光信号処理器
【課題】透過スペクトルの偏波依存性および偏波に関する温度依存性を抑制した光信号処理器を提供する。
【解決手段】発明は光信号処理器であって、各々基板上に作製された、二つの結合器(722,724)および該結合器を連結する二本のアーム導波路(706,708)を備えたマッハツェンダ干渉計回路700において、水平偏波の光を垂直偏波の光に変換し、垂直偏波の光を水平偏波の光に変換する偏波回転器732が、二本のアーム導波路の各々の光路長を二分する溝に設けられており、二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差を使用光波長で割った値が、2m−0.2から2m+0.2(mはゼロを含む整数)となるように、二本のアーム導波路の少なくとも一方に部分的にレーザ照射等を施して複屈折を調整した。
【解決手段】発明は光信号処理器であって、各々基板上に作製された、二つの結合器(722,724)および該結合器を連結する二本のアーム導波路(706,708)を備えたマッハツェンダ干渉計回路700において、水平偏波の光を垂直偏波の光に変換し、垂直偏波の光を水平偏波の光に変換する偏波回転器732が、二本のアーム導波路の各々の光路長を二分する溝に設けられており、二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差を使用光波長で割った値が、2m−0.2から2m+0.2(mはゼロを含む整数)となるように、二本のアーム導波路の少なくとも一方に部分的にレーザ照射等を施して複屈折を調整した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏波依存性および偏波に関する温度依存性を抑制した光信号処理器に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の長距離・大容量化へのさらなる要求から、波長多重通信は重要な技術となっている。この波長多重通信システムに必要不可欠なデバイスとして、光信号を波長によって合分波するための波長合分波フィルタがある。例えば、シンプルな波長合分波フィルタとしては、光導波路を用いたマッハツェンダ干渉計回路(以下、MZI)を用いたものがある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
図1に、このMZIの概略図を示す。MZI100は、二つの結合器(122,124)と、二つの結合器を結ぶアーム導波路(106,108)とを備え、結合器122は二つの入力導波路(102、104)を、結合器124は二つの出力導波路(110,112)を備える。
【0004】
以下では、マッハツェンダ干渉計の動作原理とその偏波依存性について説明する。
【0005】
MZI100において、入力I1(入力導波路102)から出力O1(出力導波路110)へのパスをスルーパス、入力I1(入力導波路104)から出力O2(出力導波路112)へのパスをクロスパスと定義する。このとき、公知の干渉原理によって、各パスの光出力(Othrough、Ocross)は下式のように記述できる。(ここでは結合器の結合率は50%とした。)
【0006】
【数1】
【0007】
尚、I0は入力光の光強度、nは実効屈折率、ΔLは二本のアーム導波路の長さの差、λは使用波長を示す。
【0008】
スルーパスは式(1)よりnΔL=λm、クロスパスは式(2)より
【0009】
【数2】
【0010】
を満たす信号波長において、周期的に光信号が消光し他方のパスへ出力され、波長合分波フィルタとして機能する。
【0011】
このようなデバイスに用いられる光導波路の作製方法としては、例えば次のようなものがある。
【0012】
火炎堆積法を用いてシリコン基板上に、SiO2を主体とした下部アンダークラッド層およびSiO2にGeO2を添加したコア層を順に堆積する。次いで、反応性イオンエッチングを用いてコア層をパターン化する。再び火炎堆積法を用いて、オーバクラッド層を堆積して埋め込み型光導波路を作製する。
【0013】
通常、このような光導波路は、コアの形状や、基板とクラッドの熱膨張係数の違いにより発生する応力によって、複屈折を有する。つまり、基板に垂直な偏光方向を有するTM偏波と基板に平行な偏光方向を有するTE偏波の実効屈折率(nTE,nTM)はそれぞれ異っている。ここで、偏波に依存した光路長差Δ(BL)は次式で与えられる。
【0014】
【数3】
【0015】
尚、l1,l2はそれぞれ二本のアーム導波路に沿う線座標である。また、
【0016】
【数4】
【0017】
は複屈折値のアーム導波路に沿う線積分である。
【0018】
偏波に依存した光路長差Δ(BL)は有限の値を持つため、消光する波長に偏波依存性が発生する。この偏波依存性は偏波依存損失(PDL)や偏波依存周波数差(PDf)の発生要因となり、信号品質を大きく劣化させる。
【0019】
この偏波依存性を解消するための手法として、以下のようなものが知られている。
【0020】
(従来技術の第一例)
二本のアーム導波路の中心を結ぶ直線上に、使用波長の1/2相当の半波長板を、基板面の水平方向(あるいは法線)から主軸が45度傾くように挿入したマッハツェンダ干渉計回路がある(非特許文献2参照)。
【0021】
図2に、従来技術の第一例のMZIの概略図を示す。MZI200は、二つの結合器(222,224)と、二つの結合器を結ぶ二つのアーム導波路(206,208)とを備える。さらに、MZI200は、アーム導波路(206,208)の光路長を二分するように配置された半波長板232を備える。また、結合器222は二つの入力導波路(202,204)を、結合器224は二つの出力導波路(210,212)を備える。
【0022】
MZI200では、光信号が半波長板232までTE偏波(もしくはTM偏波)でアーム導波路(206,208)の半分の距離を伝搬し、半波長板232でTE偏波からTM偏波(もしくはTM偏波からTE偏波)に偏波変換される。そして、アーム導波路(206,208)の残りの半分の距離をTM偏波(もしくはTE偏波)で伝搬する。TE偏波(もしくはTM偏波)からTM偏波(もしくはTE偏波)へ偏波変換された光信号は、いずれも光路長差
【0023】
【数5】
【0024】
となり、偏波に依存した光路長差Δ(BL)を解消することができる。
【0025】
(従来技術の第二例)
偏波に依存した光路長差Δ(BL)を使用光波長の整数倍(0を含む)としたマッハツェンダ干渉計回路がある(特許文献1参照)。これは、マッハツェンダ干渉計では使用波長λの整数倍の位相差を識別できないことから、見掛け上、TM偏波の干渉条件とTE偏波の干渉条件とが一致することに着目し、偏波に依存した光路長差Δ(BL)を整数倍(0を含む)としたものである。
【0026】
【特許文献1】特公平6−60982号公報
【特許文献2】特許第3703013号公報
【特許文献3】国際公開第01/059495号パンフレット
【非特許文献1】K. Inoue et al., “A Four-Channel Optical Waveguide Multi/Demultiplexer for 5-GHz Spaced Optical FDM Transmission”, JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, Vol.6, No.2, FEB. 1988, pp.339-345
【非特許文献2】Y. Inoue et al., “Elimination of Polarization Sensitivity in Silica-Based Wavelength Division Multiplexer Using a Polyimide Half Waveplate”, JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, Vol.15, No.10, Oct. 1997, pp.1947-1957
【非特許文献3】B. L. Heffner, “Deterministic, Analyticall Complete Measurement of Polarization-Dependent Transmission Through Optical Devices”, IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL.4, NO.5, MAY 1992, pp.451-454
【非特許文献4】M. Okuno et al., “Birefringence Control of Silica Waveguides on Si and Its Application to a Polarization-Beam Splitter/Switch”, JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, VOL.12, NO.4, APRIL, 1994, pp.625-633
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
しかしながら、前述のマッハツェンダ干渉計回路(以下、MZI)は以下に述べる問題があった。
【0028】
従来技術の第一例は、半波長板を用いて、TE偏波をTM偏波(もしくは、TM偏波をTE偏波)に完全に偏波変換を行うことが前提である。しかしながら、半波長板の膜厚は作製誤差によって所望の厚さからずれるため、設計波長とは一致しない。この結果、TE偏波からTM偏波へ完全に偏波変換せず、その一部がTE偏波として残ってしまう。そのような半波長板を使用した場合、従来技術の第一例では、TE偏波で入射し偏波変換せずにそのまま伝播したTE偏波の光路長差はnTEΔLとなる。つまり、偏波に因らず光路長差を
【0029】
【数6】
【0030】
とする目的が達成されず、消光する周波数に偏波依存性が発生してしまう。
【0031】
例えば、消光する波長の周波数間隔(周期)をFSR(Frequency Spectral Range)、偏波に依存した消光する波長の差の最大値をPDf(Polarization Dependent Frequency)と定義した場合、FSRが10GHzの従来技術の第一例のマッハツェンダ干渉計回路においてそのPDfはクロスパスとスルーパスともに0.4GHzも発生してしまう。信号品質の劣化を避ける目的で、このPDfはFSRの100分の1以下が要求されており、従来技術では仕様を満たすことは困難であった。
【0032】
従来技術の第二例では、PDfが大きな複屈折依存性を有することが問題となる。その結果、FSRの100分の1というPDfを満たす事が非常に困難であり、また、温度依存性に対しても大きなPDf変動を有してしまう。簡単にこの複屈折依存性に関して説明する。
【0033】
スルーパスにおけるTE偏波およびTM偏波の消光する周波数
【0034】
【数7】
【0035】
は次式を満たす。
【0036】
【数8】
【0037】
ここで、mは次数、FSRTEおよびFSRTMはそれぞれTE偏波およびTM偏波のFSR、cは光速を示す。上の二式からPDfは次式と変形できる。
【0038】
【数9】
【0039】
ここで、
【0040】
【数10】
【0041】
である。実効屈折率を1.45、消光する周波数を193THzとしたとき、上式より、PDfの複屈折に対する変化量は133×1012となる。これは、複屈折が0.1×10-4だけ変化した時、PDfが1.33GHzも変化することを意味しており、PDfが大きな複屈折依存性を有することがわかる。従って、複屈折の高精度な調整が必要となり、FSRの100分の1というPDfを満たす事は非常に困難であった。
【0042】
一方、環境温度によって生じる、基板とクラッドとの熱膨張係数の違いや、回路を接着する放熱基板と回路基板との熱膨張係数の違いによって、導波路に加わる内部応力が変化する。その結果、光弾性効果を介して複屈折の値が変化するため、環境温度によってPDfが変動してしまう。
【0043】
例えば、従来技術の第二例を用いてPDfを0.33GHzまで複屈折を調整した、FSRが10GHzのマッハツェンダ干渉計において、環境温度を−10℃から80℃まで変化させた場合、PDfが6GHzも変動し問題となっている。
【0044】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、透過スペクトルの偏波依存性および偏波に関する温度依存性を抑制した光信号処理器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0045】
発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は光信号処理器であって、各々基板上に作製された、二つの結合器および前記二つの結合器を連結する二本のアーム導波路を備えたマッハツェンダ干渉計回路において、水平偏波の光を垂直偏波の光に変換し、垂直偏波の光を水平偏波の光に変換する偏波回転器が、前記二本のアーム導波路の各々の光路長を二分する溝に設けられており、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差を使用光波長で割った値が、2m−0.2から2m+0.2(mはゼロを含む整数)であることを特徴とする。
【0046】
請求項2に記載の発明は、光信号処理器であって、各々基板上に作製された、二つの結合器および前記二つの結合器を連結する二本のアーム導波路を備えたマッハツェンダ干渉計回路において、水平偏波の光を垂直偏波の光に変換し、垂直偏波の光を水平偏波の光に変換する二つの偏波回転器が、前記二本のアーム導波路の各々の光路長を二分する溝にそれぞれ設けられており、前記偏波回転器の一方で変換される光信号と、前記偏波回転器の他方で変換される光信号の位相がπずれており、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差を使用光波長で割った値が、(2m−1)−0.2から(2m−1)+0.2(mはゼロを含む整数)であることを特徴とする。
【0047】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の前記偏波回転器は、光学的主軸が前記基板の面の法線から45度傾斜しかつ光信号の伝搬方向と直交するように設置された半波長板であることを特徴とする。
【0048】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の前記二つの偏波回転器は、光学的主軸が前記基板の面の法線から45度傾斜しかつ光信号の伝搬方向と直交するように設置された半波長板であって、前記偏波回転器の一方の光学主軸と前記偏波回転器の他方の光学主軸とが直行することを特徴とする。
【0049】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の前記結合器は、方向性結合器または多モード干渉型結合器であることを特徴とする。
【0050】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、導波路幅が部分的に変化する導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする。
【0051】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、部分的にレーザが照射された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする。
【0052】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、両脇の一部に応力開放溝が形成された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする。
【0053】
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、応力付与膜が上面に形成された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする。
【0054】
請求項10に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、応力を変化させるための薄膜ヒータが上部に形成された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0055】
以上説明したように、本発明によれば、透過スペクトルの偏波依存性および偏波に関する温度依存性を抑制した光信号処理器を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
始めに図3を参照して、半波長板の動作波長が設計波長からずれたとしても、透過スペクトルが偏波無依存となる条件について説明する。
【0057】
半波長板の動作波長が設計波長からずれた場合に、偏波変換しなかった偏波の光路長差と、偏波変換した偏波の光路長差が一致しないことが問題である。そこで、それらの光路長差を見かけ上同じにすることを考える。
【0058】
具体的には、TE偏波で入射し偏波変換せずにそのまま伝播したTE偏波の光路長差nTEΔLと、TM偏波で入射し半波長板にて偏波変換してTE偏波で伝搬した偏波の光路長差
【0059】
【数11】
【0060】
との差を、ゼロもしくは使用波長の整数倍とし、かつ、TM偏波で入射し偏波変換せずにそのまま伝播したTM偏波の光路長差nTMΔLと、TE偏波で入射し半波長板にて偏波変換してTM偏波で伝搬した偏波の光路長差
【0061】
【数12】
【0062】
との差を、ゼロもしくは使用波長の整数倍とする。
数式を用いて、より具体的に説明する。
【0063】
<半波長板の主軸が同じ方向/スルーパスの場合>
二本のアーム導波路の中央に半波長板が挿入されたマッハツェンダ干渉計であり、半波長板の光学主軸の向きが、基板の面に垂直な線(法線)から45度だけ傾きかつ光信号の伝搬方向と直交しており、それぞれのアーム導波路に挿入された半波長板の光学主軸の向きが同じ方向であるMZIにおいて、I1、アーム1、およびO1を伝搬し出力される光出力は式(7)となる。
【0064】
【数13】
【0065】
ここで、φTEおよびφTMはそれぞれ二本のアーム導波路間のTE偏波およびTM偏波の位相差、Ψは半波長板で与えられる位相差である。尚、結合器の結合率は50%とし、Ψは波長板が設計波長からずれた場合を仮定するので、πとその整数倍以外を仮定する。また、I1、アーム2、およびO1を伝搬し出力される光出力は式(8)となる。
【0066】
【数14】
【0067】
式(7)および(8)より、スルーパスの光出力は式(9)となる。
【0068】
【数15】
【0069】
式(9)から、消光する波長において偏波無依存となる条件は
【0070】
【数16】
【0071】
を満たす時なので、次式を満たせばよい。
【0072】
【数17】
【0073】
ここで、m、n、αは整数を示す。従って、次式となる。
【0074】
【数18】
【0075】
式(13)を書きかえると式(15)となる。
【0076】
【数19】
【0077】
さらに書き換えて、式(16)が導出される。
【0078】
【数20】
【0079】
これより、偏波に依存した光路長差が消光する波長(使用波長)の偶数次となるとき、偏波無依存となることがわかる。
【0080】
一般に、作製誤差のため、導波路の複屈折の値はずれる。しかし、目標とするFSRの100分の1というPDfを満たすためにはある程度の複屈折のばらつきは許容される。
【0081】
そこで、目標とするPDfを達成するための複屈折(もしくは、偏波に依存した光路長差の次数)の許容値を求める。
【0082】
ある波長における光出力の最大値、最小値は、MZIのジョーンズ行列をMとすると、Mの複素共役の転置行列(M*)TとMとの積の固有値を求めることによって導き出せる(非特許文献3参照)。式(9)よりMZIのジョーンズ行列は以下の通り書ける。
【0083】
【数21】
【0084】
(M*)TMの固有値を波長(または周波数)に対して計算し、1.55μm付近のスペクトルを計算しPDfを導出した。
【0085】
図4(a)および(b)に、半波長板の動作波長が使用波長からずれた場合のPDfと複屈折の関係を計算した結果を示す。計算では、結合器の結合率は50%とし、半波長板の動作波長が使用波長から4%ずれた場合を仮定した。これは我々が用いている半波長板の動作波長が、設計波長から4%の誤差(標準偏差)を有するためである。図4(a)および(b)より、PDfをFSRの100分の1とするためには、複屈折の変動は±0.1×10-4以下とすればよい。
【0086】
図5(a)および(b)に、図4(a)および(b)に関して、横軸を次数(偏波に依存性した光路長差Δ(BL)を使用波長で割った値)とした場合のグラフを示す。図5(a)および(b)より、許容される次数の変動量は±0.2次となることがわかる。
【0087】
同様に、図4(a)および(b)を用いて環境温度変化によるPDfの変化が類推できる。
【0088】
図4(a)および(b)の太線は本発明における、細線は従来技術の第二例における、PDfの複屈折依存性を示したものである。本発明のPDfの複屈折依存性が従来技術の第二例に比べて緩和されていることがわかる。つまり、複屈折は環境温度によって変化するため、PDfの環境温度依存性が緩和されることがわかる。
【0089】
<半波長板の主軸が同じ方向/クロスパスの場合>
クロスパスについても同様に、消光する波長において偏波無依存となる条件を計算できる。
I1、アーム1、およびO2を伝搬し出力される光出力は式(18)となる。
【0090】
【数22】
【0091】
ここで、φTEおよびφTMはそれぞれ二本のアーム導波路間のTE偏波およびTM偏波の位相差、Ψは半波長板で与えられる位相差である。結合器の結合率は50%とした。また、I1、アーム2、およびO2を伝播し出力される光出力は式(19)となる。
【0092】
【数23】
【0093】
上の二式より、クロスパスの光出力は式(20)と表すことができる。
【0094】
【数24】
【0095】
式(20)から、消光する波長において偏波無依存となる条件は
【0096】
【数25】
【0097】
を満たす時なので次式を満たせばよい。
【0098】
【数26】
【0099】
ここで、m、n、αは整数を示す。従って、次式となる。
【0100】
【数27】
【0101】
さらに書き換えて、式(26)が導出される。
【0102】
【数28】
【0103】
これより、ある消光する波長において偏波に依存した光路長差を偶数次となるとき、偏波無依存となることがわかる。
【0104】
<半波長板の主軸が直交/スルーパスの場合>
二本のアーム導波路の中央に半波長板が挿入されたマッハツェンダ干渉計であり、二本のアーム導波路に設けられる半波長板の主軸が、基板の面に垂直する線から45度だけ傾きかつ光信号の伝搬方向と直交しており、それぞれのアーム導波路に挿入された波長板の主軸の向きが直交しているMZIにおいて、I1、アーム1、およびO1を伝搬し出力される光出力は式(27)となる。
【0105】
【数29】
【0106】
また、I1、アーム2、およびO1を伝搬し出力される光出力は式(28)となる。
【0107】
【数30】
【0108】
式(27)および(28)より、スルーパスの光出力は式(29)となる。
【0109】
【数31】
【0110】
式(29)から、消光する波長において偏波無依存となる条件は
【0111】
【数32】
【0112】
を満たす時なので、次式を満たせばよい。
【0113】
【数33】
【0114】
ここで、m、n、αは整数である。従って、次式となる。
【0115】
【数34】
【0116】
さらに書き換えて、式(35)が導出される。
【0117】
【数35】
【0118】
これより、ある消光する波長において偏波に依存した光路長差を奇数次となるとき、偏波無依存となることがわかる。
【0119】
<半波長板の主軸が直交/クロスパスの場合>
クロスパスについても同様に偏波無依存条件を計算できる。
I1、アーム1、およびO1を伝搬し出力される光出力は式(36)となる。
【0120】
【数36】
【0121】
ここで、φTEおよびφTMはそれぞれ二本のアーム導波路間のTE偏波およびTM偏波の位相差、Ψは半波長板で与えられる位相差である。結合器の結合率は50%とした。また、I1、アーム2、およびO1を伝播し出力される光出力は式(37)となる。
【0122】
【数37】
【0123】
上の二式より、スルーパスの光出力は式(38)と表すことができる。
【0124】
【数38】
【0125】
式(38)から、消光する波長において偏波無依存となる条件は
【0126】
【数39】
【0127】
を満たす時なので次式を満たせばよい。
【0128】
【数40】
【0129】
従って、次式となる。
【0130】
【数41】
【0131】
さらに書き換えて、式(44)が導出される。
【0132】
【数42】
【0133】
これより、ある消光する波長において偏波に依存した光路長差を奇数次となるとき、偏波無依存となることがわかる。
【0134】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
なお、以下では光導波路としてシリコン基板上に形成された石英系光導波路を例にとって説明する。これは、この組み合わせが安定で信頼性に優れた光導波路デバイスを作製するのに適しているからである。しかしながら、本発明はこの組み合わせに限定されるものではなく、シリコンまたは石英ガラスまたはソーダガラスなどの基板上に、石英系光導波路またはシリコン酸化窒化膜(SiON)などの光導波路、PMMA(ポリメチルメタクリレート)系樹脂などの有機系光導波路、シリコン光導波路を用いたものでも無論構わない。
【0135】
また、以下では結合器として多モード干渉計型結合器を用いる例をとって説明するが、方向性結合器を用いることもできる。
【0136】
図6を参照して、本実施形態の導波路作製工程を簡単に説明する。シリコン基板602上に火炎堆積法(FHD)でSiO2を主体にした下部クラッドガラス微粒子604、およびSiO2にGeO2を添加したコアガラス微粒子606を順に堆積する(図6(1))。この段階ではガラス微粒子は光を散乱するため白い膜に見える。
【0137】
その後、1000℃以上の高温でガラス透明化を行う。ガラス微粒子を表面に堆積したシリコン基板を徐々に加熱していくと、ガラス微粒子が溶けて透明なガラス膜が形成される。この時に、下部クラッドガラス層604は30ミクロン厚、コアガラス層606は7ミクロン厚となるように、ガラス微粒子の堆積を行っている(図6(2))。
【0138】
引き続き、フォトリソグラフィ技術と反応性イオンエッチング(RIE)によってコアガラス層606のパターン化を行う(図6(3))。
【0139】
上部クラッドガラス微粒子608を火炎堆積法でコア上部に堆積する(図6(4))。最後に高温透明化を行い、埋め込み導波路を作製する(図6(5))。上部クラッドガラス層608にはドーパントとして、三酸化ホウ素および五酸化リンを添加してガラス転移温度を下げ、最後の高温透明化の工程でコアが変形しないようにしている。
【実施例1】
【0140】
図7に本発明の第一の実施例として作製したMZIの概略図を示す。図7に示すMZI700は、二つの多モード干渉計型結合器(722,724)と、二つの多モード干渉計型結合器を結ぶ二つのアーム導波路(706,708)とを備える。また、MZI700は、アーム導波路706の光路長を二分するようにアーム導波路706をその中心においてアーム導波路706aとアーム導波路706bとに、アーム導波路708の光路長を二分するようにアーム導波路708をその中心においてアーム導波路708aとアーム導波路708bとに分断するようにして形成された溝に挿入された半波長板732を備える。多モード干渉計型結合器722は二つの入力導波路(702,704)を備え、多モード干渉計型結合器724は二つの出力導波路(710,712)を備える。
【0141】
偏波回転器としての半波長板732はポリイミド波長板であり、光学主軸が伝搬方向と直交し、かつ、基板面の水平方向(あるいは基板面の法線)から45度傾いており、遅軸と速軸をそれぞれ伝搬する偏波に設計波長の半波長相当の位相差を与える。半波長板732は、TM偏波をTE偏波に、TE偏波をTM偏波に偏波変換する機能を有する。
【0142】
本MZI700は、FSRを10GHzとするため、二本のアーム導波路(706,708)の長さの差(ΔL)を20.7mmとしている。
【0143】
また、本実施例のMZI700は、半波長板732の前後においてアーム導波路の一部にArF(フッ化アルゴン)レーザを照射することによって、複屈折の調整を行っている。これにより、本MZI700におけるΔ(BL)をゼロとし偏波依存性の抑制を行っている。
【0144】
Δ(BL)をゼロとするための手法を具体的に以下で説明する。
アーム導波路1(706)において、レーザ照射領域の導波路の長さをLir1、レーザ未照射領域の導波路の長さをLnon1とする。アーム導波路2(708)において、レーザ照射領域の導波路の長さをLir2、レーザ未照射領域の導波路の長さをLnon2とする。レーザ照射領域の複屈折をBir、レーザ未照射領域の複屈折をBnonとする。これらを用いて、Δ(BL)は式(45)となる。
【0145】
【数43】
【0146】
簡単のため、Lir1=0とすると、式(46)となる。
【0147】
【数44】
【0148】
ここで、二本のアーム導波路の長さの差を
【0149】
【数45】
【0150】
、複屈折の差をΔB=Bir−Bnonとした。式(46)が0となる条件は式(47)となる。
【0151】
【数46】
【0152】
そこで、式(47)を満たすようにLir2を10mmとし、ΔBが2.1×10-4となるようレーザ照射を行った。レーザとしては、波長193nmのArFエキシマレーザを用いて、照射パワーはIJ/cm2、パルス繰り返しは50Hz、照射時間は530secとした。また、金属マスクを用いて、金属マスクが覆われていない半波長板を挟んだ二箇所のレーザ照射領域のみにレーザの照射をおこなった。照射面積は50μm×5mmである。一方、ΔLは20.7mm、Bnonは1×10-4であり、Δ(BL)はほぼゼロとなった。
【0153】
本実施例によれば波長1.55μ付近でPDfはクロスパスとスルーパスともに0.04GHzまで抑制することができた。第一の従来技術のMZIでは、そのPDfはクロスパスとスルーパスともに0.35GHzであった。よって、本発明を用いることによってPDfを抑制することができた。
【0154】
また、環境温度を−10℃〜80℃まで変化させた際のPDfの変動はクロスパスとスルーパスともに0.06GHzであった。一方、第二の従来技術のMZIでは、そのPDfの変動はクロスパスとスルーパスともに6GHzであった。よって、本発明を用いることによって、PDfの温度依存性を低減することができた。
【0155】
尚、ArFレーザを照射するアーム導波路(706,708)の部位は、半波長板732から離れていても良く、照射量が対称であれば半波長板732に対して対称である必要はない。
【0156】
本実施例では複屈折の調整に波長193nmのArFエキシマレーザを用いた。これは、コアの屈折率変化が波長245nmのGeO2に関連した吸収に起因しており、245nm付近に発振波長を有するレーザを照射することで、効率よく屈折率変化もしくは複屈折変化が可能となるからである。さらには、可視域のレーザでも2光子吸収により同様の変化を誘起することができる。従って、レーザとしてはArFエキシマレーザに限定されるものではなく、He−Cdレーザ、N2レーザ、KrFエキシマレーザやF2エキシマレーザなどの各種エキシマレーザ、Arイオンレーザ、Nd3+:YAGレーザ、アレキサンドライト(Cr3+:BeAl2O3)レーザの第2次、3次、4次高調波、など紫外・可視領域の波長を有するものであればよい。
【0157】
本実施例において、複屈折の調整手法にはArFレーザ照射を用いたが、例えば以下のような複屈折調整手法を用いて、同様な効果を得ることができる。
(1)応力付与膜を導波路の上部に配置し、導波路に誘起される応力を変化させて複屈折を制御する手法を用いることもできる(非特許文献4参照)。すなわち、応力付与膜(図示しない)をアーム導波路(706,708)の上部に形成し、二本のアーム導波路の光信号の伝搬方向に向かって複屈折の値を積分したそれぞれの値の差が所望の値となるように、アーム導波路に誘起される応力を調整することもできる。
(2)導波路上部付近に配置した薄膜ヒータを局所的に加熱して恒久的に実効屈折率もしくは複屈折を制御する手法を用いることもできる(特許文献2参照)。すなわち、薄膜ヒータ(図示しない)をアーム導波路(706,708)の上部付近に形成し、二本のアーム導波路の光信号の伝搬方向に向かって複屈折の値を積分したそれぞれの値の差が所望の値となるように制御することによって、アーム導波路に誘起される応力を調整することもできる。
(3)導波路の両側に応力開放溝を設け、導波路に加わっている応力を緩和することで実効屈折率もしくは複屈折を制御する手法を用いることもできる(特許文献1参照)。すなわち、二本のアーム導波路(706,708)の各々について、光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように、アーム光導波路の両脇の一部に応力開放溝(図示しない)を形成し、複屈折複屈折を調整することもできる。
【実施例2】
【0158】
図8に本発明の第二の実施例として作製したMZIの概略図を示す。図8に示すMZI800は、二つの多モード干渉計型結合器(822,824)と、二つの多モード干渉計型結合器を結ぶ二つのアーム導波路(806,808)とを備える。また、MZI800は、アーム導波路806の光路長を二分するようにアーム導波路806をその中心においてアーム導波路806aとアーム導波路806bとに、アーム導波路808の光路長を二分するようにアーム導波路808をその中心においてアーム導波路808aとアーム導波路808bとに分断するようにして形成された溝に挿入された半波長板832を備える。多モード干渉計型結合器822は二つの入力導波路(802,804)を備え、多モード干渉計型結合器824は二つの出力導波路(810,812)を備える。
【0159】
偏波回転器としての半波長板832の構成、配置および機能は、第一の実施例における半波長板732と同様である。
【0160】
本実施例のMZI800では、二つアーム導波路(806,808)の幅を変化させることによって、複屈折の調整が行われている。導波路幅を変化させることによって、偏波に依存した光路長差Δ(BL)をゼロにすることが可能となる(特許文献3参照)。
【0161】
多モード干渉計型結合器(822,824)近傍ではアーム導波路(806,808)の幅を7μm幅とし、半波長板832近傍ではアーム導波路の幅を12μm幅としている。
【0162】
本MZI800は、二本のアーム導波路(806,808)の長さの差(ΔL)は、第一の実施例における二本のアーム導波路(706,708)と同様に、20.7mmとしている。
【0163】
二つの導波路幅を用いる効果を具体的に数式を用いて説明する。アーム導波路1における、太幅の導波路の長さをLw1、細幅の導波路の長さをLn1とする。アーム導波路2における、太幅の導波路の長さをLw2、細幅の導波路の長さをLn2とする。また、太幅の導波路の複屈折をBw、細幅の導波路の複屈折をBnとする。これらを用いて、二本のアーム導波路の伝搬方向の複屈折の積分値の差Δ(BL)は式(48)となる。
【0164】
【数47】
【0165】
簡単のため、Lw1=0とすると、式(49)となる。
【0166】
【数48】
【0167】
ここで、二本のアーム導波路の長さの差を
【0168】
【数49】
【0169】
、複屈折の差をΔB=Bir−Bnonとした。式(49)が0となる条件は式(50)となる。
【0170】
【数50】
【0171】
上式を満たすように考慮してLw2を決定した。具体的には、Bw=1.57×10-4、Bn=0.87×10-4、Lw1=0.5mm、Lw2=26.2mmとした。
【0172】
ここでΔ(BL)をゼロにするためだけであれば、アーム導波路1に太い導波路は必要ないが、以下の理由でアーム導波路1にも太い導波路を配置することが望ましい。
・アーム導波路間で、テーパ導波路のある/なしの損失の差を解消する。
・半波長板が分断する導波路の幅を太くすることによって、閉じ込め構造をもたない半波長板にて放射するときの回折損失を抑制する。
【0173】
本実施例によれば波長1.55μ付近でPDfはクロスパスとスルーパスともに0.05GHzまで抑制することができた。
【0174】
また、環境温度を−10℃〜80℃まで変化させた際のPDfの変動はクロスパスとスルーパスともに0.06GHzまで抑制することができた。
【実施例3】
【0175】
図9に本発明の第三の実施例として作製したMZIの概略図を示す。図9に示すMZI900は、二つの多モード干渉計型結合器(922,924)と、二つの多モード干渉計型結合器を結ぶ二つのアーム導波路(906,908)とを備える。また、MZI900は、アーム導波路906の導波路長を二分するようにアーム導波路906をその中心においてアーム導波路906aとアーム導波路906bとに、アーム導波路908の導波路長を二分するようにアーム導波路908をその中心においてアーム導波路908aとアーム導波路908bとに分断するようにして形成された溝に挿入された半波長板932を備える。多モード干渉計型結合器922は二つの入力導波路(902,904)を備え、多モード干渉計型結合器924は二つの出力導波路(910,912)を備える。
【0176】
偏波回転器としての半波長板932の構成、配置および機能は、第一の実施例における半波長板732と同様である。
【0177】
本MZI900は、二本のアーム導波路(906,908)の長さの差(ΔL)は、第一の実施例における二本のアーム導波路(706,708)と同様に、20.7mmとしている。
【0178】
本構成の特徴は、複屈折の値を1.5×10-4としたことにある。ここで、上部クラッドガラスの熱膨張係数、軟化温度を変化させることによって複屈折の調整をおこなった。すなわち、上部クラッドガラスは、石英に対して三酸化ホウ素を10mol%、五酸化リンを10mol%の割合で添加した。その結果、偏波に依存した光路長差Δ(BL)は下式より3.1×10-4となる。
【0179】
【数51】
【0180】
この偏波に依存した光路長差Δ(BL)は、使用波長を1.55μmとした時、次数は2となり、式(16)かつ式(26)をほぼ満たすこととなる。
【0181】
本実施例によれば波長1.55μ付近でPDfはクロスパスとスルーパスともに0.006GHzまで抑制することができた。
【0182】
また、環境温度を−10℃〜80℃まで変化させた際のPDfの変動はクロスパスとスルーパスともに0.06GHzまで抑制することができた。
【実施例4】
【0183】
図10および11に本発明の第四の実施例として作製したMZIの概略図を示す。また、
MZI1000は、シリコン基板1102上に作成された、二つの多モード干渉計型結合器(1022,1024)と、二つの多モード干渉計型結合器を結ぶ二つのアーム導波路(1006,1008)とを備える。また、MZI1000は、アーム導波路1006の導波路長を二分するようにアーム導波路1006をその中心においてアーム導波路1006aとアーム導波路1006bとに、アーム導波路1008の導波路長を二分するようにアーム導波路1008をその中心においてアーム導波路1008aとアーム導波路1008bとに分断するようにして形成された溝1120に挿入された半波長板1032を備える。多モード干渉計型結合器1022は二つの入力導波路(1002,1004)を備え、多モード干渉計型結合器1024は二つの出力導波路(1010,1012)を備える。
【0184】
図11に示すように、偏波回転器としての半波長板1032は、半波長板1032aおよび半波長板1032bを備える。半波長板1032aおよび半波長板1032bは、光学主軸が伝搬方向と直交し、かつ、基板の水平方向(あるいは法線)から45度傾いており、さらに、半波長板1032aの主軸の向きと半波長板1032bの主軸の向きが互いに直交している。
【0185】
半波長板1032aおよび半波長板1032bは、遅軸と速軸をそれぞれ伝搬する偏波に設計波長の半波長相当の位相差を与える。半波長板1032は、TM偏波をTE偏波に、TE偏波をTM偏波に偏波変換する機能を有する。
【0186】
本実施例では、上部クラッドガラスに石英に対して三酸化ホウ素を20mol%、五酸化リンを5mol%の割合で添加し、複屈折の値を0.775×10-4とした。その結果、偏波に依存した光路長差は式(52)より1.55×10-6となる。
【0187】
【数52】
【0188】
この偏波に依存した光路長差は、使用波長を1.55μmとした時、次数は1となり、式(35)かつ式(44)をほぼ満たすことができる。
【0189】
本実施例によれば波長1.55μ付近でPDfはクロスパスとスルーパスともに0.07GHzまで抑制することができた。
【0190】
また、環境温度を−10℃〜80℃まで変化させた際のPDfの変動はクロスパスとスルーパスともに0.06GHzまで抑制することができた。
【0191】
上記第一乃至第三の実施例を本実施例に適用して複屈折の値を調整することができることは言うまでもない。
【0192】
さらに、以上の実施例では、FSRが10GHzのMZIを用いた。その他、20GHz、40GHzなど他のFSRであっても同様な効果が期待できる事は明白である。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】光導波路を用いたマッハツェンダ干渉計回路の概略図である。
【図2】従来技術の第一例のマッハツェンダ干渉計回路の概略図である。
【図3】透過スペクトルが偏波無依存となる条件を説明するための図である。
【図4】(a)は半波長板の動作波長が使用波長から4%だけずれた場合のPDfと複屈折の関係を計算した結果を示す図であり、(b)は(a)の拡大図である。
【図5】(a)は図4(a)に関して横軸を次数とした図であり、(b)は(a)の拡大図である。
【図6】本発明の実施形態の光信号処理器の導波路作製工程を説明するための図である。
【図7】本発明の第一の実施例として作製したマッハツェンダ干渉計回路の概略図である。
【図8】本発明の第二の実施例として作製したマッハツェンダ干渉計回路の概略図である。
【図9】本発明の第三の実施例として作製したマッハツェンダ干渉計回路の概略図である。
【図10】本発明の第四の実施例として作製したマッハツェンダ干渉計回路の概略図である。
【図11】本発明の第四の実施例として作製したマッハツェンダ干渉計回路の概略図である。
【符号の説明】
【0194】
100,200,300,700,800,900,1000 マッハツェンダ干渉計回路
106,108,206,208,306,308,706,708,806,808,906,908,1006,1008 アーム導波路
122,124,222,224,322,324,722,724,822,824,922,924,1022,1024 結合器
232,732,832,932,1032 半波長板
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏波依存性および偏波に関する温度依存性を抑制した光信号処理器に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の長距離・大容量化へのさらなる要求から、波長多重通信は重要な技術となっている。この波長多重通信システムに必要不可欠なデバイスとして、光信号を波長によって合分波するための波長合分波フィルタがある。例えば、シンプルな波長合分波フィルタとしては、光導波路を用いたマッハツェンダ干渉計回路(以下、MZI)を用いたものがある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
図1に、このMZIの概略図を示す。MZI100は、二つの結合器(122,124)と、二つの結合器を結ぶアーム導波路(106,108)とを備え、結合器122は二つの入力導波路(102、104)を、結合器124は二つの出力導波路(110,112)を備える。
【0004】
以下では、マッハツェンダ干渉計の動作原理とその偏波依存性について説明する。
【0005】
MZI100において、入力I1(入力導波路102)から出力O1(出力導波路110)へのパスをスルーパス、入力I1(入力導波路104)から出力O2(出力導波路112)へのパスをクロスパスと定義する。このとき、公知の干渉原理によって、各パスの光出力(Othrough、Ocross)は下式のように記述できる。(ここでは結合器の結合率は50%とした。)
【0006】
【数1】
【0007】
尚、I0は入力光の光強度、nは実効屈折率、ΔLは二本のアーム導波路の長さの差、λは使用波長を示す。
【0008】
スルーパスは式(1)よりnΔL=λm、クロスパスは式(2)より
【0009】
【数2】
【0010】
を満たす信号波長において、周期的に光信号が消光し他方のパスへ出力され、波長合分波フィルタとして機能する。
【0011】
このようなデバイスに用いられる光導波路の作製方法としては、例えば次のようなものがある。
【0012】
火炎堆積法を用いてシリコン基板上に、SiO2を主体とした下部アンダークラッド層およびSiO2にGeO2を添加したコア層を順に堆積する。次いで、反応性イオンエッチングを用いてコア層をパターン化する。再び火炎堆積法を用いて、オーバクラッド層を堆積して埋め込み型光導波路を作製する。
【0013】
通常、このような光導波路は、コアの形状や、基板とクラッドの熱膨張係数の違いにより発生する応力によって、複屈折を有する。つまり、基板に垂直な偏光方向を有するTM偏波と基板に平行な偏光方向を有するTE偏波の実効屈折率(nTE,nTM)はそれぞれ異っている。ここで、偏波に依存した光路長差Δ(BL)は次式で与えられる。
【0014】
【数3】
【0015】
尚、l1,l2はそれぞれ二本のアーム導波路に沿う線座標である。また、
【0016】
【数4】
【0017】
は複屈折値のアーム導波路に沿う線積分である。
【0018】
偏波に依存した光路長差Δ(BL)は有限の値を持つため、消光する波長に偏波依存性が発生する。この偏波依存性は偏波依存損失(PDL)や偏波依存周波数差(PDf)の発生要因となり、信号品質を大きく劣化させる。
【0019】
この偏波依存性を解消するための手法として、以下のようなものが知られている。
【0020】
(従来技術の第一例)
二本のアーム導波路の中心を結ぶ直線上に、使用波長の1/2相当の半波長板を、基板面の水平方向(あるいは法線)から主軸が45度傾くように挿入したマッハツェンダ干渉計回路がある(非特許文献2参照)。
【0021】
図2に、従来技術の第一例のMZIの概略図を示す。MZI200は、二つの結合器(222,224)と、二つの結合器を結ぶ二つのアーム導波路(206,208)とを備える。さらに、MZI200は、アーム導波路(206,208)の光路長を二分するように配置された半波長板232を備える。また、結合器222は二つの入力導波路(202,204)を、結合器224は二つの出力導波路(210,212)を備える。
【0022】
MZI200では、光信号が半波長板232までTE偏波(もしくはTM偏波)でアーム導波路(206,208)の半分の距離を伝搬し、半波長板232でTE偏波からTM偏波(もしくはTM偏波からTE偏波)に偏波変換される。そして、アーム導波路(206,208)の残りの半分の距離をTM偏波(もしくはTE偏波)で伝搬する。TE偏波(もしくはTM偏波)からTM偏波(もしくはTE偏波)へ偏波変換された光信号は、いずれも光路長差
【0023】
【数5】
【0024】
となり、偏波に依存した光路長差Δ(BL)を解消することができる。
【0025】
(従来技術の第二例)
偏波に依存した光路長差Δ(BL)を使用光波長の整数倍(0を含む)としたマッハツェンダ干渉計回路がある(特許文献1参照)。これは、マッハツェンダ干渉計では使用波長λの整数倍の位相差を識別できないことから、見掛け上、TM偏波の干渉条件とTE偏波の干渉条件とが一致することに着目し、偏波に依存した光路長差Δ(BL)を整数倍(0を含む)としたものである。
【0026】
【特許文献1】特公平6−60982号公報
【特許文献2】特許第3703013号公報
【特許文献3】国際公開第01/059495号パンフレット
【非特許文献1】K. Inoue et al., “A Four-Channel Optical Waveguide Multi/Demultiplexer for 5-GHz Spaced Optical FDM Transmission”, JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, Vol.6, No.2, FEB. 1988, pp.339-345
【非特許文献2】Y. Inoue et al., “Elimination of Polarization Sensitivity in Silica-Based Wavelength Division Multiplexer Using a Polyimide Half Waveplate”, JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, Vol.15, No.10, Oct. 1997, pp.1947-1957
【非特許文献3】B. L. Heffner, “Deterministic, Analyticall Complete Measurement of Polarization-Dependent Transmission Through Optical Devices”, IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL.4, NO.5, MAY 1992, pp.451-454
【非特許文献4】M. Okuno et al., “Birefringence Control of Silica Waveguides on Si and Its Application to a Polarization-Beam Splitter/Switch”, JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, VOL.12, NO.4, APRIL, 1994, pp.625-633
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
しかしながら、前述のマッハツェンダ干渉計回路(以下、MZI)は以下に述べる問題があった。
【0028】
従来技術の第一例は、半波長板を用いて、TE偏波をTM偏波(もしくは、TM偏波をTE偏波)に完全に偏波変換を行うことが前提である。しかしながら、半波長板の膜厚は作製誤差によって所望の厚さからずれるため、設計波長とは一致しない。この結果、TE偏波からTM偏波へ完全に偏波変換せず、その一部がTE偏波として残ってしまう。そのような半波長板を使用した場合、従来技術の第一例では、TE偏波で入射し偏波変換せずにそのまま伝播したTE偏波の光路長差はnTEΔLとなる。つまり、偏波に因らず光路長差を
【0029】
【数6】
【0030】
とする目的が達成されず、消光する周波数に偏波依存性が発生してしまう。
【0031】
例えば、消光する波長の周波数間隔(周期)をFSR(Frequency Spectral Range)、偏波に依存した消光する波長の差の最大値をPDf(Polarization Dependent Frequency)と定義した場合、FSRが10GHzの従来技術の第一例のマッハツェンダ干渉計回路においてそのPDfはクロスパスとスルーパスともに0.4GHzも発生してしまう。信号品質の劣化を避ける目的で、このPDfはFSRの100分の1以下が要求されており、従来技術では仕様を満たすことは困難であった。
【0032】
従来技術の第二例では、PDfが大きな複屈折依存性を有することが問題となる。その結果、FSRの100分の1というPDfを満たす事が非常に困難であり、また、温度依存性に対しても大きなPDf変動を有してしまう。簡単にこの複屈折依存性に関して説明する。
【0033】
スルーパスにおけるTE偏波およびTM偏波の消光する周波数
【0034】
【数7】
【0035】
は次式を満たす。
【0036】
【数8】
【0037】
ここで、mは次数、FSRTEおよびFSRTMはそれぞれTE偏波およびTM偏波のFSR、cは光速を示す。上の二式からPDfは次式と変形できる。
【0038】
【数9】
【0039】
ここで、
【0040】
【数10】
【0041】
である。実効屈折率を1.45、消光する周波数を193THzとしたとき、上式より、PDfの複屈折に対する変化量は133×1012となる。これは、複屈折が0.1×10-4だけ変化した時、PDfが1.33GHzも変化することを意味しており、PDfが大きな複屈折依存性を有することがわかる。従って、複屈折の高精度な調整が必要となり、FSRの100分の1というPDfを満たす事は非常に困難であった。
【0042】
一方、環境温度によって生じる、基板とクラッドとの熱膨張係数の違いや、回路を接着する放熱基板と回路基板との熱膨張係数の違いによって、導波路に加わる内部応力が変化する。その結果、光弾性効果を介して複屈折の値が変化するため、環境温度によってPDfが変動してしまう。
【0043】
例えば、従来技術の第二例を用いてPDfを0.33GHzまで複屈折を調整した、FSRが10GHzのマッハツェンダ干渉計において、環境温度を−10℃から80℃まで変化させた場合、PDfが6GHzも変動し問題となっている。
【0044】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、透過スペクトルの偏波依存性および偏波に関する温度依存性を抑制した光信号処理器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0045】
発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は光信号処理器であって、各々基板上に作製された、二つの結合器および前記二つの結合器を連結する二本のアーム導波路を備えたマッハツェンダ干渉計回路において、水平偏波の光を垂直偏波の光に変換し、垂直偏波の光を水平偏波の光に変換する偏波回転器が、前記二本のアーム導波路の各々の光路長を二分する溝に設けられており、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差を使用光波長で割った値が、2m−0.2から2m+0.2(mはゼロを含む整数)であることを特徴とする。
【0046】
請求項2に記載の発明は、光信号処理器であって、各々基板上に作製された、二つの結合器および前記二つの結合器を連結する二本のアーム導波路を備えたマッハツェンダ干渉計回路において、水平偏波の光を垂直偏波の光に変換し、垂直偏波の光を水平偏波の光に変換する二つの偏波回転器が、前記二本のアーム導波路の各々の光路長を二分する溝にそれぞれ設けられており、前記偏波回転器の一方で変換される光信号と、前記偏波回転器の他方で変換される光信号の位相がπずれており、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差を使用光波長で割った値が、(2m−1)−0.2から(2m−1)+0.2(mはゼロを含む整数)であることを特徴とする。
【0047】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の前記偏波回転器は、光学的主軸が前記基板の面の法線から45度傾斜しかつ光信号の伝搬方向と直交するように設置された半波長板であることを特徴とする。
【0048】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の前記二つの偏波回転器は、光学的主軸が前記基板の面の法線から45度傾斜しかつ光信号の伝搬方向と直交するように設置された半波長板であって、前記偏波回転器の一方の光学主軸と前記偏波回転器の他方の光学主軸とが直行することを特徴とする。
【0049】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の前記結合器は、方向性結合器または多モード干渉型結合器であることを特徴とする。
【0050】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、導波路幅が部分的に変化する導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする。
【0051】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、部分的にレーザが照射された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする。
【0052】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、両脇の一部に応力開放溝が形成された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする。
【0053】
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、応力付与膜が上面に形成された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする。
【0054】
請求項10に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、応力を変化させるための薄膜ヒータが上部に形成された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0055】
以上説明したように、本発明によれば、透過スペクトルの偏波依存性および偏波に関する温度依存性を抑制した光信号処理器を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
始めに図3を参照して、半波長板の動作波長が設計波長からずれたとしても、透過スペクトルが偏波無依存となる条件について説明する。
【0057】
半波長板の動作波長が設計波長からずれた場合に、偏波変換しなかった偏波の光路長差と、偏波変換した偏波の光路長差が一致しないことが問題である。そこで、それらの光路長差を見かけ上同じにすることを考える。
【0058】
具体的には、TE偏波で入射し偏波変換せずにそのまま伝播したTE偏波の光路長差nTEΔLと、TM偏波で入射し半波長板にて偏波変換してTE偏波で伝搬した偏波の光路長差
【0059】
【数11】
【0060】
との差を、ゼロもしくは使用波長の整数倍とし、かつ、TM偏波で入射し偏波変換せずにそのまま伝播したTM偏波の光路長差nTMΔLと、TE偏波で入射し半波長板にて偏波変換してTM偏波で伝搬した偏波の光路長差
【0061】
【数12】
【0062】
との差を、ゼロもしくは使用波長の整数倍とする。
数式を用いて、より具体的に説明する。
【0063】
<半波長板の主軸が同じ方向/スルーパスの場合>
二本のアーム導波路の中央に半波長板が挿入されたマッハツェンダ干渉計であり、半波長板の光学主軸の向きが、基板の面に垂直な線(法線)から45度だけ傾きかつ光信号の伝搬方向と直交しており、それぞれのアーム導波路に挿入された半波長板の光学主軸の向きが同じ方向であるMZIにおいて、I1、アーム1、およびO1を伝搬し出力される光出力は式(7)となる。
【0064】
【数13】
【0065】
ここで、φTEおよびφTMはそれぞれ二本のアーム導波路間のTE偏波およびTM偏波の位相差、Ψは半波長板で与えられる位相差である。尚、結合器の結合率は50%とし、Ψは波長板が設計波長からずれた場合を仮定するので、πとその整数倍以外を仮定する。また、I1、アーム2、およびO1を伝搬し出力される光出力は式(8)となる。
【0066】
【数14】
【0067】
式(7)および(8)より、スルーパスの光出力は式(9)となる。
【0068】
【数15】
【0069】
式(9)から、消光する波長において偏波無依存となる条件は
【0070】
【数16】
【0071】
を満たす時なので、次式を満たせばよい。
【0072】
【数17】
【0073】
ここで、m、n、αは整数を示す。従って、次式となる。
【0074】
【数18】
【0075】
式(13)を書きかえると式(15)となる。
【0076】
【数19】
【0077】
さらに書き換えて、式(16)が導出される。
【0078】
【数20】
【0079】
これより、偏波に依存した光路長差が消光する波長(使用波長)の偶数次となるとき、偏波無依存となることがわかる。
【0080】
一般に、作製誤差のため、導波路の複屈折の値はずれる。しかし、目標とするFSRの100分の1というPDfを満たすためにはある程度の複屈折のばらつきは許容される。
【0081】
そこで、目標とするPDfを達成するための複屈折(もしくは、偏波に依存した光路長差の次数)の許容値を求める。
【0082】
ある波長における光出力の最大値、最小値は、MZIのジョーンズ行列をMとすると、Mの複素共役の転置行列(M*)TとMとの積の固有値を求めることによって導き出せる(非特許文献3参照)。式(9)よりMZIのジョーンズ行列は以下の通り書ける。
【0083】
【数21】
【0084】
(M*)TMの固有値を波長(または周波数)に対して計算し、1.55μm付近のスペクトルを計算しPDfを導出した。
【0085】
図4(a)および(b)に、半波長板の動作波長が使用波長からずれた場合のPDfと複屈折の関係を計算した結果を示す。計算では、結合器の結合率は50%とし、半波長板の動作波長が使用波長から4%ずれた場合を仮定した。これは我々が用いている半波長板の動作波長が、設計波長から4%の誤差(標準偏差)を有するためである。図4(a)および(b)より、PDfをFSRの100分の1とするためには、複屈折の変動は±0.1×10-4以下とすればよい。
【0086】
図5(a)および(b)に、図4(a)および(b)に関して、横軸を次数(偏波に依存性した光路長差Δ(BL)を使用波長で割った値)とした場合のグラフを示す。図5(a)および(b)より、許容される次数の変動量は±0.2次となることがわかる。
【0087】
同様に、図4(a)および(b)を用いて環境温度変化によるPDfの変化が類推できる。
【0088】
図4(a)および(b)の太線は本発明における、細線は従来技術の第二例における、PDfの複屈折依存性を示したものである。本発明のPDfの複屈折依存性が従来技術の第二例に比べて緩和されていることがわかる。つまり、複屈折は環境温度によって変化するため、PDfの環境温度依存性が緩和されることがわかる。
【0089】
<半波長板の主軸が同じ方向/クロスパスの場合>
クロスパスについても同様に、消光する波長において偏波無依存となる条件を計算できる。
I1、アーム1、およびO2を伝搬し出力される光出力は式(18)となる。
【0090】
【数22】
【0091】
ここで、φTEおよびφTMはそれぞれ二本のアーム導波路間のTE偏波およびTM偏波の位相差、Ψは半波長板で与えられる位相差である。結合器の結合率は50%とした。また、I1、アーム2、およびO2を伝播し出力される光出力は式(19)となる。
【0092】
【数23】
【0093】
上の二式より、クロスパスの光出力は式(20)と表すことができる。
【0094】
【数24】
【0095】
式(20)から、消光する波長において偏波無依存となる条件は
【0096】
【数25】
【0097】
を満たす時なので次式を満たせばよい。
【0098】
【数26】
【0099】
ここで、m、n、αは整数を示す。従って、次式となる。
【0100】
【数27】
【0101】
さらに書き換えて、式(26)が導出される。
【0102】
【数28】
【0103】
これより、ある消光する波長において偏波に依存した光路長差を偶数次となるとき、偏波無依存となることがわかる。
【0104】
<半波長板の主軸が直交/スルーパスの場合>
二本のアーム導波路の中央に半波長板が挿入されたマッハツェンダ干渉計であり、二本のアーム導波路に設けられる半波長板の主軸が、基板の面に垂直する線から45度だけ傾きかつ光信号の伝搬方向と直交しており、それぞれのアーム導波路に挿入された波長板の主軸の向きが直交しているMZIにおいて、I1、アーム1、およびO1を伝搬し出力される光出力は式(27)となる。
【0105】
【数29】
【0106】
また、I1、アーム2、およびO1を伝搬し出力される光出力は式(28)となる。
【0107】
【数30】
【0108】
式(27)および(28)より、スルーパスの光出力は式(29)となる。
【0109】
【数31】
【0110】
式(29)から、消光する波長において偏波無依存となる条件は
【0111】
【数32】
【0112】
を満たす時なので、次式を満たせばよい。
【0113】
【数33】
【0114】
ここで、m、n、αは整数である。従って、次式となる。
【0115】
【数34】
【0116】
さらに書き換えて、式(35)が導出される。
【0117】
【数35】
【0118】
これより、ある消光する波長において偏波に依存した光路長差を奇数次となるとき、偏波無依存となることがわかる。
【0119】
<半波長板の主軸が直交/クロスパスの場合>
クロスパスについても同様に偏波無依存条件を計算できる。
I1、アーム1、およびO1を伝搬し出力される光出力は式(36)となる。
【0120】
【数36】
【0121】
ここで、φTEおよびφTMはそれぞれ二本のアーム導波路間のTE偏波およびTM偏波の位相差、Ψは半波長板で与えられる位相差である。結合器の結合率は50%とした。また、I1、アーム2、およびO1を伝播し出力される光出力は式(37)となる。
【0122】
【数37】
【0123】
上の二式より、スルーパスの光出力は式(38)と表すことができる。
【0124】
【数38】
【0125】
式(38)から、消光する波長において偏波無依存となる条件は
【0126】
【数39】
【0127】
を満たす時なので次式を満たせばよい。
【0128】
【数40】
【0129】
従って、次式となる。
【0130】
【数41】
【0131】
さらに書き換えて、式(44)が導出される。
【0132】
【数42】
【0133】
これより、ある消光する波長において偏波に依存した光路長差を奇数次となるとき、偏波無依存となることがわかる。
【0134】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
なお、以下では光導波路としてシリコン基板上に形成された石英系光導波路を例にとって説明する。これは、この組み合わせが安定で信頼性に優れた光導波路デバイスを作製するのに適しているからである。しかしながら、本発明はこの組み合わせに限定されるものではなく、シリコンまたは石英ガラスまたはソーダガラスなどの基板上に、石英系光導波路またはシリコン酸化窒化膜(SiON)などの光導波路、PMMA(ポリメチルメタクリレート)系樹脂などの有機系光導波路、シリコン光導波路を用いたものでも無論構わない。
【0135】
また、以下では結合器として多モード干渉計型結合器を用いる例をとって説明するが、方向性結合器を用いることもできる。
【0136】
図6を参照して、本実施形態の導波路作製工程を簡単に説明する。シリコン基板602上に火炎堆積法(FHD)でSiO2を主体にした下部クラッドガラス微粒子604、およびSiO2にGeO2を添加したコアガラス微粒子606を順に堆積する(図6(1))。この段階ではガラス微粒子は光を散乱するため白い膜に見える。
【0137】
その後、1000℃以上の高温でガラス透明化を行う。ガラス微粒子を表面に堆積したシリコン基板を徐々に加熱していくと、ガラス微粒子が溶けて透明なガラス膜が形成される。この時に、下部クラッドガラス層604は30ミクロン厚、コアガラス層606は7ミクロン厚となるように、ガラス微粒子の堆積を行っている(図6(2))。
【0138】
引き続き、フォトリソグラフィ技術と反応性イオンエッチング(RIE)によってコアガラス層606のパターン化を行う(図6(3))。
【0139】
上部クラッドガラス微粒子608を火炎堆積法でコア上部に堆積する(図6(4))。最後に高温透明化を行い、埋め込み導波路を作製する(図6(5))。上部クラッドガラス層608にはドーパントとして、三酸化ホウ素および五酸化リンを添加してガラス転移温度を下げ、最後の高温透明化の工程でコアが変形しないようにしている。
【実施例1】
【0140】
図7に本発明の第一の実施例として作製したMZIの概略図を示す。図7に示すMZI700は、二つの多モード干渉計型結合器(722,724)と、二つの多モード干渉計型結合器を結ぶ二つのアーム導波路(706,708)とを備える。また、MZI700は、アーム導波路706の光路長を二分するようにアーム導波路706をその中心においてアーム導波路706aとアーム導波路706bとに、アーム導波路708の光路長を二分するようにアーム導波路708をその中心においてアーム導波路708aとアーム導波路708bとに分断するようにして形成された溝に挿入された半波長板732を備える。多モード干渉計型結合器722は二つの入力導波路(702,704)を備え、多モード干渉計型結合器724は二つの出力導波路(710,712)を備える。
【0141】
偏波回転器としての半波長板732はポリイミド波長板であり、光学主軸が伝搬方向と直交し、かつ、基板面の水平方向(あるいは基板面の法線)から45度傾いており、遅軸と速軸をそれぞれ伝搬する偏波に設計波長の半波長相当の位相差を与える。半波長板732は、TM偏波をTE偏波に、TE偏波をTM偏波に偏波変換する機能を有する。
【0142】
本MZI700は、FSRを10GHzとするため、二本のアーム導波路(706,708)の長さの差(ΔL)を20.7mmとしている。
【0143】
また、本実施例のMZI700は、半波長板732の前後においてアーム導波路の一部にArF(フッ化アルゴン)レーザを照射することによって、複屈折の調整を行っている。これにより、本MZI700におけるΔ(BL)をゼロとし偏波依存性の抑制を行っている。
【0144】
Δ(BL)をゼロとするための手法を具体的に以下で説明する。
アーム導波路1(706)において、レーザ照射領域の導波路の長さをLir1、レーザ未照射領域の導波路の長さをLnon1とする。アーム導波路2(708)において、レーザ照射領域の導波路の長さをLir2、レーザ未照射領域の導波路の長さをLnon2とする。レーザ照射領域の複屈折をBir、レーザ未照射領域の複屈折をBnonとする。これらを用いて、Δ(BL)は式(45)となる。
【0145】
【数43】
【0146】
簡単のため、Lir1=0とすると、式(46)となる。
【0147】
【数44】
【0148】
ここで、二本のアーム導波路の長さの差を
【0149】
【数45】
【0150】
、複屈折の差をΔB=Bir−Bnonとした。式(46)が0となる条件は式(47)となる。
【0151】
【数46】
【0152】
そこで、式(47)を満たすようにLir2を10mmとし、ΔBが2.1×10-4となるようレーザ照射を行った。レーザとしては、波長193nmのArFエキシマレーザを用いて、照射パワーはIJ/cm2、パルス繰り返しは50Hz、照射時間は530secとした。また、金属マスクを用いて、金属マスクが覆われていない半波長板を挟んだ二箇所のレーザ照射領域のみにレーザの照射をおこなった。照射面積は50μm×5mmである。一方、ΔLは20.7mm、Bnonは1×10-4であり、Δ(BL)はほぼゼロとなった。
【0153】
本実施例によれば波長1.55μ付近でPDfはクロスパスとスルーパスともに0.04GHzまで抑制することができた。第一の従来技術のMZIでは、そのPDfはクロスパスとスルーパスともに0.35GHzであった。よって、本発明を用いることによってPDfを抑制することができた。
【0154】
また、環境温度を−10℃〜80℃まで変化させた際のPDfの変動はクロスパスとスルーパスともに0.06GHzであった。一方、第二の従来技術のMZIでは、そのPDfの変動はクロスパスとスルーパスともに6GHzであった。よって、本発明を用いることによって、PDfの温度依存性を低減することができた。
【0155】
尚、ArFレーザを照射するアーム導波路(706,708)の部位は、半波長板732から離れていても良く、照射量が対称であれば半波長板732に対して対称である必要はない。
【0156】
本実施例では複屈折の調整に波長193nmのArFエキシマレーザを用いた。これは、コアの屈折率変化が波長245nmのGeO2に関連した吸収に起因しており、245nm付近に発振波長を有するレーザを照射することで、効率よく屈折率変化もしくは複屈折変化が可能となるからである。さらには、可視域のレーザでも2光子吸収により同様の変化を誘起することができる。従って、レーザとしてはArFエキシマレーザに限定されるものではなく、He−Cdレーザ、N2レーザ、KrFエキシマレーザやF2エキシマレーザなどの各種エキシマレーザ、Arイオンレーザ、Nd3+:YAGレーザ、アレキサンドライト(Cr3+:BeAl2O3)レーザの第2次、3次、4次高調波、など紫外・可視領域の波長を有するものであればよい。
【0157】
本実施例において、複屈折の調整手法にはArFレーザ照射を用いたが、例えば以下のような複屈折調整手法を用いて、同様な効果を得ることができる。
(1)応力付与膜を導波路の上部に配置し、導波路に誘起される応力を変化させて複屈折を制御する手法を用いることもできる(非特許文献4参照)。すなわち、応力付与膜(図示しない)をアーム導波路(706,708)の上部に形成し、二本のアーム導波路の光信号の伝搬方向に向かって複屈折の値を積分したそれぞれの値の差が所望の値となるように、アーム導波路に誘起される応力を調整することもできる。
(2)導波路上部付近に配置した薄膜ヒータを局所的に加熱して恒久的に実効屈折率もしくは複屈折を制御する手法を用いることもできる(特許文献2参照)。すなわち、薄膜ヒータ(図示しない)をアーム導波路(706,708)の上部付近に形成し、二本のアーム導波路の光信号の伝搬方向に向かって複屈折の値を積分したそれぞれの値の差が所望の値となるように制御することによって、アーム導波路に誘起される応力を調整することもできる。
(3)導波路の両側に応力開放溝を設け、導波路に加わっている応力を緩和することで実効屈折率もしくは複屈折を制御する手法を用いることもできる(特許文献1参照)。すなわち、二本のアーム導波路(706,708)の各々について、光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように、アーム光導波路の両脇の一部に応力開放溝(図示しない)を形成し、複屈折複屈折を調整することもできる。
【実施例2】
【0158】
図8に本発明の第二の実施例として作製したMZIの概略図を示す。図8に示すMZI800は、二つの多モード干渉計型結合器(822,824)と、二つの多モード干渉計型結合器を結ぶ二つのアーム導波路(806,808)とを備える。また、MZI800は、アーム導波路806の光路長を二分するようにアーム導波路806をその中心においてアーム導波路806aとアーム導波路806bとに、アーム導波路808の光路長を二分するようにアーム導波路808をその中心においてアーム導波路808aとアーム導波路808bとに分断するようにして形成された溝に挿入された半波長板832を備える。多モード干渉計型結合器822は二つの入力導波路(802,804)を備え、多モード干渉計型結合器824は二つの出力導波路(810,812)を備える。
【0159】
偏波回転器としての半波長板832の構成、配置および機能は、第一の実施例における半波長板732と同様である。
【0160】
本実施例のMZI800では、二つアーム導波路(806,808)の幅を変化させることによって、複屈折の調整が行われている。導波路幅を変化させることによって、偏波に依存した光路長差Δ(BL)をゼロにすることが可能となる(特許文献3参照)。
【0161】
多モード干渉計型結合器(822,824)近傍ではアーム導波路(806,808)の幅を7μm幅とし、半波長板832近傍ではアーム導波路の幅を12μm幅としている。
【0162】
本MZI800は、二本のアーム導波路(806,808)の長さの差(ΔL)は、第一の実施例における二本のアーム導波路(706,708)と同様に、20.7mmとしている。
【0163】
二つの導波路幅を用いる効果を具体的に数式を用いて説明する。アーム導波路1における、太幅の導波路の長さをLw1、細幅の導波路の長さをLn1とする。アーム導波路2における、太幅の導波路の長さをLw2、細幅の導波路の長さをLn2とする。また、太幅の導波路の複屈折をBw、細幅の導波路の複屈折をBnとする。これらを用いて、二本のアーム導波路の伝搬方向の複屈折の積分値の差Δ(BL)は式(48)となる。
【0164】
【数47】
【0165】
簡単のため、Lw1=0とすると、式(49)となる。
【0166】
【数48】
【0167】
ここで、二本のアーム導波路の長さの差を
【0168】
【数49】
【0169】
、複屈折の差をΔB=Bir−Bnonとした。式(49)が0となる条件は式(50)となる。
【0170】
【数50】
【0171】
上式を満たすように考慮してLw2を決定した。具体的には、Bw=1.57×10-4、Bn=0.87×10-4、Lw1=0.5mm、Lw2=26.2mmとした。
【0172】
ここでΔ(BL)をゼロにするためだけであれば、アーム導波路1に太い導波路は必要ないが、以下の理由でアーム導波路1にも太い導波路を配置することが望ましい。
・アーム導波路間で、テーパ導波路のある/なしの損失の差を解消する。
・半波長板が分断する導波路の幅を太くすることによって、閉じ込め構造をもたない半波長板にて放射するときの回折損失を抑制する。
【0173】
本実施例によれば波長1.55μ付近でPDfはクロスパスとスルーパスともに0.05GHzまで抑制することができた。
【0174】
また、環境温度を−10℃〜80℃まで変化させた際のPDfの変動はクロスパスとスルーパスともに0.06GHzまで抑制することができた。
【実施例3】
【0175】
図9に本発明の第三の実施例として作製したMZIの概略図を示す。図9に示すMZI900は、二つの多モード干渉計型結合器(922,924)と、二つの多モード干渉計型結合器を結ぶ二つのアーム導波路(906,908)とを備える。また、MZI900は、アーム導波路906の導波路長を二分するようにアーム導波路906をその中心においてアーム導波路906aとアーム導波路906bとに、アーム導波路908の導波路長を二分するようにアーム導波路908をその中心においてアーム導波路908aとアーム導波路908bとに分断するようにして形成された溝に挿入された半波長板932を備える。多モード干渉計型結合器922は二つの入力導波路(902,904)を備え、多モード干渉計型結合器924は二つの出力導波路(910,912)を備える。
【0176】
偏波回転器としての半波長板932の構成、配置および機能は、第一の実施例における半波長板732と同様である。
【0177】
本MZI900は、二本のアーム導波路(906,908)の長さの差(ΔL)は、第一の実施例における二本のアーム導波路(706,708)と同様に、20.7mmとしている。
【0178】
本構成の特徴は、複屈折の値を1.5×10-4としたことにある。ここで、上部クラッドガラスの熱膨張係数、軟化温度を変化させることによって複屈折の調整をおこなった。すなわち、上部クラッドガラスは、石英に対して三酸化ホウ素を10mol%、五酸化リンを10mol%の割合で添加した。その結果、偏波に依存した光路長差Δ(BL)は下式より3.1×10-4となる。
【0179】
【数51】
【0180】
この偏波に依存した光路長差Δ(BL)は、使用波長を1.55μmとした時、次数は2となり、式(16)かつ式(26)をほぼ満たすこととなる。
【0181】
本実施例によれば波長1.55μ付近でPDfはクロスパスとスルーパスともに0.006GHzまで抑制することができた。
【0182】
また、環境温度を−10℃〜80℃まで変化させた際のPDfの変動はクロスパスとスルーパスともに0.06GHzまで抑制することができた。
【実施例4】
【0183】
図10および11に本発明の第四の実施例として作製したMZIの概略図を示す。また、
MZI1000は、シリコン基板1102上に作成された、二つの多モード干渉計型結合器(1022,1024)と、二つの多モード干渉計型結合器を結ぶ二つのアーム導波路(1006,1008)とを備える。また、MZI1000は、アーム導波路1006の導波路長を二分するようにアーム導波路1006をその中心においてアーム導波路1006aとアーム導波路1006bとに、アーム導波路1008の導波路長を二分するようにアーム導波路1008をその中心においてアーム導波路1008aとアーム導波路1008bとに分断するようにして形成された溝1120に挿入された半波長板1032を備える。多モード干渉計型結合器1022は二つの入力導波路(1002,1004)を備え、多モード干渉計型結合器1024は二つの出力導波路(1010,1012)を備える。
【0184】
図11に示すように、偏波回転器としての半波長板1032は、半波長板1032aおよび半波長板1032bを備える。半波長板1032aおよび半波長板1032bは、光学主軸が伝搬方向と直交し、かつ、基板の水平方向(あるいは法線)から45度傾いており、さらに、半波長板1032aの主軸の向きと半波長板1032bの主軸の向きが互いに直交している。
【0185】
半波長板1032aおよび半波長板1032bは、遅軸と速軸をそれぞれ伝搬する偏波に設計波長の半波長相当の位相差を与える。半波長板1032は、TM偏波をTE偏波に、TE偏波をTM偏波に偏波変換する機能を有する。
【0186】
本実施例では、上部クラッドガラスに石英に対して三酸化ホウ素を20mol%、五酸化リンを5mol%の割合で添加し、複屈折の値を0.775×10-4とした。その結果、偏波に依存した光路長差は式(52)より1.55×10-6となる。
【0187】
【数52】
【0188】
この偏波に依存した光路長差は、使用波長を1.55μmとした時、次数は1となり、式(35)かつ式(44)をほぼ満たすことができる。
【0189】
本実施例によれば波長1.55μ付近でPDfはクロスパスとスルーパスともに0.07GHzまで抑制することができた。
【0190】
また、環境温度を−10℃〜80℃まで変化させた際のPDfの変動はクロスパスとスルーパスともに0.06GHzまで抑制することができた。
【0191】
上記第一乃至第三の実施例を本実施例に適用して複屈折の値を調整することができることは言うまでもない。
【0192】
さらに、以上の実施例では、FSRが10GHzのMZIを用いた。その他、20GHz、40GHzなど他のFSRであっても同様な効果が期待できる事は明白である。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】光導波路を用いたマッハツェンダ干渉計回路の概略図である。
【図2】従来技術の第一例のマッハツェンダ干渉計回路の概略図である。
【図3】透過スペクトルが偏波無依存となる条件を説明するための図である。
【図4】(a)は半波長板の動作波長が使用波長から4%だけずれた場合のPDfと複屈折の関係を計算した結果を示す図であり、(b)は(a)の拡大図である。
【図5】(a)は図4(a)に関して横軸を次数とした図であり、(b)は(a)の拡大図である。
【図6】本発明の実施形態の光信号処理器の導波路作製工程を説明するための図である。
【図7】本発明の第一の実施例として作製したマッハツェンダ干渉計回路の概略図である。
【図8】本発明の第二の実施例として作製したマッハツェンダ干渉計回路の概略図である。
【図9】本発明の第三の実施例として作製したマッハツェンダ干渉計回路の概略図である。
【図10】本発明の第四の実施例として作製したマッハツェンダ干渉計回路の概略図である。
【図11】本発明の第四の実施例として作製したマッハツェンダ干渉計回路の概略図である。
【符号の説明】
【0194】
100,200,300,700,800,900,1000 マッハツェンダ干渉計回路
106,108,206,208,306,308,706,708,806,808,906,908,1006,1008 アーム導波路
122,124,222,224,322,324,722,724,822,824,922,924,1022,1024 結合器
232,732,832,932,1032 半波長板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々基板上に作製された、二つの結合器および前記二つの結合器を連結する二本のアーム導波路を備えたマッハツェンダ干渉計回路において、
水平偏波の光を垂直偏波の光に変換し、垂直偏波の光を水平偏波の光に変換する偏波回転器が、前記二本のアーム導波路の各々の光路長を二分する溝に設けられており、
前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差を使用光波長で割った値が、2m−0.2から2m+0.2(mはゼロを含む整数)であることを特徴とする光信号処理器。
【請求項2】
各々基板上に作製された、二つの結合器および前記二つの結合器を連結する二本のアーム導波路を備えたマッハツェンダ干渉計回路において、
水平偏波の光を垂直偏波の光に変換し、垂直偏波の光を水平偏波の光に変換する二つの偏波回転器が、前記二本のアーム導波路の各々の光路長を二分する溝にそれぞれ設けられており、
前記偏波回転器の一方で変換される光信号と、前記偏波回転器の他方で変換される光信号の位相がπずれており、
前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差を使用光波長で割った値が、(2m−1)−0.2から(2m−1)+0.2(mはゼロを含む整数)であることを特徴とする光信号処理器。
【請求項3】
請求項1に記載の光信号処理器において、
前記偏波回転器は、光学的主軸が前記基板の面の法線から45度傾斜しかつ光信号の伝搬方向と直交するように設置された半波長板であることを特徴とする光信号処理器。
【請求項4】
請求項2に記載の光信号処理器において、
前記二つの偏波回転器は、光学的主軸が前記基板の面の法線から45度傾斜しかつ光信号の伝搬方向と直交するように設置された半波長板であって、前記偏波回転器の一方の光学主軸と前記偏波回転器の他方の光学主軸とが直行することを特徴とする光信号処理器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光信号処理器において、
前記結合器は、方向性結合器または多モード干渉型結合器であることを特徴とする光信号処理器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光信号処理器において、
前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、導波路幅が部分的に変化する導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする光信号処理器。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光信号処理器において、
前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、部分的にレーザが照射された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする光信号処理器。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光信号処理器において、
前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、両脇の一部に応力開放溝が形成された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする光信号処理器。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光信号処理器において、
前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、応力付与膜が上面に形成された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする光信号処理器。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光信号処理器において、
前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、応力を変化させるための薄膜ヒータが上部に形成された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする光信号処理器。
【請求項1】
各々基板上に作製された、二つの結合器および前記二つの結合器を連結する二本のアーム導波路を備えたマッハツェンダ干渉計回路において、
水平偏波の光を垂直偏波の光に変換し、垂直偏波の光を水平偏波の光に変換する偏波回転器が、前記二本のアーム導波路の各々の光路長を二分する溝に設けられており、
前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差を使用光波長で割った値が、2m−0.2から2m+0.2(mはゼロを含む整数)であることを特徴とする光信号処理器。
【請求項2】
各々基板上に作製された、二つの結合器および前記二つの結合器を連結する二本のアーム導波路を備えたマッハツェンダ干渉計回路において、
水平偏波の光を垂直偏波の光に変換し、垂直偏波の光を水平偏波の光に変換する二つの偏波回転器が、前記二本のアーム導波路の各々の光路長を二分する溝にそれぞれ設けられており、
前記偏波回転器の一方で変換される光信号と、前記偏波回転器の他方で変換される光信号の位相がπずれており、
前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差を使用光波長で割った値が、(2m−1)−0.2から(2m−1)+0.2(mはゼロを含む整数)であることを特徴とする光信号処理器。
【請求項3】
請求項1に記載の光信号処理器において、
前記偏波回転器は、光学的主軸が前記基板の面の法線から45度傾斜しかつ光信号の伝搬方向と直交するように設置された半波長板であることを特徴とする光信号処理器。
【請求項4】
請求項2に記載の光信号処理器において、
前記二つの偏波回転器は、光学的主軸が前記基板の面の法線から45度傾斜しかつ光信号の伝搬方向と直交するように設置された半波長板であって、前記偏波回転器の一方の光学主軸と前記偏波回転器の他方の光学主軸とが直行することを特徴とする光信号処理器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光信号処理器において、
前記結合器は、方向性結合器または多モード干渉型結合器であることを特徴とする光信号処理器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光信号処理器において、
前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、導波路幅が部分的に変化する導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする光信号処理器。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光信号処理器において、
前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、部分的にレーザが照射された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする光信号処理器。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光信号処理器において、
前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、両脇の一部に応力開放溝が形成された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする光信号処理器。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光信号処理器において、
前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、応力付与膜が上面に形成された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする光信号処理器。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光信号処理器において、
前記二本のアーム導波路少なくとも一方は、応力を変化させるための薄膜ヒータが上部に形成された導波路であって、前記二本のアーム導波路の各々について光信号の伝搬方向に向かって複屈折を線積分した値の差が所望の値となるように複屈折が調整されていることを特徴とする光信号処理器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−286426(P2007−286426A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114805(P2006−114805)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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