電体膜の屈折率差(nH−nL)が大きいほど、主光線の入射角θが大きな配置ほど、短波長反射帯多層膜層12Sおよび長波長反射帯多層膜層12Lの個々の偏光分離波長帯が拡がるため、平板偏光ビームスプリッタにおいても有効偏光分離波長領域を拡大することができる。
【0050】
屈折率差(nH−nL)は用いられる実用的な透明誘電体膜材料によって制約が有る。一方、主光線の入射角θを大きくするほど入射光束径に対する平板偏光ビームスプリッタ10の受光面積を拡大することが重要である。これは平板偏光ビームスプリッタ10の大型化およびコストアップを招き光ヘッド装置100の大形化につながるといった問題が生じやすいからである。また、図1においてレーザ光源1と光検出器6が近づき干渉するため、配置上許容される入射角θには上限が有る。
【0051】
このような問題を回避し、発散光中配置においてレーザ光源の使用波長帯域にわたり高い偏光分離特性を実現するためには、主光線の入射角θを45°から65°の範囲とすることが有効である。
【実施例】
【0052】
[例1]
高密度情報記録光ディスクBDの記録再生用の光ヘッド装置に用いられる青色半導体レーザをBD用の405nm波長帯の使用波長帯域398〜415nmのレーザ光源1とし、主光線の入射角θ=45°の平行光中に平板偏光ビームスプリッタ21を配置した本発明の光ヘッド装置200の構成例の模式図を図6に示す。光ヘッド装置100の構成例の模式図を示す図1と同じ機能の部品は同じ番号を記し、説明を省略する。
【0053】
光ヘッド装置100との相違点として、レーザ光源1から出射したP偏光(第1の直線偏光)の発散光がコリメートレンズ3により平行光となって平板偏光ビームスプリッタ21に入射角θ=45°で入射する。さらに、光ディスク7の情報記録面により反射された信号光が対物レンズ5を再度透過して平行光となり、1/4波長板4を往復することによりS偏光(第2の直線偏光)に変換されて平板偏光ビームスプリッタ21に入射し、反射された光は平板ビームスプリッタ21bで反射され、平板ビームスプリッタ21aを透過し、コリメートレンズ3aにより光検出器6aの受光面に集光される。
【0054】
さらに、光ヘッド装置200ではDVDおよびCDの光ディスクの記録再生も実現するため、DVDとCD用の光ヘッド装置200aが一体化されている。DVD用の660nm波長帯の光とCD用の785nm波長帯の光を切り替えて発振する2波長レーザ光源1aから出射するS偏光の発散光のうち約90%が平板ビームスプリッタ21aで反射され、コリメートレンズ3aにより平行光となって平板ビームスプリッタ21bを透過し、DVDおよびCD用の対物レンズ5aにより光ディスク7aの情報記録面に集光される。光ディスク7aの情報記録面で反射された信号光が前記対物レンズ5aを再度透過して平行光となり、1/4波長板4aを往復することによりP偏光に変換されて平板ビームスプリッタ21bを透過し、コリメートレンズ3aにより平板ビームスプリッタ21aを透過した一部の光が光検出器6aの受光面に集光される。
【0055】
ここで、平板ビームスプリッタ21bはBD用の405nm波長帯の少なくともS偏光を反射し、DVD用の660nm波長帯およびCD用の785nm波長帯のP偏光およびS偏光を透過する分光特性を有する平板ビームスプリッタである。また、平板ビームスプリッタ21aはBD用の405nm波長帯の少なくともS偏光を透過し、DVD用の660nm波長帯およびCD用の785nm波長帯の少なくともS偏光を90%以上反射するとともに少なくともP偏光を10%以上透過する分光特性を有する平板ビームスプリッタである。平板ビームスプリッタ21aおよび21bは偏光分離機能が必須ではないため、従来の多層膜設計にて所望の分光特性が実現できる。
【0056】
図6には記載していないが、レーザ光源1とコリメートレンズ3の間の光路中や、レーザ光源1aとコリメートレンズ3aの間の光路中にトラッキングサーボ信号を得るために、0次透過光と±1次回折光を生成する3ビーム回折格子を配置する場合がある。また、平板ビームスプリッタ21aと光検出器6aの間の光路中にフォーカスサーボ信号を得るために、透過光に非点収差を発生させるシリンドリカルレンズなどを配置する場合がある。
【0057】
次に、平板偏光ビームスプリッタ21の具体的な構成および機能を図2を用いて以下に説明する。屈折率1.52の透光性ガラスの平板基板11の片面に、基板側から高屈折率nH=2.20のTa2O5誘電体膜と低屈折率nL=1.47のSiO2誘電体膜を交互に、長波長反射帯多層膜層12Lおよび短波長反射帯多層膜層12Sを各々30層ずつ積層し、合計60層の構成となるように成膜する。図2の12Sと12Lの順番が逆の構成に対応する。
【0058】
青色半導体レーザ光源の基準波長λ0=405nmを用いると、(4a)、(4b)式で定義される光路長差の60層の平均値は0.268λ0、長波長反射帯多層膜層12Lと短波長反射帯多層膜層12Sの各30層の光路長差の平均値は0.305λ0と0.231λ0である。使用波長帯域398〜415nmにおける主光線の入射角θ=45°で±3°の発散および収束光に対して高いP偏光透過率を確保するために、長波長反射帯多層膜層12Lにおける平板基板11および短波長反射帯多層膜層12Sとの境界の数層と、短波長反射帯多層膜層12Sにおける大気との境界の数層は光路長差の各平均値0.305λ0と0.231λ0に対して最大0.4λ0程度異なる光路長差に設定するとともに、その他の層の各光路長差を各平均値から±0.06λ0以内で各誘電体膜の膜厚dHおよびdLを微調整した設計としている。
【0059】
なお、主光線の入射角θ=45°に対して±3°の発散および収束光としたのは、情報記録面が2層からなるBD用の光ディスクの場合、光ディスクカバー厚の相違に応じて発生する情報記録面における集光スポットの球面収差を補正するためにコリメートレンズ3および3aを光軸方向に移動して±3°以下の範囲で発散光または収束光に調整することが必要となるためである。コリメートレンズ3と3aの光軸方向の移動は、2個のコリメートレンズをホルダに一体固定し、ステッピングモータなどを用いて駆動する。
【0060】
このような構成からなる平板偏光ビームスプリッタ21のP偏光とS偏光に対する分光透過率波長依存性の計算結果を図7に示す。(P−45)と(S−45)は入射角45°、(P−42)と(S−42)は入射角42°、(P−48)と(S−48)は入射角48°に対するP偏光とS偏光の分光透過率を示す。すなわち、使用波長帯域398〜415nmにおける入射角45°±3°の発散光に対し、95%以上のP偏光透過率と96%以上のS偏光反射率を示す平板偏光ビームスプリッタ21となっている。なお、入射角θ=45°の平行光に対しては、波長帯域395〜417nmにおいて98%以上のP偏光透過率と98%以上のS偏光反射率を示す。
【0061】
比較例1として、従来技術である短波長反射帯多層膜層12Sのみからなる平板偏光ビームスプリッタとした時のP偏光とS偏光に対する分光透過率波長依存性の計算結果を図8に示す。入射角θ=45°の平行光に対して90%以上のP偏光透過率と90%以上のS偏光反射率を示す波長帯域は400〜412nmで、入射角45°±3°の発散光に対して90%以上のP偏光透過率と90%以上のS偏光反射率を示す波長帯域は405〜409nmとなり、使用波長帯域に対する高い偏光分離特性が得られにくい。
【0062】
また、比較例2として、従来技術である長波長反射帯多層膜層12Lのみからなる平板偏光ビームスプリッタとした時のP偏光とS偏光に対する分光透過率波長依存性の計算結果を図9に示す。入射角θ=45°の平行光に対して90%以上のP偏光透過率と90%以上のS偏光反射率を示す波長帯域は400〜410nmで、入射角45°±3°の発散光に対して90%以上のP偏光透過率と90%以上のS偏光反射率を示す波長帯域は405〜407nmとなり、使用波長帯域に対する高い偏光分離特性が得られにくい。
【0063】
本発明の光ヘッド装置200によれば、BD用光ディスク7の記録再生において往路および復路の高い光利用効率が得られ、比較的低消費電力の青色半導体レーザ光源を用いることができるとともに、SNの高い光信号検出ができるため安定した動作が実現する。また、偏光ビームスプリッタプリズムの代わりに平板偏光ビームスプリッタ21を用い、他の光合分波素子も平板ビームスプリッタから成るため、生産性が高くコストダウンが可能となる。さらに、DVDおよびCDの用光ディスク7aの記録再生に対しても、BD用と共通の光検出器6aを用いるため、光ヘッド装置の小型化につながるとともにコストダウンとなる。
【0064】
[例2]
本発明の第2の実施例を、光ヘッド装置100の構成例の模式図である図1を用いて説明する。
レーザ光源1とし実施例1と同じ青色半導体レーザを用い、主光線の入射角θ=45°で±8°の発散光中に平板偏光ビームスプリッタ20を配置した構成としている。光ヘッド装置100の構成および作用は実施の形態に記したため説明を省略する。
平板偏光ビームスプリッタ20の具体的な構成および機能を図5を用いて以下に説明する。
【0065】
平板偏光ビームスプリッタ20の片面に成膜された多層膜層は、主光線の入射角θ=45°となる位置において、実施例1の平板偏光ビームスプリッタ10と同じ各誘電体膜の膜厚dHおよびdLの多層膜設計構成としている。さらに、平板偏光ビームスプリッタ10のXZ面内で、入射角が45°に対して狭角(45°−8°)側から広角(45°+8°)側に向かって連続的に各誘電体膜の膜厚が厚くなるように空間分布したウェッジ付き多層膜層とし、多層膜層の分光特性における入射角依存性を補正している。
【0066】
具体的には、入射角が37°(=45°−8°)でおよび53°(=45°+8°)の時、入射角θ=45°に比較して有効偏光分離波長領域が略+9nmおよび略−9nmだけ波長シフトするため、各誘電体膜の膜厚を入射角θ=45°の位置の膜厚に対する比率として、入射角が37°および53°の位置で略−2.3%および略+2.3%程度の連続的な膜厚分布を形成する。
【0067】
その結果、使用波長帯域398〜415nmにおいて、主光線の入射角θ=45°で±8°の発散光に対し96%以上のP偏光透過率と96%以上のS偏光反射率となる高い偏光分離特性を示す平板偏光ビームスプリッタ20が得られ、比較的低消費電力で安定したSNの高い光信号検出ができる光ヘッド装置が実現する。
【0068】
[例3]
レーザ光源1とし実施例1および2と同じ青色半導体レーザを用い、主光線の入射角θ=60°で±8°の発散光中に平板偏光ビームスプリッタ10を配置した図1に示す本発明の光ヘッド装置100において、図2に示す平板偏光ビームスプリッタ10の本実施例における具体的な構成および機能を以下に説明する。光ヘッド装置100の構成および作用は実施の形態に記したため説明を省略する。
【0069】
屈折率1.52の透光性ガラスの平板基板11の片面に、基板側から高屈折率nH=2.20のTa2O5誘電体膜と低屈折率nL=1.47のSiO2誘電体膜を交互に合計58層積層した構成からなる短波長反射帯多層膜層12Sと長波長反射帯多層膜層12Lを成膜する。青色半導体レーザ光源の基準波長λ0=405nmを用いると、(4a)、(4b)式で定義される光路長差の58層の平均値は0.263λ0、30層からなる短波長反射帯多層膜層12Sと28層からなる長波長反射帯多層膜層12Lの各光路長差の平均値は0.223λ0と0.304λ0である。使用波長帯域398〜415nmおよび入射角60°±8°の発散光に対して高いP偏光透過率を確保するために、短波長反射帯多層膜層12Sにおける平板基板11との境界の数層と、長波長反射帯多層膜層12Lにおける短波長反射帯多層膜層12Sおよび大気との境界の数層は光路長差の各平均値0.223λ0と0.304λ0に対して最大0.4λ0程度異なる光路長差に設定するとともに、その他の層の各光路長差を各平均値から±0.06λ0以内となるように各誘電体膜の膜厚dHおよびdLを微調整した多層膜設計としている。
【0070】
このような構成からなる平板偏光ビームスプリッタ10のP偏光とS偏光に対する分光透過率波長依存性の計算結果を図10に示す。(P−60)と(S−60)は入射角60°、(P−52)と(S−52)は入射角52°、(P−68)と(S−68)は入射角68°に対するP偏光とS偏光の分光透過率を示す。すなわち、使用波長帯域398〜415nmにおける入射角60°±8°の発散光に対し、98%以上のP偏光透過率と98%以上のS偏光反射率を示す平板偏光ビームスプリッタ10となっている。なお、入射角θ=60°の平行光に対しては、波長帯域389〜422nmにおいて93%以上のP偏光透過率と99%以上のS偏光反射率を示す。
【0071】
比較例として、従来技術である短波長反射帯多層膜層12Sまたは長波長反射帯多層膜層12Lのみからなる平板偏光ビームスプリッタとした時のP偏光とS偏光に対する分光透過率波長依存性の計算結果から、入射角θ=60°の平行光に対して90%以上のP偏光透過率と90%以上のS偏光反射率を示す波長帯域は400〜412nmで、入射角60°±8°の発散光に対して90%以上のP偏光透過率と90%以上のS偏光反射率を示す波長帯域405〜409nmとなり、使用波長帯域に対する高い偏光分離特性が得られない。
【0072】
本発明の光ヘッド装置100によれば、BD用光ディスク7の記録再生において往路および復路の高い光利用効率が得られ、比較的低消費電力の青色半導体レーザ光源を用いることができるとともに、SNの高い光信号検出ができるため安定した動作が実現する。また、偏光ビームスプリッタプリズムの代わりに平板偏光ビームスプリッタを用いているため、生産性が高くコストダウンが可能となる。
【0073】
実施例1から3では、レーザ光源1としてBD用光ディスクの使用波長帯域398〜415nmの青色半導体レーザ光源を用いる例について説明したが、DVD用光ディスクの使用波長帯域645〜675nmの赤色レーザ光源や、CD用光ディスクの使用波長帯域765〜805nmの近赤外レーザ光源を用いる場合でも、平板偏光ビームスプリッタの多層膜層の基準波長λ0の相違に応じて各誘電体膜の膜厚dHおよびdLを調整した多層膜設計構成に変更すれば対応できる。
【0074】
また、同じ多層膜設計手法を用いて、BD波長用の多層膜層とDVD波長用の多層膜層を積層することにより、BD使用波長帯域およびDVD使用波長帯域に対して高い偏光分離機能を実現する平板偏光ビームスプリッタとすることができるため、光ヘッド装置のさらなる小型化およびコストダウンにつながる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施形態の光ヘッド装置の構成例を示す模式図。
【図2】本発明の光ヘッド装置に搭載された平板偏光ビームスプリッタの構造を示す断面図。
【図3】本発明の光ヘッド装置に搭載された平板偏光ビームスプリッタのP、S偏光の分光透過特性形状例を示すグラフ。
【図4】光路長差がλ0/4の高屈折率と低屈折率の誘電体膜を交互に積層した多層膜の斜入射光に対するP、S偏光の分光透過特性形状例を示すグラフ。
【図5】本発明の光ヘッド装置に搭載された平板偏光ビームスプリッタにおいて、多層膜層に膜厚分布が付与された構造を示す断面図。
【図6】本発明の第1の実施例の光ヘッド装置の構成例を示す模式図。
【図7】本発明の第1の実施例の光ヘッド装置に搭載された平板偏光ビームスプリッタのP、S偏光の分光透過特性を示すグラフ。
【図8】比較例1として、従来の平板ビームスプリッタのP、S偏光の分光透過特性を示すグラフ。
【図9】比較例2として、従来の平板ビームスプリッタのP、S偏光の分光透過特性を示すグラフ。
【図10】本発明の第3の実施例の光ヘッド装置に搭載された平板偏光ビームスプリッタのP、S偏光の分光透過特性を示すグラフ。
【図11】従来の偏光ビームスプリッタプリズムを搭載した光ヘッド装置の構成例を示す模式図。
【図12】従来の平板ビームスプリッタを搭載した光ヘッド装置の構成例を示す模式図。
【符号の説明】
【0076】
1、1a:レーザ光源
2a:偏光ビームスプリッタプリズム
2b、21a、21b:平板ビームスプリッタ
3、3a:コリメートレンズ
4、4a:1/4波長板
5、5a:対物レンズ
6、6a:光検出器
7、7a:光ディスク
10、20、21:平板偏光ビームスプリッタ
11:平板基板
12S:短波長反射帯多層膜層
12L:長波長反射帯多層膜層
100、200、200a:光ヘッド装置
【技術分野】
【0001】
光記録媒体としてDVDやCDなどの光ディスクが普及し、高密度情報記録光ディスクBD(Blu−ray Disc)が製品化され、光ディスクへの情報記録および記録情報の再生(以下、「記録再生」とよぶ)に光ヘッド装置が用いられる。
従来の光ヘッド装置300の構成例の模式図を図11に示す。レーザ光源1と、偏光ビームスプリッタプリズム2aと、コリメートレンズ3および対物レンズ5と、光検出器6とを備え、レーザ光源1からの出射光が偏光ビームスプリッタプリズム2aを透過し、コリメートレンズ3により平行光となり、対物レンズ5により光ディスク7の情報記録面に集光され、情報記録面で反射された信号光が対物レンズ5を再度透過して平行光となり、コリメートレンズ3により、偏光ビームスプリッタプリズム2aで反射された信号光が光検出器6の受光面に集光される。
【0002】
ここで、レーザ光源1からの出射光を効率よく情報記録面に集光するとともに、情報記録面で反射された信号光を効率よく光検出器に分波するために、2個の直角2等辺三角柱ガラスの一方の斜面に多層膜を成膜し接合された六面体ガラスブロック形態の偏光ビームスプリッタプリズム2aが1/4波長板4とともに用いられる。レーザ光源から出射された直線偏光はP偏光(第1の直線偏光)として偏光ビームスプリッタプリズム2aに入射して透過され、情報記録面に集光および反射されて1/4波長板4を往復透過することでS偏光(第2の直線偏光)となって偏光ビームスプリッタプリズム2aに入射して反射される。
【0003】
ここで用いられる偏光ビームスプリッタプリズム2aでは、空気の屈折率(ng=1)に比べてプリズムである直角2等辺三角柱ガラスの屈折率(ng>1)が大きなため、空気と接する多層膜(ここで、多層膜材料の屈折率をnとする)に斜入射する平板ビームスプリッタに比べ、Snell屈折則により入射角θ0に対する多層膜中の屈折角θ=arcsin{(ng/n)sinθ0}の低下が少ない。後述するように、多層膜中の屈折角が大きなほどP偏光を透過しS偏光を反射する偏光分離波長領域が広くなるため、偏光ビームスプリッタとして機能する広い波長帯域を確保できる。その結果、例えばBD光ディスクの記録再生に用いられる青色半導体レーザ光源の使用波長帯域である398〜415nmにおいて、発散入射光に対しても高いS偏光反射率かつ高いP偏光透過率を示す偏光分離特性が得られ、レーザ光源から光ディスクへと進行する往路および光ディスクから光検出器へと進行する復路において高い光利用効率を実現できる。
【0004】
また、従来の光ヘッド装置の他の構成例の模式図を図12に示す。光ヘッド装置400は、図11に示す偏光ビームスプリッタプリズム2aの代わりに、平行平板の透光性基板の片面に多層膜が成膜された平板ビームスプリッタ2bを用いている(例えば、特許文献1および2参照)。
【特許文献1】特開2007−280460号公報
【特許文献2】特開2002−4915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、図11に示す光ヘッド装置300においては、2個の直角2等辺三角柱ガラスを精度よく加工した後、多層膜の成膜および六面体ガラスブロック形態に接着する必要があり、図12に示す平板ビームスプリッタに比べて加工が複雑化するとともにコストアップとなるといった問題があった。また、有機接着材を用いるため、高温および高湿度環境における長時間特性安定性や青色レーザ光照射に伴う耐光性などの信頼性に課題があった。
【0006】
また、図12に示す光ヘッド装置400においては、平板ビームスプリッタ2bにおいて、空気と多層膜材料との屈折率差が大きいため、偏光ビームスプリッタプリズム2aに比べてSnell屈折則による多層膜中の屈折角が小さな値となる。その結果、斜入射におけるP偏光とS偏光の実効屈折率の差が低下し、例えば、青色半導体レーザ光源の使用波長帯域である398〜415nmにおいて、発散入射光に対し高い偏光分離特性の実現が困難であった。その結果、往路および復路の光利用効率が低下し、高出力の青色半導体レーザ光源が必要となるとともに、光検出器のSN比(信号とノイズの比)低下を招くといった問題があった。また、入射角中心値を70°以上の大きな値とすることにより平板ビームスプリッタ2bの多層膜中の屈折角を大きな値に設定し偏光分離特性を向上することができるが、大面積の平板ビームスプリッタ2bが必要となり光ヘッド装置の大形化を招くといった問題があった。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑み、高い偏光分離特性を有する平板の偏光ビームスプリッタを搭載した光利用効率の高い光ヘッド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、レーザ光源と、前記レーザ光源から出射された第1の直線偏光を円偏光に変換するとともに、光記録媒体から反射された円偏光を第1の直線偏光と直交する第2の直線偏光に変換する1/4波長板と、前記1/4波長板を透過した円偏光を光記録媒体に集光する対物レンズと、前記光記録媒体により反射され前記1/4波長板により変換された第2の直線偏光を検出する光検出器と、前記レーザ光源と前記1/4波長板との間の光路中に配置され、前記レーザ光源から出射された第1の直線偏光を透過又は反射し、かつ、前記光記録媒体から反射され前記1/4波長板で円偏光から第2の直線偏光に変換された反射光を反射又は透過する偏光ビームスプリッタと、を備えた光ヘッド装置であって、前記偏光ビームスプリッタは、透光性基板の表面に屈折率の異なる少なくとも2種以上の膜材料からなる多層膜が成膜され、斜入射光線の入射角に伴う反射帯の立ち上がり・立ち下がりの偏光透過特性の違いを利用し、互いに直交する偏光成分を透過・反射させるとともに、互いに長、短波長を中心波長とする2つの反射帯多層膜層をその分離面に設け、短波長反射帯の長波長側立ち上がりと長波長反射帯の短波長側立ち下がりを近接させ、それぞれの反射、透過偏光特性を乗ずることにより偏光分離有効波長域を拡げたことを特徴とする。
【0009】
また、前記光ヘッド装置において、前記光前記偏光ビームスプリッタの法線と入射光の主光線で規定される平面内における入射角の相違に起因して発生する分光特性の入射角依存性を補正するように、前記多層膜層の光学膜厚が調整されていることを特徴とする。
【0010】
また、前記光ヘッド装置において、前記多層膜が、少なくとも短波長反射帯多層膜層および長波長反射帯多層膜層であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光ヘッド装置では、透光性基板の表面に多層膜が成膜された平板の偏光ビームスプリッタを用いるため、安価で大面積のガラス基板を用いて生産性よく多層膜の成膜が可能となり、従来の偏光ビームスプリッタプリズムを用いた光ヘッド装置に比べてコストダウンとなる。
【0012】
また、本発明の光ヘッド装置では、レーザ光源の使用波長帯域において、高い偏光分離特性が実現できるため、往路および復路において高い光利用効率が得られる。その結果、比較的低出力のレーザ光源を用いてSN比の高い光信号検出が可能となる。
【0013】
また、本発明の光ヘッド装置では、発散光中に平板偏光ビームスプリッタが配置された場合、偏光分離特性の波長依存性および入射角依存性を補正できるため、レーザ光源の波長変動に対して平板偏光ビームスプリッタにより偏光分離された光の強度分布が安定化する。その結果、光ヘッド装置の大型化を招くことなく、往路および復路において高い光利用効率を実現できる。
【0014】
また、前記平板偏光ビームスプリッタは光透過面および光反射面に接着材が用いられないため、高い信頼性が実現するとともに高密度情報記録光ディスクBD用の光ヘッド装置に用いられる青色レーザ光に対する耐光性を確保しやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の光ヘッド装置100の構成例の模式図を図1に示す。図12に示す従来の光ヘッド装置400の構成例と同じ機能の部品は同じ番号を記し、説明を省略する。
【0016】
偏光ビームスプリッタとして、平行平板の透光性基板の片面に多層膜が成膜された平板偏光ビームスプリッタ10を用い、レーザ光源1から出射する光の主光線が平板偏光ビームスプリッタ10の偏光反射面に対して入射角θで入射する。なお、平板偏光ビームスプリッタ10の偏光反射面である多層膜面の法線と入射光の主光線で規定される平面に対して、入射光の偏光のうち面内の偏光をP偏光、面に垂直な偏光をS偏光と呼ぶこととする。
【0017】
ここで、レーザ光源1から出射する直線偏光をS偏光(第1の直線偏光)として平板偏光ビームスプリッタ10に入射することにより高い反射率が得られる。レーザ光源1から出射する直線偏光がS偏光でない場合は、レーザ光源1と平板偏光ビームスプリッタ10の間の光路中に1/2波長板を配置し、1/2波長板の透過偏光を回転させてS偏光に変換すればよい。また、レーザ光源1からの出射光の一部が平板偏光ビームスプリッタ10を透過し、透過光を図示されていない光検出器により検出し、光ディスク7の情報記録面に到達する光が一定となるようにレーザ光源1の発光強度を帰還制御する場合、P偏光成分も平板偏光ビームスプリッタ10に入射するように、主光線を回転軸としてレーザ光源1を回転する、あるいは前記1/2波長板を用いてその遅相軸の角度を回転調整して出射直線偏光の方向を所望の角度にすればよい。
【0018】
平板偏光ビームスプリッタ10により反射されたS偏光は、光ディスク7の情報記録面で反射し信号光となり、1/4波長板4を往復することによりP偏光(第2の直線偏光)に変換されて平板偏光ビームスプリッタ10に入射する。平板偏光ビームスプリッタ10はP偏光に対して高い偏光透過率を示すため、効率よく光検出器6の受光面に集光されて電気信号に変換される。
【0019】
本発明の光ヘッド装置100に用いられる平板偏光ビームスプリッタ10について、その構造を示す断面図である図2を用いて偏光分離機能を以下に説明する。
図1では平板偏光ビームスプリッタ10を発散光中に配置し、往路でS偏光反射および復路でP偏光透過となる光ヘッド装置としているが、往路でP偏光透過および復路でS偏光反射となる配置とした光ヘッド装置としてもよい。
【0020】
ただし、発散光中に平板偏光ビームスプリッタ10を斜入射で配置した場合、主光線の入射角と発散光の角度幅および基板の厚さに応じて透過光に非点収差が発生する。往路における透過波面収差が大きな場合、光ディスクの情報記録面の集光スポット形状が劣化し記録再生エラーとなるため、図1に示す往路でS偏光反射および復路でP偏光透過となる光ヘッド装置の構成が好ましい。
【0021】
図2は本発明に係る光ヘッド装置100に用いられるに用いられる平板偏光ビームスプリッタ10の構造を示すもので、異なる2つの中心波長からなる短波長反射帯多層膜層12Sと長波長反射帯多層膜層12Lがこの場合は平板基板11一面上に重ねられている。光線が入射したときのP,S偏光の分光透過特性形状を図3に示す。図中、実線(黒丸●および白丸○)は短波長反射帯の長波長側立ち上がり部であって、左側の線がP偏光分光透過特性を、右側の線がS偏光分光透過特性を表し、図中の破線(黒四角■および白四角□)は長波長反射帯の短波長側立ち下がり部分であって、左側の線がS偏光分光透過特性を、右側の線がP偏光分光透過特性を表す。この2つの分光透過特性の重ね合わせにより図中央部のP偏光透過波長領域が合成される。また同様にS偏光についても短波長反射帯と長波長反射帯のS偏光透過特性の重ね合わせにより、図中の白菱形◇で示すように全領域にわたるS偏光反射波長領域が合成される。長波長反射帯の短波長側立ち下がり部及び、短波長反射帯の長波長側立ち上がり部とも単独では従来の有効偏光分離波長領域が小さいが、双方の特性が合成されることにより、結果として、図中央部に示されるように幅広い有効偏光分離波長領域を得ることとなる。
【0022】
平板基板11の片面に成膜する短波長反射帯多層膜層12Sと長波長反射帯多層膜層12Lの順番に制約はなく、図2と逆でもよい。
使用波長帯域における多層膜層の光吸収はほとんど無いため、透過率と反射率の和はほぼ100%となる。
なお、平板偏光ビームスプリッタ10の他方の平面において、レーザ光源1の使用波長帯域の少なくともP偏光に対して、反射が低減される入射角の配置、あるいは反射防止膜などの反射防止処理を施すことが好ましい。
【0023】
短波長反射帯多層膜層12Sおよび長波長反射帯多層膜層12Lは、屈折率の異なる透明誘電体膜が積層された多層膜層から成り、高屈折率nHの誘電体膜と低屈折率nLの誘電体膜を交互に積層された構造が一般的である。高屈折率nHの誘電体膜として屈折率2以上のTiO2、Ta2O5、Nb2O5、ZrO2などを用い、低屈折率nLの誘電体膜として屈折率1.5以下のSiO2、MgF2、AlF3、NaF、非結晶フッ素樹脂などを用いる。
【0024】
なお、多層膜の構成材料として、常光屈折率noと異常光屈折率ne(ne>no)の複屈折材料を高屈折膜として用い、屈折率がnoに略等しい均質屈折率の低屈折膜と交互に積層した多層膜層としてもよい。この場合、複屈折材料の常光屈折率noの方向をP偏光方向に一致させることにより、広い入射角範囲および広い波長帯域でP偏光に対して高い透過率が得られる。また、多層膜は短波長反射帯多層膜層および長波長反射帯多層膜層からなる2層に限らず、3層以上であってもよい。
【0025】
多層膜形成方法として、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法などの乾式法と、塗布法、ゾルゲル法などの湿式法が用いられる。
【0026】
以下、本発明の光ヘッド装置100に用いられるに用いられる平板偏光ビームスプリッタ10の原理について説明する。
屈折率1の大気中の多層膜に入射角θで光が入射した時、高屈折率nHおよび低屈折率nLのP偏光およびS偏光に対する実効屈折率ηHP、ηHSおよびηLP、ηLSは(1a)から(1d)式で記載される。
ηHP=nH/cosθH=nH/{1−(sinθ/nH)2}0.5 (1a)
ηHS=nH×cosθH=nH×{1−(sinθ/nH)2}0.5 (1b)
ηLP=nL/cosθL=nL/{1−(sinθ/nL)2}0.5 (1c)
ηLS=nL×cosθL=nL×{1−(sinθ/nL)2}0.5 (1d)
【0027】
したがって、垂直入射でない場合は高屈折率誘電体膜と低屈折率誘電体膜のP偏光およびS偏光に対する実効屈折率差△ηPと△ηSは異なるとともに入射角θに依存し、(2a)および(2b)式で記載される。
△ηP=ηHP−ηLP=(nH−nL)×AP×C (2a)
△ηS=ηHS−ηLS=(nH−nL)×AS (2b)
ここで、AP、ASおよびCは(3a)から(3c)式で記載される。
AP=(nH+nL)/(ηHP+ηLP) (3a)
AS=(nH+nL)/(ηHS+ηLS) (3b)
C={(nHnL)2−(nH2+nL2)sin2θ}/(ηHSηLS)2(3c)
【0028】
入射角θの増加に伴いsinθは増加するため、S偏光の実効屈折率ηHSおよびηLSは(1b)、(1d)式より減少する。その結果、(3b)式よりASが増加するため、実効屈折率差△ηSは(2b)式より増加する。また、屈折率差(nH−nL)の大きな誘電体膜材料ほど実効屈折率差△ηSは大きくなる。
【0029】
一方、P偏光の実効屈折率ηHPおよびηLPは(1a)、(1c)式より入射角θの増加に伴い増加し、(3a)、(3c)式よりAPおよびCは減少するため、実効屈折率差△ηPは(2a)式より減少する。特に、(3c)式において、(nHnL)2/(nH2+nL2)≦0.5のため、nH、nLおよびθの設定によってはゼロに近い値となり、実効屈折率差△ηPを小さくできる。
【0030】
高屈折率nHで膜厚dHの誘電体膜と低屈折率nLで膜厚dLの誘電体膜の光学膜厚はnH×dHおよびnL×dLであり、各層の干渉に寄与する光路長差LHおよびLLは(4a)、(4b)式で記述される。入射光の基準波長λ0に対して光路長差LHおよびLLがλ0/4となる膜厚dHおよびdLの条件で交互に積層した多層膜層の場合、透過率50%となる反射帯の波長間隔で定義されるP偏光およびS偏光の反射帯の波長幅△λPおよび△λSは(5a)、(5b)式で記載される。
【0031】
LH=nH×dH×cosθH
=nH×dH×{1−(sinθ/nH)2}0.5 (4a)
LL=nL×dL×cosθL
=nL×dL×{1−(sinθ/nL)2}0.5 (4b)
△λP/λ0=(4/π)×sin−1{△ηP/(ηHP+ηLP)} (5a)
△λS/λ0=(4/π)×sin−1{△ηS/(ηHS+ηLS)} (5b)
【0032】
この時のP偏光およびS偏光に対する分光透過率TpとTsの計算例を図4に示す。
なお、高屈折率nHと低屈折率nLの誘電体膜の積層数を多くするほど、また実効屈折率差△ηPおよび△ηSが大きなほど、透過帯と反射帯の境界波長域の分光特性が急峻となる。
【0033】
したがって、P偏光とS偏光の入射光に対する反射帯の波長幅△λPと△λSが△λP<△λSの大小関係となり、入射角θおよび屈折率差(nH−nL)の増加に伴い反射帯の波長幅△λPと△λSの差が拡大する。
【0034】
その結果、基準波長λ0とする反射波長帯の短波長域と長波長域で、P偏光を透過しS偏光を反射する立ち下がり部と立ち上がり部の偏光分離波長帯が発現し、平板偏光ビームスプリッタの機能が得られる。
【0035】
本発明の平板偏光ビームスプリッタ10において、短波長反射帯多層膜層12Sおよび長波長反射帯多層膜層12Lを構成する多層膜の膜厚dHおよびdLを調整することにより、使用波長域に中心波長に対して各々の反射帯の波長幅の略中心波長に相当する基準波長λ0を短波長反射帯多層膜層12Sでは短波長側に長波長反射帯多層膜層12Lでは長波長側にするとともに、短波長反射帯多層膜層12SのS偏光立ち上がり部と長波長反射帯多層膜層12LのS偏光立ち下がり部が使用波長域の中心波長に近接するように多層膜層を設計する。その結果、図3に示す所望の広い有効偏光分離波長領域を有する平板偏光ビームスプリッタ10が得られる。
【0036】
なお、各層の光路長差LHおよびLLがλ0/4の単純な多層膜とした場合、有効偏光分離波長領域におけるP偏光透過率の波長変動が大きくなるため、膜厚dHおよびdLを調整することによりP偏光透過率が95%以上となる多層膜構成とすることが好ましい。
【0037】
高屈折率誘電体膜と低屈折率誘電体膜の屈折率差(nH−nL)が大きなほど、主光線の入射角θが大きな配置ほど、短波長反射帯多層膜層12Sおよび長波長反射帯多層膜層12Lの個々の偏光分離波長帯が広いため、平板偏光ビームスプリッタ10においても広い有効偏光分離波長領域が得られる。
【0038】
例えば、レーザ光源1として高情報記録密度光ディスクBDの記録再生用の光ヘッド装置に搭載される青色半導体レーザを用いる場合、レーザ光源の発振波長の個体差ばらつきおよび温度変化に伴う発振波長変動を考慮すると、使用波長帯域は398〜415nm程度となり、この使用波長帯域においてS偏光反射およびP偏光透過の偏光分離機能が重要となる。本発明の平板偏光ビームスプリッタ10を入射角θ=45°の配置で用いた光ヘッド装置とすることにより、使用波長帯域において95%以上の高いS偏光反射およびP偏光透過の偏光分離機能が実現できる。
【0039】
一方、短波長反射帯多層膜層12Sあるいは長波長反射帯多層膜層12Lのみが平板基板11の片面に成膜された従来の平板偏光ビームスプリッタとした場合、同等の偏光分離機能が得られる波長帯域幅は10nm以下の狭い領域に留まるため、青色半導体レーザの波長変動に伴い光ヘッド装置の信号光量が安定せず、記録再生エラーが発生し問題となる。
【0040】
また、図1の光ヘッド装置100に示すように、平板偏光ビームスプリッタ10が発散光および収束光の入射光配置において用いられる場合、短波長反射帯多層膜層12Sおよび長波長反射帯多層膜層12Lを構成する高屈折率nHおよび低屈折率nLの誘電体膜の光路長差LHおよびLLは、(4a)、(4b)式に示すように入射角θに応じて変化する。主光線の入射角θに比べて、大きな入射角では偏光分離波長領域が短波長側に、小さな入射角では偏光分離波長領域が長波長側にシフトする。
【0041】
その結果、例えば入射角θ=45°の平行光に対しては使用波長帯域において高い偏光分離特性が実現できるが、入射角45°±8°の発散光に対しては、使用波長帯域をカバーする高い偏光分離特性が実現できないといった問題が生じる可能性がある。具体的には、入射角θ=45°で波長帯域幅約25nmに対して高い偏光分離機能を示す平板偏光ビームスプリッタ10の場合、入射角45°±8°の発散光に対する高い偏光分離特性が得られる波長幅は約5nmに低下する。
【0042】
光ヘッド装置100において、レーザ光源1からの出射光はその半値強度全角の放射角が6°から22°程度の楕円強度分布を有し、コリメートレンズ3で平行光とした後対物レンズで光ディスクの情報記録面に集光する。このとき、対物レンズの開口径に対して実効的な開口数が低下しない強度分布となるようにレーザ光源1の出射発散光に対するコリメートレンズ3による取り込み角が設定される。その結果、レーザ光源1とコリメートレンズ3の間の光路中に配置された平板偏光ビームスプリッタ10は、入射光が主光線の入射角θに対して±6°から±9°程度の発散光の配置となる。
【0043】
平板偏光ビームスプリッタへの入射角が主光線に対して分布した発散光中でも高い偏光分離特性を実現する2種類の方法を以下に説明する。
【0044】
1.光学膜厚が空間分布した多層膜層
平板偏光ビームスプリッタの多層膜層を構成する高屈折率nHと低屈折率nLの誘電体膜の光路長差LHおよびLLは(4a)、(4b)式に示す入射角依存性があるため、主光線に対する入射角θからの差異による光路長差変化分を各誘電体膜の膜厚dHおよびdLを調整することにより補償すればよい。
【0045】
このような多層膜層構造を有する平板偏光ビームスプリッタ20の法線と入射光の主光線で規定されるXZ面における断面構造の模式図を図5に示す。なお、実際の多層膜層の総膜厚は0.5μmから10μm程度とわずかだが、説明のために膜厚を拡大強調して示している。
【0046】
各誘電体膜の膜厚dHおよびdLは主光線の入射角θに対し、広角(θ+α)側では厚く、狭角(θ−α)側では薄くなるよう、狭角側から広角側へ各誘電体膜の膜厚が連続的に空間分布した多層膜層構造とする。
【0047】
なお、図5の紙面に垂直なY軸方向において、平板偏光ビームスプリッタ20に対する主光線の入射角成分は0°のため、(4a)、(4b)式より±10°以下程度の発散光における入射角変化に対する光路長差LHおよびLLの変動はわずかであり、Y軸方向の各誘電体膜の膜厚を調整する可能性は低い。
【0048】
このような多層膜層の分光特性における入射角依存性を膜厚調整で補正する技術は、ウェッジ付き光学フィルタなどの製品に適用されている成膜時に膜厚補正板を配置するなどの手法を用いることにより実現可能である。
【0049】
2.主光線の入射角θが大きくなる配置
前述したように、平板偏光ビームスプリッタの多層膜層を構成する高屈折率誘電体膜と低屈折率誘電体膜の屈折率差(nH−nL)が大きいほど、主光線の入射角θが大きな配置ほど、短波長反射帯多層膜層12Sおよび長波長反射帯多層膜層12Lの個々の偏光分離波長帯が拡がるため、平板偏光ビームスプリッタにおいても有効偏光分離波長領域を拡大することができる。
【0050】
屈折率差(nH−nL)は用いられる実用的な透明誘電体膜材料によって制約が有る。一方、主光線の入射角θを大きくするほど入射光束径に対する平板偏光ビームスプリッタ10の受光面積を拡大することが重要である。これは平板偏光ビームスプリッタ10の大型化およびコストアップを招き光ヘッド装置100の大形化につながるといった問題が生じやすいからである。また、図1においてレーザ光源1と光検出器6が近づき干渉するため、配置上許容される入射角θには上限が有る。
【0051】
このような問題を回避し、発散光中配置においてレーザ光源の使用波長帯域にわたり高い偏光分離特性を実現するためには、主光線の入射角θを45°から65°の範囲とすることが有効である。
【実施例】
【0052】
[例1]
高密度情報記録光ディスクBDの記録再生用の光ヘッド装置に用いられる青色半導体レーザをBD用の405nm波長帯の使用波長帯域398〜415nmのレーザ光源1とし、主光線の入射角θ=45°の平行光中に平板偏光ビームスプリッタ21を配置した本発明の光ヘッド装置200の構成例の模式図を図6に示す。光ヘッド装置100の構成例の模式図を示す図1と同じ機能の部品は同じ番号を記し、説明を省略する。
【0053】
光ヘッド装置100との相違点として、レーザ光源1から出射したP偏光(第1の直線偏光)の発散光がコリメートレンズ3により平行光となって平板偏光ビームスプリッタ21に入射角θ=45°で入射する。さらに、光ディスク7の情報記録面により反射された信号光が対物レンズ5を再度透過して平行光となり、1/4波長板4を往復することによりS偏光(第2の直線偏光)に変換されて平板偏光ビームスプリッタ21に入射し、反射された光は平板ビームスプリッタ21bで反射され、平板ビームスプリッタ21aを透過し、コリメートレンズ3aにより光検出器6aの受光面に集光される。
【0054】
さらに、光ヘッド装置200ではDVDおよびCDの光ディスクの記録再生も実現するため、DVDとCD用の光ヘッド装置200aが一体化されている。DVD用の660nm波長帯の光とCD用の785nm波長帯の光を切り替えて発振する2波長レーザ光源1aから出射するS偏光の発散光のうち約90%が平板ビームスプリッタ21aで反射され、コリメートレンズ3aにより平行光となって平板ビームスプリッタ21bを透過し、DVDおよびCD用の対物レンズ5aにより光ディスク7aの情報記録面に集光される。光ディスク7aの情報記録面で反射された信号光が前記対物レンズ5aを再度透過して平行光となり、1/4波長板4aを往復することによりP偏光に変換されて平板ビームスプリッタ21bを透過し、コリメートレンズ3aにより平板ビームスプリッタ21aを透過した一部の光が光検出器6aの受光面に集光される。
【0055】
ここで、平板ビームスプリッタ21bはBD用の405nm波長帯の少なくともS偏光を反射し、DVD用の660nm波長帯およびCD用の785nm波長帯のP偏光およびS偏光を透過する分光特性を有する平板ビームスプリッタである。また、平板ビームスプリッタ21aはBD用の405nm波長帯の少なくともS偏光を透過し、DVD用の660nm波長帯およびCD用の785nm波長帯の少なくともS偏光を90%以上反射するとともに少なくともP偏光を10%以上透過する分光特性を有する平板ビームスプリッタである。平板ビームスプリッタ21aおよび21bは偏光分離機能が必須ではないため、従来の多層膜設計にて所望の分光特性が実現できる。
【0056】
図6には記載していないが、レーザ光源1とコリメートレンズ3の間の光路中や、レーザ光源1aとコリメートレンズ3aの間の光路中にトラッキングサーボ信号を得るために、0次透過光と±1次回折光を生成する3ビーム回折格子を配置する場合がある。また、平板ビームスプリッタ21aと光検出器6aの間の光路中にフォーカスサーボ信号を得るために、透過光に非点収差を発生させるシリンドリカルレンズなどを配置する場合がある。
【0057】
次に、平板偏光ビームスプリッタ21の具体的な構成および機能を図2を用いて以下に説明する。屈折率1.52の透光性ガラスの平板基板11の片面に、基板側から高屈折率nH=2.20のTa2O5誘電体膜と低屈折率nL=1.47のSiO2誘電体膜を交互に、長波長反射帯多層膜層12Lおよび短波長反射帯多層膜層12Sを各々30層ずつ積層し、合計60層の構成となるように成膜する。図2の12Sと12Lの順番が逆の構成に対応する。
【0058】
青色半導体レーザ光源の基準波長λ0=405nmを用いると、(4a)、(4b)式で定義される光路長差の60層の平均値は0.268λ0、長波長反射帯多層膜層12Lと短波長反射帯多層膜層12Sの各30層の光路長差の平均値は0.305λ0と0.231λ0である。使用波長帯域398〜415nmにおける主光線の入射角θ=45°で±3°の発散および収束光に対して高いP偏光透過率を確保するために、長波長反射帯多層膜層12Lにおける平板基板11および短波長反射帯多層膜層12Sとの境界の数層と、短波長反射帯多層膜層12Sにおける大気との境界の数層は光路長差の各平均値0.305λ0と0.231λ0に対して最大0.4λ0程度異なる光路長差に設定するとともに、その他の層の各光路長差を各平均値から±0.06λ0以内で各誘電体膜の膜厚dHおよびdLを微調整した設計としている。
【0059】
なお、主光線の入射角θ=45°に対して±3°の発散および収束光としたのは、情報記録面が2層からなるBD用の光ディスクの場合、光ディスクカバー厚の相違に応じて発生する情報記録面における集光スポットの球面収差を補正するためにコリメートレンズ3および3aを光軸方向に移動して±3°以下の範囲で発散光または収束光に調整することが必要となるためである。コリメートレンズ3と3aの光軸方向の移動は、2個のコリメートレンズをホルダに一体固定し、ステッピングモータなどを用いて駆動する。
【0060】
このような構成からなる平板偏光ビームスプリッタ21のP偏光とS偏光に対する分光透過率波長依存性の計算結果を図7に示す。(P−45)と(S−45)は入射角45°、(P−42)と(S−42)は入射角42°、(P−48)と(S−48)は入射角48°に対するP偏光とS偏光の分光透過率を示す。すなわち、使用波長帯域398〜415nmにおける入射角45°±3°の発散光に対し、95%以上のP偏光透過率と96%以上のS偏光反射率を示す平板偏光ビームスプリッタ21となっている。なお、入射角θ=45°の平行光に対しては、波長帯域395〜417nmにおいて98%以上のP偏光透過率と98%以上のS偏光反射率を示す。
【0061】
比較例1として、従来技術である短波長反射帯多層膜層12Sのみからなる平板偏光ビームスプリッタとした時のP偏光とS偏光に対する分光透過率波長依存性の計算結果を図8に示す。入射角θ=45°の平行光に対して90%以上のP偏光透過率と90%以上のS偏光反射率を示す波長帯域は400〜412nmで、入射角45°±3°の発散光に対して90%以上のP偏光透過率と90%以上のS偏光反射率を示す波長帯域は405〜409nmとなり、使用波長帯域に対する高い偏光分離特性が得られにくい。
【0062】
また、比較例2として、従来技術である長波長反射帯多層膜層12Lのみからなる平板偏光ビームスプリッタとした時のP偏光とS偏光に対する分光透過率波長依存性の計算結果を図9に示す。入射角θ=45°の平行光に対して90%以上のP偏光透過率と90%以上のS偏光反射率を示す波長帯域は400〜410nmで、入射角45°±3°の発散光に対して90%以上のP偏光透過率と90%以上のS偏光反射率を示す波長帯域は405〜407nmとなり、使用波長帯域に対する高い偏光分離特性が得られにくい。
【0063】
本発明の光ヘッド装置200によれば、BD用光ディスク7の記録再生において往路および復路の高い光利用効率が得られ、比較的低消費電力の青色半導体レーザ光源を用いることができるとともに、SNの高い光信号検出ができるため安定した動作が実現する。また、偏光ビームスプリッタプリズムの代わりに平板偏光ビームスプリッタ21を用い、他の光合分波素子も平板ビームスプリッタから成るため、生産性が高くコストダウンが可能となる。さらに、DVDおよびCDの用光ディスク7aの記録再生に対しても、BD用と共通の光検出器6aを用いるため、光ヘッド装置の小型化につながるとともにコストダウンとなる。
【0064】
[例2]
本発明の第2の実施例を、光ヘッド装置100の構成例の模式図である図1を用いて説明する。
レーザ光源1とし実施例1と同じ青色半導体レーザを用い、主光線の入射角θ=45°で±8°の発散光中に平板偏光ビームスプリッタ20を配置した構成としている。光ヘッド装置100の構成および作用は実施の形態に記したため説明を省略する。
平板偏光ビームスプリッタ20の具体的な構成および機能を図5を用いて以下に説明する。
【0065】
平板偏光ビームスプリッタ20の片面に成膜された多層膜層は、主光線の入射角θ=45°となる位置において、実施例1の平板偏光ビームスプリッタ10と同じ各誘電体膜の膜厚dHおよびdLの多層膜設計構成としている。さらに、平板偏光ビームスプリッタ10のXZ面内で、入射角が45°に対して狭角(45°−8°)側から広角(45°+8°)側に向かって連続的に各誘電体膜の膜厚が厚くなるように空間分布したウェッジ付き多層膜層とし、多層膜層の分光特性における入射角依存性を補正している。
【0066】
具体的には、入射角が37°(=45°−8°)でおよび53°(=45°+8°)の時、入射角θ=45°に比較して有効偏光分離波長領域が略+9nmおよび略−9nmだけ波長シフトするため、各誘電体膜の膜厚を入射角θ=45°の位置の膜厚に対する比率として、入射角が37°および53°の位置で略−2.3%および略+2.3%程度の連続的な膜厚分布を形成する。
【0067】
その結果、使用波長帯域398〜415nmにおいて、主光線の入射角θ=45°で±8°の発散光に対し96%以上のP偏光透過率と96%以上のS偏光反射率となる高い偏光分離特性を示す平板偏光ビームスプリッタ20が得られ、比較的低消費電力で安定したSNの高い光信号検出ができる光ヘッド装置が実現する。
【0068】
[例3]
レーザ光源1とし実施例1および2と同じ青色半導体レーザを用い、主光線の入射角θ=60°で±8°の発散光中に平板偏光ビームスプリッタ10を配置した図1に示す本発明の光ヘッド装置100において、図2に示す平板偏光ビームスプリッタ10の本実施例における具体的な構成および機能を以下に説明する。光ヘッド装置100の構成および作用は実施の形態に記したため説明を省略する。
【0069】
屈折率1.52の透光性ガラスの平板基板11の片面に、基板側から高屈折率nH=2.20のTa2O5誘電体膜と低屈折率nL=1.47のSiO2誘電体膜を交互に合計58層積層した構成からなる短波長反射帯多層膜層12Sと長波長反射帯多層膜層12Lを成膜する。青色半導体レーザ光源の基準波長λ0=405nmを用いると、(4a)、(4b)式で定義される光路長差の58層の平均値は0.263λ0、30層からなる短波長反射帯多層膜層12Sと28層からなる長波長反射帯多層膜層12Lの各光路長差の平均値は0.223λ0と0.304λ0である。使用波長帯域398〜415nmおよび入射角60°±8°の発散光に対して高いP偏光透過率を確保するために、短波長反射帯多層膜層12Sにおける平板基板11との境界の数層と、長波長反射帯多層膜層12Lにおける短波長反射帯多層膜層12Sおよび大気との境界の数層は光路長差の各平均値0.223λ0と0.304λ0に対して最大0.4λ0程度異なる光路長差に設定するとともに、その他の層の各光路長差を各平均値から±0.06λ0以内となるように各誘電体膜の膜厚dHおよびdLを微調整した多層膜設計としている。
【0070】
このような構成からなる平板偏光ビームスプリッタ10のP偏光とS偏光に対する分光透過率波長依存性の計算結果を図10に示す。(P−60)と(S−60)は入射角60°、(P−52)と(S−52)は入射角52°、(P−68)と(S−68)は入射角68°に対するP偏光とS偏光の分光透過率を示す。すなわち、使用波長帯域398〜415nmにおける入射角60°±8°の発散光に対し、98%以上のP偏光透過率と98%以上のS偏光反射率を示す平板偏光ビームスプリッタ10となっている。なお、入射角θ=60°の平行光に対しては、波長帯域389〜422nmにおいて93%以上のP偏光透過率と99%以上のS偏光反射率を示す。
【0071】
比較例として、従来技術である短波長反射帯多層膜層12Sまたは長波長反射帯多層膜層12Lのみからなる平板偏光ビームスプリッタとした時のP偏光とS偏光に対する分光透過率波長依存性の計算結果から、入射角θ=60°の平行光に対して90%以上のP偏光透過率と90%以上のS偏光反射率を示す波長帯域は400〜412nmで、入射角60°±8°の発散光に対して90%以上のP偏光透過率と90%以上のS偏光反射率を示す波長帯域405〜409nmとなり、使用波長帯域に対する高い偏光分離特性が得られない。
【0072】
本発明の光ヘッド装置100によれば、BD用光ディスク7の記録再生において往路および復路の高い光利用効率が得られ、比較的低消費電力の青色半導体レーザ光源を用いることができるとともに、SNの高い光信号検出ができるため安定した動作が実現する。また、偏光ビームスプリッタプリズムの代わりに平板偏光ビームスプリッタを用いているため、生産性が高くコストダウンが可能となる。
【0073】
実施例1から3では、レーザ光源1としてBD用光ディスクの使用波長帯域398〜415nmの青色半導体レーザ光源を用いる例について説明したが、DVD用光ディスクの使用波長帯域645〜675nmの赤色レーザ光源や、CD用光ディスクの使用波長帯域765〜805nmの近赤外レーザ光源を用いる場合でも、平板偏光ビームスプリッタの多層膜層の基準波長λ0の相違に応じて各誘電体膜の膜厚dHおよびdLを調整した多層膜設計構成に変更すれば対応できる。
【0074】
また、同じ多層膜設計手法を用いて、BD波長用の多層膜層とDVD波長用の多層膜層を積層することにより、BD使用波長帯域およびDVD使用波長帯域に対して高い偏光分離機能を実現する平板偏光ビームスプリッタとすることができるため、光ヘッド装置のさらなる小型化およびコストダウンにつながる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施形態の光ヘッド装置の構成例を示す模式図。
【図2】本発明の光ヘッド装置に搭載された平板偏光ビームスプリッタの構造を示す断面図。
【図3】本発明の光ヘッド装置に搭載された平板偏光ビームスプリッタのP、S偏光の分光透過特性形状例を示すグラフ。
【図4】光路長差がλ0/4の高屈折率と低屈折率の誘電体膜を交互に積層した多層膜の斜入射光に対するP、S偏光の分光透過特性形状例を示すグラフ。
【図5】本発明の光ヘッド装置に搭載された平板偏光ビームスプリッタにおいて、多層膜層に膜厚分布が付与された構造を示す断面図。
【図6】本発明の第1の実施例の光ヘッド装置の構成例を示す模式図。
【図7】本発明の第1の実施例の光ヘッド装置に搭載された平板偏光ビームスプリッタのP、S偏光の分光透過特性を示すグラフ。
【図8】比較例1として、従来の平板ビームスプリッタのP、S偏光の分光透過特性を示すグラフ。
【図9】比較例2として、従来の平板ビームスプリッタのP、S偏光の分光透過特性を示すグラフ。
【図10】本発明の第3の実施例の光ヘッド装置に搭載された平板偏光ビームスプリッタのP、S偏光の分光透過特性を示すグラフ。
【図11】従来の偏光ビームスプリッタプリズムを搭載した光ヘッド装置の構成例を示す模式図。
【図12】従来の平板ビームスプリッタを搭載した光ヘッド装置の構成例を示す模式図。
【符号の説明】
【0076】
1、1a:レーザ光源
2a:偏光ビームスプリッタプリズム
2b、21a、21b:平板ビームスプリッタ
3、3a:コリメートレンズ
4、4a:1/4波長板
5、5a:対物レンズ
6、6a:光検出器
7、7a:光ディスク
10、20、21:平板偏光ビームスプリッタ
11:平板基板
12S:短波長反射帯多層膜層
12L:長波長反射帯多層膜層
100、200、200a:光ヘッド装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源と、
前記レーザ光源から出射された第1の直線偏光を円偏光に変換するとともに、光記録媒体から反射された円偏光を第1の直線偏光と直交する第2の直線偏光に変換する1/4波長板と、
前記1/4波長板を透過した円偏光を光記録媒体に集光する対物レンズと、
前記光記録媒体により反射され前記1/4波長板により変換された第2の直線偏光を検出する光検出器と、
前記レーザ光源と前記1/4波長板との間の光路中に配置され、前記レーザ光源から出射された第1の直線偏光を透過又は反射し、かつ、前記光記録媒体から反射され前記1/4波長板で円偏光から第2の直線偏光に変換された反射光を反射又は透過する偏光ビームスプリッタと、を備えた光ヘッド装置であって、
前記偏光ビームスプリッタは、透光性基板の表面に屈折率の異なる少なくとも2種以上の膜材料からなる多層膜が成膜され、斜入射光線の入射角に伴う反射帯の立ち上がり・立ち下がりの偏光透過特性の違いを利用し、互いに直交する偏光成分を透過・反射させるとともに、互いに長、短波長を中心波長とする2つの反射帯多層膜層をその分離面に設け、短波長反射帯の長波長側立ち上がりと長波長反射帯の短波長側立ち下がりを近接させ、それぞれの反射、透過偏光特性を乗ずることにより偏光分離有効波長域を拡げたことを特徴とする光ヘッド装置。
【請求項2】
前記偏光ビームスプリッタの法線と入射光の主光線で規定される平面内における入射角の相違に起因して発生する分光特性の入射角依存性を補正するように、前記多層膜層の光学膜厚が調整されていることを特徴とする請求項1に記載の光ヘッド装置。
【請求項3】
前記多層膜が、少なくとも短波長反射帯多層膜層および長波長反射帯多層膜層であることを特徴とする請求項1または2に記載の光ヘッド装置。
【請求項1】
レーザ光源と、
前記レーザ光源から出射された第1の直線偏光を円偏光に変換するとともに、光記録媒体から反射された円偏光を第1の直線偏光と直交する第2の直線偏光に変換する1/4波長板と、
前記1/4波長板を透過した円偏光を光記録媒体に集光する対物レンズと、
前記光記録媒体により反射され前記1/4波長板により変換された第2の直線偏光を検出する光検出器と、
前記レーザ光源と前記1/4波長板との間の光路中に配置され、前記レーザ光源から出射された第1の直線偏光を透過又は反射し、かつ、前記光記録媒体から反射され前記1/4波長板で円偏光から第2の直線偏光に変換された反射光を反射又は透過する偏光ビームスプリッタと、を備えた光ヘッド装置であって、
前記偏光ビームスプリッタは、透光性基板の表面に屈折率の異なる少なくとも2種以上の膜材料からなる多層膜が成膜され、斜入射光線の入射角に伴う反射帯の立ち上がり・立ち下がりの偏光透過特性の違いを利用し、互いに直交する偏光成分を透過・反射させるとともに、互いに長、短波長を中心波長とする2つの反射帯多層膜層をその分離面に設け、短波長反射帯の長波長側立ち上がりと長波長反射帯の短波長側立ち下がりを近接させ、それぞれの反射、透過偏光特性を乗ずることにより偏光分離有効波長域を拡げたことを特徴とする光ヘッド装置。
【請求項2】
前記偏光ビームスプリッタの法線と入射光の主光線で規定される平面内における入射角の相違に起因して発生する分光特性の入射角依存性を補正するように、前記多層膜層の光学膜厚が調整されていることを特徴とする請求項1に記載の光ヘッド装置。
【請求項3】
前記多層膜が、少なくとも短波長反射帯多層膜層および長波長反射帯多層膜層であることを特徴とする請求項1または2に記載の光ヘッド装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−15617(P2010−15617A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172479(P2008−172479)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000231475)日本真空光学株式会社 (9)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000231475)日本真空光学株式会社 (9)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
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