説明

光増幅装置

【課題】間欠的に入力される複数波長の光信号を、簡略な構成により、過渡応答および波長チルトの発生を抑制しながら一括増幅できる光増幅装置を提供する。
【解決手段】光増幅装置は、増幅媒体の過渡応答時間よりも長いモニタ周期に従って、増幅媒体に入力される各波長の光信号のトータルパワーの時間平均値をモニタし、当該モニタ値が、制御切替閾値以下のときに励起光源の制御モードをAPCとし、制御切替閾値より大きいときに励起光源の制御モードをAGCとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長の異なる複数の光信号が間欠的に入力される光増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
将来のフォトニックネットワークに向けたパケットルーティング技術として、全光信号によるパケット処理が期待されている。しかし、現状の技術では様々な課題が存在し、実用の見通しが立っていない。例えば、光増幅中継器の観点からは、次のような技術的課題が存在する。
【0003】
光バースト通信または光パケット通信においては、光信号が統計的にスクランブルされていない状態、すなわちバースト状態で伝送されるため、光信号が全く無い時間帯が存在する。このような間欠的な光信号が光中継器で使用される光増幅装置に入力された場合、該光増幅装置における利得の過渡的な応答により、例えば図1に示すように、出力光の立ち上がり部分で時間的な変動(光サージ)が発生する可能性がある。その結果、増幅後の光信号に波形劣化が生じることになる。このため、バースト状態で伝送される間欠的な光信号を、波形劣化を抑えつつ増幅可能な光増幅装置の実現が一つの課題となっている。
【0004】
この課題に対処した従来技術としては、光ループ回路等を用いた光学的手法(例えば、非特許文献1参照)、または、自動利得制御(Automatic Gain Control:AGC)回路等を用いた電気的手法(例えば、非特許文献2,3参照)などが報告されている。しかし、光学的手法については、構成が複雑で制御性が低いという問題がある。一方、電気的手法については、光信号が有る時間帯と無い時間帯とが比較的低速で切り替わるようなときには有効であるが、光パケット等の粒度が細かいデータを扱うような場合には、制御速度が不十分で応答できないという問題がある。
【0005】
上記のような光学的手法や電気的手法とは別に、活性領域を拡大した希土類添加ファイバを用いることで過渡応答を抑圧可能にした技術が報告されている(例えば、下記の特許文献1参照)。具体的には、活性領域を拡大した希土類添加ファイバを用いることにより、図2に例示するように、入力パワーに対する光利得の関係を表した増幅特性における非飽和領域が拡大する。これにより、間欠的に入力される光信号の立ち上り部分において入力パワーが急激に変動しても光利得は殆ど変動しないため、過渡応答を抑制することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−300818号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chun-Liu Zhao, Hwa-Yaw Tam, Bai-Ou Guan, Xinyong Dong, P.K.A. Wai, Xiaoyi Dong, "Optical automatic gain control of EDFA using two oscillating lasers in a single feedback loop", Optics Communications, Volume 225, Issues 1-3, 15 September 2003, pp. 157-162
【非特許文献2】Cechan Tian, Susumu Kinoshita, "Analysis and Control of Transient Dynamics of EDFA Pumped by 1480- and 980-nm Lasers", Journal of Lightwave Technology, Vol. 21, No. 8, August 2003, pp. 1728-1734
【非特許文献3】Haruo Nakaji, Yoshiharu Nakai, Masayuki Shigematsu, Masayuki Nishimura, "Superior high-speed automatic gain controlled erbium-doped fiber amplifiers", Optical Fiber Technology, Volume 9, Issue 1, January 2003, pp. 25-35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような従来技術を適用して過渡応答を抑制した光増幅装置については、波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing:WDM)光を扱う場合に、出力光パワーに波長間偏差が生じてしまうという問題がある。すなわち、上記光増幅装置で波長の異なる複数の光信号を一括増幅する場合、入力される各波長の光信号のトータルパワーが大きくなって増幅動作が飽和領域に及ぶようになると、例えば図3の上段に示すように短波長側の利得が相対的に減少し、光増幅装置から出力される各波長の光信号パワーに偏差(波長チルト)が発生するようになる。
【0009】
前述した特許文献1では、利得等化フィルタを利用することにより、増幅後の各波長の光信号パワーが均一になるようにしている。しかし、WDM光の運用状態が変更されるなどして光増幅装置での所要利得の設定が変わると、利得の波長特性に変化が生じるため、透過特性が固定の利得等化フィルタでは波長チルトを十分に抑制することが困難になる。利得等化フィルタの透過特性をアクティブに制御すれば出力光パワーを均一にすることは可能であるが、透過特性が可変の利得等化フィルタは高価であり、その制御も複雑なものになるため、実用化の妨げとなる。
【0010】
従来のWDM光に対応した光増幅装置の制御では、図3の下段に示すように、入力パワーの変化に関係なく利得を一定にする自動利得制御(AGC)を適用することにより、波長チルトの発生を抑制する技術がよく知られている。このようなAGCを適用した光増幅装置では、図4に示すように、入力光のトータルパワーのモニタ値が、予め設定した入力断検出閾値以下になった場合に、光増幅の動作が停止される。これは、入力光のトータルパワーが低くなると、入力光をモニタする回路部分で発生する雑音が支配的になってモニタの精度が低下し、AGCの制御誤差が生じるとともに、温度変動に対する安定性も不十分になるためである。このようにして運用されるAGCを、間欠的に入力される複数波長の光信号の増幅時に応用した場合、該入力光は信号の密度が時間的に異なるため、信号の密度が疎になる時間帯では、信号レベルは正常でも、入力光のトータルパワーを所要の周期でモニタした値が低下してしまう。このため、当該モニタ値が入力断検出閾値以下になった場合、間欠的な光信号が正常に入力されているにも拘わらず、光増幅の動作が停止されてしまうという問題が生じる。
【0011】
本発明は上記の点に着目してなされたもので、間欠的に入力される複数波長の光信号を、簡略な構成により、過渡応答および波長チルトの発生を抑制しながら一括増幅できる光増幅装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明による光増幅装置の一態様は、波長の異なる複数の光信号が入出力される入力ポートおよび出力ポートと、前記入力ポートおよび出力ポートの間の光路上に配置され、光増幅用の活性物質を添加した増幅媒体と、前記増幅媒体に励起光を供給する励起部と、前記増幅媒体の過渡応答時間よりも長いモニタ周期に従って、前記増幅媒体に入力される各波長の光信号のトータルパワーの時間平均値をモニタする入力モニタ部と、前記入力モニタ部のモニタ値が予め設定した制御切替閾値以下のとき、前記増幅媒体に供給される励起光パワーが一定になるように前記励起部を制御し、前記モニタ値が前記制御切替閾値より大きいとき、前記増幅媒体における光利得が一定になるように前記励起部を制御する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
上記のような光増幅装置では、入力モニタ部により、増幅媒体の過渡応答時間よりも長いモニタ周期に従って、増幅媒体に入力される各波長の光信号のトータルパワーの時間平均値がモニタされ、当該モニタ値と制御切替閾値との大小関係に応じて、励起光源の制御モードが励起光パワー一定制御(APC)および利得一定制御(AGC)のいずれかに切り替えられる。これにより、間欠的に入力される複数波長の光信号を過渡応答による光サージの発生を抑えながら一括増幅することができ、各波長の信号レベルが均一に保たれた波長チルトのない出力光を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一般的な光増幅装置に間欠的な光信号が入力された場合の利得の過渡的な応答を示す図である。
【図2】活性領域を拡大して過渡応答を抑制した従来の光増幅装置の特性を示す図である。
【図3】AGCの適用により波長チルトの発生を抑制した従来の制御の一例を示す図である。
【図4】AGCを適用した従来の光増幅装置の問題点を説明する図である。
【図5】本発明による光増幅装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図6】上記実施形態における制御切替閾値の第1の設定例を説明する図である。
【図7】上記実施形態における制御切替閾値の第2の設定例を説明する図である。
【図8】上記実施形態における制御切替閾値の第3の設定例を説明する図である。
【図9】上記実施形態における制御切替閾値の第4の設定例を説明する図である。
【図10】上記実施形態の制御動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明による光増幅装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
図1において、本実施形態の光増幅装置1は、例えば、入力ポートINおよび出力ポートOUTの間の光路上に配置された増幅媒体としてのエルビウム添加ファイバ(Erbium Doped Fiber:EDF)11と、該EDF11に励起光Lpを供給する励起部としての励起光源12および合波器13と、入力光Lpのパワーをモニタする入力モニタ部としての分岐器14および入力モニタ回路15と、出力光Lp’のパワーをモニタする分岐器16および出力モニタ回路17と、励起光源12の制御を行う制御部としての励起光源制御回路18および記憶回路19と、を備える。
【0016】
入力ポートINには、波長の異なる複数の光信号が間欠的に入力される。該入力光Lsは、具体的には、WDM方式に対応した光バースト通信における各波長の光バースト信号、または、WDM方式に対応した光パケット通信における各波長の光パケット信号などであってもよい。
【0017】
EDF11は、光ファイバのコアを含む所定領域にエルビウム(Er)を添加して形成された公知の増幅媒体である。このEDF11は、上述した特許文献1に記載されている希土類添加ファイバと同様に、活性領域の直径を拡大させた構造を適用して、非飽和領域の拡大による過渡応答の抑圧を可能にしたものとするのが好ましい。具体的には、活性領域の直径が3.4μm以上10μm以下、若しくは、開口数が0.2以下のEDFを使用することが可能である。なお、ここでは、入力光Lsを増幅するための活性物質としてエルビウムを光ファイバに添加する一例を示したが、活性物質がエルビウムに限定されることを意味するものではなく、入力光Lsの波長帯域等に応じて、エルビウム以外の希土類元素を添加することも可能である。また、増幅媒体の形態は光ファイバに限らず光導波路であってもよい。
【0018】
励起光源12は、EDF11内のエルビウムを励起状態にすることが可能な波長を有する励起光Lpを発生し、該励起光Lpを合波器12に出力する。この励起光源12の駆動状態は、励起光源制御回路18よって制御されている。また、励起光源12は、励起光Lpとは反対方向に出射される後方光を利用して、合波器12への励起光Lpの出力パワーをモニタする機能を備えており、該モニタ値Ppが励起光源12から励起光源制御回路18に伝えられる。なお、ここでは、励起光パワーのモニタ機能が励起光源12に内蔵されている例を示したが、励起光源12から合波器12に出力される励起光Lpの一部を分岐し、当該パワーを外付けの光検出器でモニタするようにしてもよい。
【0019】
合波器13は、入力ポートINから分岐器14を介して送られてくる入力光Lsと、励起光源12から出力される励起光Lpとを合波してEDF11の一端に与える。EDF11の一端に与えられた入力光Lsおよび励起光Lpは、EDF11内を同じ方向に伝搬し、励起光Lpによって励起されたエルビウムの誘導放出により、入力光Lsに含まれる各波長の光信号が一括増幅される。なお、ここでは入力ポートINとEDF11の間の光路上に合波器13を配置した前方励起型の構成例を示したが、EDF11と出力ポートOUTの間の光路上に合波器13を配置した後方励起型の構成、または、それらを組み合わせた双方向励起型の構成を適用することも可能である。
【0020】
分岐器14は、入力ポートINから合波器13を介してEDF11の一端に送られる入力光Lsの一部を分岐し、該分岐光を入力モニタ回路15に出力する。入力モニタ回路15は、分岐器14からの分岐光を図示しないフォトディテクタで受光して電気信号に変換した後、該電気信号および分岐器14の分岐比を用い、予め設定したモニタ周期に従って、EDF11に与えられる入力光Lsのトータルパワーの時間平均値Ps1(以下、平均入力パワーPs1とする)を求め、その結果を励起光源制御回路18に伝える。上記モニタ周期は、EDF11の過渡応答時間(利得緩和時間)よりも長くなるように設定される。具体的には、一般的なEDFの過渡応答時間が2〜10μsであるので、上記モニタ周期は数10μs以上に設定することが可能である。
【0021】
分岐器16は、EDF11の他端から出力ポートOUTに送られる出力光Ls’の一部を分岐し、該分岐光を出力モニタ回路17に出力する。出力モニタ回路17は、分岐器16からの分岐光を図示しないフォトディテクタで受光して電気信号に変換した後、該電気信号および分岐器16の分岐比を用い、予め設定したモニタ周期に従って、EDF11を通過して増幅された出力光Ls’のトータルパワーの時間平均値Ps2(以下、平均出力パワーPs2とする)を求め、その結果を励起光源制御回路18に伝える。
【0022】
励起光源制御回路18は、入力モニタ回路15でモニタされる平均入力パワーPs1と、記憶回路19に記憶された制御切替閾値Pthとの大小関係を比較する。制御切替閾値Pthは、励起光源12の制御モードを切り替えるための基準として記憶回路19に予め設定および記憶される。なお、制御切替閾値Pthの具体的な設定方法については後述する。励起光源制御回路18は、平均入力パワーPs1が制御切替閾値Pth以下のとき、EDF11に供給される励起光Lpのパワーが一定になるように、励起光源11の自動出力制御(Automatic Power Control:APC)を行う。このAPCは、励起光源11でモニタされる励起光出力パワーのモニタ値Ppを参照しながら行われる。一方、平均入力パワーPs1が制御切替閾値Pthより大きいとき、励起光源制御回路18は、EDF11における光信号の利得が一定になるように、励起光源11の自動利得制御(Automatic Gain Control:AGC)を行う。このAGCは、入力モニタ回路15でモニタされる平均入力パワーPs1および出力モニタ回路17でモニタされる平均出力パワーPs2を用いて算出した利得を参照しながら行われる。
【0023】
ここで、制御切替閾値Pthの設定について具体的に説明する。
図6は、制御切替閾値Pthの第1の設定例を説明する図である。図6の破線で示す特性は、光増幅装置1が適用されるシステムの運用条件等に応じて決まる光利得の目標値に従って、光増幅装置1を駆動したときに得られる平均入力パワーに対する光利得の関係を示している。この増幅特性において、平均入力パワーが増減しても光利得が一定に保たれる領域が「非飽和領域」であり、平均入力パワーの増加に伴って光利得が減少していく領域が「飽和領域」である。
【0024】
上記増幅特性に対して、第1の設定例による制御切替閾値Pthは、非飽和領域内に設定され、ここでは、上述の図4に示した従来の光増幅装置における入力断検出閾値に相当するような平均入力パワーが十分に小さくなる位置に、制御切替閾値Pthが設定されている。上述したように従来のAGCを適用した光増幅装置では、入力パワーが入力断検出閾値以下になると光増幅動作を停止させていた。これに対して、本実施形態の光増幅装置1では、間欠的に入力される複数波長の光信号の密度が疎になり、各波長の光信号レベルは正常な状態(入力断は発生していない状態)にあるものの、平均入力パワーが第1の設定例による制御切替閾値Pth以下になるときに、励起光源12の制御モードがAGCからAPCに切り替えられるようにしている。
【0025】
図7は、制御切替閾値Pthの第2の設定例を説明する図である。
第2の設定例による制御切替閾値Pthは、光利得の目標値に従って光増幅装置1を駆動したときに得られる増幅特性(図7の破線)に対して、非飽和領域および飽和領域の境界近傍に設定される。前述の図6に示した第1の設定例による制御切替閾値Pthを適用した制御の切り替えでは、平均入力パワーが制御切替閾値Pthより大きくなったときに、非飽和領域内でAGCが行われる場合が生じるが、そもそも非飽和領域では光利得が入力パワーに依存することなく一定になるので、当該領域内で入力パワーが変化しても波長チルトは発生しない。つまり、非飽和領域内においてAGCにより波長チルトを抑制する必要性は低く、制御が簡単なAPCでも十分である。そこで、第2の設定例は、非飽和領域のほぼ全域でAPCが行われるように、非飽和領域および飽和領域の境界近傍に制御切替閾値Pthを設定している。
【0026】
図8は、制御切替閾値Pthの第3の設定例を説明する図である。
上記第2の設定例のように非飽和領域および飽和領域の境界近傍に制御切替閾値Pthを設定した場合、該制御切替閾値Pthの付近で平均入力パワーが変動するような光信号が入力されると、APCとAGCの切り替えが頻繁に発生して制御が不安定になる可能性がある。そこで、第3の設定例では、非飽和領域および飽和領域の境界近傍に、ヒステリシスを持たせた2つの制御切替閾値Pth1,Pth2が設定される。小さい方の制御切替閾値Pth1は、APCが行われている励起光源12の制御をAGCに切り替えるときに用いられ、大きい方の制御切替閾値Pth2は、AGCが行われている励起光源12の制御をAPCに切り替えるときに用いられる。このように制御切替閾値にヒステリシスを持たせることにより、光増幅装置1の動作を安定させることが可能になる。
【0027】
図9は、制御切替閾値Pthの第4の設定例を説明する図である。
上記第2,3の設定例においては、光利得の一つの目標値に対応した増幅特性を基準にして制御切替閾値Pthの設定を行うようにしたが、該光利得の目標値は、システムの運用条件等が変化することにより変更される可能性がある。そこで、第4の設定例では、光増幅装置1に設定され得る光利得の目標値の範囲を想定し、当該設定範囲内の任意の目標値に対して有効となるような制御切替閾値Pthの設定を行う。具体的には、図9に示すように、光利得の目標値が高くなると非飽和領域が拡大していくという特性を考慮し、光利得の設定範囲内における最も低い目標値に対応した増幅特性を基準として、非飽和領域および飽和領域の境界近傍に制御切替閾値Pthが設定される。なお、第4の設定例による制御切替閾値Pthについても、上記第3の設定例の場合と同様にしてヒステリシスを持たせることにより、低利得設定時における光増幅装置1の動作を安定させることが可能である。
【0028】
次に、光増幅装置1の制御動作について図9のフローチャートを参照しながら説明する。
上記のような構成の光増幅装置1では、装置の立ち上げ等によって励起光源制御回路18による励起光源12の制御が開始されると、まず、ステップ10(図中S10で示し、以下同様とする)において、制御モードがAPCに初期設定される。そして、ステップ20では、励起光源制御回路18によって、励起光源11でモニタされる励起光出力パワーのモニタ値Ppが所定のレベルで一定となるように、励起光源11の駆動状態が制御される。
【0029】
ステップ30では、励起光源制御回路18において、入力モニタ回路15でモニタされる平均入力パワーPs1が、記憶回路19に記憶された制御切替閾値Pth以下であるか否かの判定が行われる。なお、前述の図8に示した第3の設定例のようにヒステリシスを持たせた制御切替閾値Pth1,Pth2が設定されている場合には、小さい方の制御切替閾値Pth1と平均入力パワーPs1との大小比較が行われる。
【0030】
上記ステップ30において、平均入力パワーPs1が制御切替閾値Pth(1)以下であることが判定された場合、ステップ20に戻って励起光源11のAPCが継続される。Ps1≦Pth(1)の状態は、前述の図6に示した第1の設定例のように従来の入力断検出閾値に相当するような低いレベルに制御切替閾値Pthが設定されている場合を想定すると、入力光Lsの信号の密度が疎な状態にある。入力モニタ回路15でモニタされる平均入力パワーPs1は、上記のような信号密度の疎な入力光のトータルパワーを、EDF11の過渡応答時間よりも長いモニタ周期に亘って時間平均したものになるので、その値はかなり小さくなる。平均入力パワーPs1の値が小さくても、間欠的に入力される複数波長の光信号は正常な状態にあり入力断が発生している訳ではないので、光増幅装置1の動作としては、当該入力光を所要の光利得で増幅する必要がある。Ps1≦Pth(1)での光増幅は、図6から明らかなように非飽和領域で行われることになる。このため、励起光源11の制御モードをAPCとしても波長チルトの発生はなく、また、EDF11の過渡応答による光サージも広い非飽和領域によって抑制される。このような光増幅の特性は、前述の図7〜図9に示した第2〜4の設定例のように制御切替閾値Pthが非飽和領域および飽和領域の境界近傍に設定される場合にも共通する。
【0031】
なお、上述した従来の電気的手法によって光サージを抑えるためには、EDFの過渡応答時間(2〜10μs)よりも速く励起光パワーを制御することが必要である。このような励起光パワーの制御を実現するためには、2μsよりも短いモニタ周期で入力パワーの変化を検出しなければならない。このような高速なモニタ周期に従って、間欠的に入力される光信号のパワーをモニタした場合、光信号の無い時間帯がモニタ周期よりも長くなることが想定され、当該時間帯で入力断が発生しているとする誤った判断を基に光増幅動作が停止されてしまう可能性がある。本実施形態の光増幅装置1では、非飽和領域を拡大させたEDF11の適用により過渡応答を抑制しているので、上記のような高速なモニタ周期で入力パワーの変化を検出する必要はなく、数10μs以上のモニタ周期が許容される。このため、間欠的に入力される複数波長の光信号の状態を正しく判断することができ、制御モードの切り替えを確実に行うことが可能である。
【0032】
一方、前述したステップ30において、平均入力パワーPs1が制御切替閾値Pth(1)より大きいことが判定された場合には、ステップ40に進んで、制御モードの設定がAPCからAGCに切り替えられる。Ps1>Pth(1)の状態では、第1〜4の設定例による制御切替閾値Pth(1)のいずれにおいても、光増幅が飽和領域で行われる可能性があり波長チルトが発生し得る。このため、励起光源12の制御モードをAGCとして波長チルトの発生が抑えられるようにしている。
【0033】
ステップ50では、励起光源制御回路18において、入力モニタ回路15からの平均入力パワーPs1および出力モニタ回路17からの平均出力パワーPs2を用いてEDF11における光利得が算出され、該光利得が目標値で一定となるように励起光源11の駆動状態が制御される。
【0034】
ステップ60では、励起光源制御回路18において、入力モニタ回路15でモニタされる平均入力パワーPs1が、記憶回路19に記憶された制御切替閾値Pthより大きいか否かの判定が行われる。なお、前述の図8に示した第3の設定例のようにヒステリシスを持たせた制御切替閾値Pth1,Pth2が設定されている場合には、大きい方の制御切替閾値Pth2と平均入力パワーPs1との大小比較が行われる。
【0035】
上記ステップ60において、平均入力パワーPs1が制御切替閾値Pth(2)より大きいことが判定された場合、ステップ50に戻って励起光源11のAGCが継続される。一方、平均入力パワーPs1が制御切替閾値Pth(2)以下であることが判定された場合には、最初のステップ10に戻って、制御モードの設定がAGCからAPCに切り替えられた後、ステップ20以降の動作が繰り返される。
【0036】
上述したように本実施形態の光増幅装置1によれば、EDF11の過渡応答時間よりも長いモニタ周期に従って平均入力パワーPs1をモニタし、該平均入力パワーPs1の値と制御切替閾値Pthとの大小関係に応じて、APCおよびAGCを切り替えるようにしたことで、間欠的に入力される複数波長の光信号を過渡応答による光サージの発生を抑えながら一括増幅することができ、各波長の信号レベルが均一に保たれた波長チルトのない出力光Ls’を得ることが可能である。また、制御切替閾値Pthを非飽和領域および飽和領域の境界近傍に設定するとき、該制御切替閾値にヒステリシスを持たせるようにすれば、より安定した光増幅動作を実現することが可能になる。
【0037】
以上の各実施形態に関して、さらに以下の付記を開示する。
(付記1) 波長の異なる複数の光信号が入出力される入力ポートおよび出力ポートと、
前記入力ポートおよび出力ポートの間の光路上に配置され、光増幅用の活性物質を添加した増幅媒体と、
前記増幅媒体に励起光を供給する励起部と、
前記増幅媒体の過渡応答時間よりも長いモニタ周期に従って、前記増幅媒体に入力される各波長の光信号のトータルパワーの時間平均値をモニタする入力モニタ部と、
前記入力モニタ部のモニタ値が予め設定した制御切替閾値以下のとき、前記増幅媒体に供給される励起光パワーが一定になるように前記励起部を制御し、前記モニタ値が前記制御切替閾値より大きいとき、前記増幅媒体における光利得が一定になるように前記励起部を制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする光増幅装置。
【0038】
(付記2) 付記1に記載の光増幅装置であって、
前記制御切替閾値は、前記増幅媒体における光利得の目標値に対応した増幅特性の非飽和領域内に設定されることを特徴とする光増幅装置。
【0039】
(付記3) 付記2に記載の光増幅装置であって、
前記制御切替閾値は、前記増幅特性の非飽和領域および飽和領域の境界近傍に設定されることを特徴とする光増幅装置。
【0040】
(付記4) 付記1に記載の光増幅装置であって、
前記制御切替閾値は、前記増幅媒体における光利得の目標値の設定範囲内で最も低い目標値に対応した増幅特性の非飽和領域および飽和領域の境界近傍に設定されることを特徴とする光増幅装置。
【0041】
(付記5) 付記3または4に記載の光増幅装置であって、
前記制御切替閾値は、ヒステリシスを有することを特徴とする光増幅装置。
【0042】
(付記6) 付記1〜5のいずれか1つに記載の光増幅装置であって、
前記増幅媒体は、前記活性物質としての希土類元素を光ファイバに添加して形成されることを特徴とする光増幅装置。
【0043】
(付記7) 付記6に記載の光増幅装置であって、
前記増幅媒体は、エルビウム添加ファイバであり、
前記入力モニタ部は、前記モニタ周期が10μsよりも長いことを特徴とする光増幅装置。
【0044】
(付記8) 付記6に記載の光増幅装置であって、
前記増幅媒体は、活性領域の直径を拡大させた構造を有することを特徴とする光増幅装置。
【0045】
(付記9) 付記1〜8のいずれか1つに記載の光増幅装置であって、
前記複数の光信号は、光バースト信号を含むことを特徴とする光増幅装置。
【0046】
(付記10) 付記1〜8のいずれか1つに記載の光増幅装置であって、
前記複数の光信号は、光パケット信号を含むことを特徴とする光増幅装置。
【0047】
(付記11) 付記1〜10のいずれか1つに記載の光増幅装置であって、
前記増幅媒体に供給される励起光パワーをモニタする励起光モニタ部と、
前記増幅媒体から出力される各波長の光信号のトータルパワーをモニタする出力モニタ部と、を備え、
前記制御部は、前記モニタ値が前記制御切替閾値以下のとき、前記励起光モニタ部のモニタ値を用いて前記励起部の制御を行い、前記モニタ値が前記制御切替閾値より大きいとき、前記入力モニタ部および前記出力モニタ部の各モニタ値を用いて前記励起部の制御を行うことを特徴とする光増幅装置。
【符号の説明】
【0048】
1…光増幅装置
11…エルビウム添加ファイバ(EDF)
12…励起光源
13…合波器
14,16…分岐器
15…入力モニタ回路
17…出力モニタ回路
18…励起光源制御回路
19…記憶回路
IN…入力ポート
OUT…出力ポート
Ls…入力光
Ls’…出力光
Lp…励起光
Pth…制御切替閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長の異なる複数の光信号が入出力される入力ポートおよび出力ポートと、
前記入力ポートおよび出力ポートの間の光路上に配置され、光増幅用の活性物質を添加した増幅媒体と、
前記増幅媒体に励起光を供給する励起部と、
前記増幅媒体の過渡応答時間よりも長いモニタ周期に従って、前記増幅媒体に入力される各波長の光信号のトータルパワーの時間平均値をモニタする入力モニタ部と、
前記入力モニタ部のモニタ値が予め設定した制御切替閾値以下のとき、前記増幅媒体に供給される励起光パワーが一定になるように前記励起部を制御し、前記モニタ値が前記制御切替閾値より大きいとき、前記増幅媒体における光利得が一定になるように前記励起部を制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする光増幅装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光増幅装置であって、
前記制御切替閾値は、前記増幅媒体における光利得の目標値に対応した増幅特性の非飽和領域内に設定されることを特徴とする光増幅装置。
【請求項3】
請求項2に記載の光増幅装置であって、
前記制御切替閾値は、前記増幅特性の非飽和領域および飽和領域の境界近傍に設定されることを特徴とする光増幅装置。
【請求項4】
請求項1に記載の光増幅装置であって、
前記制御切替閾値は、前記増幅媒体における光利得の目標値の設定範囲内で最も低い目標値に対応した増幅特性の非飽和領域および飽和領域の境界近傍に設定されることを特徴とする光増幅装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の光増幅装置であって、
前記制御切替閾値は、ヒステリシスを有することを特徴とする光増幅装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の光増幅装置であって、
前記増幅媒体は、前記活性物質としての希土類元素を光ファイバに添加して形成されることを特徴とする光増幅装置。
【請求項7】
請求項6に記載の光増幅装置であって、
前記増幅媒体は、エルビウム添加ファイバであり、
前記入力モニタ部は、前記モニタ周期が10μsよりも長いことを特徴とする光増幅装置。
【請求項8】
請求項6に記載の光増幅装置であって、
前記増幅媒体は、活性領域の直径を拡大させた構造を有することを特徴とする光増幅装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の光増幅装置であって、
前記複数の光信号は、光バースト信号を含むことを特徴とする光増幅装置。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の光増幅装置であって、
前記複数の光信号は、光パケット信号を含むことを特徴とする光増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−243765(P2011−243765A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114989(P2010−114989)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】