説明

光回折構造

【課題】従来の技術は、ホログラムが形成されている領域が広く、また、形成されている位置が明瞭なため、ホログラムの解析が容易で、安全性に対する配慮が万全とはいえない。
また、レーザー光再生型ホログラムの一つの要素の大きさが、原画像の大きさに依存するため、レーザー光再生ホログラムを、回折格子からなる画素の集合に組み込もうとした時に、回折格子の集合との間に隙間を生じ、組み込まれているレーザー光再生ホログラムが発見されやすいという課題がある。
【解決手段】回折格子による画素の集合によって形成された回折格子画像領域の一部に、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域を有する光回折構造であって、前記回折格子画像の画素の大きさをA,前記レーザー光再生型のホログラムの一つの要素の大きさをBとしたときに、B/A=2n-1(nは自然数)となるように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光回折構造に関し、詳しくは、目視可能な回折格子領域と、隠し情報を含むホログラム領域との境界を判り難くした光回折構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カラーコピー機による金券類の偽造事件が頻発している。
そのために、高額紙幣や商品券等の金券類は、デザインの一部にカラーコピー機のセンサーでは読み取ることができない小さな網点や細線を、同じ反射濃度でデザインされた絵柄の中に組み込んでいる。その結果、これらの高額紙幣や商品券をカラーコピー機によって複写しようとすると、コピー機のスキャナーが小さな網点や細線を読み落とし、その部分が白く抜けることでコピー品であると判別している。
【0003】
また、高度な複製技術を必要とするホログラムが、一部の高額紙幣や、その他の金券類に使用されている。
ホログラム,回折格子の技術は、目視した際の視認性が特徴的で、かつその製造が困難なことから偽造防止分野で多く使用されてきた。
しかし、ホログラム分野にも模造品が出回るようになってきており、模造品に対抗するために、さまざまな提案がなされている。
例えば、回折格子やホログラム等の偽造に対する安全性を高めるために、単色光が照射されたとき、その透過回折光又は反射回折光が真正商品であることを示す所定画像を投影するよう構成された第1及び第2のホログラムパターンがそれぞれCGH(Computer Generated Hologram)として記録されている真正商品表示像投映データ記録済光記録媒体を用いることにより、単色光の所定の波長の光を照射すると、所定の映像が投影されるか否かにより、容易に商品の真贋の判定を行なうことができるという、「真正商品表示像投影データ記録済光記録媒体及び商品の真贋判定装置並びに光記録媒体読取り装置」が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、通常の目視条件では絵柄が確認できないが、レーザー光を照射すると、特定の絵柄を再現するレーザー光再生型のホログラムが提案されている。
これらのレーザー光再生型ホログラムでは、例えば、絵柄全体が回折格子からなる画素の集合で形成され、特定の部分がレーザー光再生型ホログラムで構成するような使い方が多い。
さらに、レーザー光再生ホログラムとして、原画像をフーリエ変換し、その位相を深さ情報とするレーザー光再生ホログラムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−3124号公報
【特許文献2】特開2003−122233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術は、ホログラムが形成されている領域が広く、また、形成されている位置が明瞭なため、ホログラムの解析が容易で、安全性に対する配慮が万全とはいえない。
また、特許文献2に開示されている技術は、レーザー光再生型ホログラムの一つの要素の大きさが、原画像の大きさに依存するため、レーザー光再生ホログラムを、回折格子からなる画素の集合に組み込もうとした時に、回折格子の集合との間に隙間を生じ、組み込まれているレーザー光再生ホログラムが発見されやすいという課題がある。
そこで、本発明は、目視可能な回折格子領域と、隠し情報を含むホログラム領域との境界を判り難くした光回折構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題の目的を達成するために、本発明の光回折構造の第一の発明は、回折格子による画素の集合によって形成された回折格子画像領域の一部に、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域を有する光回折構造であって、前記回折格子画像の画素の大きさをA,前記レーザー光再生型のホログラムの一つの要素の大きさをBとしたときに、B/A=2n-1(nは自然数)となるように形成されたことを特徴とするものである。
【0008】
また、第二の発明は、第一の発明において、さらに、レーザー光再生型のホログラム領域の周辺には、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域の一部領域が形成され、前記レーザー光再生型のホログラム領域の画像の画素数αと、前記レーザー光再生型のホログラムの一部領域の画像の画素数βとは、α/β=2n-1 (nは自然数)となるように形成されたことを特徴とするものである。
【0009】
また、第三の発明は、第二の発明において、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域の一部領域は複数形成され、回折格子による画素の集合によって形成された回折格子画像領域,原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域,原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域の一部領域は、同一基板上に形成されたことを特徴とするものである。
【0010】
また、第四の発明は、第三の発明において、回折格子による画素の集合によって形成された回折格子画像領域と、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域と、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域の一部領域のそれぞれの境界には、隙間が形成されていないことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
1)第一の発明のように、回折格子による画素の集合によって形成された回折格子画像領域の一部に、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域を有する光回折構造であって、前記回折格子画像の画素の大きさをA,前記レーザー光再生型のホログラムの一つの要素の大きさをBとしたときに、B/A=2n-1(nは自然数)となるように形成されたことによって、回折格子による画素の集合によって形成された回折格子画像領域と、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域との間に、隙間が生じないように両者を配置することができ、偽造に対する安全性が高い。また、原画像をフーリエ変換し、その位相を深さ情報として記録しているために、秘匿画像を包含した場合、解析をより困難にすることができる。
2)また、第二の発明のように、第一の発明において、さらに、レーザー光再生型のホログラム領域の周辺には、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域の一部領域が形成され、前記レーザー光再生型のホログラム領域の画像の画素数αと、前記レーザー光再生型のホログラムの一部領域の画像の画素数βとは、α/β=2n-1(nは自然数)となるように形成されたことによって、回折格子からなる領域と、ホログラム領域との境界周辺をより滑らかに描画することができる。
3)また、第三の発明のように、第二の発明において、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域の一部領域は複数形成され、回折格子による画素の集合によって形成された回折格子画像領域,原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域,原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域の一部領域は、同一基板上に形成されたことによって、回折格子からなる領域とホログラム領域との境界周辺をより自然に描画することができる。
4)また、第四の発明のように、第三の発明において、回折格子による画素の集合によって形成された回折格子画像領域と、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域と、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域の一部領域のそれぞれの境界には、隙間が形成されていないことによって、回折格子からなる領域とホログラム領域との境界周辺をより自然に描画することができ、偽造をより困難にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の光回折構造について説明する。
図1は、本発明の光回折構造の一例について説明するための図,図2は、回折格子画像の画素の大きさと、レーザー光再生型のホログラムの一つの要素の大きさについて説明するための図,図3は、図1の一部を拡大した図,である。
【0013】
図1を参照して、本発明の光回折構造の一例について説明する。
本来、ホログラムとはレーザーのように干渉性のある光線(コヒーレントな光波)で撮影した立体写真のことである。普通の写真では、レンズを使って外界の明暗をフィルムに投影することで、光の強弱のみを記録しているが、ホログラムでは、2つの光の干渉によって、ホログラム用のフィルムに光の強弱のみでなく、光の来る方向も記録することで、奥行きを出すことが出来るようにしたものである。通常、立体像に照射したレーザー光は二つの分けられ、一方の光は、物体に当てられ、当たった物体からの反射光(物体光)が、フィルムに焼き付けられる。もう一方の光(参照光)は、物体に当たらずにフィルムに焼き付けられる。その結果、フィルムには物体光と参照光の干渉により、物体の明るさの情報である光波の振幅と、光がやって来た方向の情報である位相を含んだ干渉縞が記録される。つまり、ホログラムでは、参照光を導入することにより、物体からやって来る光そのものを干渉縞の形で凍結して記録したものである。
そこで、この凍結した光を解凍させるために、参照光と同じ光を再生光としてホログラムに当て、元の物体像を三次元で再生する。このような光の干渉と回折を利用して物体の全ての情報を記録し、再生する技術がホログムである。
【0014】
回折格子やホログラムを構成する画素(または、要素)の微小単位は、微小単位の大きさが0.3mmを超える場合、解析される危険性が大きい。そのため、特に、偽造防止手段として使用される場合は小さい方が好ましい。なお、前記微小単位の大きさは、正方形であれば一辺の長さ、長方形であれば長辺の長さ、円であれば直径等で表す。また、ホログラムをレーザー光で再生する場合、レーザービームの径の中に微小単位が複数含まれている状態が好ましく、光回折構造を形成する際に配慮されなければならない。
【0015】
本発明の光回折構造では、微小単位がホログラムの一要素である場合、その部分は、原画像をフーリエ変換し、その位相情報を多値化して、深さ情報として形成している。
原画像をフーリエ変換し、その位相情報を多値化して、深さ情報として形成する手順について以下に説明する。
まず、原画像(文字,数字,記号,図柄を含む図形等)を作成する(ステップ1:以下S1と記載する)。
次に、コンピュータによって原画像をフーリエ変換して、原画像のフーリエ変換像を作成する(S2)。
次に、振幅を1として、フーリエ逆変換を行なう(S3)。
次いで、位相はそのままとして振幅を元の振幅とする(S4)。
以後、S2〜S4を繰り返し、所定のフーリエ変換像を作成する(S5)。なお、S5に関しては、特開平10−153943号公報に記載されているので、詳細の説明を省略する。
次に、S5で作成した位相データを抽出する(S6)。
最後に、位相情報の多値化を行い、所定の深さ情報とする(S7)。
S7では、位相の深さ情報化は、2〜16値化の範囲内で行われ、実用されているものは4値化,8値化が多い。
【0016】
図1は、本発明の光回折構造の一例で、回折格子による画素の集合(斜線で示す夜空と黒のベタで示す山)によって形成された回折格子画像領域2の一部に、2個の星をフーリエ変換し、その位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域1を組み込んだ光回折構造100である。
前記回折格子画像領域2の画素の大きさをA,前記レーザー光再生型のホログラム領域1の一つの要素の大きさをBとしたときに、B/A=2n-1(nは自然数)となるように形成されている。
【0017】
図2を参照して、回折格子画像の画素の大きさと、レーザー光再生型ホログラムの一つの要素の大きさについて説明する。
回折格子画像領域の画素21の大きさをA,前記レーザー光再生型のホログラム領域の一つの要素の大きさをBとしたときに、B/A=2n-1(nは自然数)となるように、また、前記レーザー光再生型のホログラム領域の周辺には、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域の一部領域が形成され、前記レーザー光再生型のホログラム領域の画像の画素数αと、前記レーザー光再生型のホログラムの一部領域の画像の画素数βとは、α/β=2n-1(nは自然数)となるように形成されている。
即ち、nの値が1の時に、回折格子画像の画素21の大きさと、レーザー光再生型のホログラムの要素(または、レーザー光再生型のホログラムの要素の一部)11の大きさが等しくなるようになっている。
また、nが2の時のレーザー光再生型のホログラムは要素12,nが3の時のレーザー光再生型のホログラムは、要素11となってレーザー光再生型のホログラムの周辺に配置される。その結果、回折格子画像領域と、レーザー光再生型のホログラム領域の境界部分を隙間が生じないように構成することができる。
因みに、回折格子画像の画素21と、レーザー光再生型のホログラムの要素13は、同じ大きさで、例えば、1辺が25μmの画素および要素として光回折構造の中に組み込まれる。
【0018】
図3を参照して、図1で説明した光回折構造についてより詳細に説明する。
図3は、図1の光回折構造の一部領域101の片側部分を拡大したものである。
境界線3は、回折格子画像領域2と、レーザー光再生型のホログラム領域1の境界部分である。
境界線3の右側には、光回折構造2の画素21が形成されており、境界線3の左側には、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域が形成されている。
レーザー光再生型のホログラム領域には、さまざまな大きさのレーザー光再生型のホログラム要素11,12,13が形成されている。
図2で説明したように、回折格子画像領域の画素の大きさをA,前記レーザー光再生型のホログラム領域の一つの要素の大きさをBとしたときに、B/A=2n-1(nは自然数)となるように、また、前記レーザー光再生型のホログラム領域の周辺には、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域の一部領域が形成され、前記レーザー光再生型のホログラム領域の画像の画素数αと、前記レーザー光再生型のホログラムの一部領域の画像の画素数βとは、α/β=2n-1(nは自然数)となるように形成されている。
図において、nの値が1の時に、回折格子画像の画素の大きさと、レーザー光再生型のホログラムの要素及びレーザー光再生型のホログラム要素の、一部要素の大きさが等しくなるようになっていることで、回折格子画像領域と、レーザー光再生型のホログラム領域の境界部3には隙間が生じないようになっている。
【0019】
図3で判るように、本発明の光回折構造は、回折格子画像領域とレーザー光再生型のホログラム領域の境界部3の周辺は、一辺が最も小さなレーザー光再生型のホログラム要素11で構成され、境界部3からレーザー光再生型のホログラム領域の内側に入ると一辺の長さが2倍のホログラムの要素12、または、一辺の長さが4倍のホログラムの要素11で構成されていることがわかる。
このように、回折格子画像領域との境界に、回折格子画像領域と同等の画素のホログラムの要素を配置することによって、回折格子画像領域とレーザー光再生型のホログラムとの境界を曖昧にし、光回折構造の偽造を困難にしているのである。
【産業上の利用可能性】
【0020】
紙幣,商品券,入場券,ギフト券,手形,小切手,カード,証明書,保証書等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の光回折構造の一例について説明するための図である。
【図2】回折格子画像の画素の大きさと、レーザー光再生型のホログラムの一つの要素の大きさについて説明するための図である。
【図3】図1の一部を拡大した図である。
【符号の説明】
【0022】
1 レーザー光再生型ホログラム領域
2 回折格子画像領域
3 境界部
11,12,13 原画像をフーリエ変換し、その位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラムの要素
21 回折格子による画素
100 光回折構造
101 光回折構造の一部領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折格子による画素の集合によって形成された回折格子画像領域の一部に、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域を有する光回折構造であって、
前記回折格子画像の画素の大きさをA,前記レーザー光再生型のホログラムの一つの要素の大きさをBとしたときに、B/A=2n-1(nは自然数)となるように形成されたことを特徴とする光回折構造。
【請求項2】
請求項1に記載の光回折構造において、
さらに、レーザー光再生型のホログラム領域の周辺には、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域の一部領域が形成され、前記レーザー光再生型のホログラム領域の画像の画素数αと、前記レーザー光再生型のホログラムの一部領域の画像の画素数βとは、α/β=2n-1(nは自然数)となるように形成されたことを特徴とする光回折構造。
【請求項3】
請求項2に記載の光回折構造において、
原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域の一部領域は複数形成され、回折格子による画素の集合によって形成された回折格子画像領域,原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域,原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域の一部領域は、同一基板上に形成されたことを特徴とする光回折構造。
【請求項4】
請求項3に記載の光回折構造において、
回折格子による画素の集合によって形成された回折格子画像領域と、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域と、原画像をフーリエ変換しその位相を深さ情報としたレーザー光再生型のホログラム領域の一部領域のそれぞれの境界には、隙間が形成されていないことを特徴とする光回折構造。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−286251(P2007−286251A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112284(P2006−112284)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】