説明

光吸収膜、光学素子および光ピックアップ装置

【課題】耐光性および耐候性に優れ、かつ、青紫色の光の透過率を所定の割合で低下させるとともに、反射率を確実に抑制し得る光吸収膜、およびかかる光吸収膜を備えた低コストの光学素子および光ピックアップ装置を提供すること。
【解決手段】光吸収膜9は、基材10側から、第1の層1、第2の層2、第3の層3、第4の層4、第5の層5、第6の層6、第7の層7および第8の層8が、この順で積層されてなるものである。これらの8層のうち、第1の層1、第4の層4および第7の層7がそれぞれ高屈折率層に相当する。一方、第2の層2、第6の層6および第8の層8がそれぞれ低屈折率層に相当する。また、第3の層3および第5の層5がそれぞれ光吸収層に相当する。光吸収層は、低屈折率層および高屈折率層に比べて光吸収率が高い層であり、かつ遷移金属の酸化物で構成されたものである。この酸化物としては、Feが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収膜、光学素子および光ピックアップ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
音楽や映像を記録する手段として、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)等のディスク状記録媒体(光ディスク)が普及している。これらの光ディスクには、再生専用型のものと、追記型または書き換え型のような記録型のものが知られている。このうち、記録型の光ディスクに情報を記録するには、光ディスクの記録層にレーザー光を照射し、これにより記録層中の化学構造を変化させることで記録マークを形成する。一方、光ディスクの記録層に記録された情報を再生するには、光ディスクにレーザー光を照射し、記録マークで反射された反射光を光検出器で検出し、光信号を電気信号に変換することにより情報を再生する。このような情報の記録・再生を行う装置が光ピックアップ装置である。
【0003】
光ピックアップ装置にも、再生機能のみを有するものと、再生機能および記録機能を有するものとがあるが、後者の光ピックアップ装置は、半導体レーザー、コリメートレンズ、ビームスプリッター、波長板、対物レンズ、検出レンズ、シリンドリカルレンズ、光検出器等の各種光学素子の組み合わせで構成される。
このうち、半導体レーザーとしては、波長660〜790nm程度の比較的長波長の赤色のレーザー光を出射するものが用いられる。
【0004】
これに対し、近年、波長が450nm未満と短い青紫色のレーザー光を出射する半導体レーザーを用いた光ピックアップ装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。このような光ピックアップ装置を用いることにより、情報の記録密度を高めることができ、その結果、光ディスクの記録容量を高めることができる。
ここで、記録機能と再生機能とを備える光ピックアップ装置では、記録時に光ディスクに照射するレーザー光のパワーと再生時に照射するパワーとの間で十分な差が必要とされる。これは、記録時には、光ディスクの記録層の化学構造を一部変化させて記録マークを形成し、再生時にはこの記録マークを変質・劣化させることなく、記録マークの形成による反射率の変化を検出するという記録・再生の原理によるものである。したがって、従来の光ピックアップ装置では、記録時と再生時とで半導体レーザーに供給する電力を異ならせることにより、発振するレーザー光のパワーを適宜調整していた。
【0005】
ところが、近年、半導体レーザーの最大定格出力が高まり、これに伴って記録速度をより高めることが可能になりつつある。
しかしながら、半導体レーザーの最大定格出力を高めた結果、安定的に発振可能な最低出力も高くなり、再生時におけるレーザー光のパワーとしては高過ぎるという問題が顕在化してきた。このため、半導体レーザーの出力を、安定的に発振可能な範囲から逸脱しないように調整しつつ、光ディスクに照射されるレーザー光のパワーを弱める必要がある。
このようにレーザー光を弱める手段としては、透過する光を減光する減光フィルター(NDフィルター)等が知られている。特許文献2には、誘電体膜と金属膜とを積層することによって構成される光吸収膜が提案されている。
【0006】
しかしながら、この光吸収膜では、光吸収層として金属膜を用いているため、長期にわたる耐光性(耐候性)に劣ることが課題となる。特に、波長の短い青紫色のレーザー光に長期間曝された場合、金属膜の劣化が著しく進行し、光吸収膜の光学特性が短時間で劣化してしまうことが問題となっている。
また、光吸収膜の層構成によっては、光吸収膜の外表面または光吸収膜と基材との界面でレーザー光が反射される。この反射光が迷光となり、光検出器や半導体レーザー(レーザー発振器)に入射すると、ノイズやパワーの揺らぎが増加し、光ピックアップ装置の誤作動を招くおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−176823号公報
【特許文献2】特開平5−93811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐光性および耐候性に優れ、かつ、青紫色の光の透過率を所定の割合で低下させるとともに、反射率を確実に抑制し得る光吸収膜、およびかかる光吸収膜を備えた低コストの光学素子および光ピックアップ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本発明の光吸収膜は、基材上に設けられた光吸収膜であって、
波長405nmの光について、透過率が2〜98%であり、かつ、前記光吸収膜の基材側からの入射光の反射率、および、前記光吸収膜の他方の反基材側からの入射光の反射率の少なくとも一方が1%以下であることを特徴とする。
【0010】
これにより、耐光性および耐候性に優れ、かつ、青紫色の光の透過率を所定の割合で低下させるとともに、反射率を確実に抑制し得る光吸収膜が得られる。その結果、光源から出射した光をこの光吸収膜で減光する場合、光源の出力を低下させる必要がないため、光源を安定的に駆動させることができ、かつ不本意な反射光の発生を抑制することができるので、迷光の発生を防止することができる。
【0011】
[適用例2]
本発明の光吸収膜では、当該光吸収膜の基材側からの波長405nmの入射光の反射率、および、当該光吸収膜の他方の反基材側からの波長405nmの入射光の反射率の双方が1%以下であることが好ましい。
これにより、光吸収膜の両面からの入射光において、不本意な反射光の発生を抑制し、迷光の発生をより確実に防止することができる。
【0012】
[適用例3]
本発明の光吸収膜では、波長660nmの光および波長790nmの光について、透過率がそれぞれ95%以上であり、かつ、前記光吸収膜の両側に対する入射光の反射率がそれぞれ1%以下であることが好ましい。
これにより、光吸収膜は、CD、DVD等の記録・再生に用いられる比較的長波長光を透過可能なものとなる。このため、光吸収膜は、光源の出力を低下させずに安定的に発振させつつ、波長405nmの光を選択的に減光し、BD等の再生を可能にするとともに、波長660nmの光および波長790nmの光を選択的に高い透過率で透過して、CDおよびDVDの記録・再生も可能にする光吸収膜となる。
【0013】
[適用例4]
本発明の光吸収膜は、基材上に設けられ、相対的に屈折率が低い低屈折率層と相対的に屈折率が高い高屈折率層とが交互にかつ合計で3層以上積層された積層体を含む光吸収膜であって、
前記積層体の前記低屈折率層と前記高屈折率層との間または前記積層体の外側に隣接して設けられ、前記低屈折率層および前記高屈折率層に比べて光吸収率が高い層であり、かつ遷移金属の酸化物で構成された光吸収層を1層以上含むことを特徴とする。
これにより、耐光性および耐候性に優れ、かつ、青紫色の光の透過率を所定の割合で低下させるとともに、反射率を確実に抑制し得る光吸収膜が得られる。その結果、光源の出力を低下させる必要がないため、光源を安定的に駆動させることができ、かつ不本意な反射光の発生を抑制することができるので、迷光の発生を防止することができる。
【0014】
[適用例5]
本発明の光吸収膜では、前記遷移金属の酸化物は、波長405nmの光に対する消衰係数kが0.05〜2であることが好ましい。
これにより、光吸収層は、青紫色の光を確実に吸収し、減光し得るものとなる。
[適用例6]
本発明の光吸収膜では、前記遷移金属の酸化物は、Feであることが好ましい。
Feは、化学的に極めて安定であるため、光吸収膜の耐光性および耐候性をより高めることができる。また、Feは、青紫色の光を選択的に吸収することができるので、光吸収膜は、青紫色の光を所定の割合で吸収するとともに、それ以外の色の光の透過に影響を及ぼし難いものとなる。すなわち、Feで構成された光吸収層は、透過光のうち、特に青紫色の光を選択的に吸収して減光することができる。
【0015】
[適用例7]
本発明の光吸収膜では、前記光吸収層の幾何学的膜厚は、1〜200nmであることが好ましい。
これにより、光吸収層を透過する青紫色の光を適度に吸収して減光することができ、この光吸収層の膜厚を適宜設定することにより、波長405nmの光の透過率が2〜98%の範囲で所望の値を有する光吸収膜が得られる。
【0016】
[適用例8]
本発明の光吸収膜では、前記低屈折率層の波長405nmの光の屈折率は、1以上1.8未満であり、前記高屈折率層の波長405nmの光の屈折率は、1.8以上であることが好ましい。
これにより、光吸収膜に反射防止膜としての十分な機能を付与することができる。
【0017】
[適用例9]
本発明の光吸収膜では、前記低屈折率層は、酸化ケイ素で構成されており、前記高屈折率層は、酸化タンタルで構成されていることが好ましい。
酸化ケイ素は、屈折率が低くかつ硬く傷つきにくく、耐候性、透光性に優れているため、低屈折率層の構成材料として特に好適であり、酸化タンタルは、屈折率が高くかつ耐候性、透光性に優れているため、高屈折率層の構成材料として特に好適である。
【0018】
[適用例10]
本発明の光吸収膜では、前記積層体は、前記低屈折率層と前記高屈折率層とが合計で4層以上積層されたものであり、前記光吸収層は、前記積層体の基材側の最外層または他方の最外層から数えて3層目または4層目に位置していることが好ましい。
これにより、光吸収層と外気との接触を防止して、光吸収層の耐候性を高め、光吸収層の経時的な変質・劣化に伴って光学特性が経時的に変化してしまうのを防止することができる。また、光吸収膜の反射率の低下に対しても、この積層位置が寄与していると推察されることから、低反射の光吸収膜が得られる。
【0019】
[適用例11]
本発明の光吸収膜は、前記光吸収層を2層以上含んでいることが好ましい。
これにより、減光特性の安定が期待できる。
[適用例12]
本発明の光吸収膜は、前記光吸収層同士が隣接しないように、前記光吸収層を偶数層含んでおり、
前記偶数層の光吸収層は、前記高屈折率層または前記低屈折率層を挟んで、厚さ方向に対称の関係になるよう位置していることが好ましい。
これにより、光の入射方向によらず、すなわち双方向からの入射光に対する反射率を確実に抑制し得る光吸収膜が得られる。
【0020】
[適用例13]
本発明の光吸収膜は、2層以上の前記低屈折率層と1層以上の前記高屈折率層とが積層された積層体と、2層以上の前記光吸収層とを含んでおり、
その一部に、前記低屈折率層、前記光吸収層、前記高屈折率層、前記光吸収層、前記低屈折率層の順で積層された部位を含んでいることが好ましい。
これにより、光吸収膜が光の入射方向によらず反射率を確実に抑制する効果がより顕著に発揮される。
【0021】
[適用例14]
本発明の光学素子は、透光性を有する基材と、
該基材上に設けられ、本発明の光吸収膜と、を備えることを特徴とする。
これにより、耐光性および耐候性に優れ、かつ、青紫色の光の透過率を所定の割合で低下させるとともに、反射率を確実に抑制し得る光学素子が得られる。その結果、光源から出射した光をこの光学素子で減光する場合、光源の出力を低下させる必要がないため、光源を安定的に駆動させることができ、かつ不本意な反射光の発生を抑制することができるので、迷光の発生を防止することができる。
【0022】
[適用例15]
本発明の光学素子では、減光フィルターであることが好ましい。
これにより、耐光性および耐候性に優れ、かつ、青紫色の光の透過率を所定の割合で低下させるとともに、反射率を確実に抑制し得る減光フィルターが得られる。その結果、光源から出射した光をこの減光フィルターで減光する場合、光源の出力を低下させる必要がないため、光源を安定的に駆動させることができ、かつ不本意な反射光の発生を抑制することができるので、迷光の発生を防止することができる。そして、CD、DVDおよびBDの3種類の光ディスクの記録・再生に用いることができる減光フィルターが得られる。
【0023】
[適用例16]
本発明の光ピックアップ装置は、本発明の光学素子を備えることを特徴とする。
これにより、波長405nmの光を出射する光源の出力を低下させることなく、光源を安定的に駆動させつつ、不本意な反射光の発生を抑制し、迷光の発生を確実に防止し得るBD用の光ピックアップ装置が得られる。また、この光ピックアップ装置は、CD、DVDの記録・再生も可能であることから、CD、DVDおよびBDの3種類の光ディスクの安定した記録・再生が可能な光ピックアップ装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の光学素子の第1実施形態を適用した減光フィルター示す縦断面図である。
【図2】本発明の光学素子の第2実施形態を適用した減光フィルター示す縦断面図である。
【図3】本発明の光ピックアップ装置の実施形態を示す平面図である。
【図4】実施例1の分光透過率曲線および分光反射率曲線である。
【図5】実施例2の分光透過率曲線および分光反射率曲線である。
【図6】実施例3の分光透過率曲線および分光反射率曲線である。
【図7】実施例4の分光透過率曲線および分光反射率曲線である。
【図8】実施例5の分光透過率曲線および分光反射率曲線である。
【図9】比較例の分光透過率曲線および分光反射率曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の光吸収膜、光学素子および光ピックアップ装置を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明の光学素子は、透光性を有する基材と、その上面に設けられた光吸収膜(本発明の光吸収膜)とを有している。
このうち、光吸収膜は、相対的に屈折率が低い低屈折率層と、相対的に屈折率が高い高屈折率層とが、交互に3層以上積層された積層体と、この積層体中または積層体に隣接して設けられ、低屈折率層および高屈折率層の構成材料に比べて光吸収率が高い遷移金属の酸化物で構成された1層以上の光吸収層とを含むことを特徴とするものである。
【0026】
このような光学素子は、透過する光を所定の割合で減光するとともに、入射部での光の反射を抑制可能な減光フィルター(NDフィルター)等に適用することが可能である。
特に、本発明の光学素子は、波長405nm程度(一般的には405±10nm)の青紫色の光の透過率を所定の割合で減光するとともに、この光の反射率を抑えることができる。このため、本発明の光学素子は、波長405nmの光を用いて光ディスクの再生機能および記録機能を有する光ピックアップ装置用の各種光学素子に適用した場合、光源からの光を適度に減光して、再生に適したパワーの光を得ることができるため、特に有用である。なお、このような青紫色の光を用いて再生・記録を行う光ディスクは、例えばBD(Blu-ray Disc(登録商標))、HD−DVD(High-Definition Digital Versatile Disc)として知られている。なお、光ピックアップ装置については、光吸収膜および光学素子の説明後に詳述する。
【0027】
<光吸収膜および光学素子>
≪第1実施形態≫
まず、本発明の光吸収膜を備える本発明の光学素子の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の光学素子の第1実施形態を適用した減光フィルター示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「上」または「表面側」、下側を「下」または「基材側」と言う。また、図1中の光吸収膜を構成する各層の厚さは、それぞれ同じ比率になっているが、これは実際の比率を反映するものではない。
図1に示す減光フィルター20は、透光性を有する基材10と、その上面に設けられた光吸収膜9とを有している。
【0028】
以下、減光フィルター20の各部の構成について順次詳述する。
基材10は、光吸収膜9を成膜する下地となるものであり、板状物、フィルム状物、レンズ形状物、プリズム形状物等が挙げられる。
このような基材10は、主として可視光線を透過可能な透光性材料で構成される。かかる透光性材料としては、例えば、ホウケイ酸ガラス、石英ガラスのような各種ガラス材料、水晶、サファイアのような各種結晶性材料、透光性アルミナ、チタン酸ジルコン酸鉛のような各種セラミックス材料、ポリカーボネート等のポリカーボネート系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート等のアクリル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂のような各種樹脂材料等が挙げられる。
このような基材10の平均厚さは、特に限定されないものの、加工のコストや減光フィルター20の重量等を考慮した場合、好ましくは0.2〜10mm程度、より好ましくは0.5〜3mm程度とされる。
【0029】
本発明の光吸収膜の一例として図1に示す光吸収膜9は、基材10側から、第1の層1、第2の層2、第3の層3、第4の層4、第5の層5、第6の層6、第7の層7および第8の層8が、この順で積層されてなるものである。
これらの8層は、相対的に屈折率が低い低屈折率層と、相対的に屈折率が高い高屈折率層と、光吸収層の3種類の層の組み合わせからなる。
【0030】
具体的には、第1の層1、第4の層4および第7の層7が、それぞれ高屈折率層に相当する。一方、第2の層2、第6の層6および第8の層8が、それぞれ低屈折率層に相当する。また、第3の層3および第5の層5が、それぞれ光吸収層に相当する。
このように、光吸収膜9は、光吸収層に相当する第3の層3および第5の層5を除けば、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層されたものになっている。換言すれば、光吸収膜9は、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層してなる積層体と、この積層体中の層間に設けられた2層の光吸収層とを有している。これにより、光吸収膜9は、全体として、入射する光の反射を防止する反射防止膜としての機能を有するものとなる。
【0031】
なお、積層体の層数は、特に限定されないが、好ましくは4〜20層程度、より好ましくは6〜15層程度とされる。
このような図1に示す8層の光吸収膜9の場合、各層の幾何学的膜厚は、一例として、第1の層1が10〜80nm程度、第2の層2が10〜80nm程度、第3の層3が2〜20nm程度、第4の層4が20〜150nm程度、第5の層5が2〜20nm程度、第6の層6が10〜80nm程度、第7の層7が20〜150nm程度、第8の層8が20〜150nm程度とされる。
【0032】
ここで、低屈折率層および高屈折率層は、それぞれ透光性を有する材料で構成されるが、各層を構成する材料は、相互の屈折率の大小関係に基づいて適宜選択することができる。この材料としては、例えば、酸化ケイ素(SiO等)、酸化タンタル(Ta等)、酸化チタン(TiO等)、酸化ジルコニウム(ZrO等)、酸化ニオブ(Nb等)、酸化アルミニウム(Al等)等の酸化物系材料、フッ化マグネシウム(MgF等)、フッ化カルシウム(CaF等)等のフッ化物系材料等が挙げられる。
【0033】
これらの各種材料の中でも、低屈折率層の構成材料と高屈折率層の構成材料の好ましい組み合わせとしては、例えば、酸化ケイ素と酸化タンタル、酸化ケイ素と酸化チタン、酸化ケイ素と酸化ニオブ、フッ化マグネシウムと酸化タンタル等が挙げられる。
このうち、酸化ケイ素は、屈折率が低くかつ硬く傷つきにくく、耐候性、透光性に優れているため、低屈折率層の構成材料として特に好適である。一方、酸化タンタルは、屈折率が高くかつ耐候性、透光性に優れているため、高屈折率層の構成材料として好適である。
【0034】
また、これらの材料の2種以上を組み合わせて用いることもできる。例えば、低屈折率層に相当する第2の層2、第6の層6および第8の層8の3層のうち、2層が酸化ケイ素で構成され、残る1層がフッ化マグネシウムで構成されていてもよい。
また、低屈折率層と高屈折率層との間における屈折率の大小関係は、相対的な関係であれば足りるが、各層の具体的な屈折率は以下のような範囲であることが好ましい。
すなわち、低屈折率層の波長405nmの光における屈折率は、1以上1.8未満であるのが好ましく、1〜1.7程度であるのがより好ましく、1〜1.5程度であるのがさらに好ましい。
【0035】
一方、高屈折率層の波長405nmの光における屈折率は、1.8以上であるのが好ましく、2以上であるのがより好ましい。このような屈折率の範囲で、低屈折率層および高屈折率層を適宜選択すれば、光吸収膜9に反射防止膜としての機能を確実に付与することができる。
また、高屈折率層および低屈折率層の幾何学的膜厚は、光吸収膜全体の層構成に応じて適宜設定されるものの、その範囲は、1〜500nm程度であるのが好ましく、2〜300nm程度であるのがより好ましい。
また、最表面層である第8の層8は、低屈折率層に相当するが、これにより光吸収膜9と空気との屈折率差が低減されることとなり、最表面における反射を抑制することができる。
【0036】
一方、光吸収層は、透過する光を所定の割合で吸収し、減光する機能を有する。かかる光吸収層を構成する材料としては、遷移金属の酸化物のうち、低屈折率層および高屈折率層に比べて光吸収率が高い材料が用いられる。具体的には、例えば、FeO、Fe、Feのような酸化鉄、Crのような酸化クロム、NiO、Niのような酸化ニッケル、Co、Coのような酸化コバルト、Vのような酸化バナジウム、CuOのような酸化銅、Mnのような酸化マンガン等が挙げられる。
【0037】
これらの中でも、酸化鉄が好ましく、Feがより好ましい。特にFeは、化学的に極めて安定であるため、光吸収膜9および減光フィルター20の耐光性および耐候性をより高めることができる。また、Feは、前述した青紫色の光を選択的に吸収することができる。これにより、光吸収層は、青紫色の光を所定の割合で吸収するとともに、それ以外の色(波長)の光の透過に影響を及ぼし難いものとなる。すなわち、Feで構成された光吸収層は、透過光のうち、特に青紫色の光を選択的に吸収して減光することができる。
【0038】
ところで、従来では、このような光吸収層として、各種金属材料、金属窒化物(TiN、AlN、SiN等)、有機物等で構成された層が用いられていた。しかしながら、耐光性や耐候性が劣るため、より安定性に優れた光吸収層が求められていた。特に、金属材料では、酸化に伴う耐光性および耐候性の劣化が顕著であった。また、金属窒化物の場合、特に成膜プロセスが複雑になり、かつ成膜法として安価な真空蒸着法では、均一な層を安定して成膜することができなかった。
【0039】
これに対し、本発明によれば、光吸収層として化学的に安定な遷移金属の酸化物を用いることとしたため、耐光性および耐候性に優れた光吸収層を、真空蒸着法によっても効率よく成膜することができる。
また、前述した高屈折率層および低屈折率層の構成材料にも、酸化物系の材料が用いられる場合が多く、この場合には、これらの高屈折率層および低屈折率層と光吸収層との親和性を高めることができる。これにより、層間の機械的および光学的密着性が高くなり、光吸収膜の層間における意図しない散乱等を防止することができる。その結果、光吸収膜の光学特性の安定化を図ることができる。
【0040】
また、上述した遷移金属の酸化物には、その消衰係数kが、高屈折率層の構成材料および低屈折率層の構成材料の消衰係数kに比べて高いものが用いられる。具体的には、遷移金属の酸化物は、波長405nmの光に対する消衰係数kが0.05〜3であるのが好ましく、0.05〜2であるのがより好ましく、0.1〜1.5であるのがさらに好ましい。消衰係数が前述したような範囲の金属酸化物を用いることにより、光吸収層は、青紫色の光を適度に吸収し、減光し得るものとなる。特に、後述する光吸収膜9の波長405nmの光の透過率を50〜90%とする場合には、消衰係数kを0.05〜2とするのが好ましい。
【0041】
また、Feの消衰係数kの値は405nm近傍において1.0であり適している。また、Feの消衰係数kの値は600nm以上の波長においては0.1以下であり赤色および近赤外の波長においては吸収が少ない特徴がある。
なお、消衰係数kが前記下限値未満である場合、減光フィルター20の透過率を低下させるために、光吸収層の厚さを特に厚くする必要が生じる。その場合、消衰係数kの波長分散の影響が大きくなり、光吸収膜9において所望の波長範囲で平坦な光透過特性と低反射とを両立させるのが困難になるおそれがある。一方、消衰係数kが前記上限値を超える場合、光吸収層の厚さを極めて薄くする必要が生じるため、均一な厚さで均質な光吸収層を成膜するのが困難になるおそれがある。
【0042】
また、このような光吸収層の波長405nmの光における屈折率は、特に限定されないものの、1以上であるのが好ましい。光吸収層の屈折率が前記下限値を下回った場合、光吸収層の界面における光反射性が著しく高くなり、光吸収膜9に反射防止膜としての機能を十分に付与することが困難になるおそれがある。なお、上限値は、特に設定されなくても構わないが、一例として3程度に設定される。
【0043】
また、光吸収層の幾何学的膜厚は、光吸収膜9の減光率または透過率に応じて適宜設定されるものの、その範囲は、1〜200nmであるのが好ましく、3〜100nmであるのがより好ましく、5〜50nmであるのがさらに好ましい。光吸収層の膜厚が前記範囲内であれば、減光フィルター20を透過する青紫色の光を適度に吸収して減光することができる。その結果、光吸収層の膜厚を適宜設定することにより、前記青紫色の光の透過率が2〜98%の範囲で所望の値を有する減光フィルター20が得られる。
【0044】
このような光吸収膜9は、波長405nmの光(青紫色の光)の透過率が2〜98%であり、さらに、表面側(反基材側)からの入射光および基材側からの入射光の少なくとも一方において、その反射率が1%以下である。
したがって、光吸収膜9は、透過する光の一部を吸収して透過光を適度に減光するとともに、不本意な反射光の発生を抑制することができる。これにより、他の光学素子に不本意に入射してこれらの光学素子に悪影響を及ぼす、いわゆる迷光が発生するのを防止することができる。
【0045】
なお、光吸収膜9の波長405nmの光の透過率は、その目的等を考慮した場合、好ましくは10〜90%程度とされる。
また、光吸収膜9による光の反射は、表面側(反基材側)からの入射光および基材側からの入射光の双方において、1%以下であるのが好ましく、0.5%以下であるのがより好ましく、0.2%以下であるのがさらに好ましい。これにより、減光フィルター20の両面(両側)からの入射光において、不本意な反射光の発生を抑制し、迷光の発生をより確実に防止することができる。
【0046】
さらに、光吸収膜9は、波長660nmの光(赤色の光)の透過率および波長790nmの光(赤色の光)の透過率の双方が95%以上であるのが好ましく、98%以上であるのがより好ましい。また、同時に光吸収膜9は、波長660nmの光(赤色の光)の透過率および波長790nmの光(赤色の光)に関し、その入射方向によらず各波長において反射率が1%以下であるのが好ましく、0.5%以下であるのがより好ましく、0.2%以下であるのがさらに好ましい。波長660nmの光はDVDの記録・再生に用いられ、また、波長790nmの光はCDの記録・再生に用いられるため、光吸収膜9が上述したような特性を有していることにより、光吸収膜9を有する減光フィルター20は、これらCD、DVD等の記録・再生に用いられる光を透過可能なものとなる。これにより、減光フィルター20は、光源の出力を大きく低下させず安定的に発振させつつ、前述したように波長405nmの青紫色の光を選択的に減光し、前述したBDの再生を可能にするとともに、同じ減光フィルター20で、波長660nmの光および波長790nmの光は選択的に高い透過率で透過し、DVDおよびCDの記録・再生をも可能になる。すなわち、減光フィルター20は、CD、DVDおよびBDの3種類の光ディスクの記録・再生に用いることができる減光フィルターとなる。
【0047】
なお、光吸収膜9の幾何学的膜厚は、特に限定されないものの、20〜400nm程度であるのが好ましく、50〜350nm程度であるのがより好ましい。
このような光吸収膜9の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンアシスト蒸着法等の各種成膜法が挙げられる。
ここで、図1に示す光吸収膜9は、前述したように、第1の層1から第8の層8までの8層で構成されており、第3の層3および第5の層5がそれぞれ光吸収層に相当する。すなわち、光吸収膜9は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に合計で4層以上(図1では6層)積層された積層体を含んでおり、さらにこの積層体中に2層の光吸収層を含んでいる。これらの光吸収層のうち、第3の層3は、基材10側の最外層(第1の層1)から数えて3層目に位置しており、また第5の層5は、光吸収膜9の表面側の最外層(第8の層8)から数えて4層目に位置している。光吸収層の積層位置を、このように最外層から数えて3層目または4層目とすることにより、光吸収層と外気との接触を防止して、光吸収層の耐候性を高め、光吸収層の経時的な変質・劣化に伴って光学特性が経時的に変化してしまうのを防止することができる。また、反射率の低下に対しても、この積層位置が寄与していると推察される。
【0048】
また、このような光吸収層の積層位置は、減光フィルター20に対する入射光の入射方向に応じて適宜設定されるのが好ましい。具体的には、減光フィルターが、下方から入射される光、すなわち基材10側から入射される光に対して専ら用いられる場合には、光吸収層の積層位置を前述したように基材側の最外層から数えて3層目または4層目とすることにより、この下方からの入射光に対して特に反射率を低下させることができる。
【0049】
一方、上方から入射される光に対して専ら用いられる減光フィルターの場合には、光吸収層の積層位置を表面側の最外層から数えて3層目または4層目とすることで、上方からの入射光に対して特に反射率を低下させることができる。
そして、これらの2つの条件の双方を満足する図1に示す減光フィルター20は、第3の層3および第5の層5がそれぞれ上記条件を満足しているため、双方向からの光に対して特に反射率を低下させることができる。なお、このように2層以上の光吸収層が設けられる場合、1層の場合と比べて減光特性が安定するものと期待できるが、この場合、各光吸収層は、1層または2層以上の高屈折率層または低屈折率層を挟むように配置される。
【0050】
さらに、上方からの入射光と下方からの入射光の双方に対して反射率を抑える観点からは、光吸収層は偶数層設けられていることが好ましく、これらの偶数層の光吸収層は、その積層位置が、1層または2層以上の高屈折率層または低屈折率層を挟んで、厚さ方向に対称の関係を満足していることが好ましい。これらの条件を満足していれば、双方向からの入射光に対する反射率を確実に抑制し得る光吸収膜9および減光フィルター20が得られる。また、このような層構成であれば、層間に発生する応力が緩和され易く、このため層間剥離を確実に防止することができる。
【0051】
また、より好ましくは、少なくとも2層の低屈折率層と少なくとも1層の高屈折率層とが、以下のような積層パターンで積層されたものである。すなわち、光吸収膜9は、その一部に、低屈折率層、光吸収層、高屈折率層、光吸収層、低屈折率層がこの順で積層された部位を含んでいる。このように高屈折率層を挟んで全5層が厚さ方向に対称の関係を有する積層パターンの部位を有していることにより、光吸収膜9では、双方向からの入射光に対する反射率のさらなる抑制が図られる。
なお、図1では、第8の層8以外の7層が、第4の層4を挟んで厚さ方向に対称の関係を有しており、上記効果がより顕著である。
【0052】
≪第2実施形態≫
次に、本発明の光吸収膜を備える本発明の光学素子の第2実施形態について説明する。
図2は、本発明の光学素子の第2実施形態を適用した減光フィルター示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図2中の上側を「上」または「表面側」、下側を「下」または「基材側」と言う。また、図2中の光吸収膜を構成する各層の厚さは、それぞれ同じ比率になっているが、これは実際の比率を反映するものではない。
【0053】
以下、第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態は、光吸収膜9の層構成(層数)が異なる以外は、前記第1実施形態と同様である。
図2に示す減光フィルター30は、透光性を有する基材10と、その上面に設けられた光吸収膜9とを有している。
【0054】
図2に示す光吸収膜9は、基材10側から、第1の層1、第2の層2、第3の層3、第4の層4、第5の層5、第6の層6および第7の層7が、この順で積層されてなるものである。
これらの7層のうち、第1の層1、第3の層3および第6の層6が、それぞれ高屈折率層に相当する。一方、第2の層2、第4の層4および第7の層7が、それぞれ低屈折率層に相当する。また、第5の層5が、光吸収層に相当する。
【0055】
このように、図2に示す光吸収膜9は、光吸収層に相当する第5の層5を除けば、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層されたものになっている。
また、第5の層5は、光吸収膜9の表面側の最外層(第7の層7)から数えて3層目に位置している。光吸収層の積層位置を、このように最外層から数えて3層目または4層目とすることにより、光吸収層と外気との接触を防止して、光吸収層の耐候性を高め、光吸収層の経時的な変質・劣化に伴って光学特性が経時的に変化してしまうのを防止することができる。また、反射率の低下に対しても、この積層位置が寄与していると推察される。
【0056】
また、光吸収層の積層位置が上述したように第7の層7から数えて3層目に位置していることから、図2に示す減光フィルター30は、上方から入射される光、すなわち第7の層7側から入射される光に対して専ら用いられる場合には、入射光の反射率を特に低下させることができる。
このような図2に示す7層からなる光吸収膜9の場合、各層の幾何学的膜厚は、一例として、第1の層1が3〜20nm程度、第2の層2が30〜320nm程度、第3の層3が20〜150nm程度、第4の層4が5〜50nm程度、第5の層5が2〜20nm程度、第6の層6が10〜100nm程度、第7の層7が20〜150nm程度とされる。
【0057】
以上のような第2実施形態においても、前記第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
以上、本発明の光吸収膜および本発明の光学素子について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、光吸収層は、第1の層1と基材10との間、または、第8の層8の外側に設けられていてもよい。
また、本発明の光学素子は、減光フィルターの他に、レンズ、ビームスプリッター、波長板等の各種光学素子に適用することもできる。
【0058】
<光ピックアップ装置>
次に、本発明の光学素子を備える本発明の光ピックアップ装置の実施形態について説明する。
図3は、本発明の光ピックアップ装置の実施形態を示す平面図である。
光ピックアップ装置100は、半導体レーザー素子110と、コリメートレンズ120と、ND(Neutral Density)フィルター(本発明の光学素子)130と、PBS(Polarizing Beam Splitter)プリズム140と、波長板150と、対物レンズ160と、検出レンズ170と、光検出器180とを有している。
このような光ピックアップ装置100は、対物レンズ160の近傍に設けられる光ディスク300に対して光を照射し、光ディスク300に対して情報の記録・再生を行う。
【0059】
以下、光ピックアップ装置100の各部の構成について順次説明する。
半導体レーザー素子110は、レーザー光を照射する光源である。出射するレーザー光は、その波長が例えば450nm未満の青紫色の光とされる。このような半導体レーザー素子110を用いることにより、光ディスク300における情報の記録密度を高めることができる。
【0060】
半導体レーザー素子110の光路111上には、半導体レーザー素子110側から、コリメートレンズ120、NDフィルター130、PBSプリズム140、波長板150、および対物レンズ160がこの順で配置されている。
また、PBSプリズム140からは、この光路111と直交する光路112が分岐している。この光路112上には、PBSプリズム140側から検出レンズ170および光検出器180がこの順で配置されている。
【0061】
コリメートレンズ120は、半導体レーザー素子110の光路111上に配置されている。半導体レーザー素子110から出射した光束L1は、出射点から放射状に広がるが、コリメートレンズ120によりこの光束L1が平行光に変換される。
PBSプリズム140は、入射する光を分岐するための光学素子である。PBSプリズム140は、NDフィルター130側から入射した光を透過させるよう構成されている。また、PBSプリズムの内部には、光路111に対して斜め45度に横切る反射面141が設けられており、波長板150側から入射した光を、この反射面141により光路112側に反射する。なお、反射面141は、光の偏光方向に応じて透過または反射を生じる。
【0062】
波長板150は、直線偏光の光と円偏光の光とを相互に変換する1/4波長板である。
対物レンズ160は、半導体レーザー素子110から出射された光を、光ディスク300の面上に集光させたり、光ディスク300からの反射光を平行光に変換したりする光学素子である。
また、光路112上に設けられた検出レンズ170は、光ディスク300からの反射光を光検出器180上に集光するための光学素子である。
さらに、光検出器180は、光ディスク300からの反射光から、フォーカシングサーボやトラッキングサーボ等のサーボ信号、および光ディスク300に記録されたデータを含む信号を検出し、光ディスク300に記録された情報を読み取るための光学素子である。
【0063】
次に、光ピックアップ装置100の動作について説明する。以下では、光ピックアップ装置100により、光ディスク300上に記録されたデータを再生する動作について説明する。
半導体レーザー素子110から出射した光束L1は、コリメートレンズ120、NDフィルター130、PBSプリズム140、波長板150および対物レンズ160を順次透過し、光ディスク300に照射される。照射された光束L1は、光ディスク300上の記録マークで反射され、光束L2として対物レンズ160および波長板150を順次透過し、PBSプリズム140に入射する。PBSプリズム140では、光束L2が反射面141で90度反射され、その後、光束L2は検出レンズ170を透過して光検出器180に集光する。光検出器180では、データを含む信号を検出し、この信号を電気信号に変換することで、信号に含まれたデータを再生する。
【0064】
光ピックアップ装置100では、光ディスク300にデータを記録する際にも、上述した再生時の動作と同様の動作を経るが、再生時との相違点は、光ディスク300に照射される光束L1のパワー(光量)である。しかしながら、再生動作時と記録動作時とで半導体レーザー素子110の出力を大きく変えた場合、低出力時(再生動作時)における発振安定性が低下するため、これを避けるために出力の調整幅は狭い範囲に限られることとなる。ところが、このようにして半導体レーザー素子110の出力を低下させても、再生動作時の光束L1のパワーとしては高過ぎるため、光束L1のパワーを弱める手段が必要となる。
【0065】
本発明では、この手段として、コリメートレンズ120とPBSプリズム140との間に、前述した青紫色のレーザー光を所定の比率で減光するNDフィルター130を設けることとした。このNDフィルター130によれば、光束L1を所定の割合で減光することができるので、半導体レーザー素子110の出力を下げることなく、光ディスク300に照射される光束L1のパワーを低下させることができる。これにより、半導体レーザー素子110を安定して発振させるとともに、光ディスク300のデータを安定して再生することができる。
【0066】
また、本発明の光学素子を適用したNDフィルター130では、前述したように青紫色のレーザー光のように光エネルギーの高い光に長期間曝されたとしても、その光学特性の劣化が防止される。このため、光ピックアップ装置100は、耐久性に優れたものとなる。
さらに、NDフィルター130では、光が確実に吸収され、反射光の発生が最小限に抑えられる。このため、反射光が光検出器180や半導体レーザー素子110に入射することによるノイズ、パワーの揺らぎ等の増加や、それに伴う光ピックアップ装置100の誤作動を防止することができる。
【0067】
なお、上記の構成では、記録動作時にも、光束L1はNDフィルター130を透過するため、本来は弱める必要のない記録動作時における光束L1のパワーをも弱めてしまう。高速での記録動作を要しない場合は上記構成で構わないが、そうでない場合には、記録動作時には光束L1のパワーを弱めないことが好ましい。この場合は、NDフィルター130を移動させる移動手段を設け、この移動手段により、NDフィルター130を光路111上に配置する減光状態(図3)と、NDフィルター130を光路111から取り除いた非減光状態とが適宜選択可能になっていればよい。このような移動手段を設けた場合、再生動作時には、減光状態にして光束L1のパワーを弱めるとともに、記録動作時には、非減光状態にして光束L1のパワーをそのまま利用することができる。その結果、光ディスク300のデータを安定して再生するとともに、光ディスク300に対してより高速でデータを記録することができる。
【0068】
また、半導体レーザー素子110としては、青紫色のレーザー光のみでなく、約660nmの赤色のレーザー光および約790nmの赤外波長のレーザー光を出射し得る半導体レーザー素子を用いるようにしてもよい。この場合、青紫色のレーザー光と、赤色のレーザー光と、赤外波長のレーザー光とをそれぞれ選択的に出射することができるため、1つの半導体レーザー素子110で波長の異なるそれぞれのレーザー光を用い、種類の異なる光ディスク300に対してデータの記録・再生を行うことができる。その結果、青紫色のレーザー光を用いるBDやHD−DVD、赤色のレーザー光を用いるDVD、および赤外波長のレーザー光を用いるCDに対して、それぞれデータの記録・再生が可能な光ピックアップ装置100が得られる。
【0069】
なお、この場合、これらの3波長のレーザー光がそれぞれNDフィルター130を透過するが、半導体レーザー素子110の特性や光ピックアップ装置100の用途によっては、NDフィルター130において赤色および赤外波長のレーザー光については減光させないことが望まれる。このような場合、NDフィルター130は、前述した光学素子の各実施形態のように、青紫色のレーザー光を所定の割合で減光する一方、赤色および赤外波長のレーザー光はほとんど減光させないものであるのが好ましい。このようなNDフィルター130を用いることにより、光ピックアップ装置100は、BD、DVDおよびCDの3種類の光ディスクに対して対応可能なものとなる。
【0070】
以上、光吸収膜、光学素子および光ピックアップ装置について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、光ピックアップ装置の前記実施形態では、本発明の光学素子の一例としてNDフィルターを挙げて説明したが、本発明の光学素子は、コリメートレンズ120、PBSプリズム140、波長板150、対物レンズ160、検出レンズ170等の光学素子にも適用することができる。
【実施例】
【0071】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.減光フィルターの製造
(実施例1)
まず、基材として、平均厚さ0.5mmのホウケイ酸ガラス基板を用意した。
次いで、基材上にイオンアシスト蒸着法により、表1に示す層構成の光吸収膜を成膜し、減光フィルターを作製した。
【0072】
(実施例2〜4)
光吸収膜の層構成を表1に示すように変更した以外は、それぞれ前記実施例1と同様にして減光フィルターを作製した。
(実施例5)
光吸収膜の層構成を表1に示すように変更し、イオンビームアシストを用いない通常の真空蒸着法で成膜した以外、前記実施例1と同様にして減光フィルターを作製した。
(比較例)
光吸収膜を省略した以外は、前記実施例1と同様にして減光フィルターを作製した。なお、比較例の光吸収膜の層構成を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
2.減光フィルターの評価
各実施例で作製した減光フィルターについて、それぞれ、光吸収膜の表面側から波長405nmのレーザー光を入射したときの透過率、および両面にそれぞれ波長405nmのレーザー光を入射したときの反射率を測定した。そして、各実施例および比較例の分光透過率曲線および分光反射率曲線を図4〜図9に示す。なお、透過率および反射率の測定は、入射角0°で行った。また、図4〜図9において、符号Tで示す実線は分光透過率曲線を表し、符号R1で示す一点鎖線は光吸収膜の表面側からレーザー光を入射したときの分光反射率曲線を表し、符号R2で示す破線は基材側からレーザー光を入射したときの分光反射率曲線を表す。
【0075】
まず、実施例1で作製した減光フィルターでは、図4に示すように、波長405nmにおける透過率が約70%であり、30%程度の減光がなされていた。また、波長405nmにおける反射率は、R1がほぼ0%であるのに対し、R2は約8%の反射が認められた。以上のことから、実施例1で作製した減光フィルターは、光吸収膜の表面側から波長405nmのレーザー光を入射したとき、30%程度減光しつつ、一方向からの入射光に対してほとんど反射が生じないことから、BDのような青紫色の光を用いて記録・再生を行うような光ディスク向けの光ピックアップ装置用減光フィルターとして優れた特性を有することが明らかとなった。
【0076】
一方、実施例1で作製した減光フィルターは、波長660nmにおける透過率および波長790nmにおける透過率の双方が約97%であった。また、これらの波長における反射率は、それぞれ3%程度に抑えられていた。このことから、実施例1で作製した減光フィルターは、CDやDVDのような光ディスクに記録・再生を行う光ピックアップ装置用減光フィルターとしても優れた特性を有していた。
以上のことから、実施例1で作製した減光フィルターを備えた光ピックアップ装置は、CD、DVDおよびBDの3種類の光ディスクに対して安定的に記録・再生を行うのに適したものであることが明らかとなった。
【0077】
また、実施例2で作製した減光フィルターでは、図5に示すように、波長405nmにおける透過率が約80%であり、20%程度の減光がなされていた。なお、実施例1で作製した減光フィルターと実施例2で作製した減光フィルターとは、各層の幾何学的膜厚が異なる以外は、同様の膜構成になっている。
ここで、実施例1における光吸収層と実施例2における光吸収層とを比較すると、後者の方が膜厚が薄い。したがって、実施例1と実施例2との間の透過率の差(減光率の差)は、主に光吸収層の膜厚の差に起因しているものと推察される。したがって、減光フィルターにおける透過率は、主に光吸収層の膜厚と相関関係を有するものと推察される。
【0078】
一方、波長660nmにおける透過率および波長790nmにおける透過率は、それぞれ99%以上、反射率はそれぞれ入射光の方向によらず1%以下であり、CDやDVDのような比較的長波長の光を用いて記録・再生を行う光ピックアップ装置用減光フィルターとしては、実施例1よりも優れた性能であった。
したがって、実施例2で作製した減光フィルターも、3種類の光ディスクに対して安定的に記録・再生を行い得る光ピックアップ装置に適した減光フィルターであると言える。
【0079】
また、実施例3で作製した減光フィルターでは、図6に示すように、波長405nmにおける透過率が約70%であり、30%程度の減光がなされていた。また、波長405nmにおける反射率は、それぞれ入射光の方向によらず0.5%以下であった。したがって、実施例3で作製した減光フィルターは、波長405nmの光が双方向から入射する場合において、特に優れた性能を発揮するため、BD用の光ピックアップ装置用減光フィルターとして有用である。すなわち、この減光フィルターは、その特性に入射光の方向依存性がないため、光ピックアップ装置内において光の進行方向を考慮することなく用いることができるので、汎用性に優れたものとなる。
【0080】
また、実施例4で作製した減光フィルターでは、各層の幾何学的膜厚が異なる以外は、実施例1で作製した減光フィルターと同様の層構成になっているが、その中でも実施例4の光吸収層は、実施例1に比べて40%程度薄くなっている。しかしながら、波長405nmにおける透過率は図7に示すように実施例1とほぼ同様であることから、本発明によれば、光吸収層の膜厚のみでなく、高屈折率層および低屈折率層の各膜厚との相互関係に基づいて、光吸収膜の透過率(吸収率)を調整可能であることが、この例から示される。
【0081】
また、実施例5で作製した減光フィルターは、層数を4層にするとともに、低屈折率層の構成材料および高屈折率層の構成材料をそれぞれ変更した以外は、実施例1で作製した減光フィルターと同様の層構成である。このような減光フィルターでは、図8に示すように、波長405nmにおける透過率は約70%であり、30%程度の減光がなされていた。
【0082】
一方、波長660nmにおける透過率および波長790nmにおける透過率は、90〜94%程度であり、これらの波長の透過率を高める観点からは、やや劣っていた。
これらの実施例に対し、比較例で作製した減光フィルターは、光吸収層が省略されたものの、高屈折率層と低屈折率層の相互関係に基づき、波長405nmにおける透過率が約70%になるように、各層の膜厚が調整されている(図9)。なお、比較例では、光吸収層がないため、透過光の減光は、光反射に伴う光損失によるものである。このため、波長405nmでは、反射率が約30%と大きな値を示しており、この反射光は、迷光となって、減光フィルター近傍に設けられたその他の光学素子に対して悪影響を及ぼすと考えられる。したがって、このような減光フィルターは、複数の光学素子が複雑に組み合わされた光ピックアップ装置には適さないと言える。
【符号の説明】
【0083】
1‥‥第1の層 2‥‥第2の層 3‥‥第3の層 4‥‥第4の層 5‥‥第5の層 6‥‥第6の層 7‥‥第7の層 8‥‥第8の層 9‥‥光吸収膜 10‥‥基材 20、30‥‥減光フィルター 100‥‥光ピックアップ装置 110‥‥半導体レーザー素子 111、112‥‥光路 120‥‥コリメートレンズ 130‥‥NDフィルター 140‥‥PBSプリズム 141‥‥反射面 150‥‥波長板 160‥‥対物レンズ 170‥‥検出レンズ 180‥‥光検出器 300‥‥光ディスク L1、L2‥‥光束 T‥‥分光透過率曲線 R1、R2‥‥分光反射率曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設けられた光吸収膜であって、
波長405nmの光について、透過率が2〜98%であり、かつ、前記光吸収膜の基材側からの入射光の反射率、および、前記光吸収膜の他方の反基材側からの入射光の反射率の少なくとも一方が1%以下であることを特徴とする光吸収膜。
【請求項2】
当該光吸収膜の基材側からの波長405nmの入射光の反射率、および、当該光吸収膜の他方の反基材側からの波長405nmの入射光の反射率の双方が1%以下である請求項1に記載の光吸収膜。
【請求項3】
波長660nmの光および波長790nmの光について、透過率がそれぞれ95%以上であり、かつ、前記光吸収膜の両側に対する入射光の反射率がそれぞれ1%以下である請求項1または請求項2に記載の光吸収膜。
【請求項4】
基材上に設けられ、相対的に屈折率が低い低屈折率層と相対的に屈折率が高い高屈折率層とが交互にかつ合計で3層以上積層された積層体を含む光吸収膜であって、
前記積層体の前記低屈折率層と前記高屈折率層との間または前記積層体の外側に隣接して設けられ、前記低屈折率層および前記高屈折率層に比べて光吸収率が高い層であり、かつ遷移金属の酸化物で構成された光吸収層を1層以上含むことを特徴とする光吸収膜。
【請求項5】
前記遷移金属の酸化物は、波長405nmの光に対する消衰係数kが0.05〜2である請求項4に記載の光吸収膜。
【請求項6】
前記遷移金属の酸化物は、Feである請求項5に記載の光吸収膜。
【請求項7】
前記光吸収層の幾何学的膜厚は、1〜200nmである請求項4ないし6のいずれかに記載の光吸収膜。
【請求項8】
前記低屈折率層の波長405nmの光の屈折率は、1以上1.8未満であり、前記高屈折率層の波長405nmの光の屈折率は、1.8以上である請求項4ないし7のいずれかに記載の光吸収膜。
【請求項9】
前記低屈折率層は、酸化ケイ素で構成されており、前記高屈折率層は、酸化タンタルで構成されている請求項4ないし8のいずれかに記載の光吸収膜。
【請求項10】
前記積層体は、前記低屈折率層と前記高屈折率層とが合計で4層以上積層されたものであり、前記光吸収層は、前記積層体の基材側の最外層または他方の最外層から数えて3層目または4層目に位置している請求項4ないし9のいずれかに記載の光吸収膜。
【請求項11】
当該光吸収膜は、前記光吸収層を2層以上含んでいる請求項4ないし9のいずれかに記載の光吸収膜。
【請求項12】
当該光吸収膜は、前記光吸収層同士が隣接しないように、前記光吸収層を偶数層含んでおり、
前記偶数層の光吸収層は、前記高屈折率層または前記低屈折率層を挟んで、厚さ方向に対称の関係になるよう位置している請求項4ないし11のいずれかに記載の光吸収膜。
【請求項13】
当該光吸収膜は、2層以上の前記低屈折率層と1層以上の前記高屈折率層とが積層された積層体と、2層以上の前記光吸収層とを含んでおり、
その一部に、前記低屈折率層、前記光吸収層、前記高屈折率層、前記光吸収層、前記低屈折率層の順で積層された部位を含んでいる請求項4ないし9のいずれかに記載の光吸収膜。
【請求項14】
透光性を有する基材と、
該基材上に設けられ、請求項1ないし13のいずれかに記載の光吸収膜と、を備えることを特徴とする光学素子。
【請求項15】
当該光学素子は、減光フィルターである請求項14に記載の光学素子。
【請求項16】
請求項14または15に記載の光学素子を備えることを特徴とする光ピックアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−243689(P2010−243689A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90770(P2009−90770)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】